星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、病院でずっと薬の受付を待ってて腹が減ってる作者です。

シュウジ「こんちわー、シュウジだ。前回は北の山脈地帯に向かったところだったな」

ハジメ「そういやお前、前の世界で朝起こしに来る時必ずハレルヤ歌いやがったな…朝から無駄にいい声で」

シュウジ「勢いがあって起こすのにちょうどいいかと。てへぺろ」

ハジメ「よっしお前後で屋上な」

マリス「私は好きですけどね、あの曲」

エボルト「対魔導なんちゃらってアニメにハレルヤって叫びながら出てくるやついなかったか?まあいい。今回は北の山脈地帯に入るぜ。それじゃあせーの……」


四人「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」


探索、北の山脈地帯

 

  ウルの街を出発してから五時間。俺たちはついに北の山脈地帯へと到着した。

 

  山の麓で魔力駆動四輪を停車させ、マリスを起こすと車を降りる。そして山を見上げれば、見事な紅葉が視界に飛び込んできた。

 

  地球でも滅多に見られない真っ赤な山に、降りてきたユエやシアさん、あのハジメでさえも見惚れる。分離したエボルトが写真を撮っていた。

 

「美しいですね」

「だな。確かこの北の山脈地帯は、一山超えるごとに環境が変わるんだっけか」

「ああ。確認されてるのは四合目まで、五合目からは普通の冒険者じゃ倒せないような強力な魔物がいるから未知の領域って話だ」

 

  隣に来たハジメが俺の言葉に補足をすると、魔力駆動四輪を〝宝物庫〟に収納して、代わりにカラスのような鳥型アーティファクトを四つ、それと指輪を一つ出した。

 

「それは?」

「無人偵察機」

 

  マリスの問いかけに端的に答えると、指輪をはめたハジメがアーティファクトを放る。するとアーティファクトは地面に落ちる前に浮き上がり、山に向けて飛んでいった。

 

  重力制御式無人偵察機、オルニス。生成魔法で重力を中和する〝重力石〟を作り、そこになにやら正規の迷宮にいたらしいゴーレム騎士を遠隔操作していた〝感応石〟を組み合わせて作った代物だ。

 

  ハジメのつける指輪と連動して動き、〝魔眼石〟とリンクして取り付けられた遠透石が映像を送る仕組みになっている。ロマンだな。

 

  ちなみにサンプルを一体、瞬間移動できる俺が手紙つきでミレディに届けさせられた。ミレディめっちゃキレてた。

 

『そりゃ、あんな強盗まがいのことしたのに〝おかげさまでとても良いものを作ることができました〟だからなぁ。怒って当然だろ』

 

 煽り攻撃がうまいハジメ=サンであった。

 

「んじゃ俺も」

 

  俺も異空間を開いて、そこからいくつもの錠前と鎖でがんじがらめにされた紫色の箱を取り出す。それを見た瞬間、マリスとリベル以外の女性陣が嫌な顔をした。

 

  事情を知らないマリスがルイネらの反応に不思議そうに首をかしげる中、鍵を取り出すと全て錠前を開けて鎖を外し、重厚な蓋を開く。

 

  すると、異空間化された真っ暗な中から紫色の眼を持つ、特徴的な形の鎌足の10cmくらいの小さな黒いカマキリが這い出てきた。

 

  黒いカマキリたちは俺の腕を伝い、地面に落ちると皆一様に山に向かっていく。それをなんとも言えない顔で見る女性陣。

 

  出てきた数が百匹を超えたところで、蓋を閉めて錠前を全て施錠した。その上からしっかりと鎖を巻きつけ、異空間に戻す。

 

「うし、あんだけいりゃ平気だろ」

「先生、今のは?」

「ん?ちょっと品種改良した偵察用の魔物」

 

  ニッと得意げに笑いながら答える。アレは元は樹海にいた魔物であり、偶然見つけたものを俺が魔法で色々と改造したものだ。

 

  〝透明化〟と〝気配遮断〟、〝生体感知〟の技能で隠密行動と捜索能力に優れ、〝共鳴〟の技能で見たものを全ての個体に共有することができる。

 

  加えて戦闘能力も高く、十匹で大体プレデターハウリア一人に相当する。それが()の中に何千、何万と巣食っていた。

 

