シュウジ「よお、シュウジだ。前回は冒険者ギルドと宿に行ったな」
ユエ「…ん、お風呂上がりのウサギとシアの耳がモッフモフだった」
ハジメ「ったくお前、変な声出しやがって…」
ウサギ「……それと、隣の部屋からルイネの声漏れてた」
ルイネ「ぬっ!?」
シュウジ「あー、こいつ声大きいからなぁ。防音魔法突き抜けたか」
ルイネ「う、うぅ…」
エボルト「ったく、大人しく寝てやってた俺に感謝しろ…で、今回はこいつらのデート回だ。それじゃあせーの…」
六人「「「「「「さてさてどうなる峡谷編!」」」」」」
ブルックの街に来た翌日の朝。
私、ルイネ・ブラディアはマサカの宿の入り口にて、マスターのことを待っていた。我ながら先程からそわそわとしている。
今日はマスターとのデートだ。そう思うと長年鍛えたポーカーフェイスがなければニヤニヤと笑ってしまいそうになる。
デートとは、私にとって未知のものだ。ただ他者がするのを見ていることしかできなかった、焦がれていたもの。
前の世界において、私はマスターと一度もデートなどということはしたことがない。私たちは暗殺者、極力存在の露見を抑える必要があったのだから。
他の二人には悪いが、私はマスターに女性的な意味では最も愛されていたと自負している。だからそういうことも勿論したかった。
けれど今、この世界でそれを我慢する必要はない。柄にもなくはしゃいだ心境になってしまうのは仕方がないだろう。
だが、それと同じくらいに不安な気持ちもあった。嬉しいと思えば思うほど、いろいろなことを考えてしまう。
マスターに可愛いと思ってもらえるだろうか。デートの途中に何か失敗をしないだろうか。そんなことばかりが思考の隙間をかすめていく。
「……いいや、なにを弱気になっているのだ。こんな気持ちでは、それこそ本当に何か失敗してしまう」
そう自分を鼓舞して、気持ちを入れ替える。マスターに不安な顔を見せるわけにはいかない。マスターはあれで心配性だからな。
よし、と気合を入れていると、宿の出入り口の扉が開く。足音や呼吸のペースからすぐマスターだとわかった。
「よぉルイネ、お待たせ」
振り返ると、マスターはあの珍妙な格好ではなく、しかしいつもとはまた違った服装をしていた。
清潔感のある白色のシャツに、七分袖の青色のテーラードジャケット。すらりとした長い足を覆う黒いスリムパンツと茶色いブーツ。首にはリングネックレスをかけている。
いつもは上げている髪を下ろしてセットしており、黒縁のメガネをつけていた。テンブルに無駄に精巧な彫刻が彫り込まれているのが、今のマスターらしい。
「ふむ、こうして見るとやはり今世のマスターの容姿は非常に整っているな……」
前世のマスターは側にいると落ち着いて良かったが、今世はマスターの内面に釣り合っているというべきか。
マスターは暗殺者としては地味な容姿の方が良いと言っていたが、私としてはどうしてその心に見合う容姿が与えられなかったのか常々問いただしたかった。
まあそんな私の不満はともかく……なぜかマスターは、私を見てぽかんとしていた。というかずっと写真を撮られているのだが。
「マスター?」
「……ハッ!す、すまん。あんまりにも可愛いから見惚れてたわ」
「そ、そうか」
慌てて携帯をポケットにしまうマスターに、頬が熱くなって下を向く。内心ではガッツポーズしているが。
今の私の格好は、フリル付きのボトムスに赤に白い花柄の膝下までのスカート、そしてピンク色のカーディガン。足には赤いヒールを履き、髪も後ろでまとめている。
これは私一人で考えたのではなく、ユエやシアに手伝ってもらい必死に考えたコーディネートだ。
暗殺者として変装するならば、なんの問題もない。どこにでもいそうな地味な見た目になればいいだけなのだから。
だが今は違う。意中の相手とデートするのに野暮ったい格好をしてくるなど、女として0点もいいところだ。だからすごく頑張った。
