星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はちびっ子コンビです。

楽しんでいただけると嬉しいです。


そして、未来が希望を知らしめす 8

 三人称 SIDE

 

 

 

 ガシャン! と音を立て、地面に叩きつけられる一体のゴーレム。

 

 

 

 身体中至る所から散る火花は、まるで鮮血が噴き出す様のようだ。

 

[ひ、姫、逃げてください……ガクッ]

「あすもでうすっ!」

 

 主人を案ずる言葉を残し、機能を停止したデモンレンジャー最後の一体にミュウは叫んだ。

 

 しかし、無惨に破壊されたあすもでうす(ミュウ命名)は立ち上がることはなく、カメラアイから光は消える。

 

「ガァアアアァア!!!」

 

 そんな幼子を嘲笑うが如く、ハジメ製生体ゴーレム〝デモンレンジャー〟を蹂躙した怪物が咆哮した。

 

 原点であるライオットに多少似通った色形をしたその個体は、ミュウには大怪獣に見える。

 

 ハジメの娘として。また、大事な友達であるリベルやその母親であるルイネを守る為戦場に立ったミュウ。

 

 だが、守るものが何も無くなった今、ビクリとその声に体を震わせた。

 

「キィイェエエエエエエェェエ!!!」

「っ!」

 

 灰色の凶刃が、ミュウに迫る。

 

 地面に座り込んだ幼女は、ギュッと目を瞑り。

 

「〝渡れ不の岸辺〟」

 

 その刃を、地面に走った光の境界が弾く。

 

 まるで賽の河原の如くミュウとシンビオートを分断したその光は、空間魔法によるもの。

 

 断絶された空間にシンビオートは触手を切断、そのまま消滅させられ、怒りの声をあげる。

 

 一方、境界に守られたミュウはいつまでも痛みが来ないことを不思議に感じ、恐る恐る目を開いた。

 

「……うみゅ? 痛くないなの?」

「うふふ。危なかった、わね。かわい子、ちゃん」

「みゅっ!?」

 

 突然、後ろから両脇に手を入れられ、抱き上げられる。

 

 驚愕と共にミュウが振り返れば、そこには見ていると心が蕩けていくような雰囲気を湛えた美女。

 

 また彼女からは、不思議とウサギと同じ雰囲気がした。

 

 間一髪、ミュウを魔の手から救ったハッターは、ぽかんとしている彼女に微笑みかける。

 

「はじめ、まして。私、ウサギちゃんの、お姉さん、よ」

「……ウサギお姉ちゃんのなの?」

「ええ。未来の義弟くんの、娘さん。私達が守って、あげる、わ」

 

 正体を明かされて安堵するミュウ。

 

 束の間、幼いながらも中々に勘の鋭い彼女は〝達〟という言葉に疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 

「ガァアアアァア!!!」

 

 

 

 

 

 それを言葉として質問にする前に、咆哮したシンビオートに体を震え上がらせた。

 

 咄嗟に両手でハッターの胸元を握り、顔を埋めることで少しでも遠ざかろうとする。

 

「平気、よ。ほら」

 

 彼女は優しげな手つきで背中を撫で、そっと促す。

 

 まるでレミアのように安心する手つきにミュウは、二度(ふたたび)目を開いて顔を向ける。

 

 すると、境界の対岸でシンビオートが群がる〝金色の使徒〟達を煩わしそうに相手していた。

 

 パチパチと目を瞬かせ、何故か仲間割れをしているシンビオートと使徒を見る。

 

 そんなミュウに答えを示すように、ハッターの隣へ後ろから白い法衣を纏った男が並び立った。

 

 そして、目を閉じた顔でニコリと笑いかける。

 

「お初にお目にかかります、かの魔王の娘よ。私はハギオス。順番で言えば、ウサギの弟になります」

「……ミュウなの」

「では、ミュウ様と。我らが来たからには、貴女様の安全を確約しましょう」

 

 普通の女性ならば、それだけで骨抜きにされそうなハギオスの微笑。

 

 そういった感覚を覚えるにはまだ幼すぎるミュウは、純粋に頼もしさを感じ取ってコクリと頷いた。

 

 しかとそれを感じ取ったハギオスが、使徒達を迎撃しているシンビオートへと顔を向け。

 

