ハジメ SIDE
「──と、まあ。このような結末を迎えたわけだが。どう思う? 南雲ハジメ、八重樫雫よ」
「チッ……!」
「く…………!」
空間の割れ目から垂れ流されたその映像に、舌打ちをせざるを得ない。
それは自分の中に沸き起こった激情を暴発させないための行為であり、漏れ出てしまった一部でもある。
結果だけ見れば、俺達の完全勝利。
各々がこの三日で鍛え上げ、手にした力を存分に発揮して、それぞれの敵を殺した。
だが、結果良ければ全て良しなどと仲間の死を割り切れるほど、人間の心を捨てちゃいない。
それとは裏腹に、殺し合いの中においては冷徹な方が勝つのが真理であることもまた、理解している。
故に冷静にならなければいけない。
たとえどれだけ、坂上の死に怒りを感じ、天之河と御堂の結末に悲しみを覚えようとも。
……そうしなければいけない理由は、自分以外にもう一つある。
「ッ……!!」
幼い頃から共に育った男の、相対することになった友の死を、その女ともう一人の幼馴染の悲恋を見届け。
今にも泣き叫びたいだろうに。シュウジの肉体でなければ、くびり殺したいほど怒り狂っているだろうに。
音が響くほどに刀の柄を握りしめて。下唇を噛み切りそうなほど噛み締めながら。
それでも涙を流すまいと、激情を押さえつけようと、そう堪えている女を見て。
どんな恥知らずが、怒りを叫べるというのだ。
「思った通りの反応だ。実に悲しい結末だものなぁ」
「ッ!」
「……外道が」
いけしゃあしゃあと、さも同情するかのような口調で言いやがる。
そのにやけヅラは、あの虹の空間のすぐ次に時計塔に移動させたのはわざとではないかとすら思える。
実際にそうした可能性は、かなり高い。
奴の腐れっぷりは解放者達の残した記録で、何より魔王城の罠でよく知っている。
チラリと横を見てみれば、八重樫の目は既にそれだけで人を殺せそうな程に殺意に満ちていた。
それを見てまさに愉悦だと笑う様は、シュウジと魂が溶け合おうと、奴がエヒトなのだと確信させた。
そもそもハナから奴の言葉を信じちゃあいないが……だとしても、十分すぎる。
「さあ、もう一度問おう。我が下に来るのだ。さすれば、塵と化したあの《獣》達は甦らせることはできないが、未だ魂まで滅んではいないあの男ならば使徒として生き返らせてやるぞ?」
「貴様──ッ!」
「──ハッ、随分と都合のいい言葉だ。いかにも三文芝居の悪役が提示する条件だな」
刀を抜きそうになった八重樫を制するため、挑発を口にする。
たちまち奴の視線はこちらに向いて、そうすると思っていたと言わんばかりに目を細めた。
クソッタレ。あいつが揶揄う時によく似たその反応が、何よりも俺を苛立たせるよ。
「だが、良いセリフだろう? 使い古された言葉は往々にして、それだけの価値があるのだ」
「だとしてもお前が言ってる時点で0点なのがわからねえか? あまりに滑稽すぎて、耳が腐るかと思ったぞ」
「ククク、よく回る口だ。それでこそ、この男が己を預けるに相応しい男だろうよ」
「……その言葉は、あいつ本人から聞いたからこそ意味のある言葉であって、お前が口にしていいセリフじゃねえ」
変心してから頑固になったなどと自分に嘯いていたが、俺も結構な単純馬鹿だ。
なにせ、あの時一回頼られた、たったそれだけで、他の何を差し置いても助けようと思ったんだから。
