星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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続きです。


フィーネの容姿は、瞳も白いカーマちゃん第三再臨みたいにイメージしていただけると。


楽しんでいただけると嬉しいです。


それは喜劇のような一日 II

「はぁ? 頭がおかしいんじゃ」

「フィーネ」

 

 フィーネが口を噤む。アルナの細められた目にはそれだけの圧があった。

 

 大人しくなったのを見て、次に彼女はフードコート全体へとその感覚を広げていく。

 

 

 

(……六、八、いや九。全員同じような気配。それに)

 

 

 

「銃を持ってるね、貴方達」

「ほう、察しがいいな。その通りだ。俺が合図すればここにいる全員を蜂の巣にできる、と言えばわかりやすいだろう?」

「「「っ!」」」

 

 レミア達がさっと顔を青ざめさせる。

 

 この男の言う〝皆殺し〟が本気でも、魔王から色々と持たされている彼女達にはなんともない。

 

 だが、他の客は違う。

 

 よもや武装集団がデパートのフードコートに紛れ込んでいるなど考えもせず、ただ食事をしているだけだ。

 

 全員を守りきれるかと聞かれれば、その答えは絶対的に否と答えざるを得ない。

 

「それで? 私達にどうしてほしいの?」

 

 必然的に、アルナは男に向かって静かに要求を問うた。

 

 男はニヤリと胡散臭い笑みを浮かべると、アルナの肩に手を置く。

 

「物分りが良いのは利口だ。ついてこい、そうすれば他の客に危害は加えない」

「そう……三人とも」

 

 レミア達は、一瞬逡巡する様子を見せた後、周囲を見渡して深いため息を吐いた。

 

 全員が立ち上がると男は満足そうに頷く。そうして彼女達を連れていく為に歩き出した。

 

 が、すぐに立ち止まると自分を睨みつけていたフィーネを見る。

 

「ああ、そうだ。お前も来い。話を聞いていた以上は……わかっているな?」

「私が名前も知らない人間を気にかけるとでも?」

「そうか。だが……お前の家族はどうだ?」

「っ」

「両親、親戚、友人……そういった奴らも、その気になれば探し出せるんだぞ?」

 

 周囲から勘付かれないよう、声を潜めた男は厭らしく笑う。

 

 流石にそこまで言われるとフィーネも言葉を詰まらせ、手の中のカップを凹ませる。

 

「…………ゲスが」

「褒め言葉だな。さあ、さっさとついて来い」

「……チッ」

 

 フィーネは力強くテーブルにカップを叩きつけ、だがそれ以上反論はできなかった。

 

 無言で男を睨めつけるフィーネを加え、五人は男と共にフードコートを後にする。

 

 その際、アルナは先ほど確認した者達が見計らったように動き始めたのをしっかりと捉えていた。

 

 

 

 

 本当に必要以上に騒ぎにするつもりはないのか、男達は不自然でない程度に誤認をモールから連れ出した。

 

 そのまま駐車場の中でばらけて止まっていた車に乗せると、互いに連絡を取って発進してしまう。

 

「「…………」」

 

 アルナとフィーネは、リーダー格と思しき男のいるジープに乗せられた。

 

 手首には頑丈そうな手錠付き。監視カメラに映さないよう車に入ってから嵌められた。

 

 その車両を先頭に、それぞれ車種の違う、巧妙に無関係を装われた車が3台ほど続いている。

 

 

 

(……統率された動き、潤沢な手口に整った装備。そこらの犯罪者じゃない)

 

 

 

 表面上は恐怖で俯いている風を装いながら、アルナは分析をした。

 

 全ての窓に貼られたスモーク、運転手と助手席に座る男の会話、彼らが服の下に隠した銃器。

 

 訓練されたとわかる体つきや、何より先ほどフィーネに脅しをかけた際に垣間見えた情報収集能力。

 

 それら全てから、この男達が何かしらの組織だった集団であることが予測できた。

 

「ちょっと、どこまで連れて行くのよ」

「黙って座ってろ」

 

