まあ原作アフターの再構成のような形です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
浩介編 スパイ映画とゾンビ映画とヒットマン映画と………これ以上何を盛ると?
女は、心の底から恐怖していた。
「──つまりはだ。俺達とあんた達、仲良くやろうってわけさ」
目の前でソファに座り、足を組んで片腕を背もたれに預けている男。
整った顔立ちに緩くウェーブのかかった黒髪、色気のある声音と抜群のスタイル。
年若い女であればそれだけで骨抜きにされてしまいそうなその青年を、齢六十に届こうかという女は恐れていたのだ。
「俺も平和な暮らしを望んでいる身でね。なるべく世界は静かでいてほしい。そしてその為には、力だけでなく人との繋がりも重要だ。そうは思わないか、シャロン=マグダネス国家保安局局長?」
試すように名を呼ばれ、シャロン──英国秘密国家保安局の長は冷や汗を流す。
国家の安全に関わる重大犯罪において広域の捜査権と逮捕権を有し、時には要人の保護まで行う諜報機関。
多くの人材と部署を束ねる組織の頭、国家と結婚した鉄の女とまで呼ばれる彼女は、喉を鳴らして答える。
「…………ええ、その通り。この国も、世界もより良くなければならない」
「そう言ってくれると思ってたぜ。だから俺はここへ来たんだ。
聞くだけで笑ってしまいそうになる尊大な言葉。
だが、長年保安局トップの椅子に座ってきたシャロンでさえ、その言葉が冗談だとは到底思えない。
こんなことを言っているのは自分達に気付かせないだけで、あるいはもう……とさえ考えてしまう。
「だったら一緒に盛り上げようじゃないか。持ちつ持たれつ、仲良く手を取り合って……な?」
「……っ」
浮かべた笑顔が、牙を剥いた蛇に見えた。
逃げ出したい。
それだけを単純に思ったのは幼い頃以来で、しかしシャロンはそれを許される立場ではない。
だから、その提案のような、交渉のような何かに見せかけたモノに──頷くしかなかった。
「……わかりました。今後、貴方とは長い付き合いになりそうですね」
「おっ、嬉しい返事だねぇ。いやはや、わざわざ畏まった格好をしてきた甲斐があったってもんだ」
本当はこんな格好苦手でね、などと言いながら似合いすぎている濃紫のスーツの裾を揺らす。
その際、九の蛇に囲まれた紫の蛇がデザインされた指輪が部屋のライトに反射して煌めく。
この世全ての男への嫌味か、などと柄にもないツッコミを考えながらも、シャロンは再び頷いた。
「さて。これで用事は済んだ、そろそろお暇させてもらおうかな」
「……そうですか。お帰りの際はくれぐれもお気をつけて」
「忙しいところに押しかけてすまなかった。そのうち菓子でも送るよ、友好の証としてな」
「友好の証、ですか。ええ、お待ちしています」
「楽しみにしといてくれ。それじゃあシャロン局長、チャオ」
右手で独特のジェスチャーを取り、立ち上がった男はそのまま部屋を出て行った。
ほどなくして、扉が閉まる音が背後から響く。
途端にシャロンは全身から脱力し、大量の冷や汗をかきながら背凭れに体を倒れさせた。
「…………生きた心地がしないとは、このことね」
「い、いやー。もう死んでるんじゃないかってくらい体が冷たかったですよ」
額に手を置いたシャロンの呟きに、実はずっと側で立っていた男が答える。
線の細い眼鏡をかけた、気弱そうなその青年は彼女同様に顔中冷や汗塗れだ。
「パーカー分析官。一体何だったの、あの男は」
「さあ、これが全くわかりませんでした。いくら調べても情報が拾えなくて」
「何ですって?」
色々と性格に問題があるが、この3年直属にしてから期待を裏切ることはなかった優秀な分析官だ。
それなのに一つの情報もなかったことへ眉を顰めると、慌ててアレン=パーカーは弁明した。
「か、顔立ちからしておそらく……あれ? どんな顔だったっけ?」
「貴方、何を馬鹿なことを言って……」
パーカー分析官は、非常に不思議そうな顔で首をかしげる。
叱責しようとして、ふとシャロンは自分も既に男の顔を覚えていないことに気付く。
ついさっきまで話していた会話の内容も、その時の恐怖も覚えている。
それなのに、
(私達は、いったい何と会話していたというの…… ?)
