星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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楽しんでいただけると嬉しいです。


映画の諜報機関はだいたいクロ 1

 

 

 

 

 太陽が西に傾き、体を撫でる風がだんだんと冷たくなってきた。

 

 

 

 まっすぐ伸びる街道を見据え、エミリーの故郷へ向かいバイクを走らせる。

 

 もう数時間も走らせ続けているが、特別にチューンナップされた相棒は俺に疲労を感じさせない。

 

 シートもパーツも最高品質、揺れも全くない。それはサイドカーというオプションがついていも。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 だってこれ、南雲からもらった改良版魔力駆動二輪だもん。舗装機能もついてるもん。

 

 ちなみに名前は〝深淵黑機馬(アビスウォーカー)〟だ。名付けた時の自分を殺したい。

 

「はむ、はむ」

「ズズー」

 

 天井を展開したサイドカーの中では、エミリーとヴァネッサさんが食事をしている。

 

 途中で寄った、某有名店のバーガーとフライドポテトだ。日本のよりちょっと美味かった。

 

「二人とも、気持ち悪くなってたりしないか?」

「ええ、実に快適です。このバイク、どこで購入できますか?」

「ごめん、ワンオフ品なんだ。頼めば金次第で作ってくれると思うけど」

「ほほう、つまり可能性はゼロではないのですね。ふふ……その時は手裏剣と撒菱を発射する機構を…………」

「…………」

 

 薄々思ってたけど、この人やっぱ重度なオタクだよなぁ。

 

 なんだろう、最初の頃の頼もしいイメージが崩れてきてる。

 

 エミリーを命懸けで守ってた時は、クールなのに義理に厚い捜査官だったのに……

 

 

 

 

 何やら企んでいるSOUSAKANを呆れて見ていると、ふとエミリーが視界に入る。

 

 彼女はフライドポテトを咀嚼しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

 

「エミリーは、大丈夫?」

「え? ああ、平気よ」

 

 振り返った彼女の表情は普通に見えたが、どこか暗いようにも思えた。

 

 そう思ったのは俺だけではないようで、ヴァネッサもサイドカー内で後ろから語りかける。

 

「グラント博士。その時は早めに言ってくださいね、我々に遠慮することはありません、限界というのは自分で思っているよりも早く訪れるのです」

「? なんのこと?」

 

 それはもちろん、と真剣な表情で続けるヴァネッサさん。

 

 彼女の表情は、色々と経験したエミリーを慮るような色も混じっていて……

 

「貴女の膀胱のことです」

「なんの心配してんのよ!?」

 

 ごめんエミリー、正直俺もちょっと考えた。口には出さないけど。

 

「貴女は既にラージサイズのコークと、途中休憩に立ち寄った売店でもインスタントコーヒーを飲んでいます。私は貴女が、新たに恥ずかしい思い出を作らないか心配なのです」

「そそそそ、それはっ」

「……エミリー。いざとなればそのサイドカー、壁代わりになるから」

「変な気遣いしないで!? 余計に恥ずかしいからっ!」

 

 どうやらまたミスったらしい。思春期の年下の女の子ってどう接すりゃいいんだ。

 

 我らがハーレム王南雲様、あるいは色々知ってるボス様。どうか俺に知恵を授けてくれ。

 

 ……ダメだ、青筋立ててレールガンぶっ放される予想とエミリーに嘘吹き込む予想しかできない。

 

 なんでうちのビッグ2はどっちもマトモじゃないのか。

 

「私はただ、帰ってきたなぁって思ってただけよ! もうこの辺りは見覚えがあるし!」

「ああ、そういうことでしたか。よもや放尿の快楽に目覚めたのかと……」

「あんた、バーガーの包み紙口の中にぶち込むわよ!?」

 

 うん、まあ、そのSOUSAKANは一回黙らせたほうがいいと思う。俺は賛成。

 

 いきり立っていたエミリーは、ふと表情から羞恥と怒りを消すと暗いものを浮かべる。

 

「でも、前はお土産話が沢山あったけど、今回は……」

「……グラント博士」

 

 ……どうやら、郷愁に浸り始めたことで嫌なことも考えちまったらしい。

 

 その境遇を思えば、下手に言葉をかけることもできない。ボスの口八丁が羨ましかった。

 

 運転に問題がない範囲で目線を向けていると、それに気付いたエミリーが儚い微笑を浮かべる。

 

「心配しないで、私は大丈夫だから」

「膀胱の方も大丈夫だといいのですが」

「「お前もう黙れ」」

 

 ここぞってタイミングで挟んでくるんじゃないよ。解せぬって顔もすんな。

 

 もう敬称つけなくていいや、今後はヴァネッサって呼ぼう。

 

 こいつは捜査官じゃない、SOUSAKANだ。

 

 

 

 

 ヴァネッサを黙らせてからしばらく、周囲の景色が変わりだした。

 

 町に入ったのだ。高層建築が散見されるが、全体的にレトロで美しい街並みに目を奪われる。

 

