星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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みなさん、質問です…














ベルナージュ様をヒロインにすべきですか?あと、エボルトをヒロインにするべきですか?ご意見のほど、よろしくお願いします。
楽しんでいただけると嬉しいです。


ハジメの実験

 

 

「……ふう。ちょっと休憩にしようかな」

 

 

 

 

 

  その言葉とともに、僕ーー南雲ハジメは、読んでいた本をパタリと閉じて、机の上にそっと置いた。

 

  そして、本の表紙をそっとなで付ける。そこには、〝北大陸魔物大図鑑〟というなんのひねりもないタイトルが。

 

 僕たちが異世界トータスへ召喚されてから、早くも二週間の時が過ぎた。その間、僕はこうやって勉強をしながら訓練をしている。

 

  講師はシュウジとエボルトだ。トレーニング担当はシュウジで、実戦経験担当はエボルトが担っている。その程は、はっきり言って地獄が可愛く見えるほどだ。

 

  地球では自衛手段として、そしていざというとき美空を守るために、必要なことだとシュウジのしごきに耐えていた。

 

  だが、レベルが違う。十人が受ければ十人死神だと言えるほどに、二人の本気の訓練はきつかった。

 

  実際、土台が(強制的に)できている僕と八重樫さんはともかく、美空や白崎さん、坂上くんは死んだ魚のような目をしている。

 

  前にシュウジに聞いてみたら、前世で自分の後継者三人に課したのと同じメニューをやっているとテヘペロ顔で言っていた。全力でぶん殴った。

 

  エボルトにもどれくらいの実戦を想定しているのか聞いたら、ブラッドスタークで出せる限界の力でやっていると鼻ほじりながら言ってた。全力で蹴り飛ばした。

 

 

 =============================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2(HL:4.0)

 天職:錬成師

 筋力:12(500)

 体力:12(1000)

 耐性:12(300)

 敏捷:12(700)

 魔力:12(500)

 魔耐:12(1200)

 技能:錬成・闘術・脚術・乱撃・加速(特定条件下で発動)・言語理解

 =============================

 

 

「……それでこんなに強くなってるんだから、腹立つよなぁ」

 

  ステータスプレートを見ながらそう呟く。こうやって結果が出ているからこそ、僕たちはやっていられるのだ。

 

  その結果、僕はどうやら速度重視のヒット&アウェイが得意なことがわかったのも僥倖だろう。剣は無理だが、スチームブレードならかなり使いこなせるようになった。

 

  それはどうやら他の四人も同じみたいで、美空と白崎さんは中級の魔法くらいならもう使えるし、坂上くんは一回りゴツくなった。八重樫さんに至っては斬撃を飛ばせるようになってた。

 

  あと全員、僕みたいに魔耐がものすごい勢いで上がってる。きっと二人が奇声をあげながら、エアロビックを目の前で踊りながらやるからだろう。もはや魔法的腹筋破壊兵器である。

 

 まあ、代わりに僕には魔法適正がかけらもないこともわかったんだけど。かなり期待してたから、絶望してシュウジを十字固めした。

 

 魔法適性がないとはどういうことか。この世界における魔法は、長くなるから省略すると魔法陣を描く→魔力を流し込む→詠唱する→発動するって感じだ。

 

  魔法陣というのはいわゆるプログラムで、式を書き込めば書き込むほどに効果が多く、魔力量に比例して威力が上がる。

 

 例えば、RPG等で定番の〝火球〟を直進で放つ魔法陣を作るのなら、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る式)の式が必要、というわけだ。

 

 

 

 しかし、この原則にも例外がある。それが適性だ。

 

 

 

 適性とは、言ってみれば体質みたいなもので、僕には全くそれがなかったというわけだ。

 

  ちなみにシュウジは全属性に適性があった。それどころか〝虚無〟なる謎の属性すら最高の適性があった。スクリュードライバーをかました。

 