あいつだから、精一杯に両手を伸ばす。伸ばしたいと、そう思える。
だが相手がこいつとなれば──向けるのは、この二つの銃口以外に存在しない。
「──お前は殺す。混ざってるシュウジは引き剥がして、その体ごと奪い返す。これ以外に俺の答えはない」
「そうか。ではお前はどうだ、八重樫雫?」
エヒトが目を向け、俺も目線は奴からそらさずに、隣にあるその体から発する気配を感じ取る。
頭を冷やすだけの時間はやった。そして八重樫雫という女は、これを無駄にする様なやつじゃない。
「──ええ、そうね。私もお断りだわ。その真っ黒な薄汚い手、斬り落としはしても取ることはありえない」
そら。お前ならちゃんとそう答えられると思ってたぜ、八重樫。
刀を引き抜く清涼な音が響き、左の視界の端にてその切先がエヒトの心臓へ定められる。
答えは同じ。いまさら顔など見合わせなくても、俺達二人の答えが変わるはずがない。
「それに、一つ言っておくけれど。龍太郎は自分の意思で戦い、散ったわ。たとえ未練があっても、それでも誇りをかけて戦い抜いたのならば──私の自慢の幼馴染は、絶対に、後悔なんてしていない」
「それはただの押し付けではないか? あるいは、そうであると思い込んで己の心を守りたいのか?」
「貴女にはわからないでしょうね。表面にシューの薄皮一枚を被せただけの外道には、信じるということが」
「──ククッ。どこまでも面白い者達よ」
ここまでコケにされても、なおも楽しそうに、どこか余裕のある様子で笑いながら。
奴は頬杖を外して、両手を肘掛けに置くと、一息に立ち上がった。
「この様な結末になったことは、実に惜しい。だがその刃を収めないというのであれば、我も最後の余興に相手をしてやるのもやぶさかではない」
「言ってろ。せいぜい、それが辞世の句にならないことを祈るんだな」
「散々コケにしてくれた分、ズタズタに切り裂いてあげる」
「──ハ」
奴が笑う。それがこのくだらない問答の終わりであることは明白。
途端に俺も八重樫も、全身から魔力を吹き上げ、それぞれの戦闘態勢を整えたのも必然で。
奴が虚空に手を伸ばし、〝それ〟をどこからともなく取り出したことも、ある種当然だった。
「エボルドライバー……」
「やっぱり、それも掌握してたな」
「面白い道具だ。これから始めるのは我にとっては遊戯だが、はてさてどこまでこれで楽しめるか」
嗤いながら、奴はそれを腹部に当てる。
衣服を固定する腰布に被せる様に、黄金のベルトが現れ、奴の体にドライバーを固定した。
それから奴は、勿体つけた動作で懐に手を伸ばし──見たことのない、黄金のエボルボトルを取り出す。
桁外れの視力で確認したそのレリーフは、まるであの召喚された日に見た壁画のよう。
人を、魔物を、亜人を、竜を、その他全てを包み込むような、男にも女にも見える神々しい人物。
自尊心の現れのようなそのボトルのキャップを、奴は見せつけるように開けて。
「では、開演しよう」
《 スプリーム! ライダーシステム! 》
もう一本の見慣れたボトルともに、エボルドライバーへと挿し込んだ。
あいにくと、チンタラ変身するのをボケッと見てるような趣味はない。
「死ね」
「シィッ!」
すぐさま銃の引き金を引いた。同時に隣で八重樫の鋭い呼気が発せられる。
ドパンッ!
