星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回は戦闘回です。

楽しんでいただけると嬉しいです。




設定メモ

〝増幅体質〟

新世界で人間になったウサギ改めアルナが、彼女のコアだったアーティファクトから引き継いだ体質。
簡潔に言えば、1の魔力を体内に取り込んで1000に増幅させる特殊な能力である。
これによって、彼女は魔力がある場所であれば無限に魔力を自己生成し、またその魔力を使って更なる魔力を生み出す、という半永久機関と化している。
ただ、有り余りすぎるエネルギーの為か非常に他のエネルギー効率が悪く、一度発動すると凄まじく空腹になる。



それは喜劇のような一日 Ⅲ

 

 

 アルナとフィーネが監禁されている部屋。

 

 その扉の前には、二人の男が監視役として立っていた。

 

 出入り口はそれ一つのみ。おまけに男達は麻酔銃に加えてアサルトライフルも装備している。

 

 自分達がここにいる限り、中の二人は絶対に逃げられないと彼らは確信していた。

 

「なあ」

「あん?」

「あの女ども、とんでもねえ上玉だったよな」

「あー、そうだなぁ。ありゃ世界でも指折りの美女だぜ」

 

 ずっと突っ立っているだけに飽きたのか、男達はいかにもな会話を始める。

 

 元より見目麗しく、それぞれエヒト(inシュウジ)と解放者に作られたアルナとフィーネ。

 

 人間になったことで成長した彼女達は、文字通りこの世ならざる美しさを持っていた。

 

「あんな女を一度でいいから抱いてみてぇよな」

「バカ、()()に送るまで傷一つつけるなって話だったろ」

「どうせあっちじゃ()()()()になるんだろ? だったら今のうちにちょっと──」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、扉が内側から吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 凄まじい力で破壊された扉は男達の間を飛んでいき、対面の壁に当たって砕け散る。

 

 あまりに非常識な光景に誘拐犯達は硬直し、少しすると我に返って目を鋭くした。

 

 実に洗練された動きでアサルトライフルを構えると、扉の無くなった出入り口に振り向き。

 

「おいおい、何が起こ──っ!?」

 

 男達の視界いっぱいに映り込む、真っ白な人間の掌。

 

 彼らがみた光景はそれが最後。瞬く間に扉と同じように全身を壁に叩きつけられた。

 

 ヒビが入るほどの力で打ち付けられた誘拐犯らは白目を剥き、全身を痙攣させる。

 

 やがて、彼らの顔を覆っていた手が外されると床の上に崩れ落ちた。

 

「対応はそこそこですが、反応速度がお粗末と言わざるをえませんね」

 

 そんな彼らを見下ろし、長い白髪を手で払った女──フィーネは嘲り笑いを浮かべた。

 

 続くように、部屋の中から桃色の魔力回路が浮かんだ拳を握ったままアルナが現れる。

 

「……この世界だと、殺すと色々面倒くさいんだけど」

「安心してください、加減したので。まぁ全身不随くらいにはなってるかもしれないけれど」

「ん、それくらいは妥当」

 

 納得した顔で頷くアルナ。その辺りは旧世界から変わらない容赦の無さだった。

 

 好戦的に笑っていた二人は、ふと階段のある方向からやってきた複数の足音に振り向く。

 

 程なくして廊下にやってきた三人の男達は、二人とその足元に倒れている仲間を見て驚く。

 

「なっ、これはっ」

「あの女ども、外に出てるぞ!」

「まさかあいつらがやったのか!?」

「あら、ゾロゾロと羽虫が群がってきましたね」

「発見、即デストロイ」

「同感です」

 

 アルナは左の拳にも魔力を通し、両の手に桃色の燐光を纏いながら闘気を発する。

 

 非現実的な光景と、細身の女から溢れ出る尋常でない圧に男達は動揺を見せた。

 

「では私も、それなりに全力を出しましょう」

 

 彼らを嘲笑うように、フィーネもまた両手を顔の方へと持っていく。

 

 耳に吊り下げられた、一対の銀に輝くイヤリング。

 

 それを金具から外し、彼女の両手から白紫の魔力光が伝うと──肥大化して純白の双曲剣に変わった。

 

「な、なっ」

「ふひっ! 蹂躙してさしあげましょう!」

 

 先に飛び出したのは、フィーネ。

 

 狂気的な笑みを顔に張り付け、まるで飛ぶように肉薄してきた彼女に男達は総毛立つ。

 

 全身を這い回る本能的な恐怖に、人質ということも忘れて反射的にライフルを掃射した。

 

「あはははは! そんな豆鉄砲が当たるとでも!?」

「なぁっ!?」

 

