星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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前回に引き続き番外編。
楽しんでいただけると嬉しいです。


帝国と捕食者 前編

 

 ガタガタ……

 

 

  私たちを乗せた馬車が、音を立てて進んでいく。お尻の下に引いたクッションに伝わる振動が、眠気を誘った。

 

  私たちは今、【オルクス大迷宮】の攻略を一旦切り上げ、宿場町ホルアドから王都に向けて帰る馬車へと乗っていた。

 

  なんで攻略を切り上げたかというと、六十五階層以降には既存の地図(マップ)がない。そのため、探索しながらの攻略になる。

 

  それに加えてベヒモスがボーダーラインだったのか、魔物の強さも格段に上がり、トラップも増えて難易度が跳ね上がった。

 

  いくらグリスに変身できる龍太郎くんがいるとはいえ、体力や精神力の消耗はかなり激しいものとなった。だから一度引き上げてきたのだ。

 

  え?そこは勇者の光輝くんじゃないのかって?えーと、その。ほら、それはそれでまあそうなんだけど……ね?(目逸らし)

 

  でも、休むだけならホルアドでもいい。それでもなぜ王都まで帰っているかというと、なんでもヘルシャー帝国の人が来るかららしい。

 

  なんでこのタイミングかっていうと、そもそも私たちが召喚されたのがエヒトっていう神様から神託があってから間もないことだった。

 

  そのため他の国に周知する暇がなかったらしい。でも、もしその暇があってもおそらく帝国はそれに答えなかったという。

 

  もともと傭兵が寄り集まって出来上がった帝国は、完全な実力主義。だからたとえ勇者だからといって軽視される可能性があった。

 

  そのヘルシャー帝国から今回人が来たのは、長年攻略されていなかった六十五階層より下に私たちが到達したから。

 

  つまり、他の国の人にも私たちが強者だと認識されたのだ……というのが、さっきまで兵士の人に聞いた話だったりする。

 

「「「すう……すう……」」」

 

  でもその話を真面目に聞いていたのは私と雫ちゃんくらいで、皆疲労がたまっているのもあって馬車の壁に背を預けて眠っていた。

 

  馬車は三つに分けられていて、私たち女子のグループに+ aと光輝くんたち男子のグループ、そして王国の兵士に分けられている。

 

 そして、その+ aというのは……

 

「んごー……………」

 

  私の正面で、モスグリーンのモッズコートを着た大柄な男の子……龍太郎くんが大きないびきをかいて寝ていた。

 

  最初は龍太郎くんも男子グループのメンバーだったはずなんだけど、定員オーバーな上に兵士の人達の方も埋まっちゃったからこっちに来ている。

 

  今回の遠征の中で一番奮闘していた(光輝くんも一応頑張ってたよ!)龍太郎くんは、一際疲れてたみたいで乗った瞬間寝ちゃった。

 

「ふみゅ………」

 

  そして、そんな龍太郎くんの体に寄りかかって鈴ちゃんが寝ていた。コートを着ててあったかいのか、抱き枕みたいに抱きついてる。

 

  この二人が隣同士なのは、当然のごとくわざとだったりする。私を含め全員、とっくに鈴ちゃんが龍太郎くんにご執心なのはわかってたからだ。

 

  なので、時々セクハラみたいなことされるお返しにさっさと全員乗り込み、鈴ちゃんが龍太郎くんの隣に座らざるを得なくさせた。

 

  最初は顔を真っ赤にして黙って座っていたものの、ずっと緊張してるうちに疲れたのかそのうち寝た。そして今に至る。

 

  きっと起きた時、素っ頓狂な声を上げることだろう。ちょっと楽しみな私がいる。

 

「んー……ハジメー……」

 

  そう我ながら悪い笑顔で二人を見てる私の隣では、美空が私の肩に頭を預けて眠っていた。時々南雲くんの名前を呟いてる。

 

  そのさらに向こうには綺麗な姿勢で雫ちゃんが座っている……が、「シューシューシューシューシューシューシューシューシューシューシューシュー……」とか言って携帯の写真を見てる。そっとしておこう。

 

 

 ガタンッ

 

 

  皆頑張ったなぁと思いながら座っていると、不意にまた馬車が揺れた。その拍子に美空の頭がずるっとずれる。

 

  そして、ぽすんと私の膝の上に収まった。髪がくすぐったくて、思わず「ひゃっ」と声が出る。うう、変な声だった。

 

「すー……すー……」

 

  純真そうな顔で眠る美空は、ネットアイドルをやってるだけあってものすごく可愛かった。同性なのにドキドキする。

 

