ちょくちょく更新再開。
後日談まで読んでくれている方々、毎回ありがとうございます。
(監視カメラの映像は?)
(その階のは軒並み削除済みだ)
(完璧だな)
俺の痕跡は消した。
受付のお姉さんも、デスクへ仕込んだアーティファクトで忘れている頃だろう。
後は……目の前のクソ野郎をどうにかすれば、ここでの仕事は終わりだ。
「質問を終了する」
「もういいのかい? ご苦労様」
「あんたもな」
端末の録音を止める。
本当、〝組織〟に恐れをなしてベラベラ喋ってくれて助かったよ。
こっちの証拠は押さえた。分身の方はうまくやっているだろうか。
(データの奪取は?)
(今、手頃なUSBに移してるところだ。もう少し時間が欲しい)
(わかった)
それなら……と、ちょうど良いな。
あることに気付いて内心ニヤリと笑っていると、デスクの上の端末から甲高い音が鳴った。
機嫌がよさげに笑っていたケイシスは、端末のボタンを押すと通話を繋げる。
「どうした?」
『裏口の守衛から連絡です。やって来ました』
それを聞いた途端、ケイシスは蛇のように卑しい笑みを浮かべた。
「そうか。連れてこい」
『はい』
短い応酬が終わり、ケイシスはこちらへ自慢げな顔を向けてくる。
正直ぶん殴りたいところだが、合わせてそれっぽい笑みを浮かべておいた。
「どうやら、今日の主役がやって来たようだ。君も見ていくかい?」
「そうだな。事の仔細を把握するのが俺の仕事だ」
「是非ともよろしく頼むよ」
これから起こることを想像し、愉悦に目元を歪ませる。
その醜悪さには吐き気を催すものがあり。そして、自分の絶対的優位を疑っていないものだった。
──それが最大のミスだとも、気がつかずに。
「ああ、見届けてやるよ。三下悪役の、くだらない最後をな」
「……何?」
瞬時、ケイシスが肘をついて組んでいた手を取り、手首に装置を取り付ける。
機械的な音を立て起動したアーティファクトは、一瞬で展開してデスクに両腕を拘束した。
奴は驚いたものの、一瞬で俺への仲間意識を捨て、細目を見開いて睨んでくる。
「これは何の真似かな? 君の上司の意思なのかい?」
「生憎と、立場的には対等でね。それに今回は俺の独断行動だ」
最も、知らないうちに転がされてることはあるけどな。今回みたいに。
やりたくもない演技を収めた途端、スカッとした。うん、やっぱりあんま好きじゃないわ。
一人勝手に開放感に満たされていると、こわばった顔をしていたケイシスが表情を変える。
先ほどのように、厭らしく。まるでこちらをあざ笑うかのように。
「……なるほど。保安局と共に
「察しがいいな」
「保安局に鞍替えしたのかい? それとも、あの小娘に誑かされたのかな?」
「答えるなら、どっちもノーだ。徹頭徹尾、仕事だよ」
……エミリーとかヴァネッサのことは置いといて。マジであの二人どうにかしないと。
具体的には、ラナにバレる前に。もうボス経由でバレてる気がするけど。
下手なラノベ主人公かよ、と自虐をボヤきつつ、ケイシスを見下ろす。
「仕事、ね。……だが、いいのかな?」
「……何のことだ?」
「まさか僕が、あの扉一枚だけで何の対策もしていないと思っているわけではないだろう?」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべつつ、何かあることを匂わせてくる。
こいつの言う通り、対策無しに保安局と遣り合おうとしてたとは思ってなかった。
「オフコース。こっちも入念な下準備をしているさ」
「何だと?」
パチン、とフィンガースナップを一つ。
すると、周囲の空間から滲み出るように黒い魔力を纏った金属糸が現れた。
ゆらゆらと揺れ動くそれらは部屋中に伸びており、俺の意思に従って動き始める。
壁や天井が壊れ、そこに隠れていた数人の刺客を引きずり出した。