 フィーネは壁や天井を蹴り、視認してから易々と弾丸を回避していく。

 

 わずか二秒、男達の眼前までやってきたフィーネは両腕を神速で振るいながら跳躍。

 

 空中で一回転すると、彼らの背後に着地した。

 

 

 

 

 一拍の静寂。

 

 後に、男達の手の中で金属製のはずのアサルトライフルがバラバラと細切れになる。

 

 あり得ない、そう見開いた彼らの目に次に映り込んだのは──既に接近したアルナの冷たい表情。

 

「ふっとばす」

「「「──っ!?」」」

 

 唸る音を伴ったアッパーカットが振るわれ、巻き起こる突風に三人はかち上げられた。

 

 天井に激突した彼らはすぐに落下し、地面の上を激しくバウンドすると動かなくなった。

 

「さて。流石にここまで音を立てればさらに増援が来るでしょうね」

「レミア達と合流する」

「変な気を起こされても面倒ですし、いいでしょう」

 

 頷いたアルナは、目を閉じると何かに意識を集中した。

 

「〝身体操作〟」

 

 小さく技能の名を呟く。

 

 すると、桃色の髪が不自然にモゾモゾと動き、下から何かが盛り上がってきた。

 

 ぴょこん! と可愛らしく飛び出したのは、彼女が本来待っていたピンクのウサミミ。

 

 力を取り戻した後、シア共々手に入れた〝身体操作〟の効果である。

 

 ウサミミを小刻みに動かし、アルナはビル全体の様子を探る。

 

「……レミア達は、二階。それまでに敵はたくさん」

「おおよその数は?」

「二十六、かな」

「あはっ。私とアルナさんならば取るに足らない雑兵ですね」

 

 頷き合った彼女達は、すぐさま走り出した。

 

 下へ繋がる階段にものの十秒で行き着くと、丁度登って来ようとしていた五人組が下から見上げてくる。

 

 連絡が来ない仲間の様子を見にきたのだろう。剣を持った女とウサミミの女に、彼らも驚いた。

 

「ふっ!」

 

 そんな彼らへ、フィーネが一足跳びに奇襲を仕掛けた。

 

 反射的にライフルを向けた先頭の男の銃口に、硬質な音を立てて剣の切先が嵌る。

 

 すぐに引き金が引かれ、暴発したライフルの銃身と男の指のみが盛大に捻れ曲がった。

 

「ぎゃぁああっ!」

「うぉっ!?」

「くっ!?」

「シッ!」

 

 後ずさった男にぶつかってバランスを崩した男達へ、二の一閃。

 

 蛇が這うが如き剣閃で手首を切られ、武器を取り落としたところで跳んできたアルナの蹴りが入った。

 

 一斉に壁へ強打された男達はそのまま階段を転がり落ちていき、下の階の廊下で伸びてしまう。

 

 ゆっくりと二人は階段を降り、全員気絶していることを確かめるとすぐに左右へ振り向いた。

 

 落ちてきた仲間とアルナらに、その階にいた誘拐犯達が続々と集まってくる。

 

「いける?」

「食事をする際にカトラリーを使うか、と私に聞いているのですか?」

 

 不敵に笑うフィーネへ、アルナもまた頼もしげに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 背中合わせになった二人は、誘拐犯達へ拳と剣の切先を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! 何なんだあいつらは!?」

 

 ビルの一室、元は警備室として使われていた部屋。

 

 そこでモニター越しに館内の監視カメラからの映像を見ていた誘拐犯の一人が声を荒げる。

 

 死んでいた電源を自前のPCに繋げ、表示した画面に映るのは現実離れした光景。

 

 白髪の女が、廊下に並んだ仲間達が掃射するライフルの弾丸を白い双剣で軽々と斬っていく。

 

 徐々に後退する同胞達に、女の隣から飛び出したもう一人の女が冗談のように全員殴り倒した。

 

 自分の正気を疑ってしまうようなその映像に、他の誘拐犯らも動揺を隠せなかった。

 

「ここはコミックの世界じゃないんだぞ!? 何でこんな……」

「…………」

 

 そんな彼らを見つめる、リーダーの男一人だけが厳しい顔でいる。

 

 先ほどまでと違い、他の男のように黒い戦闘服と武装をして、歴戦の戦士の風貌を湛えている。

 

 部下達と同じように、PCを見つめるその瞳には、どこか隠しきれない興奮のようなものがあった。

 

 

 

(まさか、()()だというのか。てっきり〝例の件〟の単なる関係者だと思っていたが、よもや大当たりとは)

 

 

 

 ゴクリと、男は生唾を飲み込んだ。

 

 ギラギラとした目は、フィーネが超速で飛ぶ銃弾を斬り、アルナが桃色の雷を発する毎に輝きを増す。

 

 何故ならそれは、この誘拐犯達が──彼らを差し向けた、とある結社が追いかけ続けたものである故に。

 

 

 

(もしかすると、あの母娘やガキも……?)

