まだこの作品を楽しんでいらっしゃるお方は、またどうぞよろしく。
では、楽しんでいただけると嬉しいです。
深夜、外の世界も夜の闇に包まれる時。
病室の扉が、小さな音を立てて内側から開いた。
顔を出したのは、悪戯猫のような吊り目が特徴的な可愛らしい少女。
そう、エミリーだ。髪を下ろしたパジャマ姿の彼女は、キョロキョロと真っ暗な廊下を見る。
「…………」
少し不安げにしたエミリーは、後ろを見た。
自分が寝ていたベッドの隣、そこに眠っているのはヴァネッサ。
普段の怜悧な美貌と変わらず、美しい表情で寝息を立てる彼女はまるで眠り姫かのよう。
「むにゃむにゃ……五点着地は足先から…………」
そんな寝言を呟いて、刃◯の漫画を抱いてさえいなければ。
途端に白けた目になったエミリーは、そくささと隙間から外に出るとドアを閉めた。
「……えっと、確かトイレはあっちよね」
少し思い出すために唸ると、エミリーは歩き出す。
彼女がこんな時間に起き出した理由は、案の定というべきか尿意を催したからである。
事の次第を説明する際に最も多く話し、色々と絞り出した彼女は結構な量の水を飲んでいた。
そして現在、それが夢の淵から引っ張り上げられる要因となった。
「あ、あったわ」
特に明かりなどは無いため、壁に手をついて進んでいたエミリーはトイレを見つけた。
ノブを捻ると無事に開き、ホッとして彼女は中に入る。
数分後、個室から水が流れる音が響いた。
間を置かず、エミリーが出てきてほっとやり切ったような表情を浮かべる。
無事にミッションを達成した彼女は、元来た道を戻ろうとして……ふと視線を止める。
「…………?」
彼女が見ているのは、窓。
廊下の向こうにある両開きの窓の片方が、なんの偶然か開いて揺れていた。
なんとなくそれが気になったエミリーは、そちらまで歩いていくと外に顔を出す。
「……街が見えないわ」
濃い霧が立ち込め、まるで異界であるかのように何も無い建物の外側。
自分達がやってきた道さえもどこだか分からず、諦めて彼女は他の場所を見る。
それはつまり左右や上下だが、ふと上の方を見た時にまた視線をとどめた。
(何か……光ってる?)
治療所の上、天文台のようになっている場所から光が発せられている。
しばらくそれに目を奪われて、どうにも気になったエミリーは中に引っ込むとすぐ上階に行った。
一つ、また一つと階段を使い階層を重ね、ついには最上階である七階にまで登ってきてしまう。
「……これだけ?」
そこにはたった一つの扉しかなかった。
人が二人並べるか否かという広さの空間にぽつねんと存在するそれ。
薄暗さも相まって、不気味に思えてきたエミリーだが、彼女は研究者。ましてや思春期ともなれば好奇心の塊だ。
知りたいという欲求に逆らえず、慎重な手つきでノブに触れる。
小指から一本ずつ、しっかりとそれを握りしめ、まるで何かに操られているように開き──
巨大な〝瞳と脳〟を見た。
「ひぅ……」
思わず、変な声を漏らす。
仕方がないだろう。無数の光が輝くドームの中心に、水晶状の硬質な脳と虹色の瞳があるのだから。
それはまるで星空、否、銀河のような煌めきだった。
毎秒位置を変え、点滅し、消えて、あるいは生まれる、無数の光が渦巻く大河。
それらを全てを観測するように、瞳は忙しなく動いている。
その下には何故か、望遠鏡と椅子が一つあった。
「何よ……あれ……」
「──何をしているのかな?」
その時、誰かが背後から話しかけてきた。
ビックン! と体を跳ねさせるエミリー。
ゆっくりと、視線を下ろして自分の肩を見る。そこには闇から突き出してきた白い手があった。
深夜に一人、得体の知れない治療所、そしてクトゥ◯フに出てきそうな奇形のオブジェ。
まさか、宇宙からのお迎えが……そんなことを考えながら、震えるエミリーは振り返って。
「こんな時間に、不用心じゃないか。迷ったのかい?」
そこにいたのは、心配そうに眉を下げる美貌の女医だった。
「リュール、さん?」
