星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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光輝編と同じくらい長くなりそう

楽しんでいただけると嬉しいです。


映画の諜報機関はだいたいクロ 3

 

 

 

 〝深淵卿〟。

 

 

 

 記憶と力を取り戻した浩介が、新たに会得していた技能。

 

 いわば時間経過型の〝限界突破〟であり、発動すると少しずつ能力が向上していく。

 

 爆発的な力は望めないが、こちらのほうが浩介の性にも合っていたので良い技能だった。

 

 ……発動すると、言動が形容できないほど痛々しくなるというデメリットを除いて。

 

 誰の、というかどこのプレデター達の影響かは想像に難くない。

 

 おまけにネビュラガスで超強化された肉体は、更に〝紫影の導き〟という技能を開花させた。

 

 精神や肉体がどのような状態であろうと、常に理性的な思考を保てるという優れものだ。

 

 この技能が〝深淵卿〟とミラクルマッチを引き起こし、発動中は二つの思考が並立するようになった。

 

 すなわち、マトモな浩介と、深淵卿のコウスケ・E・アビスゲートさんである。

 

 

 

(あぁあああ……やっぱりこうなったよ……だからこれまでの依頼では隠密に徹してたのに…………しかも、戦い終わるまで自分じゃ止められないしさぁ…………)

 

 

 

 新たに香ばしいポーズでシャロン達を威圧するアビスゲートさんに、浩介は死にたくなる。

 

 エミリーからの視線が痛い。やめて、そんな冷めた目で見ないでっ! と心の中で訴えた。

 

 ヴァネッサのキラキラとした視線が怖い。もうこのSOUSAKANはダメかもしれない。

 

「さて、国の犬よ。貴様の企み、白状してもらおうか」

「…………何を言っているのか、わからないわね?」

「これまでの反応から鑑みるに、貴様はどうやら我が組織の人間と既に会っている様子。それでも黙秘するか?」

「っ……」

 

 開いた右手を仮面にギリギリ触れない位置に、左手は絶妙な具合に、そして腰をクイッと! 

 

 妙に迫力のあるジ◯ジョ立ちに、シャロン達の頬を冷や汗が伝い落ちる。ついでに浩介の心から感情が零れ落ちていく。

 

 SAN値がノンストップ減な理性(浩介)に構わず、アビスゲートさんは言葉を止めない! 

 

「とはいえ、先に【ベルセルク】を確保しようとした目的は知れているが」

「え? どういうこと、こうすけ?」

 

 ジトッとした目を元に戻し、エミリーがアビスゲートの背中に問いかける。

 

 ふっ、と意味深に笑いを漏らしたアビスゲートさんは、大仰な仕草で人差し指をシャロンへ向けた。

 

「エミリーの身柄を手に入れ、対抗薬を作らせる。ここまでは言葉通りの真実だろう。だがその傍らで、既存の【ベルセルク】を手に入れる必要があった。その理由は利益追求か、国の判断か、個人的欲望か……あるいは、兵器転用、といったところか?」

「なっ、【ベルセルク】を兵器に……!?」

「…………」

 

 ベルセルク化した人間が何十と暴れ回る様を想像し、エミリーが顔を青ざめさせる。

 

 そしてシャロンは、わずかながらに眉を動かした。

 

 普段であれば鉄面皮に隠せただろう、図星を言い当てられた故の驚き。

 

 動揺していた彼女は、それをすぐに消し去るが……アビスゲートはしっかりと見ていた。

 

「ほう、やはりそのようだな」

「……………………」

 

 しばし、シャロンは押し黙る。

 

 見つめてくる浩介達の目に、何か考えていたが……やがて、諦めたように嘆息する。

 

 そして彼女が右手を挙げた途端──そこかしこの物陰や建物の窓から、赤い線が現れた。

 

 アビスゲートに全て照準されたそれは、密かに隠れていた保安局強襲課の特殊局員達。

 

 驚きの表情でヴァネッサとエミリーがそれを見渡す中、微動だにしない影法師。

 

 襟元の小型無線でエミリーの家族を連れてくるよう命じたシャロンは、彼を睨む。

 

