いつものことですね。はい。
楽しんでいただけると嬉しいです。
三人称 SIDE
「ちっくしょう!」
遠藤浩介は焦っていた。
使徒達を弱体化させている聖歌隊の近く、地球組が戦闘をしている場所。
そこで誰よりも走り回り、誰よりも使徒達を殲滅していたのは、言わずもがな彼であった。
ネビュラガスという、ある意味一番の
そこに疲労回復や魔力消費軽減が付与された装束と、スタークが対使徒専用に精製した腐食性の毒を染み込ませた短剣。
極め付けに、〝暗殺者〟の技能各種の効力、そして隠密能力を向上させる金の模様入りの黒い仮面。
これらを以って、こと暗殺に関してならばハジメ達の領域に片足を突っ込んだ浩介。もっと影が薄くなったとも言う。
なによりも、浩介はスタークの命令で迷宮攻略の傍ら世界各地に飛び、仕事をするうちに〝殺す〟ことに慣れてしまった。
その冷徹で強靭……かつ、現代人としてズレた精神が浩介を一流の殺し屋とし、十全な力を発揮させる。
弱くなった使徒達など恐るるに足らない。むしろ、浩介からすれば皆同じ顔かつ無感情なので、よっぽどやりやすい。
無双と言っていい戦績を維持していたが、それは儚くも崩れ去っている。
原因は言わずもがな。
地球組を厄介な戦力として見ているのか、三体も投入されたシンビオート達のせいであった。
「きゃぁっ!?」
「ちいっ!」
クラスメイトの女子の一人の悲鳴を聞きつけ、使徒の喉を掻っ切ったばかりの浩介はすぐさま動く。
両足をグッと曲げ、跳躍すると悲しいほど反応しない使徒達の双大剣や翼などを足場にして移動。
そして、ぎゅっと目を瞑っているそのクラスメイトに迫る使徒の首を一撃ですっ飛ばした。
「っ、えっ、あれっ? 使徒が死んでる? なんで?」
「…………」
思いっきり目の前にいるのだが、そんなことを言うクラスメイトに仮面の裏が濡れそうになる。
しかし、ツッコミを入れる暇もなくまた別のところから悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁあっ!?」
「玉井っ!」
使徒に鍔迫り合いで負けた、愛子ちゃん親衛隊の一人こと玉井淳史が危機に陥っている。
隣から聞こえる「遠藤くん!? いたの!?」という声をなんとかスルーして、マントの裏にあるナイフに手を伸ばし──
「ガァアアアッ!!」
「っ、魔物如きが!」
「「「グガァァァアッ!」」」
浩介がどうにかする前に、使徒は後ろからのしかかった熊のような魔物に気を取られて攻撃を中断した。
そのまま切り捨てようとするが、突撃してきた同型の魔物二体に動きを阻まれ、そのまま三体にもみくちゃにされる。
姿が隠れ、バキッゴギッグチャッとSAN値チェックが入りそうな音を立てて捕食された。
「玉井っ、早く立て! 次が来るぞ!」
「清水……お、おう」
必死な形相であちこちへ命令を飛ばしている清水に、助けられた玉井はなんとも言えない顔をする。
他にも相川昂や仁村明人、園部優花達四人グループなど、愛ちゃん親衛隊だった者達も複雑な表情をした。
まだウルの街のことを引きずっているのだろう。愛子自身が許したとはいえ、思うことはある。
だが、魔王城のあの場で誰より早く声を上げ、戦う意思を示したことに、実は全員が清水を認めている。
誰にも見られず、認められないことに病んでいた少年は、確かに己の価値を示していたのだ。
それは、彼らも同じこと。
今も多種多様な魔物を操り、必死な形相をしてクラスメイト達の援護をしている。
だからこそ、割り切れない気持ちを抑えて背中を預けているのだろう。
「清水……へっ、あいつもやるじゃねえか」
「くっ、先ほどから何者ですか! 一体どこから攻撃をっ」
「目の前だよ! くそったれ!」
思わず叫んでしまいながらも、ギョッとしている使徒の首を飛ばす。
「流石だ、浩介っ! どこにいるのか分からんが!」
「すげぇぞ、浩介! どこにいるのか分かんねぇけど!」
「遠藤くん頑張れぇ! 頑張ってる姿は見えないけど!」
「えっ、あっ、そっか、遠藤くんも戦ってるんだった! さっきから助けてくれてありがとね!」
一人誰よりも奮闘している浩介に、そんな言葉がクラスメイト達から寄せられた。心が温まって泣ける。
しかし、また一体神の軍勢を減らしたことを内心カウントしながらも、浩介の焦りは変わらない。
(まずいな。あの化け物どもをどうにかしなきゃ、先にこっちが押し切られる)
地球組は善戦していると言えるだろう。
