星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はある意味前半。

全ての決着がついていきます。

楽しんでいただけると嬉しいです。


世界のカタチ

 シュウジ SIDE

 

 

 

 初めて、対面した。

 

 

 

 これまでは精神を引き摺り出されて彼女の支配する空間に連れ込まれたが、今は違う。

 

 エボルロストの力を手にするために使った力の一部、それを感じ取ってやってきたのだ。

 

 こうして直に対面してみると……ああクソ、やっぱり恐ろしくてブルッちまう。

 

「人のものを勝手に盗んで使うなんて、いけない子ですねぇ。そんなふうに造った覚えはいんですけど」

「おお、そいつは悪かったよ創造主様。だがあいにくと、返すつもりはないんでね」

 

 キョトンとした女神マリスは、次に口元に手をやるとクスクス笑う。

 

 俺の言ったことが心底くだらなくておかしいと、そう失笑しているのだ。

 

「その体で何かできるんですか? 寿命もあと少ししか残っていないんでしょう?」

「っ、さすが女神様。ご慧眼であらせられる」

 

 こっちに後がないのも、お見通しらしい。

 

 マリスの力とエヒトから奪った神性で耐えているが、俺自身の命はほとんど削り取られている。

 

 変身の影響であらゆる感覚が消えている中、たった一つだけ、酷く冷たいものを感じる。

 

 それは、命の灯火が身体中に巡った黒い蔦に覆われ、弱まっていく感覚だった。

 

「馬鹿な子。どれだけドライバーで進化しても、外付けの力で無理矢理繋げても……その力を、あなたが扱えるはずがないでしょう?」

「ああ、だろうな。()()()()()()()()()()()()

 

 そう返した途端に、哀れむように微笑んでいたマリスがピタリと動きを止めた。

 

 表情を消し、目を細めてこちらを見てくる彼女に、あえて余裕げに笑ってみせる。

 

「あんたは俺に色々と刷り込んだが、中でも〝嘘〟は一級品だった。流石はカインの弟子、人間の思考でなくなっても狡猾だ」

 

 最初に俺が()()した時、マリスは魔法や神の力を使って様々な洗脳を施した。

 

 それは俺が錯乱し、カインが目覚めた時にほとんど解除されたが、しかし残っていたものもある。

 

「ずっと思い込んでいたよ。〝抹消〟の力を上手く扱えず、その破壊性を撒き散らすことしかできないのは、カインから受け継いだ性質だってな」

「……違うと?」

「そう、違った。それは俺という人形に定められた性質であって、オリジナルの性質を引き継いだ訳ではない」

 

 俺がそのことに気がついたのは、カインとエボルトが俺の正体をハジメ達に話した時。

 

 意識の裏に潜伏して聞いていた俺はその後にまた暴れたが、しかしちゃんと理性も根底にあった。

 

 後々落ち着いた頃にその時感じた違和感について考え、あることに着眼した。

 

「かつて、カインは自分という存在を抹消することで、自らに関連して起こった千年間の出来事を白紙に戻した」

 

 結果的に、カインの行いによって救われ、増えすぎた命は綺麗さっぱり消えた。

 

 副作用で、ルイネ達の中からも存在が消えたが……この出来事に、ヒントがあった。

 

「カインの〝抹消〟への適合率が歴代最悪だというのならば、入れ物であるあいつが消えた時点で〝抹消〟が暴発し、地表の全てが消し飛んだほうが妥当だ」

 

 もし俺が同じことをすれば、確実にそうなるだろう。

 

 だが実際に、崩壊寸前だった世界意思の補助無しにカインは一人でそれをやってのけた。

 

 この矛盾から推察するに、カインは歴代最高の適合率であったアベルと同等、あるいはそれ以上に〝抹消〟を使いこなしていた。

 

 ではどうして、俺の適合率はみそっかすのようなものなのか。

 

「最初はあんたが記憶の一部を改竄し、他のサンプルの性質が混ざったことで劣化したのかとも考えた。だけどこの力を手にした瞬間、はっきり確信した」

 