「では始めましょう──〝奪眼〟」

 

 その金瞳が、開かれる。

 

 解き放たれるは同じ色の魔力。それは相手の魂を強奪する理不尽なほど強力な魔法。

 

 これによって使徒達の擬似的な魂魄を掌握し、戦力としている訳だが……シンビオートは支配できない。

 

「おや、これは凄まじい。強力な〝怒り〟がプロテクターの役割を果たしている。ですが……〝痺眼〟」

「グギィッ!?」

 

 再び金瞳が輝き、途端にシンビオートは痺れたように動きを止めた。

 

 〝痺眼〟は相手の魂魄と肉体の間にある接続にズレを引き起こし、不自由にさせる拘束魔法。

 

 よほど実力が乖離していればそのまま魂を体から引き摺り出すこともできるが、流石に動きを止めるのが限界。

 

 されど。黄金の使徒達が双大剣を全身に深く突き刺し、貫くだけの時間は作った。

 

「ガァアアアァアァアアアア!!!!!」

「みゅっ!?」

「あら。驚い、ちゃった?」

「失礼、少々手荒でした」

 

 またもハッターの胸に引っ付いたミュウに、少し申し訳なさそうにハギオスは謝る。

 

 

 

 

 ホムンクルス達はそれぞれ、創造主たる解放者達の性格をどこか受け継いでいる節がある。

 

 彼らの魔力と神代魔法を用いて造られたが故か、あるいは子が親を真似するような現象であるのか。

 

 その中でもハギオスは、特に子供を慈しむ。怯える様を見るのは気分が良いものではない。

 

「可愛らしい幼な子よ、すぐに終わらせます」

 

 言いながら、ハギオスは黄金使徒達を操作してシンビオートから離れさせる。

 

 全身隙間なく滅多刺しにされたシンビオートが両膝をつき、釣り上がった目を細めて憤怒と殺意の目を向けた。

 

 そんな醜い怪物へ、何故か目を閉じたハギオスは憐れむように微笑みながら告げた。

 

「──では。そろそろ出番ですよ、()()

「ゲコッ」

 

 そして、彼の法衣のフードの部分から飛び出し、境界の向こう側へ着地する影。

 

 ハギオスとシンビオートの間は着地したその生き物は、緑色の体色でとても小柄だった。

 

 三メートル近い体躯を持つシンビオートと比べ、実に矮小なそれは──シュウジ達と旅を共にしてきた、カエル。

 

「──ゴァアアァァアアアアッッッ!!!」

 

 それを見た途端、シンビオートは本能的に舐められていると猛り、怒った。

 

 この身を切り刻む絶好の機会をあえて手放し、たった一匹の魔物に相手をさせようというのだ。

 

 なんとふざけた人形か。

 

 

 

 

 

 その傲慢と嘲り許し難い、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッッ!!!! 

 

 

 

 

 

 ……と、その思考を表現するのであれば、そのように怒り狂ったシンビオート。

 

 怒りのままに、修復が終わった全身を凶器へと変貌させ、まず魔物を踏み潰してやろうと踏み込んだ。

 

「カエルさんっ!」

 

 ミュウが手を伸ばす。

 

 あの裏オークションの時、彼女にとってカエルはいざという時そばにいてくれた存在だった。

 

 エリセンまでの旅でも何度も遊び相手になってくれた、言うなれば家族同然のペット。

 

 そんなカエルが、あっさりとあの怪物にペシャンコにされる様を想像し、顔を青ざめさせ──

 

 

 

「ゲゴッ!!!!!」

 

 

 

 次の瞬間、カエルの体が一瞬にして十倍以上に膨れ上がった。

 

 まだら模様が浮かぶ緑の表皮が、刹那の間に何百という鱗に包まれた毒々しい紫色のものへと塗り替わる。

 

 細い四本の足がメキメキと筋肉の鎧を纏い、その上から堅牢な甲殻と鋭い鉤爪で覆われた。

 

 両生類特有の瞳が菱形に開かれ、極め付きに大開放された口内で棘の生えた舌が蠢きぬめる。

 

 

 

 

 

 ── 大飢蟇(だいきがま) アヴァドン。

 

 

 

 

 

「ガァアアアッ!?」

 

 悲鳴を上げたときには、もう遅い。

 