  しかし、本体はもっとデカくて強い。樹海の奥地のさらに奥にいた、亜人族の建築物で城を作り、そして人の武器を操る魔物だ。

 

  そいつも異空間の中におり、餌と失敗した武器のサンプルを渡す代わりに、一日三十匹ずつクローンを作らせてもらっている。我が家のペット二号だ。

 

「おい、なんで今俺を見た」

「一応全員に何かあったときのために、一匹ずつつけてんのよ」

「ああ、それは女性にはきついかもしれませんね……」

「無視すんなコラ」

 

  俺の言葉に答えるように、ハジメの義手の一部が空いて黒カマキリが顔を出した。そして挨拶するように鎌の片方を上げる。

 

  更にユエのコートのポケットから、シアさんのリボンから、ウサギのパーカーのフードから、ルイネとリベルのカチューシャから、そして俺のコートの装飾から出てきた。

 

  俺のやつは体の所々に白い模様があり、司令塔の役割を担っている。〝共鳴〟の派生技能、[+特定共鳴]で俺に集めた情報を送るのが役割だ。

 

「お風呂に入ろうとして、リボンを外して出てきた時は心臓が飛び跳ねたですぅ……」

「ん……一瞬目を離した隙に出てきてパンをかじってた……すごくびっくりした……」

「朝起きたら肩に乗ってた」

「夜にトイレに行ったとき、ひとりでに扉が閉まったときは本当に驚いたぞ……」

「かまきりさん!」

 

  げんなりした顔をする女性陣。リベルだけが両手で持って頬を擦り付けてる。心なしかカマキリは嬉しそうだ。

 

  相変わらず女性陣にはお気に召さないらしい。フォルム的には男心をくすぐるので、ハジメとエボルトには好評だったのだが……

 

「俺は別に嫌いじゃないが、色がアレに似てるからな……」

「えー、優秀なのに」

「そうじゃなかったら速攻異空間にぶち込んどるわ」

「ちょっエボルト酷い」

 

  軽口を叩きあいながら、山道に向けて歩き出す。それに続いて、他の面々も表情を引き締めると移動を開始した。

 

 

 ●◯●

 

 

  俺たちが目指すのはウィル・クデタ及び、前任の冒険者たちが探索を行った六合目から七合目。山の高さからして、俺たちの足なら一時間ってとこだろう。

 

  その俺の予想は外れることなく、全員が健脚どころか豪脚の持ち主なこともあって一時間たらずで六合目にたどり着いた。

 

  これでもしクラスメイトたちもいればもう少し時間がかかったかもしれないが、ちゃんとお守り付きで置いてきたので心配ないだろう。

 

  そうして進んでいるうちに、カマキリの一匹が川を見つけたと司令塔から情報を得る。ふむ、要チェックポイントだな。

 

「皆、近くに川があるってよ。捜索対象もそこで休憩したかもしれないから行ってみようか」

「ああ、そろそろリベルも休憩させたい」

 

  さっきまで初めての山ではしゃいでいたリベルは、車とここまでの道のりで元気を使い切ったのか若干船を漕いでいた。

 

  他の皆を見れば問題ないと頷いたので、川に足の向きを帰る。先んじて探索魔法で川の近くに魔物がいないか確認しとこう。

 

  五分ほど歩いてたどり着いた川は、小川というには大きく、かといって大きいかといわれると小さい、中規模の川だった。

 

  川岸に行けば、大きめの岩の上でカマキリが鎌を振っている。そいつを回収し、司令官を通してより細かい情報を共有してもらった。

 

「ふむ、この付近には特に何もなし、か。ハジメ、そっちは何か見つかったか?」

「いや、今中流のあたりだがまだ何もない。上流に向かわせてみる」

「オッケー、俺は下流に向かわせてみる。リベル、少し休もうか」

「うん……」

 

  目をこするリベルをルイネから受け取り、靴と靴下を脱がせて、川を解析魔法で調査して問題ないことを確認すると、ちょんと指先を川につけた。

 

「わわっ!つめたっ!」

「どうだ、目が覚めたか?」

「うん!」

 

  バタバタと手を振り回してはしゃぐリベルを下ろすと、少し川で遊ばせることにする。見ればユエたちも靴を脱いで水に足をつけ、くつろいでいる様子だった。

 

  ハジメは岩に背中を預けて一旦休憩し、エボルトはこっちに参戦。カエルは……なんか超高速で川に舌を伸ばして魚食ってた。

 

