星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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こんな深夜に失礼しますっと。

ども、作者です。

楽しんでいただけると嬉しいです。


超越体(ヘラクレス)

 

 

 

 

 

 

「ヴァネッサ! 彼女達と共に出来るだけ離れたまえ!」

「我が神よ、これは!」

「ああ……どうやら、相当なじゃじゃ馬が出てきたようだ!」

 

 油断なく、ベルセルクスマッシュとも言うべき怪物を見上げる。

 

 肉体は戦闘への意識を高めつつ、心では浩介が思考を回転させていた。

 

 

 

(まさか、スマッシュになるなんて……さっきの様子からして、体内に何か仕込まれてたのか?)

 

 

 

 ネビュラガスと思しき物質を体内から奔出させていたのを思い返し、分析する。

 

 何故、キンバリーにベルセルクとネビュラガスが。彼らの裏にいた者の仕業だろうか? 

 

 だとしたら、こちら側の誰が関わっている? これも彼からの試練? それとも不測の事態か? 

 

 この僅か数分で、一気に事情が難解となった。

 

『オオォォオオオ────!!』

「考えを深める時間はないようだなっ」

 

 体が馴染んだのか、素早くアビスゲートを認識した怪物は攻撃を仕掛けてきた。

 

 某進撃する巨大生物の特殊個体のように装甲を纏った腕が、唸りをあげて振り下ろされる。

 

 当然、軽やかなステップで回避する卿だが、地面に突き刺さった拳が数メートル規模の陥没を作るのを見て眼を細めた。

 

 どうやら、パワーは正規のスマッシュ並。すぐに卿を捉えたことからして、知覚能力はそれ以上。

 

 一撃でも当たれば、卿でも大怪我は必須だろう。

 

「これは骨が折れそうだな……!」

『オオオォォォオオッ』

 

 次々と迫り来る拳の嵐を避けながら、分身を操ってシャロンを含めた局員達を運んでいく。

 

 わざわざ交渉までしたのだ、ここで巻き込まれて死なれては殺さなかった意味がなくなってしまう。

 

 それなりの重傷をこさえた彼らを慎重に運搬しつつ、ベルセルクスマッシュの観察を開始する。

 

 

 

(ふむ……何度かカウンターで蹴りを入れてみたが、装甲の強度は折り紙つき。その下の筋肉もかなりの厚みだ。関節部を狙うのが妥当か?)

 

 

 

 試しに、拳を空ぶったベルセルクスマッシュの背後に回る。

 

 分身を前面に残し、そちらに意識を促しながらうなじめがけて一閃した。

 

 抜群の切れ味を誇るナイフは、卿の技術を遺憾無く発揮させ、太い首を半ばまで切り裂く。

 

『ガッ……アアァアアアア!!』

「ぬっ!」

 

 だが、死ぬことはなかった。

 

 生々しい音を立てて肉が盛り上がり、あっという間に傷が再生したのだ。

 

 ベルセルクによる細胞の異常活性化。厄介な能力だと、裏拳をマ◯リックスムーブで躱しながら観察する。

 

「ふっ、だが面白い! よもやこのような余興が待ち構えているとはな!」

 

 仮面の下でニヒルに笑い、手をかざす動きをしながらベルセルクスマッシュの背中を蹴る。

 

 そのまま頭を踏み、宙返りしてベルセルクスマッシュの前に着地すると香ばしいポーズを取った。

 

 極め付けに、ナイフを揺らめかせながら一言。

 

「さあ、ワルツを踊ってやろう。理性なき野獣には、美女ではなく死の影がお似合いだろう?」

『オオォオオオオオッ!』

 

 理性が残っているとは思えないが、舐められていると直感したのか咆哮する。

 

 

 

 

 ビリビリと空気を震わせる雄叫び。それはグラント家を退避させたヴァネッサにも届いた。

 

 ビルの入り口で待っていた卿の分身に一家を任せ、現場に戻った彼女は戦いの様子を伺う。

 

「っ、あれは……!」

 

 そこでは、常軌を逸した戦闘が繰り広げられていた。

 

 ベルセルクスマッシュが一撃放つ度、その場にある物全てが破壊されていく。

 

