星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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書きたいこと全てを詰め込みました。

最後まで、手に汗握りながら楽しんでいただければ。

一言だけ。雫が最推しだけど、ありふれヒロイン全員好きです。


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 ■■■■■ 68歳 男 レベル:???
 HL:測定不能
 天職:錬成師・魔王
 筋力:70000
 体力:66000
 耐性:108000
 敏捷:83000
 魔力:204000
 魔耐:156000
 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+超精密錬成]・魔力操作[+天圧][+空間圧倒][+自由操作]・胃酸強化・豪雷[+纒雷][+赤雷][+雷化]・天脚[+空消][+天崩脚][+赤光]・嵐爪・天眼[+物質][+星力][+境界][+時間][+魂魄][+情報][+生物]・全能感知[+気配][+熱源][+魔力][+第六感]・気配遮断[+幻踏] [+残影]・完全耐性・先読[+限定未来視][+限定過去視]・天壁・金剛腕・圧壊・念話・追跡[+境界超越][+時間超越]・魔力錬成[+物質魔力][+自然魔力]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破[+覇潰][+壁越]・闘術[+獣術][+鬼術][+魔術]・乱撃[+迅撃][+破撃][+覇撃]・加速[+超速][+豪速][+超加速]・変身・神代魔法[+七大魔法][+概念魔法][+概念特化]・因果[+絶対不屈]
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修羅達 急

 一人称 SIDE

 

 

 

 言葉を交わし、互いに歩き出す。

 

 

 

「──〝壁越〟」

 

 一歩進んだ瞬間、始は試行錯誤の末に〝覇潰〟から編み出した能力を十倍にまで高める技能を使う。

 

 その瞬間、肉体から溢れ出した僅かな魔力によって空間が錆色の魔力で歪み、軋みを上げた。

 

 当たり前だろう。

 

 筋力一つとっても、700000というもはや数値化するのも馬鹿らしい数字なのだから。

 

 ギシギシと音の鳴る周囲に構わず、始は二歩目を踏み出した。

 

「〝赤光〟」

 

 次に発動するのは、この技能の獲得に合わせて〝瞬光〟から変質した技能。

 

 約3000倍にまで知覚速度を加速して、ようやく歩くので精一杯な肉体のコントロールが可能となった。

 

 精神と肉体が釣り合ったところで、三歩目を踏み出す。

 

「〝超加速〟」

 

 更に、肉体の力を飛躍させる。

 

 膨大な能力に更に数値が加算され、さしもの半人半機である始でも単独で処理しきれなくなる。

 

 それを助けるのが神の造眼(ヘイムダル)だ。

 

 この唯一無二のアーティファクトには、無数の並行世界と繋がるだけの強大な情報処理能力がある。

 

 そうして、全ての準備が整って。

 

 始は、最後の一歩と共に。

 

 

 

 

 

「〝雷化〟」

 

 

 

 

 

 変若水(おちみず)に数多の技能、そして神の造眼(ヘイムダル)を用いてようやく発動することができる。

 

 最強の、切り札を使った。

 

 その靴裏が地面に着くまでの刹那、始としての輪郭を残したまま、その肉体が鮮烈な赤の雷と変じていく。

 

 そして、地球において神の力とも謳われたものとなった始は──消えた。

 

 

 

 

 

 ドパォォォンッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 ゴガァアアンッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 次にその姿が現れたのは、空間を根こそぎ吹き飛ばすような激音と共に。

 

 アベルを逃さないため、同時にこの広場の外にある外界を壊さないために張られた結界が明滅した。

 

 それは、光の速度で飛んだ弾丸が当たり、凄まじい強度で受け止めて粉砕したからだ。

 

 

 

 

 その弾丸が飛び出した銃は──下部に取り付けられた刃の切っ先と、細剣の切っ先が拮抗している。

 

 誰にも追いつけない、赤い光となった始の一撃を、あろうことか細く美しい鎧を着たこの暗殺者は受け止めたのだ。

 

「──ハッ、やはりな。これでようやく、全力のお前と互角か。流石は1000年以上生きていただけはある」

「君こそ、心の底から驚嘆する。まさかたったの50年程度で、そこまでの領域に至ったというのか」

「ああ。今の俺は、文字通り痺れるぜ?」

 

