星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はグリスの戦闘回です。
楽しんでいただけると嬉しいです。


黄金のソルジャー 後編

『オラァアアアアァアアアッッ!!!』

 

  雄叫び上げて突撃した龍太郎……仮面ライダーグリスは、小型の玩具のような武器……ツインブレイカーをベヒモスに向けて繰り出す。

 

  黄金の杭のような刃の切っ先がベヒモスの強靭な甲殻に突き刺さり、あっさりと貫通。中の肉に深く突き刺さる。

 

 

 

 ガァアアアァアァアアアッ!!

 

 

 

  よもや自分の装甲を突破されるとはつゆほども予想していなかったベヒモスは、凄まじい絶叫をあげた。

 

  グリスはそれに構わずツインブレイカーを振り抜き、一文字にベヒモスの体を切り裂く。傷口から鮮血が噴き出した。

 

  それを確認する暇もなく、グリスは体を反転させて傷口に回し蹴りを叩き込む。スーツの力で何十トンもにも増した蹴りはベヒモスの体内に衝撃を与え、ぐらりとその巨体が揺れた。

 

『どうした!そんなもんかコラァ!』

 

  荒々しい声音で叫んだグリスは、ツインブレイカーを握るのとは反対の拳を叩き込む。またも揺れるベヒモス。

 

「……はっ!?み、皆行くぞ!俺は龍太郎の加勢に、永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から攻撃を!後衛は魔法準備!上級を頼む!」

 

  グリスの猛攻に唖然としていた勇者(⑨)が我に返り、純白のバスターソードを手にベヒモスに向かう。

 

  他のものも同様にはっとし、指示された通りの位置についてベヒモスと戦闘を始めた。悪くない、と攻撃しながらメルドは笑う。

 

「万翔羽ばたき 天へと至れ 〝天翔閃〟!」

 

  光輝の振るったバスターソードから、曲線状の光の斬撃が飛翔する。それはグリスのつけた傷の上からベヒモスの体を切り裂いた。

 

「よし、いけるぞ!」

 

  グリスの力が大いに目立つが、光輝もこの一ヶ月の間ただ無為に時間を過ごしていたわけではない。勇者wなのに目立っていないが。

 

  ハジメとシュウジの現状への認識の違いはあるが、彼は彼なりに二度とあのようなことを起こすまいと努力していた。

 

  その甲斐あって、確かにあの時と違って光輝の攻撃はベヒモスに通った。それに内心ガッツポーズしながらバスターソードを振るう。

 

『オルァアッ!』

 

  一方その頃、グリスはベヒモスの背中に乗ってツインブレイカーを叩きつけていた。易々と鱗を砕き、肉を串刺しにする。

 

  非常に力強いその姿からは、グリスの……龍太郎がどれだけの努力を重ねてきたのかがよくわかる。まるで荒れ狂う竜巻のようだ。

 

  龍太郎は、ハジメに助けられて無様に何もできなかった自分にひどく憤っていた。だから何度も血反吐を吐きながら、エボルトの元で死にもの狂いで強くなった。

 

  もう二度と、友を失わないように。そしてあのふざけた男とともに帰ってきたとき、隣に並び立てるように。

 

  地獄の業火よりも激しく燃える龍太郎の心の火は、ハザードレベル4.3という結果として現れた。スクラッシュドライバーを使いこなせているのがいい証拠だ。

 

  ハザードレベル4.0以上でないと闘争本能に支配されるそれを、完璧に自分の激情と同化させることにより己の力に変えている。

 

  そんな龍太郎を、ベヒモスごときがどうこうできるはずもなかった。

 

『闘争、破壊、粉砕!もっと俺を楽しませろォォオオオオオオオオオオォォオオオッ!!!』

《シングル!》

 

  叫びながらツインブレイカーのスロットにハリネズミフルボトルを挿入し、切っ先を自分でつけた傷口に叩き込む。

 

 

《シングルブレイク!》

 

 

 ガァアアアァアァッ!!?