  時々身じろぎする美空に、ふと母性本能がくすぐられてその黒髪を撫でた。ぴくり、とちょっと震えたが、すぐにまた眠る。

 

  わー、美空の髪すっごいさらさらだなぁ。お肌もすべすべだし、お風呂で見た時腰もめちゃくちゃ細かったし……

 

「……うう、ちょっとジェラシー」

 

  こーんな可愛い子が南雲くんを虜にしてると思うと、なんだか悔しくてプニプニとした頬を突っついた。

 

「んぅ……」

 

  すると、顔をしかめた美空が頭を動かす。するとつぷっと指が唇の間に入ってしまった。暖かい感触が指先を撫でる。

 

  咄嗟にばっ!と手を引いた。それまでとは違う風に心臓がドキドキ高鳴り、頬が熱くなる。なに、この気持ち。

 

  むにゅむにゅとする美空の口元に、自然と視線が吸い寄せられていった。心臓の音が早くなり、ぼんやりとした気持ちになる。

 

「美空……」

 

  名前を呼び、ちょっと息を荒くしながら美空の顔に自分の顔を近づけていって……あと二センチというところで、ハッと我に返った。

 

「わ、私は何を……!」

 

  ここ最近1番の身のこなしで体制を元に戻して、皆寝てるのに誰にも見られないように両手で顔を覆う。

 

  すっかりさっきまでの変な気持ちは消え失せて、ただものすごい恥ずかしさが襲ってきた。

 

「な、何やってるの私!別にそんな趣味ないのに!それに私は南雲くんのことが……ってそれも違うぅう!」

 

  そりゃ確かに美空は可愛くて可愛くて可愛くて超可愛いけどさ!でも、大切な友達にそんなことを……!

 

  結局、馬車が王宮に入るまで私は延々と自分に対して言い訳をしていたのだった。

 

「んぁ……?あれ、もう着いたの……?」

「ひゃいっ!」

「……どうしたの香織?」

「にゃ、にゃんでもない!」

 

  目が覚めて不思議そうな顔をする美空から、必死に顔をそらして声を出す。うー、顔が見れないよぉ。

 

「んごっ……あ? な、なんで谷口が俺に抱きついて……」

「んにゅ……?って、わぁーーーーーーっ!」

「おわっ、ちょ、タンマ!落ち着け谷口!」

「り、龍っちの変態ーーー!」

「いや俺何もしてなあべしっ!」

 

  なんか鈴ちゃんと龍太郎くんが騒いでる声がしたけど、真っ赤になった顔を必死に美空から隠そうとしながら降車する。

 

  合流した男子グループに不思議そうな顔をされていると、待ち構えていた王宮の人たちがこっちに近づいてきた。

 

  その先頭にいるのは十歳位の金髪碧眼の美少年。ハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒ殿下だ。殿下が私を見ているのがわかる。

 

「香織!よく帰った、待ちわびたぞ!」

 

  目の前に来て話しかけてくる殿下に、私はなんとか赤い顔を元に戻すといつも通りの笑顔を取り繕って返事をした。

 

「で、殿下、お久しぶりでしゅ」

 

 全然大丈夫じゃなかったーーーッ!

 

  噛んだ!最後の最後で噛んだ!うわあぁああもう恥ずかしい!穴があったら埋まりたい!っていうか美空そんな純粋な不思議そうな顔で首傾げないで!

 

  もう羞恥やら変なことばっかりしてる自分に対する怒りやらで、全く殿下の言ってることが耳に入ってこない。なんか光輝くんのこと睨んでるけど私知らない!

 

  後で聞いた話だけど、この時殿下は私のことを心配して侍女にならないかとか医療院に入らないかとか言ってたみたい。全然聞こえてなかった。

 

  殿下にはなんでか、召喚された日からすごく懐かれてる。結構な頻度で話しかけてくるから、可愛い弟みたいに思ってる。

 

  けど、今この場ではそんなことよりも美空にしようとしたことへの恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだった。今すぐ記憶を滅したい。

 

「香織?一体どうしt……」

「バルス!」

「なんで破滅の呪文!?」

 

  光輝くんがなんか言ってるけどもうわかんない!あーあーもう聞こえない聞こえなーい!

