星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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最近、これ含めて全く小説書いてないというか、書けてないというか。

ともあれ、更新です。

楽しんでいただけると嬉しいです。



【挿絵表示】



ツイッターでも公開しましたが、本作のアビスゲート卿です。






決戦開始

 

 

 

 重厚な回転音が、空を叩く。

 

 

 

 プロペラ音を響かせて、数機ものヘリが隊列を組んで飛行していた。

 

 鉄籠に運ばれているのは、完全武装した人間達──保安局強襲課の特殊部隊である。

 

 彼らだけではない。そのうちの一機には、浩介達が乗り合わせていた。

 

「お、おいアレン、大丈夫か?」

 

 同機に乗っていた、特殊部隊総隊長、及びa隊隊長のバーナード=ベイズが、真っ白に燃え尽きた同僚に問いかける。

 

 普段の飄々とした様子がない同僚に動揺していると、アレンは乾いた笑いを中途半端に治療された顔に浮かべた。

 

「あのね、バーナードさん。僕の仕事は暗殺業務なんです。ひっそりこっそりサクッといくのが専門分野なんです。間違っても、真正面からドンパチやりあうことじゃないんですよ」

「お、おう。大丈夫じゃなさそうだな」

「だというのに最近ときたら、窃盗に護衛、おまけには恐ろしい組織の手先にボコボコにされ、女の子に顔面崩壊させられて……挙げ句の果てにはこれですよ」

 

 今ここにいること自体がおかしい、と言うように、アレンは両手を大げさに広げてみせる。

 

「終いには怪物の軍団と戦ってこいって、いくら敬愛する局長の命令でもねぇ?」

 

 ケタケタと笑うアレンに、バーナードだけではなく同乗した隊員全員が顔を引きつらせる。

 

 しかし、同時にアレンに対して同乗してしまうのは……同じように、彼らも死の予感を感じていたからだ。

 

 

 

 

 

【Gamma製薬】を保安局が占領した後、すべてのベルセルクに関する物品は回収・破棄された。

 

 だが、当然それだけで終わるはずもなく、浩介がケイシスから押収した端末の中には複数の研究施設のデータが。

 

 様々な企業を隠れ蓑に、同時進行的に【ベルセルク】と〝ファントムリキッド〟の研究が多くの場所で進められていた。

 

 そこにはダムや浄水場も含まれており、ケイシスの計画の成就はあと一歩のところまで迫っていた。

 

 これを知った保安局は、軍とも協力し、対象の施設の同時制圧作戦を決行。

 

 中でも、最も重要なある施設の制圧を担当するのが、まさに彼らなのである。

 

「うう、なんでこんなことに……」

「なぁに弱音吐いてんだ、めんどくせぇやつだな!」

「いった!?」

 

 ブツブツと恨み節を吐いていたアレンの肩を、突如として強烈な痛みが襲う。

 

 ジンジンと痛む……というか、危うく外れるかというほどの衝撃に顔をしかめ、彼は隣を見る。

 

 そこにいた人物──とてもこの場には似つかわしくない、赤髪の少女は不機嫌そうに眉を上げる。

 

「コトが起こったのはテメェらにも原因があるんだろ? さっさと腹くくりやがれ、ピカソ顔野郎」

「ピカソ顔野郎!? いや、この顔は不可抗力というか、できればすぐにでも治してほし……」

「あ? いい加減喧しいとその口に鉛玉ブチ込むぞ?」

「イエスマムッ! 今すぐ黙りますッ!」

「おう、それでいいんだよ」

 

 物騒なことを言ったにも関わらず、ケラケラと端正な幼顔で笑う少女……ジア。

 

 エミリーより小さいにも関わらず、おっかない彼女に機内の全員の視線が浩介に集まった。

 

「……今更ですが、コウスケさん。彼女、本当に大丈夫なのですか?」

「…………付いて来ちまったもんはしょうがないだろ」

 