悲鳴をあげて地面に転がった彼らに、ケイシスはひどく驚いた顔をする。
「馬鹿な、これは……」
「あとは……こいつか?」
スーツの袖を変形し、糸状にしてケイシスの服の中を探る。
気持ち悪そうに身じろぎする中年男、という誰得な光景をなるべく見ないようにしつつ、胸の内ポケットから端末を取り出す。
手元に引き寄せ、画面をタップすると何かしらのタイマーと、パスコードを打ち込む画面が出てきた。
「さしずめ、すでに薬を飲んでいる人間の〝起爆装置〟か」
「残念、少し違う。正確には解除コードだよ」
「……さっきの話から察するに、爆発されないようにコントロールする信号を発信し続けるってことか」
「わかっているじゃないか。そしてコードは私しか知らない。理解したならば、大人しくこの装置を……」
「ホイっと」
端末をかざし、ハッキングアプリを立ち上げる。
本来は高度にロックされたファイルや電子鍵に使うものだが、応用も可能だ。
ほんの数十秒でその起爆装置のプログラムを解析し、履歴から完全解除するコードを発見。
おそらく起動実験時の残存データだろう。表示されたそれを打ち込めば、タイマーが停止した。
「これで終わり。あんたは完敗だ」
端末を見せつけ、勝利宣言をして心を折っておく。
呆気に取られていた奴は、数分ほど間抜けに口を開けていたが、やがて諦めたように嘆息する。
「流石だね。〝組織〟の技術は、僕どころかヒュドラをも上回っているようだ」
「……やけに素直だな」
妙に物分かりの良いケイシスを不審に思い、念のため警戒しながら見る。
すると、蛇男は腕を拘束されたまま器用に肩をすくめてみせる。
「言っただろう? 僕はビジネスマンだ、まず何よりも損得で物事を考える」
「つまり?」
「もし君が来なくても、用が済んだらあの怪物に消されるような気はしていたからね。それならこのまま、保安局に捕まった方が生き残れる確率が高いと考えたまで」
……やっぱりこの男、赤い蛇に会っている。
「ヒュドラに口封じされる、って可能性も……いや、確実に消されるぞ」
「上層部はありもしない神秘に囚われた耄碌者ばかりだが、それでも君達と事を構える危険性くらいはわかるだろう。君は独断だと言っていたが、
こいつ、案外頭切れるんだな。
言動も性根も完全に三下だが、だからこそ生き残る知恵は回るらしい。
俺としても、好き好んで人を殺す気はない。それがどうしても必要な時以外は。
「まあ、散々に絞られるだろうが……それで済むのをありがたく思えよ、クソ野郎」
●◯●
「お心遣い痛み入る、と言っておけばいいのかな?」
「おう。……と、早速だ」
何やかんやと話してるうちに、本命がやってきた。
扉の前に複数の気配を感じた。直後、向こう側から通信が入る。
『ボス、ウディです。連絡した通り、ただいま到着致しました。グラント博士をお連れしています』
「ようやく来たか。今、開ける」
返答したケイシスは、通話を切って扉を開放した。
それからこちらにウィンクをしてくる。おっさんのウィンクとか、世界一もらっても嬉しくない。
スルーしているうちに、黒服の男と一緒にエミリーが入ってきた。
そして、俺を視界の納めた途端に張りつめさせていた表情をパァッと輝かせる。
「こうすけ!」
「ようエミリー、全部終わってるぞ」
キラキラとしていたエミリーは、ハッとして俺の奥にいる拘束されたケイシスを見る。
奴は色々と諦めているのか、やけに凝った作り笑いを浮かべてみせた。
「やあエミリーちゃん、僕はケイシスだ。多分会うのはこれが最後だろうけど、よろしくね」
「……あんたが【ベルセルク】をばら撒いて、キンバリーをあんな風にしたの?」
「全てはビジネスだよ。まあ半分は……」
意味深にこちらへ目配せしてくる。
エミリーが俺の方に向き直って、不安そうに眉を落としてしまった。
