美空「作者どうしたの?なんか久しぶりに元気有り余ってるし」
雫「どうやら元カノさんと話し合って、親友というポジションに収まってスッキリしたそうよ。時間が経った今はもう完全に未練は消えたらしいわ」
愛子「良きかな良きかな。失恋、そして新しい関係の構築。実にめでたいです」
香織「愛ちゃん先生が先生っぽい…?」
愛子「失敬な、私はれっきとした教師です。少々サイズが小さいですが」
ヴェノム「私ト一ツニナッタ時ハ以前ト変ワラナイダラウ…今回ハ前回ノ続キダソウダ。ゼヒ楽シンデイクトヨイ。ソレデハ息ヲ合ワセテ」
五人『さてさてどうなるクラスメイトサイド』
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シュウジと雫のイラストです。
あれは、私が6歳だった時のこと。
その日、私は香織とその両親、兄と一緒にプールへと遊びに行っていた。少し遠いところにある、初めていくプールだった。
「かおりー!どこー!?」
そして行き慣れていないところだったから、香織が迷子になってしまった。小さい頃の香織は今とは比べ物にならないレベルの天然だったの。
どれくらい天然かっていうと、一緒にお風呂に入ろうとしたら服を着たまま湯船に浸かろうとするくらい。もうほんとに天然・オブ・天然だった。
だから、小さい頃から私は香織の監視役をしていた。それはしばしば突っ走る光輝や脳筋で考えなしの龍太郎も同じことで、いつのまにか私がまとめ役になっていた。
おかげで同級生にも先生にもお母さん見たいって言われるし……シューと未来の子供達以外にはお母さんって呼ばれたくないのに。
あ、でも子供には最初はママって呼ばれたいわね。できれば男の子と女の子一人ずつがいいんだけど……え、早く続きを?鼻息が荒い?わかったわ。
こほん……それで、私は香織の両親と手分けして香織のことを探していたの。
でも夏休みだったからかなり人がいて、まだ幼くて体の小さい私では見つけ出すのは困難だった。
見つけられないもどかしさと焦りが募り、私は周囲に気をつけることも忘れて、香織の名前を叫びながらプール内を駆け回った。
「かおりー、ど……きゃっ!」
その途中、あまりに必死すぎて前が見えておらず、人にぶつかってしまった。そのまま倒れるかと思ったけど……
「おっと、大丈夫かい?」
ぶつかった相手は、いつの間にか私の後ろに回って受け止めてくれた。一瞬前まで目の前にいたのに、その時は驚いたわ。
驚きのままその人物を振り返って見て……顔を見た瞬間、全身にそれまで感じたことのない電撃が走った気がした。
私がぶつかったのは、同世代くらいの男の子だった。それにしては当時から背が高くてスラっとしてて格好良くて髪はサラサラしてて目は切れ長で鼻は高くて唇は薄くて指はほっそりとしてて目は力強くて……え、そこまでで良い?目が怖い?失礼な。
とにかく、その男の子はそれまで出会った中で一番格好良かった。光輝?ああ、なんていうか光輝は世話のかかる弟みたいな感じだから。
「? どしたん?俺の顔に何か付いてる?」
「っ!い、いえっ!ごめんなさい!」
ぼーっとする私に、その男の子は心配そうな表情で顔を覗き込んできた。それにハッとして慌てて私は立ち上がった。
「おっと、ははっ、そんだけ元気があんなら心配いらナッシングだな」
「あの、本当にごめんなさい」
「いいっていいって。んで、なんであんなに必死になってたん?」
え?と頭を下げていた私は顔を上げた。すると、男の子はニッと不敵な笑みを浮かべた。その顔に思わずドキッとした。
ああ、今思えばあれが初めてシューの笑顔を見た瞬間だったわね。なんでその時の私カメラ持ってなかったのかしら。あの日だけで93913枚は撮れたのに。
「周りが見えなくなるほど必死なんて、家族でもはぐれたのか?」
「あ、その、友達が迷子になっちゃって……」
「あー、なるほど。なら手伝おうか?」
「え、いいの?」
見ず知らずの私を手伝ってくれるという男の子に、私は困惑した。そんな私に男の子はピシッと親指で自分の顔を指差し。
「こう見えて人探しは得意でな。役に立つぜ?」
「……えっと」