 しびれを切らしたようなフィーネの言葉が即座に一刀両断される。

 

 舌打ちをした彼女は、前を見ていると男が視界に入るが嫌なのか上を見始めた。

 

 

 

(ハジメに連絡は……まだ早い。相手の情報が足りなさすぎる)

 

 

 

 魔王に救援を求めれば一発でカタがつくだろうが、それではいけないとアルナは思い直す。

 

 相手は正体不明の武装集団。それも背後に得体の知れない組織まで絡んでいる。

 

 この世界で人として生きてきた今のアルナだからこそ、その不明さが何より恐ろしいものであると理解していた。

 

 故にじっと、後ろの車両にいるレミア達の軽輩を捉えつつも無言で座り続ける。

 

 

 

(それに)

 

 

 

 ふと、垂れた前髪の隙間から隣を見た。

 

 外を見ているフィーネ。この世界ではごく普通の一般人として幼少から付き合っている彼女。

 

 一見冷静そうに見えるその横顔は、怯えを押し殺しているようにも見えるが…… 

 

「………………」

 

 アルナは、黙して待ち続けた。

 

 

 

 

 30分ほど走っただろうか。

 

 ようやく車が止まり、シートベルトを外した運転手と男が外へと出ていく。

 

 程なくして後部座席のドアが外から開かれ、男に「降りろ」と顎で示された二人は降車した。

 

 そこは駅から遠く離れた、廃ビルの裏に一する駐車場のようだった。

 

 

(……中から大勢の気配。こんなにいるんだ)

 

 

 優れた感覚が、目の前に聳え立つコンクリートの塔に数十人の気配を感じ取る。

 

 目の前には裏口があり、すぐ近くに並んで停められた車からはレミア達が降ろされていた。

 

「歩け」

「っ」

 

 背中に硬質な感触。

 

 それが拳銃であることは明白で、アルナとフィーネは一瞬目線を交差させると歩き出す。

 

 アルナ達と男達、計十四人でビルに入っていく。

 

 寂れたエントランス。元は何かの施設だったのか、壊れたソファと受付カウンターが目立つ。

 

「隊長」

 

 エントランスには二、三人の男達が待機していた。

 

 全員が同じ型のアサルトライフルを装備し、太もものホルダーにはナイフや拳銃が。

 

 高い武装の質にアルナが密かに目を細める中、男が一歩踏み出す。

 

「ターゲットは確保した。対象への脅迫と本部への連絡を開始する」

「了解しました」

「……私達を攫ったのは、身代金が目的?」

 

 男達が振り返る。

 

 その際、エントランスにいたうちの一人がフィーネを見て何かに気付いたような顔をした。

 

 無表情で自分達を見返してくるアルナに、男はいかにも悪人らしい笑みを顔に浮かべた。

 

「そうだ。お前のスポンサーは国内業績第一位のスポーツ用品会社。そしてお前は、ここ数年目覚ましい記録を出し続けている最高の広告塔だ。さぞ良い金額を出すだろう」

「……そう」

 

 全身を舐め回すような男の視線に、アルナは気ほども動じていない様子で納得する。

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら自分達は、ミステリー小説のように奇異な事件に巻き込まれたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 実にありきたりな展開だ。

 

 だが、そういう立場に自分がいるという自覚はあったのだ。

 

 その反応がつまらなかったのか、男は鼻を鳴らすとレミア達へ視線を移す。

 

「女とガキは、上場企業の社長が囲ってる親娘に、そっちのはあの()()()と世界的有名資産家の娘ときたもんだ。こっちも……」

「隊長」

 

 部下の一人が、男の語りを遮って近づく。

 

 怪訝そうな顔をした男は部下が差し出したタブレットを受け取り、その画面を読み込んだ。

 

 そして、ニヤリと邪悪に笑う。

 

「ほう。お前はフィーネ・E・アンヘルか」

「っ!」

「アルナ・ハウリアに比肩するライバルとして、注目を浴びる有名選手。スポンサーもかなりの大手。まさか、偶然連れてきた女が金の卵だったとはな」

 

