シュウジ「あわわわわ、ヤバイよヤバイよ!」
ハジメ「おい、どっかの芸人みたいになってんぞ。どうしたんだよ」
シュウジ「とうしたもこうしたも、お前大変なことになってんじゃん!もう心配で仕方がねえよ〜!」
ユエ「ん。心臓止まるかと思った」
ルイネ「止まってもすぐに再生して動き始めるのでは?」
ユエ「…たしかに。これまで何度もハジメのカッコいいとこ見て心臓止まってるのに生きてる」
エボルト「いや、それとこれとは別だろ。まあいい、今回は俺たちの話だ。そしてついに………それじゃあせーの、」
五人「「「「「さてさてどうなる迷宮編!」」」」」
ズズン……………
ガラガラと崩れる壁を、その存在……とある世界では仮面ライダーブラッドと呼ばれる存在は静かに見ていた。
その仮面の下にある瞳にルイネ・ブラディアの意思はなく、ただ迷宮に操られて挑戦者を倒すことのみに思考が固定されている。
そしてその単一的な思考は、無謀にも自分に挑んできた存在の討滅が完了したと判断した。マントを翻し、踵を返すブラッド。
そしてドライバーのグレートクローズドラゴンに手をかけ、引き抜いて変身を解除しようと……
ゴオッ!!!!!!!
した瞬間、背後から凄まじい力の奔流を感じ取り、グレートクローズドラゴンから手を離して本能的にそちらを振り返る。
すると、つい先ほどまで自らの攻撃によってもうもうと煙が立ち込めていた場所には漆黒の竜巻が渦を巻いていた。目を見開くブラッド。
上に向かうにつれ巨大になっていくその竜巻は、全てを飲み込まんと……そう、まるで
《ブラックホール!》
そして、竜巻が弾けた時。
《ブラックホール!!》
そこに佇んでいたのは。
《ブラックホール!!!》
かつて数多の惑星を飲み込み、地球までをも喰らおうとした。
《RE VO LU TI ON !!!!》
宇宙史上最低最悪、最強にして最恐の〝蛇〟だった。
《フッハハハハハハハ………》
竜巻が消滅し、その中心に佇む一つの影。ただそこにいるだけで絶望を掻き立てるような、悍ましいオーラを放っている。
その存在は、エボル コブラフォームにどこか似た、しかし決定的に違う存在感を持つ姿をしていた。
豪奢だった胴体を覆う鎧は白と黒、まるでモノクロのように染まり、封印されていたアーミラリアクターは肥大化してブラックホールを彷彿とさせるカタストロフィリアクターへと変化を遂げた。
まるで惑星を囲む輪のようだった肩の装甲は白に染まり、その中心から飛び出る棘はより鋭く、そして環境変換プラントを内包している。
それまで簡素だった腰回りには白いラインが走る、先端に向かってワインレッドのグラデーションのかかった黒いマントが靡いていた。
そして何より、その顔。赤い蛇は真紅のラインの入った白い蛇へと変わり、側頭部にはまるで悪魔の角のような装飾が。額の星座盤はブラックホールに飲み込まれたように漆黒に染まっている。
エボル ブラックホールフォーム。破滅のトリガー、エボルトリガーを起動することで覚醒する真の姿。それが、この存在の名前だった。
これまでと全く違う姿に変わり果てたエボルは、あげていた左手をゆっくりと下ろす。それだけでブラッドは凄まじい悪寒を覚えた。
『ふう、間一髪だったなぁ』
「……………」
やれやれ、と言った様子で腰に手を当てて声を出すエボル。ブラッドは一挙一動逃さぬよう、じっとそれを見つめる。
そんなブラッドに御構い無しに、エボルは右手に抱えていたボロボロで血まみれの男……気絶しているシュウジを優しく地面に下ろした。
『全く、完全体になれば分離できるなんてな』
そう、今エボルの中にいるのはシュウジではなく、エボルトであった。しゃがんだエボルトはシュウジの髪をかきあげて顔を見る。
『あー、こいつは酷え。完全にズタズタだ』
酷くえぐれたシュウジの右目を見て、悲しそうな声音で言うエボルト。いくら自己再生できても、ここまでの重傷だと傷跡が残るだろう。
