星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はシア、と見せかけた嫁〜ズな話。

楽しんでいただけると嬉しいです。


シアの懸念

 

 

 

「……皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます」

 

 

 

 薄暗い部屋に一つ、厳かな声が響く。

 

 普段は溌剌で可憐なその声は、しかし緊張と真剣なものを帯びていた。

 

 普段は滅多に聞くことのない彼女──シアの声に、その場にいる他の女達も自然と居住まいを正したくなる。

 

「貴重な休日にお時間を取らせてしまって、どうもすみません」

「ん、問題ない。シアが呼ぶのなら、私はいつでも来る」

「ありがとうございます」

 

 ほんのりと笑って言う、ビスクドールのような女──ユエ(少女ver)にシアは嬉しそうに微笑んだ。

 

 同様の表情で、他の席についている者達も頷いている。

 

「夜にはいつも通り、皆で集まって食事をするのじゃから問題あるまいて」

「そうね。仕事の方も落ち着いているのだし」

 

 鷹揚に頷くのはティオとレミアである。

 

 ちなみにこの三人は、世界的大企業であるアヴァタール社で服飾部門の代表として働いている。

 

 抜群のデザインセンスと経営手腕を持つ若きエース達として活躍中であり、こうして丸一日暇な休日というのも稀だ。

 

「家族なんだから、これくらいはね」

「あんな深刻な顔で招集されたら、何事かと思っちゃうけど」

 

 二人仲良く並んで座った美空と香織が、少し気遣わしげに目線を向ける。

 

 それぞれnascitaの店員と看護師として勤しむ彼女達も、他ならぬシアの呼びかけならとやってきた。

 

 南雲家からは計六人。そして……

 

「雫さんも、わざわざ来てくださってありがとうございます」

「いいのよ。時間を少し持て余していたし、あの人も家にいないから」

 

 いたら目一杯甘えたのだけどね、と笑う雫。

 

 その左手の薬指には、ゴデチアの花を模した美しい紋様を内包した宝石の光る指輪がある。

 

 元から女神だったのに、指輪を贈ってから言葉では形容できない程綺麗になってきている、とはどこぞの男の言葉だ。

 

「ルイネさんのことはごめんなさいね。彼女、とても忙しいみたいで……」

「そんな! 急な話でしたし、全然平気ですよ! むしろルイネさん、最近調子はどうなんですか?」

「旧世界の力が戻ってよかった、と言ってしまうくらいには大変だわ。彼女よりは時間がある私が、色々とサポートできていればいいのだけど」

「今では都知事どころか、首相ですものねぇ」

 

 最上の女王、と竜の国を追われる以前は讃えられたルイネは、今や国のトップに立っていた。

 

 歴代で最も若く美しい女首相として、また政治的手腕の高さから、この国に知らぬ者はいないとさえ言われている。

 

 そんな彼女のサポートをする為、リベルの相手や家事を率先的に雫がこなしている。

 

 花嫁修行的なことは一通りマスターしているので、その腕前は自他共に認める一級品だ。

 

 社会的地位、そして忙しさ言えばこの中でもダントツの彼女に、仕方がないという空気が流れた。

 

 

 

 

 そこでふと、ユエが訝しげな顔をする。

 

「そういえば、ウサギは?」

「ああ、ユエさんは昼頃に起きたんでしたね。姉さんはフィーネさんとお出かけです。この前正体を明かしてから、かなりの頻度で会いに来ていて……今日も約束してたみたいです」

「未だに信じられんのう、あの使徒がウサギへあそこまで懐いておるとは」

「懐いてるってか、崇拝してない? 全身から尊敬と好意がダダ漏れなんだけど」

「こう言うのも失礼だけど……忠犬っぽいよね」

 

 苦笑い気味な香織の言葉に、全員同じ顔で頷かざるを得なかった。

 

 今朝方、若干眠たげなアルナとがっちり腕を組んで出かけていった元神の使徒を思い返してしまう。

 

 後ろ姿に尻尾と犬耳が見えたのは、きっと溢れ出る愛故の幻覚だったのだろう。

 