 がっぱりと大きく開いた、まるで冥府への入り口のような大口から伸びた舌に絡め取られた。

 

 

 

 

 

 暴れる間も無く引き込まれると、その断末魔の悲鳴ごとバクンと閉じ込められてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「………………ふぇ?」

 

 目が点になるミュウ。

 

 固まってしまった彼女の前で、モゴモゴとアヴァドンは体を揺らしながら咀嚼していく。

 

 ハッと我に返ったミュウは、シンビオートが中で暴れているのだろうかと、ハラハラとした顔をする。

 

 そんな心配は杞憂で、次第に体の揺れが小さくなっていった。

 

「ゲゴッ」

 

 やがて、少し口を開けてペッと何かを吐き出す。

 

 宙を舞う何かは地面に落ち、数度転がるとその表面を覆う唾液によって停止する。

 

 それは、半分以上溶けた生気のない使徒の頭部だった。

 

 ドロドロの残骸を見て、ミュウは一言。

 

「……カエルさん、ちょー強いの?」

「ええ。彼は昇華魔法の強化度だけで言うのであれば、大兄上……アークに最も近い存在ですから」

「うふふ。かっこいい、わあ」

 

 ティオよりも巨大な龍になったアークに迫る実力。

 

 ミュウは、自分が心配する必要などないことをなんとなく察した。

 

 そんな三人と一匹を、増援でやってきた使徒の一部隊が空から取り囲む。

 

「「「解放者の人形を三体確認。殲滅します」」」

「っ、凄い数なの!」

「あら。おしゃべりする暇も、ない、みたい」

「そのようです。それに……」

 

 ハギオスが空だけでなく、周囲にも目を向ける。

 

 地面を塗り潰す勢いで全方位から向かってきているのは、コクレンや魔物の大軍勢。

 

 あっという間に包囲網が出来上がっていた。

 

「まだまだ、この瞳を酷使する必要がありそうですね」

「ゲゴッ」

 

 ハッターが帽子の縁の奥から妖しい目線を向け、ハギオスが柔和かつ怜悧に笑う。

 

 アヴァドンもまた、巨大な体の向きを変え、殺到する使徒達を見上げて。

 

 

 

 

 

 

 

「〝拒界〟」

 

 

 

 

 

 

 

 どこからか響いた声と共に、空に咲いた深い緑色の魔法陣の光によって使徒達が一斉に堕ちた。

 

 突然糸が切れたように落ち、地面に転がった人形の雨に、ハッター達が怪訝な顔をする。

 

「……みんな、動かないの?」

「今のは……使徒達に供給される魔力が、途絶えた?」

「まるで、エネルギーを操作、したみたい」

「これは、突然どうしてっ」

 

 その場で疑問を顔に浮かべるハッターらに、同様に驚く使徒達は攻撃することができなかった。

 

 何故ならその前に、空に現れた魔法陣が凄まじい勢いで拡大を始めたからだ。

 

 効果範囲の増大を意味するその光景に、使徒達は後退しようと翼をはためかせ──真上から降り注いだ魔力に襲われる。

 

 

 

 

 

 緑の魔法陣とは異なった、重力そのものを叩き落としたようなそれは、紙のように使徒達を潰す。

 

 薄くなった使徒達の死骸が落ちていき、風に吹かれて飛んでいった。

 

 使徒の隊列に大穴が空き、残る者達が再び空を見上げた瞬間──そこには真っ黒な大口径の銃口が。

 

「死ね、なの」

 

 

 

 ドバォンッ!! 

 

 

 

 引き金が引かれ、エメラルドグリーンの閃光が使徒の頭を貫く。

 

 非常に貫通力のあるその閃光が一体に留まらず、二桁に登る数の使徒を一気に殲滅した。

 

 発生源たる、趣のある装飾が凝らされたショットガンを握るのは、〝ヒレのような耳を持つ〟齢二十ほどの美女。

 

 海人族たるその女は、一拍の後に全方位から振るわれた双大剣の僅かな隙間をくぐり抜けて回避する。

 

 

 

 

 

 そのまま空中を蹴り、三人と一匹の前に着地する。

 

 立ち上がったその姿は、まるでアマゾネスのように必要な部分だけを隠した機動力重視の服装。

 

 くっきりと腹筋が浮かぶウェストは引き締まっており、手足はすらりと長く、しなやかな筋肉がついている。

 

