それはともかく、新年です。皆さんこれからもどうか、この作品をよろしくお願いします。
エボルト「エボルトだ。前回はシュウジとマリスの語らいだったな。最後のやりとりには少しくるものがあったぜ」
シュウジ「やっはろー、シュウジだ。俺体調崩したことないんだよなぁ。雫に看病してもらうのとかちょっと憧れてる。ちなみに雫の看病はしたことある」
美空「みんなでお見舞いに行ったよね。雫さんのお家広かったなぁ」
ハジメ「シュウジにものすごいベッタリだった記憶があるな」
雫「ちょ、ちょっと南雲くん!」
エボルト「ほい、シュウジ視点での八重樫の映像」
三人「「「おーデレデレ」」」
雫「ちょ!」
マリス「何を見ているのですか……今回は山脈地帯に行くまでの道中の話です。それではせーの……」
六人「「「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」」」
翌日。
俺たちは北の山脈地帯へと向かうため、早朝に宿を出た。まだあたりにはうっすらと霧が立ち込め、朝焼けが顔を出したばかりだ。
右隣を歩くルイネの腕に抱かれるリベルは絶賛熟睡中で、ウサギの頭の上のカエルも鼻提灯を膨らませている。カエルって鼻提灯出るのな。
そんな街中を、握り飯片手に山脈地帯への一本道へつながる北門へと向かう。ちなみにこの握り飯、フォスさんが作ってくれたやつだ。
あの人もなかなかの仕事人で、こんな時間帯なのにわざわざ作ってくれたのだ。ああいう人は信用できる。あ、握り飯の味はカレー味な。
『そういやお前、地球にいた頃タコカレーとか悪魔の料理作りやがったな……』
ああ、お前以外には好評だったやつね。見た目はともかく味は結構いい線いってたので、両親にも妹にも大絶賛だった。
ちなみにそのあと、エボルトと交代してタコカレー食べさせたのは言うまでもない。妹が便乗して更に食わせてたのも言うまでもない。
『あのあと何食っても丸一日カレーとタコの味がしたぞ……』
三人前くらい食べさせたからね。俺は悪くない、あんなうまいものを生み出してしまったこの腕前が悪い。
『フジャケルナ!』
「やけに機嫌がいいな。なんかあったのか?」
エボルトと会話していると、隣を歩いていたハジメがそう聞いてくる。確かに今日はいつもより気分がいいかもしれない。
それは言わずもがな、マリスにまだ父親だと思ってもらえていたと知れたからだろう。この世界にきて有数の良い思い出だ。
もしグレてて、クソジジイとか言われたらどうしようかと思った。あるいは冷めた目で毒吐かれるとか。雫とかルイネのジト目なら大歓迎だが。
『心配するとこそこかよ』
お前だってビルドの世界の美空にジジイとか言われたら立ち直れないでしょうに。
『貴様、何故それを……!』
ふっ、ハードボイルドな探偵には何でもお見通しなのさ。
『何行ってんだ半熟野郎』
誰がカルボナーラだ。
『言ってねえよ』
まあエボルトとのコントはさておき、ハジメには肩をすくめて答えておく。それで何となく察したんだろう、ハジメは「そうか」と頷いた。
そんなこんなで進んでいるうちに、北門にたどり着いた。しかしそこで、門に寄りかかっている人物がいるのに気がつく。
朝焼けで顔が見えない、やや小柄なその人物は俺たちが来たことに気がつくと、スタスタとこちらに近づいてきた。
ハジメがドンナーに手を伸ばし、ユエたちも構えるが、俺はそっと手で制す。皆が怪訝な顔を俺に向けている間に、その人物は俺の前まで来た。
その人物は、黒いコートを着ていた。すっぽりとフードで頭を覆い、顔はうかがえない。しかし、それが誰だか俺にはすぐわかった。
「随分と早いっすね、先生?」
「そういうあなたたちこそ、随分と早い出立ですね」
俺の言葉に答えながらフードを取る人物。その中から出てきたのは紛れもなく、昨夜密会した畑山愛子その人であった。
