星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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龍太郎と鈴は戦う、譲れない想いのために。

その時、かつては操り人形の勇者だった少年は。


楽しんでいただけると嬉しいです。



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御堂英子/ネルファ 17歳 女 レベル:???
天職:血狂イ花・傲慢の獣
筋力:30000
体力:35000
耐性:60000
敏捷:45000
魔力:60000
魔耐:60000
技能:飢餓[+渇望][+衝動][+狂気][+変生]・暗黒魔術・召喚魔法・完全耐性・幻覚魔法・隠密・変装・諜報・暗殺術・闘術[+獣術][+鬼術][+魔術]・超越理解[+狂気][+言語解析]・因果[+愚者]
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捻れ、曲がり、壊れても。

 光輝 SIDE

 

 

 

 

 

 ──これは、茶番だろうか? 

 

 

 

 

 

 あるいは悲劇か? それとも何かの遊戯? 

 

 

 

 あるいは単なる、面白おかしいだけの喜劇? 

 

 

 

 だってそうとしか思えないだろう、と心のどこかで呟く。

 

 何故なら、あまりにも()()()()()()()から。

 

 迷ってきた。

 

 救えないもの、力があっても不可能なことを知り、では真実とは何かを追い求めた。

 

 そしておあつらえ向きなタイミングで〝種〟を与えられ、また迷い、揺れて、悩んで。

 

 今、ここにいる。

 

 

 

 北野、南雲、そして雫。

 

 同世代という括りならば誰より尊敬する彼らが強い所以は、その強固な意思だ。

 

 

 

 

 

 全てを包み込まんとする影のように、北野は支配することによって守っていた。

 

 

 

 

 

 あらゆるものを穿つ赤雷の如く、南雲は不屈の意思で理不尽を悉く乗り越えていた。

 

 

 

 

 

 一点の曇りもない刃みたいに、雫は苦悩も無力も飲み込んで自分を研ぎ澄ました。

 

 

 

 

 

 

 俺にはそれがない。天之河光輝には過剰に膨れ上がった自尊心以外、何もなかった。

 

 それを知ってもなお、まだ一意専心には程遠く。この心は迷いと苦しみにまみれている。

 

 皆が言ってくれる。俺は変わったと、昔より成長したのだと。

 

 ……そんなことはない。俺は何も変わらず、泥沼でもがいているだけの哀れな子供だ。

 

 だから彼女自身に何もかも用意してもらって、この場に立っている。

 

 そのことに今更惨めさは感じない。俺は一人では何かを証明できないと知っているから。

 

 だからこそ、思ってしまうのだ。まるでこれは茶番のようだと。

 

 

 

 ああ、でも。

 

 俺はそうであるからこそ、俺なんだ。

 

 南雲達や北野に言ったように、それがいいんだ。

 

 彼らのように究極の一を持たないのなら、俺にとってはこの万悩こそが刃となりうる。してみせる。

 

 

 

 だって君が、何度も言ってくれたから。

 

 愚鈍で、蒙昧で、それでこそ己の刃を磨けるのだと。

 

 道標をくれたのだと、そう勘違いしよう。かつてのように。君に出会う前までのように。

 

 何者にも勝るただ一つの意思を持たないから、ありふれた、でも人より深いこの苦悩を糧にしよう。

 

 滑稽で笑ってしまうようなヒーロー(お人形)を演じるよ。

 

 

 

 

 

 それは君がたった一つだけ、俺に許してくれたことだから。

 

 

 

 

 

「はぁああッ!」

『あはっ!』

 

 無尽蔵に溢れ出す醜さを燃料に、熱を叫びに変えて吐き出す。

 

 振るった黒刃はビルをバターのように切り裂き、また一つ崩壊させる。

 

 だが君は決して傷つけられず、平然と受け止められてしまった。

 

『ああ、心地が良い! 間近で感じるこの仄暗い熱! ここまで練り上げましたか!』

「ああっ! 君と同じ舞台に立つためにな!」

『あら熱烈。あの女がまた嫉妬しますわよ?』

 