 

 

 

 確かめる価値はある。一人思考を巡らせた男は小さく頷く。

 

「おい、六人ついてこい。残りの人質を連れてくるぞ」

「ですが、今ここを動くのは危険では……」

「いくら奴らでも、身内を盾にすれば止まるだろう。奪取される前に確保するんだ」

「了解しました」

 

 問答をしたのは数秒、素早く部下達は準備を整えた。

 

 念の為に用意していた完全武装を着装し、男も同じ装備をすると臨時司令室を後にした。

 

「「クリア」」

 

 先に出た二人が廊下の安全を確認し、男達はライフルを構えながら前進する。

 

 場所は二階。先ほどまでは遠かった銃撃とそれ以外の破壊音が頭上から男達の耳に響いた。

 

「敵影無し、まだ安全です」

「急ぐぞ」

「「「「「了解」」」」」

 

 確かな訓練と連携を感じさせる動きで、素早く男達は廊下を移動していった。

 

 元は小規模な宿泊施設であるビルの廊下はそれなりに長く、彼らはヒヤヒヤとした気分で進む。

 

 上からの音と仲間の悲鳴に警戒心を強めていきながら、一番端のその部屋まで到着した。

 

「なっ」

 

 そこで倒れている二人の仲間達に、マスクの下から声を漏らした。

 

 かなり高まっていた警戒心が最大にまで引き上げられ、全員で背後と左右へ銃口を向ける陣形を取った。

 

 少し待つが、奇襲はこない。ひとまず男はハンドサインを出し、警戒態勢を解く。

 

「…………」

「「……」」

 

 顎でジェスチャーをされた二人が、素早く倒れた仲間に近付いた。

 

 死んだように動かない男達の容態を確認し、生きていることをジェスチャーすると安堵する。

 

 同時に、男の脳内ではアルナ達のようにあの三人も、という確信が強まっていた。

 

 壁に背を貼り付けるように、四人が扉の両側に移動する。

 

 男の背後や左右を守るように残りの二人が張り付き、彼は思い切り前蹴りで扉を蹴り破った。

 

 

 

 

 大きな音を立て、蹴った場所が陥没したドアが倒れる。

 

 朦々と砂埃が立ち込め、男達はこれまでにないほど警戒しつつ部屋の中に踏み入った。

 

 視界の悪くなった室内から悲鳴は聞こえなかったことに、彼らが険しい顔をしていると。

 

「おじさん、女の子の部屋にノックもなしに入ってくるなんて乱暴だよ?」

 

 突如、前方から聞こえてきた声に全員銃口を向ける。

 

 徐々に砂埃が消えていき、すると部屋の真ん中にある椅子に座っている小さなシルエットを捉える。

 

 部屋の暗さに男達の目が慣れた頃、そこにいたのは……悪戯げに笑うリベル一人。

 

「あの母娘はどこだ。答えろ」

「さて、どこだろうね?」

 

 素早く銃口を上に向け、男は発砲する。

 

 銃声が室内に響き、正確に撃ち壊されたライトの残骸が地面に広がり落ちた。

 

「答えろ。一人くらいなら構わんぞ?」

 

 男の言葉に続けて銃を向けてくる誘拐犯達からは、本気でそうする雰囲気が漂っている。

 

 9歳の少女に向けるものではない殺気に、リベルは変わらず微笑むだけ。

 

 全く怯える様子のない、それどころか余裕綽々といった態度に男達は眉を顰めた。

 

「あと五秒やる。さっさと答え」

「あのさぁ、おじさん達。何か忘れてない?」

「何?」

 

 言葉を遮られ、不機嫌に聞き返す男。

 

 彼にリベルは──ストンと表情を落とすと、酷く冷たい目線を向けた。

 

「何様のつもりで私を見下ろしてるかって、聞いてるんだけど」

 

 

 

 

 

 刹那、全身を襲う衝撃で男達は床に這いつくばった。

 

 

 

 

 

「「「──っ!?」」」

 

 自分の体重の何倍もの重りをいくつも乗せられたような重圧に、彼らは目を剥く。

 

 ビリビリと打ち付ける圧は、指一本どころか睨み上げることさえも彼らに許さなかった。

 

「な、ぁ……!?」

「私ね、パパにこう教えられてるの。なんの非もない人間を悪意で食い物にしようとする輩なんて、無様に這いつくばらせるくらいが丁度いいって」

 

 リベルが立ち上がり、男を見下ろし冷笑する。

 

 その笑い方は、どこぞの勇者に大悪党と呼ばれる男が悪人に向けるものとそっくりだった。

 

 一言も話せないまま男は屈辱に歯を食い縛り、しかしまだ諦めた様子を見せなかった。

 

 

 

(まだ、部屋の外には部下がいる! こんな至近距離で騒げば気がつかないはずがないだろう、バカな小娘が!)

