尺の都合上、王都でのひと時を一つにまとめました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
思えば、俺はずっと怯えていたのだと思う。
かつて創り直された旧世界、そこで俺は……最愛の人を救い。
けれど救えなかったから。
人々を弄ぶ邪神とその尖兵達を、仲間やあいつの軍勢に丸投げして、後ろを気にしなくて良くて。
龍太郎に〝獣〟を、鈴に恵里を任せて、それだけお膳立てしてもらったのに、助けられなかった。
結局、あいつのおかげで彼女は生き返って、そして俺の隣にいてくれて。
でもそれがなければ彼女は消えていて、俺は──それが、酷く辛くて怖かったんだ。
ずっと、この幸せは分不相応だと思っていた。
その重々しい後ろめたさとは裏腹に、彼女や仲間達の優しさに甘んじていたのだとも思う。
だから自分を誤魔化したのだ……今度こそ彼女を守ると、俺が守れるのは一人だけだと、そう目を閉じた。
その盲目はとても心地が良くて、俺にまやかしの安寧を与えてくれた。
けれど、心の奥底でずっと思っていた。
俺は、あの罪科に見合うだけの贖罪をしなければならないと。
「おおぉおおおおっ!!」
ヴァーゲを振るう。
俺の殺意を吸い上げた魔剣は遺憾無くその力を発揮し、飛びかかってきた敵を切り捨てた。
扇状に広がった斬撃に、数十の《暗き者》が滅ぶ。しかしその後ろにはさらに数千、数万の敵が。
残心する間も無く、背後を除いた全方位から襲いかかってくる《暗き者》にヴァーゲを構え直した。
最初に戦場に降り立ってから、何百の《暗き者》を切り捨てただろう。
百を斬り、五百を斬り、千を斬ったところで数えるのをやめてしまった。そんな余裕はなかった。
日が落ち、轟々と燃え盛るドームの煌めきと、態勢を立て直したシンクレア軍の恩恵術が闇夜に輝く。
それらに照らされた眼前には、依然として夥しい数の《暗き者》達。
アークエットにもいた牛頭種や鱗竜種、奇骨種だけでなく、黒狼種や見たことのない種まで様々だ。
数時間前に分団の転移が終わり、六万強の全戦力がこの都を落とさんと襲いかかってきている。
俺が今いる、この北門にいるのは三万というところだろうか。
数百メートル離れた西門と東門に二万弱の気配があり、そちらは現地の戦士団が応戦している。
暴れまわることで俺に意識を集め、背後の南門にだけは行かせまいとしていた。
『家畜ごときが、死ねぇっ!』
「ふっ!」
〝活路看破〟を発動、振り下ろされた漆黒の大斧をヴァーゲの刀身で外側にずらす。
八重樫流〝音刃流し〟。それを応用して一刀のもとに切り捨てると、振り抜いた勢いのまま黒蒼炎を撒き散らす。
追撃しようとしていた五体をまとめて焼き払い、赤い瞳を細めた第二陣に接近。
「ハッ!!」
『『『グォォオオッ!!?』』』
震脚、からの一閃。
地を走る炎をヴァーゲで巻き上げ、炎嵐を作り上げてさらに数十を殺す。
炎が殺した《暗き者》の分だけ瘴気を吸収し、目減りしたシンセイの力に変換して俺に力を与えた。
嵐が消えると、一心に俺だけを殺そうとしていた《暗き者》達が少しだけ足を止める。
いくら殺そうとしても疲れる様子がなく……それどころか、力を増していく不気味さに慄いたのだろう。
そんな奴らに対し、俺は一度たりともドームから体の前面を向けてはいなかった。
「さあ、次はどいつだ。いくらでも相手になるぞ」
ヴァーゲを振り、刀身にこびりついた血のような瘴気を払いながら告げる。
すると、一拍躊躇するような気配の後──それまでの数倍の怒号と殺意を以って突撃してきた。
俺は仮面の奥で目を細め、ぐっと身を屈めると翼から大量の羽を射出した。
マシンガンの弾丸のように飛び出した濡羽に、先頭の数十が穴だらけになる。
前へよろめく死体に踏鞴を踏む瞬間を見極め、左腕を覆う魔鎧に炎を纏わせた。
「ハァッ!!」
下から上に向けて腕を振るい、五指から地を這う黒蒼炎を放つ。
貫通力に特化させた炎刃は《暗き者》を縦に六、七体ほど纏めて切り裂いて穴を生む。
「〝悪以悪断〟!!」
刀身を伸張・幅を広くしたヴァーゲをその穴に差し込み、左右に素早く振るった。
総算して百以上の《暗き者》が削れた。しかしその間に、ヴァーゲの範囲外を回り込むように挟撃が迫る。
濡羽を飛ばそうと左腕を掲げ──その瞬間、後ろから飛んできた豪風が《暗き者》らをなぎ払った。
「フール殿!」
「っ!」
素早く背後を振り向く。
そこには、ドーム越しに腕を前へと掲げたリンデン術師長率いる術師団がいた。
先頭にいる彼は、俺に向かって頷いてくる。襲撃者を気配だけで斬りながら、俺も頷いた。
「来い! 最後の一体まで相手してやるっ!」
『奴を殺せぇっ!』
『奴さえ死ねばこの忌々しい結界も解けるぞ!』
『あの
……化け物、か。
罵りであろうその言葉が、何故か殺意で磨き抜かれた黒い心に滲む。
脳裏に一瞬よぎるのは、魔神とまで呼ばれた戦友と、愛の為に神をも斬った幼馴染。
そして、血濡れた椅子に悠然と君臨する妖美な最愛を思い出して──俺は笑った。
化け物? 上等だよ。
それは俺にとって、何よりの賞賛だッ!