 なんとも言えないヴァネッサの表情に、すっと目を逸らす浩介。

 

 彼とて、このクレイジーな使徒を呼び込むつもりは毛頭なかった。

 

 特に今は〝組織〟が信用できない状態だ。どこで何を仕掛けられるのか、予想がつかない。

 

 しかし、いくら浩介でも、早朝からホテルの部屋に窓を吹っ飛ばしてダイナミック突入されるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『ジア!? おま、なんでこんなとこに……』

『おうアビス、一昨日ぶりだな。早速だが──ウチも次の戦いに連れてけ』

『は?』

『聞こえなかったか? 新しい武器を存分に試してぇから、最後の戦いにはウチも連れてけっつってんだよ』 

『いや、なんで知って……ああ、〝天網〟ね……どっかで監視されてるのか』

『納得したな? んじゃあそういうことだ』

『いやしてねえよ? ホテルの壁吹っ飛ばしといて何言ってんのお前!?』

 

 

 

 

 

 

 

 結局、一時間に及ぶ説得の末、浩介が折れてジアも急遽参戦する運びとなった。

 

 もし断って癇癪を起こした時、周囲に降りかかる被害の甚大さを思えば英断だっただろう。

 

「まあ、ジアは使徒の中で言えば弱い方だし……いざとなれば押さえつけるよ」

 

 とりあえず安心させるために、浩介はそう言っておいた。

 

 

 

 〝赤熱の六(クラフター)〟ジア。 

 

 

 

 ハジメの魂から解析された〝錬成〟を導入され、その素質を最大限引き出せるよう改造された使徒。

 

 非戦闘系天職に後付けで適応させた為、通常の使徒と比較してその力は大きく弱体化している。

 

 現に、〝七つ牙〟の中でもその序列はスペック面で評価すると第6位。限りなく最弱に近い。

 

 浩介であれば、武器さえ取り上げれば容易に拘束することは可能である。

 

 

 

(とはいえ、油断はできないな。実際に現地に着いたら、分身の一人でもつけて監視しておくか)

 

 

 

 知る限り、七人の最高幹部の中で最も苛烈かつ予測がつかない使徒はジアである。

 

 彼女が来たのが自発的行動であれ、あるいは計画のうちであれ、用心しないという選択肢はなかった。

 

 

 

(全く、使徒同士の情報共有機能……〝天網〟は厄介極まりねえな)

 

 

 

 世界中に散らばった〝組織〟の使徒達は、記録した情報をあらゆる使徒に共有できる。

 

 その完全性は、まさしく天を覆う網のごとく。電子ネットワークよりよほど迅速で優秀だ。

 

 今もどこかで自分達を監視しているのだろう使徒の存在を思い、浩介は頭が痛んだ。

 

「頭おかしいけど、悪いやつじゃない。下手に刺激しない限りは大丈夫だから、変なことはしないでくださいよ」

「最初の一言が致命的すぎるでしょ……」

 

 この中で最もか弱いエミリーが、不安げに眉尻を下げた。

 

 とはいえ、研究棟での一件があるので、絡まれているアレンに同情する気持ちは一ミリも湧いていない様子。

 

 彼なりに責任を感じ、だからこそこの作戦に命令とはいえ参加しているわけなのだが……哀れである。

 

 一方で、あの浩介がそこまで言わしめるジアに、局員達は一律に青い顔をして何度も頷いた。

 

 

 

 

 

「おっ、そういやそこの女。えーと、なんつったか?」

「……ヴァネッサです」

 

 びくっ、と少し肩を震わせた後、ヴァネッサは冷静さを装って答える。

 

 浩介が防いだとはいえ、出会い頭に鉛玉をぶっ放されたトラウマがまだ残っているらしい。

 

 そんな様子など気にも留めず、ジアはヴァネッサの全身を舐め回すように見る。

 

「そのスーツ、着心地はどうだ?」

「はあ。実に素晴らしいですが……」

 