「ほれリベル、大波が行くぞー」

「きゃー!エボルトおじさんつめたーい!」

「はっはっはっ、こっちからもいくぞー!」

「もうっ、パパもエボルトおじさんも!おかえしだー!」

 

  リベルが両手を上げると、川から大きな水球がいくつも浮かび上がる。重力を操作しているのだろう、いつの間にか相当な精度になってるな。

 

  リベルの飛ばす水球をかわしたりわざと当たったりしてると、ハジメから声がかかった。リベルを抱えて川から上がる。

 

「〝乾燥(ドライ)〟。ハジメ、何か見つかったか?」

「ああ、ビンゴだ。上流に向かうぞ」

「オッケー。おーい、女性の方々!そろそろ行くぞー!」

 

  俺の声に一斉に答えた女性陣は川から上がり、マリスの魔法で足を乾かす。そして全員靴を履いて上流へと移動した。

 

  そしてたどり着いた現場にはひしゃげた小型のラウンドシールド、半ばで紐が千切れた鞄など、様々なものが散乱していた。

 

  しゃがんで追憶魔法を使ってみると、どうやらこれが壊れたのはつい数日前のことらしい。件の冒険者一行のものの可能性が高いな。

 

「おいシュウジ、これ」

「ん?」

 

  より詳しく探ろうとすると、ハジメに肩を突かれる。振り返って指差す方を見ると、近くの木の皮が禿げているのがわかった。

 

「何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、って感じだな」

「ああ。高さからして人間じゃないだろうな」

「む……?」

 

  ハジメと話し合っていると、不意にルイネが声を上げた。二人揃ってそちらを見れば、なにやら険しい顔で匂いを嗅いでいる。

 

  一体どうしたのかと尋ねようとすると、手で制された。なのでおとなしく見守っていると、ルイネの耳が音を立てて変形していった。

 

  まるでコウモリのそれのように鋭い形になった耳は紅蓮色の鱗に覆われており、幅広で音を拾いやすそうだ。ルイネは集中した様子で音を探っている。

 

「……どうやら、この山脈のどこかに同族がいるようだ」

「同族っつーと、竜か?」

「ああ、間違いない。竜の翼特有の羽ばたきが聞こえた」

 

  確信した様子で言うルイネ。彼女には龍の一族の血が流れており、同族の気配や匂い、立てる音に対して敏感だ。おそらく間違いないだろう。

 

  しかし、前情報にこの山にドラゴンが住み着いてるなんて話はなかった。おそらく、例の謎の魔物同様他所から来たのだろう。

 

  ハジメを見ると、ちょっと楽しみそうな目をしながら頷く。うんまあ、ファンタジーって言ったらドラゴンは必須だもんね。仕方ない仕方ない。

 

『お前はやけに落ち着いてんな。やっぱルイネがいるからか?』

 

  それもあるけど、俺の前世の世界のドラゴンはそういいものじゃなかったんだよなぁ。車のボンネットにフン落とすし、勝手に残飯食い漁るし。

 

『カラスかよ』

 

  まあそれは野良の話で、ルイネの国にいた龍とかは、逆に並の人間以上にルールに厳格だったけどな。むしろ下手したら殺されるレベル。

 

『厳しすぎだろ』

 

  ルイネがきっちりしてるのもそのおかげだな。

 

  俺とルイネ、シアさん、ウサギを筆頭に索敵をしながら、用心深く禿げた木の奥に向かう。すると、道中戦闘の後がいくつも見て取れた。

 

  血の飛び散った跡や折れた剣の残骸、挙げ句の果てには破壊された血まみれの防具まで。とりま遺品になりそうなものは回収する。

 

「ハジメさんシュウジさん、あれ……」

 

  ひしゃげた兜を異空間に放り込んでいると、シアさんが前方を指差した。見れば、なにやら光るものが落ちている。

 

  近づいて拾ってみれば、それはロケット型のペンダントだった。まだ新しく、つい最近落とされたものだとわかる。

 

  留め金を指で弾いて開いてみれば、中には女性の写真が。おそらく、冒険者…あるいはウィル・クデタの持ち物だろう。異空間に入れとこ。

 

  それからも探索を続けたが、特にめぼしいものはなかった。一旦立ち止まり、ハジメたちと今後のことを相談し合う。

 