決戦ギリギリまで鍛え上げた剛体とハジメ製の武具で、何度も怪我を癒しながら怪物の一体を相手している永山重吾。
指揮棒型のアーティファクトを振るい、石化や麻痺する煙など様々な特殊魔法を同時に展開している野村健太郎。
清水を含めた愛ちゃん親衛隊と、檜山の裏切りと近藤の死から立ち直った中野信治と斎藤良樹。
そして、かつては心折れていた者達も怪物と使徒の大群を相手に、どうにかこうにか戦っている。
神を受け止め、苦しみながらもハジメ達を守ったシュウジの姿。
始の言葉。
そして、清水の叫び。
これらを以って、各々が家に帰る為、友や心を寄せる相手を守るため、燻っていた彼らは再起した。
悲惨かつ自業自得な最期を迎えた檜山を除いて、全員がこの場で未来を掴むために戦っている。
だが、足りない。
瓦解しないように持ち堪えるのが精一杯で、いつ押し切られてもおかしくはない。
(つっても、俺が遊撃をやめたら使徒達の勢いを留められなくなるし。かと言ってあの化け物ども、今の俺ですら感知しやがるし。いや、全く嬉しくねえけど)
ほぼ無意識に使徒達に忍び寄り、(自動的に)ハイド&キルしながら浩介は思考を巡らせる。
何をどうするにせよ、手が足りない。
せめてあと数人、自分と同じくらい使徒達を翻弄できる人材がいれば……
「っ……?」
その時だった。使徒達の動きが、少し変になったのは。
ブーツ越しに地面から感じる足音や、耳が捉える使徒達の言葉、雰囲気。気付かれないのをいいことに見放題な目や口元。
そうした様々な情報が、瞬く間に変わっていく。掃いて捨てるほど数のいる使徒達の動きが突然各所で乱れたのだ。
おそらくは待ち望んだ、こちらに味方する第三者の介入だった。
「援軍か……?」
「うふふ」
予想を呟いた瞬間、隣から聞こえてきた妖艶な笑い声にゾクッと背筋が震える。
そちらを振り返ると、兎人族の女性……それも、総じて見目麗しい彼らの中でもかなりの美人がいた。
自分を見ながらも体が勝手に使徒を暗殺している浩介を横目に見て、口元に笑みを讃えている。
「君、センセイの直弟子でしょう? とっても綺麗な殺し方と気配操作。私じゃ敵わないかも」
「へ、あ、セ、センセイって……もしかして、北野の事、ですか?」
たしかに、浩介に暗殺技を教えたのはシュウジだ。
スタークと三人で秘密裏に顔合わせをする度、シュウジは浩介に自分の技を教え込んだ。
人体の構造や暗器の知識、ナイフの力の込め方から最も刃が傷つかない振るい方まで、様々だ。
弱まっているとはいえ、堅牢な使徒の首を少しも引っ掛からず、滑らかに落とせるのはそのおかげである。
「ええ。私も訓練を受けさせていただいたけれど……君は格別。素晴らしいわね」
「っ!」
ニッコリと微笑む、可愛らしいウサミミをつけたお姉さん。
色々と経験して若干スレたとはいえ、浩介とてまだ童貞の高校男児。しかも童貞(大事なので二回)。
オート操作のように使徒の首は飛ばしながらも、仮面の下にある顔は真っ赤になっていた。
彼女いない歴=年齢の青少年の胸はドキドキと高鳴る。まさか、これが──
「私が名は疾影のラナインフェリナ・ハウリア。疾風のように駆け、影のように忍び寄り、死の一撃をプレゼントする、ハウリア族一の忍び手!」
一瞬で顔が引き攣った。
「……そ、そうですか」
「でも、君を見ていたら、この二つ名を名乗るのは気後れしちゃう。だから悔しいけど、〝疾影〟の二つ名は君に譲るわ。君の名前は?」
「……遠藤浩介、ですけど」
「じゃあ、君は今日から〝疾影〟……いえ。私を超えているのだから……〝疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート〟と名乗るといいわ!」
「いえ、結構──」
「それじゃ、私達が援護するから。あの怪物の首、君なら取れちゃうかしらね? ふふっ、期待してるわ、疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート!」
「……」
反論を挟む余地なく、それは綺麗な笑顔でガントレットを操作し、透明化する兎人族の女性。
「…………ラナインフェリナ。ラナさん、か」
「あぎゅっ」
使徒の首を両腕でねじ切りながら、浩介はその笑顔を何回も脳内でリフレインした。
アビスゲートどっから出てきたとか、なんでプレ◯ターの装備つけてるんだとか、他にも色々浮かんだが。
唯一重要なことは、このほぼ存在が消滅している今の浩介を見つけてくれたこと。期待してくれたこと。
何よりも。
──綺麗なウサミミ付きのお姉さんは、好きですか?
「疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート、参る!」
この世で童貞男子ほどチョロい存在は、いないのである(偏見)。
一気に浩介のやる気は天井をぶち抜き、両手に黒いナイフを握りしめると──
「〝狂人憑依:《
──技能の力で三人に増えた浩介が、スパパパパァン! と使徒達の首をものすごい勢いで刈り取った。
本人と魔力で作られた二体の影法師により、一気に使徒の包囲の先頭が無力化される。
見事な腕前。しかし、それによってキョトンとしたクラスメイト達に怪物達の魔の手が迫る。
やっべ! と心の中で叫んだ浩介が、慌ててフォローに回ろうとした時。
──チリン。
結界が、クラスメイト達を包み込む。
鈴の音と共に広がった橙色のそれに激突したシンビオート達の触手は、ことごとくひしゃげる。
見た目はとても薄いというのに、ありえざる強度を持つそれに誰もが目を見開いた。
「っ!?」
浩介もすぐさま立ち止まり、それを見て驚く。
「これは……谷口の結界か?」
「で、でも鈴ちゃんは今【神域】に……」
「じゃあ、一体誰が……?」
困惑するクラスメイト達。
そんな彼らの前に──ふわり、と。空から一人の人物が降り立つ。
「──無事だね、みんな」
「え……」
「だ、誰?」
「おばあ……さん?」
「ていうか、着物?」
口々に思ったままに話す少年少女達に、その人物──落ち着いた黄色の着物を着た老女は笑う。
その手に持つ上品な色合いに塗られた鉄扇が、結界と同じ仄かな橙色の魔力を纏っていた。
「「「グルガァァアアアアッ!」」」
「っ! お婆さん、危ない!」
そこへシンビオート達が一斉に攻撃の手を伸ばした。
老女ごと結界を貫かんとする槍、切り刻まんとする刃、あるいは純粋に伸張させた鋭い五指。
それらを見据え、皺の刻まれた目元を細めながら老女は微笑む。
「平気だよ。頼れる仲間がいるからね」
その、言葉通りに。
「……ッ!」
眩いほどに黒い剣光が。
「ふんっ!」
細々しく、されど剛健な拳が。
「──遅い」
薄く儚い、砕けてしまいそうな桜色の刃が。
老女と同じように空から降り注ぎ、シンビオートから守る。
強力無比な一撃を相殺し、新たに現れた三人の者達が老女の前に着地した。
「…………」
一人は、赤い亀裂の走った漆黒の武者鎧を纏った老年の男だった。
腰まで届く、後ろで三つ編みにされた髪。手には斬馬刀に酷似した大剣を握りしめている。
般若の半面で口元を覆い、赤と黒の両目で鋭くシンビオートの一体を睨みつけた。
「ふぅ。やれやれ、この歳になってもお転婆な妻を守るのも役目というわけか」
「当然。私を守ってくれるんだろう?」
「カカッ、怖い鬼嫁よ」
一人は、拳法家のような出立ちをしている、やはり老いた男。
オールバックに固められた灰色の髪に、二メートル近いすらりと引き締まった細い体。
地面にクレーターを作った拳を回し、手首を鳴らしながら武者とは別のシンビオートを見る。
「……夫婦漫才はそこまでにして。唯一の独り身には少し堪えるわ」
そして一人は、異様な雰囲気を放つ四人組の中で唯一若々しい出立ちだった。
白い着物と、桜色の帯。
短く切り揃えられた髪は美しいほどに透き通った白で、混じり気ひとつない。
何よりも、紫の眼帯でその瞳をどちらとも覆い隠していた。
「あ、あんたらは一体……」
「安心せい、味方じゃよ。まあ、この老けたツラではワシが誰だかわからんだろうがのう」
「それでいいさね。私達はこの世界の異物、やるべきことを終えればさっさと帰る身だよ」
老女の言葉にそれもそうか、と笑う拳法家。地球組は混乱するばかりだ。
そんな中、武者が剣を構えながら、呪詛のように低く刺々しい声を発した。
「……こいつらを殺して、南雲を見つける。それで終わりだ」
「そうね。その為に、私達は来たのだから」
眼帯の女侍が同意し、一歩踏み出して。
拳法家も頷き、彼らの隣に並んだ。
「……参る」
「カカッ! 久方ぶりにこの老骨、全力でやらせてもらうぞ!」
「──斬る。私の道を阻むものは、全て」
「みんなのお守りは請け負ったよ」
三人の戦士が、それぞれシンビオートに向けて駆け出した。
戦闘は次回に。
読んでいただき、ありがとうございます。