 

 

  無数の針型のエネルギーが傷口をえぐり、ベヒモスが絶叫をあげる。それに下のメンバーが追い打ちをかけた。

 

「我が身は剣、ただ貫く一筋の光ーー〝雷突〟」

 

  セントレアの繰り出した細身の剣の切っ先が、するりとベヒモスの体に入り込み、そして切っ先から一直線に貫くように反対側まで衝撃が突き抜けた。

 

  その一回だけにとどまらず、まるで雨のようにベヒモスの腹に刺突が降り注ぐ。相変わらずの剣の腕に、隣のメルドは頼もしく思った。

 

  〝天閃の白騎士〟。それがこの王国でのセントレアの異名だ。読んで字のごとく、まるで閃光のような神速の刺突が由来である。

 

  シュウジがいると強制的にギャグ次元に取り込まれるのでポンコツが目立っていたが、本来の彼女はこの国でも五指に入る強者なのだ。

 

  ちなみに彼女は、戦闘時以外だとメルドの前でもかなりポンコツになる。その理由は……今は言わないでおこう。

 

「俺も負けてられんな!剣が随は力、我が剣は力の剣!〝一握の剣〟!」

 

  岩山をも砕くメルドの唐竹割りが、セントレアのつけた傷の上からベヒモスの肉を潰す。

 

 

 ゴァアアアアッ!!!

 

 

  傷だらけになったベヒモスは、煩わしいと言わんばかりに咆哮すると己の体にまとわりつくものを振り払おうと突進を開始した。

 

「猛り地を割る力をここに!〝剛力〟!」

 

  しかし、それを龍太郎を除いてクラス一の巨体を持つ男、永山大吾が技能を使って大楯で受け止めた。地面に足がめり込み、歯を食いしばる。

 

「全てを切り裂く至上の一撃、〝絶断〟!ならびに八重樫流奥義、〝一文字〟」

《ヒッパーレ!ヒッパーレ!ニエンテスラッシュ!》

 

  切れ味を格段にあげる技能、シュウジ特製の武器の力、さらにそこに自分の流派の奥義を使った抜刀術を放つ。

 

  鞘から姿を現した刀身から、斬撃波が飛ぶ。それはベヒモスの頭へ向かい、片方の角を切り飛ばした。

 

「貫け、貫け、ただ貫け。〝羅貫〟!」

「粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ、〝豪撃〟!」

 

 

 

 グガァアァアアアァァァアアァッ!!!

 

 

 

  さらにもう一本の角も、セントレアが大穴を開けそこに叩き込まれたメルドの騎士剣によって粉砕された。

 

  全身の激痛と激しい怒りに、ベヒモスは渾身の力で暴れまわって今度こそ全員を吹き飛ばした。一人を除いて。

 

『俺を忘れんなぁ!!!』

《チャージボトル!潰れな〜い!チャージクラッシュ!》

 

  宙を舞うグリスはスクラッシュドライバーのスロットに黄土色のフルボトル……クマフルボトルを装填する。

 

  するとクマフルボトルから成分が抽出され、グリスの両手に巨大な熊の手型のエネルギーが形成された。

 

  そして、グリスはそれでベヒモスの頭を思い切りぶん殴った。回転も加わったその一撃は、地面にベヒモスの頭をめり込ませる。

 

『どうだ!』

「「天恵よ 遍く子らに癒しを。〝回天〟」」

 

  ツインブレイカーの切っ先を突きつけるグリスの後ろで、美空と香織が中級光回復魔法で弾き飛ばされたものたちの回復をした。

 

  一番早く復活を果たした光輝がバスターソードを肩に担ぎ、最初の傷口に向かって走る。そして切っ先を傷口に差し込み、叫んだ。

 

「〝光爆〟!」

 

  聖剣(笑)に蓄えられた魔力が一気に解放されて、もともとかなりのダメージが蓄積されていたベヒモスの内臓が破れた。

 