「ほう、武力行使と来たか。実にわかりやすい」

「国という大船を守る為には、時に非道な手も取らなければならない。【J・D機関】のように、【ベルセルク】もまた同じよ」

「国の為の犠牲、か。察するに受刑者やテロリスト辺りを使い捨ての兵士にでもするつもりか?」

「恐ろしいほどの理解力ね。そうよ。年間、テロリストや犯罪者との戦いでどれだけの警官や兵士が失われていると思う? 彼らの尊い命の代わりを、悪しき者達を狂った怪物にすればどれだけの命を救えるか……」

「しかし、それを彼女が許容するとは思えなかったお前達は、秘密裏に【ベルセルク】を回収しようとした、と?」

「ええ。彼女はあの薬を忌避している。保護した後で、研究データにバグでも仕込まれたらたまらないですもの。だからこちらで改良をする為に、原品の【ベルセルク】がどうしても必要だった。それをコントロールする対抗薬も、ね」

「反吐の出る話だ」

 

 吐き捨てるように言い放つアビスゲートに、シャロンは冷酷な口調で告げる。

 

「貴方は深入りしすぎたわ。いくらあの男の手先といえど、この人数を相手に一人で立ち向かうのは無謀でしょう?」

「こうすけ、逃げて! 巻き込んでごめんなさい、私のことはもういいから!」

「……コウスケさん、申し訳ない」

 

 悲痛にエミリーが叫ぶ。数えるのも馬鹿らしいほどの赤い線に、ヴァネッサが悔しげにした。

 

 

 

 

 絶体絶命。

 

 その場の誰もが、この状況に終わりを感じ取った。

 

 ──俯いている、影法師以外は。

 

「…………フ、ハハハハ」

「こうすけ……?」

「コウスケさん……?」

「ハハハハハ、ハ──ッハッハッハ!」

 

 突然、高笑いを響かせる。

 

 仮面に手を当て、心底おかしいとでもいうように空を仰いで笑う様は非常に不気味だ。

 

 第三者からは、死を感じたが故に狂気に陥ったようにしか見えなかった。

 

「気が触れてしまったのかしら?」

 

 どこか小馬鹿にしたように、シャロンが言う。その口調には余裕が滲んでいた。

 

 彼女は徐々に冷静さを取り戻していく。そうだ、過剰に恐れていたが目の前にいるのはたった一人。

 

 どれだけその組織が強大なものであっても、所詮個人では何もできないはず。

 

「いや? あまりに滑稽で、思わず笑ってしまっただけだ」

「……なんですって?」

 

 それが、自らの絶望へ扉を開く慢心だとは気付かずに。

 

 これだけの銃口を向けられているにも関わらず、変わらない余裕を醸し出す影に、何故か悪寒を背筋が走る。

 

 それにハッとした時、得体の知れない威圧感がアビスゲートから発せられていることに気がついた。

 

「この我が、此奴ら如きの潜伏に気がつかなかったとでも?」

「……まるで、最初から知っていたような口ぶりね」

「ああ知っていたとも。故にこう言おう──全ては手遅れだ、とな」

 

 体を斜めに、片手を腰に当て、右足の膝をクイっと曲げたアビスゲートさん。

 

 そして顔を下に下げ、最後に左手を高らかに天へと掲げると。

 

 

 

 

 

「では、我がボスの言葉を拝借しよう──始まり給え、終末よ(It’s Show Time )!」

 

 

 

 

 

 パチン、と指が鳴らされた。

 

「っ、撃ちなさい!」

 

 ほぼ同時、脳裏に響く警鐘にシャロンが叫び、全ての銃口が火を噴く。

 

 暗闇に無数のマズルフラッシュが迸り、たった一人に向けて死の雨が何百と撒き散らされた。

 

「こうすけぇええっ!」

「グラント博士!」

 

 エミリーが絶叫し、せめて流れ弾に彼女が巻き込まれまいとヴァネッサが庇う。

 

 鉛の嵐が空を裂く音に支配された中、エミリー達はそれが収まるまでぐっと目を瞑っていた。

 

 やがて、弾が尽きたのか音が止む。薬莢が落ちる甲高い音が残響し、数秒で静寂が戻った。

 

 ヴァネッサは、ゆっくりカリス◯ガードしていたエミリーに回していた腕を解く。

 

 そして、背後にあるだろう悲惨な光景に覚悟を決めるように振り返り──何も言わなかった。

 

「…………?」

 

 全くの沈黙に、何か違和感を感じたエミリーはうっすらと目を開ける。

 

 最初に映り込んだのは、ぽかんとしたヴァネッサの表情。

 