「ミュウちゃんとリベルちゃんは学校のお友達と遊園地でしたね」

「ん、だったら全員揃ってる」

 

 円卓をぐるりと見まわし、いくつか空いている席を見つつユエが言う。

 

 彼女達がいるのは一年前に建ったばかりの新南雲家、その地下に設置された特殊な会議室である。

 

 南雲家及び北野家の嫁〜ズが集まって、日常会話や愚痴、惚気、重要な報告等々を行う場所だ。

 

 男組には聞かせられない会話などもするために、魂魄魔法で女性陣しか入れないよう制限されている空間である。

 

 ちなみに北野家には、女性陣ご禁制の男専用会議室があったりする。

 

「では、早速本題に入ることにしましょう」

 

 表情を引き締め、真剣な様子を見せるシアにユエ達も空気を引き締めた。

 

「今日の議題は……ハジメさんと、シュウジさんについてです」

 

 この場の誰にとっても最重要な名前の登場で、さらに空気が固くなった。

 

 今はミュウ達の引率をしにいっているはずの二人について、ほぼ全員を集めてまでする会議。

 

 一体何なのだと固唾を呑む全員に、シアは思い切って口を開くと──

 

 

 

 

 

「──あの二人、距離感おかしくありません?」

 

 

 

 

 

 ごくごく真剣な顔で、そうのたまった。

 

 空気が変わる。先ほどとは違う、どちらかといえばフリーズ的な意味で。

 

 その硬直をもたらした張本人は、家族の様子をみておや? どうしたのかしらん? という顔をする。

 

 聞き取れなかったのだろうか。一息に言ってしまおうとするあまり、声がくぐもったかもしれない。

 

「ハジメさんとシュウジさん、距離感おかしくありません?」

「シア、シア。ちゃんと聞こえてる」

「聞こえた上で、唖然としてたというか……」

「え、えぇ?」

 

 何を言ってるんだこいつ、という顔で見てくる嫁〜ズ。雫もやや曖昧な笑い。

 

 ちょっと狼狽えたシアは咳払いをして、改めて相談内容を説明し始める。

 

「シュウジさんが復活してから一年ちょっと。これまでみんなで生活してきましたが、少し気になりまして」

「二人の関係がってこと?」

「そうです」

 

 香織からの質問に頷くも、いまいちピンとこない様子の一同。

 

 あまり共感を得られず、シアはさらなる具体的説明を用いることにした。

 

「この前のことなんですけど。食材の買い出しを済ませて帰ってきたら、シュウジさんがうちにいたんですよ」

「あー。そういえばこの前ハジメが、大きな仕事が終わった時にシュウジが労いに来てくれたって言ってたっけ」

「多分それです。それで二人とも、リビングでダラーっとしてたんですがね」

 

 そこで一旦言葉を切り、少しタメを作った後にシアは声を大きく告白した。

 

「膝枕してたんですよ、シュウジさんがハジメさんに! その体勢のままテレビゲームしてたんです!」

 

 ババァン! という擬音がつきそうな表情で、シアはユエ達に訴えかけた。

 

 

 

『あ、そこのコレクションアイテムよろ』

『おけ。次の道デストラ来るぞ』

『タイミング教えろ』

『入って3秒』

『把握』

 

 

 

 彼女の脳裏に想起されるのは、見たこともないほど弛緩した雰囲気の二人。

 

 軽く足を組んだシュウジの膝の上に頭を乗せ、ソファに横たわって肘置きに足を投げ出したハジメ。

 

 南雲家嫁〜ズでも滅多に見たことがないほどだらけきった姿が、そこにはあった。

 

「え、別に普通じゃない? 昔からそんな感じだし」

 

 一番なんでもなさそうな顔をしている美空が、不思議そうに首をかしげる。

 

「いえ、おかしいでしょう! お二人がすごく仲いいのは知ってますが、あれ心許しすぎじゃありません?」

「そう? 私も含めて三人で雑魚寝とかよくあったし、なんなら一緒の布団でとか子供の頃はよくしてたよ?」

「それは本当に子供の頃でしょう? 今もしてるわけじゃないでしょうし」

「そりゃあやらないけど」

 