……ケイシスが言わんとしていることは、聡い彼女ならば少ない言葉でも分かってしまうだろう。
それ以前に、局長さん達の前で名乗った時点で薄々と察しているかもしれない。
だが、それでも俺に希望を見出す色が消えることはない。
だったら俺が取る行動は……気が抜けたように笑っていることだけだった。
「まあ、今は信用してくれ」
「……うん!」
キュッと胸の前で手を握り、何かを考えたエミリーは笑って頷く。
それから、こっちにパタパタと駆け寄ってきてくっついてきた。女の子特有の香りがする。
「ちょ、おい」
「えへへ」
「……僕は何を見せられているのだろうね?」
「まあまあ、お嬢は熱烈ってことで」
「……ウディ。君は寝返ったのか」
どうやら黒服さん(昼間に店へ来た人)、ウディっていうらしい。
既に分身が処理済みの彼は、強面にニヒルな笑みを浮かべた。
「まあ、俺もサラリーマンなんでね。雇用条件がいい方に行くのは当然でしょう?」
「ほう? ということは、〝組織〟に勧誘されたのかい?」
興味深げに、ケイシスが眉をひそめる。
そんな元雇い主へ、ウディは得意げな笑みを浮かべて
「クックック、聞いて驚け! なんとぉ、極上のサーモンサンド、一年分だぁあああっ!」
「……………………………………………………ん?」
ケイシスさん、素で理解が追いつかないリアクションを見せた。
悪役の雰囲気も霧散して、聞き間違いかしらん? と首をかしげる。
だが、胸を張っているウディに本気で言っていることを悟ったのか、こちらを見る。
「……これも君の仕業かな?」
「おい、何でもかんでも俺のせいにするな。いや、俺だけど」
「こうすけ……何でこんな風にしちゃったの? そんなにサーモンサンドが好きだったの?」
「……かもしんない」
エミリーにまで胡乱げな目を向けられ、気まずくなって俺は顔を逸らした。
自分の分身体ながら、これはちょっとどうかと思う。催眠の使い所としちゃあ合ってるんだけど……
「ヴァネッサが言ってたわ。『そのうち
「護衛が終わったら、あいつはすぐにお役御免だ」
これ以上活動させておくと、アビスゲート卿に目覚めて分離されそうで怖い。
まあ、ウディの洗脳は後で軽めのものにしておくとして……
「保安局がこっちに向かってる。正式な逮捕状を携えてな」
「大人しく従うことにしよう。ああ、どうせ押収されるだろうから言っておくけれど、ベルセルクに関するデータは机の引き出しに入れた端末の中にあるよ」
「……親切にどうも」
奴の動向に注意しながら、デスクの中を漁って件のものを探し出す。
奴の言葉通り、意味深なUSBが見つかった。
端末を取り出し、外付けのコードでUSBを接続するとデータのダウンロードを始める。
「せいぜい、気をつけるといい」
ウィルスチェックと並行して行っていると、不意にケイシスが声をかけてきた。
端末を覗き込んでいたエミリーと二人で振り返ると、奴は意味ありげに不気味な笑みを向けてくる。
「君がかの怪物と敵対するというのなら、これから臨むものは単なる組織内の諍いではない。──〝戦争〟だよ」
「っ……!」
戦争。そう例えるほどの規模を有する〝何か〟に、エミリーが体を震わせる。
無論、承知の上だ。
たとえこれが茶番だとしても、奴は容赦無く俺を殺しにかかってくる。
……だが。
「生憎と、もう戦争は経験済みなんでな。この程度、サクッと解決してやるさ」
こんなお遊び、あの世界滅亡をかけた聖戦に比べればなんでもないだろう。
覚悟も、準備もできている。今更怖気付く要素など、どこにもない。
「だから、エミリーもそんな不安そうな顔するなよ。俺に任せとけ」
「こうすけ……うん!」
頬を赤く染め、信頼に満ちた笑顔を咲かせたエミリーに、俺は力強く頷くのだった。
「…………ウディ、とびきりブラックのコーヒーを淹れてくれる程度の忠義は残っているかな?」