  で、絶望している僕をシュウジは珍しく真面目に慰め、忘れさせるようにさらに厳しい訓練をした結果、今朝もらったのが……

 

「……これ、いじってるとストレス解消になるんだよね」

 

  僕は、惑星のシンボルが描かれた黄金のキャップと、躍動する赤兎がくっついた円筒形のボトル…ラビットエボルボトルをいじる。

 

  なんでも、シュウジを転生させた女神様からの貰い物だそうで、これまでよく頑張ったで賞、と軽いノリでくれたのだ。

 

  といっても、そうホイホイとあげるわけでもないようだ。使うのには、エボルトが改造した僕たちのプレートにあるHL…ハザードレベルが必要になる。

 

  僕たちは訓練を始める前に、エボルトによって遺伝子操作を受け、ネビュラガスなるものを使われている。その結果生まれるのが、ハザードレベルという概念。

 

  それは戦ったり、感情の高ぶりに比例して上がっていくようで、あの二人のしごきを受けている僕たちは、面白いほどぐんぐん上がった。

 

  そして、僕のハザードレベルはつい昨日、4.0に至った。それがエボルボトルを使える最低ラインのようだ。

 

  その効力は持ちながら戦闘するとかなりの速度で動ける、というもの。そしてそれこそが、僕の謎の技能〝加速〟を発動するトリガーだった。

 

  限界時間は五分と短いが、ラビットエボルボトルと〝加速〟技能を合わせると、僕は全力のシュウジに追いつけるくらいの速さで動ける。

 

  その間、一時的にハザードレベルが上昇する副作用もあるが、その負担で体が弱れば、逆にハザードレベルが下がるから使うなと釘を刺されている。

 

  ちなみにハザードレベルが足りないまま使うと、成分が体を蝕んで消滅するらしい。僕を羨ましがっていた残りの四人が、顔を青くしていた。

 

「……ま、いざとなったら使うけどね」

 

  別の場所で訓練してるから、クラスメイトたちは僕たちの力を知らない。特に檜山くんとかは絡んで来そうだ。

 

  そうなったときは、遠慮なく使って逃げさせてもらう。戦いはしない、そうすれば逆恨みされるのは必須だ。

 

  あとは、錬成の技能を自主的に鍛えたり、こうやって図書館にこもって知識を溜め込んだりして過ごしている。結構充実した二週間だった。

 

 で、最近は頃合いを見て行方をくらまし、皆で旅でもしようかと話している。その過程で、七大迷宮にでも挑もうか、と。

 

 七大迷宮っていうのは、この世界における有数の危険地帯をいう。ハイリヒ王国の南西、グリューエン大砂漠の間にある【オルクス大迷宮】と先程の【ハルツェナ樹海】もこれに含まれる。

 

  七大迷宮でありながら何故三つかというと、他は古い文献などからその存在は信じられているのだが詳しい場所が不明で未だ確認はされていないからだ。

 

 一応、目星は付けられていて、大陸を南北に分断する【ライセン大峡谷】や、南大陸の【シュネー雪原】の奥地にある【氷雪洞窟】がそうではないかと言われている。

 

「って、そろそろ今日の訓練の時間か」

 

  シュウジは割と時間に厳しいから、遅れたら一時間猫言葉で話すという罰ゲームをやらされる。早く行かなくては。

 

  ちなみに、それを一度やられたことがあるのだが、なぜか美空と白崎さんが録音アプリを使っていた。イジメだろうか。

 

「とにかく、早く行こう」

 

  ラビットエボルボトルをポケットに押し込んで、本棚に積み上げていた本を戻すと、僕は図書館を出た。

 

  すると、王都の喧騒が聞こえてくる。露店の店主の呼び込みや遊ぶ子供の声、はしゃぎ過ぎた子供を叱る声、実に日常的で平和だ。

 

