星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、本日二話目の投稿の作者です。

エボルト「よお、本日二度目の登場のエボルトだ。前回…つってもついさっき更新されたばっかだが、ちょっとした話し合いがあったな」

リベル「ふん、まだみとめてないの」

愛子「それはこちらのセリフです。いつまでも独占できると思わないでください」

二人「ぐぬぬぬぬ」

雫「…ねえ、これ怒った方がいいのかしら?」

ハジメ「さあな。今回は先生とシュウジの話らしいぜ。それじゃあせーの……」


五人「「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」」


密会

 

  シュウジたちと愛子たちのわずかな邂逅から時間は過ぎ、深夜。皆が寝静まるこの頃、水精霊の宿もまた夜の闇に包まれていた。

 

  そんな宿の一室、宿泊客の中でも特別な人物のみが泊まる最高級の部屋では、愛子が未だに小さな明かりを灯していた。

 

  値段のランクに反してそう広くない部屋の中には、猫脚のベッドとテーブルセット、そして小さな暖炉と革張りのソファがあるのみ。

 

  薪をくべ、煌々と赤い光を放つ暖炉の前で、愛子は一人いつものように日記をつけている。そこに書かれるのは、今日の短い再会のことだ。

 

  畑山愛子としてではなく、マリスとして書く文章は、他の誰にも見られてはいけない。部屋には魔法で鍵をかけ、唯一見るのは外に出ているヴェノムのみ。

 

  いつもは淡々と書いているはずのそれは、今はわずかな口元の緩みを伴って紡がれていた。ヴェノムがそれを興味深げに見つめる。

 

 

 

 ヒュウゥ……

 

 

 

  そんな一人と一体の部屋の中に、一筋の風が吹いた。それは魔法で密室であるはずのこの部屋には、本来は入らないはずのもの。

 

「……そろそろ、来る頃だと思っていました」

 

  しかし、特段愛子が驚くことはなく。ヴェノムが体内に引っ込むのと同時に手を止めると、締め切っていた窓のほうを振り向く。

 

「お、なんだ。わざわざ待っててくれるとは気前がいいねえ、先生」

 

  愛子の言葉に、窓際に片膝を立てて座るシュウジは面白そうに答える。その手にはワインボトルと二つのグラス、そして小さな包みが引っ掛けられていた。

 

  よっ、と窓際から降り部屋に入ってきたシュウジは、テーブルセットについている椅子を引いてくると、ソファの前にある長机にボトルとグラスを置く。

 

  そうすると親指で栓を開け、グラスに濃い色のワインを注ぎ込んだ。それを終えると、つまみの入った包みを開く。

 

「うし、これで準備完了。ってわけで愛子先生、一杯どうだ?」

「……先生としては、今のあなたは未成年だから飲酒はダメですよ、と答えたほうがいいのでしょうか?」

「まーまー、そう固いこと言うなって。ちょっとくらい付き合ってくれても、ええんやで?」

「それなら、呼び方を改めてもらわなければいけませんね」

 

  目を瞬かせるシュウジに、そうでしょう?と目で問いかける愛子。シュウジは「それもそうだな」と笑いながら肩をすくめる。

 

「じゃあ改めて……久しぶりに一杯どうだ、マリス?」

「ええ、喜んで。先生?」

 

  夕方とはまた違った呼び方で答える愛子……いや、マリス。シュウジはそれにまた少し笑い、グラスを差し出す。

 

  マリスはそれを受け取って、二人は「この予期せぬ驚くべき再会に乾杯」と言うと、グラスを小さくぶつけあった。

 

「ここには一人で?」

「ああ。俺とお前、二人だけだ。おっと、ちゃんとルイネには許可とったぜ?」

「あら、八重樫さんには取りましたか?」

「おいおーい、そいつは不可能だろ?ここからどうやって王都に連絡するってんだい。あ、伝書鳩送るとか?」

「さて、どうだか」

 

  うっすらと笑いながら、ワインに口をつけるマリス。そしてその深い味わいに軽く驚いて息を飲んだ。

 

  この世界に来てから有数の上等なワインに、シュウジにこれは?と目線で問いかける。シュウジは楽しそうに肩を揺らした。

 

「ちょっと伝手があってね。あ、つまみはルイネ特性だぜ」

「それは楽しみですね。それで、何を話しに?」

「色々さ」

「色々、ですか」

「うむ。けど昼間も言った通り、畑山愛子に対して話すことはない。それなりにお世話になってたし、生徒たちのお守りでいっぱいいっぱいだろうからなー」

「では、マリスとしての私に話をしにきたと?」

「そういうことになる。そうさな、まずはこれまでの旅のことでも話そうかね。ルイネのこととか、気になるだろ?」

「…………ええ、まあ」

 

  やや間があったあと、呟くように肯定するマリス。確かにシュウジのいう通り、彼女はルイネの事が気になっていた。

 

