そしてついに、彼らは対面する。
彼らから親友を奪った、かの邪神と。
楽しんでいただけると嬉しいです。
石像を介して踏み込んだ先は、幾つもの巨島が浮遊する天空の世界だった。
数十メートル〜数キロと、まばらな大きさの浮遊島からは途切れることなく滝の水が流れ落ちる。
やがて水は霧に変わり、数々の浮遊島のそれらが混じり合って生まれた白い霧の世界は幻想的。
しかもどの島も緑に溢れており、眼下には綿菓子のような雲が連なる雲海。
極め付けには、太陽の代わりに雲の隙間から燦々と降り注ぐ〝天使の梯子〟。
全てが絶妙に組み合わさって生まれた、幻想的で荘厳たる風景。
天国はここかと無知な者が見れば思いそうなそれに、ハジメ達ですら少しの間見惚れる。
だが感動もすぐに収め、屋形船に魔力を流して雲海の上を滑らせ始めた。
向かうのはひときわ大きな浮遊島。そこを、羅針時計は示している。
やがて、瞬く間にたどり着いた浮遊島には。
「──やはり来たか、南雲ハジメ。そして神に逆らいし愚か者どもよ」
銀の翼と髪を神にそよがせた、魔人族の魔物使い、フリード・バグアーが待ち構えていた。
草原と森林、合間に枝分かれする小川、その上流に鎮座する緑豊かな山。
最も美しきその島の草原の中央、五十メートルに届こうかという白亜のオベリスクが一際強い異質感を示す。
そのオベリスクの頂上、輝く魔法陣に鎮座するは白い肌と銀の髪、翼を持つ神父服の男。
あぐらをかいて座り、銀の瞳でハジメ達を見ている。
これまでのどんな使徒より、ともすれば《色欲の獣》の座についた恵里に匹敵する存在感だった。
だが、ハジメは変わりはてたフリードを鼻で笑った。
「上から下まで総イメチェンとは、思い切ったことをしたな。前の赤い髪と褐色肌の方がまだ似合ってたぞ? まるで親が勝手に似合うと思って買ってきた服を、そのまんま着た感じだ」
ブフッ、と吹き出す声が二つ。シアとティオである。
経験があるのか、肩を震わせる二人に雫が苦笑を零してしまう。
そしてモロ煽りを受けたフリードは、しかし僅かに眉を震わせただけで泰然とした態度は崩さない。
「……やはり、と賞賛すべきだろうな。流石は主と精神力で拮抗し、アルヴヘイト様を一瞬で惨殺したあの男の相棒なだけはあるか」
「アルヴヘイト……ああ、あっさりミンチになったヤツか。まあ、あれ以上
その発言に少し、ユエの表情が強張ったのをハジメは視界の端で捉えた。
二人はもう知っている。誰より誇り高く愛情深い、あの吸血鬼の本当の心を。
だからこそ、その顔で、声で、手で自分達を陥れようとしたアルヴなど、万死ではまるで足りない。
ディンリードへの密告に関してはOHANASIがあるものの、ユエはシュウジを取り戻した暁にはまず感謝を述べるつもりだ。
「可哀想な者共だ。既に貴様らを守ったあの男の精神は、主に肉体を完全に支配され、消えているというのに」
「ああ? あいつのギャグキャラ的生存力補正舐めんな。たかが神モドキ程度に消されるわけねえだろ。むしろ俺らが遅すぎて欠伸してんじゃねえのか?」
「その不遜、すぐに二度と口に出せなくなることだろう。絶望を目の当たりにしたその瞬間に、な」
これまでの小物臭さはどこへいったのか、淡々と、事実を述べるようにフリードは告げる。
シュウジ仕込みの煽りにすら乗ってこない、感情を波立たせない彼に、しかしハジメは不敵に笑う。
「絶望がなんだ。不可能がなんだ。こちとら、あらゆる世界で一番頑固で偏屈な男の希望までひっさげてきてんだ。せいぜいイレギュラーの名に則って──テメェらの三文芝居、完膚なきまでにぶっ壊してやる」
「………………」
言葉などで怯むようなハジメではない。
フリードと真正面から睨み合い、殺気を交わらせる。
