星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ふむ、やはり一人で死んだか。

なかなかに面白みのある殺し合いだった。

なあ、お前達もそうは思わぬか?

では。もう一つの結末を見てみるとしよう。






楽しんでいただけると嬉しいです。


ゼロ度の炎

 三人称 SIDE

 

 

 

「紅、煉……!」

 

 現れたのは、紅煉。

 

 明らかに致命傷を負ったはずの獣は、まるで何もなかったように半身を取り戻していた。

 

「なんで、生きてやがる……!」

「言っただろ、エヒトからもらった権能があるってよぉ」

「っ、まさか……!」

「そのまさかよ! 俺の権能は〝暴食〟! 食らった相手の生命エネルギーを溜め込んで、好きな時に使えるってぇ力だ!」

 

 つまり、それで今の龍太郎のように肉体を再生もできるのだろう。

 

 なんて厄介なのだと、龍太郎はエヒトに唾を吐きかけてやりたくなった。

 

 

 

 そんな龍太郎にニヤニヤと、紅煉は笑いながら顎をさする。

 

 渾身の一撃を失敗させてやったことに笑っているのか、それとも別のことを考えているのか。

 

 どちらにせよまずいと、龍太郎は力が戻ってきた体を動かし始める。

 

「ぐ、ぉおお……!」

「ほぅ、まァだ動けんのか」

 

 両腕にあらん限りの力を込めて、上半身を持ち上げる。

 

 両足も力んで姿勢を安定させ、龍太郎は不屈の闘志が漲る目で紅煉を睨みつけた。

 

 

(まだだ。まだ戦える)

 

 

 塞がりかけた傷を見て、立ち上がるには十分だと笑う。

 

 そして、肉体の治癒力をさらに高めるためにその技能を持った魔物から取った魔石を使おうとした。

 

 異空間が付与されたドッグタグのうち、魔石やその他の者もが収められている方を握って。

 

 該当するものを念じようとした途端、パキンと音が鳴った。

 

「…………は?」

 

 呆然と、握ったばかりの手を見下ろす。

 

 恐る恐る掌を開けると……ドッグタグが、真っ二つになっていた。

 

 さっきので壊れた。一瞬で理解した龍太郎の全身がゾワリと総毛立つ。

 

 まずい。これはとてつもなくまずい。ドライバー以外の唯一の打開策が無くなってしまった。

 

 

 

 冷や汗が頬に伝う龍太郎を見て、紅煉は一瞬不思議そうに目を細め。

 

 瞬く間に理解すると、大きく口を開けて笑った。

 

「ハーハハハハ! どうやらテメェ、もう武器がねえらしいなぁ!」

「っ!」

「まったく間抜けな野郎だぜ! 根性は一人前なようだが、準備が足りなかったみてぇだなぁ!」

 

 その挑発に龍太郎は酷くイラつくが、腹立たしいことに言い返せない。

 

 ドライバーは壊れた。魔石もない。見れば、メリケンサックも同様に破壊されていた。

 

 万事休す。もう龍太郎に、紅煉と渡り合えるような武器()残ってない。

 

「………………」

 

 ゆっくりと、腰の後ろへ手を伸ばす。

 

 そこにはベルトに巻きつけて固定した大きめのポーチがあり……触れると固い感触が返ってきた。

 

 〝それ〟が壊れていないことに、龍太郎は高笑いする紅煉に悟られないよう安堵した。

 

 同時に絶望もした。よりによってこんなものだけが残ってしまったことに。

 

 

(……ああ、ちくしょう。壊れていりゃ、諦めもついたのによ)

 

 

 まだ、龍太郎は諦めてはいなかった。

 

 

 

 〝それ〟は、断じて武器ではない。

 

 武器は生き残る為に使う物のことを言うのだ。ならばこれを武器と呼んでいいはずがない。

 

 そもそも、実際に使えるかどうかも不明だ。むしろ失敗する可能性の高い目論見である。

 

 唯一手の中に残ったその手段に、龍太郎は感謝することもなく内心でそう悪態をついた。

 

