星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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サクサクと投稿〜

楽しんでいただけると嬉しいです。


闇と影 3

 

 

 

 

 

 浩介は、男の容姿を観察する。

 

 白髪混じりの黒い短髪、年相応にシワを重ねた顔には分厚い丸眼鏡。

 

 やや横に広めの体つきに、エミリーと同じ白衣とストライプの入ったネクタイが特徴的だ。

 

 

 

(ファイルの重要関連人物リストにあったのと同じ容姿……間違いないな)

 

 

 

 浩介が確信を得た間、エミリーはじっとダウン教授のことを見つめていた。

 

 今にも泣きそうなほどに目元は歪んでいて、しかしそれだけはすまいと堪えている。

 

「…………どうしてですか、先生」

 

 そんな彼女の、暗い悲壮に満ちた声音によってダウン教授が我を取り戻す。

 

 緩んでいた口元をぐっと引き締めた彼に、エミリーはさらに一歩踏み込んだ。

 

「どうしてなんですか、先生」

「エミリー……私は」

 

 何かを言いかけて、また口を噤む。どんな言葉をかけようと不適格だと言いたげな顔で。

 

 何かを堪えるかのような渋い表情は、浩介の目を以ってしても演技であるようには思えない程だ。

 

「ん……」

「コウスケさん、どうかしましたか?」

「いや。なんでもない」

 

 何かを囁き合う彼とヴァネッサを背後に、じっとエミリー達の見つめ合いは続く。

 

 下手な言葉は、互いに投げかけられない。それは研究者故に多くの物事を考えてしまうからだろうか。

 

 そんな彼女を静観していた三人だったが、不意にダウンの隣でヴァイスが腕時計を見た事に気づいた。

 

 特に片時も目を離さなかったアレンが、ともあれ先ずは捕縛しようと拳銃を持つ手に力を込める。

 

「おっと。下手な動きはするなよ? じゃなきゃこいつが蜂の巣になっちまうぜ?」

 

 機敏にそれを察知し、アレンが行動を起こす前にヴァイスが先手を打った。

 

 後ろからダウンの首に太い腕を回すと、銃口を突きつけて牽制する。

 

「仲間割れとは、なんのつもりです?」

「何。娘みたいに可愛がってた相手を前にしたら、脅されていたとしてもおかしなことをしかねないからな」

「脅す? 彼は貴方に脅迫されていると?」

「正確には、少々強めのご協力願いってところだけどな」

 

 ニヤニヤとしながら語る様に、ヴァネッサだけでなく抑えられたダウンも苦い顔をする。

 

 そのまま、ヴァイスはエミリーに視線を向けると何事かを話そうと口を開いた。

 

「嬢ちゃん。お前さんのパパ代わりは──」

「──ほんと。お前みたいなクズはみんな同じことをするから予測がしやすいよ」

「あ?」

 

 愉悦の表情から一転、不機嫌にドスの効いた声を漏らして視線をずらす。

 

 そして、薄暗い駐車場の闇に紛れてしまいそうな黒い人影へと視線を定めた。

 

 誰もが視線を向ける中、浩介はゆっくり見せつけるようにして右手をマントの中から掲げる。

 

「だから、対応も簡単だ」

「──ッ!」

 

 

 

 

 

 パチン、と音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 何かマズい、とヴァイスは銃を持つ手に力を込めた。

 

 しかし、返ってきたのはガッチリと何かに固定されているような感触だった。

 

「何!?」

 

 自分の手を見下ろせば、右手が何かに覆われている。

 

 絶えず流動する黒い物体──ナノマシンは、ヴァイスの指や手首を縛り、拘束していた。

 

 反射的にその発生源を辿れば、すぐ近くに転がっていた扉の残骸に根元が張り付いているではないか。

 

 

 

(まさか、さっき扉を破壊した時には既に──ッ!!)

