星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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美人女医は男の憧れ

 

 

「貼るぞ。痛いだろうが堪えてくれ」

「はい……っ」

 

 ピタリ、と傷口に貼られたガーゼに突き刺すような痛みを感じ、ヴァネッサは呻く。

 

 出来る限り痛みを感じさせない手つきを意識しながら、浩介は手早く包帯で固定していった。

 

「……お上手ですね」

「これでも医師志望なんだ」

 

 ごく冷静に応える浩介だが、仮面の下でちょっと口角を上げてしまう。

 

 新世界ではとある地域で伝説の暗殺一家なハウリア家の一員であるラナに惚れ、血生臭い世界に生きる彼女の為医療者を目指した。

 

 それは旧世界の記憶を双方取り戻したことでより強く望むようになり、医学の勉強と戦場の医療現場巡りに励んでいる。 

 

 その為、応急手当ての腕もそれなりに様になっていた。

 

 

 

(……不思議な人物ですね)

 

 

 

 顔の見えない、されど真剣だとわかる様子で自分を処置する浩介に、ヴァネッサは目を細める。

 

 拭き取られた血の滲む布や、使い慣れたのがわかる医療キット、そして鮮やかな手際。

 

 まるで言葉通りに、本当に医療者のような技術に少々驚いている。

 

 

 

(こういった技術も、彼……ミスターKの実力、ということでしょうか)

 

 

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、血塗られた一つの名前。

 

 二年ほど前から、警備が厳重な大物を次々暗殺している、経歴・人相共に不明の凄腕の殺し屋。

 

 特定の方法を用いて接触し、報酬額次第であらゆる依頼を請け負う仕事人である。

 

 保安局でも大型ルーキーとして目をつけられており、一時期その暗殺事件の捜査チームにヴァネッサはいた。

 

 そこで接触方法とプロファイリングを知った。

 

 キンバリーが裏切り、仲間が全滅し、本部への連絡もできず襲撃に相次ぐ襲撃。彼女はもうその手札を切るしかなかった。

 

 

 

 

 苦渋の決断だった。

 

 国家の守護者が、殺人者に頼る……この件が収束した後、ヴァネッサの懲戒処分は確実だろう。

 

 だが、あまりに絶望的な現状ではミスターKクラスの実力者でないと対抗できない。

 

 そもそも連絡が取れるか、エミリーが奪取される前に合流できるのか、本当に彼が現れるのか……

 

 そういった数多の不安の果てに掴んだ生存なのだが。

 

 

 

(なんでしょう、この違和感は。彼がミスターKであることは確実なはずなのですが……)

 

 

 

 冷静な態度、隠した顔、訓練されたエージェントであるキンバリーをものともしない実力……ここまで考えると確実だ。

 

 しかし、急所へ二撃、確実に撃ち込んで殺すというプロファイリングと異なり、キンバリー達を殺すことはなく。

 

 これまでの暗殺では銃による殺害であるのに対し、使っているのは弓という古典的な武器。

 

 依頼を受けた際の、隠れて護衛するという返答とも異なっている。

 

 加えて、現れた際のセリフはまるで依頼人がヴァネッサの他にいるような口ぶりだった。

 

 それらの違和感が、目の前にいる覆面の人物がミスターKであるという認識を揺らがせる。

 

 

 

(いえ。ミスターKは変装の名人、これも全て、正体を悟らせない為のものなのでしょう)

 

 

 

 が、結局はその認識に落ち着いた。

 

 ここ半年、本格的に局が調査してもわからなかった人物だ。どんな謎があっても不思議ではない。

 

 姿を見せたことについても、単なる殺人ではなく護衛しながらという条件に、やむなくこのような姿で来たのだろう。

 

 誰にも頼れない孤立無援な現状では、変に突っ込んで機嫌を損ねるのは言語道断だと思い直す。

 

「よし。急所は外れてたし、重要な血管も傷ついてない。弾も綺麗に摘出されてたから大丈夫だ。あとは本格的に治療すれば綺麗に完治するだろう」

「……ありがとうございます」

 