  シュウジを追いかけて、面倒な手法で転生してきたマリスら三人の弟子たち。その中で最も早くルイネはシュウジと一緒になっている。

 

  そして先ほどの様子からして、師弟以上に親密になっている様子。一番弟子として、そして娘として気になっていないといえば嘘になる。

 

  無論、畑山愛子としてはハジメのことなども気にかかるのだが、しかし今マリスとして一番気になっているのはそこであった。

 

「了解。そんじゃあ、まずは奈落でのことから話すかね」

 

  そしてシュウジは、これまでのことを話し始めた。奈落の底での再会から始まり、共に戦ったこと、そして一度は敵対することになったこと。

 

  互いを大切に思う気持ちを確かめ合い、夫婦になったこと。それからハジメらを含め共に旅をし、二つ目の大迷宮でリベルを娘として迎え入れたこと。

 

  おおよそ五ヶ月間の旅路を、限られた時間の中で理解しやすいよう巧みに話していくシュウジ。まるで吟遊詩人のような語りに、マリスは適度にワインを飲みながら聞き入った。

 

  そうしてこの町に来たことまで話し終える頃には、ボトルの中のワインは半分ほどになっていた。グラスの中のワインがなくなるのと共に、シュウジの話も終わる。

 

「まあ、こんなところだな。楽しくやってるよ」

「そうですか……一つ、いいですか?」

「ん、なんじゃらほい?」

「最初にルイネが言ったことについてです。私たちの記憶を消した件について」

「うっ」

 

  愛子の言葉に息を詰まらせるシュウジ。それに愛子は溜息を吐き、グラスを置くとシュウジの顔をまっすぐと見る。

 

「私たちがされたことは、いわば今の先生が南雲くんや八重樫さんのことを綺麗さっぱり忘れるということです。そんなことをされたら、死ぬほど悲しくなるでしょう?」

 

  ゆっくりと、されど強い口調で言う愛子に、シュウジは気まずそうにぽりぽりと頬をかく。彼女の言うことは最もなのだから。

 

  マリスは、推定4歳の時に路地裏で拾われ、そして育てられた。故に他の二人より長い時を共に生きており、より一層深い悲しみを感じてるのだ。

 

  その悲しみをルイネの慟哭で理解しているシュウジは、マリスのほうを真面目な顔で見る。そして深く頭を下げた。

 

「改めて言われると、結構なことだよな。言い訳をするつもりもないが、あの時はあれが正しいと思った。だけどそれで傷ついたんだから、心から謝るよ。すまなかった」

 

  顔を上げ、思えばそこらへん、俺って天之河と同じとこあるよなと苦い顔をするシュウジに、マリスはワインを一口飲むと首を振った。

 

「もう終わったことです、その一言が聞ければ満足ですよ。それにそうして反省できるのですから、彼とは違います。まあ、経験の差でしょうけど」

「はい、肝に命じます。というか今の、先生っぽいな」

「そうでしょう?」

 

  ふふん、と胸を張るマリス。前世からの夢であった教師という立場にいることに彼女は非常に満足しており、楽しんでいるのだ。

 

「あ、でもネルファは気をつけてくださね。彼女、しつこいですから」

「うん、そっちも覚悟しとくわ……さて、楽しい話もそこそこにしといて。この世界のことについて話そうか」

 

  真剣な顔をするシュウジに、 マリスも微笑みを消して話を聞く体制に入る。

 

「話すのは神エヒトについてだ。お前も薄々気づいているとは思うけどな」

「……わかりました、聞きましょう」

 

  そして、愛子はシュウジからこの世界の真実を聞いた。人々を操る神エヒトと、混沌の時代を終わらせんと戦った解放者たち……シュウジが女神より授かった神代の全てを。

 

  シュウジが語る壮絶な真の歴史に、マリスはやはりそうか、と思った。シュウジが前置きした通り、彼女はこの真実に薄々気づいていたのだ。

 

  そしてシュウジの話を聞いて、その違和感が確信へと変わった。すなわち、この世界の争いは神エヒトが裏で糸を引くものであり、遊戯であると。

 

  それは、彼女が前世において同じような人間の上位存在を暗殺したことにも関係する。〝世界の殺意〟の弟子として、彼女もそれなりに壮絶な経験をしているのだから。

 

「……というわけだ。どうだ、驚いたか?」

「……そうですね。驚いたといえば驚いた、というところでしょうか。やはり神については不審な点が多かったですから」

「やっぱりそういう感じね……んで、俺たちはその神を殺すことにした」

「それは、〝世界の殺意〟としてですか?」

 

  マリスの問いに、シュウジはうーんと首をひねった。北野シュウジより〝世界の殺意〟としての印象の方が強いマリスは、不思議そうに首をかしげる。

 