  思わず頭を振り上げ、表現しようのない声を上げて暴れまわるベヒモスに、グリスが飛びかかりながらビームモードのツインブレイカーにフルボトルをセットした。

 

《シングル!ツイン!》

『最大!無限!極地!俺の力、食らいやがれ!』

《ツインフィニッシュ!》

 

  ツインブレイカーに装填されたのは、ユニコーンフルボトルとタンクフルボトル。グリスがグリップのスイッチを押す。

 

  するとツインブレイカーが青い戦車のオーラに包まれ、二つの銃口から一角獣の角のようなエネルギーが飛んだ。

 

  それは寸分たがわず、残っていたベヒモスの片目に深く突き刺さる。またしても表現不可能な声を出すベヒモス。

 

  もはや両目が見えなくなったベヒモスは、がむしゃらに前に向けて突進した。その進路上には雫たちが。

 

 だが、後衛組の一人が呪文詠唱を中断して、一歩前に出た。おなじみ元気なチミっ子、谷口鈴だ。

 

「ここは聖域なりて 神敵を通さず 〝聖絶〟!!」

 

 呪文の詠唱により、ベヒモスの突撃を受け止める。凄まじい衝撃音と衝撃波が辺りに撒き散らされ、周囲の石畳を蜘蛛の巣状に粉砕する。

 

 鈴の発動した絶対の防御はしっかりとベヒモスを受け止めた。だが、本来の四節からなる詠唱ではなく、二節で無理やり展開した詠唱省略の〝聖絶〟では本来の力は発揮できない。

 

 実際、既に障壁にはヒビが入り始めている。〝結界師〟の鈴でなければ、ここまで持たせるどころか、発動すら出来なかっただろう。

 

「うぅ、負けるもんかぁ〜!」

『ナイスだ谷口!そのままもう少し抑えてろ!』

 

  歯を食いしばって受け止める鈴の視界に、〝聖絶〟の外でベヒモスの頭の下に潜り込むグリスの姿が映った。

 

《ディスチャージボトル!潰れな〜い!ディスチャージクラッシュ!》

『オラァッ!』

 

  そして、キャッスルロストボトルから右手に生成された盾型のエネルギーを、アッパーカットの要領で振り上げるグリス。

 

  下顎に直撃を受けたベヒモスは、そのままひっくり返った。四脚をジタバタとさせ、部屋を破壊しながら暴れまわる。

 

『大人しくしろ!』

《シングル!ツイン!ツインフィニッシュ!》

 

  そんなベヒモスに、グリスがローズフルボトルとロックフルボトルをツインブレイカーにセットして撃った。

 

  するとたちまち、無数の棘の生えたバラの蔦と黒ずんだ大きな鎖がベヒモスの全身を拘束する。それを見てグリスは背後を振り返り、後衛組に叫んだ。

 

『今だ!』

「下がって!」

 

 後衛代表の恵里が叫ぶと、ぐったりとした鈴を雫が抱え、他の人間も飛び退いて退避する。対してグリスは、最後の攻撃と言わんばかりにレンチに手をかけた。

 

『こいつで最後だ!』

《スクラップフィニッシュ!》

 

  もう一度ゼリーを潰したグリスの右腕に、巨大な黄金のロボットアーム型のエネルギーが形成された。それを使い、グリスは全力でベヒモスをカチ上げる。

 

 そしてその攻撃によって空中に打ち上げられたベヒモスを、タイミング良く炎系上級攻撃魔法が包み込んだ。

 

「「「「「〝炎天〟」」」」」

 

 術者五人による上級魔法。超高温の炎が球体となり、さながら太陽のようにベヒモスの体を焼き尽くす。

 

 絶大な熱量がベヒモスを襲い、暗闇の中ベヒモスは足掻くが、グリスによる拘束で逃げることもできず、〝炎天〟に囚われたままその堅固な外殻を融解されていった。

 

 

 

 グゥルァガァアアアア!!!!