 拳でガラス細工のように重装甲車を砕き、蹴りが回避した卿の背後にあった柱を一撃でへし折る。

 

 少しでも擦れば、自分ならばその時点で挽き肉となっているであろう暴力の嵐。

 

 それに、特殊なベルセルクの動きに見覚えがある。キンバリーの格闘術と同じものだ。

 

 どうやらあれは、単に力任せな暴れ方をするのではなく、ある程度の知性を残しているらしい。

 

 だが、最も異様なのはそれを相手する卿であろう。

 

「ワン、ツー、スリー! そらそらどうした、動きが噛み合っていないぞ!」

『グガァアアアゥ!』

「ハーッハッハッハ! その程度か!」

 

 カツン、カツンという足音が、卿がステップを踏む度に響いている。

 

 腰布を翻し、まるで舞踏でもしているかのような動きでベルセルクスマッシュを翻弄していたのだ。

 

 月明かりの下、影と野獣が踊るように戦う様は、まるで某ミュージカル映画の如く。

 

 どちらが格上なのかは明白。たとえ卿を捉えていたとしても、当たらなければどうということもない! 

 

「これは、なんと圧倒的な……」

「おや、ヴァネッサではないか。お勤めご苦労。そこで我が踊りを採点でもしてくれたまえ」

 

 地面を貫いた柱のような右腕の上に乗りながら、卿が告げる。

 

 一拍遅れて絶叫したベルセルクスマッシュが掴もうとするが、そこにもはや影は無く。

 

 心配する事すら烏滸がましい。そのことを理解したヴァネッサは、更なる畏敬の念を自覚した。

 

「ふむ。大体のスペックは知れた。常人が相手であれば、一秒も保つまいよ」

 

 分身ではなく残像が見えるほどの速度で回避しながら、暴れまくるベルセルクスマッシュを見る。

 

 鍛え上げられた観察眼は、既にこの新種の怪物の攻略法を編み出すだけの情報を解析している。

 

 あとは……

 

「む。全員運び終えたな。これは都合が良い」

 

 一人残らず、局員を安全圏まで運搬し終えた。

 

 分身からそれを知った卿は、いよいよ以って最後の段階を始めた。

 

「では野獣よ、不格好だが良いダンスであった。そろそろ終いといこう」

『グルァアアアアッ!!』

 

 真正面で立ち止まった卿へ、ベルセルクスマッシュは剛腕を振り下ろす。

 

 突然立ち止まったことに、シャロンや目覚めた局員達が、まさか体力切れかと息を呑んだ。

 

 ただ一人、ヴァネッサだけは何かを確信しているように傍観する中で──ベルセルクスマッシュが、止まった。

 

 

 

 

 卿が潰される様を想像していたシャロン達が、怪訝な顔になる。

 

 ヴァネッサはというと……ニヤリと、無駄にクールな笑みを浮かべていた。

 

『ガ、ァ……!?』

「どうだ? 動けぬだろう?」

 

 不自然な姿勢で静止したベルセルクスマッシュへ、卿が語りかける。

 

 怪物のその体には──闇に溶け込むような黒い金属糸が、所狭しと張り巡らされていた。

 

 全てが絶妙に噛み合ったそれらは、ベルセルクスマッシュがどれほど力を入れようとも逃さない。

 

「この我が、単に貴様の不恰好な踊りに付き合ってやるわけがなかろう?」

「流石は我が神! 全て計算づく、あの怪物ですら赤子の手を捻る程度とは! やっべ、超カッコいい!」

 

 妙にハキハキとした顔で叫ぶ駄ネッサさんは、もう完全に駄ネッサさんだった。

 

『グ、ギ、ギギギィ……!』

 

 なんとか抜け出そうとするベルセルクスマッシュへ、もったいぶった動きで指を鳴らす。

 

 すると、怪物を取り囲むように現れた分身達が円陣を作りあげた。

 

 先ほどの事がトラウマになったのか、シャロン達が渋い顔をするのを感じながら手を上げる。

 

「では逝くがよい。哀れな小悪党の成れの果てよ」

 

 手が振り下ろされた瞬間、分身が一斉に矢を発射。

 

 全身の関節に突き刺さった無数の痛みに、ベルセルクスマッシュが怒りを喚き散らす。

 

