星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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始VSアベル第二戦。

楽しんでいただけると嬉しいです。


修羅達 破

 三人称 SIDE

 

 

 

 バリン、と激しい音が響く。

 

 

 

 真紅の破片が宙を舞い、結合が解けてただの魔力へ戻り霧散する。

 

 反射結界だったその破片達を見て、始は僅かに眉を潜めた。

 

「シッ──」

 

 その眉間へと迫る、ギラリと輝く紫の刃。

 

 結界が破壊されたのを目視したのと同時に、既に始の眼前にはその刃が置かれていたような速度だった。

 

 だが、焦りもせず始はジッとその刃を見つめ……瞬間、刃を握っていたアベルは本能的に頭を傾けた。

 

 

 

 コンマ一秒の差で、アベルの頭があった場所へと大質量の何かが振り下ろされる。

 

 いる。自分でも気がつかないほどの気配遮断を行なった何かが、そこに。

 

 さらにアベルは、その何かの持つ武器が不可思議な振動をしていることを肌で感じ取る。

 

 それが空間魔法に属するものであることを予測したアベルは、始から目標を変えてまずはそれを破壊しようとした。

 

「ッ──」

 

 だが、動けない。

 

 アベルの全身が、いつの間にか無数の赤い煌めきによって絡め取られている。

 

 もしアベルの目が見えていたならば、それが極々細い鋼糸であったことがわかるだろう

 

「俺にここまで近づいて、目の前で何かできると思うなよ」

 

 目の前で奇妙なオブジェと化したアベルに、再び突如として現れた謎の誰かが武器を振り下ろし──

 

「わかっているとも」

 

 直後、アベルの全身が弾ける。

 

 激烈な音を立てて広場が揺れ、地面が粉砕して発生した粉塵によって始諸共玉座が覆い隠された。

 

 

 

 

 

 その粉塵を突き破り、離れた場所に無音で着地する影が一人。アベルである。

 

 その体を不気味に血管の蠢く鈍色の鎧が覆っており、人の大きさのまま鎧としてライオットを纏っている状態だった。

 

 鎧の表面を刃にして全方位に発射して糸を千切りつつ、自分の存在を一瞬消すことでダメージを受けずに難を逃れた。

 

 先の暴走状態でも使っていた技だが、密度も精度も、速度も圧倒的に違う。

 

 追撃を相殺しつつも、始を消し飛ばすほどの勢いで射出したのだが……

 

「この程度では殺されてはくれないな、未来からの復讐者」

「ー度見せた技は俺には効かん」

 

 粉塵が消えて、泰然とした様子の始が皮肉を返す。

 

 〝空間圧倒〟の技能……つまりは威圧だけでアベルの攻撃を弾いた魔王は余裕げに笑った。

 

 目に見えずとも、余裕が少しも崩れていないことを感じ取ったアベルは言葉を続ける。

 

「だが、君の人形は破壊できた」

 

 重厚な音を立て、始の目の前で黒い人型のものが両膝をつく。

 

 〝空間粉砕〟の技能を付与された大槌を持っていた戦闘人形は、鋭利かつ美しい造形の鎧をズタズタに引き裂かれていた。

 

 四肢や頭部は引き裂かれ、胴体も半分以上が粉砕している。とてもではないが使い物にならない。

 

 頭部から上へと突き出た二つの突起は……始がこの人形を、()()()模して作ったからなのか。

 

「……そうだな。少々脆く作りすぎた」

 

 チラリと人形を一瞥した始は、「だが」と呟いて。

 

 

 

 

 

 突如として、玉座に赤いラインが迸った。

 

 

 

 

 

 その光に当てられた人形の足元から、溢れ出すようにして粘ついた黒い物体が滲み出す。

 

 黒い物体は人形を丸呑みするように包み込み、卵型になって凝固した。

 

 そして二秒もしないうちに弾け飛ぶ。

 

 すると、人形は美しい形を取り戻していた。赤く目を輝かせ、黒い戦鎚を肩に担いで立ち上がる。

 

「まだ立てるぞ、俺の人形は」

「そのようだ」

 

 瞬間的に超集中状態の時と同等の精度で錬成を行える派生技能、[+超精密錬成]である。

 

 この時代のハジメはまだ到達できていない、五十年の修練の末に手にした切り札の二枚目。

 