「かなり日が傾いてきてるし、そろそろ野営の準備をするか?」

「ん、そうした方がいい。リベルが限界そう」

「ママ、ねむぅぃ……」

「すまないなリベル、もう少しの辛抱だ」

「でも、もう少し探した方がいいんじゃ……」

「シアさん、焦って探しても見つかるものではありません。急ぐに越したことはないですが、それで大切なものを見落としてはおしまいです」

「マリスさん……」

「でも、早く見つけなきゃ危険なのも事実。ここは山の八合目と九合目の中間くらい。最初の位置から奥にいきすぎてる」

「ゲコッ」

「ふぅむ……」

 

  皆の意見を聞いて考えていると、不意に司令官のカマキリがキィキィと大きめの声を上げた。思わず驚いて全員俺の肩を見る。

 

  一体どうしたのかと〝異種念話〟を使って聞いてみれば、〝ビンゴ〟と端的な答えと共有した記憶が司令官から帰ってきたのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  司令官から送られた映像と言葉の意味に、俺は少しの間黙考する。すると、ハジメが声をかけてきた。

 

「おい、なんだって?」

「ビンゴ、だってよ。それに、この大きな滝の記憶は……」

「……もしかして、ウィル・クデタのいる場所を見つけたのか?」

「どうやら、そういうことらしい」

 

  俺が頷けば、皆神妙な顔をして互いの顔を見る。そしてうなずきあうと、司令官に先導してもらいながら現場に移動を開始した。

 

  司令官が案内したのは、俺たちがいた場所から東に三百メートルほどの大きな川だ。そんな距離でもないので、走って向かう。

 

  そして川に近づいていくにつれ、ふと隣を走るルイネの顔がこわばっていくのに気がついた。思わず気になって声をかける。

 

「ルイネ、どうした?」

「……気配が近づいている。これから向かう場所の近くに、竜がいるぞ」

「おっと、そりゃすごい偶然……いや必然か?」

 

  ウィル・クデタと思しき人物の近くに、この山に生息するはずのない竜……なにかしらの関係があると思うのが普通だ。

 

「とにかく、急ごう。それなりに強力な竜のようだ。それも一匹ではない」

「ああ、そうだな。おーい皆、スピードアップするぞー」

 

  了承の声が聞こえたのを確認すると、一気にスピードを倍ほどにあげる。さすがは俺の仲間たちというべきか、難なくついてきた。

 

  五分ほど走り続けると、ようやくその場所に到着する。そして視界に移った川は、見るも無残な状態であった。

 

  本来一つであろう川はふたつに分かたれ、近くの木や地面が黒く焼け焦げている。まるでレーザーか何かで横からえぐり飛ばされたようだ。

 

  なにやら気づいた様子のルイネが川のえぐれた後に行き、俺たちは川辺を調べる。すると、三十センチほどの足跡が残っていた。

 

「こいつは……ブルタールか?ほらあの、オーガとかオーク的なアレ」

「人に酷似した足跡にこの大きさ、二足歩行の魔物って言ったらそれくらいだろうな。二つ先の山脈の魔物だったっけか」

 

  ハジメと二人で見聞する。やや荒々しいその足跡は、ここで大規模な戦闘が行われていたことを如実に表していた。

 

  しかし、ブルタールって川を両断するような攻撃手段はなかったよなと話し合っていると、深刻そうな顔をしたルイネが戻ってきた。

 

「どうだった?」

「間違いない。あれは竜の仕業だ。ほんの僅かに、魔力の残滓が残っていた。まだこの付近にいる可能性が高い」

「そうか。ならちゃっちゃと回収しちゃいますかね」

 

  調査を終わらせ、今度は司令官が指し示す下流へと向かう。川辺を伝って降りていくと、やがて共有された記憶にあった大滝が姿を現した。

 

  大瀑布といって差し支えないその大滝の滝壺を囲む大岩の一つの上で、カマキリが待っている。その鎌足は滝を指していた。

 

  そちらに意識を向けてみると、滝の奥にある空洞に気配が一つあった。ハジメに目配せすれば、あちらも気配感知に引っかかったようだ。

 

「ユエ、頼む」

「ん。〝波城〟、〝風壁〟」

 