 色々と考えつつも、ヴァネッサは礼を述べると上着を着た。

 

 美人捜査官の素肌に触れていたことに実は緊張していた浩介も、平静を装って片付け始める。

 

「殺す、ミスターK、殺す。なにが凄腕の殺し屋よ。研究者舐めんな。絶対、ぶっ殺す」

 

 衣擦れと片付けの音に、実はずっと部屋に響いていた呪詛が足される。

 

 仮面の下で表情を引き攣らせた浩介は、発生源へと顔を向けた。

 

 三角座りして浩介を恨めしげに見ている、金髪サイドテールの少女……エミリーである。

 

「ごめんって。護衛なんて初めてだから急いでたんだよ」

「うぅ……」

 

 浩介に担がれ、ビルからビルに飛び移りながら護送されたエミリー。

 

 トイレに行こうとした直前、キンバリーに襲撃されたこともあって限界だった彼女は……漏らした。

 

 浩介が纏う黒マントの下から、上着が一枚消えたとだけ言っておこう。

 

「元気を出してください、グラント博士。状況が状況だったのです、仕方がありません」

「ヴァネッサ……」

 

 スーツの袖に腕を通し、着替え終えたヴァネッサが優しく声をかける。

 

 猫のように唸り声を漏らしていたエミリーは、その言葉に少しだけ目元を緩めた。

 

「それに、日本にはこんな言葉があります。〝むしろご褒美だ〟、と」

「ご褒美?」

「ちょっと待てお前」

 

 首を傾げるエミリーに、浩介が制止するよりも早くヴァネッサが語り出す。

 

「グラント博士。貴女は美少女です」

「ふぇっ? あ、ありがと?」

「そして日本人は、美少女相手にならばたとえ罵られようと平手を喰らおうと……そう、おしっこをかけられようと、全て嬉しいこと! 何もかもご褒美になるのです!」

「な、なななななっ!?」

「おい日本人のイメージを著しく損なう発言はやめろ! それは一部の特殊な方々だけだ!」

 

 誤って顔を握り潰さないよう注意しながら、浩介はヴァネッサの口を塞ぐ。

 

 彼は至ってノーマルなのだ。日本人全てがHENTAIだという誤解は断固阻止せねばならない。

 

 たとえ恋人が重度の厨二病であっても、断じてHENTAIではないのだ! 

 

「もがもが」

「あああああんた、わ、私のおし……あれで興奮してたなんてっ! このへんたいっ!」

「してねえよ! 排泄物でハァハァするような領域に達した覚えは一ミリもねえよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、天才故に理解し難い世界のことを聞いて混乱している少女には軽くデコピンした。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくするとヴァネッサも黙ったので、浩介はぐったりしながら医療キットを仕舞う。

 

 背中側に収納するように見せかけて〝異空間〟に放り込む彼を見ながら、ヴァネッサは不思議そうに尋ねた。

 

「それで、ここが貴方の言っていた〝隠れ家〟なのですか? それにしては何もあるようには見えませんが……」

 

 武器はおろか、碌に家具の一つもない廃部屋を見渡して二人とも怪訝な顔をする。

 

 弓の具合を確認しつつ、浩介は彼女達にかぶりを振った。

 

「いや、たまたま空いてて人目がないから使っただけだ」

「では、これから向かうと?」

「そういうことだな……うし、平気か。んじゃ行くぞ」

 

 立ち上がった浩介にエミリーとヴァネッサは顔を見渡せ、ひとまず腰を上げる。

 

 一応警戒しながら浩介は扉を開け、問題ないことを確認すると二人に手招きした。

 

 埃と何かの入り混じった匂いのする路地。マトモな人間ならまず近寄らない場所だ。

 

 そこにあった一室から出た三人は、浩介の先導で移動を始める。

 

「あと13分か……ポイントは…………まあここなら余裕で着くだろ」

 

 端末の画面に表示された、周辺区域のマップを見て浩介は呟く。

 

 地図に従って路地の中を進み、時に右に曲がり、時に左の道へ進んで、ある時は戻る。

 