 ガチャン! と力強くショットガンをリロードし、美しい相貌を振り返らせると、一言。

 

「──助太刀にきたの」

「あなたは……もしや」

 

 その顔──否、胸の中心で力強く輝く魂にハギオスは目を見開く。

 

 一つとして同じものはない魂の色が、ハッターの胸に抱かれた魔王の娘のものと全くの瓜二つであったからだ。

 

 初めて驚愕を見せた彼は、まさかと思い消失した魔法陣の上に位置する、もう一つの魂魄の持ち主を見上げる。

 

「私達も、混ぜてくれる?」

 

 宙に浮かぶ、ダークグリーンの美しい髪を持つ女が海人族の女に追随するように、そう告げる。

 

 今度こそハギオスは限界まで瞠目し──その後に、ふっと微笑んだ。

 

「できれば、手は多い方が助かりますね」

「そう、ね。敵は、沢山いるもの、ね」

「ゲゴッ」

 

 ハッターとアヴァドンが、ハギオスに賛成した。

 

 しかとそれを聞き届け、頷く女。

 

 

 

 

 

「良かった。それじゃあ──」

 

 

 

 

 

 天上の女──リベルが、妖艶かつどこかニヒルに笑えば。

 

 

 

 

 

「思う存分、やらせてもらうの」

 

 

 

 

 

 海人族の女──ミュウが、魔王と瓜二つの獰猛すぎるほど好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 二人の女が新たに参戦し、そこへタイミングを見計らったように魔物とコクレンが到達する。

 

「「「「「グルァアアアァアアァアアアアアアッッッ!!!」」」」」

「──私が下を」

「じゃあ、私が上をやるの」

 

 一言交わし、ミュウがグッと体をかがめる。

 

 そのまま、リベルへ殺到している使徒達に向けて地面を抉りながら激しい音を立て跳躍した。

 

 ほぼ同時、身構えたハギオスらへ襲い掛かろうとした黒い波に、リベルが手を翳す。

 

「〝灼陸〟」

 

 一つの魔法の名が告げられる。

 

 行使された能力に呼応して、瞬く間に黒い軍勢の足元が激しい地震に覆われ、体制が崩される。

 

 そうして一瞬、彼らの侵攻が止まった瞬間。一気に地面が眩いばかりに赤く輝き──

 

 

 

 

 

 

 

ドッバァァァアアアアン!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 噴火する。

 

 地面の奥底を流れるマグマを超常的な力で引き出し、ハギオス達を内に醜い獣達を焼き尽くす。

 

 さしものコクレンや魔物といえど、マグマの熱には耐えられずに瞬く間に骨の髄まで溶けていった。

 

 

 

 

 それだけでは終わらない。

 

 リベルは翳した右手に左手を添え、扉を広げるように外へと開いていく。

 

 その肌をダークグリーンの魔力が伝い、宝石のような双眸が強く輝いて。

 

「〝滅波〟」

 

 吹き上がっていたマグマが、突如として全方位へと拡散した。

 

 音の波が伝うように、マグマは外へ外へと激しく地面の上をうねり、黒波を喰らい尽くしていく。

 

 唯一、ハッターの境界によってその〝赤〟を逃れている三人と一匹だけがそれを眺められた。

 

「これほど大規模の魔法、ありえませんっ。いえ、まさか神代魔法……この星そのもののエネルギーをも操作しうるほどのっ!」

「無駄口が多すぎるの」

「っ!」

 

 

 

 ドバォンッ!! 

 

 

 

 掃除をするように滅ぼされていく地上の軍勢に泡を食っていた使徒の一人が、頭部を失う。

 

 回避する間もなく、知覚した瞬間にその頭を撃ち抜いたミュウはすぐに次の標的を定めた。

 

「させませんっ!」

 

 いとも容易く使徒の肉体を吹き飛ばすショットガンをこの場における最大の脅威と認定し、複数の使徒が迫る。

 

 彼女達が到達するのとほぼ同時、引き金を引きながらミュウがぐるりと振り返り。

 

「うらぁっ! なの!」

 

 そして、突き出された四本の大剣を()()()()()()()()()()

 

 分解の力を持つはずの双大剣は、打ち払われるどろか、薙ぎ払われた右脚の当たった場所から粉々に砕けてしまう。

 

 しかし、その代わりに弾丸は明後日の方向へ飛んでいった。使徒達は瞳にどこか嘲りの色を浮かべる。

 

 

 

 ドババァンッ!!! 