「ザ・ワールドッ!時よ止まれ!」

「そんなもの、無駄無駄無駄無駄ァ!」

「なん……だと……!?貴様、何者だ!」

「ブロリーデス☆」

「もうだめだ、おしまいだぁ!」

 

 ……実に平和(カオス)だ。

 

「やっぱり戦争なんて起こりそうにないから、帰してくれたりしないかなぁ……」

 

  思わずそう呟きながら、僕はシュウジとエボルトの待つ森に向かって走るのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  訓練が終わった後、僕はもう一度図書館に向かうことにした。人にぶつからないようにしながら歩いていく。

 

「今日の訓練も大変だったな……」

 

  主に腹筋的な意味で。シュウジとエボルトが、トレーニングをしてる僕たちの前でサンシ◯イ◯池◯の真似やら亀◯和◯やらの真似をしてたからだ。

 

  ひたすら脇腹の痛みに耐えながら、僕たちは今日を無事に乗り越えた。そのせいか、ハザードレベルが0.2も上がった。

 

  なんとも言えないような顔をしていると、ふとクラスメイトたちはどのような感じなのか、少し気になった。

 

  なので、一旦進行方向を変えて、クラスメイトたちが訓練している場所へと足を向ける。さほど遠くはないので、十分程度で目的の場所にたどり着いた。

 

  そこは訓練所だった。こっそり入り口から顔を出してのぞいてみると、何人ものクラスメイトが自主練やら談笑やらをしている。どうやら訓練は終わったようだ。

 

  さて、それなら帰るか。そう思った直後に、ドンと背中を叩かれた。とはいえ、我ながらハザードレベル4.2は伊達ではなく、体は揺るがない。

 

  それでも不快感は覚えるもので、僕はウンザリとしながら後ろを振り返った。案の定、そこにいたのは檜山くん率いる小悪党四人組(僕命名)である。

 

  あの時、僕が最初に名乗りを上げたことが許せないのか、檜山くんたちはシュウジがいないときを見計らったように絡んでくる。今回もその口だろう。

 

  ていうか、ちょっと入り口から顔を出しただけなのに見つけるとか、この人たち暇なんだろうか。そんなことしてる暇あったら他のことしなよ。

 

「よぉ南雲、『無能』のクセにどこ行ってたんだよ」

 

  ニヤニヤと気持ち悪い笑みで言ってくる檜山くん。ちなみに『無能』っていうのは、一部のクラスメイトの間での僕のあだ名だ。

 

  わざわざ根性なしどもに力を見せなくてもいい、というシュウジの方針により、僕はクラスメイトたちの前では一切の力を見せていない。

 

  そのため、僕の印象は『戦えない天職の、役に立たない無能野郎』で()()()()通ってるらしい。

 

  一部っていうのは、実は女子生徒の方々から睨まれなくなったからだ。なんでもあの時の宣言と、白崎さんが訓練の内容を話しているのが効いてるとか。

 

  なので、女子の方々には『無気力なところはあるが、彼女思いの努力できる男』ってイメージに上書きされてるとか。シュウジさまさまである。

 

  なのだが、それがさらに気に入らないのか、男子生徒からの敵意はより強くなった。なのでプラスマイナスゼロもいいとこだ。

 

「これも全部、シュウジってやつのせいなんだ……!」

「あん?何ブツブツ言ってんだ気持ち悪ぃ。あっ、そうだ。ちょっとツラ貸せよ、北野だけじゃなくて、俺も特訓してやるからよぉ〜」

 

 ……は? 何言ってんの、この人。

 

「あ、マジで〜?なら俺もそれ参加するわ〜」

「ギャハハ、こんな無能に時間使ってやるとか、俺たち優しすぎじゃね〜?」

「ヒヒヒ、ほんとマジでそれな!」

 

  檜山くんのアホな発言に同調する残り三人。どいつもこいつも、一体何を言ってるのか理解に苦しむ。

 

