星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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話し合い、互いに狂気を止めることはないと知った二人の女。

そんな彼女らに、次なる戦いが迫る。


楽しんでいただけると嬉しいです。




遺街

 三人称 SIDE

 

 

 

「映画に出てくる、世紀末の街みたいだよ……」

「本当にな。バイ◯ハザードとかで見た光景だぜ」

 

 砂利を踏む音を響かせながら、そんな言葉を交わす龍太郎と鈴。

 

 油断なく武器を構え、周囲に警戒の目線を巡らせながらも困惑を隠しきれない。

 

「……本当に出てきたりしてね」

「物陰からゾンビがわんさか、ってか?」

 

 先頭を歩くハジメと雫も、武器を手にそんな返答をし、二人は嫌そうな顔をする。

 

 

 

 彼らがいるのは、荒廃した何処かの市街。

 

 高層建築が立ち並び、道が整理され、まるで地球の近代都市のようなそれは沈黙に包まれている。

 

 あるビルは倒壊し、あるビルは隣のビルに寄りかかりと、数百、数千という時間の停滞を感じさせる。

 

 唯一、ガラスと思しき破片とともに散乱する看板の文字が地球のものではないことを示していた。

 

「南雲くん、どう見る?」

「大方、昔に滅ぼした年を記念に取ってるんだろ。まるで使い古した道具を愛着で飾っておくようにな」

「建築技術一つとっても明らかに今のトータスとは見違えてるし、別の文明というのは間違いなさそうね」

「ん……エヒトがやりそうなこと」

「最低ですね……」

 

 ハジメと雫の会話に、ユエとシアがなんとも嫌な顔をする。

 

 解放者達の残した魔法陣による記録とエボルトから聞き及んだエヒトの性格。

 

 そして、始の件。

 

 今にして思えば、わざわざアベルを使ってシュウジを壊したのもエヒトの遊戯だろうと始は言った。

 

 敬愛した師匠に己の存在を暴かれ、否定され、壊される。なんとも悪辣な神の好みそうなことだ。

 

 ともあれ、これが地球の現代に近い文明力を持っていた何かであったことは明白。

 

 そして今は記憶の中にある故郷のそれに似た風景は、郷愁の念とある一つの懸念を抱かせる。

 

 

 

 

 すなわち──この戦いに負ければ、地球もこうなるという最悪の予想。

 

 

 

 

 

 全員が共通して抱いたその最低の未来図に、決意に顔を引き締める。

 

「…………」

 

 そんな中で、無言でいた光輝はハジメ達とはまた違った視線の動かし方をしていた。

 

 未知の敵を警戒しているというよりは、何かを探しているかのような……

 

「ふむ、天之河光輝。何か気になるかの?」

「……ティオさん」

 

 一人異様な様子の光輝に、目敏くティオが気が付いて声をかける。

 

 昔はアレだったとしても、今はこの【神域】を共に進む仲間。聡い彼女は僅かな異変も見逃さない。

 

 そんな理知的な色を称えるティオの前方では、ハジメ達もちらりとこちらを見る。

 

 光輝は少しの逡巡の後、胸に手を置いて重々しく告げた。

 

「……感じるんだ、彼女との〝繋がり〟を」

「それって、天之河くんにあの……口のオバケ? を埋め込んだ《傲慢の獣》のこと?」

「ああ、この街に来てから一際強くなった。多分ここに……いる。多分恵里も一緒に」

 

 確信的な気持ちを込めた光輝の言葉に、顔を強張らせる一同。

 

 エヒトの特級戦力である《獣》が待ち構えているという事実。

 

 恵里の名前を聞いた鈴は、ぎゅっと無意識に隣にいた龍太郎の手を握る。彼は気がついてすぐに握り返した。

 

 そして、もう一つ。

 

 

 

 この場の全員がわかっている。

 

 あの鎧の下に誰の顔があるのか。誰が恵里のように敵に回ったのか。

 

 唯一敬愛を向けていたシュウジが奪われたのに、顔すら見せなかったのだ。

 

 ハジメのように光輝とのやり取りを見ていたわけでなくとも……自然と理解できてしまう。

 

「天之河」

「……南雲」

「もう一度聞いておくぞ。お前にその覚悟があるのか?」

 

 歩きながら、横顔だけ振り返ることで投げかけられたハジメの鋭い眼光。

 