 

 

 

 ベヒモスの断末魔が、広間に響き渡る。いつか聞いたあの絶叫だ。

 

  耳をつんざくほどのその叫びは少しずつ細くなっていき……やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。

 

 そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残っていたのだった。

 

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

 

  全員が全員、呆然とベヒモスだった残骸を見つめ、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。

 

  同じく、呆然としていた勇者殿wが、我を取り戻したのかスっと背筋を伸ばし、聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

 

「そうだ! 俺達の勝ちだ!」

 

 キラリと無駄に輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる光輝。その声に漸く勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。

 

  男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド団長達も感慨深そうだ。

 

『………』

 

  そんな中、グリスはジッと無言で残骸を見つめ、やがて思い出したように手を伸ばす。そして残骸から比較的無事だった甲殻を剥ぎ取った。

 

『……これでようやく、お前に一歩近づいたぞ、南雲』

 

  その甲殻を大切そうに胸部に押し付けると、踵を返してドライバーからゼリーを抜き、変身を解除しながら歩いていった。

 

「天恵よ 神秘をここに 〝譲天〟」

 

  雫たちのもとへ向かうと、今回最も根性を見せたといえる鈴が香織の手によって回復をされているところだった。

 

  鈴は龍太郎が近づいてきたのに気がつくと、それまでのぐったりとした様子は何処へやら飛び起きる。思わず苦笑する香織。

 

「よお谷口、大丈夫か?」

「ふふん!あの程度じゃ私はへこたれないよ!」

「そうかよ。まあ、なんだ。あんましこういうのは言い慣れてねえけどよ、ありがとな。お前が踏ん張ってくれたおかげでうまくやれた」

 

  そう言って、ポンと鈴の肩に手を置き、ニッと笑う龍太郎。それを見た途端にボンッ!と鈴の顔が赤くなり、ふらふらと倒れた。

 

「ちょ、おい!どうした谷口!?」

「はふぅ……かっこよすぎぃ……」

「香織!みーたん!谷口がいきなり倒れちまったんだが!?お、俺何かしたか!?」

「あ、あはは……」

「なんていうか……」

「いろんな意味で変わったわね、龍太郎……」

 

 

  慌てふためく龍太郎を見て、雫と美空、香織の三人は互いの顔を見合わせてそう笑うのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  所変わって、ハイリヒ王国の王宮のとある一室。

 

「……………」

 

  私……畑山愛子は、机に向かってひたすら手元の本の形をした手帳の白いページの上で筆を躍らせていた。

 

  カリカリと紙をペンが削る音が響く部屋の中には、私以外に誰もいない。いや、入れていないと言うべきか。

 

  なぜなら、私が今書いているのは他人に見せられないもの。私と、ある二人だけの知るとある人との記憶を描いているのだから。

 

 

『飽キナイモノダナ』

 

 

  すると突然、地鳴りのような声が頭の中に響く。それに特別驚くこともなく、手を動かし続けた。

 

「ええ、あの人との記憶を思い浮かべるだけで楽しいですから」

『ソウカ。ダガ、ワタシハ暇ダ』

 

  それに付き合っている自分の不都合を何とかしろというそれに、私は思わずため息を吐いた。

 

  しかし、無下にするわけにもいかない。この存在のおかげで私はあの人や、彼女たちとの記憶を取り戻すことができたのだから。

 

「もう少し待ってください。あと少しで書き終わるので」

『フン、仕方ガナイ』

 

  やんわりと先延ばしにすると、案外それはあっさりと引き下がってくれた。これ幸いと、書くのを続ける。

 

  が、しばらくするとまた飽きてきたのか、それは()()()()()()()()()()()()姿()()()()()。まるでドロドロのタールのような、黒い粘着質の物体。

 

  意思を持つそれは自ら動き、ぐにゃりと私の顔の前で曲がって肥大化した先端を変形させていく。

 