  なんだかこれ以上ここにいたらドナドナされそうだったので、僕は一度深く溜息を吐いた後、何も言わずに立ち去ろうとした。

 

  このスタンスで生きてるからか、僕は昔から絡まれやすい。だからこういう人種は無視を決め込むのが最適解だとよくわかっていた。

 

「何無視してんだ、無能のくせにっ!!!」

 

  そう思っていたのだが、どうやら檜山くんたちは僕が認識している以上に短絡的だったらしい。後ろから攻撃の気配がした。

 

「……はぁ。本当に疲れてるから、早く行きたいんだけどな」

 

 

 

  カチン。

 

 

 

  そう、僕の中でスイッチが切り替わる音がした。

 

  僕はすぐさましゃがんで、四人の攻撃を認識する。鞘付きの振り上げた剣が二つ、ストレートパンチが一つ、ヤクザ蹴りが一つ。

 

  シュウジの訓練では、一体多数の場合を想定した模擬戦も八重樫さんと坂上くんの三人でやっている。二人に比べれば、檜山くんたちの攻撃はあまりにもトロすぎる。

 

  ちなみに坂上くんとは、訓練をしているうちに認識が変わったのか、今までの態度を謝られて、今では美空特製の弁当のおかずを取り合う仲だ。

 

 

 ま、それはともかく。

 

 

  まず、近藤くんの足を払う。そしてその手から鞘付きの剣を奪い、それでヤクザ蹴りをしてくる檜山くんの残った足をぶっ叩いた。

 

  すかさず返す刀で、中野くんの手首を剣で叩いて振り上げていた剣を叩き落とし、アッパーカットで顎に一撃。最後に斎藤くんの腕を取り、一本背負いで投げ飛ばした。

 

「あだっ!?」

「いぎゃあっ!」

「おごっ!?」

「ぐえっ!?」

 

  汚い声を上げて地面の上に落ちる小悪党四人組。僕はパンパンと手を払いながら、投げ飛ばした体制から立ち上がった。

 

「て、てめぇ南雲っ!無能の分際で、よくもやってくれたな!」

 

  すると、檜山くんが片足を抑えながら、屈辱のような濁った色を宿した目で、僕のことを見てきた。他の三人も同様に。

 

  それに僕は、ただただ溜息を吐くばかりだった。なぜ先に手を出した自分たちのことを棚に上げて、そんなことを言えるのだろう。

 

  いや、わかっている。彼らは下に見ている僕からやり返されたことが気にくわないんだろう。常に自分たちが上位者と考えているから。

 

  この世界に来て力を手に入れて、増長しているのはわからないでもないが、そんなんではいつか足元をすくわれると思う。

 

「僕はただ降りかかる火の粉を払っただけだよ。それじゃあ、もう行くから」

 

  でも、そんなことを僕がいう必要はない。この手のタイプに何言っても聞かないし、そもそも面倒だし。

 

  今度こそ、踵を返して出て行こうとする。他のクラスメイトたちも見てるし、女子の方々の同情的な目線に気まずい気持ちになるし。

 

「は、はん!逃げんのかよチキン野郎!さすがはバケモノの北野に鍛えられてるだけあるなぁ!」

「………………………は?」

 

  だが、聞き捨てならないことを聞いて、僕は足を止めた。

 

 

 ●◯●

 

 

  それを聞いた瞬間、自分でもびっくりするくらい、低い声が出たのがわかった。実際、前方にいたクラスメイトたちは僕の顔を見て、顔を引きつらせてる。

 

  それで自分が、ひどく憤りを覚えていることに気がついた。腹の底が煮え繰り返るとは、このことだろうか。

 

  わかってる。こんなのは負け惜しみだ。苦し紛れの悪口だ。気にする必要なんてないのは、誰が聞いても分かりきってる。

 

 でも……

 

「シュウジが、なんだって?」

「「「「っ!?」」」」

 

 

 