 でも言うほどのことかな? と、どこまでも懐疑的な美空に、シアはやきもきする。

 

 兄弟に等しい、幼馴染という距離感だからこそ、彼女にはシアの違和感が分からなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 どう言ったものかと悩むシアに助け舟を出したのは、隣にいる吸血姫様だった。

 

「……確かに、二人が近いというのは分からなくもない」

「ユエさん!」

「そういうユエには、何か心当たりがあるのかの?」

 

 コクリと頷き、ユエはふと自分の経験を語り始めた。

 

「いつもの食事会の時。私はそこで、少し違和感を抱いた」

 

 

 

 

 シュウジが帰ってきて、しばらくした後にとある決まりが作られた。

 

 それは一月に一度、必ずあの時の全員で集まって食事会を開くというものだ。

 

 ハジメはユエ達と、シュウジは雫達と。新世界ではそれぞれの家庭を持ち、互いに生活している。

 

 旧世界で共に旅をしていた時のようにいつも一緒にいるわけではない以上、その機会を作るべきだと。

 

 その意見に全員が賛成し、月一の食事会が作られたのだが。

 

「それは、皆が集まる前に料理の準備をしていた時だった。私とハジメ、シュウジの三人で下ごしらえをしていた時……」

「「「「「「していた時?」」」」」」

「…………あーんをしていた。ごく当たり前のように」

 

 ユエは当時のことを思い返す。

 

 

 

『んぐ、んぐ……まあ、このくらいか』

『味どうよ?』

『これなら男女関係なく、子供達も平気だと思う』

『ほうほう。ハジメ』

『ん』

 

 

 

 必要以上の言葉を交わすことなく、端的に理解しあった二人。

 

 そのままIHコンロの前に立っていたハジメは、自分が使った箸で料理を一口取ると差し出した。

 

 それをシュウジは躊躇いなく食し、咀嚼した後にいい笑顔でサムズアップしたのだ。

 

「あまりにスムーズかつ、自然すぎて最初はスルーした。その後二度見して指を切った」

「そういえば、この前の料理はちょっと血の味がしたような……」

「ん、失敗した分は香織に回した。香織だけに」

 

 香織から無言の分解砲。ユエさんが即座に出現させたミニヒノガミが燃やし尽くす! 

 

 恒例のやりとりに全員が呆れたところで、続きを促す雰囲気を醸し出した。

 

「けど男ってそんなもんじゃない? わざわざ皿に分けたりする手間を面倒くさがるもんでしょ」

「うーん、どうかしら」

「雫さん、何か心当たりが?」

「心当たり、というほどのことでもないんだけど。うちで同じことをする時は、小皿に分けて少し冷ましてから、私達に出してくれるの。それとは少し違うのねと思って」

「ある種の遠慮がない、ってことでしょうか」

 

 うーむ、と首を捻る一同。

 

 その後、ハジメ嫁〜ズからも似たような意見が出たことで、無意識の遠慮の無さが強調される結果となった。

 

 次は誰かという雰囲気が生まれ始めた頃、おずおずといった様子でレミアが手を挙げる。

 

「レミアさん、何かあります?」

「去年の年末頃のことなんですけどね。ハジメさんとミュウを小学校に迎えにいった時、偶然シュウジさんもリベルちゃんと迎えに来ていて。その日はもう少し一緒にいたいと娘達が言うので、せっかくだからと少し街へ遊びに連れて行ったのですが」

 

 十二月の半ばに入り、防寒具無しでは外出できないような寒さだった。

 

 ちょっとしたショッピングを終えて帰路についていた時、偶然通りがかった公園の中で小さな子供が盛大に転んだ。

 

 新品らしきコートを泥と、空から舞い落ちる雪に塗れさせて泣きじゃくるその子共を見た娘〜ズはすぐに動いた。

 