「その反応、違うみたいですね?」

「ま、ぶっちゃけ違うね。俺はもう世界のためには戦わない。そんなのは一千年もやってりゃ十分だ」

「なるほど。それでは、別の理由で戦うというわけですか」

「そゆこと。この世界の人間を、一部を除いて守るつもりはない。俺は俺のため、そして俺が家族だと思う奴らのために戦う。つまるところ、元の世界に帰る為の最大の障害になるから倒すってとこだな」

 

  トントン、と首筋を叩くシュウジに、ふむと思考するマリス。彼女はクラスメイトたちの側でどう彼と仲間たちのサポートができるかを考えていた。

 

「……それなら、私はあなたが言った通り、生徒たちの監督をします。畑山愛子としては、下手に関わって死なせたくはありませんから」

「そうしてくれると助かる。〝先生〟の言うことなら聞きそうだしな」

 

  シュウジがこの話をマリスにしたのは、神エヒトとの敵対に備えて協力体制を敷いておこうという思惑がある。

 

  しかしそれとは他に、彼女の〝教師〟という立場からクラスメイトたちに与える影響にも目をつけていた。

 

  すなわち、彼女なら生徒たちの動きを操れる。〝皆に慕われる先生〟の言葉なら彼らの行動を抑制することも可能だ。

 

  また、この話をして神への不信感を植え付けることも狙いである。かつてのこの世界の人間たちのように、神に煽られて敵になるリスクはなくしておきたいのだ。

 

「特に天之河をよく見といてくれ。いずれ来るだろう神との戦いの時、変なふうに暴走でもされたからめんどっちいから。あの手のタイプは事実より自分の理想を信じたがるからな」

「わかりました、よく見ておきます。話はそれだけですか?」

「そうだな、あと言えることは……ああそうだ、ネルファが雫たちと一緒にいて連絡を取り合ってるなら、何人か注意させときたい奴がいる」

「聞きましょう」

 

  シュウジのいう人物の名前を、紙に書き記していくマリス。その中には無論、ハジメを襲った檜山の名前もあった。

 

「……はい、この生徒たちですね。わかりました、ネルファに言っておきます」

「サンキュー。そいじゃ、そろそろお暇するぜ」

 

  異空間にグラスや包みをしまうと立ち上がり、窓に向かっていくシュウジ。その背中に、マリスが声をかける。

 

「先生、最後に聞きたいことが」

「ん?なんじゃらほーー」

 

  シュウジが最後まで言い終える前に、マリスは肉薄してわき腹に腕を回していた。流石のシュウジもピシッと固まる。

 

  それをいいことに、マリスは顔をジャケットに埋めた。前世のものとは全く違う、しかし安心するような匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「……えっと、マリス?こいつはいったいどういう」

「………これは、酔った女の戯言だと思って聞いてください」

 

  困惑するシュウジに、マリスは小さく言葉を発した。それにシュウジは押し黙り、続きの言葉に耳を傾ける。

 

「私は……………あなたが思う家族の中に、入っていますか?」

「………!」

 

  その言葉に、限界まで瞠目するシュウジ。それを気配で悟ったマリスは、酔いで赤くなった頬が熱くなるのを感じる。

 

  けれども、大切なこの問いかけを恥ずかしさでやめるわけにはいかない。それにこれはただの戯言だ、答えがもらえなくても、それでいい。

 

「ねえ、先生……ううん、〝お父さん〟。私は、今でもあなたをたった一人の父親だって、そう思ってるよ。お父さんは、どうかな?私を娘だと思ってくれてる?」

「当たり前だろ」

 

  だから、すぐに答えが返ってきたことにパッと顔を上げた。シュウジは振り返ることなく、マリスの腕に自分の手を重ねる。

 

「今も昔も、お前は俺の娘だ。たとえ外見が変わっても、年齢が逆転しても、それでも俺の娘だ」

「……そう、なんだ」

「ああそうだ。嫌か?」

「まさか………ありがとう、お父さん」

「おうともよ」

 

  満足のいく答えを得られたマリスは、ゆっくりと体を離す。そこでようやくシュウジは顔だけ振り返り、小さく笑うと瞬間移動で姿を消した。

 

  また誰もいなくなった部屋の中を、瞬間移動の際に起きたわずかな風が通り過ぎる。それに反応したようにヴェノムが出てきた。

 

「随分ト嬉シソウナ顔ダナ」

「そうですか?」

 

  自分の顔を覗き込んで言うヴェノムに、マリスはいつものように平坦な声で答えるとソファへ戻った。

 

  そして、書き終えたはずの日記をもう一度開いて、紙の上に羽根ペンを走らせる。どうやら、書くことが増えたようだ。

 

  ヴェノムがまたそれを興味深そうに覗き込み、パチパチと暖炉の火が音を立てる。先ほどと同じ、しかし少し違う光景がそこにあった。

 

「ふふ……また会いましょうね、お父さん」

 

  羽根ペンを動かしながら、マリスはそう呟くのであった。




次回はついに山脈地帯に入ります。さて、あの変態ドラゴンの準備をしなくては…
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