星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、ヴェノム三回観た作者です。何回見ても面白い!

シュウジ「こんにちは、愛と勇気がお友達(笑)のシュウジだ。前回はブルックにまた行ったぜ」

リベル「街ってにぎやかだね!」

ユエ「ん、はぐれないように手を繋ぐ。あそこのクレープ食べる?」

シア「あっずるいですよユエさん!リベルちゃん、お姉ちゃんとケーキ食べに行きましょう?」

ウサギ「…キャロットケーキ」

ハジメ「リベル、クッキーいるか?」

ルイネ「待て待て皆、リベルは私の娘だ。リベルの食事は私が作る」

エボルト「お前ら全員懐柔済みじゃねえか。で、今回はブルックを後にするときの話だ。それじゃあせーの…」


八人「「「「「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」」」」」


いざフューレンへ

 ブルックの街の一角にある、とある場所。

 

「……………」

 

  その場所で俺は、無言で瞑目していた。腕を組み、仁王立ちをしながら体の中で闘気を高め、静かにその時を待っている。

 

  これから俺が相対するのは、この世界の中で最大に匹敵する脅威である。瞬間的とはいえ、その力はエヒトをも超えるだろう。

 

  いまだにその姿を見ていないはずなのに、既に心臓は早鐘を打ち、頭の中は緊張で満たされ、武者震いが全身を伝っていく。

 

  いや、むしろこの時点で既にそれとしのぎを削り合っている気さえした。イメージだけでこの俺にそう思わせるほど、相手は手強い。

 

  まるで世界の終末を迎えようという時に、未来をつかめるか否かの瀬戸際にいるような、極限の集中。

 

  ひたすらに精神統一をしながら、ただひたすらにその時を待って、待って、待って………そしてついに、その瞬間は訪れた。

 

  シュッ!という音ともに、前方にあるものが開く。それに俺はクワッ!と目を見開き、勢い良くうつむかせていた顔を上げ、カメラを取り出し……!

 

「パパー、これどーお?」

 

 

 パシャッ

 

 

  試着室から出てきたリベルを撮影した。一枚だけにとどまらず、何枚もパシャる。リベルは撮られるのが面白いのか、キャッキャとはしゃいだ。

 

「俺は写真撮影においても頂点に立つ男だ……!」

「またこのテンションかよ。前は一晩ちくわかはんぺんか悩んでなかったか?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

  分離しているエボルトの呆れたような声に俺は答える。そういえばオスカーの隠れ家でも似たようなことハジメとやってたな。

 

  改めて紹介しよう、ここは例のオカm……けぷこんけぷこん漢女であるクリスタベルさんの経営する服飾店である。

 

  周囲には服の積み重ねられた棚や服を着た木製のマネキン、帽子やちょっとしたアクセサリーなどが陳列されている。地球とそう変わらない。

 

  なぜここに俺とリベルがいるか。その理由は当然、服を買うためである。俺のではなく、主にリベルの服をだ。

 

  ブルックの街に滞在し始めてからはや一週間。どうやらリベルは服を着るのが好きらしく、二日に一回の頻度で足を運んでいた。

 

『まああのめんどいローブずっと着られても面倒だからな。この一週間で20着は買った気がするが』

 

  使う機会がほとんどなくて、冒険者稼業で稼いだ金は十分にあるしな。それに、もし手持ちが尽きたとしても()()()()()()()()()()

 

  とまあ、そんな俺の懐事情はともかく。この一週間でもう完全に俺とルイネの娘としてうちの一行の中で定着したリベルは、今日も今日とて可愛さが引き立っていた。

 

  リベルはあのローブのような重厚なものより軽い服が好きらしく、フリフリとしたドレスよりもノースリーブのシャツやホットパンツなどを好んでよく着る。

 

  今着ているのも、青地にピンクでドクロの描かれたシャツとホットパンツ、赤い宝石のあしらわれた茶色のサンダルといったコーデだ。うん、超可愛い。

 

  ちなみにこれ、8着目である。既に7セットほどコーディネートされた服がカゴに入っており、全部買う予定だった。

 

「親バカめ」

「俺が目を離してる隙に頻繁に買い食いさせてんの知ってんぞコラ」

「な、なんだってー!?」

「成長に悪いからあんまり食べ過ぎさせんなよー」

 

  ジト目で見ると、エボルトはヒューヒューと下手な口笛を吹いて顔ごと目をそらす。ひと昔前の子供か。

 