 それをアベルが知ることはないが、始の座す玉座がその補助をするための道具であることは理解した。

 

 また、この広場に先に体験した数々の罠を含めた、無数の仕掛けが施されていることも。

 

「全て、打ち破ろう」

 

 それで止まるアベルではない。

 

 止まれるのならば、安寧を手にした一千年前のあの時に、とうに止まっている。

 

 ゆらりと剣を構えていくアベルに、頬杖をつきながら見ていた始も圧を強めていく。

 

「ああ、せいぜい頑張れ。俺も全力で相手しよう」

 

 ──瞬間、アベルは持ち上げかけていた剣を横に振るった。

 

 甲高く、また激しい音を立てながら、いつの間にか背後にいた新たな黒人形の蹴りを受け止める。

 

 槌人形と同じ頭部の突起を備えたそれは、両腕両足が異様にゴツい造形となっていた。

 

「気配を消すのが上手いね」

「卑怯か?」

「我ら暗殺者にとって、それは最上の褒め言葉だよ」

「一体とは言ってないからな」

「僕は言った。全て打ち破ると」

 

 ボコリと、剣を持つ腕が鈍色に膨張した。

 

 そしてほんの軽くて首をひねった瞬間、格闘人形が全身に衝撃を受けたようにのけぞってしまう。

 

 次にレイピアの柄頭にはまった〝抹消〟の宝玉が輝き、それをアベルは格闘人形に振るった。

 

 相棒の危機に槌人形が両足を屈折し、跳躍して一足飛びにアベルの頭上へと移動する。

 

 震える槌を振り下ろしたが、掲げられた左腕から一瞬で伸びた大剣の切っ先と激突したままに拮抗した。

 

 その一瞬において格闘人形が体勢を立て直し、再度攻撃を仕掛ける。

 

 槌人形も空間を蹴って別の角度から仕掛け、アベルは少しの間二体の人形の対応に追われる事になった。

 

 

 

(……それにしても)

 

 

 

 その僅かな時間を用いて、始は人形を操作しながら黙考する。

 

 考えを巡らせるのは、アベルが正気を取り戻して虚無空間から脱出してきた直後のことだ。

 

 

(奴は、()()()()()()()()。直後にこちらへの攻撃が始まり迎撃に意識を向けたが、それが気にかかる)

 

 

 それはアベルの猛攻が始まる、一瞬前のことだ。

 

 今の始の義眼には、神代魔法をベースに大体のものを見抜く機能が備わっている。

 

 そしてアベルがこちらへの攻勢を仕掛ける前に、神界に向けて何かの意思を送っていたのを見た。

 

 同時に、武器であると同時に戦場全体を監視していた空のアーティファクトに、ちらほらと見えない〝黒点〟が生まれていた。

 

 それ以降、連合軍の各部の動きがおかしなものになっている。

 

 何かを送り込まれた。あるいは最初から仕込まれていた。

 

 それに、始の第六感が強い警鐘を鳴らしていた。

 

「考え事か」

 

 そうこうしているうちに、人形が何度目かの敗北を喫した。

 

 地面に転がった二体の黒人形は、すぐさま広場の床から滲み出てきた黒い物体によって修復される。

 

 そして再びアベルへと突撃するが、右の細剣と左の大剣を巧みに使い、アベルはあっさりと対応した。

 

 そして数合も打ち合わないうちに、格闘人形が両足を砕かれ体勢を崩し、槌人形の攻撃が防がれる。

 

 槌人形が持つ戦鎚の威力を警戒したか、素早く全身の関節に鈍色の触手を伸ばして動きを封じた。

 

 そちらが動けないでいるうちに、未だ空中にいる格闘人形へと剣が振るわれる。

 

 剣は止まることなく、格闘人形を切り裂かんと迫り──そこへどこからか閃光が落ちてきた。

 

 刃を飛ばして相殺するよりも速く、またその閃光が物質解体のエネルギーを持っていることを感じたアベルは即座に対応を変えた。

 

「〝消我〟」

 

 一時的に、存在を消す。

 

 その効果は肉体に触れているものにも及び、槌人形も放り出された。

 

 両腕に纏うライオットの割合を増し、筋力を向上させて神速で双剣を振るい、人形を切り裂きながらその場から退避する。

 