「……ともかく。ああ言ってしまった以上、もう後戻りはできません。
「完全に後手に回りましたね」
「これ以上あの男のことを考えるのは時間の無駄よ。それよりも
「了解しました」
どこかホッとしたように答えるパーカー分析官を咎めることは、シャロンには不可能だった。
彼女も全く、同じ気落ちだったのだから。
「ん〜、いい話し合いだった」
一方、保安局から出てきた男は機嫌が良さげであった。
両手を組んで上へ伸ばすと、一仕事終えたと言わんばかりに一息ついて笑顔を浮かべる。
「あっちでの事はフィーネが解決してるだろうし、この件は順調順調。今日も世界平和の為に邁進、ってね」
『酷く利己的な世界平和だな』
「前は世界の為に命張ったんだ、これくらいはただの余興さ」
誰かと話すように呟きながら、どこからともなく取り出した帽子を被り歩き出す。
どうせなら昼食を取るかと大通りを目指して男は足を進める。
あと少しでストリートに出るというところで、男の懐が震えた。
「おろ? もう集めたのか」
スマートフォンを取り出した男は、表示されたメッセージからファイルを開く。
その中にある、十数枚ほどの資料を一瞬にも等しい速度で読み進め……最後まで読んだ時、笑う。
「なるほどねぇ。こいつは面白いことになりそうだ」
声を暗く弾ませた男は早速動き始めた。
歩みを再開させながら、情報を送ってきた相手に次の指示と労いを込めたメールを返信する。
それが終わるや否や、とある連絡先を選択して電話をかけた。
「ふんふふーん……お、出た。ハロハロー、元気にしてる?」
『──? ────、──』
繋がった電話相手は、通話の向こう側で何やら言っている。
男はからからと笑いつつ相手の話を聞き、その陽気さと容姿も相まってすれ違う人々の目線を集めた。
「そうか、充実した生活を送ってるようで何よりだよ。あ、でさ。いきなりで悪いんだけど」
その、自分を見る誰の目線にも捉えさせないように。
深く俯き、帽子で表情を隠した男は──悍ましいほど怜悧な表情を浮かべた。
「仕事だ、〝
●◯●
──どうしてこんなことに?
こんなはずじゃなかった。まさかあんなことになるなんて思いもしなかった。
そう考えると、
これまでにも同じ台詞を言ったことは何度もある。それはきっと誰もが同じことだ。
何かを夢見て、目指し、努力し、邁進し、されど九十九の失敗を得るのが実に嫌な世界の法則だ。
絶望から立ち上がり、あるいは立ち上がらせてもらい、その先に一の成功を得られるかは本人次第。
ああ、けれど。
これは、
(私は、救われちゃいけない……許されては、いけないんだ)
心の内で繰り返し自戒するほどに、少女は追い詰められていた。
それは倉庫の隅、いくつもの備品が並べられた金属製の棚列の隅に隠れていることからも窺える。
年頃十六、十七ほどの美しい少女が顔を恐怖に歪め、不思議と似合う白衣で自分を包むように蹲っている。
それは誰が見ても、尋常ではない状況だ。
「っ!」
不意に、出入り扉の方から激しい音が木霊する。
ガンッ! ガンッ!! と硬いものに何かを何度も叩きつける激音に、さらに体を縮こまらせた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
その正体を知る彼女は、ただ謝り続ける。
そこには怯え以外に憐れみや悲しみ、何より罪悪感がありありと滲んでいて。
長いまつ毛に彩られた翡翠の吊り目を冷たい涙で潤ませ、懺悔を口にすることしかできない。
彼女に応えた訳でもないだろうが、直後に部屋を揺らす恐ろしい音はピタリと止んだ。
「…………?」
恐る恐る、顔を上げる。
何故音が止まったのか。自ら生み出してしまった〝それ〟は極めて本能的で、らしからぬ静寂に不安がった。
様子を確かめるため、白衣の裾で涙を拭い、死角になっている倉庫の一番奥から這い出る。
四つん這いの姿勢のまま、警戒した猫のように扉を見て──「ひぅ」と声を漏らした。
扉は滅茶苦茶に凹んでいた。
金属製の扉は何かを集中的に叩きつけられたように歪み、後一撃で破られそうになっている。
キィ、キィ、と不気味な音を立てる扉の向こうに覗く廊下には、何もいないように見えた。
「……っ、はぁ」
安堵の息を漏らす。
どうやら〝それ〟は少女に興味を無くし、どこかへといってくれたようだ。
極限の恐怖が終わったと思い、胸を撫で下ろした──まさにその瞬間。
ゴガァンッ!!