とりあえず体の方の傷は修復を始めているのを確認すると、攻撃を無効化する虚無の空間フィールドを張っておく。
『これでよし……さて』
「!」
ゆっくりとブラッドの方を振り返るエボルト。これまでどんな攻撃でも平然としていたブラッドは、初めて自主的に身構えた。
『感謝するぜ、お前のおかげでエボルトリガーの封印が解けた』
「………?」
エボルトの言葉に、ブラッドは不思議そうに少し首を傾けた。
なぜ、これまで封印されていたエボルトリガーが復活し、エボルドライバーに嵌っているのか。その答えはエボルトにある。
あの瞬間、シュウジがブラッドの攻撃を回避できないと判断したエボルトは、咄嗟に体の主導権を奪った。
そして、エボルトリガーで攻撃を受け止めたのだ。シュウジとともに戦う中でブラッドの力はハザードレベル6.0以上であると確信したが故の行動である。
後は単純、トリガーを起動するとシュウジを分離させ、ブラックホールフォームへと変身を果たした。
『つーわけで、選手交代だ。俺の相棒を傷つけたお前を、完膚なきまでに破壊してやる』
どこか怒りを感じる、冷徹な声で言うエボルトにブラッドの生存本能が全力で警鐘を鳴らした。あれを相手にしてはいけないと。
しかし、それよりも最後の試練を課す者としての命令の方が優先度が強かった。目の前の敵を排除せんと、攻撃を仕掛ける。
そして瞬間移動しようとして……パァン!という音ともに宙を舞った。何が起きたのかわからず、地面に落ちて体を打ち付ける。
「!? !!?」
『遅い、あくびが出ちまうぞ』
ブラッドを遥かにしのぐ速度で瞬間移動したエボルトは、アッパーカットをかました手をひらひらと振る。
立ち上がり、それを見てようやく、ブラッドは自分が顎に拳を叩き込まれたことを自覚した。中にいるルイネの脳が揺れ、視界にノイズが走る。
『ほらどうした?悔しかったら反撃してみろ』
「………!」
格下に向けた挑発するような口調に、一種の怒りのようなものを感じたブラッドはすぐさま再び攻撃を仕掛けた。
まるで竜の鉤爪のように形成された三本の赤黒いオーラを両手に纏い、エボルトに向かって振るう。が、エボルトはひょいっとそれを躱した。
だが、それは想定の範囲内。立て続けにブラッドは両手を振ってエボルトを切り刻まんとする。その悉くを避けるエボルト。
『こんなもんか。攻撃ってのはな、こうやるんだよ!』
まるで玩具に飽きた子供のように飽きれた口調のエボルトは、上段蹴りで振り上げられていたオーラの鉤爪をまとめて粉砕した。
更に、仰け反るブラッドの胸部装甲に手のひらを押し当て、ゼロ距離で衝撃波を浴びせかける。変身した状態で放たれるそれは、元来の数十倍の威力を持っていた。
マントに大穴を開けるほどの力に、なすすべなく吹き飛ぶブラッド。しかしなんとかオーラで足場を作り、着地をする。
『のろまだなぁ』
「っ!?」
しかし、その時すでに目の前にはエボルトが立っていた。反射的に右手を突き出すが、当然のごとく捕まえられる。
そして無慈悲な膝蹴りを仮面に食らった。後ろにかっ飛ぶブラッドの頭を、エボルトは駄目押しと言わんばかりにひっつかんで床に叩きつける。
ブラッドの後頭部と床が衝突した瞬間、放射線状に大きな亀裂が走った。エボルトの力をそのまま現したそれは、それだけで圧倒的な力の差をブラッドに思い知らせる。
「ガッーー」
『おお、ようやく声を出したか。その声、案外シュウジが聞くと安心するらしいんだよなぁ』
軽い口調で言いながら、首をつかんでブラッドを持ち上げるエボルト。足が宙に浮いており、腕を掴むが万力のように引き剥がせない。
『だが……そいつはお前が使っていいもんじゃない。だから返してもらうぞ、フンッ!』
首から手を離すと、もはや神速すら生ぬるい速度で拳のラッシュが全身に叩き込まれる。それは容赦なく鎧を、スーツを破壊していった。
バキ、ビキッ……バキンッ!