「お前達には俺の、誰の命も奪わせはしないッ!」
魔力を吹き出し、黒蒼炎へと点火して180度全方位から迫る《暗き者》や瘴気の武器を焼却。
そのまま前方の一隊へと斬り込み、迎え撃つように振り下ろされた武器ごと滅多斬りにした。
その調子で、もうずっと戦い続けている。
広範囲の技で一度に多くの《暗き者》を倒し、同時に瘴気を吸収して魔力に変換する。
七割は今もあちこちから絶えず攻撃されているドームの維持と補強に。残りを俺の力の回復に。
殺し、命を吸い、殺し、命を吸い、殺し。ただただその繰り返し。
負の感情で溢れ返ったこの戦場は、悪意を食らうシンセイの独壇場だ。
この膨大な軍勢に抗するのに必須な殲滅力と継戦力を、存分に与えてくれる!
──ふと、命を奪うことに躊躇いのない自分に気がつく。
今更な話だ。この世界に来てから随分と《暗き者》達の命を奪ってきた。
かつての自分はこうではなかった。
意志があり、心のある存在を害することに酷く怯えた。
それは人として正しい心なのだろう。今も決してそれが消えたわけではない。
ヴァーゲを通して伝わる、肉を断ち骨を砕き、命を斬る感触に酷く気分が悪い。
一振りごとに、あの時のことがフラッシュバックする。
救えなかったのに救ってもらったと許された、甘くて苦くて、何よりも切ない記憶が木霊する。
自分の中に根付いた倫理観が、良心が囁く。
また誰かの命を奪うのかと。天之河光輝がその剣を振れば、勇気を出してしまえば、最後にはまた失うぞと。
それを分かっているのに、剣を振る手を止めないのは──ああ、確かに化け物のような心だ。
「ぜぁあああっ!」
『『ガッ』』
だが、それでいい!
その恐れが、命を奪う重責が、俺に願いを貫く為の力を与えてくれる!
罪悪が消えさらなくともいい! 罪深いまま許されないことが罰だというなら受け入れよう!
泥に塗れ、血に濡れそぼり、ただ独り迷いと後悔に押しつぶされ!
それでも吼えたてる滑稽さこそが、愚か者の天之河光輝には相応しいッ!!
ああ、でも。
それでいつまでも彼女に相応しくなれないのは、ちょっと寂しいな。
でも、だからこそ。
こんなところで死にはしないし、せめて守ると決めた彼女達は……一方だけは見捨てない!
『くっ、なんという奴! 傷一つも負わんとは!』
『囲め! 数で押し潰すぞ!』
『家畜が、無駄な足掻きを!』
黒の暴流は止まらない。
絶えることなく押し寄せる波の如く、際限なしに殺しに来る《暗き者》に表情を引き締める。
直後、俺の体を大量の黒が覆い隠し──直後、それよりも煌めく黒蒼炎に消し飛んだ。
「次はどいつ──っ!?」
〝悪意感知〟に強烈な反応。
これまでで最大濃度、最大質量の殺意が全身を叩き、その発生源である頭上へと視線を向ける。
すると、そこにこれまで見たどれより濃密な色をした瘴気が寄り集まり、巨大な大剣の形をとった。
優に二十メートルを超える、瘴気を纏う刃。
それがまるで、振り上げられるように空へ浮かび──落ちる。
「くっ!?」
あれは《黒王》か!? 流石にマズいっ!?