やがてその手がドンナーに触れたその時──機先を制するようにフリードが口を開く。
「まあ、いい。私の使命はお前とくだらぬ言い合いをすることではないからな」
「へえ、察するに殺してこいとでも言われたか? わざわざ自殺してこいだなんて命令を……ああ! だから髪がそんなになったのか、ご苦労さん」
「「ブフッ」」
またしてもシアとティオが吹く。案外ハジメもノリノリではないだろうか。
だが、立ち上がったフリードは相変わらず無反応で翼をはためかせ、宙に浮かぶ。
「私が主……〝エヒトルジュエ〟様から賜った命は、貴様と──そこの女をそのまま通せというもの。この手で貴様を縊り殺せないことは甚だ不本意だが、命とあっては仕方があるまい」
「私と南雲くん、ね……」
ハジメや、本来の神子であるユエならまだしも、何故自分が指名されたのか。
そのことに雫が眉をひそめる中で、ハジメは笑みを崩さず問いかける。
「ほう。で、その間お前はユエ達を相手にするってわけか?」
「その通りだ。主は最後の余興として、貴様ら二人との対話を望んでおられる。その末に神罰を受け、そして私が貴様の女を根こそぎ嬲り殺すのだ」
フリードが最後まで告げた途端、オベリスクが突如として輝きを放つ。
それが何であるか漠然と察していたハジメは、ドンナーを神速で抜き撃ちした。
ギィン!
だが、硬質な音を響かせて、赤雷はフリードの眼前で停止した。
まるで強固な壁にぶつかったかのようにひしゃげた弾丸は、そのままポロリと落ちていく。
「私の空間魔法が以前と同じだと認識していたのなら、それは大間違いだ」
どうやら最初から、空間遮断型の結界のようなものを張っていたようだ。
本人が豪語する通りにレベルの上がったその魔法は、オベリスクが機能を発揮するだけの時間を十分に稼ぐ。
オベリスクそのものが爆発したように輝き、六人の視界を白一色に染め上げる。
ただ一つ、瞬時に視覚としての機能を切った魔眼石だけがその光の意味を見破っていた。
やがて、光が収まる。
色が戻った世界にいたのは──視界の全てを覆い尽くす、魔物の大群。
パッと見ても三千体は超えていると思われるその魔物達は、すべてが
中には見るからに進化を遂げた見覚えのある魔物もおり、どれも超越した変化を遂げたようだ。
だが何より凄まじいプレッシャーを放つのは、一匹一匹があの白竜と同等の覇気を有する灰竜達の上にいる竜。
二十メートルに至る巨体にまで成長を遂げたその竜の白鱗は、鋼鉄の輝きを放っている。
背中の翼は二枚増え、純白のスパークを吐く口元にはズラリと鋭い牙が並ぶ。
胸元の傷が猛々しさと貫禄を引き出し、神々しいまでのその威容はまさに神の竜──白神竜と形容すべきだろう。
先の神獣をも凌駕する白神竜に従えられた無数の魔物は、壮絶なまでの殺気の波を放つ。
それを平然と受け止めるハジメ達を、白神竜の隣に並び浮かんだフリードは見下ろした。
「さあ、南雲ハジメ。八重樫雫。この絶望の只中に女共を置いて──貴様らだけが先に進むがいい」
●◯●
暗にユエ達と別れを覚悟せよと、そう不遜に見下ろしてくるフリード。
そんなフリードへ、ハジメが魔物全ての殺気より絶大な殺気を。
同時に雫が、全ての魔物の魂を切り裂くような鋭い鬼気を放ち。
「馬鹿か? 何故お前らの言う通りに俺らがしなきゃならない?」
「この場で全て斬るわ。邪魔するものは、一切合切ね」
お前達の言うことなど聞くに値しないと嘲るハジメと、斬ることのみに傾倒しユエ達に背中は任せると暗喩する雫。
以前であれば二人の気に狼狽えていたであろうフリードは、しかし冷たい眼差しを変えないまま。
「いいや、お前達は招待されるのだ。主の用意した、最後の余興にな」
