星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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厨二注意!


楽しんでいただけると嬉しいです。


永焔の竈門

 

 ヴァネッサさんの用意を済ませた後、今度は俺の〝武器庫〟へ向かった。

 

 

 

 この一年、世界中仕事を共にした相棒を駆り、まだ人の少ない道を独走する。

 

 風が体を撫で、突き進む感覚が心地良い。

 

 異世界で南雲がバイクを愛用した気持ちが、今の俺にはよくわかる。

 

 なお道筋は、ハンドルの真ん中にセットした端末に表示されたものに従っていた。

 

「こうすけ、貴方の隠れ家はまだ遠いのー?」

「さあ、なんとも言えねー」

 

 存在の秘匿とボスの趣味によって、ホテル然り治療所然り、今の目的地も毎度入口が違う。

 

 その為、利用を申し出て送られてくる座標にまで赴くしかない。

 

 大概は現在位置から近い場所に出してくれるけど。

 

「まあ、残り三分の一ってところだ。もう少し待ってくれ……そこの捜査官の持ってきたコミックでも読んで」

「……私、あんまり日本語読めないんだけど」

「ご安心ください、英訳版です」

 

 キランとドヤ顔するヴァネッサさん。

 

 この女、バイブルとして日本の漫画をスーツやリュックに詰め込んできた。

 

 ドスを雑誌で防ぐ戦法じゃねえけど、どうかと思う。エミリーも追いかけ回してたし。

 

「遠慮しとくわ」

「残念です」

 

 すごすごとリュックにコミックを戻した。なんだろうこの残念感。

 

「で、準備が整ったらまずはエミリーの両親を保護、その後で本格的に調査って流れでいいんだな?」

「はい、その通りです。彼らは確実にウィークポイントになりますから」

 

 マフラーからの音に負けないよう、声を大きく会話をする。

 

 都心から遠く離れた街に住むエミリーの家族。謎の組織にせよ保安局にせよ、彼らの身を確保しない理由はない。

 

 車でも半日の距離って話だ。特別製のこのバイクでもそれなりに時間を要するだろう。

 

「ちょっとスピード上げるぞ!」

 

 ハンドルを回し、俺は相棒を加速させた。

 

 

 

 

 しばらく移動し、マップのポイントまでの距離は狭まっていく。

 

 十分ほどで到着したのでバイクを停止させ、エンジンを切った。

 

「着いたぞ」

「え……?」

「ここ、ですか?」

 

 バイクを降りた二人は、俺の見る方向を向いて懸念な顔をする。

 

 そりゃそうだろう。

 

 だって俺達の前にあるのは、なんの変哲もない、ちょっとオシャレめなテーラーなのだから。

 

 困惑する二人を引き連れて中に入れば、扉に備え付けられたベルが鳴って来客を知らせる。

 

 二人が興味深そうに店内を観察している間に、女性店員がやってきた。

 

「お待ちしておりました。本日は新しく誂えると伺いましたが……」

 

 ヴァネッサさんとエミリーを一瞥した彼女に、俺は頷く。

 

「ああ。ツーピースのダブルで、色はブラック……それと、()()()()()()()()()()()()()()()()

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を下げた店員は、こちらへと手で試着室を示す。

 

 二人を促して彼女の先導について行く。

 

 開かれた扉の中には大きな全身鏡と、壁には服をかけておくフック、荷物を入れる小箱。

 

「用意してきますので、お待ちください」

「ありがとう」

 

 軽くお辞儀をし、店員は扉を閉めた。

 

 後には俺達三人が残される。部屋はかなり広いので窮屈さはない。

 

 突然放り出されたことにエミリーは不安げにし、ヴァネッサさんも目を細めて壁や天井を見る。

 

 俺はただ、じっと待った。

 

 

 

 

 

 二十秒も経過したろうか。

 

 突如、甲高い音を立て、鏡面に水の波紋のようなものが現れた。

 

 咄嗟にヴァネッサがエミリーを背中に庇い、そうしているうちに鏡は赤く変色する。

 

 波紋が落ち着くと、そこには炎の門かと見紛う真っ赤な〝境界〟があった。

 

「これは……!?」

「なに!? なんなの!?」

「行くぞー」

 

 躊躇なくその境界へ足を踏み出す。

 

