星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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これにて最後。


楽しんでいただけると嬉しいです。


それは喜劇のような一日 Ⅳ

 

 

「一年前、膨大なエネルギー反応が世界中で検知された。今までにない謎のエネルギーだ」

「「「っ!」」」

 

 アルナ達が息を呑み、フィーネは興味深そうに目を細める。

 

 彼女達の視線の中心で、男はぽつりぽつりと話し出す。

 

「地震でも、噴火でも、他のどんな災害や自然現象でもないこのエネルギーを我々も捉え、調査をしてきた。そしてエネルギーが発生した当日、その発生地点にある人物達がいることを突き止めた」

 

 つまり、パンドラボックスの復活に際した現象と、シュウジの蘇生のことだろう。

 

 それを成したハジメ達と、駆けつけたユエ達のことを、どういうわけか把握していたようだ。

 

 アルナが様々な考えを巡らせる中、男はなおも話し続ける。

 

「一年近く調査をしたが、結局エネルギーの正体は分からずじまい。それ以降一度も同じことは起こらなかった……が、同時に不可思議なことも起こり出した」

「……不可思議なこと?」

 

 顔を上げた男は、アルナ達にニヒルな笑みで「お前達の周りでさ」と言う。

 

 

 

 

 

 曰く、調査に向かった組織の人間が戻らない。

 

 一度目は監視が成功したはずの対象達が、次は本人どころか家にもたどり着けなくなった。

 

 他にもエトセトラエトセトラ……そして何よりも。

 

 ふといつの間にか、気がつかないうちに世界中の裏社会を、()()が侵していること。

 

「結社は、これを本物の()()と認定した。数世紀の間追いかけ続けてきた叡智が、そこにあると確信したのだ」

「……やっぱり、貴女達は闇組織の部隊だったんだね」

 

 段々と興奮してきた様子で語る男に、アルナは予想が的中したことを確信する。

 

 彼らの結社とやらが、気の遠くなるような年月アルナ達のような〝力〟を探し求めてきたことも。

 

「長い準備を経て、ついに我ら実行部隊が送り込まれた。悲願成就の為に」

「そして私達に倒された」

「確かにそうだ。たが! 我々の異変はすぐに気がつかれるだろう! すぐに増援部隊が送り込まれてくることだろうよ!」

 

 部屋の中をにわかに緊張が走る。

 

 それは当然のように全員想定していたが、しかし実際に口にされると危機感が高まるのだ。

 

 だが力を取り戻した今なら不安はない。

 

 そんな思考を見抜いた訳でもないだろうに、男は得意になったように笑う。

 

「この場を切り抜けたとしても、次の俺達がやって来るぞ。その次、さらに次も、お前達の誰かを手に入れるまで、周囲の人間も巻き込んでなぁ!」

「……!」

「あらあら……」

「厄介な人達に目をつけられたね……」

「た、大変なの……!」

「たとえお前達が神秘の持ち主だろうが、我ら結社の力の前には──!」

「長い」

 

 冷たい一言と同時に、しなやかな長脚からキックが繰り出された。

 

 奇妙な声を上げて男は横に倒れ、シリアスな空気だったアルナ達は一斉に下手人を見る。

 

 肩を剣で叩きながら、フィーネは豚を見る目で男を見下ろした。

 

「うだうだと喋りすぎです。必要なことは簡潔に、シンプルに。それが1番でしょう?」

 

 だからって蹴り入れるか、とその場にいた全員が心の中で突っ込んだ。

 

 そんな視線をフィーネは軽やかにスルー。そのまま見下ろして言葉を続ける。

 

「大体、先ほどから何やら勿体つけていますが……貴方達を送り込んだのは〝ヒュドラ〟ですね?」

「なっ!?」

「ヒュドラ? 何それ?」

 

 驚く男達とは裏腹に、知らない単語が出てきたことでリベル達が首を傾げる。

 

「フィーネ、知ってるの?」

「ええまあ。誘拐、殺人、強盗、人体実験、果ては戦争の誘発……神秘の力を求め、その為にありとあらゆる暗躍をしてきた狂信者集団です。平たく言えば歴史のあるテロリストですね」

 

 そしてフィーネは、口をぱくぱくとさせる男達の前でヒュドラについて語り出す。

 

 曰く、植民地時代以前から存在する組織であり、歴史上何度か潰されているもののまるで首が生え変わるように復活してきた。

 

 世界のどこかで常に息を潜め、再起を繰り返し、現在に至るまで神秘を渇望してきた集団である、と。

 

 そんないかにもな裏組織が実在したことに、アルナ達は呆れてしまう。

 

「ち、ちが、俺達は」

「この期に及んで言い訳とは、滑稽ですね。ではもう少し話しましょう」

 

