星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、なんか前前話のUA見て、二週間弱でこの程度かと鼻で笑ってしまった作者です。

シュウジ「呼ばれて飛び出てなんとやら、シュウジだ。前回はお出かけの後半だったな。うう、思わず泣いちまったぜ」

ハジメ「まさか今の俺が、感動で泣く日がくるとはな……これも叔父の定めか」

シア「もう完全に自分で叔父って言っちゃってますう」

エボルト「叔父って言えば、ゴブスレの牛飼娘の叔父さんいい奴だよな。嫌厭しながらも、それなりにゴブリンスレイヤーのことも気にかけてるし」

ユエ「…ん。あの日は私たちの宝物。一生覚えておく」

エボルト「スルーかい」

ウサギ「今回は、愛子視点のお話。それじゃあせーの……」


六人「「「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」」」


再会

「おじちゃん、本当に知らないの……?」

「ああ、知らないな。へへ、すまねえな嬢ちゃん」

 

  潤んだ瞳で、粗野な格好の男の服の裾を掴む。私の演技に騙された男は、鼻の下を伸ばして答えた。

 

  ここはとある町の路地裏。この男はいわゆる汚れた人間であり、現在とある情報を持っていないか調べているところである。

 

「そうですか……ならもう用済みです」

「は?」

 

  が、欲しい情報は得られないとわかったので、早々に演技をやめて踵を返した。あまりの態度の変わりように、男がぽかんとしているのがわかる。

 

  そんなだんだん男から離れていく私とは対照的に、背中から黒い粘着質な物体……ヴェノムが滲み出る。男の悲鳴が耳に響いた。

 

「なななな、なんだこいつはっ!?」

「半日ブリノ新鮮ナ肉ダ」

「え?」

 

  グシュリ、という肉に齧り付き、喰らう音が背中の向こうから聞こえる。次いで肉や骨を噛み砕く音と、血の滴る冷たい音が聞こえた。

 

  ヴェノムが食事を終えるのを待って、体内に戻すと裏路地から出る。その間ももしもの時のために気配は完全に遮断だ。

 

  やがて、表通りへと出る。すでに時刻は夕暮れ時であり、近くの民家からは美味しそうな匂いが漂ってきていた。

 

「……今回も収穫はなし、ですか」

『ママナラヌモノダナ』

 

  ヴェノムの言葉に、私は肩をすくめた。何事も自分の思い通りにいくことは中々ないものだ。それはこの世界でも同様である。

 

  今から二週間と数日前。付いてきた生徒の一人、清水幸利が失踪した。部屋に荒らされた形跡はなく、また書き置きなどもない。

 

  湖の湖畔の街ウルの街中の他にも、近隣の町村に残していたヴェノムの分体が寄生した鼠に探させているが、一向に見つかる気配はなかった。

 

  私の見立てとしては、何かに巻き込まれた可能席は低いと見ている。なぜなら彼は〝闇術師〟という、闇系統魔法に強い適性がある天職だからだ。

 

  加えて上に他の魔法への適性もそれなりにあり、高い戦闘力がある。よって自発的に消えたと考える方が妥当になる。

 

  元よりそう目立つタイプではなく、今回の遠征に参加したのも意外だった。だからもしや何か企みがあるのかと、裏の人間から情報を集めていたのだ。

 

『ム、新シイ情報ダ。北ノ山デ生息域ノ違ウ魔物ノ群レノ目撃情報ガアル』

「……そうですか、ありがとうございます」

 

  ……このタイミングで魔物の群れ、ですか。確か闇系統の魔法には魔物を操る精神操作系のものもあった。もしや………

 

「あ、いたいた。おーい、愛ちゃんせんせーい!」

 

  結論を出す前に、自分を呼ぶ声がした。相変わらずの愛称に苦笑しながら、一旦考えるのをやめて〝畑山愛子〟になる。

 

『器用ナモノダ』

 

「みなさーん、お待たせしましたー!」

「いや、そんなに待ってないからいいよ。それより、何か情報あった?」

 

  走り寄っていけば、園部さんがそう聞いてくる。私はいかにも辛そうな顔作り、胸元で手を握って首を横に振った。

 

  私の反応に、そっかと答える園部さん。他のクラスメイトや騎士たちも、表立った情報収集に協力してくれているが、聞くとどうやらダメだったようだ。

 

「皆さんすみません、付き合わせてしまって……」

「いいっていいって、一応クラスメイトだし、それに愛ちゃん先生が辛そうなの見てられないし」

「そうだぞ。愛子、落ち込んではいけない。教師である君が無事を信じなくてどうする。それにあと二、三日で捜索隊も来る、気を落とすな」

 