 

 

 

 扉を吹き飛ばす場所すら計算のうちだったのかと、戦慄する。

 

 しかし、声を荒げるような時間は与えられなかった。

 

 ヴァイスが気がつくのを待っていたように、ひときわ強く震えたナノマシンが変異する。

 

 一瞬でヴァイスの全身を優に越える大きさに膨張すると、一気に襲い掛かった。

 

「ぐっ!?」

「ぅ……!」

 

 全身に絡みついたナノマシンは、鋼鉄を軽く越える強度の拘束具となる。

 

 加えて、ピックアップトラックとそれに並列していた大型車に、ヴァイスと()()()()()をそれぞれ縛り付けた。

 

「一丁上がり、ってところか」

 

 あっという間の捕縛。

 

 しかし、ヴァイスばかりか被害者であるはずのダウン教授まで取り押さえてしまった。

 

 だというのに、ヴァネッサもアレンも疑問の声を上げない。

 

「…………」

 

 それは、失望の入り混じった悲しげな目でダウン教授を見るエミリーでさえも。

 

 保安局の二人のように、最初から疑っていたわけではない。浩介のように()()()()()わけでもない。

 

 だが、先の一連の流れがくだらない茶番であることを、彼女は分かっていた。

 

 その証拠に、エミリーの瞳には一切の動揺は存在せず、一種の澄んだ色だけがある。

 

「これまでのことで、かなり度胸がついたって感じだな」

「貴方のおかげでもあるのですよ?」

「……ノーコメントで」

 

 くすりと笑うヴァネッサを軽くいなして、もう一度フィンガースナップする。

 

 スーツと連動して命令を受け付け、ヴァイスを縛るナノマシンの一部が分裂する。

 

 黒い塊だったそれは数秒ほどで蜘蛛の形に変形すると、トラックの上を移動していく。

 

 そして、荷台に乗っていた荷物のうちの一つ、大きな箱のカバーを一息に取り払った。

 

「なっ……!?」

「あれは、子供……!?」

「やっぱりな。熱源が映ってたからヒヤヒヤしたよ」

 

 透明な箱の中に入っていたのは、年端もいかない少年少女達だった。

 

 ダウン教授とは違い、正真正銘の人質だろう。第二の策としてヴァイスが用意していたのだ。

 

「はっ! 残念だったな、いくらテメェが化け物でも……」

「あの子達にもベルセルクを飲ませてある、だろ? それも察してたよ」

 

 言いながら、浩介は懐から一つのスマートフォンを取り出した。

 

 ヴァイスの目が驚愕に見開かれる。それは自分のポケットに収まっていたはずのものだからだ。

 

 手の中で数度ジャグリングした後、人外の握力で見せつけるようにして握り潰す。

 

「目の前で部下をベルセルクにしたり、マシンキメラを解放したんだ。そりゃ、この程度は想像つくさ」

 

 突入の瞬間、ヴァイスが呆けたその隙に浩介は限りなく気配を遮断。

 

 それから鍛え抜いた傭兵()()では到底認識できない速度で接近し、端末を抜き取っておいた。

 

 本当なら武装も全部解除しておきたかったが、おかしな行動をされると厄介なのである程度は好きにさせたのだ。

 

「お前と同じやつは世界中で散々見たよ。こっちもプロなんだ、舐めんな」

「ちっ……」

 

 忌々しげに舌打ちをしたヴァイス。アレンがもはや乾いた笑い方で浩介を見る。

 

 一方のヴァネッサはキラキラと崇拝の目を向けて駄ネッサさんになる中、クイッと指を自分の方へ曲げた。

 

 ケースの一面に穴を開けようとしている蜘蛛を残し、ナノマシンが二人を連れて来る為に動き始め──

 

 

 

 

 

 

 

 ──天井の一部が崩落したのは、まさにその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 前触れなく起こった異変に、さしもの浩介も驚愕する。

 

 エミリー達と共に天井を仰げば、丁度二人を縛り付けた車が下敷きになってしまう位置だ。

 

 まるで更に上から押し出されるように落下する瓦礫を、ダウン教授が呆然と見上げている。

 

 

 

(くそっ! これもヴァイスの策か!?)