 

 

 

「リベルちゃん、持ってきたの!」

 

 明るい声が部屋に入ってくる。

 

 間髪入れず、すぐ隣に転がされた人間達──拘束された部下に男は目を疑った。

 

 まだ終わらない。

 

 ガシャン! と重厚な音を立て、頭上に何かが着地した音を男達は聞く。

 

 恐る恐る顔を上げると、そこには六腕六脚のよくわからない金属製っぽい怪物がいた。それも二体。

 

 

 

(デ、悪魔(デーモン)っ!?)

 

 

 

「これで近くにいたのは全部なの」

「ありがとうリベルちゃん」

 

 顔を青ざめさせる男達の前で、ひょこりと怪物の背中から顔を出したミュウが飛び降りる。

 

 もう一体の背中からレミアが出てくると娘同様床に降り、リベルに寄り添う。

 

 美人母娘を侍らせ、腕組みをした異形の悪魔を従えたその姿はさながら悪の女幹部。

 

 

 

「さて。ちょっと〝お話し〟しよっか、おじさん達?」

 

 

 

 

 どこからか取り出した鞭をパシーン! とやるリベルに、男達は蒼い顔を白くさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 ダダダダッ! という激しい音が廃ビルに木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 発生源は、恐怖に顔を引き攣らせた男が後退しながら引き金を引くアサルトライフル。

 

 明らかに必死なその様子は、しかし直後に飛んできた桃色の影に吹っ飛ばされて終わることとなった。

 

「今ので最後。もう戦意のある気配はない」

「旧世界で同胞と南雲ハジメの戦闘データを共有しましたが、あれに比べれば子供の玩具に等しいですね」

「ん、私の旦那様だもん」

「はいはい、惚気ご馳走様です。そのドヤ顔も可愛いですね」

 

 たわいもない会話をしながら、廊下を散歩するように進む。

 

 そしてとある一室の前で止まると、「よっ」という軽い掛け声でアルナが扉を殴り壊した。

 

 

 

 

 露わになった臨時司令室の中にいた、四人の誘拐犯が一斉に振り向いた。

 

 彼らは驚愕と恐怖の入り混じったような顔で硬直し、それは彼女達には絶好のチャンス。

 

「はっ!」

 

 アルナが拳と拳を打ち付けると、そこから桃色の衝撃波が放出された。

 

 それはどこかへ繋がっていたPCや、携帯、無線等の機器を破壊し、男達の意識を刈り取る。

 

「これで問題無し」

「では貴女のご家族を迎えにいくとしましょう」

 

 一瞬で男達を意識から外した二人は踵を返し、そのまま歩いていく。

 

 伏兵がいることもなく、実に簡単にレミア達が捕らえられている部屋にたどり着いた。

 

「あれ、壊れてますね。踏み込まれたのでしょうか」

「そういえば、さっきそんな音がしていた」

「まあ、南雲ハジメの家族やあの方のご息女であれば……」

 

 少し警戒して、部屋の中をそっと覗き込んだ二人が見たものとは。

 

 

 

 

 

「おらおらおらおらぁっ! お前が気絶するまで殴るのをやめないの!」

「ひぎぃっ! もう許してくださいっ!」

「ふふ、次はどの指を踏み潰してほしい?」

「ご、ご勘弁をぉお!?」

 

 

 

 

 

 パンツ一丁にひん剥かれた男達が、幼女二人にイビられているショッキングな光景だった。

 

 ミュウがハジメ特製〝これは武器です〟の名を冠する鞭で、男の股間をバシバシ叩いている。超楽しそうな顔で。

 

 リベルが男の上に立ち、踵で少しずつ指を反対に曲げて折ろうとしている。超恍惚とした顔で。

 

 そんな二人を、保護者レミアは見守っている。今にも気を失いそうな顔で。

 

「……元狂ってた私が言うのもあれですが、貴女達の娘ちょっとヤバい英才教育受けてません?」

「…………帰ったら説教する。主に駄龍とか股間スマッシャーなエロ吸血姫とか道化とか」

 