俺どころか、王都を守るドームさえも巻き込んで破壊しうる力だぞ!
「させるかぁっ!」
雄叫びを上げ、全身とヴァーゲに蓄えていた魔力を全て出力する。
刀身を最大まで幅広く、分厚く、巨大にすると、砂漠に亀裂が走るほどの力で踏み込んだ。
その余波でこちらに接近していた《暗き者》達を吹き飛ばし、巨大な黒剣を見据えた。
「ぐぅううううっ!!」
シンセイの力があっても、酷く重々しい極大の魔剣。
大地を踏みしめる両足から腰へ、腰から上半身へ、そして両腕へ。
全身の筋肉を隆起させ、その膨張に優秀な防具でもあるスーツが内側から引き攣る。
「オオオオオオォオオオオオオッ────!!」
全身を使い、俺はついにやってきた黒剣へとヴァーゲを薙ぎ払った。
接触した瞬間、黒い瘴気と青黒い光が衝突し、形容できない激重がのしかかる。
筋肉が、骨が軋む恐ろしい音に歯を食いしばり、柄を握る手に力を込め直した。
「負、ける、かぁああぁあァァアア!!!」
魔力の一滴、気力の一絞りまで注ぎ込んで、壊翼から炎を噴出する。
それを推進力に、〝覇潰〟を発動して力を底上げすると、ヴァーゲを振り切った。
黒剣を打ち返し、一瞬の空白。
直後、爆発が一帯を飲み込んだ。
剣を構築していた瘴気が弾け飛び、物理的な衝撃となって周囲を破壊し尽くす。
激しい爆発と鳴動の中、巻き込まれた《暗き者》達の悲鳴が幾重にも響き──
「──ぐ、はっ」
大量の瘴気が霧散した時、俺は膝をついた。
「……く、そ…………なんて、攻撃だ」
ヴァーゲを支えに、何とか両膝をつくことだけは避ける。
本調子でない上に大部分の力をドームに注いでいるせいで、十分な防御が間に合わなかった。
温存していた分の魔力も回してしまったことで、体もヴァーゲもすっからかんだ。
『奴が弱ったぞ!』
『今だ、殺せッ!』
その隙を逃さず、《暗き者》達が昏い歓喜の声を上げてやって来る。
仲間が巻き添えになったことより、厄介な敵が動けなくなったことが、殺す方が重要か。
いや、余計なことを考えてる場合ではない! 早く立ち上がらなくては──!
キエロ
猛る《暗き者》達が爆心地に踏み込んだ瞬間、炭化した砂漠から無数の目が現れる。
そこから光線のように真上へ貫いた無数の黒蒼炎が、奴等をことごとく穴だらけにした。
絶命し、形を保てなくなった《暗き者》達が崩れていく。
その場に残った瘴気の全てをシンセイが吸い上げ、翼から取り込まれたそれが魔力に変換された。
先の一撃で傷ついた体を〝吸収回復〟で多少癒して、俺は立ち上がる。
揺れる体を正し、再び足踏みした奴らを割れた仮面の穴から直接見て、殺気を放った。
「──この程度で、殺せると思うな」
『っ、この化け物がぁっ!』
それはどの《暗き者》の叫びだっただろうか。
今更退けるかと言わんばかりに殺到してくる奴等に、俺は両足に力を込めると一歩踏み出した。
最も接近していた一体に、まず狙いを定める。
振り下ろされる武器の軌道を予測し、波打つ刀身によって絡め取ると両手を万歳した姿勢になる。
無防備になった人型の《暗き者》の首筋に、ヴァーゲを薙ぎ払い、頭を飛ばす……
「っ」
『死ね!』
崩れ落ちる屍を隠れ蓑に、刃のように薄い腕を振るってきた奇骨種の一撃を受ける。
一瞬、挙動が遅れた。そのことに顔をしかめながら、腕を巻き込んでバランスを崩して斬る。
振り切ることも許さぬように、左右から無数の殺気。〝魔腕〟を二本飛ばして殴り殺す。
瞬間、左足の太ももに激しい衝撃と痛みが走った。
睨み下ろすと、先ほど切り落とした《暗き者》が舌を瘴気で硬化し、突き刺してきている。
白いズボンにジワリと広がっていく鮮血が、非常に鮮明だ。
『足が止まれば、貴様とて──!』
「シッ!」
最後の足掻きを見せる頭を、そちらの方向に向けた踏み込みで潰す。
そのまま翼を持つ個体を斬撃波で撫で斬りにし、飛び散った瘴気を〝吸収回復〟して足の穴を塞いだ。
だが、流れた血は戻らない。
《黒王》と思しき攻撃で大量に出血し、魔力も消費したことで、体感で五割までスペックが落ちたというのに。