「いい町だな」

「ふふん、そうでしょ。あ、このまま中心を突っ切って北に向かって。しばらくしたら川が見えてくるわ。近くには美味しいパイを出す店もあるの。可愛い看板があるから、すぐにわかると思うわ」

「了解」

 

 レンガ造りとガラス張りの建物が交差する、新旧入り混じった町の中をやや減速して進む。

 

 夕暮れの中でよく映える、道ゆく人の穏やかな笑顔と笑い声に自然と優しい気持ちになったからかもしれない。

 

 きっと住んだら居心地がいいんだろうなー、と思いながらも、警戒は忘れない。

 

 待ち伏せされていてもおかしくはないのだ。

 

「おっ、このあたりは家が全部似てるな」

「郊外だから」

 

 北へ行くにつれ、自然の増加と共に家の様式もステレオに傾いていく。

 

「あっ! あそこよ。あの、白いバンが停まっている家! 明かりがついてるわ。明かりがついてるわ。お父さん達、家にいるみたい」

 

 結局、そうエミリーが明るい声で言うまで何も起こることはなかった。

 

 言われた家は他と同じくレンガ造りで、白バンの隣には青い自動車も停まっている。

 

 なんとなしに、俺は家に意識を集中して──

 

「…………」

「? こうすけ、なんでバイクを停めるの?」

「ミスターK?」

 

 二人の言葉に構わず、道の端にバイクを停める。

 

 魔力供給を切り、キーを外してバイク側の回路も閉じるとメットを脱いで降りた。

 

 それから座席を外し、中に収納してあった道具の一つを取り出す。

 

「それは、先ほどあの店で購入していた……」

「こうすけ、どうしたの? 顔が怖いわよ?」

「……ちょっとな」

 

 円筒の上部を手で引くと、内部が引き出されて露わになる。

 

 中には規則正しく六角形の黒い物体が収納されており、中心には丸い窪みがある。

 

 そのいくつかに指を添え、魔力を流し込んだ。

 

 

 

 キュィッ! 

 

 

 

 動力を注入されたアーティファクトは、甲高い音を立て起動する。

 

 マークに光が宿り、六つの足を展開して穴から這い出すと俺の腕を伝って地面に落ちていく。

 

「きゃっ! 何それ、虫?」

「これは……もしや、小型のロボットですか?」

「正確には違うんだけどな」

 

 南雲のアラクネを、ジアが独自に模倣したものだ。

 

 その黒蜘蛛達は素早い動きで地面を走っていき、瞬く間にエミリーの生家に到達する。

 

 中に潜入したのを見届けたところで、俺は端末を取り出すと筒に近づけて魔力を繋げた。

 

 自動で画面が点灯する。そして液晶に四つの映像が分割表示された。

 

「先ほどのロボット達からの映像ですか」

「ああ。って、近いな」

「ちょっと、なんで私の家をあんなもので調べてるのよ」

「うわっ」

 

 二人とも左右から覗き込んできた。頬がくっつきそうなんだけど近い近いいい匂い! 

 

 内心のテンパりをどうにか抑えながらも、黒蜘蛛達からの映像をじっと見つめる。

 

 

 

 

 小さな体を巧みに使い、彼らは家中を探索する。

 

 リビング、バスルーム、トイレ、キッチン、洗面所、夫婦のものだろう寝室、エミリーの個室。

 

 廊下や一階に確かに電気はついているが、しかしそのどこにも……エミリーの家族はいなかった。

 

「う、そ……どうして……」

「……これは、先を越されたということでしょうか」

「一体は玄関扉から入った。鍵のかかっていない扉から、な」

 

 明かりのついた、鍵のかかっていない無人の家。

 

 いくら郊外といえど、防犯上ありえない不自然さは、ある一つの結論を俺達に教える。

 

 すなわち、もう手遅れだったのだと。

 

「嘘、嘘よ……そんなのありえない!」

「エミリーっ!」

 

 隣から走り出そうとした彼女を、大きな声で制止する。

 

 ビクンと体を揺らしたエミリーは、油の切れた機械のような動きでこちらに振り返り、青白い顔を見せた。

 

「下手に動くな。今、トラップを仕掛けられてないか調査中だ」

「でもっ、でもお父さん達が!」

「一旦落ち着け。もしこれで、家に踏み入った途端に睡眠ガスでも食らったらおしまいだぞ」

 

 自分が捕まる、という最悪の結果を想像したのか、エミリーは顔色をより一層悪くする。

 

 今のところ、周囲や家内に気配はない。が、用心に用心を重ねることは無意味じゃないはずだ。

 

 良心が痛むが、それを押さえつけて黒蜘蛛達からの情報を待った。

 

 

 

 

 数分ほど探索を続けた黒蜘蛛達は、やがて戻ってきた。

 

 画面の中でどこかの窓を四体全てで開け、同時に家の天窓が内側から勝手に開く。

 

 そこから、〝黒い何か〟を運び出した黒蜘蛛達は、街路樹や電線を伝ってこちらに来る。

 

 手を伸ばすと、そこに黒い何かをぽとりと落としてから彼らも降りてきた。

 

「ご苦労さん」

 

 

 

 キュィッ! 