「いいよいいよ!もう少しバンザイして!」

「こーお?」

「Excellent!」

「無駄な発音の良さだな」

「まったくだ。見ようによっては事案だぞ?」

 

  写真を撮り続けていると、隣の試着室からエボルトの発言に同調する声が聞こえてきた。

 

  そちらを見ると、聞き覚えのある声の主はシャッとカーテンを開ける。カーテンの中から出てきたのは、リベル同様に可愛らしい服を着たルイネだった。

 

  ピンクのトップスに金色のベルト、ベージュの膝丈のスカートにリベルとお揃いのサンダル。頭にはいつも通り俺の作ったカチューシャをつけている。

 

「おお、似合ってるな」

「うむ、とってもBeautiful」

「なんでさっきからそんな滑舌いいんだ?」

「そ、そうか。ならよかった」

 

  耳のあたりの髪をいじりながら、少し頬を赤くするルイネ。これは照れた時のルイネの仕草だ。ちなみに極限まで照れるといじる速度が速くなる。

 

「ママ、お揃いだよ!」

「うむ、そうだな」

 

  見て見て!と自分のサンダルをアピールするリベルの頭を、慈愛のこもった微笑みを浮かべ撫でるルイネ。どこからどう見ても仲良し親子だ。

 

  これは永久保存不可避と写真を撮ると、それに気づいたルイネがリベルを抱き上げたのでまた一枚撮る。今度は肩車でパシャリ。

 

  それから何枚か写真を撮っていると、クリスタベルさんが奥から出てきた。そして自慢げな顔をする。

 

「どうかしら、私のコーディネートは♡ルイネちゃんの魅力を引き出してると思うのだけど♡」

「ああ、あんた最高だよ。もともと女神だったルイネがさらに完璧になっちまった。感謝してもしきれないね」

「な、なにをっ……!」

 

  赤面するルイネを尻目に、がっしりとクリスタベルさんと握手を交わす。太いその腕の見かけに違わず、非常に力強かった。

 

  そのまま離さないのではないかという力のこもった腕を、笑顔のまま振りほどく。すると、俺を野獣のごとき目で見ていたクリスタベルさんは驚いた顔をした。

 

『ヤ☆ラ☆ナ☆イ☆カ』

 

 やめなさいよ(戦兎風)

 

「ふふっ、強いわねぇ。強い男は好きよ♡」

「そりゃどうも。今後とも良い服、期待してるぜ?」

「ご期待には応えてみせるわん♡」

 

  クネクネと体をくねらせるクリスタベルさん。ふう、この人の相手をするのは骨が折れるぜ。服のセンスは抜群だけど。

 

  いつも通りのやりとりを終えた俺たちは、リベルにナデナデされているルイネが復活するのを待ってから会計をした。

 

  ルイネはいくつか選んだものの中から気に入ったものだけを買うタイプなので、今着ているワンセットとリベルの服を購入し、エボルトを吸収して店を後にする。

 

『なんで俺吸収された?』

 

 気分。

 

  店を出た俺たちは俺はリベルと右手を、ルイネは左手を繋いでおり、三人横一列に並んで歩いた。リベルはニコニコと上機嫌に俺たちの手を揺らしている。

 

「いやーいい買い物したな」

「したー!」

 

  俺の言葉を復唱するリベル。天使に相違ないその笑顔に、リベルを挟んで向こう側を歩いているルイネとほっこりとした顔をした。

 

 

 

 ザッ!

 

 

 

  そろそろリベル用のアルバムを作るべきだろうかと考えていると、突如前方に謎の集団が現れた。

 

 

 ●◯●

 

 

  どこからともなく姿を現したその集団は俺たちの前に立ちふさがり、道を塞ぐ。その目には剣呑な光をたたえて……こう言うと何かシリアスに聞こえるよね。

 

『お前のその発言で台無しだよ』

 

  集団は三分の二が男で構成されており、残りの三分の一ほどが女性という構成だ。男たちは皆一様に俺たち……というより、ルイネとリベルを見ている。逆に女性は俺を見ていた。

 

  鬼気迫る表情のその集団に、しかし俺たちはまったく焦っていなかった。なぜかって?このあと起こることをもう知ってるからさ。

 

  既にスタンバイ完了している俺たちの前で、集団の全員が一歩前に出る。そして……

 

「「「「「シュウジ様、私と付き合ってください!」」」」」

「「「「「ルイネさん、俺の奥さんになってください!」」」」」

「「「「「リベルちゃん、俺の娘になって!」」」」」」

 