 

 

 

 飛んでいた使徒の一体が持つ双大剣に当たり、跳弾して五体の使徒を破壊するまでは。

 

 顔を強張らせた二体の使徒に、ロングブーツの〝空力〟を使って接近したミュウは逆に嗤いかける。

 

「お前らごとき、妨害にもならないの。私を鍛えたのは、世界一強いパパの女達だよ?」

「っ、こんなことが!」

「新たな、イレギュ──」

 

 最後まで言い切る前に、ミュウが左手で後ろ腰から引き抜いたナイフに首を掻っ切られる。

 

 〝魔力断絶〟の概念が付与された一閃は、【神界】からの魔力供給のラインを断ち切ってしまう。

 

 

 

 

 落ちていく使徒達は、すかさずハッターが空間魔法で引き寄せて回収。

 

 その骸をハギオスが〝奪眼〟で傀儡にすることで、こちら側の戦力に加えた。

 

 その一連の流れを他の使徒が邪魔しようとしても、飛んできたアヴァドンの舌に捕まるだけである。

 

「さあ。皆殺してあげる」

「次に殺されたいやつは、どいつなの?」

「これで二十。次はどの方を操って差し上げましょうか?」

「うふふ。まだまだ、いけるわ、よ?」

「ゲゴッ!!!」

「え、えっと。みんな、頑張ってなの!」

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 未来からやってきた二人が加わってからの戦闘は、まさに圧倒的だった。

 

 

 

 

 

 ミュウは十数年の月日をかけて、ユエを筆頭とした面々に超英才教育を受けてきた。

 

 ショットガンを持たせれば、始に擬態したエボルトから伝授された神業を発揮し。

 

 ナイフを持たせれば、かのプレデターハウリア達の族長をも凌ぐ体術と暗殺術を披露してみせる。

 

 魔力は保有しておらずとも、アーティファクトの補助を受ければ上級魔法すら行使できる。

 

 果ては昇華魔法を会得し、若々しき体を保ったまま、さらにもう一段階上の実力すら会得していた。

 

 身体能力、戦闘技術、知力、胆力、全てが一級品。

 

 魔王の娘に歯向かう愚か者は、全て殺される運命にあるのだ。

 

 

 

 

 姉妹のように育ってきたリベルもまた、本来の使い手であるミレディに教えを授かった。

 

 唯一その身を異形として生き続けることを選んだミレディは、己の力を持つホムンクルスに〝未来〟を期待した。

 

 だからこそ、育て方次第でどこまでも成長できるホムンクルスとして、子供の姿でリベルを作ったのだ。

 

 五十年をかけて、生みの親直々に鍛えられたリベルは──原点たるミレディを、凌駕している。

 

 

 

 

 そんな二人と、この時代のハギオスにハッター、そしてアヴァドン。

 

 これだけの役者が揃っていて、どうして数が多いだけの使徒や魔物、コクレンが勝てる? 

 

 だからそう、これは戦いではなく──一方的な、〝狩り〟だ。

 

 

 

 

 その〝狩り〟は、戦場の至る所で行われている。

 

 赤い戦鎚を手に、あちこち飛び回っては手当たり次第に敵を数百体規模で殲滅するシア。

 

 ブラックホールや、一度で数百メートルを破壊する衝撃波など、圧倒的すぎる力で暴れるエボルト怪人態。

 

 連合軍や、この短時間で立て直された騎士団&スマッシュ部隊と共に戦い、蹂躙しているウサギ。

 

 アドゥルに代わり、竜人族の先頭にて数々の〝簪〟から生まれた龍を操り、使徒を貪り喰らうティオ。

 

 地上を埋め尽くさんとする魔物やコクレン達をみるみるうちに減らしていく、浩介率いる数千もの未来のプレデターハウリア達。

 

 いつの間にか地上に出現した、百メートルはあろうかという大蜘蛛や大蛇、飛龍などを操る清水。

 

 始の元へと向かいながらも、道を阻む敵達を片っ端から撃退する勇者パーティー。

 