  ほどなくして、人間なら裂けているであろう白い牙の並ぶ口と、つり上がった大きな白い目が出来上がった。

 

  相変わらずおぞましい姿だ。私でなければ悲鳴を上げて逃げ出しただろう。名前をつけるとすれば……

 

  ……そう、悪意(ヴェノム)あたりがいいか。理由は残虐な悪性を具現化したような姿だから。

 

「ヤハリ飽イタ。書イテイルノヲ見セテモラウ」

「はぁ……仕方がないですね。邪魔はしないでくださいよ」

 

  そう自分で言いつつ、すでにかなりの邪魔をされている気がしたが面倒なのでそれ以上言うのはやめた。

 

  それからまた作業を続けること一時間ほど、ようやく書き終えたのでペンを置く。そしてぐぐっと背伸びをした。

 

「んー、疲れました」

「マア、何時間モソノママデハソウモナルダロウナ」

 

  ポキポキとなる背骨に苦笑しながら、ぽすんとベッドに寝転がる。それは器用に私の体とベッドの間に下敷きになるのをかわした。

 

  それから何をするわけでもなく、ぼーっと天井を見上げる。時折視界の端で常に笑っているように見えるそれが滑稽だった。

 

  何もしないでいると、ふと自然と過去の記憶を追い始める。そして一週間と数日前のことを思い出した。

 

「……あの日は失敗しました」

「アノガキドモノコトニツイテ話シタトキカ?」

「ええ」

 

  あの時は前世の、そして今世の私の教師としての責任感が暴走し、〝畑山愛子〟らしからぬ姿を見せてしまった。

 

  幸い珍しく本気で怒っていたと済まされ、いつも通りの〝畑山愛子〟を装っているが、ヒヤヒヤしたものだ。

 

「まあ、そもそも思い出さなければそんなことにはならなかったんですけどね」

「? ナゼワタシヲ見ル」

 

  首をかしげる自覚のないそれに、思わずまたため息を吐く。ああ嫌だ、こうもため息ばかりでは幸せが逃げてしまう。せっかくあの人にもらった幸せが。

 

  この側からみればよくわからない生き物と出会ったのは、まだ私が〝畑山愛子〟だった頃のこと。

 

  その日、私はそれまでの数日と同じくあの人とその友人が死んだと聞いて寝込んでいた。珍しく気分が軽くなったので、少し外の空気を吸おうと散策をしたのだ。

 

  そして、その道中でこれと出会った。突然私の中に入り込んできたと思ったら寄生し、封じられていた記憶を解放した。

 

「まったく、本当にあの時はびっくりしてーー」

「先生、いますか?」

 

  ブツブツと呟いていると、突然ドアがノックされる。この声は御堂さんか。すぐさまそれは体の中に引っ込んだ。

 

  ベッドから立ち上がり、扉に近づく。そして一応警戒しながら鍵を開け、ノブをひねって扉を開けーー

 

 

 シュッ!

 

 

  ーーた瞬間、目の前に迫るナイフの切っ先に、体内に隠れていたそれはすぐさま反応した。

 

  それが右顔から滲み出て、ナイフを防ぐ。立て続けに首から触手のようにそれが飛び出して襲撃者を拘束した。

 

  顔のそれが引っ込んだのを確認すると、襲撃者の顔を見る。するとそれは、意外にも声の通り御堂さんだった。

 

「……一体何のつもりですか、御堂さん」

「…やはり、既に力を取り戻していましたのね」

 

 ……この口調は。

 

「御堂さん、もしかしてあなたは……」

「ええ、おそらくあなたの予想通りですわ。とりあえずこれ、解いてくださる?」

 

  それに命令して、拘束を解かせる。御堂さんはそれのくっついていたところを払うと、部屋に入ってきた。

 

  扉を閉め、鍵をかけると御堂さんの方に振り返る。堂々とした態度で佇む彼女は、〝畑山愛子〟として知る御堂英子ではなかった。

 

