星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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繋いだその手は、手放した。


伸ばした腕は、届かない。



そして、最後のカウントダウンが始まる。




楽しんでいただけると嬉しいです。


カウントダウンは止まらない。

 三人称 SIDE

 

 

 

「……きて。ハジメ。起きて」

「…………ん」

 

 

 

 体を揺すられ、始はゆっくりと目を開ける。

 

 最初に見えたのは自分の両足。片膝を立て、金属粒子が溶けた義手が伸ばした左足に乗っていた。

 

 どうやら極度の疲労から眠っていたらしいと気がつき、緩慢な動きで自分のものとは別の熱がある左肩を見た。

 

 そこに優しく添えられた、白い手の先を見ると……自分を覗き込む顔が、二つ。

 

 一つは女神すらも見劣りする、金糸の髪と真紅の瞳を持つ天上の吸血姫。

 

 もう一つは、愛嬌のある顔立ちに逞しさと色気を備えた、ウサミミを頭に乗せた美女だった。

 

「……ユエ、シア。おかえり」

「ん。ただいま、ハジメ」

「迎えに来ましたよ。今度こそ、約束通りに」

「ああ。待ちくたびれて、つい一眠りしちまったよ」

 

 冗談を言えば、二人はかつてのように優しく笑って、その手を差し出してくれる。

 

 始は両手でそれを掴み、立ち上がった。眠る前より随分と体が軽くなっている。

 

 そして前を見れば……そこに、仲間達がいた。

 

「久しぶり、ハジメ。会いたかったよ」

「ウサギ……」

 

 最初に声を上げたのは、ウサギ。

 

 ユエとシアの間に入るように一歩踏み出してきた彼女を義眼で見て、始は大きく両目を見開く。

 

 その体は、始が黒人形の初期案として考案した生体ゴーレムの設計図を元に作り上げた、完全な義体なのだから。

 

「……よく、そこまでの体を作れたな」

「ハジメのおかげ。月の小函(ムーンセル)の力にも耐えられるこの体で、私は今この瞬間まで生きることができた。ハジメに、もう一度会えた」

「……すまない。いつもお前には、寂しい思いをさせてしまった」

「いいの。奈落で誰かを待ち続けた数千年に比べれば、一瞬だったから」

 

 チューリップのように愛らしい笑顔を浮かべ、全てを許してくれるウサギに始は苦笑した。

 

 と、その肩を異形の腕ががっしりと掴み、彼女の背後から赤い異星人が姿を現す。

 

『ようハジメ。シリーズ化したゲームの初代主人公みたいな風格してるな?』

「相変わらず、冗談が好きなやつだ」

『誰かさんのおかげでな』

 

 楽しそうに笑い、ウサギの肩から手を放してその場を去るエボルト。

 

 ウサギも笑顔のまま元の位置に戻り、続けてしゃなりしゃなりと着物の裾を揺らしてティオがやってきた。

 

「……随分と綺麗だな。ティオ」

「ふふ、ご主人様の為だけに着飾ったのじゃぞ?」

「そりゃ、光栄だ」

「喜んでもらえたようでなによりじゃ。加えて、五十年もの放置プレイなど……ほんに、ご主人様は妾のことをよくわかっておる」

「変わらんな、お前も」

 

 昔ならばここで銃弾の一発も食らわせていただろうが、始は可笑しそうに笑うだけだった。

 

 ティオとしても、遠慮をさせないための配慮だったのだろう。満足げに笑いながら踵を返した。

 

 次にやってきたのは香織と美空。どうやら一人一人話していく決まりらしい。

 

「追いかけてきたよ、ハジメくん……やっと捕まえたし、ハジメ」

「俺が言うのもおかしいが。お前らの執念は、すごいな」

「二度と離れないからね……逃げられるなんて思わないでよ? 」

「もう、どこにもいかないよ」

 

 一つの肉体に魂を宿した二人は、全く同じ笑顔を顔に浮かべて、始を正面から抱擁した。

 

 始も背中に手を回し、数秒抱き合ってから二人は離れていった。

 

「……南雲」

「久しぶりじゃの」

「天之河に……坂上か」

 

 並んで立つのは、黒い甲冑に身を包んだ光輝と老獪な笑い方をする龍太郎。

 

 光輝は面頬を外しており、シワが深く刻まれた二人の顔が、始の遠い昔の記憶にある彼らと重なる。

 