 

「ランデル、いい加減にせよ。王族ともあろうものが人前でなんと見苦しいことか」

「香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

 

  結局なんとか元に戻ったのは、第一王女のベルナージュ様と、第二王女であるリリアーナがやってきた時だった。

 

  やってきた二人は、ベルナージュ様は厳格な態度で、リリアーナは悪いことをした子供をたしなめるような口調で殿下を諌める。

 

「う、上姉様!?下姉様!?……し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ……で、ですが……」

「ランデル。それ以上言うのなら、また私とともに図書館で勉強を……」

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

  ゴゴゴゴゴゴ……とかいう擬音が聞こえてきそうなベルナージュ様に、殿下は慌てた様子で走っていった。が、数メートルもすると引き返してくる。

 

「そ、そうだ香織!お前が帰ってきたときに渡そうと思っていたものがあったのだ!」

「え?」

「こ、これだ!ではまた夕食の時に!」

 

  そう言って、殿下は走っていった……私の手の中に百合にそっくりの花を残して。

 

 

 ドッ!

 

 

  私は左足で地面を踏みしめ、花を手の中で丸めると野球選手みたいに右足を高く上げる。そして花を握った手を思い切り振りかぶり……

 

「相手のゴールにボールをシューッ!超、エキサイティンッ!」

「香織!?」

 

  空高く花を投げ飛ばした。光輝くんとか他の皆が驚いてぽかーんとしてるけど無視!なんで追い打ちかけるの殿下!

 

「まったく、騒がしいものだ……」

「皆様、弟が失礼を致しました。代わってお詫びいたしますわ」

 

  ゼエゼエと荒い息を吐いて雫ちゃんに背中をさすられていると、そういってリリアーナが頭を下げた。

 

 リリアーナは、現在十四歳の才媛だ。その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女。

 

  性格は真面目で温和、しかし、硬すぎるということもない。TPOをわきまえつつも使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。

 

 私たちに対しても王女としての立場だけでなく、一個人として接してくれる。なので非常に仲が良くて、今では愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲だ。

 

  対するベルナージュ様は、まるで女神かと思うほどに完成され尽くした美貌を持っており、国の重鎮として政治を取り仕切っている。

 

  性格は厳格かつ冷徹、しかし第一に国民のことを考える責任感の強い性格をしている。一部では王様より王様の女王と言われてるらしい。

 

 そして……

 

「美空、怪我はないか?」

 

  ふわり、と私の横を通り過ぎたベルナージュ様は、美空に近づくとその頬を手で包んだ。ちょっと困惑しながらも笑顔で頷く美空。

 

  なぜか、ベルナージュ様はとても美空のことを気に入ってる。まるで殿下が私にそうするように、とても熱心に世話を焼いているのだ。

 

  今もどこにも怪我のない美空を見て、満足そうに頷くベルナージュ様にちょっと嫉妬して……

 

「だから違うってぇ!」

「ぐはっ!」

 

  あ、思わず隣の光輝くんにボディーブロー入れちゃった。ゲホゲホ咳き込んでるのを、慌てて魔法で回復させる。

 

「え、ええっと……とにかく、皆様お疲れ様でした。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

「うむ。よく頑張ってくれた。我が国はお前たちを誇りに思う」

 

  そう言ってふわりと笑うリリアーナとわずかに微笑むベルナージュ様に、男子の皆がぽかーんと熱に浮かされたような顔をした。

 

  女子の皆も、龍太郎くんの腕をつねってる鈴ちゃんを除いて、まるで美術品を見た時みたいにほわーという顔をしている。

 

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

「えっ、そ、そうですか? え、えっと」

 

  復活した光輝くんが爽やかな笑顔でそう返すと、リリアーナは赤い顔であたふたと体を揺らした。

 

  セリフだけ聞くと口説いてるように聞こえるけど、光輝くんにまったく下心はない。全部本心で言っている。

 

  それのせいで、結構な女の子が勘違いしていろいろ大変だと前に雫ちゃんに聞いた。あのセリフを、もし南雲くんが言ってくれたら……

 

「デリートッ!」

「ごふっ!?」

 

  あ、思わず八つ当たりで光輝くんの脇腹にミドルキックしちゃった。ハザードレベルの力のせいで結構強く入った。

 

「え、えっと、とにかく皆様。お食事と清めの準備ができていますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

  そういうリリアーナに、また復活した光輝くんを筆頭に皆ついていく。私もなんとかテンションを戻して、そのあとを追いかけようとする。

 

「香織」

 

  が、突然雫ちゃんに呼び止められた。何かな、と振り返ろうとしたら、目の前にスッと携帯の画面が差し出される。

 

  そしてそこには……眠る美空に顔を近づける、私の姿が映っていた。それも無駄にくっきりはっきりと。

 

「こ、ここここここここれは……………」

「大丈夫、香織がそういう趣味でも私はずっと親友よ」

「いやーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

  その後私の繰り出したパンチは、被害者になった王宮の柱にヒビを入れた。




香織さんはレズじゃないですよ……多分。
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