 

 

 

 刹那の瞬間に最も警戒すべき男を疑うが、流石に自分もろとも相手を殺すような作戦は取るまい。

 

 ともあれ、このままではダウン教授まで巻き込まれることになる。

 

 そうすれば、永遠にエミリーの悲劇に決着が着かないだろう。

 

「シッ──!」

 

 故にその行動は迅速だった。

 

 背後に強烈な衝撃波を残し、超強化された肉体能力を遺憾なく発揮して疾走する。

 

 一秒にも満たない時間でトラックの上に到達すると、ナノマシンごと引き剥がして担ぎ上げる。

 

 瓦礫の落下まで、推定残り三秒。高速で意識を回転させ、マントとフードを形成する分のマシンを子供達のいるケースに飛ばす。

 

 最後に、一応保安局が捕縛したがっていたのでヴァイスごと車を思い切り蹴りつけて退避した。

 

 

 

 

 

 スガアアァアン!! 

 

 

 

 

 

 きっちり一秒間残し、浩介は元の位置に戻る。

 

 遅れて、ようやく余波の影響を受けた三人がその場で大きくよろめいた。

 

 ヴァネッサ達は強靭な体幹で踏みとどまるも、エミリーだけはぺたんと座り込んでしまう。

 

 数秒ほど呆然としていたものの、ハッと我に返るとトラックの方を見た。

 

 そして、積み上がった瓦礫の山に潰されたそれを見て顔を絶望に染めた。

 

「先生ッ!!」

「大丈夫だよ。ちゃんと助けた」

「っ!? こうすけ!?」

 

 勢いよく振り向いたエミリーは、装備の減った浩介が抱えたダウン教授を見て目を見開く。

 

 それも束の間、ホッと安堵の笑みをこぼす。例え黒幕の一人であろうと、恩師の死は見たくなかったのだろう。

 

 他の二人がもはやお馴染みの反応をするのを尻目に、教授を床に降ろして瓦礫の方を見る。

 

 幸い、子供達の入ったケースは壁際まで吹き飛んでいた。ナノマシンに覆われ、凹んだ様子もない。

 

 今度は浩介がホッとする。

 

「っだぁ!! ってぇなこの野郎! ふざけんじゃねえぞぉっ!」

 

 直後に瓦礫を吹き飛ばし、潰れたトラックの上で立ち上がったのは見慣れた人影だった。

 

 天井の穴に向けて薙刀を振り上げ、小さな体のすべてで怒りを表す蛇の使徒。

 

「ジア!」

「あん? アビスか?」

 

 声をかけてようやく気がついたのか、ジアが振り向いた。

 

 その右頬に走った大きな切り傷に、四人ともが息を呑む。

 

 見れば体にも少なくない傷があり、服の方もあられもない姿になる一歩手前だ。

 

「こんなシケた場所で何してやがる?」

「いや、それはこっちのセリフだろ。今までどこに──っ!」

「────ッ!」

 

 ジアと浩介が、同時に何かを察知する。

 

 非常に機敏な動きでジアはトラックの上から飛び退き、コンマ一秒後彼女のいた場所に一振りの黒刀が降り注ぐ。

 

 寸分違わず天井の穴からやってきたそれは、いとも容易くトラックを貫いたばかりか、纏う銀光で分解を始めた。

 

「流石です。その損傷、肉体性能でそれだけの対応ができるとは、やはり最上の同胞なだけはある」

 

 見覚えのある光景に浩介が目を細める中で、ゆっくりと穴より降り立つ一人の女。

 

 傭兵のような格好に身を包んだ絶世の美女──使徒キャトヴァストは、ジアにそう言い放つ。

 

「えっ、何ですかあれ!? リアル天使!?」

「アレン、五月蝿いです。シリアスな場面なので黙っててください」

「貴女にだけは言われたくないですよ!?」

「ハッ。テメェら〝蛇の黒鱗(アイアス)〟ほどバケモンじゃなくても、こっちにもトップの沽券ってもんがあるんでな」

「また人間のような言葉を……」

 

 呆れるように、あるいは静かに驚嘆するように紡がれる言葉の意味が、エミリー達には理解できない。

 

 ただ、剣呑な雰囲気から決してジアや、そして自分達にとって良い相手ではないというのは理解した。

 