  そう。あの人と南雲くんと違って、清水幸利はそれなりの戦力となる。国の上層部も流石に黙っていられず捜索隊をこちらに向かわせていた。

 

  客観的な情報から見てそれは仕方のないことだとわかっていても、少し憤りを覚える。あの人はあのような迷宮ごときでは死なない。

 

「……はい。お二人とも、ありがとうございます」

 

  もし自分の仮説があっていた場合、無事だとしても少し痛い目を見させるという本音を隠し、嘘の涙を拭って笑顔を作る。

 

  それに一同は安心したようにほっと息を吐き、聞き込みで減った腹を満たし、沈鬱な気分をはらすという目的で食事をするために移動し始めた。

 

 

 カランッカランッ

 

 

  十数分ほど歩いた後、到着した宿の扉を開ける。軽快な音を立てて釣鐘がなり、〝水妖精の宿〟への私たちの帰還を知らせた。

 

  この宿の名前の由来は、この町の近郊にあるウルディア湖という大陸最大の湖から現れた妖精を1組の夫婦が泊めたことが由来とか。

 

  この宿は町の中でも最高級の宿であり、非常に落ち着きのある内装となっている。1階はレストランで、バーカウンターなどもあった。

 

「……じゅるり」

「あれ、愛ちゃん先生どうしたの?」

「あ、いや、えっと、なんでもないです園部さん。ただ、ご飯が楽しみで……」

「あはは、そうだねー。なんてったってお米料理だもんねー」

 

  そう。このレストランには、この町の特徴である米料理が多く揃えられている。あの米だ。畑山愛子としてもマリスとしても欲して止まなかった、あの米だ。

 

  近くに湖があるためか、この町の近くには稲作地帯が広がっている。それを知った時は、年甲斐もなくはしゃいでしまった。

 

『サッキアレダケ食ッテ、マダ食エルノカ?』

 

  それはあなたの話でしょう。あなたが食べたものは私のエネルギーにはならないのに、私が食べればあなたは半分取って行ってしまう。私は空腹なのです。

 

  すでに半ば専用と化している一番奥のVIPルームに入り、席に着いて早々注文をする。程なくして運ばれてきた料理に全員が舌鼓を打った。

 

「ああ、やっぱりお米は美味です……」

『オ前ガ食ッテイルノヲ見テタラ俺モマタ腹ガ減ッテキタナ。悪人ヲ食イニイコウ』

 

  ダメです。もう今日はさっきので終わりですよ。いくら生きる価値のない悪人とはいえ、そう多く殺しては不自然になる。

 

  ヴェノムを嗜めながら食事をしていると、口ひげを蓄えた60代ほどの男が近づいてきた。オーナーのフォス・セルオだ。

 

「皆様、今日のお食事はいかがでしょうか?何かありましたら、どうぞ遠慮なくお申し付けください」

「いえ、とても美味しいですよ。文句のつけようもありません」

「〝豊穣の女神〟様にそう言っていただけるとは、恐悦至極でございます」

 

  ゆるりと優雅にお辞儀をするオーナー。〝豊穣の女神〟の二つ名のおかげで、色々と優遇があるので助かる。この宿もそうだ。

 

  そういえば記憶が戻る前にあの人に〝豊穣の女神〟と言われたなと思い返していると、オーナーが不意に申し訳なさそうな、沈鬱な表情を浮かべた。

 

「どうかしましたか?」

「実は……今日限りで香辛料を使った料理は出せなくなるのです」

 

 ……なんですって?

 

「ええっ、じゃあこのニルシッシル(異世界カレー)食べれないんですか!?」

「はい、申し訳ありません」

 

  カレー好きだと前に教えてくれた園部さんが、悲鳴に近い声を上げる。普段の穏やかな顔は何処へやら、悲しげな顔をするオーナー。

 

  他の生徒たちも不満を垂らす中、私の中では黒いものが燻っていた。無論、ヴェノムとは別の、しかしある意味同じようなものだ。

 

  それは怒り。私の魂の食材を奪おうという料理が出なくなる原因への憤怒だ。私から米を奪うとは許しがたい。

 

「それは、どういう理由でですか?」

 

  なるべく怒りを抑えながら、オーナーに聞く。内容によってはヴェノムを全力で使って原因の排除に当たる所存だ。

 

『イツニナク怒ッテイルナ』

 