 ある種不可解な行動を繰り返す浩介に、ヴァネッサ達はやや困惑気味だ。

 

 それでも頼みの綱である以上は着いていくと、ある場所で浩介は急に立ち止まる。

 

「着いた」

「ミスターK?」

「いや、ミスターKじゃないから」

 

 端末に示された時刻が23:59に変わるのを確認し、浩介は目の前の路地へ顔を向ける。

 

 つられてヴァネッサ達もそちらを見るが、夜の闇に包まれた先の見えない通路があるだけ。

 

「いくぞ。俺が0って言ったら踏み出せ」

「は、はい?」

「ど、どういうことなの……?」

 

 目を白黒させながら、二人は浩介の隣に並ぶ。

 

 最後に時刻を見てから、50秒。正確に体内時計を刻んだ浩介は心の中で残りを数える。

 

 

 

(10、9、8、7………………)

 

 

 

「ゼロ」

「「っ」」

 

 彼らは一斉に足を踏み出した。

 

 そして路地の中へと踏み入り──瞬間、ヴァネッサとエミリーは何かを感じ取る。

 

 本能的に、と言うのだろうか。()()()()()()()()()()()()感覚を体で得たのだ。

 

「ん、二人ともいるな。俺に着いてきてくれ」

「は、はい」

「わかったわ」

 

 再び移動を開始する。

 

 しばらく、異常なほどに静かな通路の中を進み続けた。

 

 不安げに視線を右往左往させるエミリーを見守りながら、ヴァネッサはふと気がつく。

 

 

 

(……彼が、私達に歩幅を合わせてくれている?)

 

 

 

 それは小柄なエミリーの為か、それとも負傷している自分を慮ってのものか。

 

 先程までは時間が差し迫っていた為に急足だったものが、二人に合わせてゆっくりと歩いていた。

 

 極悪非道な殺し屋らしからぬ配慮に、少しだけヴァネッサの中の疑問が大きくなった。

 

「えーと……お、あった」

「ひゃっ! ちょ、いきなり立ち止まって何なのよ?」

「これは……花?」

 

 左右に分かれている突き当たり、その壁にはめ込むように置かれた花瓶。

 

 ひっそりと咲く薄桃色のシンビジウムは、行く道を示すように右側へ傾いていた。

 

「こっちだ」

「ま、待ちなさいよ!」

「……」

 

 迷いなく右へ行った浩介を、二人は慌てて追いかける。

 

 

 

 

 その後、進む道の先々に花が現れた。

 

 二つ目の花瓶に咲いていたのはフリージア。風もないのに揺らめくそれを見て、浩介は通路を選んだ。

 

 三つ目はチューリップ。次は桜の枝花。鈴蘭。薔薇、百合、向日葵……道標だと、ヴァネッサは気がつく。

 

 その数が十を超え、二人が疲れてきた頃、ついに最後の花を浩介が見つける。

 

「それは、ポインセチア……」

「綺麗な花ね」

「これで十二。迷路はクリアだ」

 

 花瓶から一輪のポインセチアを浩介が取り、一堂は進む。

 

 程なくして、ずっと不自然なほど暗かった通路の先に光が見えてきた。

 

 近づいて行くにつれ、それが通路の先にある〝その建物〟の看板であることがわかる。

 

「これ、は…………」

「天文、台……?」

「治療所でもあるけどな」

 

 うっすらと霧の立ち込める、壁に囲まれた建物。

 

 薄暗い緑に染められたその塔の上部は円形に丸まっており、仄かに光を発している。

 

 こんな場所を全く知らなかった二人が呆然と見上げる中、浩介は入り口の扉に歩み寄る。

 

 そこには、空の花瓶が一つ置かれていた。

 

「〝誕生は破壊と再生の導なり〟」

 

 合言葉を唱え、浩介はポインセチアをそこに納める。

 

 

 

(うわーっ、これ毎回言うの超恥ずかしっ!)