先生は俺たちの顔をぐるりと見渡し、一瞬リベルに目を止めると眠っているのを理解して、最終的に隣のハジメに視線を向けた。
「南雲くんも、おはようございます」
「……ああ、おはよう先生。いや、マリスって呼んだ方がいいのか?」
「呼びやすい方で構いませんよ。気楽な方がいいでしょうから」
「俺は?」
「先生はマリス固定で」
「ほいほい」
「なら先生って呼ばせてもらう。それで、何でここに?」
「あら、聞かずともわかっているのではありませんか?」
マリスの言葉にまあな、とため息を吐くハジメ。どうやら俺を含め、他のメンバーも彼女がここにいる理由をわかっているようだ。
マリスがここにいる理由は、俺たちのウィル・クデタの捜索依頼についてくるということだろう。昨日会った時に言ったしな。
クラスメイトたちは?と聞けば、騎士たちもろとも魔法で暗示をかけてきたので、明日の夜程度まではいなくても問題ないようだ。
「ただ、あの兄妹には魔法が効かなかったので、生徒たちの護衛を頼んできました」
「へえ、お前の魔法が効かないなんて相当の実力があんのか。もしやのもしや……」
「おそらく、先生の考えている通りかと」
神妙な顔で頷くマリス。もうそこまで成長してるのか。順調そうで良かった。
「そうか……んでハジメ、マリスを連れてくことに異論は?」
「却下………と言いたいところだが、それは先生が俺の知ってる先生だったらの話だ。お前の元弟子なら問題ないだろ」
「もしそうでなくても、畑山愛子として大切な生徒がどうしていたか、これまでの話を聞くために付き纏うでしょう。私の中から畑山愛子が消えたわけではないですから」
「そうかい、先生」
肩をすくめるハジメ。 確かに本人の言う通り、たとえマリスでなくても先生はついてきそうだ。暇な時間だけでいいから話を聞かせてくれとか言って。
「他の皆もいいかね?」
『別にいいんじゃねえか?』
「……ん」
「別にいいよ」
「ゲコッ」
「はいですぅ」
「………ああ」
「んにゅ……」
他のメンバーにも確認を取れば、どうやら問題なさそうだ。彼女らからすれば、邪魔にならなけりゃいいんだろう。若干、ルイネが硬い声だったけど。
そんなわけで、飛び入り参加でマリスも参加することになった。人数が多いということで、乗り物をバイクから別のものへと変える。
門の外まで出ると、ハジメが宝物庫を開いて、そこから魔力駆動四輪……魔力式の自動車を取り出した。見た目はハマーH2に似ている。俺とハジメの趣味だ。
「運転どうする?」
「さーいしょはぐー」
「じゃーんけーんチョキ!」
「目潰しだとぅ!?」
「フハハハハ、油断したなシュウジ!」
「くっまずい……と見せかけてグー!」
「ぐふっ……」
俺のボディーがハジメの脇腹に決まり、地面に崩れ落ちる。これぞ古来より伝わる聖なる戦い、じゃんけん(物理)である。
というわけで俺が運転席に乗り込んだ。この車はベンチシートであり、前の座席に二人、後ろの座席に向かい合わせに六人座れるようになっている。
復活したハジメを筆頭にみんな乗り込み、なにやら小声で話し合った後にマリスが俺の隣に、ルイネとリベルが後ろに乗った。
「シートベルトは締めたな?」
「はい(おう、んっ、いえす、ゲコッ、締めました、締めたぞ)」
全員の返答が帰ってきたのを確認し、俺はバスの車掌のような服に魔法で早着替えすると、高々と口上を述べた。
「オッケーオッケー。それでは皆様、本日はご乗車ありがとうございます。目的地は北の山脈地帯、ドライバーは北野シュウジが担当いたします。それでは短い時間でございますが、どうぞ車での旅をお楽しみください」
言い終えるとともに魔力を流し込み、アクセルを踏んで魔力駆動四輪を発車させる。その瞬間、あっという間に門が見えなくなった。
北の山脈地帯への道を、魔力駆動四輪で一直線に突っ走る。窓の外に映る景色は瞬く間に流れていき、昇りかけの太陽の光が窓ガラスに反射した。