  一糸乱れぬ動きで、腰を九十度に曲げて同時にそういった。まさに無駄に洗礼された無駄のない無駄でしかない統率具合だった。

 

『無駄無駄無駄無駄ァーーー!』

 

 いやそれは無駄の意味が違う。

 

  ブルックの街に来てからいくつか頭を悩ませていることがあるのだが、そのうちの一つがこれだ。謎の集団告白である。

 

  通称「ルイネさんをお嫁にし隊」と「リベルちゃんを娘にし隊」、そして「シュウジ様の彼女になり隊」という彼らは、この一週間同じようなことを繰り返し行ってきた。

 

  まあ、気持ちは分からなくもない。ルイネは女神だしリベルは天使だし、俺も主観的に見ても客観的に見ても相当容姿は整っている。

 

『さりげなくナルシスト発言頂きましたー』

 

 ご注文はう◯ぎですか的な?

 

  しかし、俺たちの答えは決まっているわけで。

 

「すまないが、パスだ」

「断る」

「やっ!」

「「「「「ぐふぅっ!」」」」」

 

  崩れ落ちる三隊の方々。もう一週間ともなればその光景も見慣れたもので、もはや苦笑すら湧いてこない。

 

  暴走して何か下手なことをしでかす前に、ルイネがパパッと予備の金属糸で全員を縛ると通行人の邪魔にならないよう、適当に道の隅に転がしておいた。

 

  最初の頃は放っておいたのだが、目に余る過激な行動をする輩も少々いたので、今はこうして動けないように処理してからやり過ごしている。

 

  荒波を立てぬようやんわりと対応していたのがまずかった。それに調子に乗った奴がルイネやリベルに手を出そうとしたので、一度本気の殺意をぶつけたのだ。

 

  そしてはっきり言った。俺は二人を誰にも渡す気はないと。今後また二人に危害を加えようとするのなら、死を覚悟してもらうと。

 

  それ以降は鳴りを潜めたが、用心を重ねて何かが起こる前に対処することにした。これがその結果である。

 

『そのせいで「シュウジ様に殺され隊」とかできてるけどな』

 

 自業自得って怖いよね☆

 

  あ、ちなみにユエたちにも似たようなのがいる。確か「ユエちゃんに踏まれ隊」、「シアちゃんの奴隷になり隊」、「ウサギちゃんの椅子になり隊」である。

 

『この街変態多スギィ』

 

  あと「カエルにビンタされ隊」ってのもあったな。あのカエル、大人しくしてればデフォルメされたカエルみたいで可愛いしな。

 

  で、一番問題なのが「お姉さまと姉妹になり隊」。これはハジメがユエたちに付き纏っている害虫と自己解釈した過激派集団で、ハジメを排除しようとしていた。

 

  んで、ナイフ持って突撃した女の子が服剥ぎ取られて亀甲縛りで一番高い建物に吊るされてた。「次は殺します」って張り紙付きで。それ以降大人しくなった。

 

『やり方教えたのお前だけどな』

 

  あれ、そうだっけ?あいつに教えたもの多すぎて覚えてねえわ。

 

「まったく、困った連中だ」

「わたしのパパはパパだけなの!」

「おごふっ」

 

  やべえ、リベルの発言に特大ダメージ受けた。これはもうスイーツ巡り確定ですね。

 

『お前さっき無駄な間食はさせないって』

 

 それはそれ、これはこれ、だ。

 

『うわぁ暴論』

 

  そんなことを話している間に、ハジメたちとの合流場所である冒険者ギルドが見えてくる。俺はデップースーツに早着替えした。

 

  冒険者ギルド前に着くと、そこにはもうすでにハジメたちがいた……足元に無数の気絶した男たちを転がしながら。

 

『どうやら今日も包囲されたみたいだな』

 

 懲りないねぇ。

 

「おーいハジメ、お待たせー」

「シュウジか。ったく、とんだ待ち時間だったぜ」

「……ん、変態撲滅」

「うう、面倒ですぅ」

「……しつこい」

「ゲコッ」

 

  ため息を吐くハジメ、硝煙を吹き消すように指先に息を吹きかけるユエ、ガックリとうなだれるシアさん、カエルを撫でるウサギ。皆お疲れのご様子だ。

 

「ハジメおじちゃん、だいじょぶ?」

「おじっ……ああ、大丈夫だ。ありがとな」

 

  おじちゃんって呼ばないでくれ、と言いかけたハジメはしゃがむと、以前のような柔和な笑顔でリベルの頭を撫でる。すっかり懐柔されてらっしゃる。

 

  まあそれは俺たち全員同じことなんだけどね。ユエとシアさんなんか、この前どっちがリベルを抱っこして寝るか争っていた。

 

『結局いつも通りお前ら三人で寝た件について』

 

 収集つかなそうだったからね!仕方ないね!