 

 

 

 

 人工知能とかはないはずなのに、敬礼するように前右脚を上げた黒蜘蛛はポッドに戻る。

 

 用済みになった端末を尻のポケットに押し込み、俺は黒い何かを見た。

 

「タブレット、か……」

「……私宛ですね」

 

 iP○dサイズのディスプレイには、英字でヴァネッサのフルネームが表示されている。

 

 どう考えても、彼女を知らないエミリーの家族が残したものじゃない。

 

 第三者の存在を証明するそれに、いよいよ顔を白くしたエミリーがふらりとよろけた。

 

 とっさに片手で支える。

 

「平気か?」

「こう、すけ……お父さんが、お母さんが……それに、おばあちゃんも……」

「…………」

 

 縋るように、ジャケットの裾を掴む小さな手。

 

 心が締め付けられる。だがこの怒りとやるせなさは、彼女にぶつけるものじゃない。

 

 俺はヴァネッサに向き直り、タブレットを差し出した。

 

 頷いた彼女は端末を受け取り、俺達に画面が見えるようにしてディスプレイをタップする。

 

 

 

 

 すると、どこかの部屋が映し出された。

 

 布製のソファーと木製のテーブル、それ以外はない、いたって普通の部屋。

 

 それを注視していると、部屋の端にあった扉が開いた。そこから複数の人間が入ってくる。

 

 最初に写り込んだのは、車椅子と、それに座る老女。

 

 次にその車椅子を押す気弱そうな中年男性と、彼の腕を掴んで不安げに視線を右往左往させる同じ年頃の女性。

 

「っ、おばあちゃんっ、お父さんっ、お母さんっ」

 

 やはりか。

 

 悲鳴を上げるエミリーの肩に添える手の力を少し強めながら、画面を睨みつける。

 

 何が何だかわからない、という家族の映像は途切れ、代わりに時刻と航空写真のマップが表示された。

 

「ここは……どうやら倉庫街のようですね。ふざけたことを」

「……俺のミスだ」

 

 俺が、もっと速く移動していれば。万全の準備でなくともすぐに動いていれば。

 

 様々な後悔が脳裏を巡る。あと一歩が届かないもどかしさが心を逆撫でした。

 

「また、またなの……?」

「っ」

「また、私は何もできずに、ただ失って…………」

 

 ハッとした。

 

 腕の中を見る。そこには今にも泣き出しそうな、恐怖と絶望に苛まれた少女がいた。

 

 大切な人を失う苦しみを一度知ってしまったら、二度目はより強くなってしまうのだろう。

 

 自分をひっぱたきたい気分だ。こんな子がいるのに、何を悲劇のヒーローぶってるんだか。

 

「エミリー、まだ間に合う」

「っ、こうす、け……」

「争った形跡もないし、ご家族は怪我もしてない。それはエミリーの協力を強制させる為の、大事な脅迫材料だからだ。だから、そう簡単に手を出したりはしない」

 

 人質は生きているからこそ、そして無事であればあるほど価値がある。

 

 あっちもエミリーに、絶望のあまり自殺でもされたらたまったもんじゃないだろうから、これ以上は何もしない。

 

 そう説明すれば、パニックを起こしかけていたエミリーの目に段々と落ち着きが戻ってきた。

 

「大事なのは、君が挫けないことだ」

「私が……」

「君はもう、託されて、一人残される苦しみを知っている。それなのに、こんなところで挫けていいのか?」

「っ、いや! 絶対にいやっ!」

 

 激しく首を振るエミリーに、「それでこそだ」と微笑んでみせる。

 

 そうすると、ある一つの言葉をふと思い出して口にした。

 

「〝一の恐怖には十の勇気で打ち砕け〟。うちのボスの受け売りだ。もうエミリーは、その勇気を持ってるだろう?」

「……ええ。私は、絶対にやり遂げる。みんなの無念を晴らすことも、家族のことも諦めない!」

「よし、それだけ言えれば十分だ」

 

 などと、カッコつけた顔を作ってみる。

 

 正確には〝一の恐怖には十の絶望で陥れろ〟なんだけど、あれだ、必要な嘘ってやつだ。

 

 改めて考えると、マジおっかねえなうちのボス。身内で良かったと常々思う。

 

「……空気を読んで黙っているべきか。〝私を忘れないでプリーズぅ〟と言うべきか。迷いますね」

「え」

「へっ、あっ!?」

 

 気がつけば、吐息が感じられるほどの距離にいたエミリーが腕の中から飛び出した。

 

 まさに猫の如き俊敏さで俺から離れた彼女は、真っ赤な顔で俺のことをチラチラ見てくる。

 

 ……これは励ましただけで、浮気とかじゃないから。絶対に。

 

「それで、どうします?」

「そりゃ、決まってんだろ」

 

 問いかけてきたヴァネッサに、今度は獰猛に笑い。

 

 

 

 

「ぶっ潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 




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