シュウジ「いやないんかい!」
ハジメ「そういう時もあるだろ。で、前回はなんかキモい奴を倒して、ルイネを救出したんだったな」
エボルト「おう、俺強かったろ?強かったよな?うん、さすが俺。お前らわかってるねぇ」
ユエ「……誰も何も言ってない。自意識過剰」
エボルト「ウソダドンドコドーン!」
シュウジ「ま、俺も助けられたからなんとも言えんなぁ。いいとこなしとかつらいぜ。で、今回はハジメたちの続きだな。それじゃあせーの……」
四人「「「「さてさてどうなる迷宮編!」」」」
ユエ SIDE
私は、宙を舞いながら目の前に広がる光景を呆然と見つめていた。ハジメが極光に飲み込まれる、その光景を。
ハジメは、今の私にとって一番大切な人。あの暗闇から救い出して、こんな異常な私を受け入れてくれた。
それどころか、自分も裏切られて何もかも奪われたことに共感して、私を故郷に連れて行ってくれると言ってくれた。すごく嬉しかった。
それからつい最近、ハジメの親友のシュウジとか、シュウジとそっくりの見た目のエボルトとか、シュウジのことが大好きなルイネに出会ったりした。
皆で一緒にいるととても楽しくて、とっくの昔に固まったはずの顔が笑顔になった。皆でなら、ハジメたちの故郷でもうまくやっていけると思った。
それなのに。私を救ってくれたヒーローは今、不気味な光の中に飲み込まれていた。それがまるでスローモーションのように見える。
ドサッ!
呆然としているうちに、地面に落ちて背中を打ち付ける。その痛みによってようやく、我に返った。
「ハジメッ!」
仰向けの姿勢から体を跳ね起こし、膝立ちになってハジメの方を見る。すると、極光が消えていくところだった。
そして完全に消えたとき……そこには全身から煙を吹き上げている、ハジメがいた。それを見た瞬間、頭の中が真っ白になる。
そんなハジメの足元には溶解したイェーガーが転がっており、あの銀のリザードマンの極光の威力を示していた。どうやら咄嗟にあれをかざしたみたいだった。
私を押した体制のままだったハジメは、ぐらりと前のめりに倒れて、うつ伏せに地面に転がった。地面にジワリと血の海が広がり始める。
「ハジメ!」
もう一度名前を叫び、足をもつれさせて転びながらも駆け寄る。両手で体を揺するが、一向に返事は返ってこない。とりあえず仰向けにする。
ハジメの容態は酷かった。指、肩、脇腹が焼き爛れ、一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており、流血している右目に至っては蒸発していた。左腕の擬態も解けている。
先ほどとは別の意味で叫びそうになりながらも、ポーションを取り出してハジメに飲ませようとする。けど、それをリザードマンが待ってくれるはずがなかった。
グルァアアアアッ!
雄叫びをあげながら、またしても極光を吐き出すリザードマン。今度は単体じゃなくて、まるでハジメから聞いた機関銃のように大量に吐いてきた。
「しまっ……」
ハジメのことに全ての思考を割いていた私の体は、すぐには動かなかった。そうしているうちに、目の前に光弾が迫る。
呆然とする私の頭に光弾が命中し、木っ端微塵に吹き飛んで目の前が真っ暗に……
ガァンッ!!!
なることは、なかった。突如、私とハジメの前に不可視のバリアが張られて、光弾を弾き返したのだ。バリアの中心に、うっすらと半透明の右手が見える。
それを唖然と見ていると、右手とバリアはふっと消えてしまった。ハッとして、急いで柱の陰にハジメを引きずっていく。
その時、ハジメの首にかかっている白いエボルボトルと、ウサギの魔石が淡く光っていたけど……混乱している私は気づかなかった。
柱の陰に入った瞬間、怒りの声をあげたリザードマンがまたしても光弾を柱にはなってきた。時間がない。
手に握ったままだったポーションを傷口にふりかけ、次に口元に持っていって飲ませる。でも、すぐにむせて吐き出してしまった。
「くっ……!」
悔しさに歯噛みするも刹那の時間で他の手を考えて、自分の口の中にポーションを含むとハジメがしたように口移しで飲ませた。
またしてもむせるが、無理やり押さえつけて飲ませる。その甲斐あって、なんとかポーションを飲み込んでくれた。
けど、ポーションは私が思った通りの結果は出してくれなかった。止血はしたものの、傷の治りがあまりにも遅いのだ。
「どうして!?」
もしかして、あの極光になにか副次的な効果があった?それがハジメの体を蝕んでいるなら、この修復の遅さも納得できる。
思わず、柱の陰からキッと今もなお光弾を吐き続けているリザードマンを睨んだ。あのトカゲ、絶対に許さない。
ドガァァァンッ!