「マスターに可愛いと思ってもらいたい、その一心で着飾ってみたのだが……」
「そっか。なんつーか、ありがとなルイネ」
ポン。と頭に手を置かれ、髪が崩れないくらいの力で撫でられる。ああ、容姿が変わってもこの手の暖かさは変わらないな。
「それじゃあ、早速いくか?」
「ああ。エスコート頼むぞ……シュ、シュウジ」
驚いた顔をするマスター。それも仕方のないことだろう、私は今まで一度とてマスターの名前を呼んでいない。
しかし私には、このデートにおいてある目的があるのだ。それは、マスターにより私のことを好きになってもらうこと。
そのために積極的に距離を縮めていく……予定なのだが、うう。やはり最初から名前を呼ぶのはハードだったか。恥ずかしい。
「……やべえ、なんかすげえ嬉しい」
「そ、そうか?」
「おう。ほらあれだ、普段と違う呼び方に萌えるというかなんというか」
これは、成功ということでいいのだろうか。いつもはふざけた態度を取り繕っているマスターが、目を逸らしてぽりぽりと頬をかいている。
それをみて不思議と自信が湧いてきて、いつものように腕を絡めた。そして胸の間に押しつけるようにする。
「ちょ、ルイネさん?柔らかいものが潰れているのですが」
「さて、なんだろうな。それより、そろそろ行こう」
そう促すと、苦笑してマスターもいつもの調子を取り戻し「んじゃあ行こうか」と笑って歩き始めた。
「まずはどこへ行くのだ?」
「んー、実は中央街道の一つ隣の街道が雑貨の露店が集まった道らしくてな。そこを見て回ろうか」
「ふむ、良いな」
マスターについて、中央街道へと移動する。その道すがら、ちらちらと街の人間が私たちを惚けたような表情で見ていた。
客観的に見て、私とマスターの容姿は非常にハイレベルだ。自分で言うのもなんだが、美男美女のペアというのは目立つ。
「マスター、今の私たちは彼らにどう見えているのだろうな?」
「んー、普通に恋人じゃね?夫婦とかならもう少し離れて落ち着いてる感じだし。ま、指輪してるから新婚に見えなくもないけどな」
「なるほど…」
がっちりとホールドしていた腕から少し体を離し、手を繋げるのに止める。するとどうだろう、確かに気分が高揚したものからゆったりしたものになった。
「ふふ、これも悪くないな」
「はっはー、これ雫に見られたらOHANASIされそうだぜ」
「む、今は私とデートしているのだぞ。いくら正妻殿とはいえ、他の女性の名前を出すのは少し不快だ」
「わかってるわかってる、いつものジョークだ。もう言わねえよ」
ならいいが、と答える。聞くところによると、正妻殿は普段は世話焼きなのだが、マスターのことになると途端に乙女になるらしい。
〜〜〜
「くしゅんっ!」
「雫ちゃん大丈夫?風邪?」
「いえ、多分シューが私のことでも話してたんでしょう」
「そこ断言するんだ……」
〜〜〜
そうして進むことしばらく、昨日も見た中央街道へと出た。あいも変わらず人で賑わっており、声とともに香ばしい匂いが漂ってくる。
「そういや昨日の串焼き美味かったな。あとで買おうかなー」
「ふむ、ならば出発前に昼食として食べてはどうだろうか」
「んー、そうするか」
話しながら脇道に入り、件の雑貨の露店が立ち並ぶ街道へと入った。中央街道の喧騒が少し遠ざかる。
そこは中央街道よりは活気はなかったものの、それなりに人通りの多い道だった。主に主婦や若い女性、あるいは私たちのようなカップルだ。
「えーと、確かこっちだったな」
「どこに向かうのだ?」
「アクセサリ系の雑貨がある露店。種類が豊富らしいからな。それにお前本好きだったろ?そういう露店もあるらしいから行ってみないか?」
「うむ、問題ない」
その店へと向かいながら、露店の中を物色する。珍しい柄の服や小物、怪しげなオブジェなど、一目見ただけでも色々な露店がある。