「いつから気づいていたんですか?」

「王とあの老害と話をしていた時ですわ。少し盗み聞きさせてもらいましたの」

 

  トントン、と耳を叩いていう御堂さん。確かにあの時部屋の外に気配は感じたが、御堂さんだったとは。

 

「そうですか……あなたは、いつ記憶を?」

「この世界に来た時ですわ。どこかにある私の力の結晶、それに反応して多少記憶が……」

「……もしかして」

 

  机の方に手を伸ばして、それに引き出しを開けてもらう。そしてそこからあるものを取り出して手元に引き寄せた。

 

  それは、一見腕輪のように見える代物。切れ長の瞳が二つ付いた、緑色の顔の装飾が付いている。その尖った鼻は上に向いていた。

 

「あなたの力の結晶は、これではないですか?」

「……どこでこれを」

「王都に帰ってくる帰り道に、たまたま」

 

  腕輪を御堂さんに渡すと、彼女はそれをしげしげと眺めた後、するりと躊躇いなく左腕の二の腕に装着した。

 

  カチッという音とともに腕輪がロックされて、その後に低い駆動音を鳴らす。すると、御堂さんが頭を抱えた。

 

  小さくうめき声をあげながら、頭痛を我慢しているらしい御堂さん。きっと取り戻せなかった記憶が流れ込んでいるのだろう。

 

  しばらくすると、御堂さんの表情が和らぐ。かと思えば、突如彼女の髪が根元から金色に染まっていった。

 

「改変魔法を使ったのですか?」

「ええ。黒髪よりこちらの方が落ち着きますもの」

 

  記憶を完全に取り戻したらしい御堂さんは、見覚えのある勝気な笑みを浮かべて髪をかきあげた。すると、その下から凄まじい美貌が出てくる。

 

  同性でも虜になるだろうそれに、しかし私は特に何も感じなかった。前世の彼女はこれよりさらに数倍は美しい。

 

  とりあえず、それを駆使して数分でお茶の用意を整え、二人でベッドに座る。そして安物の紅茶をすすった。

 

「ふぅ。感謝しますわ、これでようやく記憶と力を取り戻せました」

「いえ、お役に立てたなら良かったです……それで。あなたはあのことをどう思います?」

「……彼の方のことですわね。無論、毛ほども死んだとは思っておりませんわ。彼の方を殺せるのは彼の方ご自身だけですもの」

「ええ。それによって私たちは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

  皮肉なものですわね、と吐き捨てるように言う御堂さん。彼女はあの人がしたことを、多分私たちの中で最も怒っている。

 

「これからどうします?」

「そうですね……しばらくは様子見といきましょう。まずはこの世界の情報を集めるのが優先ですわ。彼の方の連れていたエボルトとやらの動向も気になりますし」

「同意見です。私も今の地位を使ってできるだけ色々と探ってみましょう。ああ、あくまで〝畑山愛子〟を演じながらですが」

「演じながら、ですか……あなたがなりたかった教師ですものね。存分に楽しむといいですわ」

「そうします。情報が集まり次第、あの人を探しましょう。あの人がいつまでもあそこにいるとは思えませんし」

「ですわね。それに……一緒にいるであろう、あのバカ姉も」

「……多分、あの人とイチャイチャしてるんでしょうね」

「……ですわね」

 

 私が一番弟子なのに。

 

「まったく、彼の方の初めてを奪うわ、迷宮では最悪のタイミングで現れるわ。その上、きっと抜け駆けしてますわ」

「多分もう、あの八重樫さんと同じくらい仲良くなっていると思いますよ」

「ああ、彼の方に選ばれた女ですわね。彼女には期待していますわ」

「右に同じ、です……まあ、とにかく。これからともに頑張っていきましょう」

「ええ、そうですわね。全ては……」

 

 

 

 そう、全ては……

 

 

 

「「あの人(彼の方)の幸せのために」」

 




謎の会話をする二人。愛子先生に取り憑いたものとは……?
次回、皇帝VS……
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