 始の形をした赤雷が、獰猛に笑みを浮かべる。アベルは数百年ぶりに身体中を寒気が駆け巡った。

 

 数々の技能の限界を更に超え、世界を超えるアーティファクトを生み出し、概念特化という力まで得た始。

 

 そしてこの魔王は、ついにその身を〝己に降り注ぐ理不尽全てを粉砕する〟という概念そのものに昇華してしまったのだ。

 

 それこそが〝雷化〟、万物を穿つ究極の力の形。

 

 魂だけで数千年を存在しうるエヒトと同じ、人間の領域を超えた存在に至っていた。

 

「今の俺にあらゆる現象は効果を示さない。ご自慢の〝抹消〟も、半端な威力じゃ焼き焦がすぞ?」

「つまりこの僕に全てを出し尽くして、本気で殺しに来いと。そう言いたいのだね?」

「それ以外の何に聞こえる?」

「いいや。実に──わかりやすい!」

 

 ギィン!!! と超音波のような音を奏で、アベルが細剣を振り払って拮抗が崩れる。

 

 この男とて、〝怒り〟という概念的なものを禁術にて物質化し、こうして纏っている身。

 

 土俵は同じ。

 

 故にこそ。

 

 

 

 

 

((──先に殺した方が勝つ!))

 

 

 

 

 

「死ね。俺の復讐を果たすために!」

「死ね。我が怒りを満たすために!」 

 

 似た者同士の修羅と修羅が、全力で殺し合いを始めた。

 

 怒りの化身が、万物を消し去る刃を振るう。

 

 赤雷の化身が、理不尽を貫く弾丸を放つ。

 

 互いに得物はそれ一つ。

 

 アベルはこれ以上の武器を持たず、始は概念化した自分に耐えうる弾丸が同じく〝存在破壊〟という概念を込めた弾丸だけだった。

 

 一歩たりとも断じて引かずに、刹那に万を超える斬撃と銃撃の応酬が躱された。

 

「「おおおおおおおああああああああっっっっっ!!!!!」」

 

 雄叫びすらも、互いの体を打つ衝撃になる。

 

 静かに命を奪い合った王都の夜とは、まるで違う。

 

 強く、荒々しく、どこまでも激しく殺し合った。

 

 だというのに、始と露出したアベルの口元に浮かぶのは──これ以上ないほどの狂気的な獰猛さを湛えた笑み。

 

 最初からこの展開を望んでいたのではないか。そう思えるほどに──いや。

 

 

 

 始は、これこそを望んでいたのだ。

 

 

 

 そもそも、言ってしまえばもう始のこの世界でのやるべきことは終わっているのだ。

 

 とっくの昔に()()は完了し、同じほどに重要な要素だったハジメ達の実力の底上げも済ませた。

 

 あとは神の造眼(ヘイムダル)の観測した通りに、何もかも決着がついたのを見計らって行動を起こせばいい。

 

 こんなところでアベルと殺し合いなどせずとも、静かに全てを完遂して消え去ることができた。 

 

 

 

 

 そうしなかったとして、真正面からやらなくてもいくらでもアベルを殺す方法はある。

 

 この男がいくら怪物であれ、結局は個人。

 

 であるならば、始の比類なき創造性を駆使すれば安全に殺せた。

 

 実際に〝宝物殿〟の中には、アベルを殺す全ての予測に準じて用意したアーティファクトの雛形が数多く眠っている。

 

 だというのに、始はこれを選んだ。100%の勝利を予測した数々の作戦の中で、最も勝率の低いものを。

 

 しかしそれでよかった。いいや、これでなくては絶対に駄目なのだ。

 

 最も絶望的な道の中にこそ、望んだもの全てを手にする導がある。それを誰よりよく知っていた。

 

 あるいは理不尽破りの概念になったからこそ、この方法を選んだのかもしれない。そんな風にすら思う。

 

 何よりも、直接自分の手で親友を殺したこの男の命を奪わなければ、納得できない。

 

 結局のところ、始は満足しているのだ。

 

 

 

 

 

 自分という存在の最後の証明が、この形であることを。

 

 

 

 

 

 

「「絶対に殺すッッッ!!!!!」」

 

 何度目だろう。己の中に沸る炎を、言葉という刃にして相手にぶつけるのは。

 

 殺す。実にありふれた言葉だ。今日び小学生の子供ですらも簡単に使っているだろう。

 

 だがありふれたその一言こそが、始を最強たらしめてきたのである! 