「キャッ!」
その視線に気づかれたのか、もうほとんど残っていない柱に光弾が叩き込まれた。思わず悲鳴をあげて頭を下げる。
すると、リザードマンの嘲るような笑い声が聞こえてきた。どうやら私たちが弱っていると気づかれたみたいだ。
時間がない。悠長にハジメが復活するのを待ってたら、その前にリザードマンに消しとばされる。私一人で、戦うしかない。
「……今度は、私が守る」
額にキスを落として、ハジメのホルスターからドンナーを引き抜く。そして身体強化の魔法を自分に施した。
そうすると、柱の影を飛び出す。リザードマンはすぐに気づいて、光弾を放ってきた。それをかわしながら、私はあるものを目指す。
残り僅かな魔力で引き上げた身体能力を限界まで使って、壊れたイェーガーに飛びついた。そしてその中からタカフルボトルを探り出し、ドンナーのスロットに叩き込む。
《タカ!》
「よし……!」
ボトルを認識したドンナーを、リザードマンに向けて引き金を引く。すると、銃口からエネルギー弾が大量に射出された。
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
私に、ハジメのように狙い撃ちをする腕はない。でも、数を撃てばどんなに光弾があっても当たる。事実、めちゃくちゃに撃ったエネルギー弾は光弾を相殺していた。
それどころか、何発かはリザードマン自身にあたってダメージを与えている。でもそれは私も同じで、光弾が何回か弾幕を抜けてかすっていた。
〝自動再生〟が発動するが、やはりあの光弾には何かの効果があるみたいで治りが遅い。ジンジンとした痛みに顔をしかめながら、必死にドンナーを撃つ。
逃げ回りながらドンナーを乱射しているうちに、だいぶリザードマンにダメージを与えられた。これならなんとか勝て……
グルルルァアアアッ!
「……えっ?」
それを見た瞬間、私の希望は砕け散った。リザードマンが咆哮した瞬間、白い光がその体を包み傷を癒したのだ。
ガルァッ!
それだけにとどまらず、リザードマンが掲げた手のひらに火球が出現する。そしてそれを思い切り投げてきた。
「まさか、他の首の力も使え……ッ!?」
最後まで言い終える前に、眼前の床に火球が着弾して吹き飛ばされた。柱に背中を激しく打ち付け吐血する。
「ガハッ、ゲホッゴホッ………」
吐血しながら床に落ちる。全身に鈍い痛みが走った。頭がガンガンと割れるように痛い。流血でよく目が見えない。
グルルルルル………
動けないでいる私に、唸り声をあげてリザードマンが迫る。本能がけたたましく警鐘を鳴らし、とっさにドンナーを向けた。
「あああああああああああっ!!!」
喉が張り裂けるほどに叫びながら、ドンナーを乱射する。その甲斐あって、避けるリザードマンの片目に弾が当たった。
ガァッ!?
怯んだような声をあげて、片目を抑えるリザードマン。そしてこちらに憎しみと怒りのこもった目を向けてくる。
それにギロリと睨み返し、動かない体に無理やり魔力を流し込んで活性化させ、荒い息を吐きながら立ち上がった。
「ハジメは、私が守る……!」
そうして、再び勝ち目のない戦いに身を投じるのだったーー。
●◯●
ハジメ SIDE
ーーおきて
深い暗闇に落ちていた意識が、どこからか聞こえた声によって引き上げられる。暗い淀みに絡め取られた俺の自我が、少しずつ上昇する。
だが、覚醒と眠りの狭間で止まった。それ以上さらに上に上がることができない。半ば眠りかけた意識でそれをもどかしく感じる。
ーーほら、おきて
また、誰かに語りかけられる。聞き覚えのないはずなのに、どこかとても懐かしく、胸を締め付けられる声。
お前は、誰なんだ?