 作りものだから、その力を完璧に受け継ぐことができなかったんじゃない。

 

「あんたが、あえて適合率を最低に制限して俺を作ったんだ」

「………………」

「まあ、理由は色々とあるんだろうさ。作り物の俺の魂じゃ許容量が足りないとか、18までに死ぬ呪いを消させないようにとか。そこはあんたの胸の内ってやつだな」

 

 なんにせよ、俺の〝目的〟を果たすにはカインの適合率を取り戻さなきゃいけなかった。

 

 ただエボルアサシンを使うだけでは、悪戯に命を摩耗するだけでその楔を壊すことはできない。

 

 その他のどんな手段をもってしても、制限を外す前に確実に命を消費しきってゲームオーバーだ。

 

「だから俺はこう考えた。今の俺でどうしようもないのなら、存在自体をスケールアップしちまえばいいってな」

 

 そのためにうってつけの手段があった。エボルドライバーとパンドラボックスだ。

 

 肉体構造を強化し、進化させるエボルの力と、星を破壊するほどの力を秘めたブラックパネル。

 

 これを活用できれば、厄介なマリスの制限を突破して真の〝抹消〟の力を手にすることができると確信した。

 

 だがもう一ピース、確実にこの呪いを突破できるという確実性が欲しかった。

 

「そこでネルファだ。あんたが力を手に入れるために奪い、自分に取り込んだあの二人の魂には、その残留物が残っていると踏んだ」

 

 創造の力を吸収し、神格を得た際に少なからずその魂はマリスのそれと融合していた。

 

 さながら俺がエヒトから知識と神性を奪い取れたように、一度繋がった以上は何かしらの影響が残るはずだと。

 

 それは希望的観測だったが、しかしネルファがエヒトの呪いに縛られたことで現実味を帯びた。

 

「ルイネとネルファ。俺がカイン本人だと誤認させるために送り込まれた二人の魂のうち、ネルファだけが呪いに引きずられた。それはあんたの神格と、エヒトの神性が共鳴したからだ」

 

 だからこそ、天之河をあのように挑発してネルファと戦う気にさせ、エボルヴボトルを与えた。

 

 このボトルに込められた力は、上位存在の干渉力を打ち消すものではない。

 

 

 

 

 

 その力を奪い、取り込むことだ。

 

 

 

 

 

 天之河はよく働いてくれた。  

 

 結果的に奴がネルファの心までも救ったのは……まあ、今考えるべきことじゃあないな。

 

 とにかく、制限をかけた本人の力も加えて進化した結果、ゴリ押しでその天井をぶち抜けた。

 

「最初こそ、エヒトを殺すために進化態に至ろうとしていたんだが……真実を知ったことで、より絶大な力を手に入れたってわけだ」

「その結果が、今にも死にそうなその姿ですか? ふふっ、とても滑稽ですね」

 

 話を一旦締めくくると、マリスはまたも可笑しそうに笑った。

 

 そりゃそうだろう。散々に犠牲を出し、多くの人間を利用して手に入れたのが自滅の力なのだから。

 

 たった一人の人間の死を認められずに、何もかも裏切ったこの女神には失笑ものだろうよ。

 

「それで、もう終わりですか? 別に私は、残り少ない時間を使って無駄話をする姿を眺めるのも面白いですが……」

「そりゃ重畳、ならあと少し付き合ってくれ……あんたの力を取り込んだことで、もう一つ気がついた嘘がある」

「それは?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()……そうだろ?」

 

 その質問に、微笑む女神からの答えはなかった。

 

 気にすることなく、俺は導き出した答えを語ってみせる。

 

「神無くして人はあらず、人無くして神はあらず。どっかで聞いたような言葉だが、まさにその通り。俺達の力は、元となるものがなければ維持できないものだ」

「へえ、そうなんですねぇ。それで、元となるものって?」

「〝生命〟さ。星に息吹き、根付き、繁栄する、命ある者達のエネルギーによって、世界は生きる」

 