 

 

 

 立ち上がり、待つこと数秒。

 

 ギィ、と重厚な音を立て、両開きの扉が内側から開けられた。

 

「おや。滅多に怪我をしない君が、勉強以外にここへ来るとは珍しい」

 

 中から顔を出した人物に、ヴァネッサ達が息を呑む。

 

 まるで、神が作ったかのように完璧な美貌だった。

 

 雑に纏めた緑っぽい銀髪の、垂れ下がった前髪の間から覗く眠たげな瞳にゾクリとする。

 

 形の良い唇の左下にあるホクロが色気を増していて、大人びた体付きは自然と喉を鳴らしてしまいそうな魅力がある。

 

 特にやや空いた胸元は、誰がとは言わないがかなり敗北感を感じさせるほどだ。

 

「リュールさん、悪い。一人診てほしいやつがいるんだ」

「ふぅん……」

 

 ゆっくりと、彼女の視線がヴァネッサらへ向く。

 

 エミリーはすぐに視線から外された。どこも目立った怪我を負っていないからだろう。

 

 じっとり全身を見回すような視線に、美しすぎる容姿も相まってヴァネッサは体を硬直させる。

 

「……なるほど。応急処置は済ませてあるようだ」

「っ!」

 

 

 

(一目でそこまで……!)

 

 

 

 ヴァネッサの状態を把握した女は、浩介へ楽しげな微笑を向ける。

 

「腕が良くなってきたね。教えた甲斐がある」

「そりゃ、地球上のどんな人間よりも知識と実力に優れた使徒に教わってたらな」

「ふふ。ああ、そこのお二人」

「は、はいっ」

「……なんでしょうか」

「自己紹介が遅れたね。私はここの所長のリュール。〝魅緑の四(ウォッチャー)〟とでも呼んでくれたまえ」

「「はあ……」」

「彼の紹介というのなら是非もない。中へ入ってくれ、治療しよう」

 

 花瓶を手に取ると、リュールは白衣の裾を翻して中へ戻った。

 

「まあ、怪しい感じだけど信用はできるから」

 

 立ち尽くしている二人に言い、浩介は促す。

 

 困惑を隠しきれないながらも、二人は顔を見合わせると治療所に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 中の内装は至って普通だった。

 

 やや古風な、まるで19世紀のそれを彷彿とさせるようだったが、特に不気味ではない。

 

 珍しげに壁や椅子を見る二人を懐かしげな目で見つつ、浩介は装備を外してそこらに置く。

 

「珍しいかい?」

 

 突然聞こえてきた声に、ヴァネッサとエミリーが振り返る。

 

 診察室らしき場所から出てきたリュールは、そんな彼女達にクスクスと笑った。

 

「私の趣味でね。もっとも、本格的な医療活動は部下(同胞)達に任せて、私は〝観測〟ばかりしているから、最初に開いた治療所(ここ)自体がもはや趣味で続けているだけなのだが」

「は、はぁ……」

「替えの服を持ってきたよ。ああ、そちらのお嬢さんには下着も必要だろう?」

「んにゃっ!?」

 

 咄嗟にスカートを押さえるエミリー。替えがなかったので、染み込んだままである。

 

「奥にシャワーがあるから、ついでに入ってくるといい。貴女は診察室へ」

「はい」

「う、うぅ……お言葉に甘えさせてもらいます……」

 

 差し出された服を受け取ると、エミリーは真っ赤な顔で廊下の奥にすっ飛んでいった。

 

 ヴァネッサは浩介に付き添われ、リュールに導かれて診察室へと招待される。

 

「じゃあ俺は外で待ってるから」

「はい。色々とありがとうございます、ミスターK」

「……おう」

 

 後で誤解を解けばいいや、と出かけた言葉を飲み込み、浩介は扉を閉じる。

 

 と、締め切る直前にリュールへ向けて言葉を投げかけた。

 

「リュールさん。()()()()()()()()()

「……ふむ? それは()()()ということかい?」

「一応、そのつもりだ。ボスの依頼にはちゃんと従う」

「……分かった。〝共有〟はしておこう」

「あざっす」

 

 何やら意味深なやりとりを交わし、今度こそ浩介が扉を閉めた。

 