 なんとも普通の話題にきょとんとして、数秒遅れてヴァネッサは返答する。

 

 あの後、表のテーラーで誂え、連絡もしていないのに今朝方ホテルに届けられたスリーピースの一式。

 

 今も着用しているそれはこれまでヴァネッサが着てきたどのスーツより優れたもので、既に気に入っていた。

 

 浩介に惚れた? 現在、詫びの品とはいえ彼に買ってもらったものだからという理由もある。

 

 それがどうかしたのかと首を捻ってみれば、ジアは得意げに頷いた。

 

「ふふん、そうだろそうだろ。なんたって俺が監修したもんだからな、気に入らないはずがねえ」

「えっ、それただのスーツじゃないの?」

「ったりめぇだ。アビスのバトルスーツを作る過程で生まれた技術を使っててな。そこそこいい性能してるんだぜ?」

 

 思わずといった様子で呟いたエミリーに、ジアは得意げな様子でその機能の解説を始めた。

 

 途端にキラキラと目を輝かせ始めるヴァネッサに、保安局の方々の苦笑いが止まらない。

 

「ともかく、協力してくれるなら心強いやつだよ。だからエミリー……ここが正念場だ。頑張ろうな」

「……うんっ!」

 

 ジアが騒ぎ始める前から表情に陰りを見せていたエミリーは、力強く頷く。

 

 万感の信頼を秘めたその瞳に頷き……

 

 

 

(やっベー。これ好感度ノンストップ高なんだけど。どんどん取り返しつかない感じになっちゃってるんだけど)

 

 

 

 浩介は、世の男が聞けば縊り殺されそうな理由で、割とガチで焦っていた。

 

 事態が収束したら、即刻恋人の存在を打ち明けよう。そう決意しながら、作戦に意識を戻す。

 

 

 

(データにあった、大量の人間の移送報告書……ニュースにもなってた失踪事件の被害者だろう。となると……)

 

 

 

 ここから先に待つのは、戦争。

 

 ケイシスが言った言葉の意味……今から向かう浄水場には、大量の()()がいるということだ。

 

 それは保安局も理解していて、だからこそ他の施設には軍との共同戦線を敷いて作戦を行っている。

 

 ともすれば、複数の超越体(ヘラクレス)すら用意されている可能性があるだろう。

 

 移送された人間の名簿の中には、スポーツや格闘技などで有名な人間の名もあった。

 

 屈強な肉体を持つ、ベルセルクを超越しうる素材……ケイシスの証言が真実で、その為に彼らが誘拐されたとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 壮絶な戦いを予感し、浩介は気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 ジアの機能解説が終わる頃、空の旅の終わりも訪れた。

 

「あと3分でポイントに到着予定! 準備を!」

 

 機内に響いたパイロットの声に、緊張が走る。

 

 隊員たちは各々装備の確認を始め、浩介もエミリー達と顔を見合わせて頷く。

 

 カジュアルな様相にしていたスーツを、シンボルに触れて戦闘用のものに変える。

 

 おお、とヴァネッサが声を上げるのをスルーして、今一度浩介は作戦を思い出した。

 

 

 

(目標は森林地帯の川沿いにある浄水場に併設された施設。材木置き場に着陸次第、隠密で行軍して制圧……俺の得意分野ではあるな)

 

 

 

 相手の戦力が測りきれない為に油断はできないが、負けるつもりはない。

 

 それこそ、全力で隠形すれば先日の闇組織撲滅ツアーの時のように、浩介一人で壊滅させられるが……

 

「おっ、やっとか。こいつは楽しみだぜ」

 

 巨大なアタッシュケースを足場に打ち付け、獰猛な笑みを浮かべるジアを見ると絶対に無理である。

 

 はぁ、と呆れのため息を吐きつつも、至極落ち着いた様子の浩介に、バーナードが感心したような目で見た。

 