妙に説得力のある男の子の言葉に安心感を覚えた私は、それじゃあと恐る恐る助力を頼んだ。男の子はそれを快諾した。
「それで、その友達の名前と外見は?」
「えっと、名前は香織。髪が長くて、ぽわーっとしててふわふわとしてて危なそうで目が離せなくて……」
「あっはっはっ、つまり天然なわけね。それで格好は?」
「白い水着を着ているわ」
「どこではぐれた?」
「確か、最後に一緒にいたのは波のプールのあたりかしら。その後飲み物を買いに行って、それきり」
「ほほうほう、了解した。では早速さがし「おーい、シュウジー」ぬっ」
いざ探し出そうというところで、私たち……というより男の子に同い年くらいの男の子と女の子が近寄ってきた。
一人は優しそうな、でも気弱そうなどこにでもいそうな男の子。もう一人はハッとするほど綺麗な女の子。そう、南雲くんと石動さんだ。
その時の南雲くんの言葉で初めて、私は男の子の名前を知った。そうよ、あなたももう分かっているでしょうけれど、それがシューよ。
「よーハジメ、美空」
「よーじゃないよ、置いてかないでよ」
「まったく、どこまで飲み物買いに行くのよ」
「俺じゃない、入り口のとこの自販機のココアが飲みたいと言ったエボルトが悪い」
「エボルト?」
「いや、なんでもない」
当然だけど、この時私はエボルトの存在は知らなかった。だからこの時エボルトが『お前はおしるこ買うとか言ってたじゃねえか』と言ってたのも知らなかった。
オロオロとする私にシューは南雲くんと石動さんを紹介してくれて、皆で手分けして香織を捜索することになった。
「ハジメと美空は迷子センターに親御さんが来てないか確認してきてくれ。俺はこの子と一緒にその子を見つけるから」
「わかった」
「あんまり私たちと同じテンションで絡まないようにね」
「心配するとこそこ?」
苦笑した南雲くんと石動さんが迷子センターへと向かったのを見届けると、シューは私に笑いかけて背中を押した。
「さあ、探そうか」
「重ねがね、ありがとう。見ず知らずなのに助けてくれて」
「おおー、年齢の割にしっかりしてるなー。今何歳?」
「6歳よ」
「へえ、同い年なのか……あ、自己紹介遅れたけど俺はシュウジ。
「う、うぃ……?」
ちなみにこの時エボルトは前◯前世歌ってたらしいわ。もちろんドイツ語なんて分からない私は理解できなかったけど。
「ジョーダンジョーダン、君の名前は?」
「……雫よ」
「そっか。じゃあ雫ちゃん、お兄さんと一緒にお友達を探そうか」
あなたさっき同い年って自分で言ってたでしょ、と言いそうになったけれど、年上の男性のようなその落ち着いた声音に妙に安心感を覚え言えなかった。
今思えば、それは当たり前だったんでしょう。その時でもすでにシューの中での生きている時間は一千と六年、考えてみるとすごい年の差よね。
とにかく、自己紹介を終えた私たちは一緒にはぐれるまで香織と一緒にいた場所を辿りながら探し始めた。その間、終始私はシューの行動に驚かされた。
「雫ちゃんは、普段から香織ちゃんとやらの世話を焼いてるのかい?」
「ええ、そうね。いつもおっとりしているものだから、危なっかしくてちゃんと見てないと何かに巻き込まれそうで……」
「へえ、俺もその気持ちわかるぜ。この前もハジメと庭でジョ◯ョの無駄無駄オラオラごっこしてたら美空に説教されたからな」
「……それ叱られてる側じゃない」
もし香織が見つからなかったらどうしよう、もし事件に巻き込まれていたら、そう不安になる私を元気付けるようにシューは一定の間隔で話しかけてくれた。
もちろん、学校にも似たように話しかけてくる男の子はいたわ。でも自分のことばかりまくし立てるだけで、まったくこちらに御構い無し。
それにはもちろん光輝や龍太郎も入ってた。光輝はいらないお節介を焼こうとするし、龍太郎は脳みそ筋肉だし。
それが悪いこととは言わない。小学生なんだから、相手に気遣うなんてことができるのはごく一部の人間だけだ。
「ほー、そんなことがあったのか。俺もこの前なぁ」
「ふふっ、なにそれ。結局怒られてるじゃないの」
「それが俺たちクオリティだからな」
「あははっ」
けど、シューは違った。私から話を聞き、それに相槌を打って、そこでようやく自分のことを面白おかしく話す。