 機嫌が良さげにフィーネを見やる。

 

 それまでついでのような扱いだったものが、たった情報ひとつで価値が露呈してしまった。

 

 元から氷点下だった視線を更に冷たくするフィーネへ、男はくつくつと笑う。

 

「こういうのを日本では、一石二鳥というのだったか。いや、()()だな」

「……?」

「いい拾い物をした。おい、こいつらを上の部屋に監禁しておけ」

「「了解しました」」

 

 頷いた男達が、それぞれアルナ達に近づいてその腕や肩を掴む。

 

 ここで逆らうことは得策ではない、そう理解している四人は視線を交わして大人しくした。

 

 だがフィーネだけは、誘拐犯の手が体に触れることがよほど嫌だったのか、強く肩を揺する。

 

「ちょっと、触らないで!」

「…チッ。このクソアマが」

 

 手を振り払われた男は舌打ちをこぼすと、躊躇なくその手を頬目掛けて振りかぶった。

 

 あまりに容赦のない一撃にフィーネは目を見開き──しかし、その手が届くことはなかった。

 

「私の友達に怪我させないで」

「あ、アルナさん……」

「っ、こいつ!」

「やめておけ、大事な人質だ」

「チッ!」

 

 乱暴に手を払い、部下の男は不機嫌そうに引き下がった。

 

 間に差し込んだ手を下げたアルナは、フィーネに向けて小さく微笑む。

 

 彼女は何かを言おうとして、ぐっと下唇を噛んで俯いた。

 

 

 

 

 男達に連れられ、五人は上階に連れて行かれる。

 

 途中でアルナとフィーネ、レミア達四人に分けられ、アルナ達は最上階の6階まで連れていかれる。

 

 そのままとある一室に押し込まれ、椅子にしっかり手足を拘束すると男達は出ていった。

 

「…………まさか、こんなことになるとは思いもしませんでした」

「……そうだね」

 

 背中合わせに聞こえる言葉に、アルナは静かに答える。

 

 余程逃したくないのか、黒光りする特別製の拘束具のせいで後ろを振り向くこともできない。

 

 無論今のアルナであれば簡単に破壊できるが、しかし彼女はそうしなかった。

 

「貴女といると本当に退屈しませんね。まあ、今回はちょっとスリルが過ぎますけど」

「ごめんなさい、巻き込んで」

「気にすることはありません。話しかけたのは私ですし、そもそもアルナさん達も被害者でしょう?」

 

 いたって平然とした口調で、フィーネはそんなことを語ってみせる。

 

 縛り付けられている椅子以外は何もない部屋。窓も加工を施されているのか、外の音も入ってこない。

 

 だからこそ、アルナには僅かな声音の乱れや、触れた肩越しの震えがよくわかった。

 

「そういえば。故郷でも、こんなことがありましたよね。その時は貴女のご実家の事情でした」

「……そんなこともあったね」

 

 震えの根源にある感情を抑えるためか、フィーネは明るく作った声で言う。

 

 アルナは相槌を打ち、新世界での記憶を想起した。

 

 

 

 

 

 それは十五年前、アルナが八歳の頃。

 

 

 

 

 

 アルナはシアと二人、公園の砂場で城を作って遊んでいた。

 

 すると、隣で偶然同じことをしていた少女がいた。

 

 それがフィーネだ。

 

 不思議と対抗心を燃やした二人は、初対面にも関わらずどちらがより凄い砂の城を作るか競い合った。

 

 そうして、シアが途中で拗ねて先に帰ってしまうほど熱中し過ぎたのが悪かったのか。

 

 完成間近というところで、二人は何者かによって誘拐されてしまったのだ。

 

「犯人は、裏社会で伝説とも言える暗殺一家のハウリア家と敵対していた反社会組織。その時も私は、誘拐された後に実家の裕福さで目をつけられました」

「……二度あることは、三度ある。だから一度起こったら二度起こる」

「冗談にもなりませんね……その時もこうして、二人で一緒に監禁されましたっけ」

「そうだね」

 