「ミュウが重ね着していたコートの一枚を、リベルちゃんがマフラーをその子に渡してあげて」

「ミュウちゃんもリベルちゃんもいい子ですね〜」

「ん、さすがは私達の娘」

「リベルちゃんからすると複雑な立場だけど、私も嬉しいわ」

 

 微笑ましい顔をするユエや雫、嫁〜ズに少しはにかんだレミアは続きを語った。

 

「公園から戻ってきた二人に、ハジメさんは自分の上着を脱いでミュウを包み、シュウジさんはマフラーをリベルちゃんに渡したのですが……」

「ですが、どうだったのじゃ」

 

 レミアは、ちょっと微妙な顔をして。

 

「その後に二人とも、温かい飲み物を取り出して互いに渡したんです。なんの前触れもなく、とても慣れた動作で」

 

 

 

『ん』

『お。ん』

『サンキュ』

『いやいや、こっちこそ』

 

 

 

 最初からそうなることを予測していたと言わんばかりに、宝物庫と異空間から飲み物を出し合った。

 

 それは互いの好きな飲み物であったようで、数口飲んでホッと幸せそうにシンクロしたリアクションをした。

 

「いつから用意していたのか、今でも少し不思議で……」

「もしかして、ミュウちゃん達に何かあって自分達が防寒具を渡すことを予想して持ってたんでしょうか?」

「まるで熟年夫婦のごときムーブ……」

「阿吽の呼吸はこのことじゃの」

「な、なんだか心を読んでるみたい」

「あー……あれね」

「懐かしいわね、そんなこともよくあったわ」

 

 若干頬を引き攣らせているユエ達とは対照的に、今度は美空に加えて雫も感慨深げな顔をする。

 

 旧世界の幼少期からずっと二人を知っている彼女達は、同じやりとりを何度か見ているのだ。

 

 特に美空は、それが年々洗練され、最後にはレミアが見たものになったことを知っている。

 

 

 

 

 次に思案顔で挙手したのはティオだった。

 

 幾つかエピソードを聞いて耐性が付いたシア達は、目線だけで続きを促す。

 

 ティオの方もひとつ頷き、静かな口調で語り出した。

 

「この前、妾達の会社とご主人様が個人的にやっとるジュエリーショップが提携してイベントをやったじゃろ」

「ああ、あれですね。キッズファッションショーにミュウちゃん達が出たやつ」

「「あー……」」

 

 何か思い至ったようにユエとレミアが声を上げる。

 

 話のオチを理解されたティオは少し苦笑しながら、残りの四人に向けて説明を続けた。

 

「知っての通り、イベントは大成功を収めた。それで打ち上げに行ったのじゃが……その日は妾達と一緒に気分が良くなりたいと、ご主人様は〝毒素分解〟の技能を封印するアーティファクトを使(つこ)うてのう」

 

 記憶と共に力が戻ったことで、いくつか〝普通の人間らしい〟楽しみが失われた。

 

 それを補うためのアーティファクトが、ハジメによって幾つか作成されたのだ。

 

 〝枷の指輪〟もその一つ。

 

 装着した状態で特定の技能を発動すると、指輪を外すまで使えなくするのだ。

 

 当時のハジメは、仕事の成功に喜ぶティオ達を見て、その日くらいは同じ気分で酒を酌み交わそうとしたのだ。

 

「久しぶりにちゃんと酔ったようでの、いつもより随分と早く潰れてしもうた」

「ん、あの時のハジメはちょっと可愛かった」

「無防備な姿というのは滅多に見せてくれませんからね」

「妾達もそれなりに飲んで、そろそろ帰ろうという話になっての。誰か迎えに来て貰おうとしたわけじゃ」

「ふむふむ、それで?」

 

 そこでご主人様が電話をかけての、とティオは前置きをする。

 

 なんとなーく誰を呼んだのか予想がつきつつも、シア達は一応話の続きを聞いた。

 

「ご主人様がかけたのは、案の定シュウジ殿。数駅分ほど離れた場所で食事をしていたそうで、すぐに来てくれたのじゃ」

「十五分くらいで来た」

「それで、私達三人も乗せていってくれたのですが……」

「「「「ですが?」」」」

 