 地球では険悪だった三人。トータスでも紆余曲折あって、結局仲が良くなったわけではなかったが。

 

「……無事で、よかった」

「案外、俺も悪運に恵まれてるらしい」

「水くさいぞ、南雲。彼奴にやり返そうというのなら、誘ってくれればよかったものを」

「次に機会があったら、誘うさ」

 

 言葉を交わす三人は、とても和やかな雰囲気である。

 

 老いて、すれ違って、間違い続けて、ようやくこうして話せるのだから、なんともおかしなものだ。

 

 始はそう思いながら、目の前から去っていく二人を見送り……次に現れた人物に、表情を固くした。

 

「…………南雲くん。そこに、いるの?」

「ああ……若いな、八重樫」

「……枯れてるだけよ。それより……」

 

 さらに一歩踏み出し、雫は始の頬に手を伸ばす。

 

 グッとその顔が近付き、眼帯で覆われていても端正な作り物めいた顔立ちに、始は思わず一歩後ずさった。

 

 頬に触れるか触れないかというところで手を止めた雫は、気にした様子もなくその姿勢で動きを止める。

 

「……見える。あと一歩で、届く」

「八重樫……お前、何が見えて」

「……無事で、よかったわ」

 

 最後まで不透明なままに、速やかに体を引いた雫はそのまま戻っていってしまった。

 

 下駄が地面を叩く音が耳に響き、訝しげな顔をする始の腹にドスッ!と突き刺さる衝撃。

 

「ごふっ……!」

「パパ、会いたかったのっ!」

「ミュウちゃん、やっぱり突撃しちゃいましたね」

「ん。仕方がない」

 

 ほとんど全力疾走で始に抱きついたのは、言わずもがなミュウであった。

 

 それは始の記憶の中にある、本当の娘に等しい幼な子そのままの行動だったが、些かスケールが違う。

 

 成人女性の、それも筋肉質なミュウの抱擁はもはやタックルであり、始は全筋力を用いて受け止めた。

 

「み、ミュウ。お前も、逞しくて綺麗になったな」

「うん、ユエさん達にたくさん教わったの! パパを助ける為に、頑張ってきたよ!」

「……ありがとう。お前は自慢の娘だ」

 

 こんな馬鹿な父親を助ける為に、なんの力も持たない娘はここまで成長してくれた。

 

 

 

 

 ミュウだけではない。

 

 顔を上げて見渡せば、そこには一様に自分に笑いかけてくれる人達がいる。

 

 忘れかけていたその顔を見て、自分はまだ全てを失ってはいなかったと、そう始は思うのだ。

 

「みんなもすまなかった。改めて……本当に、ありがとう」

 

 躊躇なく告げたその一言に、始の想いは集約される。

 

 親友のように言葉を尽くす性格ではない。歳を取ったことでその傾向はより強くなってしまった。

 

 そのことを何よりも理解しているユエ達は、誰一人としてそれ以上は求めずに。

 

 ただ、頷いた。

 

「それでハジメさん。目的のものは?」

「ああ……」

 

 神妙な顔に一転、問いかけるシアに始が義眼を輝かせる。

 

 連動して義手のラインが赤く光り、伸ばした手の先に小さなゲートを開いた。

 

 この要塞の奥深く、誰も知らない場所につながったその扉から取り出されたのは……あの懐中時計。

 

「俺の魔力が途切れたら自動的に発動するように仕組んでおいたが……幸い、自分の手でやれそうだ」

 

 ボタンを押し込み蓋を開けると、既に十二の数字全てに光が満たされていた。 

 

 最悪ハ(・)ジ(・)メ(・)一(・)人(・)に(・)任(・)せ(・)る(・)つもりでいたものの、面倒な宝探しをさせる必要はなくなった。

 

「あるいはアベルに殺されることで、もう終わりたかったのかもな」

「……ダメですよ、ハジメさん」

「ん。勝手にいなくなるのは絶対に許さない」

 

 時計を見つめ、自嘲げに笑う始の義手をシアの手が包み込む。

 

 そこにユエの手と、他の面々の少し厳しい視線が添えられ、始は苦笑に表情を変えた。

 

「今更馬鹿なことは考えてないさ。それにどうせ、この時代に居続ければ」

「ん、それなら心配いらない。【存在再生】の魔法で治した」

「ハジメさんは頑固なので、寝てる間にやらせてもらいましたけどねっ」

「……どうりで体が軽いわけだ」

 