「おや、覚えてくれていたようで何より。どうしてこんなところに?」
「あ、その……トイレに行ってて、途中で何か光っているのに気がついて」
「なるほど。そういえば〝
開きかけた扉を一瞥したリュールは、柔和な笑みを作ってみせる。
そして何かされちゃうのかしら、と震えるエミリーに優しげな声で「部屋まで付き添おう」と告げた。
エミリーとしても、この場所から離れたいし、怒られたくはなかったので素直に頷いた。
元来た道を、今度は二人で降りていく。
リュールが手に持つ蝋燭が、今度は少しだけ周りを照らしていることで、恐怖は和らいだ。
「……その、ごめんなさい。勝手に見てしまって」
「いいさ。見られたとて理解できるものではない」
「どういうこと?」
「何。生物には限界があるという話さ」
君達人間の脳では、いくら優れていても〝未来観測〟に耐えられないようにね。
内心付け加えたリュールの内心も知らず、エミリーは教える気がないのだろうと思い直す。
「それはさておき。彼に事情は話せたのかい?」
「……ええ。明日答えを聞かせてくれるって」
「そうか、ならば待つしかないな」
コツ、コツ、コツ。
足音と会話が混じり合い、おかしな協奏を作り出す。
チグハグなのに何故だか心地よくて、エミリーは不思議な気分になった。
だからか、少しの間だけ口を噤んでしまう。
「不安かい?」
ふわふわとした気分を言い当てるように、リュールから問われた。
ハッとしたエミリーは、その動揺を悟られまいとするように少しだけ俯く。
「大丈夫。彼はきっと君達を助けてくれるよ」
「……どうしてそう言い切れるの?」
「あえて言うならば、君達より少しだけ長く彼を知っているから、かな」
揶揄うように肩を揺らすリュールに、エミリーは顔に影を落とした。
リュールはそれを見抜いたようなタイミングで立ち止まる。ぶつかりかけて、慌ててエミリーは止まった。
そして緑銀の後頭部を見上げると、振り返ったリュールは……
「安心なさい」
「あ……」
「君の未来は苦難と悲しみに満ちているが、しかし最後には幸せを得る。誠心誠意、彼に向き合えばね」
「誠心、誠意……」
「実は占いが得意でね、外れた試しがない。その私が保証しよう」
まあ、努力次第だがね、と。
そう言って、頭を撫でる優しい手つきは……亡くした姉を思い出させた。
それほど長く撫でず、踵を返したリュールは再び歩き出した。
その後ろ姿をぼんやりと見ていたエミリーは我に返り、慌てて追いかけていくのだった。
●◯●
翌朝。
俺も二人も、ぐっすり眠って十分に回復した。
リュールさんが簡単な食事を出してくれたのでありがたく頂戴し、それを終えると早速話を切り出す。
「で、昨日の話なんだが」
食後のコーヒーを楽しんでいた二人は、すぐに反応してこちらを見た。
その目には期待と不安がないまぜになっている。
「いろいろ考えた。この件に関わることでのメリット、デメリット。あんたらに力を貸していいのか、悪いのか」
「…………それで、結論は?」
恐る恐る、グラント博士が聞いてくる。
疑問形ではあったが、もし断られたらという恐れを多分に含んだ声色だった。
そんな彼女を元気付ける、というわけでもないが、俺は声を大きく宣言する。
「力になるよ」
「っ、それって!」
「この複雑な事件が収束するまで、あんたらの味方でいることを誓う」
「……そうですか。感謝します」
喜色を顔に浮かべる博士と、冷静な受け答えをしながらも安堵する雰囲気のパラディ捜査官。
彼女としても、孤立無援の状態で誰かの手を借りられるか否かというのは生命線なのだろう。
俺の中に残る、普通の人としての良心が少しだけ和らいだ。
「それで。まずは何から始める?」
「……何よりも確かめるべきは、本部の状況です。局長の真意を、探る必要があります」
「わかった」
彼女をこの場にいさせる意味。国家保安局のトップ、か。
もし〝クロ〟だとすれば、本部の中でまだそちら側ではない、信用できる誰かを頼ろうという算段だろう。