 それの優れた耐久性と、自分の手癖の悪さと……何より、諦めの悪さに呆れを覚える。

 

 だが、まだ反撃の機会が残っている以上は。

 

「やるっきゃ、ねえよなぁ……!」

 

 皮肉げに笑いながらも、龍太郎は完全に立ち上がった。

 

 傷もまだ完全に言えたわけではなく、全身も酷く痛むが、それでも両足で立ったのだ。

 

 紅煉は笑うのをやめて、まだ諦めていない龍太郎に不思議そうな目を向ける。

 

 

 

 真っ向から睨み返しながら、龍太郎はポーチに手を伸ばした。

 

 取り出したのは……スクラッシュドライバーとはまったく異なったドライバー。

 

 黒い本体に赤いレバー、そして二つのスロットがついた……エボルドライバー型のもの。

 

 

 

 ルイネが持っていた、ルインドライバーだ。

 

 

 

 決戦前、隠れ家で皆が寝静まった後に、こっそりと寝床へ行って借りてきてしまったのだ。

 

「ほお、新しい道具かよ。それも捻り潰してやらぁ」

「……すまねえ、鈴。約束破るかもしんねぇ」

 

 先刻、恋人と交わした言葉を思い出し、思わず呟く。

 

 それは懺悔と同時に、龍太郎自身の覚悟を決めるための最後の言葉でもあり。

 

 グッと握ったドライバーをゆっくりと顔の横まで掲げ、力強く下腹部に叩きつけた。

 

 黄色いベルトが伸張し、龍太郎の体格に合わせてバックルをフィットさせる。

 

 紅煉はその様子を愉しげに見守っていた。

 

 

 

 次に取り出したのは、氷結洞窟で生成されたあのボトル。

 

 軽く握られたそのボトルは、白い光を小さく放ち、そして砕けた。

 

 ボトルには、二体のロボットが重なるようにアームを組み合わせるレリーフが現れる。

 

 一回だけ振り、キャップを正面に合わせて蓋を開ける。

 

 唯一無事だったブリザードナックルを取り出すと、そのスロットにボトルを叩き込んだ。

 

 

ボトルキーン!

 

 

 持ち手を上に回転し、ドライバーに合体させる。

 

 完全に合体した瞬間、これまで固く閉ざされていたナックルの表面部分が左右に別れた。

 

 

グリスブリザード!

 

 

 言葉と共に、音楽が奏でられる。

 

 清涼な、それでいてどこか猛々しいメロディーが廃都市の中に響いた。

 

 龍太郎は固くレバーを握りしめ、あらん限りの勇気を持って回し始めた。

 

 

 

 音が変わり、何かが組み上げられていく。

 

 ドライバーと合体したナックルから地面へと冷気が降り積もり、背後に大きな物体を形成した。

 

 ブリザードナックルにどこか似たそれが組みあがっていくのと連動して……龍太郎の両足が、氷に包まれ。

 

 

 

 

 

 そして、音楽が終わった。

 

 

 

 

 

《ARE YOU READY !?》

 

 

 さあ、覚悟はいいか。

 

 もう後戻りはできない。ここから先は全て、凍りついた茨の道だ。

 

 それでもお前は──戦い続けるのか。

 

 

 

 そう問いかけるようなドライバーの音声に、龍太郎は獰猛に笑って。

 

 紅煉へ向けた左の手を軽く振り、人差し指を鋭く伸ばした。

 

「──できてるよ」

 

 龍太郎の左腕が、振り切られる。

 

 その瞬間、勢いよく傾いた背後の物体から大量の冷気が降り注いで龍太郎を包み込んだ。

 

 冷気は美しく、透き通った刺々しい氷柱へと姿を変え、荊のように霜が巻きついていく。

 

 内へ包み隠した者の荒々しさを示すようなその柱に、傾きを戻した物体が後ろへ引いて。

 

 次の瞬間、叩きつけられ──砕けた。

 

 

 

 

 

激凍心火! グリスブリザード! ガキガキガキガキガッキーン!