 これだけ反応しておいてシラを切ろうとした男に、フィーネは更なる情報を開示する。

 

 ヒュドラの勢力が潜んでいる地域や幹部の名前、その表向きの顔に至るまでつらつらと並べ立てた。

 

 長い間組織に身を置き、それなりの立場と権限を持つ男はそれが真実だと理解していた。

 

「何故、何故お前のような小娘がそこまで……」

「何故もなにも」

 

 愕然とした男に、フィーネは次の言葉を告げる。

 

 実に事もなさげに、世間話をするかのように軽い口調で。

 

「もうすぐ完全に吸収されますからね、貴方達。うちの組織に」

「…………………………は?」

「骨が折れましたよ。人間にしてはそれなりの年月この世界に根を張り続けていたので、〝金縛〟が随分と手を尽くしました」

「…………………………へ?」

「誇りなさい。貴方達は〝紫蛇の七つ牙〟の一人を動かしたのです。間もなくそれも終わりますが」

 

 間抜けな声と顔で、投げかけられる言葉をただ受け止めるしかない男。

 

 それは男の部下達も同じであり、またアルナ達も同じようにぽかんとしていた。

 

 

 

 

 しかし、同時に彼女達は気がつく。

 

 記憶と力を持つフィーネ。世界に蔓延る巨大組織をも上回る、影の如き影響力を持つ組織。

 

 そして蛇の牙……一様に、四人の脳裏にとある男のニヒルな笑みが思い浮かぶ。

 

「……また、あの人なの?」

「あら、あらあら……」

「みゅ、もしかしておじさんの仕業?」

「ぱ、パパぁ……新世界でも何やってるのぉ……」

 

 頭が痛いとはこのことか。

 

 なんとも呆れたような反応をするアルナ達に、フィーネは体ごと振り返ると微笑んだ。

 

「改めて自己紹介を。神討ちを成した魔王のご家族、並びに我らが新たなる神のご息女よ」

 

 その微笑みのまま、彼女は片足を引くとやや慇懃な態度で頭を下げる。

 

「我が名はフィーネ・E・アンヘル。番外の牙たる〝凶白の零(ジョーカー)〟でございます」

「ジョーカー……」

「神の使徒、じゃなくておじさんの使徒なの」

「これ、ハジメさんは知ってるのかしら……」

「此度は、その目に拝見させるにも値しない下賎な者共の企みを排除させていただく為にやって参りました。申し遅れましたことをお詫びします」

「……フィーネ、貴女は」

「アルナさんに会いたくて仕方がなかった、というのもありますがね」

 

 可憐なウィンクを飛ばしてくるフィーネに、アルナはちょっと苦笑い。

 

 彼女は白双剣を一方の手に纏めると、空いた手を胸に添えて誇らしげに謳う。

 

「我が忠誠は我が神に、我が剣は神の〝愛と平和〟の為に、そして我が愛は麗しきアルナ・ハウリアに。この身この魂この力、全てを捧げてお仕えしましょう」

「……大げさだね」

「我が神が、こうした方が面白いと仰るもので」

 

 それは愉しそうな顔で吹き込んだんだろうなぁ、と顔を引き攣らせる四人。

 

 それは本人も分かっているのだろう。

 

 こほん、と少し頬を赤くしながら振り上げていた腕を下ろすと、置物化していた男に向き直る。

 

「そういうわけなので。貴方達の行為は全くの無意味です。もはや二度とヒュドラとして姿を現すことはないでしょう」

「そんな、そんな馬鹿な……我々ヒュドラが、こんな簡単に…………」

「断言してあげます。落としたその首が生えてくることは、もはやありません」

 

 彼は、彼女達はその身も首も喰らい、一つの首を二つに、二つの首を四つへと増やし続ける。

 

 それはさながら、姉達を食らって異形の怪物となった女怪メドゥーサのごとく侵していくのだ。

 

 どこまでも貪欲に、強欲に。

 

 再び手にした〝愛と平和〟を、あらゆる悪意から守る為に。

 

「ヒュドラも、他のどんな組織や勢力、国をも呑み込んで、我々はこの平穏を保つ。その糧となれたことを光栄に思いなさい」

 

 最後の決め台詞に、トドメを刺されたように男はガックリと項垂れたのであった。

 

 

 

 

 その後、どこかへと連絡したフィーネによってもう危険はないことが告げられた。

 

 ヒュドラの実行部隊も放置しておけば()()されるということで、五人はビルを出る。

 

 気がつけば随分と時間が経っていたようで、空はもう茜色に染まり始めていた。

 

「せっかく楽しいショッピングだったのに、台無しになっちゃったね」

 