「深淵に呑まれよ」

 

 意味をなさない叫びを聞き流し、手元のアーティファクトにあるスイッチを押し込む。

 

 

 

 

 瞬間、炎の花が無数に咲いた。

 

 爆発矢が作動し、次々とベルセルクスマッシュの肉体を内部から破壊していく。

 

 足の指先から頭部に至るまで、連鎖的に吹き飛んでいく矢に巨体が右へ左へと揺れた。

 

『ガ、ァ……』

 

 全てが爆発した時、ベルセルクスマッシュは見るも無惨な姿と成り果てる。

 

 焼け焦げた肉と、金属のような匂い。それが立ち上る煙から強く香る。

 

 全身の装甲は粉砕して剥がれ落ち、飛散した矢の破片によってズタズタに切り裂かれている。

 

 臓器を全て破壊されたのか、声も上げずに膝をつき……そして、倒れる。

 

 いくら待っても、ベルセルクスマッシュが起き上がることは二度となかった。

 

「再生能力があるのならば、その暇もないほど脳から心臓に至るまで全身を破壊してしまえばいい。理に適っているだろう?」

 

 フッ、と得意げな笑いを零し、アビスゲート卿は炎の残滓を背後にポーズを決めた! 

 

 シャロン達の顔が引き攣る。ヴァネッサの目がキラキラと輝く。エミリーからの冷めた視線が浩介に痛い。

 

 

 

 ……パキッ

 

 

 

 そんな彼らの前で、ベルセルクスマッシュに異変が起こった。

 

 ひび割れるような音を立てた死体に、敏感な反応をして構える卿ら。

 

 だが予想していた事態は起こらず、みるみるうちにひび割れた死体は全身を崩壊させた。

 

 地面に破片が転がり、その際のごく僅かな衝撃で砂に変わってしまうほど。

 

 静かな幕切れに、全員が拍子抜けする。

 

 その中で、慎重な足取りで砂の小山に歩み寄る卿。

 

「……一体、何が起こったというのだ」

 

 ベルセルクスマッシュだったものを一掴み掬い、じっと見つめる。

 

 表面上はアビスゲートのおかげで冷静を保っているが、浩介としてはかなり困惑している。

 

 

 

 追い討ちをかけるように、甲高い電子音が響く。

 

 

 エミリーが「ぴぅっ」とモスキート音のような悲鳴を漏らして飛び上がった。

 

 素早くそちらを振り向けば、ひしゃげた車の側に落ちた携帯の着信音だ。

 

「あれは……キンバリーの端末?」

「最初に暴れた際に、衣服から零れ落ちたようだな」

「我が神……」

 

 こちらを見てくるヴァネッサとシャロンに、小さく頷く。

 

 最大限に警戒しながら近づき、携帯を手に取る。

 

 

 

 

 表示された番号は、非登録のもの。

 

 おそらくはキンバリー達の背後にいる……彼をベルセルクスマッシュに変えた、何者かだろう。

 

 卿は懐から自分の端末を取り出し、逆探知と声帯解析機能をそれぞれ立ち上げる。

 

 キンバリーの携帯だったものと接続を確認すると、こちらにやって来たシャロンに差し出した。

 

「出たまえ、局長殿。我より貴殿の方が相応しい」

「……いいでしょう」

 

 卿の手から、スマートフォンを取るシャロン。

 

 少し時間を置いた後、応答ボタンを押した彼女はスピーカーモードで対話を始めた。

 

「国家保安局局長、シャロン=マグダネスよ」

『お初にお目にかかる、マグダネス局長。生ける伝説と話せるとは光栄だ』

 

 端末から聞こえて来た声は、ボイスチェンジャーによって隠蔽されていた。

 

 まあ、その程度なら卿の端末で引きはがせる。会話を長引かせるようジェスチャーした。

 

「お世辞をどうも。貴方は?」

『そうだな……ゼウス、とも言うべきか?』

「……ギリシャ神話の主神気取りとは、大きく出たものね?」

『はは、これは手厳しい。だが人外の存在の生みの親という意味では、相応しいだろう?』

 

 空気が張り詰める。

 

 全員の脳裏に、先ほどまで暴れまわっていた異常なベルセルクの姿ががよぎった。

 