 流石は十代で世界最強の一角を担った天才。五十年もあれば、概念魔法もお手の物らしい。

 

 感嘆していいやら、呆れていいやら、曖昧に笑う始に、そっとシアが告げる。

 

「ハジメさん。何もできなかったのは、みんな同じです。私達は諦めたことで、その責任から逃れようとしてしまった。結果的に、あなたにその重さを押し付けて」

「だが、どうしようもなかった。そのことでお前達に責められることは一つもない」

「それでも、です。だから……後悔も悲しみも苦しみも憎しみも、全部全部、あなたが一人で募らせてきたものを、今度こそ背負わせてください。そのために、生きてください」

「シア……」

「あの人の存在を埋められるとは思いませんけど……私達じゃ、駄目ですか?」

 

 ……ああ、その問いかけは。

 

 復讐と悔恨に人生を捨てた始にとって、なんて残酷で、厳しくて……とても甘い〝許し〟なのだろう。

 

 ずっと裏切りの報いを受けるべきだと思い続けてきた。それがこの世界で一人、異物として消えることだと。

 

 だが、どうやら思っていたより自分は、彼女達の強さを見誤っていたらしい。

 

 同時に気がつけた。

 

 自分こそがこの中の誰よりも……シュウジがいなくなった世界から逃げていたのだ、と。

 

「……勘違いするなよ。あいつはあいつで、お前らはお前ら。代わりなんかじゃない」

 

 そんな優しすぎる言葉をもらってしまったら、始にはそう答えるしかなかった。

 

 しかと彼の答えを聞いたシアも、他の面々も、ほっと安堵したように笑った。

 

「全部終わらせて帰ったら、まず愛子さんの説教ですよ! かなり長くなりますからね〜?」

「あの人、まだ教師をやってるのか?」

「ん、ピンピンしてる。〝まだ一人卒業させていない問題児がいる〟って、いつも言ってた」

「その問題児をどうにかするまで、教壇に立ち続けるらしいですよ?」

「そうか……なら、ちゃんと卒業しなくちゃあな」

「ええ! あ、そういえばレミアさんも……」

 

 和気藹々と、思うままに言葉を交わす。

 

 やがてユエとシアの二人だけではなく、皆も会話に加わって、束の間の談笑が行われた。

 

 

 

 

 それはまるで、失っていた時を取り戻していくように。

 

 救いたくても救えなかった一人の手と、今互いに繋いだ手の温もりを、刻みつけるように。

 

 いつか皆で旅をした時のように……とても、とても、暖かく。

 

「どうやら間に合ったようだな」

「ママ、ありがとう!」

「すまない、運んでもらって」

「礼には及ばない」

 

 程なくして、戦場全体を見回りながら移動していたルイネもやってくる。

 

 追随してきたこの世界のルイネとリベルも到着し、三人へ振り返った一同が迎え入れようと振り向いた。

 

 まさしく、その時だった。

 

「っ! 時空の扉が開くっ!」

 

 ユエが鋭く飛ばした言葉に、一気に緊張が高まる。

 

 【神門】は掌握し、ユエ達が通ってきた時空のトンネルも閉じた今、それは異常事態だった。

 

 弾かれたように全員が顔を上げ、ユエが見つめる一点を見ると──遥か上空に、巨大なワームホールが出現する。

 

 前触れなく現れた黒穴に、要塞の下の戦場で歓声をあげていた者達が一斉に静まり返った。

 

 よもや、まだ神の軍勢がやってくるのかという彼らの不安と絶望は、しかし実現されることはなく。

 

 その代わりとでも言うように、渦巻くワームホールから二つの人影が吐き出された。

 

「うぉおおおおっ!?」

「きゃぁああああっ!」

 

 その人影──ハジメと雫は、【神域】から数百メートルの上空へと投げ出される。

 

 二人ともワームホールへと手を伸ばすが、もはや戻れるはずもなく乱気流にまかれながら自由落下していく。

 

 〝大宝物庫〟は破壊されてしまい、技能でどうにかしようにも魔力は枯渇してしまっている。

 

 徹底的に、二人は追い出されてしまったのだ。

 

「おいおい、ありゃあまずいんじゃないか?」

『仕方がねえな、俺が迎えに──』

「南雲殿っ! 雫殿っ!」

「ママっ!」

 

 エボルトが動くよりも早く、ルイネが即座に広場の外へと走り出す。

 

 移動しながら未来のルイネの治療を受け、ある程度体力を取り戻した彼女は勢いよく縁を蹴り、宙へ身を投げた。

 

