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王宮に帰ってきてから、三日が経った。
今日、ついにヘルシャー帝国の人たちがくる。私を含めた数人は今、玉座の間にて帝国の使者の人たちを待っていた。
ちなみにこの三日で、美空に対してしかけたことへの恥ずかしさはなんとか無くなってくれた。ちょっとぎこちないけど普通に会話できる。
重ね重ね言うけど、私は断じてそう言う趣味じゃない。ただあの時は、なんか不思議と美空がすごく可愛くて……ってそうじゃない!もう忘れる忘れる!
メンバーは光輝くんを筆頭として勇者パーティ、龍太郎くん、攻略に参加したメンバー、王様と重鎮にイシュタルさんと司祭が数人。
そして……
「………遅いですわね」
その女性が、わずかに唇を動かして小さくボソリと呟く。その行動だけで、整列している兵士の人たちが感嘆のため息を漏らした。
彼女は、とても人間とは思えないような美貌を持っていた。ただそこにいるだけで、人を魅了するとはこのことか。
細く長い睫毛と、透き通るような大きい碧眼の瞳。スッと通った鼻筋に、薄く紅色に彩られた薄い唇。それら全てが完璧な配置でかみ合わさっている。
嫉妬するほどすらりとした長い足を黒いズボンで包み込み、その上から上品な光沢を持つロングブーツを履いている。
もしかしたらベルナージュ様より美しいかもしれない彼女の名前は……御堂英子。そう、あの日皆を指揮し、生還させたクラスメイト。
黄金に変わった髪の下に隠れていた美貌を露わにした彼女は、あの事件の功労者としてここに参加していた。
この場にいる誰よりも貴族らしい上品な雰囲気を放つ彼女を不思議に思いながらも、誰もがその美しさに目を奪われて何も言えない。
「はぁ……いつまでも立って待たされるものの身にもなってほしいですわ」
「御堂さーー」
「帝国の使者様がご到着致しました!」
話しかけようとしたその瞬間、扉が開いて使者の人たちが入ってきた。やむなく話かけるのを中断する。
入ってきたのは、全部で五人だった。使者の人とお付きの人が三人、そして護衛らしき男の人が一人。
やってきた帝国の使者の人たちを、ハイリヒ王が前に出て出迎えた。
「使者殿、よく参られた。勇者がたの至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」
「ハイリヒ陛下。この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」
そう言って、私たちを見渡す使者の人と四人。全員を値踏みするように見つめ、そしてやはりと言うべきか御堂さんで止まった。
ぽかんとした顔で、御堂さんを見つめる使者の人たち。他の国の人でもあの美貌は虜になるみたい。私は前に一度見たからちょっと慣れてるけど。
「……何か?」
対する御堂さんは、ほぼ無表情で冷たい声を出した。その目からはまったく使者の人たちへの関心を感じない。
使者の人たちは慌ててなんでもないことを伝え、そこでタイミングを見計らって王様が光輝くんを紹介した。
促して前に出た光輝くんの顔は、この世界に召喚された時とは比べ物にならないほど精悍なものになっている。あ、御堂さんが嫌そうな顔した。
あの顔を見たら、ここにはいない王宮の侍女とか貴族の令嬢さん、居残り組のファンの子達がキャーキャー言いそうだ。あ、御堂さんが舌打ちした。
「俺が勇者の、天之河光輝です」
「ほう、あなたが勇者ですか。随分とお若いですが……本当にあのベヒモスを倒して六十六層に到達したので?」
イシュタルさんが見ている手前、あからさまにはしないものの、疑わしそうに光輝くんを見る使者の人。
護衛の人に至っては、まるで宝石の価値を確かめるように上から下までジロジロと見つめ回す。光輝くんは居心地悪そうにしていた。
それから光輝くんがどうやって倒したか話すや、六十六層のマップを見せるなどいろいろ提案したが、使者の人はそれを断った。
その代わりに、護衛の人と戦うことでその力を証明することになる。なので、全員で訓練場に移動した。
そして護衛の人と光輝くんが戦ったが……正直に言って、護衛の人の卓越した戦闘技術に翻弄されて、あまり良いところのないまま終わった。
途中奥の手の能力を三倍に上げる技能も使ってたけど、それすらも護衛の人は上回っていた。さすがは帝国の人だなと思った。
え?描写が短い?それはまあ……巻きってことでby作者
「ま、異世界から来た勇者だけあってスペックは高いが、まだまだ経験が足らんな」
「くっ……」
肩に刃引きした大剣を担いでそう言う護衛の人に、光輝くんは悔しそうに歯噛みしながらも引き下がる。
「では、これで模擬戦を終わり……」
「いや、待ってくれ。一つ頼みたいことがある」
終わりを告げようとしたイシュタルさんに、護衛の人が制止の声をあげた。一体何かと護衛の人を見るイシュタルさん。
「頼みたいこととは?」
「ああ……そこのお前。俺と戦え」
そう言って、護衛の人は観戦していた私たちのうち一人を指差した。自然と全員がそちらの方を見る。
護衛の人が指差したのは……光輝くんの戦いの間ものすごく退屈そうにしていた、あくびをしている御堂さんだった。
なぜ勇者である俺より、といった顔をする光輝くんを、雫ちゃんがまあまあと宥める。そうしているうちに、御堂さんは自分が注目されていることに気づいた。
「……なんですの?あなた方のような凡愚に私の美貌を見られても、ちっとも嬉しくないのですが」
「ハハッ、こりゃ随分とプライドの高い女だな」
「ああ、終わってましたのね。あまりにも早いからまだ始まってもないのかと思いましたわ」
思いっきり光輝くんを馬鹿にした御堂さんに、空気が凍りつく。しかし、護衛の人だけは大声をあげて笑った。
「ハハハハハッ!そうもあっさりと勇者を弱いと言うとはな!俄然やる気が出た……俺と戦ってくれるかい、お嬢様?」
「……まあ、いいですわ。ちょうどどこぞの愚か者がつまらないものを見せたせいで、退屈していましたもの」
椅子から立ち上がった御堂さんは、スタスタと訓練場のステージに上がる。そして上着を脱ぎ、私の方に放った……って私!?