その場合、今回の依頼における俺の駒としての役割は、局長とやらへの抑止力になる。
逆に〝シロ〟でも、俺は保安局とうちの組織の橋渡し役になれる。なんにせよ好都合だ。
「誰が敵で味方なのか。それを見極めるために私は動きます。ミスターKにはその間、グラント博士の保護を頼みたく……」
む、そうきたか。
未だに勘違いされてるが、俺はミスターKじゃないのでただ隠れていてもネームバリューによる影響力はない。
力を示すという点で言えば、彼女と一緒に行動する方が効率が良いが……
「保護なんて、私は求めてないわ」
「博士?」
驚いてパラディ捜査官と二人、彼女へ視線を移す。
すると、昨日よりもよほど強い光を宿した瞳で、彼女は俺達を見返してきた。
「【ベルセルク】は、私が生み出してしまったもの。この世に存在してはいけなかったもの。だから、私自身がケリをつけなくちゃいけないの」
「それは……」
「守れたまま、何も知らずに全てが終わってしまうなんて冗談じゃない。だからお願いヴァネッサ、私を連れて行って。【ベルセルク】を撒き散らした犯人が誰なのか、今何が起こっているのか……私は、自分の目で見たいの」
「しかし博士、あなたの身に何かあっては……」
「……そう心配されるのも無理はないわ。確かに私は足手まといだろうけれど。でも、同時に盾にもなるわよ? だって【ベルセルク】を改良するにしろ対抗薬を作るにしろ、私がいなくちゃならないんだから」
名案でしょ、と言いたげに胸を張る博士にパラディ捜査官が頭を抱えた。
とんでもない暴論かましてきたもんだ。
多少筋が通っちゃいるが、彼女を保護するというパラディ捜査官と俺の目的に矛盾してる。
それに、キンバリーや裏にいる組織が〝手足の一本や二本は〟と決断する可能性もある。
〝絶対〟はこの世に存在しない。それはうちのボスだって例外じゃないのだ。
パラディ捜査官はどう説得するかという顔で、とてもぬ悩ましげにしているが……
俺には、こっちの方がちょうど良いんだよな。
「グラント博士」
「何? あなたも大人しくしてろって言うなら、私は断固──」
「一つ約束しろ。それを守れるなら連れて行ってもいい」
「ミスターK!? 何を言ってるのです!?」
「だってこいつ、ここで押さえつけても一人で勝手に暴走するぞ。それなら目の届く場所にいる方がまだマシだ」
でも、と反論しようとしたパラディ捜査官は、しかしうまく言い返せなかったのだろう。
存在を感知している状況と、何が起こるか分からない状況。秤にかければ前者の方がまだいい。
頭の切れるこの人は、そのくらい簡単に理解できているだろう。
変に頑固になられる前に、俺はグラント博士に向き直る。
「それで? 守れるか?」
「…………内容によるわ」
「そうか。じゃあ……」
ぐっと、両手をテーブルについて立ち上がる。
そうして彼女の方へ身を乗り出すと、グラント博士は吊り上がらせていた目を丸くした。
いきなり近づかれたことによる恐怖と緊張。それを感じ取りながらも、言葉を告げる。
「俺のそばからひと時も離れるな」
「なぁっ!?」
「貴女が隣にいる限りは、俺の全力を賭して守ろう。下手に突っ走らず、尻込みもせず付いてくる。この約束をしてくれるなら、俺は貴女を連れていく」
顔を真っ赤にして、グラント博士はしばらくぽかんとしていた。
パラディ捜査官からグサグサ視線が突き刺さる。こうした方が効果的ってボスに教わったんだよ。
時間が経つうちにちょっと恥ずかしくなり始めていると、徐々に彼女は目つきを元に戻す。
そうすると、俺に真剣な目を向けてきた。
「わかったわ。私を、連れていって」
「いい返事だ」
身を引いて椅子に腰を下ろす。ふう、ムズムズした。
少し時間を置いてから、こちらを見ているパラディ捜査官に話しかける。
「そういうことだ。俺としてはこっちの方が確実だと思うけどな」
「……そう、ですね。一人残したグラント博士が予測できない行動をしても、そちらの方が危険かもしれません」