 直後、両断された二体ごと漆黒の閃光がその場を貫いた。

 

 回避したアベルは、そのまま空を蹴りつつ再びその力を発揮する。

 

「〝消歩〟」

 

 空間を移動するという経過を、消す。

 

 すると移動したという結果だけが残り、同時に、〝自分がその場所にいる〟という認識も消すことで、気配、魔力、魂さえも隠してみせた。

 

 始の目が特別なものであることは、これまでの戦闘で理解している。故に完全な〝無〟と化したのだ。

 

 いくら半人半機とはいえ、あの数の罠や高性能な人形を動かしている以上、意識の集中は必須。

 

 故に生じるこちらの対応に意識の切り替えをする刹那の時間、それさえあれば十分。

 

 そうして今一度、アベルは始の眉間を貫かんとする。

 

「む、目が悪くなったか」

 

 それでも見抜いた。

 

 頭を傾け、玉座の背もたれを貫いた刃に初めて回避した始は感心したようにそう言ってみせた。

 

 しかし、()()()()()()

 

「〝消物〟」

「む……!」

 

 アベルの言葉に目を見開き、始は咄嗟に座った状態から足の力だけで飛び上がった。

 

 空中から見下ろす始の視界の中で、ボロボロと玉座が崩れて消滅していく。

 

 そしてアベルは、既にその盲目をこちらへと向けていた。

 

 即座に修復を終わらせていた人形達と、先の閃光──分解砲を飛ばした漆黒の天使人形を動かす。

 

 しかし、アベルの全身から逆螺旋状に飛び出した無数の巨大な棘によって行く手を阻まれてしまう。

 

 その螺旋は竜巻を上げるように音を響かせながら上へと伸び、始をも呑み込まんとした。

 

 重力砲は──間に合わない。チャージの段階でこちらにあの死の竜巻が到達する。

 

 いくつか広間に残っていたアーティファクトも、いつの間にか破壊されているではないか。

 

 

(さっき移動した時、移動の時間を消したのを隠れ蓑に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な。一枚上手をいかれたか)

 

 

 そんな風に判断する始に追い討ちをかけるように、台風の目にいたアベルがこちらへと跳躍した。

 

 全身をライオットで包み込み、爆発的な筋力を得ることで音速よりも速く移動してくる。

 

「チッ、使わざるをえんな」

 

 仕方がなく、始は三つ目の切り札を切る事にした。

 

 ドロリと左腕の表面を覆っていた流体金属が溶け、関節部に赤いラインの走った漆黒の義手が露わになる。

 

 その掌の中心が凹み、内側から細く鋭い針が飛び出してきた。

 

 始は注射器のようなそれを、ほぼ息ののかかる距離まで詰めたアベルの前で首筋に打ち込み──

 

 

 

 

 

 ──直後、鈍色の嵐が始とアベルの姿を覆い隠した。

 

 

 

 

 

 激しく渦を巻くその嵐は、ある程度自律稼働する黒人形達が武器や分解砲を叩きつけても全く消えない。

 

 それどころか人形を一瞬で塵に変え、中にあるものを破壊するためにどんどん激しく、大きくなっていった。

 

 やがて、広場全体を包み込むほどの大きさに竜巻が肥大化し──弾ける。

 

「がはっ!?」

 

 その中から弾き飛ばされ、実は広場を覆っていた結界に叩きつけられる影が一つ。

 

 そのまま地面に落下し、緩慢な動きで()()を支えに立ち上がったのは──アベル。

 

「……よもや、そんな力を隠していたとは」

 

 アベルは両目にライオットを展開し、擬似的な視界を得て台風の目だった場所を見る。

 

 普段ならば視覚などに頼らない彼がそんな行為をしたのは……どうしても、その姿を見定めておきたかったから。

 

 そんな彼の微妙に濁った視界の中で、ゆっくりと……地面に降り立つ男が、一人。

 

 

 

 

 

「──まさか、こんなに早く使わされるとはな。想定より何段階も早かった」

 

 

 

 

 

 

 男は、()()()()()力強い声音でアベルの猛攻を誉めた。

 

 適度に日焼けた()()()()()()に獰猛な笑みを浮かべ、()()白髪の奥で赤眼を輝かせる。

 