 当時の記憶も力もなく、子供のアルナではどうしようもなかった。

 

 フィーネにも無論、何もできずに檻代わりのコンテナの中二人で不安げにしていたのを思い返す。

 

「あの時は、偶然コンテナの隅に穴が開いていたところから脱出しましたね」

 

 当時は小柄だった二人がギリギリ通れるような、そんな穴から這い出した。

 

 辺りをうろつく誘拐犯達に怯えつつ、二人は懸命に協力してどうにかその場を脱出。

 

 彼女達を捜索していたハウリア家の一人と偶然遭遇し、紆余曲折の後に事件は収束した。

 

 この事件で絆を得た二人は、それから友人になったのだ。

 

「子供だからできたこと。今の私達じゃ、あんな小さな穴は通れなかった」

「成長し過ぎましたね、私達は」

 

 現状の絶望からか、フィーネは乾いた笑いを漏らした。

 

 そんな彼女に、アルナは無言で頷く。

 

「流石に、監視が部屋の外にいるでしょう」

「……ん」

「これがハードなアメリカ映画だったら、私達は身代金を取られた後に海外へ拉致されて、知らない所へ売り飛ばされるのでしょうか……」

 

 あはは、と更に希望を無くしたかのような失笑が部屋の中に木霊する。

 

「こんなことなら、もう少し貴女と競い合っていれば──」

「──出れるよ。こんな所すぐに」

 

 

 

 フィーネが、言葉を詰まらせた。

 

 

 

 驚愕を顔に浮かべた彼女は、顔だけ振り返るとアルナを見ようとする。

 

 そして、既に自分を見ている横顔の怜悧な美しさに小さく息を呑んだ。

 

「私達が力を合わせれば、あの時みたいに。ううん、あの時よりもっと上手くやれる。勿論レミア達を救い出すことだって」

 

 絶対の確信。そう感じさせる瞳で、アルナは静かに告げていく。

 

 それはかの魔王の如く、不思議と他者にそうだと思わせてしまうような声音。

 

 フィーネはゾクリとした。

 

「…………なん、で。そんな風に、言い切れるんですか?」

 

 絞り出すように、尋ねる。

 

 どうしてそんなことが言い切れるんだと。

 

 スポーツ選手とはいえ、たかが女二人で武装した男達をどうこうできるはずがないと。

 

 そんなフィーネへ、アルナはやはり微塵も揺らがない目で。

 

 

 

 

 

 

 

「だって、フィーネ。()()()()()()()()でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 空気が、凍った。

 

 元より無音だった部屋の中に、しんとした静寂が広がる。

 

 その発生源は──アルナからは長い髪で横顔の隠れた、フィーネ。

 

「…………思い出したとは、何を?」

「貴女が何者だったのか。私と本当はどう出会い、どうしたのか。その全てを、今の貴女は知っている。違う?」

 

 沈黙。フィーネは答えない。

 

 しかしアルナには、自分の言葉が間違っていないという確信があった。

 

 だから待つ。背後にいる友人だった女が……かつて命を奪い合ったモノだったと、認めるのを。

 

 

 

 

 

「………………くひっ」

 

 

 

 

 

 やがて。

 

 長い長い静謐の後、次に部屋の中に響いた音は歪な笑い声だった。

 

「くひひっ、ひひひひっ、ひひひひひひひひひひひひひひひ」

「…………」

 

 嗤う。

 

 壊れたようにケタケタと、心底面白いというように全身を震わせ、ソレは嗤う。

 

 それを肩越しに感じているアルナは、彼女の気配が別物に塗り変わっていくことを知った。

 

「ひひひひひひ…………はーぁ……何故分かったのです?」

「すぐに気付いたよ。今の貴女の〝目〟は、私の知るこの世界の貴女よりもずっと、昏いものに満ちていたから」

 