 

 

 

 

 

 姿を現すは、凍てついた一人の戦士。

 

 まるで氷そのものを纏ったような、冷涼な鎧で体を覆った、心火の化身。

 

 左腕が無骨なロボットアームに包み込まれたのは、もはや人には戻れないという証左だろうか。

 

 黄金の殻を脱ぎ捨て、唯一その鮮烈な赤い瞳だけを残したその戦士は。

 

 冷気を撒き散らしながら、ゆっくりと顔を上げて。

 

『──心火を燃やして、ぶっ潰す』

 

 そう、よく透き通る声で宣言した。

 

「ハハァ! 金ピカの次は氷漬けとはな! 今度こそ頭から噛み砕いてやらぁ!」

『かかってこいや、コラァ!』

 

 動き出したのはほぼ同時。

 

 遊びをやめた紅煉は、一切の手加減無しで拳を繰り出すが……もう遅れは取らない。

 

『どらぁあああ!』

 

 その拳に合わせるようにして、グリスはロボットアームを荒々しく突き出し。

 

「グォオっ!?」

 

 拳を打ち合い、負けたのは紅煉だった。

 

 紅煉の拳はロボットアームの与えた衝撃に弾かれ、それに留まらず指の骨が砕ける。

 

 段違いのパワーに目を剥く紅煉に、一歩踏み込んだグリスが一回転して回し蹴りを腹に入れた。

 

 その一撃もまた、先ほどまでとは別格。紅煉は吹き飛ばされ、ビルに突っ込んでいく。

 

 またも大きな揺れと音が響き、既にボロボロだった都市の一角に土煙が立ち込めた。

 

『……すげぇ。なんてパワーだよ』

「しゃらくせえっ!」

 

 足を下ろしたグリスが呟いた瞬間、内側から弾けるように瓦礫が破壊される。

 

 瞬時に反応して構えを取ると、初めて不機嫌そうな顔をした紅煉が戻ってきた。

 

 その原因は、骨が砕けたまま、雪結晶が纏わり付くように凍りついた右手だ。

 

「テメェ、やるじゃあねえか。本気の本気で殺してやりたくなったぜ」

『はっ! 俺はもうとっくに本気だぜ?』

 

 挑発するグリスに、紅煉は鼻を鳴らし──また嗤った。

 

 

 

 

 

「ぶっ殺してやらァアアア!!!」

『こっちのセリフだぁああッ!!』

 

 

 

 

 

 そして、戦士と獣が殺し合う。

 

 紅煉は柔硬伸縮自在な髪、雷、炎、刀、己の剛体。全てを用いて、目の前の戦士を殺さんとする。

 

 尋常な戦士ならば鏖殺されるだろう数々の攻撃を掻い潜り、グリスは紅煉に肉薄した。

 

『おおらぁあああああああっっ!!!』

「いい加減うざってぇ! さっさと死にやがれィ!!!」

 

 闘志を雄叫びへと変えて、グリスは一歩踏み込む。

 

 紅煉は健在な左の拳を繰り出すが、グリスは素早く体を落として潜るように回避。

 

 その体勢から天を突くようなアッパーが放たれ、ドガァンッ! と顎に当たって出るものではない音が出た。

 

「ごぁっ!」

『もう動きは見えてんだよ! 見えんなら当てるだけだ!』

「テ、メェエエッ!」

 

 顔は上に向きながらも、咆哮した紅煉は下顎から突き出た刀を伸ばす。

 

 素早く振り上げた拳を戻したグリスは、ぐるりと体をさらに屈めながら一回転。

 

 遠心力の乗ったロボットアームを細い脛に叩きつけ、紅煉の重心を大きくずらした。

 

 

 

 もう一方の足でたたらを踏む紅煉。

 

 その隙を見逃さず、グリスは両腕でガッチリと胴体をホールドしてみせた。

 

『ドラァッ!』

 