 呆れつつも、部屋に入っていくアルナとフィーネ。

 

 三人は足音ですぐに気がつき、アルナが無事なところを見ると嬉しそうに笑った。

 

 その次に隣にいるフィーネと、その手にある白双剣を見て顔を強張らせる。

 

「三人とも、無事でよかった」

「え、ええ、ウサギさんも。でも、その……」

 

 言い難そうに口を開閉させながら、レミアはフィーネのことを見る。

 

 ミュウも不安げに、リベルはとても警戒した目で。

 

「……お姉さん、それは何?」

「見ればわかるでしょう? 私も貴女達と同じ、ということですよ。あのお方のご息女様」

「っ!」

 

 猛烈な勢いで立ち上がったリベルが、フィーネに向けて素早く手をかざす。

 

 その際手を踏み潰された股下の男が悲鳴をあげたが、構わず彼女は重力魔法を使おうとした。

 

 しかし、間にアルナが割り入ってきたことで魔力の収束を止める。

 

「ウサギさん?」

「平気。彼女は味方。私の友達のままだよ」

「……本当に?」

 

 まさかとは思うが、騙されているのではないか。

 

 懐疑的な目を向けるリベルへ、アルナは頷いた。

 

「もしそうなら、気がついた時点で心臓を抉り取ってる」

「ちょ、怖いですよアルナさん。旧世界でコアを狙ったこと恨んでるんですか?」

「だいじょぶ。香織とか美空に頼めば元に戻せる」

「それ、回答になってないんですけど」

 

 グッ! と拳を握るアルナと、旧世界のことを思い出したのか珍しく焦るフィーネ。

 

 二人の様子は紛れもない友人のそれであり、三人はやや不思議そうな顔を見合わせた。

 

「こほん。とにかく、これで一件落着ということでよろしいですか?」

「ううん、まだ」

 

 アルナはかぶりを振ると、のたうち回っている裸の男達に近づいた。

 

 そうしてしゃがみ込み、髪を掴んで視線を無理やり合わせたのはリーダーの男。

 

「あなたに聞きたいことがある」

「………………な、何も答えんぞ」

 

 お決まりのセリフ発動。ミュウがパシィン! と鞭を鳴らす! 

 

 体を震わせる男の顔を覗き込み、アルナはやや凄みを効かせた声で話しかける。

 

「ミュウに男の象徴を百回鞭打ちか、今私に歯を全部殴り折られるか。選ばせてあげる。それが嫌だったら、目的を全部話して」

「っ、お、俺は何も知らん!」

「……そう。じゃあ仕方がないね」

 

 ふぅ、と諦めたように嘆息したアルナの手が離される。

 

 実は結構ギリギリだった男は内心安堵し──次の彼女の言葉に絶望した。

 

「フィーネ、その男のアレを切り落として。そしたら口の中に突っ込んで全裸で道路に放り出す」

「!?」

「貴女の頼みであれば喜んで。実はちょっと興味があったのです」

「っ!!?」

 

 恐怖。

 

 なまじ楽しそうに嗤うフィーネが美しすぎるからこそ、余計に恐ろしく見えた。

 

「わ、わかった! 話す! 話すからそれだけはやめてくれぇ!」

 

 自分の大切なものを犠牲にしてまで秘密を守るほど、男は律儀ではなかった。

 

 途端につまらなさそうに「ちぇー」と引き下がったフィーネと入れ替わり、アルナが再び対面する。

 

「あなた達の本当の目的は何?」

「お、お前達を人質に莫大な身代金を要求することだ。そうしたらお前達をそのまま大陸へ連れていき、売り飛ばすつもりだった」

 

 あまりにテンプレすぎる回答で、全員の目線がゴキブリを見るものに変わる。

 

 弾みで振われたミュウの鞭が、偶然そこにいた男の股間を打った。「アウチ!」という悲しい悲鳴が響く。

 

「違う、聞きたいのはそんなことじゃない」

「な、何だと?」

「さっき、貴方は()()()()()()()()()()と言っていた。私達やフィーネを交渉材料に身代金を手に入れる他に、目的があるはず」

「っ、何のことだか……」

「フィーネ」

「はいはい」

「待てっ!?」

 

 剣を構えたフィーネに金切声を挙げ、男は制止した。

 

 そのままの体制で、いつでもヤってやるぞと無言で脅すアルナ達に必死に何かを考えた。

 

 しかし、どうすることもできないと諦めたのか、深く深く溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

「……俺達がここに来た本当の目的は、お前達の身柄を確保することだ」

 

 

 

 

 

 

 




次で終わりとなります。


読んでいただき、ありがとうございます。
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