「わっ、とと!」
「白崎さん、それを頼みますわ」
「え、う、うん」
困惑しながらも答えると、ちらりとこちらを見た御堂さんは「感謝しますわ」とだけ言うと護衛の人に目線を戻した。
上着を脱いで露わになった御堂さんの体は、案の定と言うべきかとても理想的な女の子……いや、女性の体つきだった。
細いながらも程よく肉が付いていて、男の子だったら多分釘付けになるだろう。ただ、腕につけた不思議な腕輪が気になるけど……
先ほどまで光輝くんがいた場所に立った御堂さんは、どこからともなく槍とナイフ、そして鞭を取り出す。どこに入れてたんだろうあれ。
取り出した武器のうち、槍とナイフを訓練場の地面に突き刺す。そして軽く首を回して、護衛の人に手招きした。
「さあ、どこからでもかかってきなさい」
「おお、それじゃあお言葉に甘えてっ!」
次の瞬間、凄まじい速度で護衛の人が走り出す。そして大剣を両手で握って攻撃を……
パァンッ!
仕掛ける前に、空気の弾けるような音とともに吹っ飛んだ。訓練場の壁に激突し、「ガハッ!?」と血を吐く護衛の人。今、何が!?
バッと御堂さんの方を振り向くと、その手に握られていた鞭が地面の上に伸びていた。まさか、あれで叩いたの?
「もっとも、近づくことは許可いたしませんが」
「………あいつ、やべえ」
軽い口調で言う御堂さんに、隣に座っていた龍太郎くんが苦しげな声で呟いた。すぐさまそれに反応して聞き返す。
「もしかして、見えてたの!?」
「ああ、つっても初動だけだけどな。あの女、あの男が動くのと同時に六回も鞭を振ってやがった。いや、もしかするともっと多いかもしれねえ」
「……本当に?」
あの一瞬で、六回も?私の目には、ただ御堂さんが立っているだけのように見えた。
「あいつ、なんで今まであんな実力を隠してやがった……?」
「……龍太郎」
「なんだ雫、お前も何か……」
「あなた、そんなに詳しく解説なんてできるようになったのね」
「なあ俺怒っていいか?怒っていいよな?」
ピキピキと青筋を立てる龍太郎くん。あわあわと鈴ちゃんが慌てた。ていうかなんか「あの顔、ちょっといいかも……」とか言ってる。鈴ちゃんあんなキャラだったっけ?
「く、ははっ……」
「あら、案外タフですわね。気絶させるつもりでやったのですが」
「いや、実際気を失いかけた。危ないとこだったぜ、実はお前が勇者とかいうオチじゃねえのか?」
「あいにく、あんなのと一緒にされるほど落ちぶれてはいませんわ」
「ハッ、言うねえ」
やれやれ、と首を振る御堂さんに、座って見ていた光輝くんがむっとした。まああんなの呼ばわりされたら、誰でもそうなると思う。
「では、その根性を評して特別にもう一度だけチャンスをあげますわ。今度は殺す気できなさいな」
「もう一度、か……さっきそこの勇者に戦場で次はないと言ったが、まさか自分が言われるとはな!」
だらんと大剣を持った手を垂らした体制から、護衛の人が突撃する。またしても空気を叩く音がするが、今度は防いでいた。
私には全く見えない攻撃を、的確に大剣で弾いて近づいていく。残り三メートルほどまで近づくと、御堂さんは感心したような顔をした。
改めて見ると、すごい。光輝くんのときも思った(なんかカットされたような気がしたけど)けど、かなりの回数戦ってきたのがわかる動きだ。
「へえ、なかなかやりますわね。これでも三割は出しているのですが」
「これで三割とか、とんだバケモノだな!だが、そう余裕をこいていられるのも今のうちだ!」
そう言った途端、護衛の人は跳躍して鞭を交わす(多分)と、凄まじい速度で接近して御堂さんに斬りかかった。
ギンッ!!
