星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回からハジメ達の方へ。

楽しんでいただけると嬉しいです。


蛇の肉ってササミっぽいらしいね

 

 三人称  SIDE

 

 

 

 

 

 時間はしばらく遡る。

 

 

 

 

 

「……長いわね」

「いったいいくつの空間があるんでしょうねえ」

「敵は大したことはないのじゃがな」

「すまーっしゅ」

「ん。ハジメ、シュウジへの距離は?」

 

 船に降りてこようとする魔物を風系魔法で切り刻みながら、ユエが尋ねる。

 

 各々の武器で魔物を返り討ちながら、同じように目線で問うてくる面々。

 

 ハジメはおもむろに〝羅針時計〟を見た。

 

「……最初の空間を起点とすると、五分の四ってところだな」

「もうすぐ、ねっ!」

 

 少し喜色を載せた声音で、雫が刀を虚空へと振るう。

 

 刃から飛んだ斬撃が直角に曲がり、甲板に着地したばかりのウサギに背後から迫っていた魔物を斬った。

 

「わ、先越されちゃいました」

「ありがと、雫」

「いいえ。これくらいなら造作もないわ」

 

 チン、と納刀した雫はポニーテールを翻し、船首に立つと彼方を見つめた。

 

 クールビューティを体現するような彼女に、ユエ達は顔を見合わせると少し苦笑う。

 

「雫さん、前よりさらに斬撃の精度が増してません?」

「ん。最初の空間での使徒との戦闘で、もっと鋭くなった」

「正直、私でも抜刀がよく見えない」

「まさに剣鬼、じゃな」

 

 今しがた雫がこともなげに斬ったのは、真のオルクス中層レベルの魔物だ。

 

 無論、老魔王との訓練でさらに、格段に力を磨いたユエ達にも雑魚に相違ない。

 

 だが、もう誰もあれが上のオルクスで苦戦していた少女とは思うまい。

 

 その凛々しい横顔にはどこか、抜き身の刃のような危うい色気すらある。

 

「……あの、そんなに褒められても困るわ。南雲くん達の装備に頼っている部分も大きいのだし」

 

 と、そんな四人のヒソヒソ話に雫が振り返り、少し恥ずかしそうに笑った。

 

 

 

 雫の着物やハジメ達の装備にはチートメイト同様の肉体強化・最適化と、その反動を抑える治癒機能がある。

 

 そこにチートメイトでの底上げや、数々の神代魔法を付与された楔丸あってこその技。

 

 しかし……

 

「いや、それでもお前は十分以上に強いぞ。特にその観察眼とかな」

「あらそう? 私は与えられたものを自分なりに全力で使いこなしただけよ。私自身の力は、貴方の言う観察眼と鍛えた剣技くらいじゃないかしら」

「だからそれが一番怖いわ。技能に天眼とか心眼とか出てないか?」

「そんなものはないけど……」

「つまり完全に天然物か……しかもお前、斬撃の瞬間ほぼ無意識に神代魔法を発動してるだろ」

 

 ハジメの指摘に、ふとユエは先程斬られて甲板に落ちた魔物を見る。

 

 そうして魂魄魔法を発動し、鑑定を試みると……魂ごと真っ二つに斬られている。

 

「……すごい」

「おおう……これではあの中村恵里とやらでも、傀儡にできんのではないか?」

「びゅーてぃふぉー」

 

 強力な武具や身体能力を与えられたからとて、それを完璧に使いこなせるかは別問題。

 

 その点、生来の生真面目さと長年の修練で努力の鬼である雫は、ある種の極致に至っていた。

 

 だが、当の本人はまるで足りていないとでも言うような目をして首を傾げる。

 

「この刀じゃなかったら、こうはならないわよ? それに、エヒトを斬るにはもっと極めないと」

「……ああ、そういやお前シュウジの恋人だったな」

「あ、ハジメさんが思考を放棄しましたね」

 