 

  例のごとく隅の方にどかすと、ギルドの中に入る。カランカランとドアに取り付けられた鐘がなり、俺たちの来訪を告げた。

 

  ギルド内のカフェにはいつも通り何人かの冒険者がおり、こちらに気付いて手を挙げて挨拶する者もいる。勿論、ルイネやユエたちに見惚れながら。

 

「おっ、〝スマッシュ・ラヴァーズ〟だ」

「よう〝スマッシュ・ラヴァーズ〟!」

「「……………」」

 

  挨拶ついでにハジメとユエが変なパーティ名で呼ばれていた。二人はもはや悟りを開いたような顔でシカトしている。

 

  ちなみに〝スマッシュ・ラヴァーズ〟とは、言い寄る男たちに股間スマッシュをするユエと、ユエやシアさんをかけて決闘しようとする男を〝け〟の字で撃つ決闘スマッシュのハジメから来ている(俺ペディア参照)

 

「おや、今日は全員で来たのかい?」

「ああ、ちょっと挨拶をと思ってな……ていうか、相変わらず認めた覚えのないパーティ名で呼ばれてるんだが」

「じゃあ正式なパーティ名をギルドで登録していきな」

 

  おばちゃん(キャサリンさんという)の言葉にそれもそうだな、とハジメは考える人のポーズをする。そして数秒ほど考えて。

 

「じゃあ〝ハジメと愉快な仲間たち〟で」

「うっわネーミングセンス」

「後ろの娘さんたちすごい顔してるよ」

「「「…………………」」」

 

  突っ込む俺とキャサリンさん。それじゃあ、とハジメはまた考える。

 

「じゃあ〝ああああ〟で」

「もうめんどくささを隠そうともしないね」

「「「…………………………」」」

 

  某ドラゴンなんちゃらのごときネーミングをしようとするハジメに、穴が空いたような目をするユエたち。是非もないよネ!

 

  結局面倒ってことで〝スマッシュ・ラヴァーズ〟のまま放置して、色々お世話になったキャサリンさんに挨拶する。明日には出発する予定だからな。

 

「そうかい、行っちまうのかい。寂しくなるねえ」

「まあ、世話になった」

「いいってことよ。それで、次はどこに向かうんだい?」

「フューレンだ」

 

  はいはいフューレンね、と何か依頼がないか探し始めるキャサリンさん。フューレンとは中央商業都市のことである。

 

  次に向かおうとしている大迷宮がグリューエン砂漠にある【グリューエン大火山】なのだが、その行き道にあるのでどうせならと寄ることになったのだ。

 

  調べてもらった結果、フューレンへの護衛依頼が一件あった。中規模の商隊らしく、十五、六人ほどの護衛を募集しているそうだ。

 

  ちょうど二人分空きがあるみたいで、冒険者登録をしている俺とハジメでピッタシ上限に達するらしい。

 

「馬車があるから移動にもいいと思うけど……受けるかい?」

「ふむ。乗り物があるから移動には困ってないが……どうする?」

 

  俺たちに視線をよこすハジメ。独断で決めないあたり、オスカーの迷宮にいた時よりずいぶん柔らかくなったなぁと思う今日この頃。

 

「モチのロン、オッケーだぜ」

「ああ。たまには悪くない」

「ばしゃー!」

「……急ぐ旅じゃない」

「他の冒険者さんたちと情報交換できるかもしれないですよ!」

「……のんびり旅」

「ゲコッ」

「そうか。じゃあ受けさせてもらおう」

「はいよ、それじゃあ依頼主には連絡しておくから、明日の朝正門に集合で遅れないようにね」

「重ね重ね、感謝する」

 

  ぱっぱと仕事を片付けていくキャサリン。優秀だなぁと思っていると、なにやら一通の便箋をハジメに渡した。

 

「これは?」

「あんたたちは色々厄介なものを抱えてそうだからね。町のもんが迷惑もかけたみたいだし、ギルドと揉めたらそれを見せな。おっと、詮索はなしだよ?いい女には秘密がつきものだからね」

「だから、あんた一体何者だよ……」

 