 目を見開き、わずかに口を開いた彼女は、何かを注視して仰天したまま動いていなかったのだ。

 

「っ、そうよ! こうすけはっ!」

 

 不思議そうにヴァネッサを眺めていたエミリーだったが、肝心なことを思い出して立つ。

 

 そうすることで、ヴァネッサの体で見えなかった、銃撃でバラバラになった浩介が見えて──

 

「………………え?」

「──ふっ。この程度の鉛玉、我に届くと思ったか?」

 

 絶望を、感じることはなかった。

 

 全ての銃弾が、浩介に到達する直前でドームを作るように静止していた。

 

 シャロンがヴァネッサと同じ顔をしている。アレンが顔を引きつらせ、他の局員も驚き、あるいは恐れていた。

 

 今一度浩介がフィンガースナップをすると、何かしらの力が途切れたように銃弾が落ちる。

 

 地面に散らばった弾がけたたましい音を立て、その中心に立つ浩介の威容を彩った。

 

 

 

(重力魔法の中和結界、いつもよりずっと使いやすかった。ジアの仕事は確かだったな)

 

 

 

「それで? この豆鉄砲がお前の切り札か?」

「……ありえない」

「あ、あははは。冗談きついなぁ。まるで、ヒーロー映画の超能力じゃ、あるまいし」

 

 掠れた、あるいは引き攣った声をシャロン達が漏らす。

 

 あまりに現実離れした所業。それを目の当たりにして、理解の限度を軽々と超えてしまった。

 

「ふむ。どうやら不況だったようだ。では、このような催しはいかがかな?」

 

 スッと、両手を指揮者のように振るう。

 

 伸ばした手の内から現れたのは、吸い込まれるような黒塗りのナイフ。

 

 周囲の闇に溶けるが如きそれを回転させ、切っ先を人差し指に乗せたアビスゲートは、ナイフを宙へ放った。

 

 

 

 

 放物線を描いたナイフは、地面へ落下することなく空中に留まる。

 

 怪しげな黒光を纏う刃に誰もが目を奪われる中、次々とナイフを取り出して宙へ並べていく。

 

 五、十、二十……三十二。局員の人数と重なったところで増加は止まった。

 

 四本で花弁のように固まったナイフ達が、クルクルとアビスゲートの周囲を回転する。

 

 ゴクリと、誰かが大きく唾を飲んだ。

 

「では、是非楽しんでくれ。我が刃が奏でる闇のワルツを!」

 

 三度目のフィンガースナップ。

 

 それに反応したように、一斉に動きを止めたナイフは四方八方へと高速で飛翔した。

 

 ナイフが向かうのは全て局員の元。

 

 彼らはグングンと迫ってくる刃に恐怖を掻き立てられ、皆一様に銃を乱射した。

 

 しかし、自立した意思があるかのような動きでナイフは銃弾を避け、なおも突き進んでくる。

 

「くそっ!?」

「な、なんなんだこれは!?」

「なんでナイフが弾を避けるんだよ!?」

 

 弾速より遅いのに、撃ち落せない。

 

 保安局随一の戦闘力を持つ強襲課の局員達にとって、それはプライドを粉々にされる光景だった。

 

 そんな彼らへ次々ナイフ達が到達し、建物や物陰で悲鳴や恐怖の怒号が上がる。

 

 ある局員は銃身でナイフを叩き落とそうとして、ぬるりと躱されると手足の腱を切られた。

 

 別の局員は、とっさに首を捻ってナイフを回避し、壁に突き刺さった刃を抑えようとして壁ごと切り裂かれた。

 

 ある者はナイフに両手を貫かれてそのまま地面に固定され、またある者は拳銃をすくい取られて両足を撃ち抜かれ……

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が、そこにはあった。

 

「これは、いったいなんの冗談なのっ!?」

 

 シャロンが金切り声を上げる。まるで下手なホラー映画でも見ている気分だ。

 

 ふっ、とアビスゲートさんは笑う。両足を交差させ、己の身を抱くような香ばしいポーズで! 