軽快ではあるけれど、軽薄ではない。見ていて楽しくなるような、居心地の良さを覚えるような、そんな風に思った。
しかもシューは、最初に話しかけた時に私の機敏な心の動きを見定めたみたいで、ピンポイントで不安が強くなる時に話を振ってくれたのだ。
これまで周りにいた子とは違う、思慮深くて安心感を覚える男の子。気がつけば私は心を許して、色々なことをシューに話してた。
それだけでなく、また私が人にぶつからないように絶妙な位置で前に立ってくれたし、少し疲れたら休憩もしてくれた。
光輝じゃこうはいかない。光輝の場合、自分が満足するまで振り回されて疲れるだけで終わることが多いのよ……御堂さん、すごい顔になってるわよ。
んんっ、話を戻すわね。そうして気がつけばほとんど行った場所を回り終えて、最後に波のプールへと向かった。
「んー、見つからないなぁ。次が最後なんだろ?」
「ええ。もしかしてすれ違っちゃったのかしら……」
「安心しませい、閉園の時間になっても見つかるまで協力するぜ」
「ふふ。ありがとう」
サムズアップするシューに頼もしさを覚えていると、波のプールが見えてきた。そしてそこに、母親と一緒にいる香織を見た。
「香織っ!」
私は弾かれるように走っていき、え?という顔をしている香織に抱きついた。
「香織っ!どっかいったらダメでしょ!」
「ご、ごめんねしずくちゃん……」
「まったくもう……」
しゅんとする香織の頭を撫でていると、どこか安心したような顔のシュー、そしてどうやら香織のお母さんたちと行動を共にしていたらしい南雲くんと石動さんが近づいてきた。
「お前らサンキュー、親御さん連れてきてくれたみたいだな」
「まったく、本当にシュウジは人使いが荒いんだから」
「ハジメ、せっかく頼られたんだから力になる!って張り切ってたくせに」
「そ、それは言わないでよ!」
赤い顔をする南雲くんとからかうような顔の石動さんに笑った私は、シューに向き直った。
「よかったな、雫ちゃん」
「ええ、ありがとう。シュウジのお陰で不安にならずにちゃんと探せたわ」
「いや、結局俺は最後にしか見つけられなかったから礼を言わなくてもいいぜ。まっ、少しでも気持ちを和らげられたならよかったけどな」
私が頭を下げれば、シューはケラケラと陽気にそういった。こちらを気負わせないための気楽な姿勢に、私は肩の力が抜けた思いだったわ。
そのあと、香織を連れてきてくれたという目の濁った男の人とその連れの人たちに頭を下げて、香織の迷子事件は終わった。
「それじゃ、もう香織ちゃんがどこにもいかないように見張ってろよ」
「ええ、しっかり見ておくわ」
がっしりと香織の手を掴んで見せつければ、シューはそれでいいと言わんばかりに頷いたの。
そしてふと、どこか遠くを見るような目をして何かを呟いたわ。今ほど難しいことを考えられなかったけど、その目が寂しそうだったのをよく覚えている。
「それでいい……大切な人間は、絶対に手放しちゃダメだ。時にどんなに会いたくなっても、二度と会えなくなるからな」
後から聞いた話だと、そう言っていたらしいわ。あれ、御堂さんどうしたの?顔赤くしてそっぽ向いてどうしたの?ほら、こっち見てみなさいよ。
え、今はやめてくださいまし?わかったわ、じゃあ勝手に話を続けるわね。その顔を見た私は、不思議な感覚に襲われたの。
ふとこれまで見てきたシューの表情や態度は、ほんの上澄みだけだった気がしたのだ。いや、それは初対面だから当たり前なんだけど。
でも、なんだか
だから私は背を向けるシューに向けて、こう言った。
「ね、ねえ!」
「ん?どした?」
「その……もし、次に会うことがあったら」
「おお、あったら?」
「………貴方の本当の顔、見せてね?」
そう言った時、初めてシューの心底驚く顔を見たわね。ああ、もったいない。本当にあの時カメラを持ってなかったのがもったいないわ。
まあ、それは驚くでしょうね。私よりもあなたの方がよっぽど知っているでしょうけど、シューの本性を見破ることは、普通なら不可能だから。
それじゃあなぜわかったのかと言われても、私にもよくわからないわ。直感だったんですもの。あるいは神からの天啓かしら?