 

 

 

 

 無から有は生まれない。

 

 

 

 

 

 エヒトが信仰心を力に変えて命を長らえていたのと同じように、創造にも抹消にも原動力が必要なのだ。

 

 それなのに、全ての魂を回収して俺の製造に使ってしまったら、元手がなくなってしまう。

 

「大した大嘘つきだ。あのカインでさえ騙した弁舌には惚れ惚れするよ」

「……ふふっ、あはっ、あははははははは!」

 

 突然に笑い出すマリス。

 

 先程までの憐憫のようなそれとは違い、心底面白いといった、そんな笑い方だった。

 

 思わず口を噤んでいると、ひとしきり笑った後に女神はこちらを見る。

 

「ご明察です。私としては何の価値もない生命なのですが、お父さんを取り戻すのにこの力は必要でしたので。ちゃんとある程度は()()()()()()()()?」

「ヒュー、おっかないぜ。ある程度ってのがいったいどれだけのもんだか、想像もしたくないね」

 

 わかっていたことだが、女神マリスもまた残虐非道な〝悪辣な悪〟の化身だった。

 

 彼女の目的のため、カイン達の惑星の住民は管理され、その中で命を育んでいるのだろう。

 

 まるで卵を手に入れるためにあえて生かしてある鶏のように、な。

 

「ですが、()()は想像できていたのではないですか?」

 

 そして彼女は、不意に片手を横に薙ぐ。

 

 俺が【神域】を支配しているのにも関わらず、あっさりと新たな空間の歪みがそこに開いた。

 

 その向こうから足音を響かせ、姿を現すのは……白いローブに身を包んだ、銀髪赤眼の男。

 

 

 

 

 身長は190に届かない程か。

 

 手足はすらりと長く、細いシルエットは極限まで鍛えて引き絞られたものに見える。

 

 切れ長の瞳、細く長い眉、高く整った鼻梁に、横一文字に結ばれた形の良い口が揃った、大人びた顔立ち。

 

 極め付けに、片手にシンプルな作りで柄に宝玉が嵌め込まれたナイフを携えたその男は。

 

 

 

 …………俺と、瓜二つだった。

 

 

 

「驚きました? あなたを観察しつつ、より完全に作り上げた最新型です。あなたが苦労して手に入れた〝抹消〟の力も、お父さんと同等に扱えますよ?」

「……はっ。確かに予想しちゃいたが、なんとも薄気味悪い現実だ」

 

 所詮俺は完成にこぎつけた第一号機に過ぎなかったと、そういうわけだ。

 

 何かしらの要因で俺が力を手にした時に備え、対応策を講じていると思ってはいた。

 

 それがまさか、未だに滅びきっていない星の魂から作られた兄弟だとは、実にタチが悪い。

 

「ということで、北野シュウジさん──いいえ、〝アルファ〟? あなたの茶番劇はここで終わりです」

「っ……!」

「可哀想に、その力を手にしなければもう少し長く生きられたものを……創造主として残念ですよ」

 

 その言葉と同時、鋭い音を立てて兄弟……名付けるとすれば〝オメガ〟がナイフを構えた。

 

 顔の前で純白の刃を構えた、意思なき女神の傀儡は彼女の前に立ち、その瞳で俺のことを見つめ。

 

 

 

 

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「………………」

「っ……」

「では、創造主として最後の慈悲を授けましょう。跡形もなく消えなさ──」

「おいおい、せっかちだぜ女神サマ?」

 

 無情に断言してくれようとしたマリスに手を突き出し、言葉を制する。

 

 怪訝な顔をする彼女に、俺はいつものようにふざけた笑い方で肩をすくめる。

 

「あんたの言う通り、俺はと数分で命を使い果たす。死んだ後に残る力はくれてやるから、もうちょい付き合ってくれよ」

「酔狂な人形ですねえ。自分が苦しみながら壊れる様を見てもらいたいだなんて──いいでしょう。その願い、聞き届けてあげます」

 