聞き慣れた乾いた音。
重ねる様に、これ以上ないほど速い斬撃波が奴めがけて空中を疾走する。
しかし、俺の緋色の弾丸も、八重樫の斬撃も、届く前に奴の足元から放射状に突き出た
「チッ、カーネイジもか」
「……厄介ね」
「不埒である。こういった時に邪魔を入れるのは、マナー違反というものだぞ?」
《 S U B L I M A T I O N ! 》
よく知るそれをも支配していたことに、僅かな驚愕と苛立ちを舌打ちにして吐き出してみる。
返事を返してきたエヒトが、聞いたことのない音楽を発するドライバーのレバーを握った。
そして、よく見知った動作が、知らぬ音と最悪の中身によってゆっくりと始められた。
レバーが回される。
交響曲9番によく似たアレンジとはまた違う音楽が、ドライバーから流れた。
どこか陽気な通常とは異なり、何百人ものフルコーラスが追加された、無駄に荘厳な音の奔流。
「クソッ!」
「くっ!」
間断なく二人で銃撃と斬撃を放つものの、その身の周りを蠢く茨に悉く撃ち落とされていく。
そうしている間に、ドライバーから伸びたチューブが奴の周囲に、次々と〝扉〟を形成した。
《ARE YOU READY?》
やがて、六つの扉と、奴の背後に一際大きな宝扉が形成されたのを最後に音楽が途切れる。
同時に壮大なコーラスが止まり、一瞬の静寂が訪れる中で、奴は両手を大仰に横に広げ。
「──変身」
その言葉を、口にする。
〝瞬光〟を発動した俺の目には、奴が変身する過程が一から十までくっきりと映り込んでいた。
背後の扉が観音開きし、そこから伸びた黄金のチューブが奴の全身を覆い尽くした。
かと思えば、六つの扉が一人でに動き出し、繭に包まれた奴の体の周りを旋回し始める。
少しの後、繭が光り輝いて黒と白のアンダースーツへと姿を変え、ピタリと止まった扉が開く。
そこから現れたるは、優しげな微笑を称えた六人の天使像。
その天使達は顔だけを残して粒子となり、そして鎧に姿を変えて装着される。
全ての鎧を纏い、最後に頭部へ王冠の様に天輪が、背に純白のマントが形成され。
《スプリーム! スプリーム!! エボルスプリーム!!! フーハッハッハッハッハッ!》
そして、奴の存在を示すかの如くドライバーが明滅し、完成する。
時間にすればほんの数秒。
だが、その数秒で奴はとんでもないものに……そう、文字通りに変身したのだ。
「……見えてたか、八重樫」
「ええ……ヤバいわね、あれ」
八重樫の返答に、俺は心の中で頷かざるを得なかった。
一目見た瞬間にわかったのだ。
あれは単にエボルの力を奪っただけではない……もっと悍ましい力に昇華させたのだ、と。
ふざけたことに、ほんの一瞬とはいえそう感じてしまうほど──エヒトの放つ威容は、圧倒的。
それはまるで、氷塊が背中を滑り落ちていくような悪寒。
あるいは、全身の急所に一ミリのブレもなく針を差し込まれたかのような恐怖。
他にもいくらでも表現する手立てはあるが──兎にも角にも、とんでもない相手ということは確かである。
「元からそのつもりはなかったが、万が一にも油断できる相手じゃねえな……!」
「さすが、腐っても神ってところかしら……!」
普通に構えるのでは不足だと感じたか、八重樫は早々に納刀すると己の最速たる抜刀の姿勢を取る。
その瞳に揺れはなく、既に無我の境地に入りかけていることを察した。
俺もまた、〝大宝物庫〟からこの決戦用に用意したアーティファクトの一つを取り出す。
それは七つの頭と十の角を持つ赤い獣のレリーフが刻まれた、闇を具現化したような総勢666機の十字架。
〝トリア・ヘキサ〟。クロスビットの技術の粋を集めて作った、とっておきだ。
そんな俺達を、両手を下ろした奴が玉座から睥睨する。
全身が武者振るいに震える。まるで体に見えない圧がかかっているような錯覚がした。
自然と口を獰猛に笑わせながら、ドンナー&シュラークとビットの銃口を全て奴に向けた。
「随分と派手な見た目になったな、ええ?」
『──我こそはエヒトルジュエ。またの名を、
「ふざけないで。それはあの人とエボルトの力、返してもらうわ」