ーーこのままだと、またたいせつなものがなくなるよ?
……何だって?
ーーーあなたは、それでもいいの?
……いいわけ、ねえだろ。
眠りたがる意識をぶん殴って、無理やり起こして目をこじ開ける。すると、ぼんやりと天井が見えた。
ここは、どこだ。全身が痛い。体の内側が気持ち悪い。まるでじわじわと毒に侵されているような感覚だ。
何より、開いたはずの右目が見えなかった。代わりに感じるのは、頬にこびりついた乾いた血の感触。おそらく、極光で消し飛んだのだろう。
しばらくそのままぼんやりとして、やがて現状を理解しようとだるい首を動かす。すると、驚愕の光景が見えた。
ユエと、あのリザードマンが戦っているのだ。ドンナーを握り、左肩に大怪我をしながら、それでも懸命に戦っている。
「……何してるんだ、ユエ」
掠れた声が、口から溢れる。あんな体で、戦ってるのか?俺が無様に眠りこけていた間、ずっと一人で?
ーーそれなのに、あなたはみてるだけなの?
また、声が聞こえる。まるで挑発するように、俺が立ち上がるのを促してくれるように、その声は語りかけてくる。
ドンッ!
「カハッ………」
その声に言い返そうとする俺の前で、ユエの胸がリザードマンの火球に抉られた。大量に吐血し、ゴロゴロと転がるユエ。
ドクン。
……俺は、何をしている?
ドクン。ドクン。
こんなところでくたばるのか?何もできず、またただ奪われて終わりなのか?
ドクン。ドクン。ドクン。
そんなの、絶対に許さない。一緒に連れて帰るって約束したじゃねえか。約束一つ守れないほど、俺は情けない男か?
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
いいや、違う。その程度では、シュウジにも美空にも、笑われてしまう。ならばどうする。簡単だ、俺から奪う奴は、敵は全て殺せばいい。
ドクンッ!
「だから………いつまでも寝ているわけには、いかねえんだ」
右手を握って地面を殴りつけ、その反動で起き上がる。また倒れそうになる体を、怪人の左腕で引き止めた。
治りかけの全身から、血がビシャビシャと零れ落ちる。こんなもの、今あそこで血と涙にまみれて戦ってるユエに比べれば何でもない。
ーーそう、それでこそあなた。わたしがいのちをたくした、だいすきなあなた。
三度、声が聞こえた。最初は誰だかわからなかったその声の主は、今ははっきりとわかった。だから、目の前を見上げる。
するとそこには、半透明の透き通るような一人の女がいた。白い髪に片方が半ばから無い、ウサギの耳を生やした女。
「………お前は、ずっと見守っていてくれたんだな」
俺が、殺したようなものなのに。
顔を歪める俺に、微笑む女は……〝
ーーあなたに、もういちどいきるためのちからを。
ウサギが、俺の首にかかっている自分の魔石と白いエボルボトルに触れる。すると、その二つの宝物は輝いてふわりと浮かび上がった。
宙に浮かぶそれらを見ていると、どこからともなくラビットエボルボトルが飛んでくる。それにウサギは手を伸ばした。
そしてウサギが触れた瞬間……光に包まれ、三つは一つになった。まばゆく輝く光の玉に、思わず手を伸ばす。
案外、光球はあっさりと掴めた。その中にあったものを掴んだ瞬間、光は霧散する。手を引き戻して、ゆっくりと開いた。
すると、そこにあったのは……半透明の、三日月と跳躍する白と赤の二匹の兎が刻まれた純白のボトルだった。