 静止する動きを見せていたヴァネッサが、飲み込まれるように鏡へ入った俺に息を呑むのが聞こえた。

 

 一種のゲートとなっている鏡を越えると、目の前には古めかしい作りのドアが一つ。

 

 目で見て確かめると後ろに振り返り、二人が鏡を超えてくるまで待った。

 

 しばらくして、恐る恐る踏み込んできたヴァネッサと、その腕にがっしりと掴まったエミリーがやってくる。

 

 二人はこちら側に別の世界があるのを見て、心底驚いた顔をした。

 

「不思議初体験、だな」

「ミスターK……貴方は、いったい……」

 

 呆然としているヴァネッサへふっと香ばしく笑い、俺は前を向いて扉をノックする。

 

 返事を待たず、というか返ってきた試しがないのでノブに手をかけ、奥へ押し開き──

 

 

 

 

 

「ヒャッハァー! 死にやがれ!」

 

 

 

 

 

 直後、ズドンッ! と喧しい音を立ててなんか飛んできた。

 

 反射的に体が動き出す。一瞬で腰の後ろに手を回し、逆手にブラックナイフを引き抜いた。

 

「ふっ!」

 

 正確に見定め、その物体を一撃で断ち切る。

 

 が、直前に物体は軌道を変えた。まるで自分からそうしたように俺の後ろを取る。

 

 すぐさま対応し、実はもう一本背中に仕込んでいたナイフを抜いて投擲。

 

 するとまたもスレスレで下にズレ、更には加速して突っ込んできた。

 

「狂人憑依、〝山の翁(ハサン)〟」

 

 伝説の教団の暗殺者をここに。

 

 軽くなった片足で地面を蹴り、空中で逆さになりながら回転してナイフを薙ぎ払う。

 

 今度こそ物体は真っ二つになり、左右に分かれて部屋の中に飛んでった。

 

 着地と同時、小爆発音。何か壊れたなこれ。

 

「ハッハァ! 流石は〝影淵の牙(アビス)〟! こいつをあっさり斬るとはやるじゃねえか!」

 

 部屋の奥から声が聞こえた。

 

 我ながら気だるい顔になりつつ振り返ると、下手人がショットガンのような武器を下ろす。

 

 近くにあった椅子に振り上げた細足を叩きつけるように乗せ、そこに肘をつき。

 

 赤みがかった短い銀髪を揺らして、あえて未成熟にした美貌に獣のような笑みを浮かべるのだ。

 

「てめぇ、毎度俺で新しい武器の実験すんのやめやがれ! 付き合わされるこっちの身の安全を考慮してくれませんかねぇ!?」

「あん? そりゃどこの常識だ? 新しい作品を試せそうな相手がいたら、とりあえずブッ放すのがウチらの常識だろうが」

「どこの世紀末だ! ええい、あの魔神様の厄介なところ受け継ぎやがって!」

「テメェ今なんつったコラ! 師匠の悪口はいくら〝影淵の牙(アビス)〟といえど許さねえぞ!」

「そういう血気盛んなとこがそっくりだっつってんだよ、この物作りバカ使徒!」

 

 ったく、これだからあんまり来たくねえんだよ! 性格ぶっ壊れてるし! 

 

 ギャイギャイと言い争いしていたが、ふと第三者がいることを思い出す。

 

 恐る恐る振り返ると……二人はもう、すんごい反応してた。

 

 ヴァネッサさんは見たことないような顔してるし、エミリーはカリ◯マガードしてる。

 

「うぅっ、なんなのっ、ほんとになんなのよぉっ」

「………………ミスター、K。その方は?」

「うん、そうだよね。これが普通の反応だよね。対応できて当然、みたいな顔するうちの身内がおかしいんだよね」

 

 むしろ嬉々としてアイデア共有するからね、あの野郎。

 

 いつかラナの愛を勝ち取った時みたいに一撃浴びせてやる。

 

「なんだ、客がいたのかよ。それならそうと言えよ」

「俺も客だけどな? つかあっちから知らせ入ってんだろ」

「テメェが来たってとこで切った」

「よし、お前ちょっとそこに正座しろ。今日という今日は説教だ!」

 

 っと、そうじゃない。いや説教はすごぉくしたいけども。

 

 とりあえず、俺は二人に向けてこのイカれた使徒を紹介した。

 