 凄まじい超超広範囲攻撃で使徒を殲滅するカオリ/ミソラと治癒師コンビ。

 

 そんな、あまりに強力な戦力──簡単に名前をつけるのであれば、〝未来軍〟の参戦。

 

 

 

 

 

 一騎当千では到底収まらない。

 

 

 

 

 

 言葉として表現するのであれば、一騎当()というところでようやく妥当であろう。

 

 思わぬ戦力の登場に、神軍側はものの見事に手をこまねいている。

 

 苦境に立たされていたエボルト達からすれば、笑いが止まらない状況だ。

 

『面白えくらい逆転したな。これなら十分保つ……いや? それどころか逆に殲滅しちまうんじゃねえか?』

「驚くべきことだ。たった一人のために、これほどの数の人間が未来からやってくるなど……」

『──いいや。あいつらからすれば、()()()()()()()()のさ』

 

 半ば呆然としながら呟くベルナージュへ、揶揄うようにエボルトが否定する。

 

 その視線が向かう先は、司令部で最も大きな画面に表示された一文。

 

 

 

 

 

 〝We are losers.〟

 

 

 

 

 

 たった一言で、彼女達の存在全てを示す、その言葉。

 

『あいつらは、全員が等しく大切なものを失った。それは取り返せないもので、二度と手に入らないものでもある』

「……故にこそ、もう失うまいと。そのために、今も未来も超えて、過去へと来た。そう言いたいのか?」

その通り(Exactly)。いいねえ、実にロマンチックだ! 俺はこういうのを待っていたァ!』

 

 立ち上がり、片足を机に乗せると大仰に両手を振り上げるエボルト。

 

 皆が困惑か、あるいは白い目線を向ける中でエボルトは座り直し、両手を頭の後ろに組む。

 

 そのまま天井を見上げ、だらけた姿勢に戻る様は、実にテンションの落差が激しくてウザい。

 

「貴様、もう少しやる気を出したらどうだ?」

『必要ない気合は入れない主義でね。それに……っと、やばいな』

「……何?」

「ほ、報告します! 使徒の一部が未来軍の攻撃を抜け、再び聖歌隊に向かっています!」

 

 直後、強張った口調で叫んだ司令部の一人にベルナージュはすかさず画面を見た。

 

 無数に設置されたアーティファクトから投影される映像の一つには、確かに数体の使徒が攻撃を抜けている。

 

 その後ろではカオリに撃墜されたのか、黒い爆炎からバラバラと数百もの使徒の残骸が落下している。

 

『大方、かなりの数を固めて一番中心にいた奴らだけを突破させたんだろうな。いくらあいつらが強く、こっちの兵士どもが強化されても、要である弱体化を止めさせれば盤面はあちらに多少傾く』

「動かせる戦力は!」

「皆無です! 未来軍の助力があっても、各地の対応が手一杯だと!」

「こちらも報告します! 要塞内にて警護されていた、限界突破付与用アーティファクトの周囲に多数のコクレンが出現! 守衛隊が応戦していますが、長くは……!」

「同時に叩くつもりか。だが、どのように……」

『地面でも掘ってきたんじゃねえか? ほら、あいつらの指土掘りに使えそうな形してるし』

「ふざけるなと言いたいところだが、戦術としては有効であることが非常に腹立たしいな……!」

 

 実際のところ、コクレン達はエボルトが口にした通りの戦法で出現している。

 

 

 

 

 だが、そこにいたのは戦争が始まってからではない。

 

 もっとずっと以前──魔人族の王都侵攻に際して、密かにアベルが地下深くに埋めておいたのだ。

 

 ユエにせよシュウジにせよ、エヒトが己の器を手にした後に行う人類殲滅の折、王都を今度こそ滅ぼすための布石である。

 

 元は地球組にけしかけるためのものだったが、こうしてアーティファクトの排除に役立ってしまっている。

 

 

 

 

 覚醒のトリガーは、操作権を持っていたアベルの任意か、あるいは彼が死んだ時。

 

 それは強大な戦力の撃破を意味してもいるが、この状況ではプラスマイナスゼロという所だろう。

 

「……誰も動かせないならば、私が出向くしかない、か」

『さすがは火星の王妃。好戦的だねえ……お前は座ってろ。俺が行く』

 

 