 地図が表示されたスマホを片手に、振り返ったアルナは三人に言う。

 

「ああいう人達がいると、またパパ達が戦うことになっちゃうの」

「そうねぇ。できればそうなってほしくないのだけど……」

「実際、パパは動いてたし……」

 

 帰ったら絶対問い詰めてやる、と言わんばかりの気迫を見せるリベル。

 

 フィーネもイヤリングに戻した白双剣を揺らしながら振り向き、苦笑した。

 

「どうか我が神をお許しください。あのお方は、今度こそ自分の手で皆様を守りたいのです」

「…………パパは、また無茶してない?」

 

 凄みを収めたリベルは眉尻を下げ、不安げに尋ねる。

 

 彼女の心の中には、また一人で背負いこんでどこかへ行ってしまう父の後ろ姿が……

 

 魂魄魔法で意識を読める訳ではないフィーネでもそれをすぐに察し、勤めて明るい声で答える。

 

「ご安心を。ご存知の通り、今の我が神はドライバーやボトルを使用できず、精製もできないようかの魔王のアーティファクトで封じられていますし……それに」

「「「「それに?」」」」

 

 声を揃えた四人に、ニコリと笑って。

 

「今、我らが七つの組織を束ね、我が神の隣にいるのは、貴女のお母様方ですよ。リベル様」

「ママ達が……」

「それが絶対の条件だったそうです。自分達の目の届かないところで暗躍はさせない、と」

 

 ついでに言うと、全組織のさらに上にはハジメの兵器軍団や新生ファウストがいるらしい。

 

 

 

 ちなみにハウリア族もいる。ちゃっかりと。

 

 ネビュラガスを投与されていたカムを筆頭に、彼にしごかれたハウリア族は次々旧世界の記憶を獲得。

 

 全員見事にプレデター&厨二に舞い戻り、「気合で戻ってまいりました!」と嬉しそうにシュウジとハジメの前に並んだ。

 

 無論、当時のハジメが遠い目になった。

 

 ユエ達の顔は引きつったし、せっかくただの暗殺一族程度に収まったのに、とシアが(シュウジに)大暴れした。

 

 アルナも、なまじ今は血の繋がった家族なので、全員アレだと胃にきたものだ。

 

「我ら使徒も、今や群体であると同時に個々の意思がある身。特に〝七つ牙〟は我が神の安寧を何より望んで働いておりますので、そのことを知っていただければと」

「……いつか、私もパパを助けられるようになるかな」

「ええ、そう望むのであれば。貴女様が欲するのであれば、いつでも我らはお力添えします」

「……うん、ありがとう。貴女は元々敵だったけど、良い人だね」

 

 リベルが、親しいものに向ける笑いをフィーネへと向ける。

 

 その笑顔は、これまで常に張り巡らせていた警戒を解いた証拠だ。

 

 フィーネとしてもそれは喜ばしい事であり、アルナと目線を交わしてくすりと笑い合った。

 

「そういえば、フィーネお姉ちゃんも何かの組織のボスなの?」

「私ですか? 特に何かを率いているということは。性格的にも向いてませんし」

 

 地味に他の使徒との距離を感じる発言だった。旧世界でぼっちだったことを気にしているのかもしれない。

 

「それに!」

「わっ」

 

 何か言おうとしていた子供達は、突然体ごと振り返ったフィーネに驚いて言葉を呑み込む。

 

 それに構わず、同じように立ち止まったアルナに歩み寄ると、その両手を自分の手で包み込んだ。

 

「自由に動けなくては、アルナさんの側にいられませんから。ええ、ええ! いつでもどこでも、私はアルナさんと共にいたいのです! 何故ならライバルだから! ライバルだから!」

「……フィーネ、顔が近い」

「ふふふふふ! もう正体も明かした事ですし、遠慮はしません! これからもっともっと色んなことをしましょうね、アルナさん♪」

 

 それまでの知的でミステリアスな雰囲気はどこへいったというのか。

 

 無邪気な子供のように…若干ハァハァしてるが…はしゃぐ様は、あの元最凶の使徒とは思えない。

 

 嬉しそうに頬を赤らめ…恍惚としているように見えるけども…るフィーネに、アルナは気圧される。

 

「…… 森人(エルフ)族のお姫様に懐かれてた、シアの気持ちがちょっとわかった」

「え? 何か言いました?」

「なんでもない。これからもよろしくね、フィーネ」

「はい! 私の愛しき好敵手、アルナさん!」

 

 

 

 

 

 答えたフィーネの笑顔は、背後から差し込む斜陽も相まって非常に美しいものだった。

 

 

 

 

 




これにてアルナ編は終わりです。

どちらかと言うとフィーネ編でしたね。

読んでいただき、ありがとうございます。
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