 そのまま全身の力を振り絞り、紅煉の巨体を持ち上げるとひっくり返す。

 

「ナメんじゃねえ!」

 

 が、紅煉は髪を全て膨張させて、グリスの両腕を外した。

 

 そのまま上空へ飛び上がり、一人倒れたグリスはすぐに体勢を立て直す。

 

 周囲を見渡し紅煉を探すと、少し離れた場所で凍りついた自分の手を見つめていた。

 

「チッ、治りゃしねえ。厄介なもん植え付けやがって、えぇ?」

『ハッ、いいザマだぜ。殺しても治るっつうんだから、氷漬けにしてやったんだよ……ぐっ!?』

 

 軽口を返した瞬間、龍太郎の全身に亀裂が走ったような痛みが駆け巡る。

 

 前触れなく片膝をついたグリスを紅煉が剣呑な眼差しで見ると……グリスに変化が起こった。

 

 

 

 

 

 黄金の、粒子が。

 

 

 

 

 

 その体から、ほろほろと零れ落ちるように飛び散り始めたのだ。

 

『……チッ。やっぱり、こうなるのかよ』

 

 グリスまでならば、まだライダーシステムよりチートメイトの効果が上回った。

 

 だが、この龍太郎と大迷宮の虚像の魔力が混ざり合った未知のボトルは、それを遥かに上回る。

 

 今も全身に過剰なほどの力が満ち溢れ、激しくネビュラガスが活性化している。

 

 ハザードレベルが、桁違いの速度で急上昇しているのだ。

 

「どうやらその力、テメェの命も削るようだなァ?」

『……言っただろ。心火を燃やして、テメェをぶっ潰す。俺自身が燃やし尽くされるまで、この炎は収まらねえ』

 

 全身を引き裂かれるような痛みの中にあっても、なお。

 

 龍太郎は、歯を食いしばって、妙に冷たい体に喝を入れ、立ち上がる。

 

『テメェやエヒトみたいな下衆野郎には、何も壊させねえ。奪わせやしねえ。そう、あいつらにも約束したんだ』

 

 あれは、とても小さな約束事。

 

 だとしても、龍太郎にとっては十分仮面ライダーとして戦うに値する価値がある。

 

 何より、大切な人の為にこの神域で、地上で戦っている仲間達に恥じないように。

 

 その想いを固めるように右手を握りしめ、自分の胸に強く叩きつけて。

 

『あいつらの、仲間達が掴む未来の! そこにある〝ラブ&ピース〟の為に、俺は戦い続けるんだよぉおおおおおお!!!』

「ハッ! くだらねえ! テメェごとその夢、この紅煉様が喰らってやらぁ!」

 

 グリスは、この獣畜生を倒すことで、大切な者達の未来を脅かす障害を一つなくす為に。

 

 紅煉は、未来だの愛だのと、毛ほども価値のないことを喧しく叫ぶ羽虫を叩き潰す為に。

 

 相入れない、漆黒の炎と輝かしいほどの黄金の炎がぶつかり合う。

 

『激闘! 激熱! 激情! テメェごときじゃ、俺のことは満たせねえぇええええええ!!!』

「俺はテメェみたいな、未来なんざ信じてる野郎をぶっ殺すのが大好きなのよォッ!!!」

 

 全てを己が飲み込んでやると言わんばかりに襲いかかってくる紅煉に、グリスは拳を叩きつける。

 

 それはまるで、自分が壊れることも厭わないような、文字通り乾坤一擲の一撃。

 

 それを何度も何度も、何度も何度も何度も紅煉へと繰り出した。

 

『オラオラオラオラオラァッ!!!』

「チィッ、なんつう勢いだ!」

『どうした、そんなも──ガッ!?』

 

 二度目の激痛。同時に黄金の粒子が一気に増える。

 

 猛攻が一瞬止み、防戦一方だった紅煉は大きく嗤った。

 

「隙を見せたな、間抜けが!!」

『ぐぁっ!?』

 

 伸びた神刀が、袈裟斬りに振り下される。

 