爆走と呼んで差し支えないスピードとは裏腹に、サスペンションとハジメの付与した錬成により悪路は整備されているので揺れはない。
そんな魔力駆動四輪の車内では、俺やエボルトの記憶からコピーしたクラシックが緩やかに流れ、優雅な雰囲気であった。
「なるほど。つまり清水を探しに行く目的もあるわけか」
「はい。ヴェノムの分体に情報収集をさせているのですが、ここについてはノーマークに近いので」
〝ハレルヤ〟のテンポに合わせてハンドルを指で叩きながら、マリスの言葉に耳を傾ける。どうやらクラスメイトが一人、行方不明らしい。
清水幸利。第一印象としてはどこにでもいる大人しめのやつだったが、人脈作りの一環として話した時には若干の自己顕示欲も見て取れた。
そんな清水が行方不明、そして今回の依頼にある強力な魔物……どうやら繋がりがありそうだ。ネクタイを締める準備をしなくては。
『脳細胞がトップギアだぜ』
お前がかい。
「で、俺たちの依頼先にいる、本来いないはずの魔物にもしかしたらってわけか」
「ええ、闇系統の魔法には魔物を操るものもありましたから。少なくとも無関係ではないかと」
「なるほどねぇ……ま、気に留めときますか」
「それに先生たちの仕事にしても、善良な人間の命が関わっているのなら放っておけませんから」
「さすが、それでこそ俺の弟子だ」
「それと……先生と、仕事をしたかったのもあります」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるね」
娘に一緒に仕事をしたいと言われるとか、育ての父親としては結構嬉しい言葉だ。ほらあれだ、料理店の店主が子供に店を継いでほしい的な。
まあ俺が継がせようとしてたのは一千年に渡る悪人の暗殺だから、もっとぶっ飛んでるけど。家業を継ぐって意味じゃ同じだよな(過激)
しかし懐かしいな。まだマリスが一人前になる前は、潜入活動の一環として一緒に教師をやったりした。思えばあれがこいつの夢の原点か?
『普通とは言い難い思い出だな』
特別な思い出だね()
「ほら、フルハウス」
「……ストレートフラッシュ」
「二人とも強いですぅ、私ツーペアですぅ」
「はい、ロイヤルストレートフラッシュ」
「「「ウサギ強っ!?」」」
「ウサギおねーちゃんすごい!」
「ゲコッ」
一方、後部座席ではハジメたちがポーカーをやっていた。しかしワイワイと騒がしい中、ルイネの声だけが聞こえない。
向かい合わせになっている後部座席のこちら側の左端……つまりマリスの真後ろに座っているルイネは、乗ってから一言も話していなかった。
「はぁ……ルイネ」
まだ緊張しているのかと思っていると、ため息をついたマリスが名前を呼んだ。ピクリと肩を震わせ、ルイネがこちらを振り向く。
ルイネの顔はやや強張り気味で、まるで怒られるのを待つ子供のようだ。そんなルイネの両頬を、不意にマリスが引っ張った。
「な、なにふぉふりゅ?(訳:な、何をする?)」
「そう畏まらなくても、先生とのことなら別に怒っていませんよ」
マリスの言葉に瞠目するルイネ。マリスはパッと指を離すと、狐につままれたような顔のルイネに微笑みながら語り始めた。
「あなたの先生への思いは前の世界から知ってますし、私に師匠への尊敬や父への愛はあっても、異性としての想いはありません」
「あ、そうだったんだ。いやー、昔はお父さんと結婚するーって言ってたのになー」
「無論、恋仲になる相手は先生以上の人でないと嫌ですよ」
「アッハイ」
強い意志を込めた言葉に、思わず頷いてしまった。うーむ、スペック的にはともかく、精神的には俺よりいい男なんぞごまんといると思うが。
そう思ってたらマリスにルイネ、挙げ句の果てにはハジメにまでジトリとした目で見られてしまった。あっるぇー、思ったより俺の評価高くね?