  シュウジ(しんゆう)をバカにするのだけは、許せない。

 

 

 

  普段なら許しただろう。やっかみを受けるのなんて慣れてるし、結構言われた通りなことも多い。でも、それだけは許せないんだ。

 

  いつもふざけてて、自由奔放で、時々真面目になって、何気に優しくて。そんな面倒くさいやつだけど。それでもシュウジは、僕のたった一人の親友だ。

 

  それをバカにするのは、たとえ誰だろうと許さない。普段ならやり過ごすが、これに関しては徹底抗戦の構えを取るつもりだ。

 

  とはいえ、ここでは場所が悪い。いつまでも公衆の面前で諍いごとを起こしていては、迷惑極まりない。

 

「……場所を変えよう」

 

  だからそう言って、僕は訓練施設から出て行った。今度は図書館に向かうためではなく、檜山くんたちと戦うために。

 

  檜山くんたちが追いかけてくるのを確認しながら、僕は歩いていく。ポケットから、ラビットエボルボトルを取り出しながら。

 

  程なくして、訓練施設から死角になっている、人気のない場所に出た。そこで止まって、檜山くんたちの方に振り向く。

 

  彼らは皆一様に、ギラギラと目を血走らせて、僕を見ていた。これが勇者(笑)一行だとは、この場だけ見れば思うまい。むしろ野盗だ。

 

「ハァッ、ハァッ、こんな場所に自分でくるとか、そんなに嬲られたいのかよ、ハハッ!」

「虚勢も結構だけど、早く息を整えたら?」

「テメェッ……!」

 

  睨みつけてくる檜山くんを無視して、僕は黒色のコートを脱ぐ。我ながら普段とは違う、ブラックな自分が出て来ているのがわかった。

 

  袖をまくり、息を吐き出す。そしてラビットエボルボトルのシールディングキャップを正面に合わせ、檜山くんたちに手招きした。

 

「っ!こいつをぶちのめせっ!」

「「「おらぁあああああ!」」」

 

  完全にキレた様子で、襲いかかってくる小悪党四人組。それに対し、ただ僕は小さく、一言だけ呟いた。

 

 

 

「さあ、実験を始めようか」

 

 

 

  最初に僕にたどり着いたのは、案の定というか檜山くんだった。抜き身の剣を振り上げて、飛びかかってくる。

 

  こう言っちゃなんだけど、もしこれが僕の急所に当たって死んだとして、そのあとはどうするつもりなのだろうか。いや、何も考えてないのか。

 

  とりあえず、限界まで待ってからラビットエボルボトルと〝加速〟で飛躍的に上昇したスピードでそれをたやすく回避。背後に回ってトン、と背中を押す。

 

「ぐべっ!?」

 

  顔面から地面にダイブした檜山くんは、奇妙な声を出した。見えなかったのか、急停止して驚いた顔をする三人。

 

  彼らにもう一度手招きすると、額に青筋を浮かべて剣やら拳やらを振るってくる。そのことごとくを、当たる寸前で回避していった。

 

  四人は僕を倒す、あるいは殺そうとする勢いで攻撃を繰り出し、僕はただ避け続ける。ただ、その繰り返し。簡単な能力確認の実験だ。

 

  自分たちが遊ばれていることがわかったのか、檜山くんたちはどんどん悪鬼みたいな顔になっていき、さらに激しい攻撃を出してくる。

 

  でも、魔法も剣も手足も、何も当たらない。当たり前だ、エボルトの振るってくるスチームブレードに比べれば、余裕のよっちゃんだ。

 

  というか、だんだん攻撃が杜撰になってきた。顎も落ちてるし、剣筋もぶれてる。ちゃんと訓練してたのだろうか。

 

  まあとにかく、これくらいなら大丈ーーっ!?

 

 

 

 ドクンッ!

 

 

 

「うぐっ!」

 

  胸に鋭い痛みが走る。しまった、今の僕じゃあエボルボトルはそう長く使えないのを、頭に血が上って忘れてた!