 朽ちかけの命が、もう少し繋がったようだ。

 

 永久の存在となった彼女からすれば、俺が壊れるまでの数分など瞬きの間のことだろう。

 

 だからこそ許された、慈悲という名の彼女にとっての暇潰しを使って、俺は最後まで話し続けるのだ。

 

「……もう一つ疑問に思ったことがある。それは、どうしてこんな力が存在するのか、だ」

「それを考えることは、〝世界の殺意〟に禁じられた一つ目の戒めですよ?」

「ああ、そうだ。だから誰も考えなかった。カイン本人でさえな」

 

 この力を継承するのと共に背負ういくつかの禁則は、もはや形骸化したものとなっていた。

 

 何故ならば、歴代の誰一人としてそれを破らなかったからだ。

 

 故に〝世界の殺意〟の称号を剥奪された継承者は存在せず、必然的に掟も形だけのものになった。

 

 俺は、その禁忌に触れられた。

 

 女神に作り出された、正規の継承者ではない俺だけはそのルールから外れていたのだ。

 

 エボルロストの力を手にする過程において様々な計算をする傍ら、答えを考え続けた。

 

 

 

 

 

「俺の答えはこうだ。〝創造〟も、〝抹消〟も──惑星の生命を管理するシステムの一部である、とな」

 

 

 

 

 

 それが、エボルロストになって〝抹消〟と魂の根底から繋がった末に導き出した答え。

 

 これは単純な破壊の力などではなく、もっと別の、とても大きなものから切り離された力の一部。

 

 その真実を、俺自身が〝抹消〟になることで知ることができた。

 

「〝創造〟は、惑星の生命を維持する機能。〝抹消〟は、その為のエネルギーの回収を行う機能……そう、結論付けた」

 

 実に突拍子も無い話だと、自分でも思う。

 

 一体どこの中学生が黒歴史ノートに書き殴る中二病設定かと。

 

 しかし根拠がちゃんと存在する。

 

「最初に疑問を持ったのは、役目を終えた継承者に対して与えられる権限だ。あらゆる願望を叶えるエネルギーなんて、どこから持ってきている?」

 

 改めて考えてみると、世界意思というのはおかしな存在だった。

 

 たかだか一人の人間の行動によって不安定になった生命のバランスで、あっけなく崩壊する脆弱性。

 

 そもそもが、蓄積された罪過という名の不要な力の処理を〝世界の殺意〟という他者に任せている不完全性。

 

 そんな中途半端な存在が、()()()()()に回すエネルギーを確保できるとは思えない。

 

「無から有は生まれない。ならどこからエネルギーを出しているのか……答えは唯一つ。〝抹消〟によって回収し、純化したバグしかあり得ない」

 

 この疑問が解けたのは、概念魔法の叡智を習得してエボルヴボトルを作った時だった。

 

 〝抹消〟の本質はバグの削除ではなく、そこから得られる膨大なエネルギーの回収にあったのだ。

 

 事実、エボルヴボトルでネルファという入れ物に入っていたマリスの力の欠片を回収できた。

 

「エネルギーの用途はそれだけじゃない。例えば〝創造〟と〝抹消〟の原動力も、ここから賄われているはずだ」

 

 生命体がいなくてはマリスや俺……というより、システムが力を維持できないのはそういうことだ。

 

 おそらく、生命を維持するための資源を生み出す星自体の力もそこから補充している。

 

 そして〝抹消〟には、エネルギー回収の他にもう一つのシステムが組み込まれていると思われる。

 

 それは、どうしてもそのサイクルで必要なエネルギーを回収しきれなかった時にリセットする機能。

 

 一定の生命を滅ぼすことで強制的にエネルギーを抽出し、残存生命で次のサイクルを開始するのだ。

 

 そうだな、わかりやすく言えば……地球で言う、古代生物の大量絶滅がまさにそれだ。

 

 

 

 

 千年というサイクルで星の生命を管理し、排出されたエネルギーを回収することで星を運行する。

 