 遠い目で彼方まで広がる()()()を見るハジメに、シアがぽそっと呟いた。

 

 

 

 今更ながら、彼らがいるのは島一つない大海原のど真ん中である。

 

 ハジメが修復した屋形船に乗り、下からの攻撃に備え海面の数十メートルほど上を飛行している。

 

 時折、今のように海や上空からやってくる魔物以外にはなんの変化もない無限の大海。

 

 これ以前にも、天地逆転の世界や大霊峰のみの世界、無数の本棚が並ぶ書庫などなど、様々な世界を通っている。

 

 極め付けには、一つの道標もないこの海。

 

 羅針時計がなければ、ハジメ達は永遠に彷徨うことになっていただろう。ゾッとする話だ。

 

 そうして進む一行だが、本当に進んでいるのか羅針時計以外証拠がないので、少し気が急いている。

 

「……ん」

 

 そんな時、不意にウサギが耳を揺らして前を見た。

 

 船首にいた雫も目を細め、警戒した様子にハジメ達も瞬時に緊張を走らせる。

 

 やがて、彼らの反応したものがやってきた。

 

「……暗雲?」

 

 それは、雲ひとつない快晴に突然現れた漆黒のベール。

 

 ただの雷雲とは思えない速度でハジメ達の頭上に広がったそれに伴い、下の海も変化を来す。

 

 強風に煽られ、凪いでいた海面は荒々しく波打つ。そうして即席の大嵐が完成した。

 

 凄まじい環境変化に顔を顰めつつも、ハジメが下を覗き込む。

 

「……どう考えても、アレが元凶だろうな」

 

 その視線の先には──直径数百メートルはある大渦。

 

 しかしてそれは渦潮現象ではなく、海中の生物が蠢いたことにより生まれた副次的なもの。

 

 同じように手すりから顔を出してそれを見たユエ達は、非常に嫌そうな表情をした。

 

「うわぁ、大きいですねぇ」

「アークより、大きい?」

「三百メートルはあるじゃろうな。よもや、彼より大きな生物がおるとは思わなんだ」

「ん、しかもかなりの覇気を出してる。これまでの魔物とは桁違い」

「私の着物のこれがノミに思える大きさだわ」

 

 雫が自分の着物を一瞥した後、それを改めて見て渋い顔をした。

 

 

 

 そこにいたのは──並外れた大きさの怪物。

 

 

 

 金属質の鱗に全身を覆い、背中には硬質な輝きを持つ背びれを備えている。

 

 

 キシャァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! 

 

 

 その時、ハジメ達の視線に応えるように凄まじい咆哮が轟いた。

 

 空間そのものを震わせるそれが彼らの体を叩き、それどころか精神そのものを波打たせる。

 

 恐慌。ゲームでは大ボスにありがちな効果を与えるものだったのだろうが……

 

「うるせえな」

 

 非常に軽い口調で、おもむろに〝大宝物庫〟から〝ネオ・シュヴァルツァー〟を数機召喚するハジメ。

 

 決戦に伴い改良を施されたそれらの砲口からは、一斉にサメ顔の刻まれたミサイルが飛び出す。

 

 空間魔法によって、内部に見た目の30倍の燃焼物を積んだそれらが海面に次々投下され。

 

 一拍の後、とぐろを巻いた怪物のいた場所に巨大な水柱が立つ。

 

 

 グゥオオオオオオ!? 