『ま、普段の言動はともかく、お前はいい奴だよ。愛情や友情に溢れ、必要ならば自分が汚れることも厭わない。普段の言動はともかく』
最後の繰り返す必要あった?
『大事なことだから二回言いました』
まあ直す気ないけどにゃー。
「ルイネ。確かに一番弟子として、娘として最初に会えなかったのは悲しいです。でも、そんな些細なことは先生に再会できた時に忘れました」
「いや、しかしだな……」
「だいたい、せっかく再会できたのに悲しいじゃないですか。先生はもちろんですが、あなただって……私の大切な、家族なんですから」
「マリス……」
「それが理解できたのなら、いつも通りでお願いします。その方が私もスッキリできるので」
そう言うマリスに、ルイネは少し悩むような顔をした後、一度頷くとまっすぐマリスの目を見返した。
「……わかった。それならいつも通りにさせてもらおう」
「ええ、それでいいです」
「すまなかったな、おかしな態度を取ってしまって」
「いいえ、別にいいですよ。最初にあのような態度を取った私にも多少の非はあります」
謝りあった二人は、互いの顔を見て柔らかい微笑みを浮かべ合う。どうやら仲直りできたようだ。うむ、良きかな良きかな。
それからの二人は、穏やかな声音で談笑をしていた。前世において見ていた、懐かしい光景だ。前世で唯一大切だった、俺の宝物。
それがもう一度見れたことに、内心感無量の思いだ。思いなん、だが………
「それで、その時マスターがだな……」
「へえ、恋人が相手だとそのようなことを言うのですね……」
俺が普段どうしてるのかを語り合うの、やめてくれませんかねぇ。なにこれ、娘に恋人との思い出を聞かれるとか何かの拷問なの?
そんな俺の羞恥心を以心伝心で悟ったか、ハジメから飛んでくる野次馬的視線が鬱陶しい。後で昼飯のスープにトマト入れてやる。
『嫌いなもの入れるとか子供かよ』
うるせいやい、俺はまだピチピチの17歳だ。
『なお、精神の方は……』
君のような勘のいい地球外生命体は嫌いだよ。
そんなこんなで恥ずかしい思いをしながら運転をすること二時間ほど、マリスがあくびをして寄りかかってきた。おや、と思いちらりと視線をそちらによこす。
「疲れたのか?」
「ええ、少し。昨日の夜、少し夜更かしをしてしまって……」
「肉体改変は?前と同じ体にしているなら七日くらいは不眠で平気だろ?」
「してはいますが、相当興奮しながら書いてましたので……」
「そっか。ならまだもう少しかかるから、着くまで寝てていいぞい」
「ええ、ありがとうございます」
返事をしたマリスは、そのまま目を閉じると数秒で眠った。どうやらすぐに睡眠に入る術も使えるようだ。別名の◯太くん式睡眠方。
「むぅ……」
静かに寝息を立てるマリスに少し微笑んでいると、シートの向こうから小さな不満の視線を感じた。リベルが頬を膨らませている。
「帰りはリベルな」
そう言うとすぐにパァ!と顔を輝かせ、上機嫌に「うん!」と答えるリベル。まったく、モテるパパは大変だぜ。
『調子乗んな』
辛辣ゥ!
「なあシュウジ、今からしりとりするけどお前も参加する?」
「んー、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲」
「初っ端からなげえよ」
とまあ、そんな感じで穏やかに、かつ少し騒がしく、俺たちは北の山脈地帯へと進むのであった。
次回はついに奴の登場でございます。プラスアルファ要素もあります。
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