 グリスの胸装甲を叩いたそれによって、激しい火花を散らしながら後退させられる。

 

 幸い先ほどのように切り裂かれはしなかったが──それは致命的な無防備だった。

 

「そらよぉっ!」

『ぐっ! ごっ! げはっ!』

 

 荒れ狂う拳の嵐。

 

 今度はグリスが防戦へと追い込まれ、増していく痛みによってろくに反撃もできない。

 

 結局逆転できず、最後の一撃によってグリスは宙を舞うことになった。

 

『かはっ!』

 

 強かに背中を打ち付け、肺から空気が全て抜ける。

 

 内側から蝕む痛みと、外部からの痛み。二重苦で動けなくなったグリスに紅煉が飛びかかった。

 

 今度こそ食ってやると言わんばかりに、醜悪に顔を歪めた獣の影が覆いかぶさる。

 

『う、おおおおっ!!!』

 

 だが、この男の不撓不屈さを軽んじてはいけない。

 

 気合い一つで全ての痛みをねじ伏せると、強く吸った息を叫びで吐き出し、腕を動かした。

 

 右手でレバーを鷲掴み、勢いよく回す。ボトルが光り輝き、成分が活性化していく。

 

 

シングルアイス! ツインアイス!

 

 

 音声が発せられ、弾かれたように右腕を突き出した、その瞬間。

 

 グリスの頭めがけて振り下ろされた一撃を首を捻って躱し、紅煉の顔面向けて拳を叩き込んだ。

 

 

 

 ガキン! と硬質な音が響く。

 

 

 

 一瞬の静寂が訪れ、その体勢のままグリスと紅煉は止まった。

 

『ぐ、ぁああああ!?』

「残念だったなぁ!」

 

 やがて。悲鳴をあげたのはグリスで、笑ったのは紅煉だった。

 

 振り上げた拳は紅煉の口内に到達し、二の腕の半ばまで入っている。

 

 その腕には、鋭い紅煉の牙が上下どちらとも食い込んでいた。

 

「ガブッ!!」

『ぎぃっ!?』

 

 そして、そのまま。

 

 大きく左右へ振られた紅煉の頭と一緒に。

 

 グリスの右腕は、食い千切られた。

 

『ガァアアアァアッッッ!!???』

「ングング、美味ぇ美味ぇ! ちぃとばかし殻がかてぇが、やっぱり人間の肉は最高よ!」

 

 バリバリと、装甲ごとグリスの腕を咀嚼し、味わう紅煉。

 

 股の下でのたうち回る本人に見せつけるようにごくりと大きく喉を鳴らし、血塗れの口を拭った。

 

「テメェの拳は確かに強かったぜぇ? だがそれがどうした、食ってやったぜ? ハーハッハッハッハッ!」

 

 

 

 今度こそ、完全な勝利。

 

 

 

 満身創痍の上、片腕を失ったグリスと、右腕が封じられただけの紅煉。

 

 いざとなれば後で引き千切って再生してしまえばいいのだ、そう思えば無傷と変わらない。

 

 その事実も含め、勝利感に酔いしれる紅煉に──グリスが、ピタリと悲鳴を止めた。

 

『食ったな。俺の腕を』

「……あぁん? 何言ってやがる」

 

 おかしなことを言うグリスを、紅煉は見下ろして。

 

 ふと、その姿に違和感を覚えた。

 

 それは、ドライバーにあるはずのものが存在していないからだ。

 

「テメェ、あの小せえ筒はどうした?」

『どこにやったと思うんだ?』

「何をわけのわからねえこと、を……」

 

 

 

 

 

 ふと、紅煉は何かを思い出しかけた。

 

 

 

 

 

 そうだ、前にも。

 

 

 

 

 

 こんなことが、あったような……

 

 

 

 

 

『ライダーシステムを起動するのは、ボトルの成分だ。それには勿論、いわゆる必殺技ってのも含まれてる』

「…………」

 

 動きを止めた紅煉に、グリス……龍太郎は、とても静かな声で話した。

 