 地球で、そしてオルクスの事件までの間に散々光輝の自己満足に振り回されたからこその問い。

 

 あれからお前は変わったのか、力を持つ意味を理解したのか。

 

 

 

 

 

 ──天之河光輝は、命の奪い合いができるのか? と。

 

 

 

 

 

 その試練のような問いかけに、光輝は。

 

「……俺は」

 

 変わらず重々しく、愚者は話し出す。

 

「俺は、彼女と話したい。そのためにここまで来た」

「光輝、あなた……」

「お前……」

 

 その発言に、雫と龍太郎は思わず声を上げてしまった。

 

 それは呆れではなく、純粋な疑問であり、同時に関心でもある。

 

 同じ気持ち、同じ決意でこの場にいる鈴もいるからこそ、光輝の言葉の真意を計りかねている、と言ってもいい。

 

 

 

 だが、常に彼を見ていたわけではないユエ達はこうも思ってしまう。

 

 やはり、何一つ変わっていないのか。

 

 ……だが。ハジメだけは何も言わず、じっと聞いていた。

 

「俺の望みは彼女を助けることで、でもきっと、彼女の考えている〝助ける〟は俺のそれとは違うんだと……思う」

「……で?」

 

 続きを促すハジメに、光輝はやや苦々しく、そして自嘲げに笑いながら。

 

「南雲、お前は……北野は、間違ってない。いや、きっと限りなく正しい」

「ほう?」

「人の数だけ正しさがある。考え方がある。それが噛み合わないから、人は人と争い、一方だけが先に進んでいく。未来を選べるのはどちらか一人だけだ」

「じゃあ、どうする?」

 

 光輝は、また一瞬だけ躊躇って。

 

 けれど、今更こんなところまでやってきて何を迷っているのだと自分の弱気を跳ね飛ばし。

 

 次に顔を上げた時、ハジメが見たのはいつか見た決意に満ち溢れたそれだった。

 

「──声を聞いた。呪いに蝕まれ、自分の狂気を受け入れながら、それでも言ったんだ。〝もう食べたくない、誰か助けて〟って」

「………………」

「俺が信じるのはそれだけだ。確かに聞こえたその一言の真意を知るために、そして俺がするべきことを選ぶために、ここまで来た」

「だから、話すと?」

「見て、聞いて、知って。そうしたら──俺は戦うよ。彼女にとって、俺にとって一番良い形で、終われるように」

 

 たとえそれが、誰に偽善と罵られようとも。

 

 結果的に彼女か自分が、命を落としたとしても。

 

 もしかしたら話す機会さえも与えられないとしても、戦う中で真意を見つけてみせる。

 

 

 

 

 

 それは憧れから生じた紛い物だと、全てを操ることで全てを守ろうとした男は言った。

 

 

 

 

 

 所詮は子供の夢物語だと、誰より傲慢に己を貫く女は言った。

 

 

 

 

 

 天之河光輝は偽物だ、愚か者だ。十分そう言われた。

 

 だからそれを貫こう。これで最後になったとしても、一度くらい本気で向き合ってみよう。

 

 そう主張する光輝に──ふっと、ハジメが笑った。

 

「お前、ド級の馬鹿だな。もうそこまでいくと真性だわ、むしろすげえよ」

「自覚してる」

「だが……正直、そこまで嫌いじゃない。なにせ俺の親友も大馬鹿の中の大馬鹿だからな」

 

 そこで言葉を切って、ハジメが前に向き直る。

 

 光輝の発言に呆気にとられていたユエ達が視線を向ける中で、ハジメは。

 

「お前に任せた。好きにやれ、天之河」

「……ありがとう、南雲」

 

 それきり会話は終わり、二人が新たに言葉を交わすことはなく。

 

 ただ何かスッキリしたような顔でいた光輝は、不意にドンと肩を叩かれてよろける。

 

「っとと……龍太郎?」

「へへっ! 言うようになったじゃねえかよ光輝! 親友として鼻が高いぜ!」

「あ、いや、俺はただ……」

「にしてもお前、女の趣味変わってんなぁ。よりによってあいつかよ」

「いやっ、そういうわけじゃ……」

「わかってるわかってる、皆まで言うな。彼女ってのはいいぞ、いるだけで心が幸せになる」

「ちょ、ちょっと龍っち!」

 

 こんな場所だというのに、すっかり騒がしくなる光輝と龍太郎達。

 