「はっ、何を──!?」
「ッ!」
刹那、船首に立つ二人に降り注ぐ黄金の光。
雲の間から瞬きする間に現れた〝天使の梯子〟は、あの時見た銀の柱と酷似していた。
「シッ!」
即座に雫が抜刀し、空間ごと柱を切断する。
しかし、切り裂いたと思ったその瞬間──黄金の柱は一瞬にして再生をなした。
まるで、
「っ、これは……!」
「無駄だ。言っただろう、主はあの男の全てを支配したと」
「まさか……!」
雫の斬撃すら無効化できる能力など、二人には一つしか思い浮かばない。
流石に焦ったシアやティオが手を伸ばそうとしたのを、ユエが腕を上げて制する。
「駄目。これは危険なエネルギーで守られてる。触れたら、その箇所が多分……消える」
「それって、シュウジさんの……」
「内に入ったものを逃さず、外から触れるものを食らう光、か」
「……ハジメ、雫」
これから二人を脱出させることは、自分達では不可能であると。
そう告げられた三人が戸惑う中、ユエはゆっくりとこちらを見下ろしている二人を見た。
「二人とも、このまま行って。その光の魔力は転移魔法に似ている」
「……つまり、片道切符の直送便ってわけね」
「文字通りご招待、ってか。あいつの好きそうな演出だな」
「ん。こっちは私達に任せて」
なんの迷いもなく告げたユエに、いいのかと二人は目線で問いかける。
それにユエが言葉で答える前に、彼女の両隣に三人の女が並び立った。
「行ってください、お二人とも」
「千載一遇のチャンス。シュウジを、取り返してきてね」
「なぁに、妾達四人全員をまとめて相手しようなどと。奴の泣き顔が眼に浮かぶというものじゃ」
無駄な焦燥や動揺など、もう捨て去った。
四人全員が、こんな程度窮地ですらないと、そう満面の笑みで物語っている。
ハジメと雫は少し目を丸くして、それから互いの顔を見合わせるとふっと笑った。
そして四人を見て、しっかり頷く。
言葉はもういらない。信頼だけを預ければいい。そう伝えたのだ。
正確に二人の心を感じ取ったユエ達は、力強い瞳で笑い返した。
「ここは私達に任せて」
「先に行け、なんちゃって」
「ああっ、お二人とも先に言っちゃいました。私が言いたかったのにぃ」
「な〜に、すぐに追いつくさ、じゃ」
「ティオさんまで!」
和気藹々と、まるでシュウジがいた頃のように呑気な会話をする。
あくまでフリードとその軍勢など、一切シリアスに相手するまでもないという意思表明。
裏を返せば。それは、二人への絶大な信頼だ。
ハジメの信念の不屈さを、雫の想いの不朽さを知っているからこそ、必ず為せるのだという確信。
その間、決して邪魔などさせないように。この程度の雑魚、悉く駆逐してみせよう。
一瞬前とは裏腹に、彼女達の気持ちを理解した二人も、もう迷う理由など一つもない。
「元から私の心配なんか、貴女達にはいるはずもないわよね」
「ユエ、ウサギ、シア、ティオ」
「ん」
「なぁに?」
「はいです」
「うむ」
既に二人の体は、ほとんど薄れて転移しかけている。
だから最後に、獰猛な、あるいは鋭利な笑顔を浮かべて。
「遠慮なんていらない。俺の女らしく……皆殺せ」
「ちょっと、私の男に不法侵入した不届き者を斬ってくるから。あとはよろしく」
「んっ!」
「任されたー」
「アイサ〜ですぅ!」
「ふふ、任せよ!」
同じ類の笑みを、ユエ達が浮かべて。
それを最後に、ハジメと雫の視界から目の前の光景が消失した。
一瞬の虚無感と、妙な浮遊感。
その後に、何処かに辿り着いたという不思議な感覚と一緒に体を包む違和感が消える。
「「…………」」
いつの間にか背中わせに片膝立ちになっていた二人は、ゆっくり目を開いた。
視界に映り込んだのは、自分達を連れ去った光が消えていく様と、自分達のいる足場。