「……何か?」

「いや、冷静なものだ、とな。ベルセルクに加え、超越体(ヘラクレス)なんて未知数の化け物が待ち構えてるってのに」

「まあ、この程度の修羅場は慣れてますんで」

 

 旧世界から現在に至るまでの活動を思い返し、浩介は仮面の中で遠い目をする。

 

 ある時はエヒトに心酔しきった権力者を暗殺し、ある時は聖戦に備えて超強力な魔物の捕獲にいかされ。

 

 新世界になってからも、世界中でエトセトラエトセトラ……既に浩介は、覚悟ガンギマリ状態であった。

 

「ほう? まるでこれ以上を知っているとでも言いたげな口ぶりだな」

「ええまあ。一体で軽々と文明滅ぼせる、空飛ぶ殺戮兵器の大軍に比べりゃ、頭撃ちゃ殺せる筋肉ダルマの集団なんか屁でもないですよ」

 

 へっ、と窓の外を見て、何かを悟ったような声音で語るアビスゲートさん。

 

 何その天災、と引いた隊員達は、浩介の様子から冗談ではないことを感じて慄く。

 

 しかし、逆に「そんなのに比べたらいけんじゃね?」という雰囲気が徐々に生まれていった。

 

 

 

 

 

 期せずして保安局側の過度な緊張を取り除いているうちに、木材置き場まであと1分という距離になった。

 

 いよいよ降下のために速度を落とすかという、まさにその時──事態は急変する。

 

「待て! まだ降下するな!」

 

 操縦桿を傾けかけていたパイロットは、その言葉に反射的に動きを止める。

 

「い、一体なんだ?」

「森の中に人がいる。十人以上、着陸地点を包囲するように移動してるぞ」

「チッ、奴らか」

 

 よもや、偶々材木置き場の近くにいた木こりということはあるまい。

 

 苦い顔で舌打ちするバーナードを尻目に、立ち上がった浩介は扉に近づいて窓から様子を伺う。

 

「おそらく、こういう荒事に慣れてる連中でしょうね。動きが統率されてる」

「リストの中にあった、元警官や裏の組織の連中だろう。しかも、既に〝種〟を飲まされてるに違いない」

 

 カプセル状の薬剤を仕込まれた、潜在的なベルセルク。

 

 身元を鑑みれば因果応報とも言えるが、彼らも知らぬ間に人の尊厳を踏みにじられているとは思うまい。

 

「連絡されてるだろうが、どうする?」

「こっから狙撃……は、銃でも弓でも難しいっすね」

 

 いくら浩介でも、不安定な飛行中のヘリの中から十人もヘッドショットする程の技量はない。

 

 木々に隠れた敵の位置を把握しつつ、いかにして対処するか浩介は思考を始める。

 

 しかし彼が答えを出す前に、ある人物が立ち上がった。

 

「おう、敵がいるみたいだな」

「ジア?」

「ここはいっちょ、ウチに任せときな」

 

 自信ありげに口の端を釣り上げ、彼女は浩介を押しのける。

 

 何をするつもりだ、と誰かが問いかける前に、「よっ」と軽い声でハッチを内側から蹴破った。

 

 

 

 

 

 分厚い金属製のドアを軽々と破壊した幼い少女に、バーナード達はあんぐりと口を開ける。

 

 浩介だけが頭痛を抑えるように額を手で覆う中、ジアはその瞳を銀色の光で輝かせる。

 

「ん、ざっとあんなもんか」

 

 しゃがみこみ、足元に置いたアタッシュケースを開けて中身を探る。

 

 取り出されたのは、アルファベットの〝B〟にも見える、何やら角ばった漆黒の装置。

 

 弓のようにも見えるそれに魔力が注入され、各部のランプに赤い光が灯ると起動した。

 

「規模、威力、座標、範囲を調節……っと」

「おい、なんだそれ」

 