 

「フッ!」

「!」

 

 全てを赤く染めた中で異彩を放つ、黒と白の銃から弾丸が放たれる。

 

 甲高い二回の射撃音で、アベルに向けて飛ぶ銃弾の数は120発。

 

 始自身を電磁加速器として用いるそれは、光をも超える未知の速度に達している。

 

「カァアアッ!!」

 

 しかし、アベルはその全てを裂帛の気合いとともに斬ってしまった。

 

 かつての失敗を繰り返さないように、形も残さず木っ端微塵にする。跳弾などさせるものか。

 

 ──しかし始は、キラキラと舞うその弾丸の粉塵を見てこそ笑った。

 

「ハッ!」

「シッ!」

 

 お返しと言わんばかりに流星のような刺突を繰り出すアベルに、始は雷光を引き連れ前に踏み込む。

 

 全てにフル出力の〝抹消〟が付与された消滅の雨。けれど始は、その身を無数の小さな雷に分けて回避した。

 

 そして未だ宙を舞う粉塵に当たり、全ての赤雷は反射して──アベルの眼前へと収束し始に戻る。

 

 

 

 ──紅雷闘術壱式、〝万雷〟。

 

 

 

 ゴリ、とアベルの兜に銃口が突きつけられた。

 

「チェックメイトッ!」

「まだだッ!」

 

 兜に二つの目が見開き、そこから〝抹消〟の力を光線として打ち出す。

 

 以前にノイントに共生した事で得た能力に、始はまた万雷状態に戻って避けた。

 

「オオオオォォオオオ!!」

 

 その始である万雷を根こそぎ消し飛ばそうと、光線は肥大化してレーザー砲となった。

 

 超広範囲、あまりの力の大きさに余剰エネルギーが()()となり──

 

「──馬鹿め」

 

 瞬間、大爆発が起こった。

 

 粉塵爆発。始は何も反射鏡としてだけ、この粉塵をばらまいていたのではない。

 

 反発を起こしたレーザー砲は暴発し、兜の瞳が焼かれて死ぬ。

 

「忘れたか、僕に目は必要ない!」

 

 全く痛手と認識しないアベルは、独楽のようにその場で回転して斬撃の嵐を解き放った。

 

 

 

 ──業殺剣1の型、〝刃風〟。

 

 

 

 雫のそれに似た、相手を世界に留める因果ごと切り裂く技。

 

 その斬撃の数にばらけている方が危険と判断し、始は一体化すると黒白銃を胸の前で交差させた。

 

「ハァアアアアア!!」

 

 銃の刃に雷が迸り、十字の斬撃となってアベルの刃風に真っ向からぶつかった。

 

 紅雷闘術弐式、〝殺×(バツ)〟。

 

 始を殺さんとする消滅の斬撃を、理不尽破りの概念が打ち砕く。

 

 そして、相殺してアベルの体の近くに飛び散った赤雷の欠片は、元は始の一部であり。

 

「砕けろ!」

 

 一瞬で全ての赤雷が肥大化して暴流となり、全方位に向けて千を超える雷の矢を解き放った。

 

 紅雷闘術参式、〝万雷喝采〟。

 

 一本でもそれに触れれば、たちまち肉体全てが消し炭となる。

 

「甘い!」

 

 アベルの背中から四枚の翼が現れ、射出された羽が赤雷の隙間を通り抜けていく。

 

 するとそれが避雷針となり、アベルに到達する前に雷の矢は方向を変え……。

 

「ありがとうよ、わざわざ壁を用意してくれて」

「っ!」

 

 一瞬で全ての雷が消え、銃声が響く。

 