「あー、紹介する。こいつはうちの組織の一つを取り仕切ってるやつで……」

 

 視線を向けると、あいつはまた笑う。

 

 完成し切っていない美貌にアンバランスな、不敵な笑みだ。

 

 そうして作業衣に包まれた平らな胸を張り、名乗りを上げた。

 

 

 

「ウチはジア! 〝赤熱の六(クラフター)〟のジアだ! この〝永焔の竈門(ゴブニュ)〟を仕切ってる! よろしくな、人間ども!」

 

 

 

 なんともマトモじゃない、そんな自己紹介を。

 

「で? 何の用だ?」

 

 挨拶もそこそこに、ジアが聞いてくる。

 

 かなり短気なので、さっさと言わないと次の弾撃つぞコラと言わんばかりだ。

 

「装備が欲しい。スーツと、道具だ。できれば矢の補充も」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 

 武器の話になった途端、楽しげな顔に戻ったジアは部屋の奥に消えていった。

 

 喧しいのがいなくなると、途端に部屋の中が静かになる。

 

 様々な器具や、壁に飾り付けられた銃からナイフ、刀に到るまで、豊富な種類の武器。

 

 竈門や散らかった作業台、積み重ねられた何かの入っている木箱が不思議な雰囲気を作る。

 

 あ、なんか黒焦げてる壁とか粉砕してるテーブルはスルーで。

 

「……非常にユニークなお知り合いですね」

「素直に頭おかしいって言っていいですよ」

 

 マジでおかしいからあいつ。〝七つ牙〟の中でもぶっちぎりの類だし。

 

 なんせ、「武器職人(スミス)つったらドワーフだろ」なんて理由でわざと体をああしたくらいだ。

 

 その意見にはちょっと心疼くものがあるが、だからといってあのマッドさはどうにかならないのか。

 

「それにあの見た目……やはり日本人はロリk」

「いたって普通に大人の女性が好みだ。そうじゃなくてもあれはお断りだ!」

 

 むしろ誰があれを好きになるんだよ。いたらそいつは勇者だよ。

 

 あ、勇者っていえば天之河元気にしてんのかな。この前、悪魔を復活させたとか聞いたけど。

 

 

 

 

 ボケーっと考えていると、エミリーが立ち上がった。

 

 カリス◯ガードを解除した彼女は、こちらを見て口元をもにゅもにゅさせる。

 

「……その。こうすけって、どれくらい年下の女の子なら平気なの?」

「おいコラエミリー、意味によっては後でOHANASHIするがどういう意図の質問だ」

「あっ、いや、そういう意味じゃなくてっ」

 

 何か弁明しようとした言葉を聞こうと、耳を傾けた時。

 

 スコンッといい音を立てて後頭部に何かが当たる。

 

 エミリーと二人で下を見ると、悲しげに転がるエナドリ缶が一本。

 

 胡乱げな目つきで振り返れば、両手に何かを持ったジアが足を振り上げていた。

 

「おら、持ってきたぞ」

「普通に声かけろよ」

「うっせ。てかそれ捨てといてくれ」

 

 部屋の隅に視線をよこせば、そこにはエナドリ缶が溢れ出たゴミ箱が一つ。

 

 全部見覚えのあるやつだった。てか、治療所の談話室で冷蔵庫に詰まってたやつだった。

 

「お前、この量は……」

「っこらせ。そのシリーズ、気に入っててよぉ。よくぶっ倒れて運び込まれるからリュールんとこにも置いてんだ」

「あれお前かよ! 没収だ没収! 他はどこに保管してる、全部南雲あたりに送りつけてやる!」

「その師匠からもらったんだよ」

「南雲ぉおおおぉっ!」

 

 なんで治療所があると思ってんだ! 運び込まれても意味がないじゃねえか! 