  ピシッとポーズを決めるキャサリンさんに引きつった笑顔を浮かべるハジメ。それに思わずケラケラと笑ってしまった。

 

  ともかく、そうして俺たちはフューレンへと向かう道すがら、護衛依頼を受けることとなったのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

 で、翌朝。

 

「まったく、この街はどうなってんだ」

「災難だったなぁ」

 

  肩を怒らせて正門に向かうハジメに、俺はケラケラと笑う。後ろを見れば、疲れたような顔をしたユエやシアさんたちがいた。

 

  昨日、ギルドで依頼を受けたあと一週間世話になった場所に挨拶回りに行ったのだが、そこで色々あったのだ。

 

『無駄に完成された隠密での覗きとか、クリスタベル強襲事件とかな』

 

 そうそう、それそれ。

 

  まず、昨日が最後の日と聞いて、マサカの宿のむっつりスケベ娘であるソーナちゃんが俺でさえ驚く隠密で風呂を覗きにきた。

 

  勿論すぐにゲンコツを落として宿の女将さんに引き渡したのだが、たった一週間で覗きのためにあれほどの隠密を身につけるのは、さしもの俺も驚いた。

 

『いるよな、エロいことに関してだけ異常にステータスが高くなるやつ』

 

  次にクリスタベルさん。これはハジメが断固として拒否したのだが、ハジメとウサギ以外の全員が利用していたので仕方なく挨拶しに行った。

 

  で、案の定ハジメに襲いかかった。それに恐怖したハジメが、ミレディのゴーレムを倒すときにも使ったらしいパイルバンカーで粉砕しようとしたのである。

 

  それをなんとか止めたのがユエとシアさん。二人が疲れた顔をしているのはそのためだ。お疲れ様です。

 

  俺?俺は殺気で牽制してた。いくら異世界特有の謎に強いオカマといえど、生きてきた年数が違うってもんだ。

 

『お父さんっていうよりお爺ちゃんと呼ばれても仕方がないな』

 

 やかましいわエボルトおじさん。

 

  そうこうしているうちに、正門にたどり着く。そこにはすでに馬車が数台集まっており、護衛の冒険者たちが俺たちの方を振り向いて驚いた。

 

「お、おい、まさか残りのやつらって〝スマ・ラヴ〟と〝マイティー・ファミリー〟なのか!?」

「マジかよ!嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

 ユエたちの登場に喜びを表にする者、股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えを俺たちのせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。

 

  あ、〝マイティー・ファミリー〟ってのは俺たち三人のことね。過激派を収めた時の俺の殺気と、ルイネの巧みな操糸術からそう呼ばれてる。

 

  リベル?リベルは可愛さが最強だってことさ。まあ普通に戦闘能力も高いんだけどね。

 

『二つ合わさってより最強に見える……』

 

 エボルト大正解。

 

  ハジメの嫌そうな顔にほれほれと煽りながら近寄ると、商隊のまとめ役らしき人物が近づいてきて声をかけてきた。そこそこ年配の男だ。

 

「君達が最後の護衛かね?」

「ああ、これが依頼書だ」

 

 ハジメが、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。そちらの〝レコードホルダー〟ともども、道中の護衛は期待させてもらうよ」

「……もっとユンケル?商隊のリーダーって大変なんだな……」

「ハジメ、それちゃう」

 

  某栄養ドリンクのユン◯ルと間違えたハジメに、モットーさんは首を傾げながらも「まあ商人だからね」と答えた。

 

「まあ、期待は裏切らないさ」

「それは頼もしい……早速で悪いが、君に相談がある。その兎人族……売るつもりはないかね?」

 

  スッと商売人の目になって、シアさんとウサギを見るモットーさん。そこからは利益を求める人間特有の強かさがうかがえる。

 

  この男、なかなか良い目をしている。ウサギはもちろんのこと、シアさんも青みがかった白い髪に整った顔立ちと、非常に優れた容姿の持ち主だ。

 

  ウサギは違うが、シアさんの首輪を見てすぐに売買を持ちかけるあたり、この商人は目利きが良い。優秀と言っていいだろう。

 

 だが、俺たちの答えは決まっている。

 

「ウサ耳のおっさん」

「……は?」

「地獄のブートキャンプで身も心も逞しくなったウサ耳ウサ尻尾のおっさんが数十人その子を買うと必然的についてくるハッピーセット」

「いや、別にウサ耳のおっさんはいらな……」

「いらなくてもついてくる。一族総出でついてくる」

「えぇ……」

 