「すいやせん、俺も一杯いただきます」
外野の声はスルーした。
●◯●
闇の時間。そう呼べる深夜。
暗雲に包まれ、光の消えた空をベランダから見上げていると、センチな気分になる。
「……大事になっちまったなぁ」
今回の件。俺が思っていた以上に複雑で、非常に厄介な事案だ。
いつも通りボスの依頼をこなすだけのものだと思っていたら、みるみる事態が大きくなり。
極め付けには、ファウストまで絡んだ世界存亡の危機ときた。
その全てに、一本の見えない糸のようなものが通っているような気がしてならない。
「……今回、俺の本当の役割はなんだ?」
その糸を手繰っているのは誰か、というには既に答えが出ている。
だが、そうだとしたら尚更に俺がその一部に組み込まれた意味というものがあるはず。
以前、リュールさんの前で披露した憶測。あれはあながち間違いではないだろう。
保安局の企みを長期的に潰せたし、エミリー達からは絶対の信頼を得られた。そこまでは納得できる。
だが、
新型兵器の性能実験? いや、それだけなら使徒でも使ってやればいい。
保安局や裏世界へのパフォーマンス? 一理あるが、おそらくそれは理由の一部でしかない。
俺の知らない、何かしらへの布石という事も考えられる。
あいつの思考は先を見すぎて、歯車の一つに過ぎない俺には到底理解が及ばないんだ。
故に考えるべきは、今回の事件がもたらす〝組織〟へのメリット。
いつだって最大の利益を確実に得るあいつが、どれだけの価値を見出しているのか。
「…………難しいな」
考えられる答えが多過ぎる。あるいは考えうる全てかもしれない。
まるで、裏に隠されたものを見抜いてみせろと言わんばかりに示されたヒントの数々。
真実を導き出し、自分の役割を完璧に理解した上で演じてみせろという、あいつからの挑戦状。
そんな風に感じられた。
「期待してる、か……皮肉なセリフだな」
今になって形を変えたその一言が、俺に考えるのを諦めるという選択肢を与えてくれない。
側から見れば、ただ踊らされているだけだとしても……その期待には答えたかった。
「こうすけ?」
また思考の海に沈もうとした意識を、背後からの声が引き止める。
振り返ると、エミリーがいた。
隣室にいたはずの彼女は、俺をはっきりと見つめている。
「どうしたんだ? 眠れないのか?」
「うん。……こうすけも?」
「まあ、な」
肩をすくめておどけて見せた。するとエミリーは親近感を瞳に滲ませ、こちらにやって来る。
ベランダまで出てきた彼女は、ナイトガウンを一枚羽織っているだけのものだった。
手すりに置いていた上着を手にとって、彼女の肩にかけてみる。
「ありがとう」
彼女は微笑んで、感触を確かめるように上着の裾を握った。
それから、外に顔を向ける。
ぼうっと景色を眺める横顔からは柔らかさが消えていき、物憂げになっていく。
「不安か?」
「…………少し」
間を置いて、小さく答えが返って来る。
その声量とは裏腹に、彼女が抱える苦悩を思って俺はやるせない気持ちになった。
局長さん達が到着し、一通り保安局の尋問を終えたケイシスから告げられた言葉。
最初に、エミリーが封印したベルセルクの存在を奴や元ヒュドラに伝えた人物。
それは……
「明日だ。明日、全部終わらせる」
「……うん」
返事は、やはり小さかった。
……ああ。もしもこの悲劇さえも、お前が仕組んだものなのだとしたら。
今、エミリーの悲しそうな顔を見ている俺は、少しだけお前を恨んじまいそうだ。
「ねえ、こうすけ」
真実に苦しむ少女に何かできることは。そう悩む俺に囁くように、彼女は語りかけてきた。
エミリーは、俺を見ていた。真っ直ぐに、その強い意志を秘めた瞳で。
「ありがとう。支えてくれて、励ましてくれて。助けてくれて、守ってくれて……ありがとう」
純粋な感謝に、心が温かくなる。