 フードコートで一目見た瞬間、アルナは既に勘付いていた。

 

 巧妙に平然なフリをしたその瞳の中に、あの時の狂気があったことを。

 

「隠しきれませんでしたか。やはり旧世界の同胞達よりも、私は自らの情動を抑えることが下手ですね」

「違う。貴女は私を試した。自分が()()だと気付くかどうか」

「……あはっ。流石は我が初めてにして、最大の仇敵と称賛しておきましょう」

 

 それは肯定の言葉だった。

 

 心底楽しそうに笑い続けるフィーネへ、アルナから質問を投げかける。

 

「どうして、私に会いに来たの?」 

 

 笑いが止まった。

 

 これまでの会話では常に楽しそうだったフィーネが、不意に静かになる。

 

 

 

 

 そのまましばらく、彼女は話さなかった。

 

 唐突な変化にアルナも少々不思議に思い、肩越しにフィーネを見ようとする。

 

 すると、見計らったように彼女は背凭れに体を預け、肩をさらに密着させた。

 

「私はね。あの時の一日前に生まれたんですよ」

「…………私と、戦った日?」

「ええ」

 

 ふぅ、と小さく息をつき、フィーネが語り出す。

 

「我が神……いいえ、その力と思考を操っていた()()()()に創り出された私は、ただ消す者として生を受けました。残虐に、狡猾に殺戮する者として」

「…………」

「けれど、その存在意義を果たすことなく貴女に破壊された。完膚なきまでに、私という生は一日で終わりを迎えたのです」

「エヒトを殺した私達を憎んでいるの?」

「まさか。同胞との情報を共有していた時は多少創造主としての認識がありましたが、所詮は()()()()に利用されただけの小物。もはや何の感情もありません」

「…………あのお方、ね」

 

 曲がりなりにもトータスに数万年君臨し続けた邪神は、創造物に小物扱いされていた。

 

 哀れにも思わず、元神殺しの兵器だったアルナは少し笑ってしまう。

 

「そんな些細な存在より、私にとってはもっと重要なことがありました」

「重要なこと?」

 

 ええ、とフィーネは答える。

 

 そして、アルナの後頭部に自分の頭を預けた。

 

「貴女です、アルナさん。いいえ? 解放者の兵器〝ウサギ〟」

「…………私?」

「〝敵に回す相手を間違えた〟。あの瞬間、私の中にあった感情はそれでした。破壊するだけの為に造られ、そこで停滞している私など、貴女は易々と乗り越えていった」

「ハジメのアーティファクトや、シア達がいたから、だけどね」

「それも貴女の力でしょう? 私は独りだった。使徒という魂無き群体の中で唯一、私だけはその輪から外れていたのです」

 

 エヒトの手足として生み出された使徒だったが、シュウジの手が加えられたフィーネだけは違った。

 

 同じ使徒すら、地上の人々やエヒトに敵対していたハジメ達同様に破壊するものとしか思えない。

 

 異常なほどの破壊衝動だけが、彼女の中にはあった。

 

「貴女には力があった。同じく殺す為の人形のはずなのに、魂があった。信念が、仲間が、不屈の意思があった。その全てが勝因で、そして私に無かったものなのでしょう」

「負けられなかったし、負けるつもりもなかった。今もそう思ってる」

「ええ、ええ。それでいいのです。()()()()()私はここにいるのですから」

 

 どこか感慨深そうに、何かに喜ぶ様な声音で、フィーネは答える。

 

 彼女はどういう意味かアルナが答えを見つけ出す前に、続きを語り始めた。

 

「貴女に破壊された瞬間、同時にこうも思ったの。〝もしもこの造られた生に続きがあるのなら、私は貴女をもっと知りたかったのに〟と」

「……復讐のため?」

「逆よ。貴女を知り、己を高め、同じように生まれた貴女に今度こそ勝ちたい。純粋にそう思った」

 

 それまで徹底していた口調が砕け、フィーネの言葉に熱が宿るのを感じた。

 