それに見とれていると、ウサギはいつのまにか持っていた、壊れたはずのエボルドライバーを俺の腰に巻いた。
ーーさあ、いって。あなたがなくしたくないもののために。
そして、そっと背中を押してくれた。
「………ああ、わかった。ありがとう」
振り返ることなく、微笑んでいるであろうウサギに礼を言うと、キッと戦っているユエの方を見る。彼女は今にも光弾に貫かれそうだった。
新生したラビットエボルボトル……いや、ムーンハーゼボトルを握り、目覚めるのとともに新たに覚醒した技能と加速の最終派生技能、[+超加速]を使って走り出す。
ーーがんばって、わたしのいとしいひと。だいじょうぶ、あなたならできるよ。
背後で、ウサギの気配が消える。奥歯を噛み締め涙をこらえながら、それでもユエを救うために足を動かし続けた。
そして、ユエが光弾に貫かれるその瞬間ーー
「ーー大丈夫か、ユエ?」
「……え?」
助け出したユエが、腕の中で間抜けな声を上げる。そんな俺たちの脇を、光弾がかすめて壁に飛んでいった。
ユエだけにとどまらず、リザードマンも驚愕に目を見開いている。俺はそれを、モノクロームの視界で挑発するように鼻で笑った。
「ハジメ、なんで……」
「いつまでも泣いてんじゃねえ。よく頑張ったな。お前の勝ちだ、ユエ」
「っ!……んっ!」
俺の言葉に目を見開き、そのあとに力強く頷く。俺も頷き返しながら、また飛んできた光弾をふらふらとした動きで避けた。
リザードマンはまた驚いたような顔をするが、まぐれだと思ったのだろう。三度光弾を吐き出してくる。
しかし、俺はそれをまたしても同じような動きで躱した。おそらくリザードマンの目には、光弾が自ら俺を避けたように見えただろう。
〝天歩〟が最終派生技能、[+瞬光]。それがこの力の正体だ。知覚能力を究極まで高め、〝天歩〟の各技能の力を数段上昇させる、ウサギが俺にくれた力。
「ユエ、今のうちに血を吸って回復しといてくれ」
「でも……」
吸血をためらうユエ。今の俺はかなり血を失ってる。今だって気力で光弾を避けてるようなもんだ。だが、ここで躊躇して死にましたじゃシャレにならん。
「いいから、早くしろ」
「……わかった」
もう一度促すと、ユエはようやく首筋に牙を突き立てて吸血を始めた。失血の感覚に少し顔をしかめながら、光弾を躱す。
「ん……ぷはっ」
「終わったか?」
「ん」
「それじゃあ、少し離れててくれ」
ユエは大人しく従い、俺の背中から降りて退避する。俺も[+瞬光]を一旦解除すると、しっかりと地面を踏みしめた。
カチャ……
そして、移動する中で拾ったボロボロのプレデーションシールドを右手に持ち、左手でムーンハーゼボトルを握る。
「……力を貸してくれ」
ボトルを見て呟くと、脳裏に微笑み頷くウサギの姿がよぎった。グッと顔を引き締め、警戒して構えているリザードマンを睨む。
一回だけ手首のスナップでボトルを振ると、メタリックレッドのキャップを先の尖った指でセット。
そうするとシールドのスロットに押し込み、そのままドライバーに叩きつけるように差し込んだ。
《OVER THE MUTATION!》
瞳のように展開したシールドを認識したドライバーが、待機音声を流し始める。右手でレバーを握りしめ、ゆっくりと回し始めた。
シールドの宝玉からチューブが伸び、コンテナ状に広がって白い靄のかかった鎧と、それとは別の鎧を作り出す。
グルァアアアアッ!