『じゃあ必殺技を発動した状態で、エネルギー源であるボトルを抜いたら……どうなるだろうな?』

「──貴様ァアアアアッ!! テメェの拳の中に筒を握ってやがったのかぁあああああああっ!!???」

 

 答えへと至った紅煉が、怒りと共に叫んだ。

 

 ボトルの認識が一定時間消えたことで変身が解除された龍太郎は笑う。

 

 そう。彼は最初から自分の腕を紅煉に喰らわせるつもりで、あの一撃を繰り出したのだ。

 

 硬く握ったその拳に、臨界まで成分を活性化させたボトルを握り込んで。

 

「テメェの暴食が仇になったな、紅煉。因果応報だ、そのまま中から凍りついちまえ」

「チキショオォォォオオオオオオオオッ!!! 死にたかねぇええええええええええええええええっっっ!!!!!」

 

 いつか、ある男と戦った時と同じことを叫びながら、紅煉は左手を自らの腹に振るう。

 

 貫手のようにまっすぐ伸ばした五本の指が、その腹に到達する前に。

 

 腹部を突き破って姿を表した氷によって、瞬く間に氷柱へと様変わりした。

 

「──────────。」

「へっ。いい間抜け面だぜ、紅煉」

 

 ゆっくりと、残った両足と左手で龍太郎は三度立ち上がる。

 

 ゆらゆらと、大量の血を垂れ流す右手のせいでふらつく体を、しっかり定めて。

 

 そして、唯一残ったその拳を固く、固く握りしめ。

 

 

 

 

 

「あばよ。砕けてくたばれ、ゲス野郎」

 

 

 

 

 

 正拳突きが、氷柱に叩き込まれた。

 

 残る力全てを込めて振るった拳は、氷柱ごと中身の紅煉を破壊。

 

 バラバラに砕け、四方に散らばった欠片から紅煉が再生することは……なかった。

 

「ったく、手間かけさせやがって……うっ」

 

 後ろによろめき、何歩か後退してバランスを取り戻そうとする。

 

 だが失敗し、丁度そこにあった瓦礫を背に座り込むことになった。

 

「……この腕、香織とみーたんの回復魔法でも治るかわかんねぇな」

 

 失った片腕を見下ろし、どこか諦めたように笑う龍太郎。

 

 その体からはもはや、絶え間なく粒子が漏れ出ており……限界を示していた。

 

「あー、クソ。せっかく勝ったのに終わりかよ」

 

 空を見上げて、やけに落ち着いた声でそう呟いてみる。

 

 ドライバーを使った瞬間にこうなることを、文字通り決死の覚悟を定めていた。

 

 だがいざこうして消える実感を持ってみると、案外怖くはないものだ。

 

「……光輝。お前の大切な人、取り戻せたか?」

 

 だからだろうか。

 

 死の間際、脳裏に浮かんだのはしょうがない幼馴染や、仲間達のこと。

 

 誰も彼も厄介な、クセの強い彼らのことを、龍太郎は想った。

 

「雫。南雲達と一緒に絶対、北野のことを取り戻せよ」

 

 徐々に、肉体が薄れ始める。

 

「香織。みーたんやリベル、地上にいる奴らのことは任せたぜ」

 

 光の粒子が大粒となり、宙へと溶けるように消えていく。

 

「……鈴」

 

 そして、最後に。

 

「……約束破って、ごめん。お前のこと、愛してるぜ」

 

 妙に穏やかな、晴れ晴れとした笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 たった一人、坂上龍太郎は──消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──と、まあ。このような結末を迎えたわけだが。どう思う? 南雲ハジメ、八重樫雫よ」

「チッ……!」

「く…………!」

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 その一部始終を鏡のようなものから見て、顔を歪める二人に。

 

 

 

 

 

 玉座に座する邪神が、静かに嗤った。

 

 

 

 

 

 

 




グリス、消滅。

龍太郎、お疲れ様……

次回からハジメ達の場面へ。

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