《ライフルモード!》

 

 

 難しい顔で呟くベルナージュの横で、エボルトが立ち上がった。

 

 彼女は驚きに顔を上げる。

 

 トランスチームガンを担いだエボルトは、そんな王女にヒラヒラと手を振った。

 

『もう一人の俺が、わざわざ未来からやって来て戦ってるんだ。流石にサボってたらとやかく言われそうなんでな。とりあえず、要塞内の方は片付けてやる』

 

 エボルトの声音は、真剣そのもの。

 

 しかしこの異星人、言うことの九割は冗談か嘘だ。

 

 火星も、夫も、民も、全て滅ぼされたベルナージュは、怨敵として何よりその性質を知っていた。

 

 

 

 

 じっと見つめてくる美しい碧眼。

 

 そこに浮かぶ懐疑と憎悪の色に、エボルトは愉快げな声で告げる。

 

『安心しろ、裏切ったりしねえよ。必要ならそうするが、俺はあいつだけは……シュウジだけは裏切らないと、そう決めたんでな』

「……何故だ。どうしてそこまで、お前はあの人間に肩入れする?」

『おいおい、あいつの生い立ちと俺が絆された話はもうしただろ?』

 

 この状況で何を聞いてるのかと、そう馬鹿にするようなエボルトの言葉。

 

 しかし、ベルナージュは頑として二の句を告げることはなく、ただ答えを待つ。

 

 頑固なその姿勢に、やれやれとアメリカンな反応をするエボルト。

 

 しかし、五秒待っても、十秒待ってもこちらを射抜くその視線に……

 

 

 

 

 

『……正直、俺にもわからん』

 

 

 

 

 

 そう、一言呟いた。

 

「わからん、とは?」

『カインに無理やり押し付けられた善性程度で、俺の根底は変わっちゃいない。あらゆる星を食い尽くす宇宙の癌細胞、それが俺という生命体だ』

「では、どうしてこの世界の人類に、結果的には肩入れした? とっくに力は取り戻したはずだ。それを奪い、自由になることもできただろう」

『……そうだな、そうすることもできた。俺にはあいつの計画に力を貸す義理もなかったさ』

 

 そう、エボルトにはなんの益もないのだ。

 

 シュウジがやろうとしていることを台無しにする、というのも所詮は戯言の一つに過ぎない。

 

 むしろブラックホールの力を取り戻した時点で、エヒトの側についてこの星を喰らってしまった方が余程得だった。

 

 それが、エボルトという残虐非道な存在が下す判断のはずだった。

 

 

 

 

 

 ただ、と。

 

 

 

 

 

 モニターに映る、空の大穴──【神界】への扉を見て。

 

 どこまでも冷酷で無情で、外道なその生命体は。

 

 また一言、呟くのだ。

 

『どうしようもなく気に入っちまったんだよ、あいつのことがな』

「…………!」

『理由はそれだけだ。大それた陰謀を期待してたのなら悪いが、俺が動くのはあいつが好きだからであって、他の何の為でもない。お前らが助かるのはあくまで()()()だ』

 

 だから勘違いするなよ、とお決まりのセリフを言いながら。

 

 瞠目しているベルナージュに向けて、空いた左手の指を折り曲げて。

 

『チャオ』

 

 その一言を残し、瞬間移動していった。

 

 

 

 

 

スチームショット! COBRA!

 

 

 

 

 

 直後、アーティファクトの設置されている場所を映す画面から響く、甲高い声。

 

 同時に、コクレンの怒号と守衛隊の悲鳴で満たされていた画面を一条の光が貫く。

 

 画面内でコクレン達が動きを止め、守衛隊は動揺しながらも後ろを振り返る。

 

『さあ、ゴキブリみてえに数だけは多い不細工ヅラども。俺の運動不足の解消に付き合ってもらおうか?』

『『『──ガァアアァアァアアアアァァアアアァアアァアアアアッ!!!』』』

 

 そして、エボルトは戦い始める。

 

 数十体という、アーティファクトを破壊せんと群がる悪魔の群れと。

 

 それを見上げていた、ベルナージュは。

 

 

 

 

 

「……本当に。本当に貴様は変わったのだな、エボルト」

 

 

 

 

 

 なんとも複雑そうに、微笑んだ。

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回でこの流れは終わります。


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