警戒が最大に達したのか、リザードマンが再び光弾を吐き始めた。しかし、コンテナ状のチューブが弾き返す。
《ARE YOU READY ?》
荘厳な音楽が止まり、ドライバーが戦う覚悟は良いかと問いかける。俺は両手を伸ばし、手首のところでクロスして一言呟いた。
「……そんなもの、とっくにできてるよ」
そしてクロスした両腕を胸にぶつけ、叫ぶ。この状況をひっくり返し、俺に生きるための力を与えてくれる、その言葉を。
「ーー変身」
《
鎧が体を包み、無数の星の煌めく白い靄が吹き飛ぶのと同時に、ドライバーとシールドからハイテンションな音声が流れる。
《ハーハッハッハッハッハッ!》
高笑いを上げるドライバーに、俺はゆっくりと両腕を下ろした。そして、驚愕に目を見開き固まっているリザードマンに人差し指を向ける。
『……さあ、実験を始めようか』
反撃、開始。
●◯●
三人称 SIDE
「……ハジメ?」
変身したハジメに、ユエは唖然とした表情で呟いた。その心の中には困惑とハジメカッコいいという感情が激しく渦巻いている。
今のハジメはエボルやブラッドと酷似した姿だが、決定的に違う全く新しいライダーになっていた。シュウジがいればマジか、と言ったことだろう。
胸部装甲には兎の頭のような複雑な造形の装飾が張り付き、その上部から肩にかけて繋がるパーツから、兎の耳のようにマフラーが伸びている。
両腕の前腕にはエボルの手甲とバネのような装飾を掛け合わせたような見た目であり、両足の脚甲も同様だ。
首回りを守る襟には前面にガードパーツが追加されており、ラビットフォームに装飾を追加した仮面の下半分を隠している。
生きるため、再び共の力をその身に宿した姿はまさしく仮面ライダー。名付けるのなら……仮面ライダー
「綺麗……」
グルァアアアアッ!
ほう、と感嘆のため息を漏らすユエとは対照的に、けたたましい鳴き声をあげたリザードマンは口から光弾を放った。
自分にまっすぐに飛んでくる光弾に対して、しかしハーゼは動かない。危ないと言おうとするユエだが、不思議と危機は感じなかった。
『フッ!』
そして、そのユエの予感の通りハーゼは無傷だった。視認不可能な速度で手刀を振るい、光弾を
さすがに手刀ごときで斬られるとは思っていなかったのか、リザードマンはぽかんとした顔をする。それにハーゼが指を向けた。
『今度はこっちから行くぞ』
次の瞬間、ハーゼの姿がかき消える。かと思えば、リザードマンの目の前に現れ手刀を袈裟斬りに振り下ろしていた。
全力で本能が命の危険を訴え、リザードマンは上半身をのけぞらせて躱す。空を切る手刀は、しかしリザードマンの背後にあったヒュドラの死骸を真っ二つにした。
グルッ!?
『ハッ!』
思わず声を上げるリザードマンに、ハーゼの追撃がかかる。まるで腕が何本もあるように見えるほどの速度で、全方位から手刀が襲いかかった。
リザードマンは必死に体をひねるが、しかし上気した通り全方位を囲まれていては逃げられるはずもなく、モロに直撃する。
ハーゼの手刀は容赦なく無敵の強度を誇るはずのリザードマンの鱗を破壊し、その内側にある筋肉を切断し骨すら砕いた。
ガ、ガルァッ……
『それはもうやらせんぞ』
とっさに特殊な咆哮を上げて回復魔法を使おうとしたが、しかしその前にハーゼの片腕に口を塞がれた。
『フンッ!』
それどころか、首筋に握った拳を全力で叩き込まれ、喉が潰れた。これではもう叫んで回復することも、威嚇すらできない。
喉を押さえて後ずさったリザードマンは、失った声の代わりに十割増しの憎悪の目を向けると鉤爪で挟み込むように斬りかかった。
ガキンッ!
しかしそれは、いつのまにかハーゼが両手に握る二本のブレードによって防がれた。一本は一時的に獲得した摸倣能力で複製したものだ。
『そうそう簡単にやられると思うな!』
リザードマンの両手を打ち上げ、駒のように回転してブレードで斬りつける。リザードマンの胸板が裂け、鮮血が舞った。
苦悶の声すらあげられないリザードマンは、イライラとした様子で尻尾で床を叩き、至近距離で右手に火球を生成するとそれをぶつけ………
ズパンッ!
られることはなかった。ハーゼの放った斬撃により、手首から先を切り飛ばされたからだ。
『ユエと戦っているのを見てわかった。お前、右腕でしか火球を使えないんだろ?』
何故それを、という顔のリザードマンに、ハーゼは切り飛ばした右手をキャッチして掌を見せた。そこには赤い頭にあった紋章が。
そう。一見リザードマンは他の頭の力を自由に使えると見せかけて、そのじつ体の各部に刻まれた紋章からでしか使えないのだ。
従って、喉の中に刻まれた紋章を声帯ごと潰されたので回復魔法も使えなくなったという理論になる。
『それがわかればこっちのもんだ。後はお前の四肢を削ぎ落としてやればいい』
カチャリとブレードを構え、ハーゼはリザードマンに一歩近づいた。対して怯えたような顔をして、一歩後退するリザードマン。
ズパッ!