最初に入った露店は、奇妙なオブジェを取り揃えているところだった。顔のついた消しゴムや〝さいきょーさん〟なる黒い像などがある。
「お、このオブジェ面白いな」
マスターの言葉に振り向いてみれば、確かにひときわ奇妙な形をしたオブジェがあった。夢に出てきそうな造形だ。
「なになに……〝ぺぽりたぬ〟という名前らしいな」
「なんか目を離した隙に動いたり瞬きしたり布団かけてくれたりしそう」
「平和な怪異だな」
結局気に入ったということで、マスターはそれを買った。ハジメ殿の枕元に置いておこうとあくどい笑いを浮かべるマスターに苦笑する。
他には特に気になるものはないということで、次の露店へと移る。今度は書物を主に売っており、木製のしおりなどもある店だ。
並べてある本の表紙を流し見していると、ふと一つの本に目が止まる。手にとってみると、どうやら恋愛物の本のようだ。
開いてパラパラとページをめくる。流し読みではなく、速読術だ。そういうスキルも時に必要だからな。
「ふむ……よくできているな。なかなか読んでいて楽しい」
「はは、ありがとうございます。実はそれ、僕が書いてるんですよ」
話の構成のうまさに思わず呟くと、店主の青年が朗らかな笑いを浮かべてそういった。ふわふわとした雰囲気の、天然そうな青年だ。
「そうなのか。実に面白かった、これからも頑張ってくれ」
「ありがとうございますー」
「へぇ、そんなに気に入ったんか。それなら買うか?」
「感謝するマスター」
現在の最新刊まで買い、マスターの異空間に入れてもらう。恥ずかしい話だが、私は今無一文。金銭は全てマスターに一任するしかない。
早い所ステータスプレートというものを入手し、私も資金を手に入れなくては。いつまでもマスターに頼っていては弟子として面目が立たない。
「そんな気にすんなよ、デートで男が奢るのはテンプレだしな」
「……私に言っておいて、マスターもテレパシーが使えるのではないか?」
「まあ前世じゃ何年も一緒にいたからなぁ。ちょっとした変化で気づくもんさ」
「ふふ、そうか」
つまり、細かい変化に気がつくほど私のことを見てくれていたということだ。女としてこれほど嬉しいことはない。
少し上機嫌になりながら、次の露店に行く。さて、今度はなにがあるのかと覗いてみて……思考が停止した。
「…………………マスター」
「…………………ああ」
マスターがそれを持ち上げる。赤い筒状のボディに白いラインの入ったそれを。
「これ、どう見てもTE◯GAだな」
「ああ、T◯NGAだ」
見てみれば、他にも色々とアレな道具を売っていた。宿にあったものと同じものもある。
「あの宿の道具の出所はここだったんかい……」
意外なところで知ってしまった。なぜ私たちの知るものと全く同じ形なのか。以前にもこの世界に地球の人間が召喚されたのだろうか。
とりあえず、その露店を後にする。その後いくつか他の露店を回り、最初の目的地だったアクセサリ類の雑貨の露店へと行った。
そこはマスターの言っていた通り、様々なアクセサリ類のある露店だった。ネックレス、指輪、イヤリング、ペンダント……いくつか知らないものもある。
「ほぉ、かなり凝った作りだな」
「ああ、職人の技量の高さが感じられる」
質素かつ繊細な作りのものもあれば、煌びやかで豪華な作りのものもある。一つ一つ完成度が高く、逸品と言っていいだろう。
「お、このブレスレット」
二人で見ていると、不意にマスターが一つのアクセサリを取った。暗い金色のリングに怪しく光る赤い宝石の散りばめられたものだ。
消して派手なものではないが、不思議と目を引き寄せられる魅力のあるアクセサリーだ。マスターは目利きが優れているな。
「さすがマスター、良いものを選んだな」
「兄ちゃん、お目が高いね。そいつは最近流れてきたもので、一点ものなんだ」
「へえ、そうなのか……ちょっとルイネ、手を貸してみ」