 所々服が不自然に崩れていたり、髪が不揃いな長さなことを見るに、どうやら相手も無傷ではないらしい。

 

「それに、集会でちょっくら冗談言っただけであのカミソリ女(黒死の一)の一撃が飛んでくんだ。序列上位程度を相手にくたばってたまるかよ」

「────。我らが長への侮辱は、同胞といえど看過できませんね」

「ほぉ? 人形ヅラしてるわりには、テメェにも心があるみたいじゃねえか?」

 

 高まっていく殺気。

 

 それは物理的圧力すら伴っており、一般人であるエミリーとダウン教授が苦しげにした。

 

 こんなところで使徒同士で争われてはたまったまのではない。浩介が仲裁に入ろうと一歩踏み出す。

 

 

 

「う…………」

 

 

 

 しかし、奇しくも状況を変えたのは別の人物であった。

 

 浩介達が反射的に振り返る。

 

 すると、最初の位置から随分離れた車のボンネット上でヴァイスが唸り声を上げていた。

 

 睨み合っていた二人もそちらを見て……その瞬間、キャトヴァストの殺気が消える。

 

「……? なんだテメェ、いきなりシラフに戻りやがって」

「……私としたことが、少々過干渉が過ぎました。()()()()()が出来上がった以上、ここで戦うことは無意味です」

 

 回答しているのかどうか判断しかねる台詞を零して、手の内から得物を消す。

 

 代わりに、服の中からヴァイスのものによく似た端末を取り出した。

 

「最後の舞台だと?」

「ええ、そうです。この瞬間、この場所、この状況──全て、()()()()()の計画通り」

「ッ──!」

 

 平坦な声で告げられた答えに、浩介が鋭く息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 ゴウンッ! ゴウンッ! ゴウンッ! 

 

 

 

 

 

 立て続けに、新たな変化が発生する。

 

 血の底から響く怪しげな機械音に視線を巡らせると、フロアの一角が円形上に窪んでいた。

 

 その中心に一本の縦線が入り、左右へずれていくのを見て、何であるかを悟る。

 

「エレベーター……?」

「──曰く。〝これ〟を見たスターク様は、『これだから人間の愚かさは面白い』と仰っておりました」

 

 エレベーターの出入り口である穴が完全に開いた、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 フロア中めがけて、ピンク色の何かが飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ!!」

 

 浩介は仮面に映り込んだ、巨大な熱源から発射されたものにすぐさま対応する。

 

 三人の前に立つと、無数に飛び出したそれのうち自分達の方へやってきたものを迎撃した。

 

「チッ!?」

 

 ジアも舌打ちをしつつ身体強化を施し、かろうじて薙刀で防御。

 

 そして、キャトヴァストがいっそ優雅な動きで全てを回避し、最低限のものを魔力放出で分解する。

 

 三者三様に〝何か〟をいなした後、床の上に転がったものへと視線をやる。

 

「しょ、触手……?」

 

 地面の上で何かしらの液体を撒き散らし、ビチビチと痙攣する肉塊。

 

 人間の臓物のようにグロテスクな色をしたそれは、見るも悍ましい。

 

「……警戒しろ。もっとヤバいもんが出てくるぞ」

 

 ブラックホールナイフとは反対の手に、半減したスーツからもう一振り形成して構える。

 

 低い声で放たれた言葉にただならぬものを感じて、アレンとヴァネッサがエミリーを守る位置についた。

 

 そんな彼らの前で、先端を断ち切られた触手がゆっくりと穴の中に戻る。

 

「さて。それでは、貴方へ最後の役割を与えます。我らが神のため、せいぜい派手に散りなさい」

 

 タイミングを見計らったように、キャトヴァストが手元の端末を操作した。

 

 手袋に包まれた指先が、画面上のボタンをタップする。

 

「ガッ!!?」

 

 その数秒後、ガタンッ!!! と盛大な音を立てて車の上でヴァイスの体が飛び跳ねた。

 

 穴へと意識を全集中していた各々が、今度は何事かと素早く視線を巡らせる。

 

 そして、もがき苦しみながら脈動しているヴァイスの体を見て、すぐに何が起きているか理解した。

 

