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三人称 SIDE
「……さて」
〝天使の梯子〟が消え、ハジメ達が転送されたのを見送ったユエ達。
その光が粒子まで霧散したのを見届けると、おもむろにティオが呟いた。
それを皮切りに、四人から凄まじい殺気が溢れ出る。
「何やら、阿呆なことを抜かしていたようじゃが」
「私達を、嬲り殺すとかぼやいてた」
「ん。寝言は寝ていえばいい」
「学習能力ってものがないですよねぇ〜」
数百、数千、そういった数の魔物達は皆、一匹でかつての王都程度なら壊滅させられただろう大戦力。
だというのに、たった四人が放つ、空間そのものを支配するような圧に逆に怯んでいた。
その包囲の先、白神竜の隣にいるフリードも馬鹿を見る目で見られ、スッと目を細める。
「私が、かつての私と同じではない。そう言ったはずだ。我が主から力を授かった今──あの化け物どもに比べれば、貴様ら程度捻り殺すことは容易いと知れ。故に貴様らにはこれまでの屈辱、何倍にもして返してくれようぞ。せいぜい、断末魔にあの男の名を叫びながら死ね」
「ふぁ……あ、終わった?」
「すいませ〜ん、長そうだったので最初のあたりで聞くのやめました⭐︎」
「ん。ちょっと聞く価値がなくて何言ってるのかわからなかった」
「ほほ、これこれお主ら。あんな輩でもキメ顔で言ってるのじゃ。情けというものをかけてもよいじゃろう?」
渾身の決め文句、まるっきり無視。
それどころか、何か言ってた? みたいなどこまでもとぼけた顔をあえてフリードに見せた。
この四人、伊達にハジメとシュウジのじゃれあいを何ヶ月も見てきたわけではない。
鈴と同じか、それ以上の煽りを身につけている。ミレディと何回か会ってるシアは更に。
故に、一拍の沈黙。
後に……
「殺せっ!」
「ん。蹂躙してあげる」
「──〝部分獣化〟」
「ぶっ殺しますぅ!」
「滅殺してくれよう!」
開戦。
極光の豪雨、炎の津波、衝撃の嵐、銀の閃光や羽──あらゆる魔物やフリード自身からの総攻撃。
どのような優れた戦士、あるいはそれ以上であろうともなす術もなく鏖殺されてしまうだろう、絶対の壁。
だが。ここに揃うは、さらにそれ以上──勝利へと絶対到達する魔神の妃達であるからには。
あまりに、温すぎる。
「〝
刹那の時間の溜めから、ウサギの魔力衝撃を伴うジャブが攻撃の包囲の一角へと放たれた。
それはほんの一瞬、本来は
始特製、彼女の破壊力を最大限に活かす戦闘装束があって初めて成立できる一撃。
それによって極光も炎も、その他全ての攻撃も衝撃に吹き飛ばされ、先頭の魔物達が正面から圧壊する。
攻撃の勢いが一瞬衰え、そこにウサギは
「〝
続けて放たれたのは、貫通に特化した突き。
範囲内にいた魔物は、まるで風船が弾けるように抵抗する間も無く肉体を破壊された。
「シア」
「ほいさ、ですぅ!!」
ウサギが名を呼び、ほぼ同時にシアがブーツの金の羽飾りを輝かせ跳躍する。
バグじみた肉体強化の上から超常的なブーストがかけられ、シアはウサギの開けた穴を一瞬でくぐり抜けた。
そうして狙いを定めたのは、毒素を持つ極光を吐きながらも無防備な状態の灰竜達。
シアはヴィレドリュッケンの持ち手に融合したダイヤルを〝殲滅モード〟にセットする。
そして反対側に取り付けられたトリガーを引いた瞬間──ヴィレドリュッケンの先端部分が膨張した。
「まとめて潰れろですぅうううう!!!」
魔力で形成・固定された大戦鎚を、有り余る膂力で薙ぎ払う。
瞬時に回避することができない灰竜達が、ギョッとした瞬間に圧倒的大質量でひしゃげて潰れていく!