 

 

 海面下からくぐもった絶叫が上がる。

 

 怒りと、少しの驚愕と痛み。想像以上に矮小な者達の一撃は、己に痛痒を与えた。 

 

 それが我慢ならぬとでも言うように、大気を震わす怒号を唸らせながら両の瞳をゆっくり開眼。

 

 

 そのまま、海面をちょっとした小山のように持ち上げながら鎌首をもたげる。

 

 現れたるは、五十メートルにもなろうかという、アークよりも巨大な竜に酷似した顔。

 

 人の子ほどある鱗、赤黒い眼光を放つ瞳、二重の大牙、体の側面には波打つように張り出したヒレ。

 

 

 

 場所が場所であれば、神と崇められそうな異様。

 

 一度動かば空は曇り、海は荒れる。

 

 そんな、どこぞの神話の生物のような生物だった。

 

「名付けるなら、〝神獣〟といったところかの?」

「ん、言い得て妙」

「……殴りごたえがありそう」

「その分、あの海底遺跡の〝悪食〟以上のプレッシャーがありますけどねぇ」

 

 しかし、そんな程度の重圧など彼女らの戦意を削ぐには足りはしない。

 

 どころか、好戦的に笑いながらヴィレドリュッケンや新武具〝黒剛〟を握るウサギコンビ、魔法を準備するユエとティオ。

 

 無論、既にハジメも戦闘体勢。雫など、どこから斬り込もうか観察を始めている。

 

 そんな不遜な人間達に、自分が恐れられていないことを理解した神獣は怒りの声を轟かせる。

 

「南雲くん、ちょっと中から斬るから口を開けておいてちょうだい」

「おう、ちょうど黙らせようとしてたところだ」

 

 が、それを意にも介さず動きだした鬼が二人。

 

 軽く雫の要求に答えたハジメは、改良の結果砲塔サイズになったイェーガーをガチャンとセットした。

 

 

 ──電磁加速式大口径狙撃砲(レールキャノン)天穿(てんせん)

 

 

 ライフルというよりはレールキャノンとなった88mm砲に、赤いスパークが迸る。

 

 ハジメは、イェーガーの名残とも言える、本体に比べ小さなスロットにゴリラフルボトルをセット。

 

 光は輝きを増し、一瞬で十分以上のチャージが完了した瞬間、躊躇なく神獣へ向けて引き金を引いた。

 

 打ち砕くことにエネルギーの指向を特化させた砲撃は、轟音と爆煙を率いて飛び出していく。

 

 ハジメの赤雷を極大化したようなそれは、大口を開けて咆哮していた神獣の口内に突き刺さった。

 

 どころか、ドバッ!!! と盛大な音を立てて後頭部から飛び出し、曇天をも貫く。

 

 

 

 ガァアアアアアアアアアアッ!! 

 

 

 一瞬で頭部に大穴を開けられ、神獣は多大に困惑の入り混じった悲鳴をあげた。

 

 砲撃の衝撃で仰け反り、動揺で動けない神獣に──この機を待っていた剣鬼がカッと開眼する。

 

「フッ!」

 

 楔丸の抜刀と同時に、足袋の〝空力〟で跳躍し、まっすぐ神獣の口内へ。

 

 

 

 一歩、二歩、三歩。空を蹴る度その速度は増していき、一振りの刃へと。

 

 

 

 先の一撃に迫ろうかという神速で迫る雫に、神獣は傷と痛みを与えられた怒りも併せて豪炎を吐く。

 

 大洞窟の如き顎門から吐き出されたそれは、もはや炎の城壁といっても過言ではない。

 

「邪魔」

 

 しかし、そんなもの彼女には関係ない。

 

 煩わしいという感情さえ置き去りにした平坦な一言と共に、楔丸を一振り。

 

 重力魔法を発動されたそれにみるみるうちに炎が収束されていき、十メートルを超える炎の大太刀に成った。

 

 自分の炎が利用されたことに瞠目した神獣は、更に熱量と勢いを増した火炎を吐き出し。

 

「邪魔と、言ったでしょう」

 

 重力によって擬似的な密度を得た炎刀の振り上げにて、一刀両断。

 

 更には空間魔法を発動し、更にリーチを伸ばした一撃が神獣の上顎を下から分断した。

 

 

 

 頭をかち割られた神獣が、小さな悲鳴を二つになった口から漏らしてぐらりと海面へ傾く。

 