「まさか、あいつも【ベルセルク】とファントムリキッドを……!?」

「ありえせまん! 奴は、自分を犠牲にするような男では……!」

「──ええ。ですから私が〝魅了〟し、飲んでいただきました」

 

 アレンとヴァネッサの疑問に答えたのは、キャトヴァスト。

 

 驚愕の表情で振り向くと、美貌の使徒はあくまでも淡々とした口調で告げる。

 

「スターク様が仰るに、物語の最後を締めくくる悪役は、劇的で派手でなければいけないとか。ですので、最大の脅威を演出させていただきます」

「最大……まさかお前っ!」

 

 今度は浩介が声を上げる番だった。

 

 

 

 

 

「ガァアァアアアァアァアアアァ────────ッ!!!」

 

 

 

 

 

 ナノマシンの拘束を傍聴した筋肉で弾き飛ばし、ヴァイスが絶叫する。

 

 それに反応して、天井や壁に向けて触手を射出し、突き刺した〝何か〟が穴から飛び出した。

 

 触手を伸縮させて現れたのは、一言で言えばミンチにした肉を無理やり混ぜ合わせたような塊。

 

 おおよそこの世にいてはいけない見た目のそれは、浩介達の頭上を通過し、声に反応してヴァイスごと車へと覆いかぶさったではないか。

 

「なんですかあれは……!?」

「まさか、ヴァイスを喰らっている!?」

「いや、それよりもっと悪い!」

 

 車の上で蠢いていた肉塊は、そのうち動きを止める。

 

 直後、激しくその体が震え、下敷きになった車との間から濃緑色のガスが噴出を始めた。

 

 それはみるみるうちに肉塊を包み込んでいき、包み隠してしまう。

 

「奴ら、一体化するつもりだ!」

「「「「────ッ!!!」」」」

 

 アレンやヴァネッサ、エミリーのみならず、知っていたはずのダウン教授でさえ戦慄した。

 

 奇怪な悲鳴を上げてガスの中で蠢く影は、触手を乱舞させていたものの、徐々に小さくなっていく。

 

 風船が萎んでいくように縮小を続け、触手までもが力無く落ちていくと、ガスが収束を始めた。

 

「これで私は失礼します。ごきげんよう〝赤熱の六(クラフター)〟、並びに〝影淵の牙(アビス)〟。どうか貴方達が、我らが神の意に沿った結末を導けますよう」

「待てッ!」

 

 慇懃無礼に空中で頭を下げ、キャトヴァストはそのまま天井の穴へと消えていった。

 

 取り逃したことに歯噛みする暇もなく、仮面の裏で立て続けに警告音が鳴り響く。

 

 顔の向きを戻せば──丁度、爆発するような音を立ててガスが消え去るところだった。

 

 緊張が場を包む。浩介がナイフを、二人のエージェントが油断なく銃を構えた。

 

 

 

 

 

「……………………ァア」

 

 

 

 

 

 煙の中から、重厚な息遣いが木霊する。

 

 続けて、潰れた車の縁の部分を黒く輝く極太の指がしっかりと掴み取り。

 

 ゆっくりと、薄暗闇の中で巨大な影が身を起こしていった。

 

「…………っ!」

 

 最初に、アレンがこれまでで最大に間抜けな顔をした。

 

 上半身だけで大型車の車高ほどはある角ばったシルエットに、思わず銃を握った腕を下ろす。

 

「これ、は……」

 

 次に、ヴァネッサが喘ぐように言葉を漏らす。

 

 頭を左右に振り、唸りを零した漆黒の威容に、まるで気圧されかのように。

 

「うそ……」

 

 最後に、エミリーが恐怖に戦慄いた声音でそれを見る。

 

 立ち上がった()()が全身にくゆらせる、硬質な触手が彼女を威圧するように蠢いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……確かにこいつは、ラスボスって感じだな」

────オオォオオオオオォアアアアァアアアアァアッッッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に生まれ変わった、異形の超越体(ヘラクレス)が咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 






見た目はDMC5の魔王ユリゼンをイメージしてネ☆

読んでいただき、ありがとうございます。

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