立ち上がってぐるりと見ると、それが人が七、八人くらいは余裕で乗れるだろう巨大な円柱の上であることがわかる。
続けてその先を見ると、深淵の如き暗闇が広がっている。
やがて、目線が一周したところで唯一の物体、円柱から伸びる白亜の通路を発見した。
その通路の先には、上へと向かう階段が連なっている。
「罠は?」
「ない」
ハジメの魔眼石や感知系技能、本能的な直感にも通路に危機は感じられなかった。
雫の方も、周囲の闇に危険は感じない。圧倒的な虚空が広がるのみだ。
目線だけを交わし、僅かに頷きあった二人は警戒を解かないままに通路へ踏み出す。
音のない世界を、二人で歩く。
足音も、呼吸も、衣摺れも、武具が立てる音も、何もない。
周囲の闇がそうしているのだろうか。そんなことを考える二人の目は、とても深い色を移す。
((いる。この先に、
羅針時計を使うまでもない。
その確信に、心の中で生まれた冷たい憤怒と切なさが、彼らの中に深淵より深い「黒」を作る。
不思議なことに、とても落ち着いた心でそれを受け止めながら、ついに階段の下へ到達した。
見上げると、階段の先には淡い光。
そこへ一段一段と階段を踏み越えて、躊躇なく身を投じた。
●◯●
また白に視界が染まり、抜けた時。
そこは先の深淵とは裏腹に、どこまでも白い世界だった。
上も下も右も左も、純白。地面や天井という概念すら存在しない色だけの世界。
気を抜けば吸い込まれてしまいそうなそこで、目線を巡らせている二人に。
「ようこそ。我が舞台、その終局へ」
声がかけられた。
深い厚みのある声音。真面目な時は、それこそ圧倒されるような色を纏う声。
耳朶を震わせるそれに一瞬目を見開くも、しかしどこか退廃的で濁ったそれに目を細める。
そんな二人の背後で揺らめいていた光のヴェールがそっと消え、二つの黒だけが残された。
その二人の目線が貫く先で、不意にゆらりと空間が揺れた。
いつの間にやら周囲には石の柱が立ち並び、石畳や滲み出るように現れた壁画など、どこかの神殿のように変わる。
そして中心の、十メートル近い精緻な装飾を施された祭壇の上に鎮座する玉座。
そこに、いた。
煌く黄金の髪。
エボルトの憑依時よりなお、鮮烈すぎるほどに紅い瞳。
彫刻のように逞しい体を包むは、細かな刺繍が縁に施された、トーガ風の白い衣装。
髪のそれとはまた違う黄金の腰布と、左肩からかけられた紺色の布がアクセントを加える。
玉座に頬杖をつき、歪なまでに三日月の笑みを浮かべ、それでもなお端正と言える顔立ち。
そんな男が、二人のことを見下ろしていた。
ここにいるのが並の女であるのならば、その姿に一瞬で骨抜きにされていただろう。
あるいは有象無象の男であれば、圧倒的格差に己を打ち砕かれ、信仰を得て平伏しただろう。
だが、二人は違う。
その笑みや態度に、どこか〝厭らしさ〟や〝醜さ〟があったからだろうか。
あるいはその姿が、本来乗っ取るはずだったユエをどこか彷彿とさせたからなのか。
幾星霜の輪廻を巡ろうと絶えぬ想いを、その胸に秘める女は無情に。
あらゆる〝大切〟を巻き込んででも、その手を掴み取ると覚悟をした男は冷徹に。
「ようやくまともに対面したな、エヒト。いいや、エヒトルジュエ?」
「返事は要らないわ。すぐに貴方を、貴方だけを斬って捨てるから」
無遠慮な神々しさを備えた、シュウジの姿をしたそれに、どこまでも冷たい眼差しを向けた。
「どうだ? いかにも邪神降臨、といった出で立ちだろう?」
だから、それが──エヒトルジュエがなんとも気さくに話しかけてきたことに。
笑い方が、少しおちゃらけた、悪戯が成功したものに……見知ったそれに変わったことに、驚きを隠せなかった。