納得してくれたようだ。危うく無駄に話し合う時間が増えることになった。
それと、効率や都合抜きに、グラント博士の〝目〟にどうにも心を揺らされた。
以前、南雲にこう言われた。〝少しでもあいつの裏に関われてたお前が羨ましい〟と。
随分酔ってた時のセリフだが……あの、自分だけが何もできず、蚊帳の外だったという目。
辛そうで、寂しそうで、悔しげなあの目は、見ているのも向けられるのもキツいのだ。
「さて。それでは早速動きましょう、時間が惜しいです」
「そうね。善は急げって、日本では言うんでしょ?」
「だな」
全員立ち上がる。
と、そういえば。
「一つ忘れてた」
「? ミスターK、まだ何か言うことが?」
「ああ。ここまでガッツリ介入するなら、そろそろ顔見せくらいしとかないとって思ってさ」
そう言うと、何やら二人はすごく驚いたようだった。
少し不思議に思ったが、まあミスターK関連だろうとスルーして仮面を外す。
出会ってからずっと隠していた俺の顔を見て、彼女達は息を呑んだ。
「俺は遠藤浩介。世界一おっかない蛇の牙、その一本だ。改めてよろしくな」
●◯●
早朝、キンキンと冷えた空気が立ち込める中。
ようやく朝日が登り始める時、我々は凄まじいスピードで移動していた。
といっても、私が車を運転しているのではありません。ホテル付近に置いてきてしまいましたからね。
あの妖艶な女医に見送られ、街に戻った私達が移動に使っているのは……
「二人とも、向かい風とか平気かー?」
「ええ。むしろ気持ちいいくらいよ!」
「快適です」
「そりゃよかったー」
間延びした声で、彼……バイクを運転するミスターKは我々は応える。
黒塗りのボンネビルT100。そのサイドカーに、私とグラント博士は乗り込んでいた。
頬を切る冷風に髪を抑えながら、私はミスターKの横顔をちらりと盗み見る。
遠藤浩介。彼は我々に対してそう名乗った。
ミスターKとは、
その正体は、二十代半ばほどの日本人。
半年我々が追ってもわからなかったその素顔を、まさか自ら明かすとは思いませんでした。
顔立ちは特別整っているわけではないですが、不思議と鋭い雰囲気があります。
上のヘルメットからブーツに至るまで全て黒に包み込んだ体は、細くも非常に鍛えられていて。
薄々抱いていた、彼がミスターKではないという疑念は完全に晴れました。
「てか、蛇の牙の一本て……やっぱりちょくちょく出るよなぁ…………これ、本格的に戦う状況になったら絶対出るよなぁ……」
ただ、何やら落ち込んで呟いている様子を見ると、冷酷非道という認識は改めねばなりません。
我々の話にも真剣に耳を傾け、その上で改めて協力を申し出てくれましたし、極悪人というわけではないのでしょう。
逆に、その年齢であれほどの功績を挙げる腕の背景を知りたいところですが……
「んで、パラディ捜査官」
「ヴァネッサ、とお呼びください」
「え? いいの?」
「はい。そちらの方が呼びやすいと思いますので」
「じゃあ、ヴァネッサさんで。道はこっちでいいんだよな?」
「はい、合っています」
今後活動するにあたって、色々と準備をする必要がある。
現在、その為に隠れ家へと向かってもらっている最中でした。
自然と彼のことを見てしまいつつ、時折指示をして道を曲がってもらう。
やがて、目的の裏路地までたどり着いたところでバイクは止まりました。
サイドカーを降りて、ヘルメットを脱ぐと頭を振って潰れた髪を戻す。
「ありがとうございました、ミスターK」
「……俺、ちゃんと本名言ったよね? それは意地かなんかなの?」
「大丈夫です、わかっていますよ」
「何が?」
ええ、私はわかっていますとも。
日本人はシャイだとよく聞きます。ミスターKと呼ばれるのが恥ずかしいのでしょう。
「そうよヴァネッサ。せっかく名前を教えてくれたんだから。きちんと、こ、ここ、こうすけって呼んであげましょうよ」
おや。グラント博士の顔が赤いですね。
彼女も年頃の少女。これは話し合いの時のアレで意識し始めましたかね?