 空中にばらまかれたアベルの羽に命中し、跳ね返った無数の弾丸はアベルに襲い掛かった。

 

 優れた回避能力で全てを紙一重で避けるアベルだったが、弾丸は互いにぶつかり合い、また軌道を変える。

 

 避けてはぶつかり、また違う位置からアベルに迫る、触れられない〝弾丸の結界〟が完成した。

 

「──〝力よ、消えよ〟」

 

 アベルは、瞬時に力を持つ言葉を発する。

 

 その言葉に弾丸に込められた概念そのものは消えなかったが、しかし推進力が消滅して地面に落ちた。

 

「隙あり……ッ!?」

 

 その隙を逃さず前進しようとした始は、ふと何かを感じて途中で走る位置を変えた。

 

 

 ジャギンッ!! 

 

 

 すると、一瞬前まで始がいた空間に全方位に鋭く長い針が伸びる鈍色のボールが現れる。

 

 安堵する間も無く、またしても自分のすぐ近くに〝第六感〟が発動して光速移動した。

 

 始の回避場所を読んでいたかのように、二つ目の棘ボールが出現する。

 

 真っ直ぐ進んでいれば全身が串刺しだっただろう。

 

「チッ、俺みたく鎧の破片を戦いながらばらまいてたか!」

「どうする? その棘は僕の意思一つで君を刺し貫く。開花するまで〝抹消〟で物理的存在を消していれば、君のその瞳でも見えまい?」

 

 言いながら、最初に戦った時とは逆に迂闊に動けなくなった始にアベルは斬りかかる。

 

 舌打ちしながら応戦しようとして、ふと動かした腕の付近に危機を感じて咄嗟に止めてしまった。

 

 その隙を見逃すアベルではない。

 

「一撃目」

「ぐぁッ!!?」

 

 どうにか数ミリ後ろに引いた始の首筋を、細剣が掠めた。

 

 その瞬間、概念化して痛みを失ったはずの始の全身に凄まじい激痛と酷い虚無感が襲い来る。

 

「ちいっ!」

 

 歯を食いしばりながら、始は苦し紛れに交差させたままの黒白銃を発砲した。

 

 するとその軌道上にあった棘ボールが起動し、跳弾してアベルの方に飛んでくる。

 

 それを防ぐ時間を使い、万雷になった始は既に棘ボールが発動した弾丸の軌道上に沿って退避した。

 

「逃がさない」

 

 だが、そんな始を極細の糸状に変形したアベルの鎧が追いかける。

 

 当然ながら本人の攻撃は棘玉には反応せず、万雷状態のまま始は全方位から囲まれた。

 

 そして、なす術ない始を針が貫き──

 

「──こいつを待ってたよ」

 

 

 ドパンッ! 

 

 

 消し去ることはできずに、銃声が轟く。

 

「──っ!」

 

 咄嗟に身を捻ったことは、幸運だったか。

 

 アベルは自らの頬を掠め、自分という存在そのものを大きく削った光に驚く。

 

 それを放ったのは、彼の目の前に残った右腕一本だけに握られた黒銃。

 

 肉体の大部分を移動させることで、残した右腕をアベルの意識から外したのだ。

 

 

 

 結果的に驚いてしまったアベルは針を止め、更には棘玉のほとんどが暴発して露わになる。

 

 強靭な精神力を持つアベルですらもそうしてしまうほどに、その擦り傷は致命的だった。

 

 残りも到底届くような場所にあらず、右腕の方へと戻って一体化した始はアベルに肉薄した。

 

「どうした、呆けてるぞ!」

「チッ!」

 

 また、技と技の駆け引きが始まる。

 

 それまでと違うことは、より苛烈に、そして互いを殺し尽くすよりも隙を作らせる形に変わったこと。

 

 互いに一度受けたことで、どれだけ攻撃すれば相手が殺せるのかを確信したのだ。

 

 

 

 

 

 あと4回。それだけ攻撃を当てた方が、先に殺せる。

 

 

 

 

 

 ならば、その4回を相手よりも早く全力で与えるのが必然だ。

 

「肆式、〝雷蛇〟ッ!!」

「6の型、〝刃炎〟ッ!!」

 