 

  一瞬、胸を押さえて立ち止まる。それを狙ったのか、はたまた偶然だったのか、頬に檜山くんの拳が突き刺さった。

 

  痛みで強張っていた体では踏ん張れずに、地面に倒れてしまう。慌てて手をついて起き上がろうとすると、背中を踏みつけられた。

 

「はぁっ、はぁっ、ちょこまかと、逃げやがって、無能の分際でぇっ!」

「調子こいてんじゃねえぞ無能野郎っ!」

「そのまま転がってろカスが!」

「死ねやオラァ!」

 

  口々に罵声を浴びせてきながら、僕を蹴る四人組。ガスの力で体が頑丈になっているので痛くないが、断続的に胸に痛みが走って動けなかった。

 

  なので、仕方がなく丸まって嵐が過ぎ去るのを待つことにした。ああ、早く図書館に行って『真の神になる9610の方法』を読みたい。

 

  それにしても、失敗したなぁ。いくら怒ってたからって、自分から喧嘩を売りにいくなんて。全く僕らしくない。

 

  ただ、やり方に後悔はあれど、自分の感情に後悔はない。どんな目にあっても、シュウジをけなしたことは許さない。

 

 

 

「何やってるの!?」

 

 

 

  早く終わらないかなぁ、と思いながらリンチを受けていると、聞きなれた声が聞こえてきた。「やべっ」と檜山くんたちの攻撃が止む。

 

  その隙に、ゴロゴロと転がって小悪党四人組の足元から抜け出した。が、全身がジンジンと痛んで立ち上がれない。どうやら思ったよりダメージが入ってたらしい。

 

  それでもなんとか顔だけ向けると、白崎さんが走り寄ってくるところだった。後ろには美空や八重樫さん、坂上くん……あと、なぜか天之河くんもいた。

 

「南雲に何やってんだコラ!」

「アガッ!」

 

  あ、坂上くんが近藤くんを殴った。

 

  そしてそれよりさらに後ろに、表情の抜け落ちたシュウジと、険しい顔をしているエボルトがいる。勢ぞろいか、オールスターか。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん、大丈夫!?」

「ハジメ!」

「南雲、平気か!」

 

  何やら檜山くんが言っていたが、それを軽やかにスルーしてこちらに駆け寄ってくる白崎さんと美空、坂上くん。

 

  坂上くんに手を貸してもらい、上半身をもたげる。そうすると白崎さんと美空が同時に魔法を使おうとして…互いの手をガッと掴んだ。

 

「……何するのかな、美空?」

「ハジメの傷は、彼女の私が治すのが当然でしょ?そう、彼女の私が」

「やけに彼女を強調するけど、喧嘩売ってるのかな?かな?」

 

  目の前でバチバチと火花を散らす二人。いやあの、そんなことより割と痛いから早く治して欲しいんだけど……

 

「大変だったな、南雲。いや、今も大変か」

「坂上くん……その、ありがとう」

「なぁに、俺が気に入らなかったから殴っただけだ。だが、礼なら明日のみーたん特性卵焼きで受け取るぜ」

 

  ニッと快活に笑う坂上くん。前は苦手だったけど、仲良くなってからは割と付き合いやすいことがわかった。

 

  ちなみにみーたんっていうのは、美空がやってるネットアイドルの名前である。坂上くんはその重度のファンらしくて、グッズを自作できるレベルだとか。

 

  最初に知った時は、ギャップに皆で大笑いした。特にシュウジは某蛇の女王様みたいにそり返るほど笑ってた。坂上くんにラリアットを頂戴してた。

 

  ともかく、結局半身ずつ治療するということで二人に治癒魔法をかけてもらった。外傷が消え、痛みが和らいでいく。

 

「あ、ありがとう二人とも。助かったよ」

「「どういたしまして」」

 