そのまま大戦鎚が振り切られて彼方まで吹っ飛ばされていき、バグウサギ二人にフリードは目を鋭くした。
そのままフリードは、半減したとはいえ十分な威力の攻撃に身を晒したはずのユエ達を見下ろす。
「それは……」
「〝
燦然と輝く、七色の結界によって三人は守られていた。
現象を減退・無効化する結界は、無数の特色を持つ総攻撃を完璧に防ぎ切った。
圧倒的な魔法技術。白いローブをはためかせ、想い人と同じ黒のドレスに身を包んだ美姫は不敵に笑う。
「ウサギ、いけるかの?」
「──当然」
ゆるりと振り返ったティオに、反動をパーカーの機能でリカバリーしたウサギは頷く。
そして二人は、輝虹結界が消えるのと同時に包囲網に向けて飛び出した。
「ふっ!」
80%程度の出力をしたウサギが、暴れ回っているシアとは反対方向に跳躍する。
当然、無数の魔物が牙を剥くものの、無策に虎の口に飛び込むウサギではない。
「シッ──」
格段に上昇した空間把握能力で、魔物が互いの攻撃を阻害しない為の隙間を抜けていく。
次々と魔物の頭や手足、胴体を蹴って奥へ奥へと突き進み、やがて包囲網の網を抜けた。
そこまで、たった0.7秒。空中には彼女の通り抜けた軌跡が残っていた。
「〝
そして、彼女が呟くのと同時に。
あえて残した軌跡が一瞬で膨張し、数百の魔物を一気に焼き焦がす。
遅れて発生した突風が絶命した魔物達を砂塵に変え、フリードは僅かに眉根を寄せた。
「さて、シア達には負けておれんの」
そんな中で、ティオもまた上へと向けて飛んでいた。
〝部分竜化〟と、魔力の消費に比例し硬度を増す〝竜鱗硬化〟の合わせ技で、人型のまま黒鎧に身を包んでいる。
それによって上から降ってくる攻撃をある程度防ぎ、更に下から飛んでくるユエの魔法が攻撃を押し返してくれた。
故に彼女は、別のことへと意識を向ける。
「──むんっ!」
二秒後、カッ! と開眼したティオは気合の入った声と共にそれを解放した。
彼女が飛ぶのに使っている背中の翼、その骨格がビキリと音を立てる。
そして瞬く間に膨張、変形していき──翼を備えた腕へと進化を果たした。
「うむ、うまくいったの。さすがは未来のご主人様じゃ」
竜化の技能は、イメージ力次第で本来以上の応用が可能になる。
決戦前にハジメが始から預かったそのアドバイスを元に、ティオは新たな力をぶっつけ本番で発揮した。
少しの間満足げに目元を緩め、刹那の時間で引き締めると両腕を水平に伸ばす。
「食らうがいい!」
左右に伸び切った腕、更に翼腕の掌から、膨大な魔力が圧縮されたレーザーブレスが発射された。
一本一本は極細なそのブレスは、しかし射線状にいた、防御力に秀でた六腕馬頭や大亀すらも容易く貫く。
極め付けにティオはその場でクルリとターンし、4本のレーザーブレスは横移動して更に魔物を切り刻む。
と、その移動した軌道にヴィレドリュッケンを振り抜いたシアがいた。
「よっ、と!」
しかし、彼女はタンと空を蹴るとあっさりとブレスを回避。そのまま回転して新たな魔物を撲殺する。
そこへ新たな魔物が飛びかかるも、最初から軌道を知っていたように振られた腕を躱して殴り殺した。
そんな行動が数秒のうちに何十と繰り返され、シアが動くたびに魔物は死んでいく。
「ふふん! お前らの動きは読めてるですぅ!」
〝天啓視〟──任意の未来を見るその派生技能は、究極の先読みを可能にする。
彼女がつけた
始曰く、この技能が魔力をバカ食いする理由は、必要ない範囲の未来まで見ているからだという。
必要なのは〝阻止すべき部分だけを見る〟こと。
この思想を元に、
絶対に必要な、魔物が攻撃に使う部分と、その動作だけを限定的に未来視することで魔力消費を軽減していた。