 一部始終をぽかんと見ていたユエ達も、顔を見合わせるとなんとも言えない笑い顔で肩を竦めた。

 

 決意を新たに、かつて栄えていたのだろう〝遺街〟の中を進む一同はどこか明るい雰囲気だった。

 

「ったく、変わりすぎだとは常々思ってたが……むしろ根っこだけは変わってなかったか」

「ぐすっ、あんなに成長して……」

「いや八重樫、なんでお前が涙ぐんでるんだよ……」

「いや、心にくるものがあって……それよりも。南雲くん」

「ああ」

 

 和やかな雰囲気はそこまで、先頭の二人が足を止める。

 

 気が付いた後続のメンバーも止まって、巨大なその交差点の中央で、とある方向を向いた。

 

「ビッグベンそっくりね、あの時計塔」

「ああ、羅針盤もあそこが次の出口だと示してる……が」

 

 ちらりと、剣呑な眼差しをあちこちに巡らせるハジメ。

 

 背中から溢れる強い警戒の気に、ユエ達も敵がいるのだと瞬時に理解して背中合わせに円陣を組んだ。

 

 

 

 そして、シアとウサギのウサミミコンビは既に敵の居場所を突き止めているようで。

 

 周囲のビル群の一部を見ては次々と別の場所に移る二人の視線、その先にいるのだろうと察した。

 

「ハジメさん、囲まれてますけど……どうします?」

 

 シアが、ドリュッケン改めヴィレドリュッケンで肩をトントンとしながら尋ねた。

 

 ウサギも徐々に桃色の雷を放出し始める中、ハジメの返答は。

 

「ん? そりゃもちろん、檻に懇切丁寧に獲物が纏められてるんだ。檻ごと粉砕するのが常識だろう?」

「「え?」」

 

 またしても気勢を削がれた龍太郎と鈴が声を上げる中で、ハジメは〝大宝物庫〝を開ける。

 

 そこから取り出されたのは、文字通り天使の笑みを浮かべている白い天使像と、邪悪に笑う黒い悪魔像。

 

 全長三メートルほどはあるそれらは、ハジメの両脇に付き従うように浮遊し。

 

「さて。とりあえず、面倒だから根こそぎ消し飛べよ」

 

 

 

 

 

 ──新型ロケット&ミサイル兵器 天国と地獄

 

 

 

 

 

 悪魔的な笑みを浮かべながら、操作棒である指揮棒をハジメは振るった。

 

 上昇していく一対の像に、建築物の奥がにわかに騒がしくなり始める。

 

 が、時すでに遅し。

 

 

 

 周囲のビルの半ばほどまで上昇した二体の像は、背中合わせになる。

 

 そして天使像の口元がガコン、と下にスライドし──大きな砲門が姿を現した。

 

 

 

 

 

 La————————!!!! 

 

 

 

 

 

 そして、凄まじい超音波攻撃が波状に放出される。

 

 ビリビリと、この都市全体にまで瞬く間に浸透したそれは、隠れていた者達の動きを止め。

 

 

《グヒヒヒヒヒヒ!》

 

 

 次いで、遊び心でハジメがつけた醜悪な笑い声と共に悪魔像が目を輝かせた。

 

 ガコン! と音を立てて全身の外装がパージされ、中から現れたのは──無数のペンシルミサイル。

 

 次の瞬間には音の波に包まれた都市中心部に、一斉にそのミサイルが解き放たれた。

 

 そのミサイルは、音響ソナーの役割も果たす超音波によって敵の位置を的確に把握する。

 

 三百を優に超える悪魔の落し物は、廃墟の入口を窓をするりとすり抜けて侵入していった。

 

 

 

 続けて先ほどと同じ音で悪魔の両腕が展開し、六連砲口が出現。

 

 ハジメがタクトを振るうと、わずか数秒で60発以上のミサイルが立て続けに廃都市中心部に発射され、散開。

 

 直後、四方八方で凄絶な爆音と絶大な衝撃・爆煙が町の中心を悉く破壊した。

 

 当然、ギリギリの塩梅で保たれていた均衡が崩れた都市は一斉に崩壊を始める。

 

「ちょっとぉ!? 南雲くぅん!?」

「全部こっち側に倒れ込んでくるぞおい!?」

「いやいやいや、流石にこれは言ってくれないか南雲!?」

「心配すんな、俺らには頼りになるスーパー侍がいる」

 