だから警戒をしながらも、ハジメはついこんなことを口走ってしまう。
「……お前、
「はて、それはどう言う意味かな? エヒトルジュエか、それとも北野シュウジか、という問いかな? うん?」
楽しそうに、揶揄うように聞いてくるエヒトルジュエ……かも、今やわからぬモノ。
聞いていたエヒトルジュエとシュウジの普段の態度が似ているからか、やけに重なる。
それで少し、本人すら気が付かないくらい僅かに戸惑うハジメに、ソレは笑う。
「正解を教えてやろう。
「どちらも、か……」
「…………」
復唱するハジメと、カチャリと僅かに楔丸の角度を抜刀する方へずらす雫。
そんな二人に笑みを深め、頬杖をついているのとは反対の左手を胸に当てる。
「この男、実に狡猾で賢かったぞ。あの未知の力で弱った己の人格では我を御しきれぬと悟ったその瞬間、自ら我の人格と融合してきおったわ」
「なんでも、自分ですら平然と道具にするあいつがやりそうなことだな」
「ああ、だが憎々しいことにそれは成功したようだ。奴と我の人格は混ざり合い、不安定ながらも一つとなった。いわばニューエヒトだ。新生エヒトちゃんだ。だからこそ……」
「私を呼んだ、というわけね」
「その通りだ。八重樫雫、この男にとって他の誰より勝る価値を持つ、何よりその隣にいることが安らぐ女よ」
ゆるりと雫へ向けられる瞳には、確かにシュウジが浮かべていたのと似た愛の色がある。
雫は、そんなものに惑わされないと告げるように一際大きく音を立てて鯉口を切る。
それすらも悠然と笑って許しながら、ソレ──否、新生エヒトは口を開く。
「故にこそ、こう言おう──我のものとなれ、南雲ハジメ。八重樫雫。未来永劫、我が隣でその力を振るうのだ」
さしものハジメと雫も、その言葉には少し理解の時間を要した。
いや、エヒトが今の状態を自ら説明し始めた時からなんとなく予想していた提案だ。
だが、それでも意味を理解するのに少し時が必要だった。
その間にもエヒトは一人で言葉を続ける。
「我は今、お前達への愛をこの男から引き継いでいる。この言葉を受け取るのであれば、あの神子や貴様の仲間達からは手を引かせよう。全員を使徒として、永遠に迎え入れることを約束する」
「……ハッ! で、この世界の人間は皆殺しってか? 飽きたオモチャをまとめて捨てるように? 別にこの世界の奴らに義理はないが、少しだけ見捨てられない奴らもいるんだよ」
「……私達が欲しいのはあの人であって、不純物が混ざった貴方じゃないの。さっさとその人から離れてちょうだい」
無論、二人の意思は拒絶。
不遜にも自らの提案を蹴った愚かな人間達に、エヒトはスッと表情を消す──のではなく。
むしろ、お前達ならばそう言うと思ったと言わんばかりにニヤリと笑ったではないか。
「ふむ、では少し鑑賞会といこう」
「なに?」
「鑑賞会、ですって?」
突拍子もない言葉に面食らう二人に、エヒトは左手を掲げる。
「エヒトルジュエの名において命ずる──〝映し出せ〟」
空間そのものに命令を下すと、虚空にヒビが入り、静かに割れる。
そして出来上がった空間の連結部──スクリーンに、どこかの様子が映し出された。
それを注視した二人は、やがてハッと息を呑む。
スクリーンの中に映り込んでいたのは、ここに至るまで二人が別れてきた人物達。
光輝や龍太郎、鈴、果ては先程別れたばかりのユエ達に至るまで──全ての仲間の様子が映し出されていたのだ。
「貴様らは懸命に、覚悟を以ってこの場に立っていよう。ではその覚悟の先に何があるのか──お前達の悲願のため、何が失われるのか。それを、見せてやろう」
自然と見入ってしまった二人に、左腕を肘掛けの上に戻したエヒトは、静かに嗤った。