  真顔で淡々というハジメに困惑するモットーさん。笑いをかみ殺す俺たち。え、お前が育てたんだろ?何のことやら。

 

『こいつなかったことにしやがった……』

 

  プレデターハウリア?HAHA、そんなの知らない知らない。

 

「まあ、それは冗談としても、だ」

 

  仕切り直したハジメが、シアさんの肩を掴んでグッと見せつけるように引き寄せる。おぉ〜と冒険者たちが声をあげた。

 

「たとえどこぞの神が欲しがったとしても手放さない、って言ったらわかってもらえるか?」

 

  ざわり、と冒険者たちの空気が揺れる。ハジメの言葉は下手をすれば聖教教会にケンカを売るものだ。かなりギリギリの発言だろう。

 

  しかし、その分ハジメの気持ちの強さは伝わっていることだろう。実際、モットーさんは帽子で目元を隠しながら嘆息した。

 

「……ふむ。そこまで言われてしまっては仕方がない。ひとまず今は引き下がりましょう」

「ああ、そうしてくれ」

 

  話がひと段落ついたので、馬車に乗り込んで出発の用意をする。ハジメの大胆な発言に、馬車の中に入っていく冒険者たちは騒いでいた。

 

  かくいう俺たちもハジメに背中から抱きつきながらえへへぇ〜という顔をするシアさんにニヤニヤとしながら、馬車の一つに乗り込む。そこでエボルトが分離した。

 

  全員が乗ったのを確認すると、御者が馬に鞭を打って出発した。ガタゴトと音を立てて、整備された道を進み始める。

 

  俺たちは大所帯なので、馬車一つ丸ごと使わせてもらっている。故に特に気にすることもなく、のんびりとした気分だ。

 

「うふふ、えへへへへ〜」

「おい、いつまでくっついてんだよ。そういう意味じゃないからな?」

「わかってますよぉ〜」

 

  ふにゃーっとした顔をするシアさん。シアさんにとって、ハジメの言葉の意図などあまり意味がないのだろう。

 

  ただ好きな相手に神相手でも渡しはしない、そう言われたこと自体が嬉しいといった顔だ。とても幸せそうである。

 

「パパー、眠いよー……」

「おっと、リベルにゃまだ早起きはきつかったか」

 

  あぐらをかく俺の足の間に入り、うつらうつらとするリベル。いつもならあと2時間ほどは寝てるからな。仕方がない。

 

  そっと頭を撫でているうちに、眠気が限界に達したのか寝息を立て始めるリベル。そんなリベルにウサギの頭の上のカエルが飛んできて、お腹の上に乗った。

 

「うにゅ……」

「ゲコッ」

 

  カエルを抱きしめるリベル。あまりにも可愛らしいその姿に、俺を含め全員がため息を漏らした。

 

「我が娘の可愛さは世界一ィ!」

「どこの軍事大国だ」

 

  練習した重力魔法……まあもともと似たような魔法使えたけど……でリベルを浮かせ、異空間からお気に入りのクッションを取り出すと足の上に敷く。

 

  そうするとクッションの上にそっとリベルを下ろした。リベルは少しもぞもぞと動いたあと、満足そうに口元を緩める。

 

「Mission complete」

「お前昨日からやけに発音良くない?」

「ネタの時だけな」

「それな」

 

  そんな風にエボルトと会話をしていると、こてんと隣のルイネが肩に頭を預けてきた。そちらを見ると、目を閉じて眠っている。

 

  この一週間、ルイネはよく頑張っていた。俺の指導のもと、良い母親となれるよう努力しながらリベルと接してきたのだ。

 

  昨日もはしゃぎ疲れて眠るまでリベルに付き合っていたし、少し疲れているのだろう。異空間から毛布を出してかける。

 

「お疲れさん。二人とも、ゆっくり眠るといい」

「ん……」

「ん、私たちも寝る」

「昨日ハジメさんを止めた上に覗き撃退しましたからね。ということでお膝を借りま「誰が許すか」あふんっ」

 

  いつも通りシアさんをあしらって、今はシアさんを大切に思っているユエにメッ!と言われるハジメを見て俺はカラカラと笑う。

 

  非常に平和な滑り出しを見せて、俺たちの新しい旅は始まった。

 

 

 

 

 

  この時はまさか、あいつと再会することになるなんて、露ほどにも思わずに。

 





【挿絵表示】


シュウジ、ルイネ、リベルのイラストです。
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