言われた通り、左腕を出す。するとマスターが手に持ったブレスレットをすっと通した。サイズは丁度良いようだ。
「うん、やっぱピッタシだな。ルイネによく似合ってる」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいな」
「じゃあ、それ買ってくか」
「いいのか?」
「ああ、俺からのプレゼントってことで」
「まいどあり!」
店主にマスターがお金を払い、そのままつけて露店を後にする。他にオススメの露店はないようなので、中央街道へと戻った。
それから服を見に行ったり……凄まじく強そうな乙女の心を持った漢がいた……曲芸のようなものを見たりと、楽しい時間を過ごしていく。
そして最後は、あのギルドの女性イチ推しのカフェに行った。このカフェのスイーツはブルックの街の名物の一つなんだとか。
「いやー、色々買ったな」
「そうだな……重ね重ね感謝する、マスター」
「いいってことよ。お前が喜んでくれんならこれくらいどうもしねえさ」
コーヒーのようなものが淹れられたカップを片手に、ケラケラと笑うマスター。それにふっと私も笑った。
それから少しの間、私はなにも言葉を発さずにマスターを見つめる。ん?と首をかしげるマスターに、私はまた笑った。
「おいおいどうした、俺の顔に何かついてるか?」
「いや……今のマスターは、楽しそうに生きているなと思っただけだ」
「まあなー。おかげさまで毎日ワクワクしてるぜ」
頭の後ろで腕を組みながらそういうマスター。柔らかいその笑顔は、前世では見ることのできなかったものだ。
数少ないその感情を感じられた時も、必ず一緒に寂しそうな顔をした。それは私たちといずれ別れることを知っていたから。
私を後継者候補として迎え入れた時点で、もうマスターには五年しか時間がなかった。だからいつも焦るような感情を感じていた。
でも、その焦りが今はないように思う。ただ純粋に、自分の人生を楽しんで生きているように見えるのだ。
「マスターは、どうしてそんなに楽しそうなのだ?」
「……人間の平和のために生きるのも悪くなかったさ。でもな、今の方がずっと楽しいんだなーこれが」
私が聞くと、マスターは少し真剣な顔になって返答してきた。カップの淵をなぞり、思い返すように視線を虚空に迷わせる。
「前世ではさ、俺は〝世界の殺意〟であって俺という個人じゃなかった。秩序を維持するため人を殺すだけの存在だった。結局、相手が変わっただけで俺はずっと操り人形だったのさ」
そう。マスターはマスターという一人の人間としては生きられなかった。私たちに家族の暖かさをくれたのも、世界の殺意になるために人の善性を教える必要があるから。
しかし、その暖かさが嘘偽りだと思ったことはない。必要云々関係なく、マスターは心から私たちを愛してくれていたと確信している。
「だから、俺が守る平和の中で生きる人間を見てて思ってたんだよ……ああ、俺もこんな風に生きられたらなって」
「……それは」
「わかってる、これは俺の根底を覆す願いだ。でも願わずにはいられなかった、心から大好きな人たちと一緒に、俺として生きるということを……そして、今それが叶ってる」
心の底から嬉しそうに微笑むマスター。それは私の知る昔のマスターのようであり、今ここにいる〝北野シュウジ〟の微笑みでもあった。
「ハジメや雫、エボルト、空っち……今世での大切な奴らに加えて、お前やあの二人だってこの世界のどこかにいる。だから嬉しくてたまらねえんだ、誰かと一緒に生きられることが」
「……マスター」
そんな風に、私たちのことを思ってくれていたのだな。胸の奥がキュッとして、思わず手で押さえる。
「だから、俺は笑う。この幸せな人生をめいいっぱい楽しんで生きる。そのためなら……邪魔するものは全員殺す。〝世界の殺意〟の名にかけて」
マスターの目がスッと冷たくなり、手に持っていたカップの持ち手にヒビが入る。そこからはマスターの平穏を奪った神への怒りが感じられた。