『ハ、よく吼える──〝平伏せ〟』
脈絡なく放たれた【神言】──魂魄を介して行われる、非物理的重圧。
降り注いだ神の言葉は──しかし、自動的に魔力が通った義眼から発した波動により対抗する。
同じものが隣の八重樫からも発され、二つ重なった紫色の波紋は奴の【神言】を打ち消した。
『ほう、効かぬか。さしずめこの男が用意した、我への対策か?』
「おかげさまで、テメェの前で這いつくばらずに済んだぞ?」
『なるほど、なるほど。ではこうしよう』
玉座に腰を下ろした奴は、元のように片手を肘掛けに置くと足を組む。
舐め腐った姿勢に俺達の殺意が高まる中、奴はもう一方の手で指を鳴らした。
すると、奴の鎧の顔像が光り輝いて、光で構成された天使達が生み出されていく。
それらは剣や槍、斧、鞭、果てはモーニングスターなんてものまで装備してる個体までいる。
純白の空間を埋め尽くさんばかりに瞬く間に光の天使は数を増やし、無数に膨れ上がった。
それ一つ一つが、容易に地形を変えるだけの威力を持つ破滅の光であることを肌で感じ取る。
星のようなその光芒を従わせ、神々しい鎧を纏うその姿は、なるほど神と言われればそれらしい。
『では、踊れ。まずは我を楽しませてみせよ』
「──フルバーストッ!!」
「〝霞断ち〟ッ!」
奴の戯言に、俺達は殺意を存分に込めた言葉で答えた。
奴の天使軍団が動き出したのと、俺のヘキサが一斉に火を吹いたのはほぼ同時。
意思なき天使どもが俺達を鏖殺さんと迫り、その先頭をヘキサの弾丸より速く飛んだ斬撃が削る。
捉えられぬ霞を強引に叩き斬るような極太の斬撃波は、見事に数百の天使達を斬り捨てた。
一拍遅れ、動きが僅かに鈍った天使どもへ電磁加速された破壊力特化の緋弾が到達し、粉砕していく。
轟音、衝撃、点滅。
光と光、そして光をも切り裂く斬撃が飛び交い、破壊と破壊をぶつけて撒き散らす。
規模で言えばもはや戦争。物体がある空間であれば、根こそぎ消し炭となっているだろう。
しかしこの程度では、単なる小手調べでしかない。
「〝時刻み〟」
俺が次々と新たに生み出されて途切れることのない光の天使を全て受け持つ間に、八重樫が奴に仕掛ける。
斬撃波が飛ぶ時間を再生魔法で短縮する、香織の使う〝神速〟という技を斬撃に応用したもの。
次の弾幕が天使達を焼き焦がすより速く斬撃が飛び、ふんぞり返っている奴に直接届いた。
ガンッ!
『時を縮める一撃か。面白いことをする』
憎たらしいことに、八重樫の斬撃が奴の前に現れた白金の障壁によって止められている。
鋭すぎるそれは半ば以上まで食い込んでいるものの、しかし奴の鎧に傷一つもつけてはいない。
やがて、光と爆炎の向こう側で障壁を削り取っていた斬撃がふっと消えてしまったのを確かめる。
『ふむ……これでは、天使共だけで塗り潰さんとしても意味がないな。ならば趣向を変えよう』
奴が片手を上げ、握る。
するとひたすらに俺達を圧殺しようとしていた天使が一斉に散開し、周囲に散らばった。
別の攻撃を予感し、今の攻防で半減したヘキサ達の隊列を組み直して銃口を全方位へと向ける。
同じようにドンナーとシュラークの銃口を向けながら、その挙動を見逃さないように注視し。
『〝堕ちる
くるりと奴の指が円を描いた瞬間、頭上に感じた悪寒に顔を跳ね上げた。
流星群だ。
何かしらの攻撃を比喩したものではなく、正真正銘
一つ一つが数十メートル、でかいものじゃ百メートルに達する炎を纏った岩が数十とあった。
その向こう、白亜の空間の上方には巨大なワームホール。
彼方に存在するは、無数の星々輝く黒い海原。
奴はこの空間と宇宙を繋げ、そこから隕石群を召喚しやがったのだ。
そちらを向いてる一部のヘキサだけでは到底破壊しきれない!
「〝シックスヘッズ〟! 」
即座に〝大宝物庫〟に収められたアーティファクトを即時召喚する単語を叫ぶ。
ヘキサが一部消え、代わりにその五、六倍はある巨大な黒鮫──某B級映画のような六頭のシュヴァルツアーが現れる。
フリードがいた孤島程度なら容易く破壊するミサイルを積んだそいつらに、魔力を叩き込みながら命令した。
「焼き尽くせ!」
ゴァッ──!!!