叩き込まれた回数が百に昇ろうかというそのとき、ブラッドの仮面の右半分が上半身の装甲ごと砕け散った。
そして中から赤黒いオーラに包まれた、意識のないルイネが姿を現わす。それを見てエボルトはニィと笑った。
『ビンゴォ!』
叫んだエボルトは、ルイネの腰に手を回すと〝物体操作〟の能力で、ブラッドからルイネを力の根源であるベルトごと強制的に引き剥がした。
ガァアアアァァァァアアァッ!?
『耳障りだ、黙ってろ!』
絶叫をあげるブラッドの鎧を衝撃波で吹き飛ばし、瞬間移動してシュウジの横にルイネを優しく地面に下ろすエボルト。
『さて……』
ガッ!?
壊れた部分を再生し、襲いかかろうとしていたブラッドの抜け殻を振り返りもせず拘束し、もう一方の手をルイネの胸に置く。
そうすると彼女の遺伝子構造を解析し、把握すると改変するためのプランをものの数十秒で構築して実行した。
「う……」
『おっと、少し我慢してくれよ』
うめき声をあげるルイネに声をかけ、一気に遺伝子を操作する。そして完全にルイネを迷宮のシステムから切り離した。
ガァアアアァァァァアアァアアァアアッ!!!
その瞬間、背後でブラッドの抜け殻が悲鳴のような絶叫を上げた。どうやらまだルイネと繋がっていたようだ。
存在を保てなくなり、暴れるブラッドの抜け殻をエボルトは『やかましい』と無造作に手を振り、天井に叩きつける。まるでゴミのような扱いである。
しばしそのまま操作を続け、いきなり改変したことによる細胞結合の穴を修復するとようやく手を離す。そのときポヨンと胸が揺れたのは内緒だ。
『よし、これで心配ねえな。後は……』
GUBYUArrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!
立ち上がったエボルトは、背後を振り向く。するとそこには、世にもおぞましい奇妙な怪物がいた。
整合性の取れていない何本もの不規則な形状の手足と、ゾンビのように爛れたドラゴンとシマウマとプテラノドンを一緒に鍋にぶち込んで錬成したような顔。
ぶくぶくと肉袋のように太った体は汚く濁り、翼や尻尾、不揃いな歯の口やギョロリとした目玉が浮き出ている。
ルイネという核を失い、存在が成立しなくなったブラッドは、その力の元となった魔物がグチャグチャに融合した、クトゥルフも真っ青な怪物になっていたのだ。
『うへえ、こいつはSAN値チェック待った無しだな……まあいい。すぐに引導を渡してやる』
気持ち悪そうに肩をすくめながら、バケモノに歩み寄っていくエボルト。ドライバーのレバーに手をかけ、ゆっくりと回し始める。
これまでとは違う独特な音楽が流れ、エボルトの全身に力がみなぎっていった。それに本能的な危機を感じたバケモノは、支離滅裂な絶叫を上げながら突進する。
《READY GO!》
それに構わず、エボルトは無言で跳躍した。それを醜い顔で追いかけるバケモノの視界の中で、エボルトが一回転する。
するとその足に、白と黒が混じった虚無のエネルギーが収束していった。あらゆるものを消し去るその力を、エボルトはバケモノに無慈悲に振り下ろす。
『何もできず、無意味に死ね』
《ブラックホールフィニーッシュ!
GIGAGAGAGAGAGAGAGAGAGA!?
顔面に叩き込まれた虚無のエネルギーに、もともと存在が不安定になっていたバケモノは凄まじい混乱をきたした。全身から火花が散り、内部がグチャグチャのミンチと化す。
そんなバケモノからエボルトが離れ、床に着地した。そしてくるりと踵を返し、パチンと指を弾いた瞬間……
ドッガァァァアアンッ!!!!!