 お礼を言うと、同時に答えた二人はまた火花を散らした。やめて、背後に般若と女神様みたいなスタ◯ド背負わないで。

 

「いやぁ、大変だったなはじめん」

「災難だったわね、南雲くん」

 

  目の前でオーラで戦う彼女とクラスメイトに戦々恐々としていると、さっきの顔は何処へやら、いつも通りのシュウジが近づいてくる。隣には八重樫さんがいる。

 

  ほれ、と手を差し出されたので、それをとって立ち上がろうとする。掴む寸前で抜き取られた。飛び膝蹴りを鳩尾に入れた。

 

「ていうか、この前もだけどはじめんって何よ」

「えっふえっふ、新しいあだ名的な?」

「あっそう」

「まあ、それはともかく……使うなって言ったろー?」

 

  僕の手からラビットエボルボトルを取って、肩を叩きながら目の前でプラプラと揺らすシュウジ。確かに、約束を破ったのは確かだ。

 

「それは、ごめん」

「ま、これに懲りたら次から気をつけるこったな。つーか、ハザードレベル4.0か。今日の分の努力がパァになったな」

 

  今肩を触った時に測ったんだろう、仕方がねえなーみたいな顔のシュウジに、僕は冷や汗をかいた。

 

  シュウジは、努力が無駄になることが嫌いだ。つまり……

 

「てわけで、この後補習授業な」

「ウソダドンドコドーン!」

 

  僕は絶望の声を上げて崩れ落ちた。慌てて白崎さんが「大丈夫!?」と背中をさすってくる。残りの人はため息を吐くのが聞こえた。

 

「おーいシュウジ、拘束しといたぞ」

 

  そんなことをやってると、エボルトの声が聞こえた。全員でそっちを振り返ると、スタークになったエボルトが両腕の毒針で小悪党四人組を吊るし上げていた。

 

「おい、おろせコラ!」

「そう言って下ろすやつがいるわけねえだろブタ野郎が」

「んだとコラァッ!」

 

  ほれほれ、と煽っているエボルトに、シュウジが近づいていく。その背中に、言い知れぬ恐ろしいオーラを感じた。

 

「さて、俺のマブダチに手を出してくれた蛆虫どもーー殺される覚悟はできてんだろうな?」

 

 

 ジャキン!

 

 

  無機質な声を出したシュウジの手の中に、スチームブレードが出現する。それに息を呑みながらも、何をしようとしているのか、なんとなくわかってしまった。

 

 

 スパンッ!

 

 

  目にも留まらぬ速度で、シュウジの腕が煌めいた。かと思えばスチームブレードを異空間に放り込んで、パチン、と指を鳴らした。

 

 ブシュッ!

 

  すると一瞬遅れて、檜山くんたちの顔に切り傷が走る。それなりに深かったのか、遠目から分かるほど血が流れ出る。

 

「があぁあああぁああっ!?」

「い、痛えぇぇえええ!?」

「ひぎやぁっ!?」

「ママーーーーっ!」

「なーんてな。お前らなんか殺す価値もない。俺が本気で殺す前に、さっさと失せろ。この汚物が」

 

  決めセリフを言ったシュウジがこちらに踵を返すと、エボルトが地面に、やや強めに小悪党四人組を叩きつける。

 

  顔の傷の痛みと落とされた痛み、二つの痛みに悶えていた檜山くんたちは、「くそっ、覚えてろよ!」というテンプレなセリフを吐いて走り去っていった。

 

  その後ろ姿を見て「走れメ◯ス、どこまでも」とかふざけたことを考えながら、シュウジが歩み寄ってくるのを見る。

 

  そして目の前に来て、得意げな顔で親指を立てるシュウジに、僕も苦笑しながら親指を立てた。

 

「ありがとシュウジ」

「気にすんなってことよ」

「俺も活躍したぜ」

「ふふっ、そうね」

「もう、あんまり心配させないでねハジメ。あ、別に香織ちゃんはいいけど」

「どういう意味かな美空?」

「みーたん可愛い」

 

  そんな感じに、痛い思いもしたけど丸く収まって……

 

 

 

 

 

 

 

「だが、南雲自身にも問題があると俺は思うぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 くれないんだなーこれが。

 

  僕を含めた、和やかな雰囲気だった全員の空気が一瞬で固まる。そして何やら諭すような顔をした天之河くんを見た。何言ってんのこの人?