 アルナはそれが、紛れもない本心からの……生まれ変わった神の使徒の本音だと感じ取る。

 

「……まるで、人間みたいだね」

「そうね。こんなことを思っていたせいか、私は人としてこの世界に生まれ変わった。同胞達が何十万と殺してきた生き物に」

「気分はどうだった? 貴女達が無惨に命を奪ってきた存在になるのは」

 

 少し、アルナの言葉にも熱が入る。

 

 それは旧世界の、そして新世界での幸せな記憶によって遠く忘れていた、原初の感情。

 

 

 

 

 

 万人を弄び、命を奪い、世界を破壊し続けていたエヒトへの、深い憎しみ。

 

 

 

 

 

 解放者達から、彼らの前にエヒトと戦ってきた者全てから受け継いだ昏い怨讐。

 

 とっくに封じ込めたと思っていたその感情を、アルナはフィーネへ投げかける。

 

 フィーネは自分は強い感情が向けられていることに薄く嗤いながらも、肩をすくめた。

 

「正直何とも。記憶を取り戻したのは少し前だし、情報を共有しているとはいえ所詮は別の使徒の記録。私にとって初めて知った人間は、他でもない貴女達だったのよ」

「…………」

「でも、貴女に逢いたい、競い合い、打ち勝ちたいというその想いだけは忘れなかった。その願いは私という、造られた存在を証明するものだったから」

 

 だから、この世界で初めて出会った時に自然とああしていたのだと。

 

 それが自然の法則のように、生きていく上での当たり前の行為のように競い始めたのだと。

 

 心底嬉しそうに、楽しそうに語るフィーネは、あの時とは違う意味で無邪気な子供のようで。

 

 アルナの中の黒い焔も揺らいだ。

 

「言ったでしょう? 貴女と競い続けることは、私の人生そのものだと。私はそういう人間でいたいの」

 

 奇跡によって得た生に、その意義を。

 

 誰かに与えられた意味ではなく、自分自身の願いを成就する為に生きてきた。

 

 終の使徒ではなく、フィーネ・E•アンヘルとして自分は存在するのだと、そう訴える。

 

「満足しているのよ、この生に。そしてこうも思っている──本当に私が生まれたのは、この新世界なんだって」

「…………変わったね」

「あるいは変わらないのかも」

 

 くす、と二人で笑い合う。

 

 それは記憶を取り戻す以前、ただのアルナとフィーネだった頃のように。

 

 そしてフィーネは、先ほどよりも自然な笑顔でアルナに告げる。

 

「貴女が好きよ、〝アルナ〟さん。貴女は私の全て、私の生きる意味。貴女がいてこそ、〝フィーネ・E・アンヘル〟には価値があるの。だから、本当に────壊してくれてありがとう」

 

 その言葉に、少しだけ息を呑み。

 

 アルナは……ふと、何もかも悪いものが抜けたような風に微笑んだ。

 

「私こそありがとう。私と…………友達になることを選んでくれて。貴女がライバルで、良かった」

「ふふ、初めてちゃんと友達って言われた。案外心が暖かくなるのね、こういうのって」

「ふふっ」

「あはは」

 

 

 

 また二人は一緒に笑う。

 

 

 

 それでいいと、彼女達は共通した結論を抱いていた。

 

 

 

 アルナは、ハジメ達と共に生きることに幸せと存在意義を見出した。

 

 

 

 フィーネは、そんな自分にない全てを持つ彼女に並び立ち、競うことに人生を見出した。

 

 

 

 そんな風に、自らで考え、悩み、それぞれ歩んでいく人として生まれ変わったからこそ。

 

 

 

 同じように生まれた二人は、絆を確信できたのだ。

 

 

 

「──ああ、だから」

 

 故にこそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなつまらない喜劇は、早く終わらせましょう?」

「ええ、すぐにでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に浮かべた獰猛な笑みも、まるで瓜二つだった。

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

これにて半分。

次は前半の2話より少し短く提供します。
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