 

「なんて香ばしいポーズ! それにあれは念動力っ! 素晴らしい、素晴らしいですよコウスケさん!」

「ヴァネッサ!?」

 

 何やら場違いな歓声に、アビスゲートさんの中の浩介がそっと耳を塞いだ。

 

「これは曲芸でも、幻でもない。我が研鑽と、素晴らしき同胞の力だよ」

「このっ」

 

 ポルターガイストじみた光景の発生源である浩介に、アレンが銃口を向けて引き金を引く。

 

 流石は殺しのライセンスを国から与えられた男と言うべきか。その判断能力は見事なものだ。

 

 が、しかし。

 

 

 

 ドシュッ! 

 

 

 

「っ!?」

 

 どこからともなく飛んできた()()()に、拳銃の上部が抉り取られた。

 

 今度は見えもしなかった。眼鏡の奥で目を見開いたアレンは、矢の射線から位置を割り出し振り向く。

 

 しかし、そこには誰もいなかった。月光に()()()()が煌めくだけだ。

 

「無粋ではないか、同類」

「くっ!」

 

 壊れた拳銃を投げ捨て、手首のスナップで裾に隠していた小型銃を取り出すアレン。

 

 その銃口を再びアビスゲートに向け──刹那、今度は別方向から射抜かれる。

 

 それだけではなかった。

 

「がっ!? ぎっ!? ぐぁっ!?」

「アレンっ!」

 

 そして先ほどの焼き直しのように、四方八方から黒矢が飛来し、アレンの全身を射ちつけた。

 

 絶妙に体の表面だけを深く切り裂いた矢は、通り抜けると虚空へ溶けるように消えた。

 

「これ、は……ちょっと、シャレに、なら、な……かはっ……」

 

 最後まで軽口を叩こうとして、アレンはうつ伏せに倒れ伏した。

 

 間を置かず、ボロボロになった服を黒矢が縫い止め、地面へと貼り付けた。

 

 ギリギリ意識は保っているのか、アレンが身動ぎして呻き声を漏らす。

 

「ふっ。一度我が宴に参じたのだ。よもや、好き勝手できるなどとは思っていなかっただろう?」

「ざまぁ! ミスターK、ざまぁ!」

「ヴァネッサ、戻ってきてっ! いつものクールな貴女が好きよ!」

 

 悲鳴が支配する鳥籠の中、一人だけ明るい声が響くが、シリアスな雰囲気なので皆無視する。

 

 一人だけサイドテールを振りみだして奮闘しているが、シャロンはそれどころではなかった。

 

「なんなの……何が起こっていると、いうの……」

 

 よろよろと、まるで今初めて歩くことを知ったような足取りで後退する。

 

 ありえない。あまりに非現実的だ。マ○リックスじみた弾丸の防御に空飛ぶナイフなど。

 

 

 

 それに、あの矢はなんだ? 

 

 

 

 どこから飛んできた? 誰が射った? シャロンも先ほど見たが、誰もいなかったのに! 

 

 まさか、浩介一人ではないのか? 自分が強襲課のエージェントを連れてきたように、増援が? 

 

「不思議か? 瞬く間に自慢の精鋭を蹴散らされるのは」

「っ!」

「だが、これが覆しようのない現実だ。お前の選んだ選択の結果だ。ならば──」

 

 四度目の、指鳴らし。

 

 聞くだけで恐ろしくなっていたその音と共に、上空からバラバラと何かが降ってきた。

 

 喧しい音を激しく伴い、地面に散らばったそれは、アサルトライフルや拳銃、ナイフの残骸。

 

 

 

 シャロンは勢いよく空を見上げる。

 

 すると、そこには不恰好に宙で浮いた、見るも無残にやられたエージェント達がいた。 

 

 揃った脚や腕には、細い光が煌めいている。強靭な糸によって吊るしているのだ。

 

「不服など、ありはすまい?」 

 

 汚れた洗濯物を干すように晒された部下達に、シャロンは顎が落ちるほど口を開く。

 

 ポタリ、ポタリ、と血の滴り落ちる音がいくつも響き、彼女の恐怖心を煽った。

 

『残っている者は集合しろ! 局長を守れ!』

「っ」

 

 そんなシャロンに希望を与えるように、無線から怒鳴り声が響く。

 

 程なくして、傷だらけながらも命からがらナイフから逃げ切った局員達がそこかしこから現れる。

 

 不安定に体を揺らし、荒く息を吐きながらも、互いに肩を貸し合いながらシャロンを中心に円陣を組む。

 

 数は十人に届くかどうかというところ。彼らは、静かに佇むアビスゲートへ銃口を向けた。

 

「ほう、思ったより骨がある者もいたようだ」

「くっ!」

 