 

 

 

 次の瞬間、カッ! と赤い光が爆ぜる。

 

 ルイネのいた場所から広がったその閃光を突き抜け、三十メートルはあろうかという巨大な真紅の竜が現れた。

 

 六枚の翼を力強くはためかせ、刃のように鋭い鱗で風を切って、より赤い眼で二人を真っ直ぐ定める。

 

 その速度は全力には程遠いものの、落ちていく二人にグングンと近づき──その背中に受け止めた。

 

「ぐっ!」

「うぁっ!」

『二人とも、無事か!』

「ルイネかっ、助かったっ!」

「あ、ありがとうルイネさん!」

『いささか寝坊が過ぎたからな、この程度は……いや、それよりあの人は!?』

 

 ルイネの言葉にハッとした二人は、彼女の背中の上でワームホールを睨み上げた。

 

 尋常ならぬ雰囲気に、ルイネは望んだ通りにいかなかったのだと悟る。

 

「あの馬鹿っ、一人だけ【神域】に残りやがったっ!」

『何だと!?』

「〝抹消〟の力と一体化して、人間じゃなくなってしまったの……!」

『まっ……!?』

 

 まさか、という言葉は、あまりの驚愕によって音になりきらなかった。

 

 その言葉を完全に受け止めた瞬間、まるで毒のようにルイネの巨体を駆け巡る冷たい恐怖。

 

 エボルトによって唯一知っていたからこそ、何もかもが手遅れになったと理解してしまった。

 

 

 

 

 ズ、ズズ…………

 

 

 

 

「っ、ワームホールが閉じる!」

「ルイネ、あそこに突っ込んでくれ! 何がなんでもあいつを【神域】から引き摺り出してっ!」

『……無駄だ。もう、何もかも遅い』

「え……?」

「どういう意味っ──!?」

 

 昏いルイネの呟きに反応する前に、空間が震える。

 

 弾かれたように顔を上げれば、半分ほどに縮小したワームホールが脈動し、新たな人影が排出された。

 

 今度は五人も飛び出してきたその人影達は、どうやら余力があるようで吐き出されてすぐに空中で停止した。

 

「あれって……」

「ユエ達だ! ルイネ!」

『……ああ』

 

 ルイネが翼を動かし、ワームホールのすぐ下にいるユエ達に接近する。

 

 彼女達はすぐに気がつき、一瞬上を見上げた後に何事か話すと、あちらも近づいてきた。

 

「ユエ、ウサギ、シア、ティオっ!」

「光輝、鈴もっ!」

「ハジメ、雫!」

「お二人とも、よくぞご無事で……!」

「生きてて、良かった……!」

「信じておったぞ、二人とも!」

 

 顔を突き合わせ、無事を喜んでくれる三人を見て、同じようにハジメ達も安堵する。

 

 勝利する様子は見せられていたものの、ハジメも雫も彼女達の様子がずっと気がかりだった。

 

 エヒトを前にしては余計なことを考えている余裕など微塵もなかった為、不安を押し殺していたのだ。

 

 二名ほど無事とは言えない状態だが……それを気遣う余裕は、今の二人になかった。

 

「お前ら、どうしてあのワームホールから……」

「うむ。見事にフリード達を倒し、そこの二人と合流した後、ご主人様達をどう追いかけるか悩んでの」

「オベリスクは全て壊してしまったから、移動する手段を探そうとしてた」

「そしたらいきなり足元にあの穴が空いて、全員落っこちたんですぅ!」

「いきなりで、びっくりした」

 

 口々に語られることを聞いていけば、どうやら五人ともろくな反応もできなかったらしい。

 

 ユエやティオは突然魔力が操れなくなって、シアやウサギは体が動かせなくなり、光輝と鈴は言うまでもない。

 

 邪龍達は一匹残らず目の前で魔封珠に姿を変え、そうして無抵抗で【神域】から退去させられたのだと。

 

「あいつの仕業かっ……!」

「シューっ、本当にたった一人で……!」

 

 誰の仕業であるかなど明白だった。

 

 相変わらず抜け目のないシュウジに二人が表情を歪めると、ふとユエ達の顔が訝しげになる。

 

「……あの、ハジメさん。シュウジさんは、どこですか?」

「っ!」

「そ、そうだ。雫、北野は助けられたんだよなっ!?」

「そ、れは……」

 

 悔しげに唇を噛み、俯く二人。

 