戦い始めてもう半日も経っただろうか。最初に戦場に来た時より、酷く気怠かった。
なおも、踏み込む足も剣を振るう腕も止めはしない。
『キエェエエエ!!』
「がッ」
手元が緩み、全て仕留めきれなかった鳥型の《暗き者》が飛ばした瘴気の刃が仮面を削る。
それは大きな亀裂を生み、さらには額を切り裂いて生暖かいものが目元を伝った。
「落ちろッ!!」
『ギュァッ!?』
次の発射の前に、翼で飛翔し叩き斬る。
やや過剰に発動した斬撃波が進路上の《暗き者》達に直撃し、俺はそこへと着地する。
途端、左足が震えたことで体重を支えきれずによろめいた。
『くたばれェい!』
「ごっ──」
タイミングよく薙ぎ払われた戦鎚が、脇腹を打った。
鎧が砕け、骨に亀裂が走る。それを知覚するのと同時、俺は《暗き者》を巻き込みながら吹っ飛ばされた。
よほど怪力の種族だったのだろう、着地地点から五メートルも離れた位置でようやく止まる。
「ぐっ……!」
『囲め! 嬲り殺せ!』
『奴を包囲しろ!』
数えきれないほどの《暗き者》が押し寄せてくる。
確実に自分を殺すために突き出される爪に、牙に、刃に、俺は──
「舐める、なぁああああアァアアアッ!!」
直後、数百と飛んだ濡羽が《暗き者》達をミンチに変えた。
尋常ならざる数に直近の敵は葬り去り、そのまま翼をはためかせると脱出する。
再びドームの前──北門の正面に位置する場所に着地した俺は、反動で脱力する体を剣で支える。
そして、動揺するように蠢く奴らへ威嚇するように──
「フーッ、フーッ……!」
『貴様、いったいどれほど……!?』
『本当に人間か……!?』
……使わ、されたか。
〝侵食再生〟。
肉体とシンセイの融合度を高め、侵食することで作り直す技能。
ステータスプレートには表示されないだろう、命を削って手にする仮初めの力。
既に肉体的性能は四割弱まで落ちている。
元来の自然治癒力とシンセイの力があるとはいえ、一度死にかけた体は未だ疲弊していた。
それでここまで体を酷使すれば、普段よりずっと早く体が傷ついても何らおかしいことはない。
そこに無理やり変質などさせれば……結果は見えている。
「はは。やっぱり、働きすぎはよくないな」
軽口を一つ。変質した肉体の感触を誤魔化しながら、ヴァーゲを構え直す。
「どうした、侵略者ども。俺はまだまだやれるぞ」
『っ、家畜がァ!』
決起した《暗き者》達へ、俺は何百度目か踏み込んだ。
斬る。殺す。
意志力と気力に体が追いつかず、傷を負う。それ以上の力で相手を殺して命を奪い取る。
また斬る。殺す。殺す殺す殺す斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。
切り裂かれる。抉り取られる。貫かれる。殴られる。潰される。
その度に体は動かなくなっていき、青く脈動する鎧は全身に広がって纏わり付いていく。
落ちた力を補うも、同時に自分の体が取り返しのつかない変化をしていることを自覚する。
だが、それがどうした。
戦うとクーネ王女に誓った。他者の命を奪ってでも彼女の元へ帰ると自分に誓った。
だったら、やれる。やれないはずがない。やり通さなくてはいけない。
一度守ると、救うと宣言したのなら──その選択をしたのなら、最後まで貫かなければ。
だから、だから、俺は。
「お、れは……死ね……ない…………」
何千回、剣を振っただろう。
いったい幾つの命を奪い、何百の傷を負っただろう。
それさえも忘れるほど、ただただ殺して殺して殺した。それ以外の思考は一切できなかった。
我武者羅に、一心不乱に戦い続けているうちに、いつしか朝日が昇っていた。
『──此奴、何という生き物だ』
『人間ではない……我らでもない』
『この世ならざる、怪物めが』
……《暗き者》達の、声が遠い。
半壊した仮面の向こうにぼんやりと見えるその数は、随分と減ったように思う。
一万ほど斬ったか、あるいはそれ以上斬ったかもしれない。ほぼ血のない体がその感覚だけを覚えている。
死に体はほとんどが昏い鎧に飲み込まれていた。背に感じる翼は四つのような気がするし、六つのような気がする。