 物々しいアーティファクトに、なんだか嫌な予感がして浩介は尋ねる。

 

 操作を終えたジアは、立ち上がると顔だけ振り返り──ニッと笑った。

 

「メチャクチャいいもん♪」

「ちょっ待て! お前がそれ言う時ってシャレにならな──」

「っしゃいくぞオラァ!」

 

 景気よく叫んだジアは、アーティファクトを材木置き場へと向けた。

 

 上部に取り付けられたウィンドウに、熱源式で十人の人間がロックオンされる。

 

 それを確認し、これでもかと楽しそうに笑いながら、彼女はトリガーを引いた。

 

 

 

 ズッ…………!! 

 

 

 

 アーティファクトの少し先の空間に、漆黒の球体が発生する。

 

 瞬く間に人の頭ほどのサイズになったそれは、怖るべき速度で木材置き場めがけて射出され。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後──森が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木材置き場を中心に、数百メートルに及ぶ範囲が核爆弾でも着弾したように轟音を上げて弾け飛ぶ。

 

 連続的に外側へ伝播した爆発は、地面を、木々を、木材を運ぶ重機や潜在的ベルセルク達を諸共呑み込んだ。

 

 スコールのような夥しい木片と土砂を空へ打ち上げ、あらゆるものを消していく。

 

 

 

 それだけではない。

 

 

 

 次の瞬間、中心地に発生した黒い穴へ範囲内の物体が吸い込まれ始めた。

 

 空間そのものを揺るがしながら全てを瞬く間に飲み込み、きっかり数秒後に消滅する。

 

 その後には──唯一、大湖水ほどの黒々とした穴が残っているのみ。

 

 何もかもが奪われた、世界の終わりの一角のような光景だけであった。

 

 

 

 

 

 全員が、絶句していた。

 

 バーナード達も、浩介も、エミリーやヴァネッサ、他のヘリに乗っていた隊員達も。

 

 想像を絶する光景にあらゆる理解が追いつかず、両手を垂らし、口を開け、目を見開いて。

 

 ただ、呆然とするしかなかった。

 

「ハッハァ! どうだアビス! これならあの木偶の坊どもが逃げることも、別の生き物に感染することもねえだろ! ハーッハッハッハ!」

 

 天変地異を齎した張本人だけは、機嫌良さげに、とても豪快に笑っている。

 

 歴史に残る大惨事を引き起こしておいて、自分の発明品の出来に大変ご満悦のようであった。

 

 アンバランスな光景に、数十秒遅れた後、ヴァネッサが一言。

 

「………………………………これが、弱い方?」

「…………訂正する。あいつが一番ヤバい」

 

 浩介は、幹部内の序列に猛烈に抗議したくなった。

 

「あん? 何ボサッとしてやがる。せっかく邪魔なのをブッ殺してやったんだから発進しろよ」

「──ハッ!? い、今、川の向こうで死んだお袋がこっちに手を振ってた……!?」

「おい、聞いてんのかアホンダラ。さっさと進めっつってんだろ」

「ヒィッ!? イ、イエスマムッ!!」

 

 盛大に全身を震わせ、ジアに恐れ慄いたパイロットは他の機体に連絡をする。

 

 しばらくして、犯行の現場から逃げるように浄水場に向けて三機のヘリが再発進した。

 

「な、なあ、アビスゲート」

「隊長さん。俺たちは何も見てないしやってない。イイね?」

「アッハイ」

 

 とりあえず、なかった事にした。どうせ〝組織〟に証拠隠滅されるので結果は同じだ。

 

 エミリーとヴァネッサを見ると、青い顔でブンブンと首を横に振る。言わなくてもわかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 浩介は、深い、それは深いため息を大きく吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、開けた場所が見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 本来は先ほどの場所から向かうはずだった、浄水場施設。データの通り、白い怪しげな施設が併設している。

 

 下流には配水施設もあり、広大な敷地の中心には大きめの広場とヘリポートが確認された。 

 