その怒気に、思わず背筋が震える。マスターの奥に隠された冷徹さ。失われていない暗殺者としての恐ろしいマスター。
咄嗟にマスターの手に自分のそれを重ねた。するとマスターはハッとなって元の柔らかい顔に戻り、カップを置く。
「ま、これが俺が楽しそうな理由ってとこだ。ご満足いただけたかな?」
「……ああ。ありがとうマスター、話してくれて」
「いやいや、むしろせっかくのデートなのに重い話してすまんな」
「……マスター。私もこの時間をとても愛おしく思っている。貴方と一緒にいられることが、心から嬉しい」
「……そっか。そう言ってくれて嬉しいよルイネ。これからも一緒にいてくれよ?」
「ふふっ、なんなら死ぬまでずっと一緒にいよう」
「ははっ、そいつは頼もしいぜ」
「お待たせしました、ご注文の品です」
そうして話しているうちに、注文したスイーツがやってくる。見た目からして美味しそうなものだ。
「さっ、辛気臭い話もここまでにして甘いものでも食べようぜ」
「ああ、そうだな」
マスターの促しに素直に従い、私もスイーツを食べ始める。口の中にほんのりと甘い味が広がった。
三十分ほど談笑しながらスイーツを堪能すると、ちょうど出発する頃合いになったので宿に戻ることにする。
宿の前まで引き返すと、すでにハジメ殿やユエたちが入り口で待っていた。こちらに気づいて手をあげる。
「よぉシュウジ、デートは楽しかったか?」
「おう、俺はな。ルイネはどうだった?」
「当然、楽しかったさ。貴重な話も聞けたしな」
そういうと、マスターは少し恥ずかしそうに頬をかいてごまかした。可愛いその姿に先ほどとは別の意味でキュンとする。
「……それはともかくとして、シアさんそれどうしたのよ」
「えへへぇ、聞いてくださいよお二人とも!ハジメさんが私に戦槌を作ってくれたんですよぉ!」
キャッキャッとはしゃいで手の中の大槌を見せてくるシア。よほど嬉しかったようだ。
もうチェックアウトは済ませたということで、マスターともども魔法で早着替えをして街の出口へと向かう。
「そういえば早くに出て行ったが、ユエとシアはどこへ行っていたのだ?」
「食料品とか色々買ってたですぅ」
「……ん、変なのにも絡まれた」
「ほう、そうなのか。ウサギは?」
「ハジメの作業見てたよ。楽しかった。ルイネは?」
「そうだな、まずは雑貨屋に行って……」
この数時間のことを話していると、出口に着いた。来た時と同じ青年の門番に確認を取り、ブルックの街を完全に出ていく。
門番から見えないほどの距離になると、ハジメ殿が魔力駆動二輪とサイドカーを、マスターが携帯をバイクに変形させた。
「ほれルイネ」
「ああ」
差し出された手を取り、マスターの後ろに乗り込む。そして横乗りになるのではなく、ギュッと抱きついた。
「ルイネ?」
「ふふ、たまにはこれも良いだろう?」
「確かに(即答)」
すぐに答えたマスターは、ハジメ殿たちが発進できる状態になったのを確認すると、バイクのアクセルを引いた。
バイクが発進し、ハジメ殿たちがそれに並走する。ここ数日で慣れた心地よい風が髪を揺らした。
「……なあ、マスター」
「んー、どうしたルイネ?」
「私は、あなたを離さないからな」
あなたが私達を手放したくないと、守りたいと思うのならば。それならば、私はずっとあなたのそばについていこう。
そう、それこそいつも言っているようにこの命が尽き果てるまで……いや、来世もその次の来世も、ずっとずっと共に。
きっと、それができると確信している。なぜなら一度完全に忘れても、それでも私たちはあなたを思い出し、追いかけて、こうして今一緒にいるのだから。
だから……
「覚悟しろマスター、もう二度とどこにもいかせない」
「……なら、そうやってちゃんと掴んでてくれや」
マスターの言葉に、私は抱きしめる力をより一層強くしたのだった。