咆哮のように発射音を上げ、隕石群に無数のミサイルを発射。
大質量故に見た目はゆっくりと、実際には凄まじい速度で落下してくる隕石を破壊していく。
三十機のシックスヘッズを用いて、押し返すのがやっと。その隙を奴が見逃すとは思えない。
『そら、天使共を忘れてはいまいか?』
最悪の予想を実現してやると言わんばかりに、周囲の天使達が一斉にその身を光の槍に変える。
一本一本にユエの最上級魔法に匹敵する魔力が秘められているのが、魔力感知でわかった。
奴の魔法技術に舌を巻く暇もあらず、一つのズレもなく全ての槍が射出されてきた。
迫る光。
名付けるとするならば、〝神光百槍〟とでも呼ぶべき、エヒトの絶技。
隕石の纏う熱と同じほどに、あの距離で肌をチリチリと焼くそれらに──
「テメェこそ忘れてないか? お前がここに招いたのは──俺の知る限り、最強の剣鬼だぞ?」
──俺は、不敵に笑った。
「〝千燕斬り〟」
そして、白い空間に舞う千の斬撃。
魔王城でアルヴ達を悉く塵になるまで切り裂いたあの光にによく似通った、紫の剣閃。
一つとして無駄のない、的確に全ての槍の軌道を読み切った究極の先読みを用いて放たれたもの。
ほぼ同時に到達した斬撃波が、中には途中で軌道を変えた槍さえも切り裂いてしまった。
相変わらず同じ人間とは思えない腕前だ。それに負けないよう、俺もシックスヘッズを追加召喚して弾幕を増やす。
全ての隕石を破壊し尽くしたのは、7.6秒後のことだった。
代償としてヘキサもシックスヘッズも全滅。鉄屑と化したアーティファクト達を収納する。
「助かった」
「お安い御用よ」
『──ハハハ。よもや一つも傷を負うことなく、全て防ぐとはな。なかなかに楽しませてくれる』
奴が、見下ろしてくる。
未だ玉座から動かない奴に殺意を乗せた目を向けながら、八×八砲門機関銃〝メツェライ・チェウ〟を取り出した。
隣に立つ八重樫が、着物の回復魔術が込められた桜を一花散らすことで回復し、抜刀の姿勢を取り直す。
すると握られていた奴の手が開かれ、その背後に夥しい量の天使と槍が一瞬で生み出された。
「ざっと数えて、さっきの倍はいるな。量は半々ってとこか」
「ふざけた力量ね」
同意せざるをえない。
魔法の構築、展開、規模、威力、速度。過去に見てきたシュウジの魔法行使を遥かに上回る。
あいつは臓器を腐らせる魔法や魂を肉体からずらす魔法などといった、搦め手の魔法を同時にいくつも使っていた。
五つの思考を同時に成り立たせる技術を用いていたと聞いて、こいつの切り札の数は侮れないと思っていたが。
こと殲滅力という点を上げるのなら、それ以上にエヒトの魔法は恐ろしいものだった。
『誇るがいい。我とこの男は、どうやら魔法行使における親和性がこれ以上ないほど高いようだぞ? ──それはさておき、おかわりだ。次はどうする?』
「決まってんだろ──ぶっ潰す!」
「今の私に、斬れないものはないッ!」
奴めがけてメツェライ・チェウの引き金を引きながら、奴に突撃する。
隣には当然のように八重樫が並走しており、抜き放った刃から突きを繰り出していた。
それを待っていたかのように、数えるのも馬鹿らしい物量の光が放たれた。
ギャガッ!!!!!!!!