下にある肉の体は、もう壊れかけだ。操り人形のように鎧で動かしているに過ぎない。
シンセイがいなければ、とっくに死んでいた。
「フール殿ッ! どうか一度撤退をッ!」
「それ以上は死んでしまいます!」
背後から、誰かの声が聞こえる。
【獄絶】に力を回しきれなくなって、少し前に意識の片隅でオアシスの内周まで規模を縮めたっけ。
ああ、不甲斐ない。
やはり俺一人にできることなど、たかが知れて──
『死ね、化け物』
ふと、全身に衝撃が。
気がついたら痛みも感じなくなっていて、我ながら不思議にだけ思って自分を見下ろす。
武器が、突き刺さっていた。
一部の隙もなく、全身をありとあらゆる武器が埋め尽くし、えぐり取り、貫いて。
俺を、殺していた。
「ご、ぷェ…………ッ」
ああ、これは。
もう、
流石に自覚した〝死〟に、俺は諦めたように笑って。
次の瞬間に武器が一斉に引き抜かれた途端、少しだけ仰け反ってから……仰向けに倒れ伏した。
鎧の破片が飛び散る。
血が広がっていく。
急速に五感が失われていき、眠気が生まれる。
ああ……俺、死ぬのか。
「フール殿ぉっ!」
「っ、結界が! 急ぎ全戦力を整えろ!」
「奴らが来るぞッ!」
かろうじて維持していた【獄絶】が消えていくのを感じた。
誰かが俺を見て上げている悲鳴が朧げだ。
『ふん、手間をかけさせてくれたものよ』
『よもやたった一人で、我等を一万以上殺し回るとは……』
『まさか、此奴が勇者か?』
『なんにせよ、これで奴らの守りは消えた。侵攻を再開するぞ』
『家畜の分際で、忌々しいものよ』
見下ろす、目線が、消えていく。
死んでいく俺に興味はないと、いうことなのだろう。
それを感じ取る俺の意識もまた、削り取られるように消えていく。
俺を避けて、無数の足音が後ろに向かう。
そこにいる、戦士や、術師達に。怖さを押さえつけ、いざという時は戦うと言った、人々に。
そして──たった一人、すべて背負おうとしていた、あの幼い少女へと。
ドグッ。
ああ…………それは、なんて。
ドグッ!
なんて、許し難くて。
ドグッ!!!!!!!!!
なんテ──────にクィこトダ。
『……ん?』
《暗き者》の一体が、足を止めた。
そして後ろを見て──立ち上がっている俺に、赤い目を見開く。
『おい、待て! まだ生きているぞ!』
『なんだと!?』
侵攻をしようとしていた軍勢が止まり、再びこちらを見る。
奴らは、驚愕し、畏怖したように震え、その後に殺気を放ちながら俺を包囲した。
『貴様、往生際が悪いぞ!』
『面倒な家畜だ、今度こそ殺して』
「…………ル」
『……何?』
俺は、俯かせていた顔を上げて。
「まモRu」
《暗き者》達の体を、食い千切った。
大きく開けた口で、噛み千切った《暗き者》を咀嚼し、瘴気を吸い込む。
地面に零れ落ちた足や手も喰い、飲み込むと少しだけ腹が膨れた。
『な、こいつはっ──』
「もッt、クわsEロ」
足りない。
この疼きは、渇きは──こんな小さい体じゃ、満たせない。
「ぐ、ルァ……あああアアアアァアアアアアアァアアぁあああアアアアアアァアアアァアあアアアアァアアああああアアアアァアアァアアああアァアああああアアアぁああああああアァアあアアアアァアアァアアアあああァアアァアあ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ふくれろ、ふくれろ、ぞうおのように。
もえろ、もえろ、いかりのように。
ほえろ、ほえろ、りゅうのように。
ぜんぶたべれるからだがほしい。
ひとくちで、いのちをほおばるおおきなくちを。
ひとなでで、いのちをかりとるおおきなつめを。
ひとふりで、いのちをなぎはらえるおおきなおを。
ひといきで、いのちをけしさるおおきなつばさを。
オれハ、クラう。
おrEHA、いキル。
「オオォォオオォォオオオオオオォオオオオォオオオオオオオオン────────────────………………………………」
tAトえ、すべテのiNOちヲくらッテでmo。
次回をお楽しみに。
読んでいただき、ありがとうございます。