しかし、それは進路上に差し込まれた鞭の柄頭によって滑り、代わりに護衛の人の腹に御堂さんの長い足がめり込んだ。
「ガッ……!?」
「褒めてあげましょう、私にここまで近づいたこと。その褒美に……死ぬ寸前までいたぶってあげますわ」
スパパパパッ!!!
御堂さんの体がぶれて、護衛の人が空中で浮いたまま体を暴れさせる。いや、あれはもしかして攻撃を受けてる?
なすすべなく攻撃を受ける護衛の人は、最後のパンチで地面に転がった。全身ボロボロで、今にも気を失いそうだ。
「ゴホッ、ゴホッ……」
「まだやりますの?」
「……いーや、降参だ。これ以上やっても勝負は見えてるからな」
「そうですの。まあ、そこそこ楽しめましたわ。感謝いたします」
この世界で何度か見た貴族の人の礼をすると、御堂さんは武器をどこかにしまう。だからあれどこに入れてるんだろう。
御堂さんが手を貸して、護衛の人が起き上がる。そうすると御堂さんが護衛の胸に手を置いて、ブツブツと何か呟いた。
すると、突然護衛の人の体が淡い緑色の光に包まれて、怪我が治っていく。私や美空でもないのに、治癒魔法をつかった?
「こいつは驚いた。まさかこんなことまでできるとはな」
「これくらい、当然ですわ。それよりも……その平凡な仮面をそろそろ脱いではいかが?」
「……バレていたか。やれやれ、どこまで規格外なんだか」
そう言って、護衛の人が耳につけていたイヤリングを外す。
その瞬間、まるで霧がかかったように周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全く別の人が現れた。
四十代位の野性味溢れる男の人だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。
姿を変えた男の人を見た瞬間、王国と教会の人たちがザワザワとする。もしかして、偉い人だったりするのかな?
「こいつで満足か?」
「ええ。美しいものは美しい姿でいることが義務ですわ。せっかく見た目がいいのですから、そのままでいなさいな」
「今度は義務ときたか。どこまでも面白いことを言う奴だ」
そんな中、呑気に会話をする二人。そんな二人に、呆れ顔に見えるイシュタルさんが近づく。
「手酷くやられましたな、ガハルド殿」
「よおクソジジイ、やっぱりテメエも俺に気づいていやがったか」
なんだか知り合いっぽい雰囲気のイシュタルさんたちに、私は首をかしげる。一体どう言う立場の人なんだろう。
「ねえ龍太郎くん、あの人が誰だかわかる?」
「まあ、一応な。ガハルド・D・ヘルシャー。帝国の現皇帝だ」
「えっ!? 皇帝様?そんな偉い人が、ここに来たの?」
「ああ、なんでもすげえフットワークが軽いらしくてな、こう言うのは日常茶飯事だとか」
私が驚いていると、ハイリヒ王様が眉間を揉み解しながら近づいていった。
「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」
「これはこれは、エリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」
うん、あれ全く反省してないね。流石の私でもわかるよ。王様とイシュタル様もやれやれって顔してる。
「……まあ、いいでしょう。それで、勇者殿を認めていただけますかな?」
「ああ、まあいいんじゃねえか?まだ甘いところもあるが、まあそれは今後に期待ってことで」
うわー適当な口調だなー。すごく棒読みで言ってる。
「それより……おい、お前。名前はなんて言うんだ?」
「あら、これは申し遅れましたわ。私は……そうですわね、〝ネルファ〟とでも呼んでくださいまし」
「ほう、ネルファか……お前、俺の妾になるつもりはないか?俺としてはお前のような強者をそばに置いておきたいんだが……」
「あいにく、もう心に決めた人がおりますの。ですから遠慮させていただきますわ」
「それじゃあ仕方がねえな。ま、今は諦めるさ」
それでは御機嫌よう、とこちらに歩いてくる御堂さん。慌てて立ち上がり、預かっていた上着を渡した。
その後、用意されていた晩餐会が開かれて、その時にもう一度皇帝様は光輝くんを勇者として認めると言った。
そして次の日、皇帝様と使者の人たちは早々に帰っていった。龍太郎くんに聞いた通り本当にフットワークが軽いみたいだ。
まあその朝、私たちと一緒にシューくん考案の訓練をしてた雫ちゃんを見てわりと本気っぽく愛人に誘ったと言う事件があったけど。
でもその時、息がつまるほどの殺気が周囲一帯を包み込んで、それが収まった後雫ちゃんが断ると割りとすぐに皇帝様は引っ込んだ。
後で聞いた話だと、あの時皇帝様はありとあらゆる方法で同時に何万回も暗殺される幻覚を見たらしい。多分、どこかにいるシューくんの仕業だろう(断言)。
でも、それよりも私は、あの御堂さんの尋常じゃない実力が気になって仕方がないのであった。
次回からは二章です。
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