「どうやら、場所的にヘリでの移動が想定されてるらしいな」

「都合がいい……とは、いかないよな」

 

 案の定、こちらがヘリで来た事を連絡されたのか、施設から広場に大勢の人間が現れる。

 

 バーナードが双眼鏡でその姿を確認し、忌々しげに舌打ちした。

 

「ざっと二十人以上はいやがる。大半がゴロツキだが……一般人もちらほらいるぞ」

「おそらく、本当に騙されたか、誘拐された人達でしょうね。それに……」

 

 浩介は目を細め、遠眼鏡の機能が搭載されている仮面で敵の姿を視認する。

 

 何十人もの潜在的ベルセルクの中で、二人ほど他とは雰囲気の違う人間が混ざっていた。

 

 ゴロツキ達以上に荒んだ雰囲気で、服の上からでもわかるほど筋骨隆々の体つきをしている。

 

 

 

(あれは、もしかして……)

 

 

 

 なんとなく、彼らの正体を察する。

 

 だとすればバーナード達には任せられないと、後ろ腰からナイフを引き抜いた。

 

「俺が片付けてきます。着陸場所を確保するので、みなさん突入の準備を」

「一人で行く気か? いくらお前でも、頭を潰さなきゃ倒せない怪物をあの数は……」

「おっ、次の敵か? だったらもう一発……」

「やめろバカ。ここはダメだって説明しただろ」

「ちぇっ」

 

 つまらなさそうにジアがどっかりと座り込む。隣席のアレンが座りながら器用に飛び上がった。

 

 青い顔に逆戻りしていたバーナードらが安堵する中で、浩介は苦笑いを浮かべた。

 

「ここで余計に時間をかけると、逃亡される可能性もありますし。それに言ったでしょ? あんなやつら、楽勝ですよ」

「だが……」

 

 保安局強襲課の隊長として、任せきりにするのは負い目があるのかバーナードは顔を渋くする。

 

 エミリーのことはあくまで例外中の例外で、本来は義理堅い性格をしているらしい。

 

「勘違いしないでください、あくまで適材適所です。中に入ったら頼りにしてますからね?」

「アビスゲート……」

「梅雨払いはします。一緒に、この事件のクソッタレな黒幕をぶっ飛ばしましょう」

 

 仮面越しに不敵な笑みを向ければ、それが見えたわけではないだろうがバーナードは息を呑んだ。

 

 だが、それも一瞬のこと。男臭い笑みを浮かべると、浩介に向かってサムズアップした。

 

「よし、アビィ。思いっきりぶちかましてくれ」

「おう」

 

 急に馴れ馴れしくなったな、というセリフを飲み込み、浩介は頷く。

 

 

 

 

 

 ドアの縁に手をかけ、こちらに顔を向けている二十人強の集団を確認した。

 

 すると、彼らは次々に苦しみ始め、一人、また一人とベルセルクに変貌していく。

 

 件の二人は……案の定と言うべきか、紫煙に包まれると超越体(ヘラクレス)に進化した。

 

 そんな地獄へ飛び込まんとする彼に、機内の隊員達が次々に敬礼する。

 

「「「「「御武運を、ミスターアビスゲートッ!!」」」」」

「……うん、まあ、あざます」

 

 なんとも微妙な顔で頷きつつ、胸のシンボルを二回叩く。

 

 呼応してスーツの形状が変化し、肩口から滲み出るように漆黒のマントが伸びた。

 

「んじゃ行ってきます。ジア、暴れんなよ?」

「分かってらぁ」

 

 フッとニヒルな笑みへ表情を変え、彼らの方を向いたまま──落ちた。

 

 目を見開いて驚き、思わずといった様子でエミリーが機内から身を乗り出した。

 

 すると、仰向けに落下しながら浩介──否、アビスゲート卿が彼女へ手でジェスチャーする。

 

「では、ショーを始めよう」

 