メツェライ・チェウから、毎分十二万八千発という我ながらキチガイじみた量の弾丸が吐き出される。
なんと形容していいのかわからない音を撒き散らしながら、槍も天使もまとめて削り取っていく。
両側面や上方から迂回してこようとするものは、八重樫の放つ刺突が動き出す前に仕留めてくれる。
それでもなお、一向に減る様子はない。奴が次々と生み出しているのだから当たり前だが。
だが、ある一定の位置から先に光の弾幕を進ませないようにするだけの効果は発揮していた。
奴に到達するにはもう一手必要だ。
その一手に、〝大宝物庫〟から更なるアーティファクトを呼び出す。
空中に、次々と武士のような甲冑を纏う人型アーティファクトが滲み出るように出現する。
両肩にオルカンと同型のミサイルランチャーを積み、両腕には威力をそのままに小型化したメツェライを装備。
胸部には魔法を分解する砲撃を放つ宝玉が嵌め込まれ、〝空力〟を使い空を駆けることもできる。
そんな体を包む赤縁の黒鎧には〝金剛〟を付与してある、世にも奇妙な兵器騎士。
新たに呼び出したそいつらに、一言だけ命令をした。
「仕事の時間だ。〝セルツァム・マリオネッツ〟」
それを聞き届けた途端、簡単な思考能力を与えた操り人形達は一斉に目を光らせる。
ガシュン! と音を立て、光の軍勢に向けて一斉にミサイルや銃弾の嵐、魔法を分解するビームをお見舞いした。
結果は一目瞭然。自慢の破壊兵器は光の壁を圧政するかの如くぶち抜き、奴の供給を上回る。
「八重樫!」
「〝崖崩し〟ッ!」
存分に魔力が込められた特大の〝突き〟の斬撃波が、ついに勢いの弱まった光を突き破る。
そうして出来た光のトンネルを、〝縮地〟と〝超加速〟で一気に駆け抜け──奴の眼前に躍り出る。
「〝天穿〟」
クイックワードを唱え、メツェライ・チェウを一瞬でレールキャノンに持ち替えた。
身体能力のみならず、魔力の伝達速度も上げる〝超加速〟の力で一瞬にてチャージを完了させる。
「消し飛べ」
迸るその光を、奴の胸めがけて撃ち放った。
唸りをあげ、奴が仕掛けてきたものより何倍も太い雷の槍が射出されていく。
「ふっ!」
更に、追随してきた八重樫が天穿の砲身を足場に跳躍した。
後ろ姿に両手で〝業奠〟を引き抜きながら、天穿の砲弾を追いかけるようにして奴に飛ぶ。
この威力ならばあの障壁も確実に貫ける。
流石に奴そのものを貫けはしないだろうが、あの鎧を破壊するくらいはできるだろう。
そこに八重樫が防御力など意味をなさない〝業奠〟の一撃でを叩き込み、エヒトだけを斬る。
概念魔法の力を最大限まで引き出す為にタメる〝天断ち〟は放てないが、普通に斬っても十分効果はある。
そう俺が予測する間に、出現した白金の障壁に赤い光がぶち当たった。
八重樫の斬撃の切れ味すら減衰させる三重の障壁は、一秒もしないうちに甲高い音を立てて砕けた。
予測通り。そのまま僅かにも威力を下げず、赤い雷は奴の胸──心臓ピッタリに向けて白空を走り抜け。
『ほう、良い威力だ。しかし──神たる我に触れようとは、不敬である』
それを見ていた奴の言葉が終わった瞬間、
いつしか光を生み出すことをやめていたその顔は、天穿の光より速く肉を盛り上げ、円環から這い出す。
まさに刹那。
筋骨隆々の肉体を生み出した悪鬼が、彫刻のように灰色の体より白銀の炎を吹き出した。
「ゴォオアァア!!!」
「っ!」
悪鬼が口を開け、そこから火炎放射のように蒼色の光線を吐き出す。
天穿の光よりずっと細々しいその光は、驚くべきことに拮抗する様子すらもなく俺の光を貫いた。
そのままこちらへ向けて、螺旋を描きながら迫る。避けることは明らかに不可能だ。
「チィッ!」
仕方がなく、天穿を盾代わりにして全力で〝金剛〟をかけて防御体制を取った。
構え終わったのとほぼ同時に、光線の先端が天穿と接触し──ふっと、通り抜けてくる。
「なっ──がぁあぁあああっ!!?」
天穿を透過してきた光線に、体を激しく焼かれた。
この、〝全属性耐性〟や、〝金剛〟、すら、簡単に食い破るほどの、熱量は!?