命のやり取りの中で、その一歩は命取り。気がついた時には、黄色い頭の紋章が入っていた左腕も根元から持っていかれていた。
スパンッ!
両腕を失い、バランスを崩して倒れるリザードマンにさらに追い討ちをかけるように、小気味いい音を立てて右足が切断される。
どう、と音を立てて始めて倒れこむリザードマン。そんなリザードマンの尻尾を鷲掴みにしたハーゼは、思い切り上空に投げた。
『これで終わりだ』
両手に握っていたブレードを投げ捨て、ドライバーのレバーを回す。荘厳な音楽とともに、ハーゼの全身に力がみなぎっていった。
《READY GO!》
『ハッ!』
両足の超伸縮バネを使い、高く飛び上がるハーゼ。そして地面に落ちるリザードマンめがけ、右足を突き出し……
《ミューテニックフィニッシュ!ハーハッハッハッ!》
『はぁあああああああああっ!』
必殺の一撃を叩き込む!
胸の中心に叩き込まれた足はリザードマンの体内をぐちゃぐちゃに破壊し、ミンチになるまでかき回した。
それだけにとどまらず、もともとの落下エネルギーも加わって地面に落ちた瞬間、巨大なクレーターを作り出す。
ドッガァァァァァァアアアンッ!!!
そして、爆散。どこかの部屋にてエボルトに消滅させられた、哀れなバケモノ同様断末魔すらないあっさりとした終わりであった。
炎が散った時、クレーターの中にいたのは着地した体勢のままのハーゼだけだった。最後まで見入っていたユエは、ようやく動きだす。
「ハジメ!」
『……ユエ』
ハーゼが、ゆっくりとユエの方を振り返る。そのまま体制を元に戻すと、ドライバーからガジェットを引き抜いた。
パリンッ……
鎧が粒子となって消えた瞬間、ガジェットがハジメの手の中で粉々に砕ける。最後の力を振り絞ったのだろう。
「……ありがとう」
手の中に残ったムーンハーゼボトルを、ハジメは額に押し付ける。それを近づいてきたユエが心配そうに見上げた。
「……ハジメ」
「……大丈夫だ。それより、怪我はないか?」
自分の方に向き直って問いかけるハジメに、ユエは未だ心配の残る目をしながらも普段通りに「……ん」と答えた。
そうか、よかった。そう言って頭に手を置こうとした瞬間、ぐらりとハジメの体が揺れる。ユエは瞬時に反応して倒れる体を支えた。
「ハジメ!」
「……さすがに、失血と疲労感だけは誤魔化せねえか」
体を蝕んでいた極光の毒素は、ハーゼに変身したことにより完全に除去された。しかし、大量に失った血と募った疲労感は消えない。
それでも変身による急激なハザードレベルの上昇で、随分と軽減されていた。それがなければ今すぐ気絶していたことだろう。
無茶をしたもんだ、と自嘲気味に笑っていると、切断されたヒュドラの向こうにある扉が音を立てて開いた。顔を見合わせる二人。
「……どうする?」
「行くしかねえだろ。悪いが、流石にキツイから支えてくれるか?」
「ん、当然。なんだったらハジメがお爺ちゃんになっても支える」
「はいはい」
「むう、適当な反応……」
いつも通りの軽い口調でやり取りしながら、二人は互いを支え合って扉に向かっていく。後ろは振り返らない。もう、自分たちは勝ったのだから。
ーーーおめでとう。もう、あなたはわたしがいなくてもへいきだね。ちょっとさびしいけど……ばいばい。
ーーまた、いつかあおうね。
その後ろ姿を、一人の女が少し寂しそうな笑顔で見送っていたとも知らずに。
この変身はグリスブリザード同様、一度限りの変身です。
次回は何度か聞かれている、シュウジの前世を明かす……かなーと思ってます。どう思います?
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