 それを見届けたヴァネッサは踵を返し、自分を見るリュールに視線を合わせる。

 

「では座って脱いでくれたまえ。患部を見てみよう」

「お願いします」

 

 差し出された椅子に腰を下ろし、スーツを脱ぎ始める。

 

 露わになった体を見たリュールは、ほうと興味深げに眺めた。

 

「やはり良い腕だ。これならあとは知識の問題だな」

「……先ほどから聞いていれば、ミスターKに医療技術を教えているのは貴女なのですか?」

「ああ。とはいえ、私も知識をインプットし、世界中にいる部下(同胞)の積んだ経験を共有しているに過ぎないのだが」

「?」

 

 首を傾げるヴァネッサへリュールは「まあ気にしないでくれ」と笑う。

 

 それから彼女は、デスクの上に置いていた上品なデザインの眼鏡をかけた。

 

 そして浩介よりもさらに手際良く包帯とガーゼを外すと、傷口を観察する。

 

「ふむ、9ミリ弾か。肋骨にヒビは無し。臓器も問題がない。抉れたのは肉だけか。君は幸運であり、また優れた戦士のようだね」

「……そんなことまでわかるのですか?」

「まあね。ふむ、これであれば補強などは要らないだろう。縫っても逆に肉が歪んでしまう。なので……」

 

 立ち上がり、リュールは壁際に設置された薬品の棚を開ける。

 

 しばらく探っていたが、やがて二つの瓶や道具を手にヴァネッサの前に戻ってきた。

 

「腕を上げてくれ」

「はい」

 

 リュールが手袋を装着し、清潔な布で再び傷口を消毒。

 

 そうするとデスクに置いた瓶の一方を開ける。

 

 中身は液体状の薬品。それを器具と綿を使ってヴァネッサの傷に塗り込んだ。

 

 液体の冷たさと傷から体に走る痛みに、ヴァネッサが少し眉根を寄せた。

 

「これは?」

「軟膏のようなもの。細胞の再生を早め、失った肉を元に戻すのを促進する。いわゆる門外不出のってやつさ」

 

 なるほど、と納得するヴァネッサ。

 

 彼女が知る由はないが、その薬品は告げた通りの効果がある成分と魔法を混ぜたものだ。

 

 

 

 

 〝魅緑の四(ウォッチャー)〟 リュール。

 

 最も再生魔法に適合した彼女の作る薬には魔力が込められており、魔法の物質化に成功している。

 

 一応、一般人にも使うものなので違和感のない程度に効能は抑えているが、それでも十分な力がある。

 

 その効能は薬によって異なるが、全てが物作りの鬼であるハジメでさえも唸る一級品だ。

 

「よし。これで処置は完了だ」

「ありがとうございます」

 

 極力ストレスを感じさせず薬を塗り終え、専用の湿布で閉じる。

 

 ひんやりとした感覚が包み込まれた不思議な感覚を覚えつつ、ヴァネッサは礼を言った。

 

「安静にしていれば、二、三日で痕も残らず治るが……どうやら君達の事情を察するに、そうはできないようだね」

「はい。ここで退くわけにはいきません。ミスターKの協力も得られたことですし、必ずグラント博士を安全な場所まで送り届けなければ」

(ミスターK、ね……ふふ。面白いことになっているようだ)

 

 服を着たヴァネッサに、リュールはもう一方の瓶の中からいくつか錠剤を取り出した。

 

 それを小さなケースに収めると、ヴァネッサに向けて差し出す。

 

「鎮痛剤。一度飲んだら、6時間は空けてから次を飲みなさい」

「何から何まで、申し訳ありません」

「いや何。彼が()()()と言ったからね。私にできる支援はしてあげよう」

 

 にこりと笑う顔さえも、どこか色気がある。

 

 同性であり、常に冷静沈着なヴァネッサでさえも少しだけ心臓が跳ねた。

 

 

 

(……本当に、ミスターKは謎だらけです)

 

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます。

イメージは某フロムゲーの診療所を想像していただければ。
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