全身を瞬く間に炎上させた蒼炎の壮絶な熱と痛みに驚き、致命的な隙を作ってしまう。
「ゴァァアッ!」
「ッ!?」
その隙を狙い澄まし、突然蒼く熱された天穿を真っ二つに引き裂いて悪鬼が顔を見せる。
間近に見ると阿修羅蔵も真っ青な形相をした悪鬼が、炎が猛る両手を突き出してきた。
このまま掴みかかられでもしようものならば、炎が勢いを増すことは容易に想像できる。
そして性根が芯の芯まで腐りきった奴は、そういう時に限って最も嫌なことをしてくるのだ。
『絶体絶命だな、イレギュラー。ついでだ、おまけもやろう──〝堕とす悪夢の牢獄〟』
首が飛ばされる。
四肢が弾け、臓物が腹からズルズルと何かに引き摺り出されるように抜け落ちていく。
バラバラになった俺を、悪鬼の蒼炎が包み込んで、跡形もなく焼き尽くし………………
「カァッ!!」
裂帛の叫びを上げ、二割近くの魔力を全て衝撃に変換して全身の蒼炎と〝悪夢〟を打ち消す。
そして、これまでで最速で〝大宝物庫〟を開き、アイディオンと同硬度の大盾を取り出す。
天穿の残骸を手放し、ちょうど手の位置に落ちてきた大盾の取手を鷲掴むと逆に悪鬼を殴りつけた。
奴は両手でどっしりと受け止め、全身の炎の出力を上げて盾ごと俺を焼こうとする。
間髪入れず、挟み込むように背後から飛んできた大銀河のような光の豪雨はマリオネッツに完全自立戦闘モードで丸投げした。
「アアァアアァッ!!」
「ぐぅううううっ!!???」
「南雲くんっ!」
「いいから、行けッ!!」
俺の身を案じてくる八重樫に叫び、逆転しようとする悪鬼に全力で盾を押し付けた。
悪鬼の膂力は尋常なものではない。空中にいる上で、〝覇潰〟を発動している俺を前にして一歩も引かないのだから。
だが、負ける、つもりは…………ないッ!!!
「おぉおおおおぉぉおおおおぉぉぉっ!!!」
「ガァッ!?」
大口を開け、腹の底から咆哮を上げて喝を入れると、悪鬼を押し切った。
勢いをそのままに両腕を振り切り、大盾から貫通型の魔力衝撃を吐き出して悪鬼をいなす。
ようやく視界が晴れる。
俺の予想が当たっているならば、そこには奴を切り裂いた八重樫の姿があるはずだ。
「ギィイイイッ!!」
「くっ!?」
「あれは……!」
奴の左肩の顔が、鎧から消えていた。
どこかへと消えたその顔は悪鬼のように体を得て、刺々しい剣の両腕で八重樫の〝業奠〟を防いでいる。
血涙を流して八重樫を睨みつける様は、まるで何かを激しく妬んでいるようにすら見えた。
「ギィァアッ!」
「づっ!?」
外に向けて振り払われた棘剣の間から咄嗟に〝業奠〟を引いた八重樫は、あえてバランスを崩して回避する。
そのまま姿が消え、〝無拍子〟ですぐ隣に現れると俺の胴体に腕を回してまた移動。
マリオネッツが抑えている光芒の圧を、背中にチリチリと感じる位置まで後退した。
「はぁ、はぁ……」
「南雲くん、平気?」
「……ギリギリ、な。お前はまだピンピンしてんのに、情けねえ」
「……私もさっき、あと一瞬逃げるのが遅かったら首を飛ばされてたわよ」
その場で片膝をついた俺に、八重樫が楔丸を腰から抜きながら耳元で囁いてくる。
答えながら奴を睨み上げるが、二体の悪鬼を両隣に浮遊させたまま仕掛けてくる気配はない。
圧倒的な、余裕の表れか。
文字通り弄ばれていることに、「はっ」という乾いた笑いが口から飛び出す。
──強い。
これ以上ないほどの、強敵だ。
先の天使を使った攻撃の時も思ったが、手札の一つ一つが尋常じゃないほどの強力無比さ。
ユエの〝神罰之焔〟によく似た、物体を透過してくる炎しかり、あの気色悪い悪鬼どもしかり。
ドンナーとシュラークのチャチな銃撃じゃ効かないと思って、早々に破壊力を重視したのは正解だった。
あれらに対抗できる大火力のアーティファクトを使わなきゃ、とっくの昔に死んでる。
エボルの力をも手にしたエヒトは、最強の敵と呼ぶべき相手だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
これ、どんだけの文量になるんだ……?
感想などをいただけると、ラストスパートで気合がみなぎります。