 恵里。

 

 俺の愚かさが招いてしまったことの一つ。俺が負わなければいけない責任。

 

 だけど。

 

「少なくとも、今ここで命をかけているのは俺と君だろう!?」

『それもそうですわね』

 

 言葉を重ねる俺と、くすりと笑う君。

 

 それだけで差があると感じるものの、それでも俺は剣を振り切り、そのまま連撃を放つ。

 

 彼女はまるで踊るようにチェーンソーが一体化した右腕を振るい、俺の攻撃を悉く受け流す。

 

 無骨な鎧に覆われているというのに、その動きはまるで帝国のパーティーの時のように緩やかだ。

 

 あるいはこの戦いは、君にとってはあれとそう大差のない程度のものでしかないかもしれないな。

 

「〝穿て!〟」

『あら』

 

 羽赫から黒針を射出し、その間を縫うように空中に刃を走らせる。

 

 彼女は素早く腰の装置に手を伸ばし、レバーを押し込んでチェーンソーと連結した機関銃を撃ってきた。

 

 的確に飛んできた弾丸が黒針を撃ち落とし、また俺の一撃は受け止められた。

 

『ふふ、使いこなしていますわね。相性が良いと思って植え付けましたが、予想以上です』

「嬉しそうだな?」

『ええ、ええ。丹精込めて育てた甲斐があります』

 

 やはり。

 

 彼女にとっては予定調和、こうなることは必然だったということだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()のも、余裕の現れだろうか。

 

『自分の弱さが取り払われていく感覚はどうだったかしら? まるで物語の中のヒーローになった気分だったでしょう?』

「いや。ただ君に少しずつ近づいていくような、そんな錯覚は味わえた」

『光栄だったでしょう? この美しさに酔いしれる喜びを甘受できて』

「……そう、かもな」

 

 刃と火花を交わらせながら、そんな言葉遊びをしてみる。

 

 確かに最初に、その強烈な美しさに憧れたことは間違いない。ともすれば魅入られすら……

 

 でもそうじゃない。

 

 それだけなら俺は君に憧れるだけで、とても前に立とうなどとは思わなかった。

 

「〝我は我のみにあらず!〟」

『ッ!』

 

 何合か刃を交わし、一際大きな火花が散った瞬間に力の一つを発動する。

 

 俺と彼女、互いの体によって生まれた影の中から〝影分身〟が現れて掬い上げるような斬撃を放った。

 

 チェーンソーを上へと振り上げていた彼女はほんの僅かに、初めて身を引いた。

 

「せぁっ!」

『──へえ』

 

 そこへ羽赫のジェット噴射の勢いを強くし、渾身の突きを繰り出す。

 

 少しだけ驚いたような声を漏らした彼女は、回避ばかりか防御体制すら取ろうとした。

 

 そこを狙い、俺は自分の剣に纏ったエネルギーと影法師の持つ剣そのものを操作する。

 

 オーラはぐにゃりと形を変えて、彼女の防御の隙間を縫うように枝分かれして襲いかかり──

 

『面白いですわ』

 

 その一言と共に、鋭い音を立てて宙を走った何かによってエネルギーは打ち砕かれた。

 

 俺の攻撃を真似……いや、それより遥かに高速で動くそれは俺の喉や額を狙ってきた。

 

「ちぃっ!?」

 

 咄嗟に羽赫を差し込み、致命傷を負うことを避ける。

 

 そのまま他の口からエネルギーを逆噴射して後退し、彼女から一旦離れた。

 

 改めて見ると、斜めに横たわったビルに立つ彼女の腰のあたりから長細い鱗赫が出現している。

 

『自分の悪意をそこまで具現化できるとは。少々侮っていたと言わざるをえません』

「少しは、手加減を止める気になってくれたか?」

『ええ、ほんの少しだけ』

 

 赫子を出したということは、少なからず真面目に取り合ってくれる気は出たらしい。

 

 

 