「はぁ、もういいや……で、ここが?」
「ええ。こちらです」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
お二人を連れ、路地の中を進む。
決まった道順を辿り、隠れ家にたどり着くと入り口の横に体を寄せた。
警戒しつつ鍵を解き、扉を開けて中を覗く。
中に人の気配はない。お二人に目配せをすると完全に開けて中へと踏み入った。
皆えた革張りのソファーやテーブル。使い込まれたそれらを見て、次に他の部屋を見てくる。
バスルームやトイレ、他の部屋にも人の姿はなく、私は少し警戒を解いてリビングへ戻った。
「どうやら友人は留守のようです。家にいることの方が少ないので、そんな気はしていましたが」
「お友達の家? 現場の保安局員が、暗黙の了解で作ってるっていう隠れ家じゃないの?」
先にお話しした、我々の秘密を口にして首をかしげるグラント博士。
「友人とシェアしていまして。彼女はフリーのカメラマンで、あちこちに常に飛び回っていますから、維持管理の面でそちらの方が好都合だったのです」
「ふ〜ん」
「……なるほど。ヴァネッサさんの変な日本知識はその人のせいか」
おや、ミスターKがテーブルの上の雑誌を見ています。
そこにあるのは、日本のアニメや漫画情報などを掲載した代物。
他にも布がかけられた棚には、ジャパニーズコミックやラノベ、アニメDVDなどがあります。
「ミスターKは日本人ですし、やはり気になりますか。ちなみにそちらの棚三つは私のものです」
「あんたもかなり毒されてんな……」
呆れつつ、彼は棚に近寄ろうとしていたグラント博士の襟首を掴んだ。
強制的に足を止めざるを得なくなった彼女は、不思議そうにミスターKを見る。
「こうすけ、何?」
「エミリー、その本棚はやめとけ。多分見ると恥ずかしいことになる」
「?」
「おや、よく分かりましたね」
確かに、グラント博士が見ようとしていた棚はいわゆるR-18な同人を集めた棚です。
グラント博士はなんとなく想像がついたのか、顔を赤くました。名前呼びされたこともありますね。
見てもいないのに言い当てたことに感心していると、彼は肩をすくめました。
「他の棚に比べて、歪みが少ないからな。となると軽い部類のものが入ってる。んで一番奥って位置を考えると、もしかしたらってさ」
「流石はミスターK。その慧眼、恐れ入ります」
頼もしげに微笑みかけると、彼は微妙そうな顔をした。
ミスターK、と呼ぶと決まって同じ顔をすることが、仮面が無いので理解できている。
本当に呼ばれるのが嫌なのですね、と少し後悔しつつ、私は一つの棚の布を取り払った。
そこにも例に漏れずさまざまな書物が収められており、私はある一冊に指をかけた。
「…………」
「……?」
チラ、と後ろを見る。
ミスターKとグラント博士が不思議そうにこちらを見ているのを確認して、私は手を引く。
『チュパカブラ大全』がこちらに引き出され、カチリと音が鳴った。
すると本棚自体がこちらにスライドし、一回転すると裏にあった銃火器が顔を見せた。
「隠し本棚? また無駄に本格的な……」
「な、何これ……」
「ふふ、驚いていますね? ですがまだです、まだ終わりませんよ」
得意げな顔をしつつ部屋の中を移動し、ベッド脇の電気スタンドの傘をクイッと捻る。
するとベッド後部が跳ね上がり、そこからまた別の武器が晒された。
「どうです? 休日のほとんどを費やし、夏と冬の特別手当を投げ打って作り上げた我が隠し武器庫は」
「なんてこった……。ヴァネッサさん、あんた、相当できるな」
天井を仰ぎ見たミスターKがニヤリと、初めて楽しそうに笑いました。
やはり日本人にはこのセンスがわかるようです。彼に歩み寄り、ガッシリ握手を交わします。
少し距離が縮まった実感を覚えつつも、私は早速荷物を纏めていきます。
「…………(チラチラ、そわそわ)」
「エミリー。思春期なのはわかるけど、やめとこうな」
「にゃっ、にゃにをっ!? わ、わたしはただ、ジャパニーズ文化が気になってるだけで、違うからね!?」
「いやほら、日本には知らなくていい文化ってのもあるから」
リュックに選別した武器を入れているうちに、ふと気になって後ろに振り返る。
「そういえば、ミスターK。貴方の方は大丈夫なのですか? 弓矢では何かと不便かと思われますが……なんでしたら、私のコレクションを使いますか?」
「んにゃ。俺の方はこのあと寄るから平気だ……てか、銃持ってても仕方がないし」
「? そうですか」
この程度は弓矢で十分、ということでしょうか。相当な自信ですね。
……これは後から聞いた話ですが、そもそも彼は銃を使えなかったそうです。
前に撃とうとしたらトラウマレベルで酷い目にあった、と非常に苦い顔で語りました。
それでも仕事の際手段は多い方がいいと、苦肉の策で弓矢を習熟したのだとか。
まだまだ、私は彼のことを知らなかったのです。
中二すぎるネーミングがボロボロボロ。
読んでいただき、ありがとうございます。