「小癪な……ウラノス! 諸共消し飛ばせ!」
それらを見て、ようやく不機嫌な声を漏らしたフリードは傍らの相棒へ命令する。
ゴガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
咆哮。
極光どころか通常のブレスですらないただの叫び、されどそれは絶大な破壊力を持つ。
強靭な魔物達は例外なく一瞬動きを止め、シアとウサギでさえも体が硬直してしまった。
正しく神竜の咆哮と呼ぶべきそれに、主な目標たるティオも巻き込まれた。
「ぬぉおっ!?」
人型故に軽かったティオは、咆哮一つで盛大に吹き飛ばされて地上へと落下する。
その軌道上に残った小さな破片──ティオが纏う鱗の欠片が、その威力をこれ以上なく表していた。
全身を痺れさせるほどの咆哮に体勢を立て直せず、ティオは地上へ向けて隕石のように落ちていく。
「〝
そんな彼女を、黄金の風が受け止めた。
人型をした金風は、彼女の体にかかっていた勢いをふわりと外に受け流し、衝撃を殺す。
同時に。
「〝
音速で飛んだ黄金の炎人が魔物達を貫き、ティオに追い討ちをかけようと口元に極光を溜めていたウラノスを襲った。
「ぐっ!?」
ゴガァアアアァァアアア!!?
摂氏数十万度、という理解不能なほどの超高熱を持った炎人に焼かれ、悲鳴をあげるウラノス。
どうにか目で捉えられたフリードは空間防御を張って難を逃れたが、それでもなお〝熱〟を感じて飛び退いた。
「な、なにが起こったのじゃ……」
「ん。ティオ、平気?」
炎上したウラノスや、自分を抱えている金風を呆然と見るティオに、声がかけられる。
彼女が視線を向けると、その先にはウラノスへと右手を、ティオへ左手を掲げるユエがいた。
「まさか、これはお主の魔法かえ?」
「ん」
頷くユエは、炎を振り払おうとするウラノスを〝
始との訓練において、ユエは最終的に自分の魔法を更にパワーアップさせることにした。
そして五天龍をベースに、昇華魔法で魔法の概念を数段上昇させて生み出したのがこの魔法。
〝エレメンタルシリーズ〟。広範囲殲滅という点では五天龍に劣るものの、その分破壊力に特化したユエの新魔法だ。
「さすがはユエさ──っ!?」
その時、魔物を掃討していたシアの脳裏に細切れにされる自分が映し出される。
自動的に発動した〝未来視〟の死の予知に、シアは瞬時に
結果は、自分の体の周囲に出現した波紋から突き出された大剣による斬殺。
「──ッ!!」
悲鳴をあげる余裕すらもなく、シアは本能的にトリガーを二回指で引いた。
それと同時、視た通りに周囲の空間が揺らぎ、大剣が全身を切り刻まんがために出現。
「シアっ!」
即座にそれを察知したウサギも動き出そうとし、しかし次の瞬間に凄まじい悪寒を感じて両腕をクロスする。
次の瞬間、骨まで届く衝撃にウサギは襲われて、大量の魔物を巻き込みながらシアとは全く別方向に吹っ飛んだ。
そして、シアにその切っ先が迫る中──大戦鎚を形成していた魔力が突如として大爆発した。
緊急用のために仕込まれた、大戦鎚の魔力を衝撃波に変換して全方位に撒き散らす機能だ。
それによって一瞬大剣の進行が止まり、その隙にシアはブーツへと魔力の流れを意識する。
「〝戻れや戻れ! 時間よ戻れ! 〟」
シアが叫んだ瞬間、彼女の体が輝いたかと思えば消失した。
かと思えば、つい数秒前にいた位置に現れる。
空間に残した魔力の足跡を起点として、短距離転移を発動する機能を使って難を逃れたシアはそのまま後退する。
魔物を蹴散らしながらバックステップで進み、ティオの近くまで戻ってきて、そこで遅れて大量の冷や汗が出た。
「今のは、使徒の……」