たった数日。その間に全てを失った彼女にとって、俺はヒーローにでも見えたのだろうか。
嬉しく思う。こんな俺でも、誰かを心まで守れているという事実に。
「…………やめてくれ。そんな言葉を貰えるほど、立派な人間じゃないよ」
忘れてはならない。俺はあくまで、仕事で彼女を助けているだけだということを。
もしかしたら、エミリーを襲った悲劇の一部であるかもしれない俺に、その言葉は綺麗すぎる。
そう自分を戒めて、今一度彼女に向き直る。
とっさに口を衝いて出た言葉で不安げにしているエミリーの目を、正面から見返した。
「エミリー。君を取り巻く悲劇の全てが消え去るまで、絶対に守り抜くと誓う」
「う、うん」
「でも、その先はわからない。この依頼が完遂され、俺の手を離れた時。絶対的な味方でいられるとは断言できない」
これだけの時間と労力をかけておいて、〝組織〟が彼女の命を脅かすことは早々ないだろう。
しかし、俺は所詮使われる側。永久的に彼女の心身を守る立場かは、決して定かではないのだ。
「いずれ、君を悲しませるかもしれない。傷付けるかもしれない。だから……」
「……大丈夫よ」
不意に、差し込まれた言葉で口を噤む。
俯いていた彼女は、俺の片手を小さな両手で包み込むと顔を上げる。
そこには、親愛を込めた微笑があった。
「だって、言ってくれたじゃない。たとえこうすけのボスがなんて言ったって、私達を守ってくれるって」
「いや、それは今回に限っての話で……」
「でも、そう言ってくれた。たった一度でも」
そうでしょ? と目で聞いて来るエミリーを、俺は否定できなかった。
吐いた言葉は飲み込めない、とはよく言うが、それはアビスゲート卿になっていた時でも同じだ。
あの時、確かに守ると言った。任務の間、ごく短い間でも、俺自身が守りたいのだと。
駒であることを自覚しすぎて、忘れていたのかもしれない。
「だから、大丈夫。私はこうすけを信じるわ。今も、これからも」
「……いつかの未来で、裏切るかもしれないぞ?」
「私はまだ子供だけど。そういう目でこんなことを言う人は、簡単に裏切ったりしないと思うの」
……図星だった。
今後、エミリーをどうこうする依頼があいつからやって来たとして。
その内容が俺の中で許せないものだったら、きっとエミリーを守る側に立つだろう。
唯一、遠藤浩介が自分に定めたせめてもの線引き──己の仁義に従って。
「……わかった。エミリーがそう言ってくれるなら、似合わないヒーローを演じてみるよ」
「ふふっ。まるで変な時のこうすけみたいなセリフね」
「ぐっ、それは言わないでくれ」
クスクスと笑う彼女に、なんだか心がほぐれていくような気がした。
……気負いすぎていたのは、俺の方だったな。
俺は俺のやるべきことをやる。最初からそう考えてりゃよかったんだ。
「あ、あの、それでね?」
「うん?」
「今回のことが終わったら、その……こうすけのこと、もっと知りたいなって」
……おや? 雲行きが怪しいぞ?
頬を赤く染め、ぎゅっと手を握って来るエミリーに冷や汗が浮かぶ。
彼女が俺に向けているその表情は、どう見ても恋する年頃の乙女のそれだった。
「ほら、こうすけは私のことを色々知った上で助けに来てくれたじゃない? だったら、私も知っておきたいなって」
「え、いや、その」
「たとえば……す、好きな女の人のタイプ、とか」
チラッ、チラッと上目遣いで様子を伺ってくるエミリーさん。
…………ほんっと、どうしようコレ。エミリーの精神がどうとか引き伸ばすんじゃなかった。
かと言って、この場で言ったら積み重ねたものが瓦解するのは目に見えている。
「あー……まあ、終わったらな」
「本当? 絶対、約束よっ」
嬉しそうにピョンピョンするエミリーに、俺はなんとか引き攣った顔で頷いた。
とりあえず、未成年淫行、ダメ。ゼッタイ。
読んでいただき、ありがとうございます。