 そもそも、だ。

 

 彼女のことを深く知りはしないが、速攻力に重きを置いた彼女があんな鎧を着ている時点で戯れなのだ。

 

 つまり俺は、弄ばれている。同じ舞台に立ったとしても、踊るに相応しいか試されている。

 

 それなら、君の心が満たされるまで愚直に剣を振るい続けようじゃないか。

 

『では、前座はこのくらいで。本番を始めましょうか?』

「望むところだっ!」

 

 挑発にあえて答えて、彼女に向けて飛翔しようと羽赫をはためかせる。

 

 

 

 

 

 次の瞬間、〝死幻〟が発動して自分の頭が弾け飛ぶ様が見えた。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 ギリギリで軌道を変えた瞬間、どこからか()()()()()()美しい歌声が聞こえた。

 

 そして、先程〝死幻〟で頭が通った場所でパァンッ!! と何かが弾ける。

 

「なんだ、今のは……!」

『歌はお好きでして?』

 

 聞こえた声に、そちらに振り向く。

 

 胸のあたりまで掲げられ、広げた彼女の左手の中には……女のものと思われる小さな頭骨が。

 

 その歯の隙間から、シンカイで強化された聴力が細々とした美しい歌声を捉える。

 

『かつて、己の歌声を何より愛した歌姫がいました。しかし歳を取るにつれて変わっていく己の声に耐えられず、やがてその感情は呪いへと変じ、己の歌を聴きにやってきた人々から命を吸い上げて若さを保つ魔法となった』

「…………」

『やがてその悪行が露わになり、女は斬首されましたが。頭蓋骨のみになってもなお、女は歌い続けたといいます』

 

 ……それが、彼女の眷属の一柱。

 

 彼女が従えるのはそういった、悪意に溺れ、他者の苦痛や絶望を楽しんでいた者達の成れの果て。

 

 

 

 俺に与えられたシンカイもまた、その一つ。

 

 かつては言葉で人々を癒していたが、やがて心を壊すことに至上の喜びを得たある男の残りモノ。

 

 自分の正義に溺れ、好き勝手にやってきた俺にこそ相応しいと言えるだろう。

 

『呪いの美声、傾聴するのも一興ですわよ?』

「それは流石に断るっ!」

 

 〝先読・妄〟を発動させながら、もう一度彼女へと接近した。

 

 彼女は左手を掲げ、すると頭骨がひとりでに口を開いていった。

 

 

 

 まず解き放たれたのは、甲高いソプラノ。

 

 

 

 〝先読・妄〟に従って、飛来した音の刃を打ち返す。

 

 が、それによって細かく散った音刃で頬や足、胴体などが切り裂かれ、パッと鮮血が舞う。

 

「くっ、散らすのはまずいか!」

 

 魔力を代償に切り傷を治癒しつつ、また飛んできた音刃を今度は避けた。

 

 その時、重厚なアルトが響く。

 

「ぐぁっ!!?」

 

 空間そのものに圧を叩きつけるような衝撃に襲われ、体が痺れる。

 

 思わず空中で動きを止めたその時、瞬きする間に視界一杯にチェーンソーの刃が写り込んだ。

 

 まずい、と思って剣を挟んだ瞬間には既に競り負けていて、地上へ叩き落される。

 

『聞き惚れてしまいましたわね?』

「ぐぅうううっ!?」

 

 落下の衝撃で瓦礫は砕け散り、両手で剣を支える。

 

 それでも僅かにあちらの力が強く、少しずつ膝が地面に近づいていった。

 

『それにしても。貴方、先ほどから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よろしいんですの?』

「しまっ!」

 

 バグン、と。

 

 何かの音がして、途端に左足に力が入らなくなった。

 

 まさか。

 

 そんなはずはと思いながらも、膝をついた左足を、見下ろすと。

 

 

 

 

 

 膝から下が、食い千切られたように消えていた。

 

 

 

 

 

「が、ぁああああ!?」

『ふふ、良い声ですわね』

 

 痛い。とてつもなく痛い。堪え難いほどに痛い。

 

 遅れて、壮絶な痛みがやってきた。

 

 南雲が片腕を失った時もこんな気持ちだったのかと、そんな場違いなことを思う。

 

 だ、が! 