 苦しげに表情を崩したシャロンは、無線に顔を寄せる。

 

「いつまでかかっているの! 早くグラント家の人間達を連れてきなさい!」

 

 最後の抵抗に、人質にとっていたエミリーの家族を使うつもりらしい。

 

 圧倒されながらも、アビスゲートの力に希望を見出していたエミリーがさっと顔色を変える。

 

 しかし、無線から帰ってきたのは砂嵐のような音だけ。シャロンは困惑する。

 

「クッ、ククククッ」

 

 笑い声に、隊員達が恐怖で体を震わせた。

 

 楽しげに肩を揺らすアビスゲートに、誰もが怯えた目を向けた。

 

「おめでたいな、局長殿。いつから切り札が残っていると錯覚していた?」

「っ、まさか……!」

「慢心は罪というものだよ。さて……」

 

 そこで、ふと彼は虚空へ顔を向ける。

 

 自分達から意識が外れた隙に引き金を引こうとした局員達だが、すぐに阻止される。

 

 現れたのだ。不自然に真っ暗な窓や、物陰から、滲み出るように大勢の〝影〟が。

 

 

 

 体を覆う、凝ったデザインのスーツ。

 

 

 

 目深に被ったフードと、金の髑髏が描かれた漆黒の仮面。

 

 

 

 一様に同じ格好をした三十の影は大きな円を作り、携えた弓に矢を番えて向ける。

 

 

 

 それらは全て──アビスゲートだったのだ。

 

 

 

「狂人憑依。型式〝《 山の翁:百貌(ハサン) 》〟。そのまま大人しくしていたまえ」

「分身の術キタ──っ!」

 

 闇より出でし影は、一つにあらず。

 

 テンションが振り切ったように叫ぶ、ダメかもしれないSOUSAKANは無視し、アビスゲートはある方角を見る。

 

 ネビュラガスによって超強化された視界は、意識を集中すれば数百メートル先の風景だろうと捉える。

 

 

 

 

 そして、彼が視界に収めたのは──自分に狙いを定める、ライフルを構えた男。

 

 保安局員とは別の格好をしたその男は、一帯の端にある倉庫の屋上に寝そべっていた。

 

 男は、スコープ越しにアビスゲートがこちらを見ていることにギョッと驚き。

 

「いけないなぁ。漁夫の利を狙おうなどと」

「なっ!?」

 

 ()()から聞こえてきた声に、声をあげて振り向こうとするが。

 

「てめぇっ、一体どこから──」

「無粋な輩は退場してもらおう」

「がッ」

 

 首筋に迷いなくナイフを叩き込まれ、一度体を激しく震わせると屋根の上に倒れ臥す。

 

 ナイフを引き抜いた分身体は、男が胸元につけていた小型カメラを引き剥がすと自分を映した。

 

「さて、こそこそと盗み見をしていた下衆共。貴様達にも退場してもらおうか?」

 

 そう言った直後。

 

 本体のアビスゲートが、取り出していた何かの端末のスイッチを躊躇なく押し込み。

 

 

 

 

 

 ドッガァアアァアアァァァァン!!! 

 

 

 

 

 

 激しい衝撃と爆音が、倉庫街を大きく揺らした。

 

 満身創痍な局員達はたたらを踏み、必死にカメラを探していたヴァネッサとエミリーも体勢を崩す。

 

 全員が同一の方向を振り向くと、ある一方に空高く立ち上る大きな爆煙を見た。

 

「あ、あれは…………」

「我々両方を狙っていた者がいたのでね。爆破させてもらった」

「……こんなことをすれば警察も出動するわよ」

「御心配には及ばない。対策済みだ」

 

 

 

催眠矢(ヒプノアロー)は一帯に設置済み。ボムディスクは元はこの人達を逃さないために、倉庫街の外壁を吹っ飛ばすよう設置したんだけど。移動させてくれた小型ドロイド達様々だな)

 

 

 

 そんなことを考えつつ、爆心地近辺の分身体を操って向かわせる浩介。

 

 彼の方で〝ある目的〟を進めながら、アビスゲートの方の自分がすべきことも実行する。

 

 

 

 

 

「これで邪魔者はいなくなった。では、話の続きを再開しようか?」

 

 

 

 

 

 シャロン達には、その仮面の髑髏が嗤っているように見えた。

 

 

 




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