これまでのどんな一撃より激しい音を立てて、扉が吹き飛んだ。
数十キロはある金属塊に戸棚はなぎ倒され、尻もちをついた少女は反射的に両手で頭を庇う。
引っ込めていた涙を再び目尻に溜めながら、扉があった方を見て……
「フゥッ──、フゥッ──」
「ぁ、うぁ」
そこには男がいた。
白衣を着た二十代半ば程の青年。その顔を見て、少女は絞り出すように呟く。
「先、輩……」
それは、既知の人物への反応。
だがそうだと認識できるのは彼女一人だろう。〝それ〟は華奢な体をした少女には到底似ていないのだから。
あちこちに右往左往する目、口端から漏れる涎、並のボディビルダーよりも肥大化した全身。
白衣を着ていることが激しい違和感を醸し出す〝それ〟こそが、扉を破った何かの招待だった。
「ヴゥゥヴヴヴッ」
「……っ!」
唸る〝先輩〟の、きつく握りしめられた拳を見て少女は瞠目する。
何度も扉を殴ったせいだろう、骨が見えるほどひしゃげた拳が逆再生のように戻りつつある。
否、それは治癒というよりも修復だろう。普通の人間ではあり得ない速度で損傷が回復している。
「ゥ゛ウ゛ウ゛ァ゛ッ」
「あ、あ……」
焦点の定まらない目で自分を見る〝それ〟に、恐怖で顔を引きつらせる。
体は逃げようと後ろへ下がるが、狭い上に滅茶苦茶になった部屋の中ではすぐに行き詰まった。
のそり、と〝それ〟が少女へ歩み寄る。それだけで恐れが倍増し、暖かいものが少女の股を濡らした。
失禁するほどの絶望に迫られた少女へ、歪な拳が振り上げられていく。
(ごめん、なさい……私があんな研究さえしなければ……ごめんなさい、先輩……みんな……)
もはや、生きる事叶わず。
最後の瞬間まで懺悔をし、けれど目を背ける事も出来ない少女。
そんな哀れな者へ、風切り音を伴う拳が振り下ろされ。
「グラント博士!」
女のものらしき怒声と、乾いた発砲音がそれを打ち破った。
〝それ〟が体を揺らし、拳を止める。
怒りの滲む唸り声を漏らしながら振り返り、少女もつられて〝それ〟の脇から向こうを見た。
そこでは黒いスーツを着た、長身の美女が両手で銃を構えていた。
「伏せて!」
「っ」
咄嗟に床へ倒れ込む少女──エミリー・グラント。
ほぼ同タイミングで連続して発砲音が響き、さらに被せて轟く獣の咆哮に彼女はぎゅっと瞼を閉じた。
地響きを立てて〝それ〟は女に突進していき、対抗するように発砲音が響き続ける。
しばし、廊下より戦闘音が聞こえた。
射撃音、破壊音、咆哮と女の気合の入った呼気。少女は部屋から出られない。
1分ほどの後。これまでのどの音とも異なる、何か重いものを壁に叩きつけた振動が響いた。
「…………申し訳ない」
微かに拾った独白と共に、また発砲音。
それを最後に、十秒待っても二十秒待っても戦闘音は続かず、少女はうっすらと目を開けた。
すると、扉の向こうに立つ女の背中と……逆さまになって動かない、頭を打たれた〝先輩〟が。
「……アルファ1より報告。
どこかへ連絡を取った女は、マガジンを手慣れた様子で交換すると踵を返す。
そして、呆けた様子で座り込んだエミリーに手を差し出してきた。
「ご無事で何よりです。私は国家保安局のヴァネッサ・パラディ。お迎えに上がりました。これより、貴女をこの研究所から脱出させます」
あまり感情の見えない表情。
百七十は超えているだろう長身にグレージュ色のベリーショートの髪、そしてブラックスーツ。
鋭いナイフのような雰囲気で怜悧な印象に纏まった美女に、エミリーは警戒を目に浮かべる。