 

 バカ使徒とエナドリ愛飲一家の息子に心底呆れつつ、缶を投げ入れて作業台に歩み寄る。

 

 そこに黒塗りのケースを置いたジアは、手をかけてニヤリと笑いかけてきた。

 

「さあさあ、とくとご覧あれ。ウチのイチオシの逸品揃いだ」

 

 一息に開けられたケース。そこには様々な武装が詰まっていた。

 

 投げナイフの収められたホルスター、球型の手榴弾、SFチックな小型ディスク、etcetc……

 

「そっちは魔力を繋げると、投げても自在に操れるナイフだ。こっちが奪視グレネード、食らわせた相手の網膜を焼き焦がす。これは即席型の地雷ディスクと感電ディスクな。赤と青で分けてるから間違えんなよ」

「わかった」

「これは、凄まじいオーバーテクノロジーですね……」

「わー、すごい……」

「おっ、なんだあんたら。いいリアクションすんな」

 

 気分を上げたらしいジアはふふん、と得意げな顔をする。ちょっとイラッとした。

 

「これは新素材の金属糸、補助に使える。お得意のナイフとでも併用しな。そのボトルの中身は密偵用の小型ドロイド」

「はいよ。んで、こっちは?」

 

 スポンジに嵌った、メダル状のものを手に取る。

 

 九の蛇と、その中心に紫の蛇が彫刻されてい流それを見つめていると、ジアは指を胸に当てる。

 

 少し考えて察し、自分の胸に押しつけて魔力を流してみた。

 

 

 

 

 すると、驚くべきことにメダルから黒い物体が全身に広がった。

 

 液体とも個体とも言えないそれは、首から下の全てを覆い尽くし、固定化すると形を取っていく。

 

 そして、細かくデザインされた黒いスーツへと変身した。

 

「うおぉっ、なんだこれ!?」

「これはっ! ジャパニーズヒーローの早着替えですね!?」

「まるで映画みたいっ!」

「それは新開発、流体スーツだ。今までのちんたら着替える旧式より楽だし、消音性能と能力補助性能が良い」

「すっげぇな、マジSFじゃん!」

「へへっ。この前〝調査〟が完了した()()()の技術提供を受けた、自慢の品だぜ」

 

 鼻高々って感じだ。

 

 なんでもAIに支配されてたディストピアで〜、と説明するジアに頷く。

 

 ヴァネッサは言わずもがな、あのエミリーでさえ心躍るのかその話に聞き入っていた。

 

「っと、話しすぎちまったな。てか影淵の牙(アビス)、こいつらに聞かせていいのか?」

「ボスからの依頼だ、保護しろってさ」

「ほーん、どうせ後々はってか。あ、これ新しい矢筒な」

 

 どっから取り出したのか、ズドンと重々しい音を立てて長方形の箱が置かれる。

 

 南雲みたいに〝宝物庫〟から直接装填、なんて離れ業をできない俺用に開発されたアーティファクトだ。

 

爆弾矢(ボムアロー)催眠矢(ヒプノアロー)、その他諸々だ。あとで確認しろ」

「何から何まで悪いな」

「それがウチの仕事だ、むしろジャンジャン買え。んで金落とせ」

「また美味い店でも見つけて教えてやるから、ぼったくんな」

「チッ、食えねえやつ」

 

 どっちがだ、と言い返しながら端末を差し出す。

 

 同じ端末を取り出したジアが俺のと重ねると、画面が自動で操作されていく。

 

 程なくして、軽快な音を立てた。

 

「まいどあり。ウチのガキ達、ちゃんと使いこなせよ」

「せいぜい期待に応えるよ」

「あんたらも、ご入用の際にはウチの店をよろしく!」

「ええ、是非とも!」

「え、ええと、機会があったら?」

 

 商魂逞しいやつだなぁ。

 

 スーツを解除してケースに戻し、矢筒と一緒に持つと礼を言って踵を返す。

 

 来た時とは逆の手順でテーラーに戻って試着室を出ると、店員が待ち構えていた。

 

「お疲れ様でございます」

「あざます」

 

 店内を見て、ふとあることを思いついた。

 

「そうだ。ヴァネッサさん、どうせだからスーツ一着買ってったらどうですか? 結構傷んでるだろうし、俺が出すからさ」

「ですが、悪いのでは……」

「いや……」

 

 俺は、元に戻った鏡を一瞥して。

 

「色々驚かせた詫びをしないと、俺が落ち着かない」

 

 

 

 

 これでも小市民なんだ。人に迷惑かけてはい終わりじゃ罪悪感が、ね。

 

 

 

 

 




これで四人目。他の神代魔法の使い手も全てのアフターで登場し切る予定です。


読んでいただき、ありがとうございます。
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