「とにかく、そうした経緯で私とシューは出会ったのよ」
「……そうですの」
ようやく平時の顔に戻った御堂さんは、先ほどの赤面を誤魔化すように澄ました顔で言う。ちょっと悪戯心が湧いた。
「その時一番印象的だったのは、やっぱりシューが憂いた目をしたときのセリフで……」
「やめてくださいまし。やめてください。やめろ。やめてくださいお願いします」
「一周回ってやめてくださいに戻ったわね」
「あなた、Sですわね?」
「時々激しく攻めるとシューは可愛い顔するわよ」
「聞いてないですわ」
はぁ、と赤くなった頬を振る御堂さん。そこで私も満足したので、からかうのをやめる。ちょっと楽しかった。
あ、言っとくけど私がこうなったのはシューのせいであって、私が元からサドな訳じゃないわ。つまり私は悪くない。
数分して完全復活した御堂さんはで、その後は?と目線で促してくる。それに答えて私は口を開いた。
「それで、その後たまたま帰り道に一緒になったの。その時、意外と家が近いことがわかったのよ。といっても、香織や光輝たちほどじゃないけど」
「へえ、まさに奇跡としか言いようがないですわね」
「ええ。私はそれがわかると、シューの家に何度も足を運んで、たくさんシューと接した。彼の本当の顔が見たくて、どんどん近づいた」
そして知ったのは、とても不器用な優しさ。近しいものを不安にさせないため道化を演じ、愛するがゆえに自分を顧みずに強くあろうとする。
深く知れば知るほど、私はシューを好きになってしまっていた。それこそ、もう一生抜け出せないほどに深く愛してしまったのだ。
極め付けには小学校を卒業になるときにはもう、シューなしではダメになった。私をずっと支えてほしい、私がずっとそばにいたい。
あの陽気な仮面の奥にある、優しくて不器用な北野シュウジという人間を、一生隣にいて見ていたい。そう強く願った。
そして、シューはそれに答えてくれた。何度も誘わ……んんっ、何年もかけて仲を深めたお陰で、彼も私を見てくれたのだ。
「そして中学の頃から正式付き合いはじめて、今に至る。というわけよ」
「……なるほど。確かにあの人の優しさを一度知れば守られたくなる気持ちも、そばにいたくなる気持ちもわかりますわ」
「でしょ?」
彼は誰よりも強くあろうとし、事実誰よりも強い。けれど誰よりも優しくて、誰よりも不器用で、誰よりも寂しがり屋だ。
一人だったが故の強さ。独りだったが故の弱さ。その両方の性質を持つシューは、私にはとても魅力的に見えた。それは御堂さんや、他のお弟子さんも同じなのだろう。
「そういうわけだから、私はあの人のそばにいるの。今は物理的には無理だけれど、そのうち絶対にそうするわ」
「わかりました。ならば私……いえ私たちは、それをサポートしましょう」
「……いいの?」
言っちゃ何だが、前世からシューを知ってる彼女達からすれば私はシューをかっさらった小娘以外の何者でもないだろう。
それなのに協力してくれるのは、外見は同い年といえど精神年齢が私より高いからか、あるいは前世で共に暮らしていたというアドバンテージがあるからか。
「ええ。私たちにとって何より大切なのは、彼の方の幸せ。そのためならいくらでもお力添えいたしますわ」
「……ふふ、貴方ならシューのそばにいても良さそう。そしたらきっと、もっとシューは幸せになれる」
「……貴方、面と向かってよくそんなに小っ恥ずかしいこと言えますわね。羞恥心を前の世界に置いてきたのかしら?」
「失礼な。ちゃんとシューの前では恥ずかしがるわよ」
「限定的すぎて何も言えませんわ」
やれやれ、とかぶりを振る御堂さん。でも口元にはうっすらと笑みが浮かんでおり、満更でもないのがわかる。
私の理想。それは私がシューの隣にいて、その上でシューを慕ってくれる人全員が周りで笑いあっていること。その中には彼女もいる必要がある。
だから、それを実現するために……
「これからよろしく、御堂さん」
「ええ、よろしくお願いしますわ。全ては……」
「シューの幸せのために、でしょ?」
「……あなた、やっぱり意地悪ですわ」
呆れたように笑う御堂さんと私は、がっちりと握手を交わすのだった。
「あ、それで早速悪いんだけど、前世のシューのことについて教えてくれない?あと私の知らなそうな好物も」
「いいですわよ。まず彼の方はナスの炒め物が好きで、そこに醤油をかけるのが……」
それから私たちは日が昇るまで、隣の宿でシューのことについて語り合ったのだった。どこからか《デンジャー……!》とか聞こえてきた気がした。