 それを見ながら、雫は炎刀を解除しつつ無拍子と縮地の合わせ技で船へと戻った。

 

「お疲れさん」

「思ったよりも柔かったわね。あれなら外からでも斬れそう」

「うん、まあ、そうだな」

 

 こと切断に関してはお前だけだけどな、という言葉をハジメは飲み込んだ。

 

 シアやウサギも、工夫すれば鱗ごと叩き壊すのは可能だろうが……あそこまで綺麗には斬れない。

 

 そんなハジメの目線に気がつかず、雫はゆっくりと倒れていく神獣を見上げていた。

 

「だけど……」

 

 鋭く神獣を睨む雫の警戒は、図らずも的中した。

 

 

 グァアアン!! 

 

 

 海面に落ちる直前、苦し紛れといった様子の甲高い声で鳴いた神獣。

 

 すると海水が体を這い上がっていき、斬った赤黒の肉の断面に浸透していく。

 

 そして海水が糊のように左右に分かたれた頭部をくっつけて、傷口が見る間に癒えていった。

 

「やっぱりね」

「うへぇ。これ、海水がある限り無尽蔵に再生できるとかですか?」

「だとすると、相当手間じゃのう」

「魔石を破壊、するのは?」

「……ハジメ」

 

 それぞれの意見を聞いたユエが見ると、眼帯をずらして魔眼石を解放していたハジメは唸る。

 

「ダメだな、魔石は見当たらない。あの巨体だ、相応の大きな魔石になるはず。見逃してないとなると……」

「最初からない、というのが妥当でしょうね。あのクリオネもどきみたいに」

 

 至極冷静に言う雫は、先ほどの言葉も含めてこれを察していたようにも思える。

 

 ハジメ達が訝しげな目を向けると、雫は背負った業奠(ごうてん)の柄に手をかける。

 

「これを一度使ったからかもしれないけど、感じたのよ。〝斬れてない〟って」

「お、おう?」

 

 え、そんなのわかるものなの? と動揺する、完全に殺すまで死体蹴りも平気でする魔王。

 

 そんな彼に、神域に入ってからというもの戦う度に何かに到達している雫は告げる。

 

業奠(これ)で、あの固有魔法みたいなものを神獣から断ち切るわ。サポートお願いできるかしら」

「なるほどな、再生能力を分離して、そのまま真っ二つって寸法か。お前ら、いけるか?」

「ん!」

「当然ですぅ!」

「やったるぞ、おー」

「ふふ、お安い御用じゃ」

 

 頼もしく返事をする仲間達。

 

 今は一刻を争う事態なのだ、こんな場所で割く時間を少なくしておきたいのは全員の共通認識。

 

 改めて好戦的な目線を下から受け、更には油断ならない実力を持つ人間達に神獣は少し狼狽える。

 

「さて、じゃあ死ね」

 

 それが致命的な油断だった。

 

 会話しながらチャージを完了していた天穿のビームが発射され、二度空を走る。

 

 一度目でその威力を身をもって知った神獣は、慌てて頭を横に振って回避を試みた。

 

「遅い」

 

 天穿以上のスピードで、顎の下に潜り込んでいたウサギに気がつかずに。

 

 握った右と左の拳を叩き合わせると、二の腕部分に嵌め込まれたクリスタルが一つ輝く。

 

 

 

 それはウサギの体内を駆け巡る莫大な魔力を増幅させる、彼女の破壊力を推進する為のアーティファクト。

 

 〝空力〟で強く両足を踏み締め、限界まで膝を折り曲げてしゃがみ込む。

 

 十分なバネの収縮の後、一気に力を解放してこちらを認識すらできていないノロマな竜に飛び。

 

「出力60%。〝兎槌〟」

 

 アッパーカットを下顎へと叩きつけた。

 

 

 グォオオアアアア!? 