 大技を放ったのは同時。

 

 アベルの周囲の地面、空間に迸った赤雷は蛇のように巻きついて絞め殺しながら焼かんとする。

 

 始に向け、炎が揺らめき燃え盛るように一つ一つが飛距離も速度も、威力すら違う斬撃が飛ぶ。

 

 それは布石に過ぎない。

 

 互いに互いを打ち消しあい、僅かに突破した破片のようなものに効果を期待する。

 

 

 

 赤雷は、アベルの肩に触れて少しだけ痙攣させた。

 

 

 

 刃は、避けたことで僅かに始の体の軸を乱した。

 

 

 

 それで十分。

 

「死ね!」

「お前が死ね!」

 

 〝万雷〟を発動し、一部だけを腕と銃に固形化して発砲する。

 

 左肩の筋肉の痺れを打ち消す時間を切り捨て、右腕だけで最速の突きを繰り出す。

 

 切っ先と弾丸がぶつかり、火花を散らして軌道をずらし合い……狙いを穿たずも当たる。

 

 痛み分け。

 

「ぐっ!?」

「かはッ!!」

 

 存在を削るという高次元のダメージに、互いに吐血した。

 

 しかし違ったのは、アベルは赤い血を吐き、始は吐血すら雷であったこと。

 

 血の雷は飛沫し、アベルの細剣に当たって表面を伝っていった。

 

 結果、鎧を通り抜けて突き出した右腕が痺れる。

 

「ッ!!」

「っ、そこだッ!」

 

 その場所に固定された腕に、始はこれまでで一番速く踏み込んだ。

 

 そして、唸る白い刃が振り抜かれて。

 

 鈍色の右腕が、高く宙を舞った。

 

「ガァアアアっ!!?」

「おおぉおっ!!」

 

 一回始がリードした。その勢いを失わずに、始はトドメを刺しにかかる。

 

 しかし、忘れてはならない。

 

 その男が怒りのために、人としての生のほとんどを賭けたことを。

 

「なぁめぇるぅなぁああああああああ!!!!!」

 

 空を舞う右腕の断面と、切り離された腕の断面の間で鈍色の線が光る。

 

 神経の中に張り巡らさていた極細のライオットにより、切断された右腕を操って前傾姿勢の始に細剣を落とした。

 

 更にはアベルの全身を覆う鎧が一瞬で肥大化し、飛び込む始を飲み込むように閉じていく。

 

 裏側には無数の針が連なっており、その全てが〝抹消〟の力で白く輝いていた。

 

 上からは神速の落下物、前には地獄の入り口。今引いても、既にライオットは背後まで回っている。

 

 万雷状態になっても、絶対にどこか一片が触れる。

 

 どうする。どうすればいい。

 

 始は考える。この絶望を乗り越える方法を。勝利し、生き残る方法を。

 

 そして。

 

「肉は切らせてやらぁっ!!」

 

 

 ドパンッ! ドパンッ! 

 

 

 上へ向け、銃をどちらとも発砲した。

 

 遅れて飛び出した二発目が先に引き金を引いた一発目に当たり、跳弾。

 

 それは切り離されて感覚が鈍り、握りの甘かった細剣の柄頭に衝突し、すっぽ抜けさせ──

 

 ズッ!!! と勢いよく始の肩に深く突き刺さった。

 

「ッッッ!!!!!」

 

 痛みという枠組みを遥かに超えた感覚を、雷の血涙を流して耐えきる。

 

 力が半減した左手から銃を手放して、右腕に全意識を集中した。

 

「そらよ、持ってけ」

 

 銃から、黒い刃が外れて飛び出す。

 

 弾丸と同じように電磁加速されたその刃には、同じ〝存在破壊〟の概念が付与されている。

 

 黒刃は的確に、アベルの鳩尾を撃ち抜いた。

 

「が、ぁああっ!!!」

 

 絶叫するアベル。

 

 残り、一回。対して始は二回分の猶予がある。

 

 勝負は決した。

 

 始は黒銃を操作し、最後の一発を──

 

「ッ!??」

 

 その時、異変が起こった。

 

 体が軋む。それまで完全な形を保っていた〝雷化〟の力が、一瞬解けかけた。

 

 その原因は──肩に深く突き刺さった細剣。

 

 

(まさか、変若水(おちみず)の効果が!)