 実によくできた仕組みだった。

 

「表面化していない他のシステムを動かしているのも、そのエネルギーだ。〝世界の殺意〟の願いに使われるのは、余った絞りカスだろうな」

 

 人間が望む範疇のことなど、その程度のエネルギーで実現できてしまうのだ。

 

 そもそも、どの〝世界の殺意〟も少なからず高潔で、大それた野望など望まなかったが。

 

「とまあ、ここまで語ってきたわけだが…………不自然じゃないか?」

「何がです?」

「この仕組みそのものがだよ。星を運営していく上で、あまりにも不確定要素が多すぎる」

 

 世界意思と〝世界の殺意〟、どちらか欠ければその時点で星が終わってしまう。

 

 実際にカインが、そしてこの女神マリスが行ったことによって、いとも容易く秩序は崩壊した。

 

 法則が無数にある中で、この二つの機能だけが具体化されていること自体がおかしいのだ。

 

「こんなアンバランスな仕組みが、自ずと発生するはずがない。それは地球やこのトータスを見てよく理解した」

 

 人形と知った今の俺にとって本当の故郷である地球、そしてこの異星。

 

 片やエヒトという上位存在に支配されていたとはいえ、どちらの星も正常に自然法則が成り立っている。

 

 それなのに、どうしてカイン達の世界だけが不可解な仕組みだったのか。

 

「俺達より上に、()()()()()。カイン達の星の法則を弄り、惑星の法則を作った存在が、どこかにいる」

 

 それは、意思持つ存在に世界の法則を委ねるとどうなるかという実験か。

 

 あるいは単に、面白がって作り上げただけのちょっとしたゲームに過ぎないのか。

 

 ……それは分からない。

 

 だが今もその存在や、同じような者達が、俺達のことをどこかから見下ろして、楽しんでいるのだ。

 

 なあ、そうだろう? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界を覗き込んでいる、読者(傍観者)の諸君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、君達を知っている。

 

 これまで何度か話しかけてみたが、今も聞こえているか? 

 

 北野シュウジというキャラクターを主軸に回る、この世界という名の舞台を楽しめたか? 

 

 君達にとってこれは、所詮無数にある世界の一つ、どこにでもあるありふれた物語だろう。

 

 どうぞ自由に見ていってくれ。

 

 願わくば最後まで鑑賞してくれると、俺としては寂しくないね。

 

「そしてあんたと俺のこの話も、彼らにとっての娯楽というわけさ」

「ええ、知っていますよ。ですが……それか何か?」

 

 結局、最後まで女神マリスの微笑みは変わらなかった。

 

 俺を憐れむように、馬鹿にしたように、あくまで優しく微笑むふりをするのだ。

 

「私にとってはどうでもいいのです。この世界が作られたものだろうと、仕組まれたものだろうと。お父さんと一緒にいられれば、それだけで」

「まっ、俺もハジメ達と一緒にいたいって気持ちがあるからな。否定はしないぜ?」

「自ら投げ捨てたくせに、何を偉そうに」

 

 鼻で笑われたぜ。徹頭徹尾正論だから言い返せねえけど。

 

「さて、興味のない話にも飽きましたし……そろそろ時間切れですね」

 

 それまでと違い、完全に俺への興味を失った声音。

 

 感情の存在しない目で一瞥したマリスは踵を返し、空間の亀裂へと去っていく。

 

 そして俺に似通った姿をした人形が、彼女の背中を守るように立ち塞がった。

 

「お別れだ、出来損ないの人形。お前はよく役に立った。たがもう要らぬ故……跡形もなく消えよ」

 

 無機質で冷酷な〝神〟としての言葉が、彼女が俺に向けた最後の関心だった。

 

「シッ!」

「──ッ!」

 

 言い終わるのと同時、人形が鋭い呼気と共に勢いよく踏み込んでくる。

 

 そして、目にも止まらぬ速さで肉薄し。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の白い背中に、ナイフを突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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