 

 

 

 ボゴォンッ!! と盛大な音を立て、治癒したばかりの顎の骨が数百枚の鱗と共に叩き壊された。

 

 超パワーによって上へと向いた頭部に、二度目のビームが到達、炸裂する。

 

 

 

 幸か不幸か、ウサギの一撃で口は閉じていたため一撃目のように貫通はしなかった。

 

 だが頭部は無惨に焼け焦げ、ヒレや鱗はドロドロに融解してしまっている。

 

「あとは頼んだよ、シア」

「──お任せですぅ!」

 

 見上げるウサギに応えるのは、再び集まり始めていた曇天を突き破って現れた、もう一人のバグウサギ。

 

 ウサギが先制攻撃を入れた一瞬でスカイボードで飛び上がった彼女は今、淡青色の流星となっていた。

 

 〝爆破モード〟になって赤く輝くヴィレドリュッケンを手に、〝空力〟による連続蹴りで加速。

 

 そのまま音の壁を超え、音速の世界に突入しながらヴィレドリュッケンの重量を20トンにまで引き上げる。

 

 超重量+落下による加速を加え、本当の隕石と化したままヴィレドリュッケンを振り上げ。

 

「どっ、せーい!!!」

 

 ダメージで思考が定まらない神獣の頭頂に着弾した。

 

 

 

 轟音、破砕音、最後に悲鳴。

 

 

 

 二人の攻撃で著しく防御力を落としていた頭部の鱗は壊れ、肉が潰れ、骨を砕く。

 

 そのままハジメのビームで柔くなっていた脳を揺らし、神獣は先ほど以上の行動不能に陥った。

 

「──〝圧界〟」

 

 更にその身を縛るべく、ユエが神代魔法を発動させる。

 

 神獣の頭部の周囲三百六十度、全方向に重力場が発生して縛りつけた。

 

「ほほ、では仕上げといくかの」

 

 そして最後の追い討ちをかけるのは、シアのように空高く黒翼で飛翔したティオ。

 

 両手を顎門のように合わせ、黒色の魔力を集束。

 

 そしてシアとウサギが退避したのを見計らい、臨界まで達したのを感じた瞬間──解放。

 

 圧縮され、貫通力の増した黒い光は螺旋を描いて細く槍の如く落ち、寸分違わずシアの砕いた場所に着弾。

 

 黒の槍が、頭を突き抜けて口内に入り、そのまま喉元を内側から突き破って海へと突き刺さる。

 

 

 

 完璧な連携による圧倒。

 

 見事なチームワークを見せた彼らに、しかし太古の神獣の意地も負けてはいない。

 

 

 ク、ァアアアン……

 

 

 弱々しく、己を癒すために肉体を再生しようとする。

 

 思えば雫に頭を両断されても発動していたのだ、もはや思考以前の本能的なものなのだろう。

 

「──ありがとう。十分以上の時間よ」

 

 だが、それをするにはあまりに遅すぎた。

 

 一意専心、その極みに達した剣鬼はとっくに詠唱を終え、旋風が体を包み込む。

 

 遍く現世に繋がる因果を断ち切る業の剣に、神獣はこれまでで最大の恐怖を感じた。

 

 だが、もはや火炎すらも吐くような思考能力は残っておらず。

 

 

 

 

 

「〝天断(あまだ)ち〟」

 

 

 

 

 

 解き放たれた一閃に、今度こそ切り裂かれた。

 

 その一撃は神獣から固有魔法を断ち、海から断ち、魔力を断ち……魂を、断つ。

 

 副次的なものとして、頭から海中に沈んだ尻尾の先に至るまで綺麗に二つに、肉体的にも切断された。

 

 

 ク、ァアアアン………………

 

 

 神獣を屠るに相応しいそれに、賞賛を送るような鳴き声を残して、今度こそ死んだ。

 

 半分ずつの巨体が海面に着水し、盛大な水飛沫を立てる。

 