「──まさか傷一つ負わせられないとは。少々過小評価していたかもしれません」
そんなシアの視線の先で、波紋を打つ空間から
「第一の使徒エーアスト。神敵に断罪を」
「っ、特別な使徒ってことですか……!」
異様な雰囲気を放つ使徒に顔を険しくする彼女の前で、さらに四つの波紋が出現。
エーアストと名乗った最初の使徒と同じ姿をした使徒が、四体も姿を現した。
「第二の使徒ツヴァイト。神敵に断罪を」
「第三の使徒ドリット。神敵に断罪を」
「第四の使徒フィーアト。神敵に断罪を」
「第五の使徒フィンフト。神敵に断罪を」
「次から次へと……!」
(そういえば、ウサギさんは……)
油断なくヴィレドリュッケンを構え直しながら、ふとシアは姉のように慕う仲間を思う。
ウサミミを使い、殺意を放つ魔物と使徒を把握しながらもウサギの存在を探す。
すると、遠くに彼女と、その気配のすぐ近く……恐らくは対面している何者かの存在を感じ取った。
「諦めなさい。あの解放者の人形は我らが主が作り出した、最新にして最強の同胞が鏖殺します」
「っ……!」
歯噛みするシア。
ハジメ達を強制転移させた光しかり、エヒトは少なからずシュウジの〝抹消〟の力をものにしている。
そんな神が作り出した、最初の使徒をして最強と言わしめる使徒。姉貴分が心配にならないわけがない。
「……今のは、効いたよ」
「──終の使徒フィーネ。我が創造主の意にそぐわぬ愚者に、神罰を」
そんな彼女の不安の通りに、孤島の少し離れた位置の地上まで叩き落とされたウサギの前には、一体の使徒が立ち塞がっている。
肉体も装備も、全てが白。通常の使徒とも、濃紫の使徒とも明らかに違う。
顔は同じであれど、その陶器じみた白い顔と瞳には残虐性が見て取れた。
口端から一筋の血を流したウサギは、ペッと口内の血を吐きながら立ち上がり、構えをとった。
「シア、落ち着くのじゃ」
「……ティオさん、もう平気なんですか?」
「うむ、奴の咆哮ごときにちと呆けすぎたのう」
少しだけ焦りを覚えていたシアに、隣に並んだティオが悠然と微笑む。
その笑顔を見た途端、ふとシアの中の焦燥が薄らいでいった。
「なぁに、あのウサギがそうそう負けはせんよ。共に奴らを一網打尽にし、迎えにゆこうぞ」
「そう、ですね。私としたことが、くだらないことで心を乱しました」
「ほほ、落ち着いたならば良い。さて……先の一撃の借り、すぐにでも返させてもらおうかのう?」
ティオの金眼が、こちらを見下ろす白神竜とフリードを射抜く。
完全に落ち着いたシアも白金の使徒達を見上げ、大胆不敵な笑みを浮かべた。
「……フリード様。我々はあの兎人を断罪いたします。よろしいですか」
「ああ、任せる。私はあの愚かにも私達に挑もうとする竜人を断罪するとしよう」
敬語で確認する使徒に、頷くフリード。どうやら立場は逆転しているようだ。
あの使徒達の異様な出で立ちが所以か、などという疑問が一瞬二人の脳裏に過ぎる。
そんなことを今気にしている場合ではないだろうと、シアはこちらに意識を集中した使徒達を睨みあげた。
なお、白神竜を焼いていた金炎は使徒達が何かをしたのか、既に消えていた。ところどころ焼け焦げているが。
「その羽もぎ取って、今晩のお夕飯に手羽先にして出してやりますぅ!」
淡青色の魔力を吹き上げ、〝爆裂モード〟にセットしたヴィレドリュッケンを手にシアが飛んだ。
「さて。調教してやろうぞ、小僧ども」
ティオもまた、どこからか取り出した黒い鞭を手にフリードらへと視線を向け、妖艶に笑い。
「全て、粉砕してあげる」
そして、二人の後ろで新たに金炎の魔人を作り出したユエが、紅瞳で全てを睥睨する。
魔神の妃達の戦いは、ようやく始まりだ。
読んでいただき、ありがとうございます。