 ティオ、ユエ、レミアはなんとも複雑というか、微妙な顔で。

 

「シュウジさん、手早く私達のお会計をしてしまったどころか」

「そのままハジメを背負っていった。しかもハジメの方から、『背負え』の一言で」

「「「「えぇ…………」」」」

 

 

 

『シュウジぃ……やっと来たかぁ…………』

『あーらら、こりゃ随分なことで。お前根は律儀だからなー。こんな風になる気はしてたよ』

『帰る……背負え…………』

『ほいほい。あ、お三方も店出て平気だよん。俺からの成功祝いってことで支払いはしといたから』

 

 

 

「それがあんまりにも自然だったものでの。三人で顔を見合わせてしもうた」

 

 いや、完璧に酔い潰れた恋人を迎えに来る的なシチュエーションじゃん。

 

 そんなツッコミをありありと顔に浮かべた五人は、自然とある二人へ視線を向ける。

 

「そういえば、ハジメがお父さんの会社のゲーム開発状況が切迫してた時に駆り出されて、連日徹夜明けに死にかけてた時に毎回そんなことしてたっけ」

「ああ、それが酔い潰れたのに変わっただけということね……」

 

 美空の説明に納得する傍ら、ユエ達は元々渋かった表情をさらに複雑にさせて。

 

「……何、この敗北感は」

「なんでしょうねえ、この負けた感じ……」

「年季で負けてる、ってやつなのかな……」

「1番最初に無意識に頼るのが、北野さんということなのね……」

「しかもシュウジ殿、事前に打ち上げのことを聞いておったそうじゃ。ご主人様が酔い潰れるかもしれないと、酒は飲んでおらんかった」

『いや嫁かっ!』

 

 シア達は声を揃えて立ち上がった。バシィン! とそれはいい音が机から鳴る。

 

 自分がそれやりたかったのに、そしてハジメにやってほしいのに、という不満も込み込みのツッコミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 同感じゃ、と笑うティオにひとまず座ったシア達は、なんとも疲れたように嘆息する。

 

「いろいろ話が出ましたが……やっぱおかしいですよあの二人」

「実は兄弟、とかじゃないよね」

「いやいや、二人ともちゃんと両親いるし」

「それはそうなのですがね……」

「ん。そのレベルで互いのことを知り尽くしてる」

「生まれてからずっと共にいたが故、か」

「私の口から言うのも変だけれど、運命的よね」

 

 そう言った雫、ついでに美空にまたも視線が集まる。

 

 なんだかんだと、ほとんど全員が体験談を語った。残りは二人だけだと言わんばかりの目だ。

 

 雫と美空は顔を見合わせると、不思議なことに苦笑を浮かべあった。

 

「そういう類の話は、ねぇ……」

「話しても仕方がないというか」

「ん、そんなに変な話なの?」

「というか……」

 

 そこで、二人は声を揃えて。

 

「「多すぎてどれを話せばいいのか分からない」」

「「「「「………………」」」」」

 

 そういえばこっちも一緒にいる年季が違う、と五人は思った。

 

「……これは、やはり認めざるをえませんね」

「シア、どういうこと?」

 

 気がつけば、シアどころかほぼ全員が深刻そうな表情へと変わっていた。

 

 最初の空気はどこへいったと言わんばかりの切迫した雰囲気の中、シアは厳かに告げる。

 

「シュウジさんはやはりラスボスだ、と」

「えっ、そういう意味でもボスなの?」

「お二人が聞いたら頭を抱えそうですね……」

「あながち間違い、とも言えんのう……」

「ラスボスというか裏ボスというか……」

「「おかしい……私が正妻のはずなのに…………ん?」」

 

 雫を除いて、この場にいる全員ハジメの嫁のはずである。

 

 なのに、愛の深さでは負けていないはずなのに誰も勝っている気がしない。

 

 なんとも奇妙なことだった。

 