『どうだったかね、我らの最高傑作は? 名づけるならば狂戦士を超えた怪物……超越体(ヘラクレス)とでも呼称しようか?』

「…………あれは貴方が?」

『素晴らしいだろう? ベルセルクの力に、()()()()からの技術を組み合わせた生物兵器だ。通常のベルセルクより何倍も性能が良い』

 

 まるで一部始終を見ていたように語るゼウス。

 

 どこかで観察していたか、あるいは超越体(ヘラクレス)に何か仕込まれていたのだろう。

 

 人を人とも思わない、道具の性能を語るような言葉にエミリーの目が釣りあがっていく。

 

「自慢話を聞くつもりはないわ。目的は何?」

 

 バッサリと切り捨てたシャロンに、一瞬電話の主が押し黙る。

 

 それから、ノイズ混じりのため息を吐いて返事をしてきた。

 

『ちょっとした雑談にも付き合う遊び心がないことは残園だが……まあいい。我々の目的はたった一つだ。グラント博士の身柄を引き渡せ』

「…………そんな脅迫に頷くとでも? テロリストとは交渉をしない。常識よ」

『いいや、頷かざるをえないだろう。何せ、いつどこでベルセルクが覚醒するか分からないのだからな?』

 

 さらりと告げられた言葉に、全員が息を呑んだ。

 

 ベルセルクを摂取しているのはキンバリーだけではない。そして相手は、好きな時にそれをできる手段を持っている。

 

 押し黙った彼らを見透かしているように、電話の向こうで嘲笑う声が響く。

 

『まさか局長殿は、市民の命を悪戯に散らすことはすまい?』

「…………下衆め」

『私はただのビジネスマンだよ。営利の為に動いているに過ぎない。その為ならばいくらでも犠牲(リスク)を出す。これは取引、有効なカードを切るのは当然だろう?』

 

 つまり、その為であればどれだけの命でも害してみせるということ。

 

 シャロン達が歪な価値観に辟易とする中、アビスゲート卿も拳を握りしめる。

 

 

 

(……必要な犠牲。言うやつが違うだけで、ここまでクソみたいなセリフになるとはな)

 

 

 

『どうするかね?』

 

 シャロンは、エミリーを見る。

 

 顔を青ざめさせた家族に、守られるように抱きしめられた彼女はその目をしっかりと見返した。

 

 彼女の瞳には揺らがぬものが宿っている。それを確かめた彼女は、今度は卿を見た。

 

 エミリーも彼を見て……信じるように、頷く。

 

 卿はそれに、はっきりと頷き返した。

 

「いいわ。エミリー=グラントを引き渡しましょう」

『英断だ』

 

 優越感に浸った声質で、ゼウスは答える。

 

 

 

 

 引き渡し場所と方法を伝え、電話は切られた。

 

 ふぅ、とひとまず全員が息をつく。そして卿に目線を向けた。

 

 しかし、彼は一同にノイズのかかった端末の画面を見せた。

 

「ジャミングだ。どうやらそれなりの対策ができるらしい」

 

 

 

(それも、この世界では最高峰ともいえる組織の端末を妨害できるレベル……そんな相手は、一つしかない)

 

 

 

 こちらの〝組織〟に、あちらへ協力している勢力がある。

 

 いよいよ、今回の事件は卿だけでどうにかする必要があるようだ。

 

「だが、声帯解析は一瞬早く終わった。データは提供する。大いに活用してくれたまえ、局長殿?」

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

 シャロンに満足したように頷き、卿は端末を握り締めると仮面の下で鋭く目を尖らせる。

 

 ここからは本気だ。スマッシュも絡んできたとなれば、気を引き締め直さなければならない。

 

「この深淵卿、人を人とも思わぬ外道に、この世で最高の恐怖を贈ってやろう」

 

 ナイフのような切れ味を持つその言葉に、シャロンとエミリー達グラント家は苦笑した。

 

 若干一名、「マジやっべ、神」とか呟いて恍惚としているSOUSAKANがいたが、気にしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて。これでゲームが面白くなるな、浩介?』

 

 端末を投げ捨て、物陰で笑った蛇が音もなく消えた。

 

 





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