 

 

 赤雷化した始には、あらゆる物理的・魔法的な攻撃は意味をなさない。

 

 ダメージとして到達する前に、理不尽破りの概念が害として破壊してしまうからだ。

 

 それは〝抹消〟でも変わらない。同じ力のステージに立った今、全力の出力でなければダメージにはなりえない。

 

 故に、アベルの手を離れた細剣に残っていたのは実に微弱な力。

 

 しかし、体内深くに到達したその刃は──始を雷たらしめる変若水(おちみず)の効能を少しだけ打ち消した。

 

 そして。

 

「致命的な隙だよ、それは」

 

 アベルの右腕の断面から、無数の刃が溢れ出す。

 

 未だ全力の動きができない体。刃の先端は、完全な万雷になる前に確実に届く。

 

 

(骨を断たれたのはこっちだったか……だが!)

 

 

 どれだけの絶望だろうが諦めない。絶対に勝利を掴み取る。

 

 その炎を胸に、始は最後の最後に隠しておいた奥の手を使った。

 

神の造眼(ヘイムダル)ッ!!!」

命令を受諾。最も生存に適した道を示します。

 

 始の前に、無数の〝世界〟が広がる。

 

 

 

 

 

 それはこれから、一瞬先の未来。

 

 

 

 

 

 始が起こすあらゆる判断から生まれる、枝分かれた無数の世界。

 

 シアの〝天啓視〟に似たそれは、魔法適正のない始では神の造眼(ヘイムダル)と莫大な魔力消費があってようやく成立する。

 

 そして数千通りの未来から神の造眼(ヘイムダル)が選んだ生存の道筋は──たったの一つ。

 

 

(ハッ、充分だ!)

 

 

 その未来を実現するため、始は〝前〟へと動きながら回避した。

 

 結果、ほぼ全ての刃を躱すことに成功し──たった一本だけが、左肩を貫く。

 

 しかし始は追撃することなく、アベルの胸を蹴ると再び後ろに跳躍した。

 

 空中で万雷状態となり、大きく距離を離した位置で一体化して……膝をつく。

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ゲホッ、ゴホッ!」

「ぐ、ぅ、ぉ…………」

 

 

 

 

 

 互いに満身創痍だった。

 

 始同様に、鳩尾に深く突き刺さった刃を押さえながらアベルも膝をつく。

 

 やがて、どちらも立ち上がった。

 

 フラフラとおぼつかない足取りでも、それでも相手をまっすぐに見て。

 

「──次で最後だ」

 

 白銃を構え、始が告げる。

 

「──終わりにしよう」

 

 右腕をライオットで繋ぎ直し、手中に剣を作り出したアベルが告げる。

 

 

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 そして、走り出す。

 

 技の駆け引きも何もない、純粋な突進。

 

 先に相手に届いた方が、勝つ。単純明快な決着だ。

 

 故に、これ以上ないほど殺意を研ぎ澄ませ。

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと、始の雷化が解けた。

 

 

 

 

 

 

 

 数々の技能の同時使用、その上で成り立つ〝雷化〟そのものの莫大な魔力の消費。

 

 極め付きに、最後の神の造眼(ヘイムダル)の使用。

 

 これにより、雷化を維持するだけの魔力が底をついた。

 

 

 

 

 

(──ああ。俺の負けか)

 

 

 

 

 

 驚くでもなく、始はそう納得して、立ち止まった。

 

 全て出し切った。

 

 アーティファクトという意味ではそうではないが、己の身一つで絶望に抗うという意味では。

 

 これ以上ないほど、この敗北には納得できる。

 

 〝保険〟もかけてはいたが、どちらにしろそれを使うにはほんの数十程度の魔力が足りない。

 

 勝利を渇望するあまり、計算を間違えた。そういうことだ。

 

 それはいい。ここで消えても、それをトリガーに最後のやるべきことは発動する。

 