「……警戒されていますね。こちらも貴女の事情は凡そ把握しています。ですが、一刻の猶予もありません。すでに施設は凶暴化した職員で溢れかえっている。私の同僚が注意を引いていますが、長くは持たないでしょう。だから、今は私を信じてついてきてください」
「……先輩は…………」
「……申し訳ない。貴女を守るためにはこうするしかなかった。それに、ああなってはもう手遅れだということは──」
「ええ。私が一番よく分かってる」
それだけは信じたように、エミリーは頷く。
ヴァネッサの背中越しに、〝先輩〟だったものをしばらく見つめ……少し目を伏せる。
それからヴァネッサに視線を戻すと、彼女は無表情ながらもどこか労わりや申し訳なさげであった。
エミリーは、その目を見つめる。ヴァネッサも信用される為か見返してきた。
「…………信用したわけじゃない」
「…………」
「でも、私はまだ、死ねない。だから……貴女に付いて行くわ」
「そう言っていただけて良かった」
手を取り、立ち上がったエミリーは涙を拭う。
吊り目をさらにキッと尖らせて、これまで絶望していた自分に決別する表情を浮かべた。
倉庫を出ると、エミリーが今一度〝それ〟へと目線を移す。
「…………先輩、ごめんなさい。きっと、止めてみせるから」
「…………」
床に広がる血の池を見るエミリーの横顔には、複雑な感情があった。
それは、歳若くしてその優れた才能によって大学まで飛び級し、馴染めなかった自分に親身になってくれた仲間への哀悼。
独りぼっちで自分を奮い立たせていた自分に寄り添ってくれた研究室の仲間の中でも、特に親身になってくれた一人。
父や兄、姉と慕う人だったものの一人を見つめ、自分を強く奮い立たせて。
ヴァネッサは、周囲を警戒しつつもそんな彼女に意識を向けていた。
一見冷え切ったような瞳には、しかしほんの少しの憐れみと、心配のようなものがあって……
「……行きましょう」
「ええ」
エミリーが振り返った時にはそれを消し去り、彼女は銃を構える。
そして、銃声と咆哮が遠く響く施設の中、まるで未来を暗示するような薄暗い廊下の向こうへ二人は消えていった。
「……対象の移動を確認。〝天網〟へ情報を共有します」
ふっと彼女達の遠く後ろに、何かを呟いて通り過ぎた人影に気付くことはなく。
●◯●
「ったく、人使いの荒いボスだな……せっかくラナに合いに日本へ戻れると思ったのに」
雑踏の中を、不満げに呟きながら歩く青年がいた。
今一つ特徴のない顔つきをした、黒を基調とした服装に身を包んでいる。
「けどまあ、金もらってるわけだし、医療の勉強もさせてもらってるし。お陰でラナとの交際には困ってないんだからなぁ……それに、あいつのおかげで前の世界では生き残れたようなもんだし」
文句ばかり言っても仕方ないか、とずり落ちて来たリュックを右肩に背負い直し。
家路を急ぐ人々の中に紛れ込むように、青年は確かな足取りで歩みを進めていく。
多少珍しいだろう日本人に、誰も目を向けない。まるで最初ならそこにいないかのように。
携帯を見て歩いていたり、興味がなかったりという以前に、意識に乗っていないのだ。
青年は気にすることなく目的地へ移動した。
「っと、今回はここか。いつもよりは道のりが入り組んでなかったな」
メインストリートから少し道を外れ、ホテル街に入ってしばし右往左往。
スマホに送られてきた座標と地図アプリを片手にたどり着いた青年は、その施設を見上げる。
10階建ての、黒塗りのビル。
等間隔に窓が並んだ縦長のそれは、少し古びていていかにも普通の宿泊施設といった様子。
紫と赤の蛇が絡み合うシンボルが彫刻された扉を押し開き、青年は中へと入る。