 その反応で全てを察し、ユエ達の顔がみるみるうちに青ざめていった。

 

 特に多くを失った光輝など、青を通り越して顔を真っ白に変えると、スカイボードの上で座り込む。

 

「……まさか、助けられなかったの?」

「ユエ、そんなはずない。この二人がシュウジを救えないなんて……ありえないよ」

「……じゃが、現に彼はここにはいない。そして恐らくは、妾達を【神域】から追い出したのもシュウジ殿……そうじゃろう?」

「「…………」」

 

 問いかけるティオに、ハジメも雫も……その下にいるルイネも、答えない。

 

 その沈黙が、何にも勝る答えだった。

 

「シュウジは、本当に馬鹿……!」

「あんちくしょう、最後の最後に厄介なことをですぅ!」

「すぐに戻らないと……!」

「無理じゃ。もう完全にあの穴は切(・)れ(・)て(・)おる。こじ開けたとて、どこにも繋がらんじゃろう」

「そんな……じゃあ、俺達は……龍太郎は、なんの、ために……」

 

 憤るユエ達を、ティオが自らも柳眉を寄せながら諌める。

 

 命以外の全てを失った光輝の呟きは殊更に二人の心を締め付け、事の顛末を話そうと口を開いた。

 

 

 

 

 

 その時、ワームホールにまた異変が起こった。

 

 

 

 

 

 不気味なほど静かに存在していたワームホールが、今度は鳴動しながら肥大化し始めたのだ。

 

 ハジメ達が、地上にいるすべての人間が見上げる中で、瞬く間にワームホールは戦場全体を覆う。

 

 

 

 

 そして……光が、各地から湧き起こった。

 

 空から、地から、人々から、何千万という光の粒子が発生し、その光景に誰もが目を奪われる。

 

 銀や黒、赤、青、はたまた白。いっそ幻想的なほどに美しいそれらは、全てワームホールへと向かった。

 

 脈動する漆黒の大穴に、光が吸い込まれていく。

 

 すると、突如として空が割れ、どことも知れぬ風景──世界の各地をその向こうに映し出す。

 

 続けて、星そのものが震えるような激震。

 

 多くの人間が体験したことがあるはずのない地響きに困惑し、悲鳴をあげ、神軍の再来かと慄いた。

 

「何が起こってる!?」

「んっ、この戦場にある魔力……違うっ、エネルギー全てを吸い上げてるっ!」

「死した使徒や魔物、コクレンの力までをも……!」

「こ、これ、どうなっちゃうんですかぁっ!?」

「シューっ……!」

「ぐっ……!」

 

 メチャクチャになった戦場に、ハジメ達のいる空間の力場も歪み始める。

 

 慌てて全員ルイネの背中に乗り込み、その場から要塞の方角に向けて避難し始めた。

 

 阿鼻叫喚の戦場の上を飛翔していると、ふとウサギが前方を見て声を荒げる。

 

「ハジメっ、パンドラタワーがっ!」

「あれは……共鳴してるのか!?」

 

 彼女の警告するものは、ハジメ達も同じように見えていた。

 

 次々とパーツごとに崩れてワームホールに吸い込まれる要塞の中心、そこに聳えるパンドラタワー。

 

 パンドラボックスの力によって生み出され、この惑星に根付いた巨塔は、赤い光を全体から発していた。

 

 その足元の一角にいる始達も、当然その異変の只中にいる。

 

「ハジメっ!」

「ハジメさんっ!」

「わかってるっ!」

 

 鋭く声を飛ばしたユエとシアに、始は手元のアーティファクトを素早く見下ろす。

 

 その数秒の間にも、どんどん地鳴りや空の崩壊は強まり、ワームホールには全ての光が吸い込まれた。

 

 まさしく天変地異。

 

 そしてついに、全ての異変が最高潮に達した時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴァ──────────ッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 盛大に撓んだワームホールとパンドラタワーの頂上から、互いに向けて吐き出された極大の光が、全てを塗り潰す。

 

 

 

 人々も、亜人も、竜人も、機械も、怪異も、ライダーも、未来からの使者達も、ハジメ達も、世界諸共、全て。

 

 

 

 まさに、その瞬間。

 

 

 

「未来へ、届け─────────っ!」

 

 

 

 カチリと、始の指が懐中時計のスイッチを押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──【見果てぬ絶望に、希望を紡ぐ(失くしたその手を、もう一度)】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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