  当たり前です。私は教師である前に暗殺者、そして暗殺者である前に日本人。日本人から米を取り上げたら、神よりも怖いのです。

 

  それからオーナーの説明を聞くと、どうやら北の山脈地帯に山の向こうにいるはずの強力な魔物がうろついているらしく、材料を取りに行けないのだとか。

 

『ドコカデ聞イタ話ダナ』

 

 そうですね。

 

  ここ一ヶ月ほど採取に行くものが激減した上、そこに拍車をかけるように先日調査に来た高ランク冒険者が行方知れず。いよいよ原材料を取りに行くものはゼロになった。

 

  なるほど……つまりたかが魔物ごときが、私の数少ない楽しみの邪魔をしていると。ふふふ……いいでしょう。一匹残らず殲滅してあげます。

 

「オーナー、私ーー」

「ですが、その異変ももうすぐ収まりそうなのですよ」

 

  私が原因を取り除きます、そう言おうとした瞬間言葉がかぶせられる。思わず拍子抜けしてしまった。なんだ、解決のアテがあるのか。

 

  どういうことかと聞けば、どうやらまた新たな冒険者が派遣されたらしく、北の山脈へと行くのだそうだ。それもかなり強力な冒険者とか。

 

「あのフューレンの支部長様直接のご依頼の方々のようで、とても期待しております」

「ほう、あのフューレンの」

 

  騎士団長のデビッドが声を上げる。確か、フューレンのギルド支部長といえば冒険者ギルド内でも最上級の幹部の一人だったか。

 

  そのような大物が直々に遣わした冒険者ならば、私の出る幕はないだろう。私の手で滅せないのは残念だが、仕方ない。

 

  浮かせていた腰を下ろしていると、外の通路から話し声が聞こえてきた。それにオーナーが反応し、件の冒険者一行だと言う。

 

「日の入り位にこの宿に泊まっていただいたのです。騎士様、明日の朝には出るそうですからお話ししてはいかがでしょう?」

「ああ……だが、金ランクにこんな若い声の冒険者たちがいたか?」

 

  どうやら最高ランクの冒険者たちを思い浮かべていたらしいデビッドが、不思議そうに言う。私は構わずカレーを救ったスプーンを口元に寄せた。

 

 

 

「いやぁ、ついに米が食えるのか。こいつぁワクワクすっぞ!」

 

 

 

  そして、その声を聞いてスプーンを取り落としかけた。

 

  指の間から、スプーンがこぼれ落ちていく。テーブルにこぼれ落ちる寸前で、ようやく我に返って慌てて握り直した。

 

『平気カ?』

 

  え、ええ……いえ、平気ではないかもしれません。

 

  心臓が、うるさいくらいに鼓動を早めている。全身が小刻みに震える。部屋と通路を隔てるカーテンの向こうから聞こえてきた声に、私は動揺した。

 

  それはどうやら、生徒たちも同じようで。なんとかポーカーフェイスを繕い直した私とは正反対に、わかりやすいほど驚愕を顔に張り付けている。

 

  そんな生徒たちをちらりと見ながら、私はなんとか揺れ動く精神を固く引き締めた。そしてもう一度その者達の声に耳を傾ける。

 

「おい、通路の中で両腕を広げんなよ。お前の腕無駄に長いんだよ」

「まーまーそう言いなさんな〝ハジメ〟。お主とてニヤつくのを我慢しているだろう?」

「……何のことかわからねえな」

「カカッ、そう意地を張ることもないぜ。かくいう俺も米は楽しみだけどなぁ」

「……ん、〝ハジメ〟も〝シュウジ〟も〝エボルト〟も、三人とも嬉しそう」

「そうですねぇユエさん。あ、ウサギさんはどうですか?」

「……全て喰らい尽くす」

「ゲコッ」

「全部はダメですよぉ〜!」

「ママ、おこめってなぁに?」

「パパやママ、おじさんたちの故郷にもある食べ物だ。きっとリベルも気にいるぞ」

「お、やっぱ〝ルイネ〟も楽しみな感じ?いやー、隠れ家にいた時何とか作れないかと思って色々魔法作ってたもんなー」

「パパ、わたしおこめたべたい!」

「そうだな、一緒に食べようなー」

 

  そこまで聞けばもう十分だった。カーテン越しに聞こえる騒がしい声と、私の頭の中にいる三人の人物像が完全に結びついた。

 

  もう一度生徒たちを見れば、私と同じようにそれを確信したのだろう。あるものはあり得ないという顔を、あるものは顔を青ざめさせている。

 

  そんな私たちを見て一体なんだという顔をする騎士たちをよそに、私は全員の気持ちを代弁するように立ち上がり、勢いよくカーテンを開いた。

 

 

 シャッ!