「これはあれですね、早急に私達もハジメさんをもっと理解する必要があります」

「ん、その通り。積極的にハジメのことを知っていく」

「ま、まあ! まだまだハジメくんと仲良くなれるってことで!」

「そうだね。私もなんだか、幼馴染なのに負けてらんないし」

「頑張りましょう」

「そうじゃの」

「みんな、程々にね?」

 

 メラメラと炎を燃やす六人は、あの聖戦での戦いもかくやという気概を見せている。

 

 これからの戦友の大変さを予想した雫は苦笑するが、むしろ彼女へ不思議そうな目が向けられた。

 

「なんだか雫さん、余裕ありません? 一応、雫さんもシュウジさんへ同じことを考えると思ってたんですが」

「え? そんな必要ないじゃない。だって私の方があの人のこと知ってるもの」

 

 即答だった。

 

 今日一番の強い声音で、ニッコリとどこか薄ら寒いものを感じさせる笑顔で雫は返答する。

 

 シア達は慄いた。一見穏やかに見える微笑みの中に、地獄の業火のような意思を感じたからだ。

 

 

 

 

 

((((((は、ハジメ(さん)にだけは絶対負けないって書いてある……))))))

 

 

 

 

 

 この場にいる誰よりも激しい対抗心を燃やしている、北野家正妻であった。

 

 

 

 

 

 結局それ以上の結論が出ることはなく、後は雑談をして過ごした。

 

 女三人寄らば、という諺の通り、七人もいれば随分と話が弾み、気がつけばもう夕刻に。

 

 そろそろ帰る、という連絡をハジメとシュウジ双方から受け取り、七人は上へ上がった。

 

 分担して家事を行っているうちに四人が帰宅し、一番手の空いていたシアが出迎える。

 

「おかえりなさい、四人とも」

「ただいまなの!」

「お邪魔します!」

「ただいま。子供の引率ってのはやっぱり大変だな」

「自由奔放だからねえ。ま、リベルとミュウちゃんが統率してた感じはあるけど」

 

 和気藹々とした親子〜ズからは、楽しんできたことが窺える。

 

 それに微笑みながらも、シアはふと日中の会議を思い出してシュウジへ目を向けた。

 

「ん? どうしたシアさん、今日は一発見舞われるような大惨事でもあった?」

「あ、いえ、父様達は特に何もありませんが……」

「どうしたシア、何かあったなら言ってみろ」

 

 一人は冗談を言いつつ、一人は柔らかい声音で、しかし二人とも真剣に。

 

 そんな風に聞かれたことで、シアはなんだかちょっと恥ずかしくなりながらも恐る恐る聞いた。

 

「その……シュウジさんって、やっぱりラスボスですか?」

「? 何言ってんだ?」

「パパがラスボス? 裏ボスじゃなくて?」

「みゅ、どういうことなの?」

「あ、ええと、これはですね……」

 

 どう説明したものか、いやそもそも詳しく説明していいのか、とシアは慌てふためく。

 

 一見すればおかしな様子にハジメ達が首を傾げる中、少し思案顔でいたシュウジはふと笑った。

 

「安心しな、シアさん。俺ちゃんそういう趣味ないから」

「あっ……いや、それはわかってるんですけど……」

「けどまあ」

「おわっ」

 

 と、そこでシュウジはハジメの頭に手を置き。

 

 アーティファクトで黒髪に見せているその髪をぐしゃぐしゃと撫で回した。

 

「暫くは、負けるつもりないぜ?」

「──っ!」

「おい、いきなりなんだよ」

「なははー、メンゴメンゴ」

 

 鬱陶しそうに手を払うハジメと、おどけるシュウジ。

 

 全くもっていつも通りのやりとりだが──先の一言を聞いたシアは戦慄していた。

 

 

 

 

 

(やっぱりこの人、色んな意味でラスボスですぅ────!?)

 

 

 

 

 

 こうして、シアの懸念は続くことになった。

 

 

 




勢いで書いたな、この話(確信)


読んでいただき、ありがとうございます。
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