 その姿勢のまま、アビスゲート卿は技能を発動。

 

 彼から分裂するようにして、左右に二人ずつ分身体が姿を表す。

 

 

 

(魔力消費とこの後のことを鑑みれば、物量で押し切るのは下策。短期決戦が必定。ならば──)

 

 

 

 刹那の間に最適の戦法を選択し、卿は戸惑いなく実行する。

 

「〝狂人憑依〟。型式──《 山の翁:静謐(ハサン) 》」

 

 己が身を暗器とした、毒婦の業をここに。

 

 分身体の全身に魔法陣が浮かび、その形を保ったまま毒の塊へと変じた。

 

「〝熱く、熱く…………蕩けるように…………貴方の心と体を焼き尽くす〟────堕ちよ、我が写し身達」

 

 そして彼らは、ミサイルのように体を一直線に伸ばし、スーツに付与された〝空歩〟で加速。

 

 凄まじいスピードで、雄叫びを上げるベルセルク達めがけて勢いよく着弾した。

 

 飛躍的に耐久性を損なっていた分身は、地面に激突した瞬間に爆散し、四重の毒霧を放出する。

 

 

 

 

 

「「「「「ガァアァアアァアっ!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 途端、即効性の毒が大きく開けていた口や鼻、目、耳……果ては皮膚から入り込み、もがき苦しむ。

 

 あっという間に回っていく激毒に全身を掻きむしり、頭を地に打ち付け、苦痛を叫ぶ。

 

 しかし、そうしている間に頭の中まで回った毒に脳を溶かされ、次々にか細い声をあげて絶命した。

 

『ガァアァアァアァアッ!!』

『ウガァァアァアァアッ!!』

 

 だが、例外が二体。

 

 分厚い装甲と格段に増した再生力により、漆黒の巨人達は怒りに吼える。

 

 

 

 

 

 鬱陶しい()()()()を振り払い、その元凶を排除せんと剛腕を振り回す。

 

 周囲に転がった同胞達なぞどうでもいい。だが、この不快な状況の主は殺す。

 

 

 

 

 

 ピュッ──! 

 

 

 

 

 

 そんな彼らに応えるように、毒霧を突き破って数多のナイフが飛来した。

 

 意志を持つが如く宙を舞うそれらは、機敏に察知した超越体(ヘラクレス)の唸る腕を回避。

 

 それぞれ八本ずつ、規則的にその首の根元に殺到して風穴を開けた。

 

『『ギ、ガァアァアァアッ!!』』

 

 勿論、その程度では死ぬことはない。

 

 首に埋まったナイフを引き抜こうと立ち止まった彼らの前に、上空から黒い影が滑空してきた。

 

 蝙蝠のようにそのマントを大きく広げ、目眩しの毒霧を吹き飛ばして現れたるは──アビスゲート卿、その人。

 

『『ッ────!?』』

「お命、頂戴する」

 

 言葉は、短く。

 

 直後、一人でに抜けていったナイフの開けた穴の円環……著しく脆くなったそこへ、必殺の一撃。

 

 右に、白黒のナイフ。左に、スーツの一部を変形させた片刃の黒い短刀。

 

 それぞれに魔力を込め、切れ味を高めると、一息に怪物達の頭を撥ね飛ばした。

 

 お供なく着地する卿。一拍遅れ、地響きを立てながら二つの首無し死体が地に伏せた。

 

「ふっ。やはり頭部を落とせば死ぬのは従来のベルセルクと同じようだな」

 

 仮面の機能で体内の熱源が消えていく事を確認し、呟く。

 

 直後に灰へ変わり始めたのを見届けて、未だ上空にいるヘリに向けて合図を送った。

 

 

 

 

 

「さて、ここから先は鬼が出るか蛇が出るか。腕の振るいどころというものだな?」

 

 

 

 

 

 決戦は、始まったばかりだ。

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。

次回から詰めていきます。

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