バケモノはブラックホールに飲み込まれ、断末魔の叫び声すら上げずに爆散した。あまりにもあっけない、惨めな最期なのであった。
『ふぃ〜、働いた働いた。やっぱ戦うのは疲れるねぇ。シュウジとバカやってる方がずっと楽しいぜ』
最後までブラッドを圧倒し、瞬殺してみせたエボルトは肩を回しながらそんなことを言う。仮にも元星狩りの外道異星人とは思えないセリフである。
『おいコラ地の文、地味にディスるんじゃねえ。っと、そんなことより……』
なにやらこっちにツッコミを入れてくれたエボルトは、瞬間移動してシュウジたちの元へと戻った。
『おーいシュウジ、起きろー』
「うーん……そこはちくわじゃなくてはんぺんだろ……」
『まだ言ってんのかよ。てかそれ何話前のネタだと思ってんだ』
呆れながらも、どこか楽しそうな口調でエボルトはシュウジを見つめる。そして起きろーと言いながらペチペチと頬を叩いた。
だが、一向に起きる気配がない。まあ仕方がないだろう、あれだけのダメージを負ったのだから、体は回復してもすぐに意識は戻らない。
『ったく、世話のかかるやつだ』
まるでぐうたらな子供を持つ父親のような声音で言ったエボルトは、シュウジを脇に、ルイネを背中に抱える。
そうするとバケモノが倒れてからすぐに出現していた扉の前へと瞬間移動した。エボルトの存在を感知し、扉がゆっくりと開く。
『しゃらくせえ』
が、エボルトは勿体ぶんなやコラとでも言いたげに扉を蹴りつけて無理やりこじ開けた。ムードもへったくれもない地球外生命体である。
(強制的に)開かれた扉の向こうには、暗闇のヴェールがかかっていた。その奥にあるものに期待を持たせるような、じれったい仕様である。
『さあて、この先には何があることやら……』
そう言いながら、エボルトは扉の向こうへと足を踏み入れたのだった。
しばらく歩いていると、やがて前方に光が見えてくる。エボルトは少し足を早めて、その光の先へと向かった。
そして、そこにあったのは………
『……こいつはたまげた。これが〝反逆者の住処〟か』
その場所は、一言で言えば〝楽園〟とも言えるような場所だった。それまでの迷宮とのギャップに、さしものエボルトも驚く。
まず、その広大な空間の上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていた。まるで太陽のようだ。
次に、空間の奥にある壁一面に、天井付近の壁から流れ落ちる巨大な滝。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が、エボルトの仮面を撫でる。
よく見れば、滝壺には魚も泳いでいるようだ。もしや地上の川から魚も一緒に流れ込んできてるのかと、エボルトは考える。
『さて。どこか休める場所は、と』
観光もそこそこに、エボルトは女神から授かった知識と照らし合わせてベッドルームへと向かった。
ベッドルームに着くと、やけにふかふかで豪華なベッドにシュウジとルイネを寝かせ、体に食い込まないように最低限を残して衣服を剥ぎ取る。
やけに丁寧に服をたたんで添えつけの机に置くと、椅子を持ってきてどっかりと座り込んだ。
『……あ、そうだ』
特に何もすることがないので、二人を見つめていたエボルトの中にふといたずら心が芽生えた。
立ち上がって二人に物体操作の力を使うと、互いの体を抱きしめあうような形にする。そして異空間から携帯を取り出してパシャリ。
『ふっ、いい写真が撮れたぜ』
誰に聞かせるでもなく、満足げにつぶやくエボルト。重ね重ねいうが、これは元は散々悪事を働いていた異星人である。
やることをやったので、もう一度力を使って楽な体制にすると、そっと布団をかけた。重ね重(ry
『さぁて、なーんもすることねえし昼寝でもしますかね』
床に大の字に寝転がったエボルトは、そのまま本当に寝始める。だらーんと四肢を伸ばすその姿は、完全に休日のオヤジである。
誰も起きている人間がいない部屋には、三人の呼吸する声だけがかすかに響いていたのだった。
エボルト無双。本編でも結局本気出してなかったですよね。
次回は……
オーバー ザ ミューテイション!
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