その瞬間、空気が一変した。
「っと……いつまでも慣れねえなこれ」
完全に中へ踏み込んだ途端、目の前から消えた扉に自分の手を見て苦笑する。
そうして前を見ると──そこには広大なエントランスがあった。
煌びやかに、かつ上品な装飾と調度品で彩られたホールは、明らかに外観と面積が合わない。
赤く輝く数々の恒星と、そこで苦しむ人々というインパクトの強い絵画を一瞥し、青年はフロントに行く。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、遠藤様」
「ども。チェックインの確認いいっすか?」
恭しく頭を下げたパンツスーツの青髪美女に、ちょっと緊張しながら浩介は答えた。
「勿論でございます」
「あざっす」
「遠藤様のご到着を……確認しました。お部屋はいつもの場所でございます」
「分かりました」
「既に資料と必要なものはご用意しましたので、お使いください」
「うす」
鍵を受け取り、浩介は軽く会釈をするとフロントを離れる。
エレベーターに乗ると慣れた様子でボタンを押し(一緒に乗った他の客から認識されず)、12階まで昇った。
ドアが開き、不思議そうにしている客達にちょっと悲しい顔をしつつ合間を通って降りる。
エントランス同様に上品なデザインの廊下をそわそわと進み、一番奥の隅の部屋まで進んた。
「やっベー。何度来ても慣れねえわ」
入室するや否や、ほっと疲れたように溜め息を吐く。
ホテルを幾度となく利用しているのに、元が小市民な彼にはいつまで経っても落ち着かないのだ。
幸いなのは、浩介専用にされているこの部屋は調度品が少なく、必要最低限のものだけにされていることか。
早く慣れないとな、と呟きながら荷物をそこらに起いて一息つく。
ベッドに座り込んでぼうっと天井を見上げ、しばらくするとふと視線を他所に投げる。
行き着いたのは窓際。そこには部屋の雰囲気にマッチしたシックな色合いの机と椅子が設置されている。
そして卓上には、フロントの言っていた通り一つのファイルとアタッシュケースが置かれていた。
「っし。仕事始めますか」
一念発起、両手を使ってベッドから立ち上がった浩介は窓辺に行く。
やけに座り心地の良い席に着き、まずはケースの上に置かれた黒塗りのファイルを手に取った。
金蛇のシンボルが刻印された表紙を開き、中の資料に目を走らせる。
「……ふむ……
パラパラとページをめくり、資料を読み進め。
内容を理解していくうちに、浩介の顔はみるみるうちに険しいものになっていった。
「……なんだこれ、胸くそ悪りぃ。よりによってこういう事情かよ」
仕方がなくという雰囲気を消し去り、不機嫌そうに呟く浩介。
同時に納得もした。何故
その裏に感じ取れる、ある人物からの信頼に浩介は一瞬照れ臭そうに笑いながら最後の一枚を見る。
「現状は……はっ!? マジかよ!?」
椅子を吹っ飛ばす勢いで立ち上がり、食い入るようにそのページを見る。
そこには、浩介が保護しにいくべき人物の現状が記載されていたのだ。
「おいおい、これ今すぐ行かないとやべえじゃん!」
慌ててファイルを放り投げ、飛びつくように浩介はアタッシュケースを開ける。
ガチャリ、と重厚な音を立てて開いたケースの中には、いくつかの装備と専用の服。
そして、金の文様が入った漆黒の仮面が収められていた。
「……大義のために、この身を闇へ」
いつか、旧世界で掲げた誓いを口ずさみ。
遠藤浩介は、仮面へと手を伸ばした──。
読んでいただき、ありがとうございます。
実は結構アビスゲート卿好きです。