「まあ、その段階もお前が根こそぎアーティファクトを破壊してくれて無意味となったわけだが……いささかダメージ計算が心許ないものの、直接対決というのも面白い」

 

 調子を確かめるように肩や首を回すと……空間のブレと共に、刃のついた白と黒の銃を取り出した。

 

 右半身を後ろに、左手を前に。ガン=カタに酷似した姿勢をとって、膝をつくアベルを見る。

 

 そして、二十代半ばほどの若々しい顔に三日月のような笑みを浮かべて言うのだ。

 

「さあ、かかってこいよ憤怒の化身。小細工なしに、殺りあおう」

 

 

 

 

 

 ──〝変若水(おちみず)〟。

 

 

 

 

 

 一時的に生身の部分の肉体を全盛期まで再生、および機械部分の出力を増幅させる薬。

 

 長年にわたる研究生活の中で、始は武器として〝再生〟の技能や月の小函(ムーンセル)も研究していた。

 

 結果的に生まれたのが、神結晶から生まれるポーションを主材料に、ユエの再生の技能を応用して付与した秘薬。

 

 後の反動こそ強力なものの、肉体を若返らせ、強化する代物。

 

 老いた始の肉体では負荷に耐えられない一部の技能の使用をも可能にする、奥の手だ。

 

 副作用で口調が若い頃のものに近付くのはご愛嬌だろう。

 

「……なるほど。道具を先に壊したことはむしろ失敗だったか」

 

 自前の回復魔法とライオットで負傷を癒したアベルが立ち上がる。

 

 そして、先ほどまでとは比べ物にならない闘気を醸し出す始を今一度しっかりと見た。

 

 それを最後に盲目に戻って、静かに告げる。

 

「気付かされた。僕は、いつの間にか後先など考えるようになっていたのだと」

 

 

 

 

 

 ──始は、この戦いに全てを賭けて望んでいる。

 

 

 

 

 

 既に消えることが確定している身だからというのもあるだろうが、それ以上に全霊をかけている。

 

 この世界の終焉が懸かっている戦場で、アベルだけを殺すためにこれほどの準備をしてきた。

 

 自分は戦士などではない。目的遂行のためならばあらゆる非道を行う殺しの専門家だ。

 

 しかし、それでも剣士としての矜持程度は怒りの他に持ち合わせているつもりだ。

 

「出し惜しみなどやめてしまおう。かつて復讐に焦がれていた、若すぎたあの頃のように──命を捨てる覚悟で挑もう」

 

 アベルは、ローブを左腕で破り捨てた。

 

 一級品の防具でもあったそれが引き剥がされ、細身ながらも鍛え上げられた肉体が露わになる。

 

 その左腕は、始があの夜吹き飛ばしたままに根元からライオットで代用している様子だった。

 

 

 

 

 

 その肉体を、膨張して人型になった左腕が丸ごと飲み込む。

 

 

 

 

 

 最初のように肥大化するのではなく、長細い卵型になるとアベルの肉体を包み込んだ。

 

 やがて、中身に張り付くようにして凝縮されていき──鈍色の鎧に身を包んだアベルが姿を現す。

 

 圧倒的。その姿から発せされる、針山のような殺気はそう言う他になかった。

 

「殺す。我が憤怒の炎、最後の一片まで賭けてでも」

 

 殺意だけで空間を軋ませるアベルに、始も()()()()()()()()()()を細めて笑う。 

 

 そして、もう一つの切り札を思い切って発動した。

 

「目を覚ませ、ヘイムダル。狩りの時間だ」

──神の造眼(ヘイムダル)起動マスター始に、絶対勝利を

 

 始の脳裏に声が響く。

 

 あの吸血姫の声に聞こえる。天真爛漫な兎娘の声のようでもあり、平坦で可憐な兎娘の声にも、妖艶な竜姫の、他の女の声にも聞こえる。

 

 己の未練を集合させたかのようなそのアーティファクトに自嘲げに笑って、始は怨敵を見据えた。

 

「我らは共に亡霊。であるならば、存在することは許されない」

「──だったらせいぜい潰し合おうぜ、同類!」

「──肯定しよう!」

 

 

 

 

 

 ドパォォォンッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 ゴガァアアンッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 ──第三ラウンド、開始。

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回はウサギコンビの回。

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