 そのまま少しずつ沈んでいき、血の海を広げていく様は、ある種圧巻であった。

 

「ふぅ…………」

 

 深く息を吐き、業奠を納刀する雫。

 

 その呼吸には、とても深い疲労の色があった。

 

 無我の境地のその先、究極の己の意に到達するこの技は、心構えが非常に難しい。

 

 肉体というよりは、自分の魂の奥底にあるものを引き摺り出す行いなので、精神的疲労が大きい。

 

「……あ。ごめんなさい、南雲くん」

「何がだ?」

「全部斬っちゃったから、もしあれを食べるつもりだったら固有技能は手に入れられないと思うわ」

「あー、そういやそうか。まあ食いごたえはありそうだったな」

 

 惜しいことをした、とハジメは思いつつも、時間がないので仕方がないと割り切る。

 

「それにしても、なんか最初の時より鋭くなったか?」

「ええ。練習はしたけれど、やっぱり実戦に勝るものはないわね。この刀、より使い慣れてきたわ」

 

 いい笑顔で言う雫にこれ以上強くなるのか、と一同が思っていた、その時だ。

 

 不意にぐにゃりと前方数キロメートル先の空間が歪み、壁のようなものが消えていく。

 

 やがて、遠い先に大きな島が出現する。

 

「あそこが次のゲートか」

「門番をどかしたからってことね」

「ん、その可能性は高い」

「しかし、何かありそうじゃのう」

 

 この空間のゴールと思われる島は、かなりの大きさがあるようだ。

 

 全体が数十メートル級の木々に覆われ、海岸線以外にこれといって陸地が見当たらない。

 

 鬱蒼とした森林。そこに何もないはずがないという疑念は、正当だ。

 

 そしてシアとウサギのウサミミは、すでにその答えを得ている。

 

「強そうな魔物がいますねえ、かなりの数です」

「神獣ほどじゃないけど、時間はかかりそう」

 

 どうするのか目線で聞いてくる二人。

 

 ハジメは脇に抱えたままだった天穿を構え直すと、屋形船の船首にて狙撃体勢に入った。

 

 〝遠望〟と〝熱源感知〟が付与されたスコープには、二人も捉えた数々の魔物が写っている。

 

「ハジメ、もしかして……」

「時間が惜しいんでな、厄介そうなのだけドタマぶち抜いてくぞ」

 

 獰猛に笑ったハジメは、一匹の魔物の後頭部に照準を合わせて引き金を引く。

 

 駆け抜ける赤雷。それは深い森の奥にいた○ングコ○グ的な巨大ゴリラの後頭部に着弾した。

 

 死の閃光に気がつくことすらできず、頭部を吹っ飛ばされたゴリラは絶命した。

 

 

 

 貫通した弾丸がその衝撃でクレーターを作っているが、御構い無しにハジメは次の獲物を探す。

 

 標的発見、照準用意、即射殺。

 

 この動きが延々露繰り返され、羅針時計が示す空間の繋ぎ目付近の魔物を次々と暗殺していった。

 

「きっと、一番強い神獣は撃退したけどまだ強い魔物がたくさんいるよ! 残念だったね! って感じにしたかったんでしょうね」

「ん、嫌がらせとしては良い」

「迷宮に例えるならば、試練のようなものかのう……」

「でも、意味ないね」

「そりゃあ、十キロメートル以上の遠方から精密射撃されるなんて予想もできないでしょうね」

 

 苦笑いする一同。

 

 ともあれ、ハジメの容赦ない攻撃によって島の魔物は反撃の機会も得られずに虐殺された。

 

 他の魔物達は自分よりも上位の存在達が蹂躙されたことを感じ取って逃走。

 

 結果、あっさりと空飛ぶ屋形船によって森の中心にあった石像へとたどり着けた。

 

 

 

 

 

 それを用いて、一行は更なる戦場へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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