 

 

 そして、その向こう側にいたのは……

 

「…………………あれ?先生?」

 

  キョトンとした顔をした、北野シュウジ(あの人)だった。

 

  その顔を見てようやく、私はそこにその人がいることを実感できた。体の奥底からとてつもない歓喜が沸き起こり、今にも抱きつきそうになる。

 

  だが、あの人の腕に自分のそれを絡めている長い赤髪の女……我が友にして家族たるルイネ・ブラディアを見た途端、スッと冷静になった。

 

  急激に冷えた思考で、改めて彼らを見る。今の私は記憶を取り戻してから一番凍てついた心象かも知れない。

 

  彼らは非常に大所帯で、ルイネの他にも南雲くんと思われる白髪隻眼の男、ビスクドールのような金髪の美少女に青みがかった銀髪の兎人族とカエル型の魔物を抱えたピンク色の髪の兎人族がいる。

 

  そして何より……あの人の腕に抱かれる、緑色の髪の幼女。あの人の着るジャケットの裾を掴むその娘は、どこからどう見てもあの人の……

 

『ウオッ!ナンダ、イキナリ感情ヲ激シク高ブラセテ。驚イタゾ』

 

 ヴェノム、今は黙っていてください。

 

『……何ヲ怒ッテイル?』

 

  別に、怒ってなんかないです。ええ、怒ってなんかないですとも。

 

「……やっぱり、あなただったんですね。北野くん」

「…………あちゃー。いつか誰かと遭遇するとは思ってたが、まさか先生とはなー。ん?いや、よく見りゃ他のやつもいるじゃねえか。おい玉井、あの子に告白できたん?ねえできたん?」

「ままままま、まだに決まってんだろーが!」

 

  畑山愛子の記憶にある通りのテンションで、生徒の一人に絡む北野くん。それに思わず反応した玉井くんは、はっと口を押さえた。

 

「かかっ、相変わらず元気そうで何より。なあハジメ?」

「……はぁ。ったく、返事すんじゃねえよ。逃げられなくなっちまったじゃねえか」

「いやー、最近油断してデップーマスク被ってなかったし、なんかもういいかなって」

「何がだよこのアホ……」

「……ふむ、そうか。あなたがいつもマスターとハジメ殿の言っていた先生か。私はルイネ、このマスター……シュウジの第二夫人をしている。不束者だが、今後ともよろしく頼む」

 

  やれやれ、とかぶりを振る南雲くん。見た目といい口調といい、どうやら彼は畑山愛子として知る彼とは随分変わってしまったようだ。

 

  ルイネの方は御堂さんと違い、あまりにも私の容姿が前世とかけ離れているからか、丁寧に挨拶してきた。とりあえず会釈する。

 

  だが。それよりも。南雲くんの変貌よりも、後ろにいる知らない三人の美しい少女たちよりも、指輪をしているルイネよりも、私には大切なことがある。そう、あの小娘だ。

 

  あの人の、胸に抱かれている、あの小さな小娘は、一体なんだ?なぜお前がそこにいる?そこは、()()()()の胸は私の場所だ。

 

「パパ、この人だあれ?」

 

  ふつふつと再びにじみ出てきた黒いものをオーラに変える私の前で、小娘はあの人の顔を見てそう言った。ビキッと額に青筋が立つのがわかる。

 

『オオ、コノ途轍モナク激シイ感情ノ高ブリ。記憶ヲ取リ戻シタ時以来ダナ』

 

  まるで歓喜するようなヴェノムのその声に、私は少し冷静さを取り戻した。そうするとにっこりとあの人に笑いかける。少しあの人の顔が引きつった。

 

「さて、とりあえず色々と、い、ろ、い、ろ、と、聞きたいことはありますが………まず、これだけは言わせてください」

「な、なんだ?」

 

  そこで私は一拍貯める。そしてあの人……というよりは、胸の中にいる小娘に向けて……

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、先生………いえ? ()()()()?」

 

 

 

 

 

  それを聞いた瞬間、あの人の目は最大まで見開かれる。それはルイネも同じで、私のことを聞いているのか、南雲くん達も少し驚いていた。

 

 そして、あの娘は……

 

 

 

「…………………………ふーん?」

 

 

 

  ようやく、私を自分の敵と認識したようだった。




次回、愛子vsリベル!デュエルスタンバイ!

そろそろダンまちの方も更新しよっと…

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