 声を荒げる光輝達三人に、廃墟から出てこようとした敵を全部悪魔に撃たせていたハジメは余裕の表情で笑った。

 

 一体何を、と思ったその矢先、彼らの目の前で倒れてきたビルの一つがバラバラに斬れて崩れた。

 

「さ、行くわよみんな」

 

 こともなさげに納刀して走り出す雫に、あんぐりとする光輝達。

 

 だがユエ達が雫の開けた退路に走っていくのを見てハッとし、すぐに後を追った。

 

「ねえ龍っち。南雲くんって一人軍隊だよね」

「ああ。んで、雫は超剣豪とかだな」

「鈴の知ってる剣士、ビルなんて斬れない……」

「二人とも、言いたいことはすごくわかるが瓦礫が降って来るぞ!」

 

 突出した二人の規格外さに半ば諦めながらも、三人は慌てて瓦礫の雨の中を走り抜けた。

 

 

 

 どうにか崩落に巻き込まれるのを回避した一同は、少し離れた廃ビルの屋上に避難した。

 

「……鈴ね、この廃墟の山を見て紛争地域の空爆の映像を思い出したよ」

「戦いって虚しいよな……町ごと吹っ飛ばされたら何もできないよな」

「南雲、地球でまた北野に何かあった時もこうするのか……?」

 

 とても遠い目をする三人が乾いた心境でいると、不意にガチャリと音がする。

 

 ギギギ、と音がしそうな動きで三人が振り返ると、再装填を済ませた悪魔像が天使像と飛び立つ所であった。

 

 そして交差点に飛んでいき、瞬く間にチュドーン、と漫画の擬音がつきそうな大破壊が再開された。

 

「「「ま、まさかの追い討ち……」」」

「やるなら肉片も残さん。古事記にも書いてある」

「「「書いてあるわけあるかぁ!」」」

 

 息のあったツッコミが、死の雨が降り注ぐ廃墟に木霊した。

 

「やることが、ない」

「ハジメ、とっても楽しそう」

「いっぱい鬱憤を溜め込んでたんでしょうねぇ」

「仕方がないの。出番が来るまで温かく見守ろうではないか」

 

 ハーッハッハッハ! と哄笑を上げてタクトを振るうハジメに、生暖かい目を向ける面々。

 

 誰一人として動じてない彼女らと、眉すら動かさず静観している雫に光輝達は慄いた。

 

 

 

——クル

 

 

 

 

 その時だった。光輝の脳裏に、ひび割れたような金切り声が響いたのは。

 

「ッ!!」

 

 咄嗟に剣を引き抜き、〝それ〟が溜め込んだ自分の悪意を具現する。

 

 そのまま光輝が、ハジメが向いているのとは反対──つまり後ろに剣を振るった。

 

 ほぼ反射的な反応だったが、どうやらそれは功を奏したらしい。

 

 

 

 五百メートルほど先の廃ビルから、こちらに禍々しい銃弾が飛来する。

 

 それは光輝の飛ばした黒刃と激突し、中間あたりで凄まじい衝撃を引き起こした。

 

 その余波はハジメ達のいる廃ビルにまでおよび、壁のような暴風が迫って──

 

「〝山断ち〟」

 

 刹那、楔丸を抜刀した雫の魔力が変換された衝撃で対消滅した。

 

 ユエ達はほっと胸を撫で下ろし、爆撃を終えたハジメが振り返る。

 

「今のは挨拶か?」

「ああ。でも移動を開始した……多分時計塔の方に向かってる」

「ちょうどいい。どうせ次の空間に移動するのは決まってるんだ、会いに行ってやろうじゃねえか」

 

 ハジメの言葉に頷き、移動を開始する。

 

 

 

 もはや完全に沈黙を取り戻した都市の中を、時計塔へと高速で移動する。

 

 全員の靴類に〝空力〟と〝縮地〟が付与されており、数百メートルの距離などあっという間だ。

 

 そして、時計塔の前に到着し。

 

 

 

 

 

「──来たぞ。御堂、恵里」

「──ここまで来ましたのね、天之河光輝」

「やっほー、会いたかったよぉ光輝くぅん」

 

 

 

 

 

 その頂点にて待ち構えていた二人の《獣》を、愚者は見上げた。

 

 

 

 




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