 

「やり方は過激だったかもしれないが、檜山たちも南雲が不真面目で協調性がないから怒ってやったんじゃないか?聞けば、訓練もせずどこかに行ってたり、図書館にこもってるそうじゃないか。もう少し真面目になったらどうだ?」

「「「「「「「……………」」」」」」」

 

  うん、本当に何言ってるんだろう、天之河くんは。

 

  あまりにも意味のわからないことに呆然としながら、ああ確かにこの人は基本的に、性善説で人の行動を解釈するんだったと思い出す。

 

 天之河くんの思考パターンは、基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! という過程を経るのである。

 

 しかも、本気で悪意がない。マジで僕のことを心配(笑)して言ってるのだ。ここまで自分の思考というか、正義感に疑問を抱かない人間には誤解を解く気すら起きない。

 

  試しに周りにいる皆を見てみると、全員が全員、それはないわーって顔してた。ほら、シュウジに脳筋って言われてる坂上くんですら……

 

「みーたんハァハァ」

 

  訂正、そもそも聞いてなかった。ていうか美空を変な目で見ないでくれるかな?

 

「……南雲くん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「こ、光輝くんも悪気があるわけじゃないんだよ?」

「腹黒な香織ちゃんが言っても説得力ないね」

「今なんて言ったのかな?かな?」

「あれもう病気じゃねえか?俺もいろんな人間を見てきたが、あそこまで歪んで気持ち悪いやつはいないぞ?」

 

  オカンモードbyシュウジの八重樫さんに謝られ、白崎さんと美空はまたしても衝突する。エボルトは今にも吐きそうな顔をしてた。

 

「……………」

 

  そんななか、普段なら一番に煽りそうなシュウジが無言でスタスタと天之河くんに歩いていった。

 

 

 

 バキィッ!

 

 

 

  そして、その頬に思い切り拳を叩き込んだ。なんのひねりもなく、ただ純粋に殴り飛ばした。流石に驚いてぽかんとする。

 

「な、何をするんだ!?」

「……一つだけ言ってやる、砂糖でできてる頭ん中お花畑のカス野郎。そんなゴミ以下の価値すらない考えが、いつまでも通せると思ってるなら、いつか死ぬぞ」

「何を言ってーー」

「やめろ、口を閉じろ。これ以上この空間を汚染するな。二度とその声を俺に聞かせるな。そもそも世界に存在するな、今すぐこの世からもあの世からも消え失せろ」

 

  冷たい声で徹底的に存在を拒絶すると、無表情のままシュウジはこちらに歩いてくる。すでに数度見た光景だが、今までで一番戦慄を覚えた。

 

  ちなみに後で聞いたことだが、このときシュウジは前世の人格が顔を出すかというほど、内心殺意に満ちていたらしい。我慢したのは僕たちの前だったからだとか。

 

  そしてシュウジは僕たちを促すと、さっさとその場から撤収していった。へたり込んで呆然としている、天之河くんを置いて。

 

 

 

「……はっ!?お、おいまて、話は終わってな……」

 

 

 

  天之河くんがなにやら騒いでいたが、それに振り返る人は、誰一人としていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  結局その日は、シュウジに地獄のようなしごきを受けて、夕食の際に迷宮に遠征をする旨を聞いて終わるのだった。




ここのハジメは割と好戦的です。場合によりますが。
目次にシュウジのイラストをあげました(なお、描き直す可能性大)
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