 

「ぐ、ぉあああああああっ!!」

『っ!』

 

 その痛みへの怒りと恐怖を、シンカイに供給して出力を上げる。

 

 左腕の鎧のパーツが展開し、そこから血のようなエネルギーが噴出してチェーンソーを押し返した。

 

 痛みを叫びで押さえつけて、渾身の横薙ぎで彼女の手の中の頭骨を粉砕する。

 

『くっ!』

「がぁアアぁアアア!!!」

 

 返す刀は、躱される。

 

 三本の鱗赫をバネに後ろに飛んだ彼女に、俺も羽赫でもう一度空へと翔んだ。

 

 そうして地面を見下ろすと──ぼんやりと、ナニカの顔が大地に浮かんで消えた。

 

「ぐ、ぅううう!」

 

 それより、この足を、なんとかしない、と。

 

 赤黒く濁った血を垂れ流す左足は、もう〝代償回復〟では治せない。

 

 あの顔みたいなのに食われてしまったのだろう。

 

 食いちぎられた、痛い、足が残ってないなら、痛いイタい、元には、戻せ、イタイいタい痛い!

 

 

 ああくそ、痛みで思考が纏まらない。でもこの足をどうにかしないと、戦い続けられない。

 

 もう、あれしか、ない。

 

「〝侵しょ、くっ、再生〟ぇっ!!」

 

 技能の名前を叫び。

 

 ビギリッ!!! と、自分の体の中で取り返しのつかないものが壊れる音がした。

 

『っ、それを使いますか』

「がッ、おっ、ぁ、ぁあああああ!!!」

 

 足を失ったのとは比べ物にならない、骨や筋肉の継ぎ目を全て、同時に針で突き刺されたような痛みが全身を這い回る。

 

 痛覚激化のデメリット。それを嫌というほど実感しながら、歯を食いしばって痛みに耐えて。

 

 

 

 やがて、ゴギュッと聞いたことのない音を立てて腰から何かが生えた。

 

 それは左脚の太ももに被さるように食いついて、下へと進んでいき、傷口に到達する。

 

 そのまま根付いて、べギリ、ゴギリ、とおかしな音を立てながら形を定めていった。

 

「ぁ、がぁっ!!」

 

 それが終わった時、ようやく痛みが消えて。

 

「ハァッ、ハァッ!!」

 

 新たに()()()()()()()()で宙を踏みしめた。

 

 喉の奥からせり上がってきた血を吐き、荒い息をどうにか整えていく。

 

「ふっ、ふっ…………ふぅ」

『……私が言うのもおかしなものですが。貴方、正気でして?』

「……この痛みが、むしろ正気を保ってくれる」

 

 

 

 

 

カワイソウカワイソウカワイソウカワイソウカワイソウカワイソウカワイソウカワイソウ

 

 

 

 

 

 ……少し、声が大きくなった。

 

 それを自覚しながらも、剣を正眼に構える。

 

 どうやら少し驚いていたらしい彼女も、チェーンソーを構えた。

 

「さあ。第二楽章を始めよう」

『──ふふ。本当に愚かで面白い男』

 

 そして俺は、彼女へ飛んだ。

 

 一瞬で数十メートルを詰め、剣を振り下ろす。

 

 先ほどとは反対に彼女が受け止め……だが、今度は俺がグンと後ろに押した。

 

『っ!』

 

 瞬時に彼女は尾赫をビルに突き刺し、支えにして拮抗する。

 

 ようやく、力だけならば互角になった。

 

「行くぞ、御堂!」

『アハッ! 楽しくなってきましたわ!』

 

 

 

 

 

 捻れて曲がったこの協奏は、終わらない。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

光輝の最後の戦い、楽しんでいただけると幸いです。
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