 あと気がかりなのは、アベルが戦場に放った〝何か〟だが……まあ、()()()()を考えれば気にすることはない。

 

 

 

 

 そんなことを考えている間に、一瞬で間合いにアベルが入ってきた。

 

 知覚速度が低下したせいで、見えもしなかった。

 

 その刃は、神の造眼(ヘイムダル)ごと己の頭蓋を刺し貫こうとしている。

 

「未来からの復讐者よ。君は我が長き生の中でも、最も執念深く、そして強い狩人だった。その折れぬ心に、心からの尊敬を贈る。故に苦しませず──消してあげよう」

 

 アベルも始の考えていることを察しているのだろう。

 

 その切先が届く刹那の間に、珍しく怒り以外の感情がこもった声でそう言った。

 

 それに始は、実際の表情よりも先に心で笑ってしまう。

 

 

 

 

 

(終わり、だな)

 

 

 

 

 

 思えば瞬きほどの五十年だった。

 

 鉄屑で自分を覆い、偽り続け、やがて誰にも追いつけない雷となって走り続けた。

 

 たった一つの願い。それだけのために、本人が望みもしないだろう救いのために全部投げ捨てた。

 

 愚かな男だ。

 

 死の刹那、引き伸ばされた感覚の中で、そう数十年の間何度も自答した言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

(ああ、けど。このまま消えたら………………あいつに、もう一度会えるのかな)

 

 

 

 

 

 それだったらいいなと、そんな風に嘯いて。

 

 始は、アベルの刃を受け入れた。

 

 

 

申し訳ありません、マスター始。私では貴方を、望む未来へと到達させることはできませんでした

 

 

 

 そんな始に声をかける、女の声。

 

 この数十年、たった一つだけ始の孤独を紛らわせてくれた神の瞳。

 

 死の間際の幻聴だろうか。

 

 今まで何重にも聞こえてきたその声が、あの天真爛漫なウサミミ娘のものに聞こえた。

 

 だからつい、始は二十五年も前に顔を合わせなくなってしまった、愛する女達を思い浮かべて。

 

 

(願わくば。お前の……お前達の笑った顔を、もう一回見たかった)

 

 

 ふと、笑っ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ですから、ちゃんと直接、助けに行きます。今度こそ、貴方の未来を──この不確定まみれでクソッタレた理不尽の先にある勝利を、一緒に切り拓くために!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アベルの頬に、戦鎚がめり込んだ。

 

 

 

 そのまま吹っ飛び、地面をバウンドして転がっていく。

 

 

 

「──は?」

 

 

 

 完全に死ぬ覚悟を決めていた始は、立ち尽くしたまま呆然とした。

 

 

 

 そんな、彼の瞳に。

 

 

 

 淡い青色の、天の川が映り込む。

 

 

 

 

 

「──ようやく、探し出しました」

 

 

 

 

 

 その天の川は──地面に垂れるくらいに長く美しい、一つにまとめられた水色の髪は。

 

 

 

 

 

神の造眼(ヘイムダル)の未来観測と私の目を繋げて、やっと貴方を見つけ出せました。焦りましたよ、こんなギリギリになるんですから」

 

 

 

 

 

 細くも逞しく、巨大な戦鎚を担ぎ、いつだって始の心を明るく照らしてきたその背中は。

 

 

 

 

 

「でもね。言ったはずですよ、〝ハジメ〟さん。ずっと一緒だって。地獄の果てまで、隣にいるって」

 

 

 

 

 

 そして、振り返ったその顔は。

 

 

 

 

 

 快活で、強くて、綺麗で。

 

 

 

 

 

 幻想的なほど美しい、その笑顔は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから──みんなで、追いかけてきちゃいましたよ?」

「────し、あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえ袂を分かつとも、この五十年忘れたことなど決してなかった──シア・ハウリアの、笑顔だった。

 

 

 




絆は壊れない。
 
たとえどんなに遠ざけても、背中を向けても。

その瞳が、理不尽を乗り越えることを見据えているのなら。

私達は、どんな場所にだって貴方の隣に立ちにいく。

だから、さあ。








反撃を始めよう。今度は、一緒に。






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