  ユエが魔法を使用し、滝をモーセのごとく真ん中で割る。それを固定しているうちに全員滝の奥へと入った。

 

  それなりに広い空洞は上から水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。

 

  薄暗い空洞を見渡すと、奥の方に人が横倒れになっているのが見える。近寄って顔を見てみると、それが若い青年であるとわかった。

 

  それなりに整った顔立ちの青年はまるで胎児のように丸まって寝ており、顔は青ざめている。どうやらギリギリ生きているようだ。

 

「ハジメ、あの似顔絵は?」

「持ってきてる」

 

  ハジメに手渡された似顔絵と、青年の顔を見比べる。すると寸分の違いなく同じだった。こいつがウィル・クデタで間違いなさそうだな。

 

  ハジメに似顔絵を返し、やや強めにペチペチと青年の頬を叩く。が、呻いてなかなか起きないので結構強めにビンタした。

 

『最初からそうしろよ』

 

 いやほら、一応ね? 最初はソフトにね?

 

  スパーンと小気味良い音を立てて青年の頬を張り飛ばすと、ようやく涙目で飛び起きた。そして自分が大人数の人間に囲まれていることに目を白黒させる。

 

「乱暴な起こし方してソーリーソーリーヒゲソーリー、俺たちは救助の冒険者だ。あんたはウィル・クデタであってる?」

「……………」

「あっるぇー無視?おーい、クデタ家三男のウィル・クデタさんだよなー?」

「えっと、ママから知らない人に話しかけられても返事しちゃいけませんって言われてるので……」

「まさかのマザコンかい」

 

  異世界にもマザコンいるんだと思ってると、ツカツカと歩み寄ってきたハジメがおもむろに義手の方でウィル・クデタにデコピンした。

 

  バチコンッ!と良い音を立ててウィル・クデタの頭が後ろに吹っ飛び、その隙にハジメは襟首を掴むと強制的にウィル・クデタの視線を自分に向ける。

 

「おい、聞いてんだから返事しろ。二度とママに会えなくするぞコラ」

「きゃーハジメさんかっくいー」

「黙っとれ。で、あんたがウィル・クデタ

 でいいんだな?二秒以内に返事しなきゃもう一回デコピン食らわす」

 

  スッと指を構えるハジメに、ウィル君はブンブンと首を縦に振った。よし、とハジメが手を離した。ここまでの流れ、完全にヤクザである。

 

  ハジメと入れ替わり、各人の紹介をすると改めてフューレンのギルド支部長イルワさんの依頼で探しにきたと告げる。すると露骨に目を輝かせた。

 

「そうか、あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、ありがとうございます。あの人から直接依頼を受けるなんて、あなたがたは凄腕なんですね」

「おう、しっかり街に送り届けるから安心していいぜ。で、何があったんだ?」

「それが……」

 

 そしてウィル君は、これまでのことをおもむろに話し始めた。

 

 

 ●◯●

 

 

  それからのウィル君の話を要約すると、こうだ。

 

  ウィル及び冒険者一行は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。

 

  あまりの数にウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに更に数が増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。

 

  そこでブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。

 

「それから追い立てられながら大きな川に出たところで、前方にアレが現れたんです」

「アレって?」

「二匹の、黒い竜でした。最初に来た一匹は黒い竜で、後から来たのは……」

 

  そこまで言って、ガクガクとバイブレーションになるウィル君。後から来た方の竜を思い出してるのか、今にも発狂しそうな顔だ。

 

  とりあえずその竜のことは聞かないことにして、精神沈静化の魔法を使って先を促す。ウィル君は深く息を吐いた後、話を続けた。

 

  それから竜らはウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。

 

  川の本流に流されながら見た限りでは、ブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜らに挟撃されていたという。

 

 ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

『なーんか、誰かさんの境遇に似ている気がするねぇ』

 

  エボルトの言葉にチラッとハジメを見れば、本人も少し思ったのだろう。溜息を吐きながら肩をすくめた。

 

  ウィル君に視線を戻すと、話しているうちに感情が高ぶってきたのだろう、すすり泣きを始めてしまった。思い出したら耐えられなくなったんだろう。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

「そうだなぁ、ウィル君のせいだなぁ」

 

  ウィル君の言葉を肯定すれば、ウィル君は少し目を見開いた後、他者から肯定されたことでよりそのことを認識したのか、顔を歪めた。

 

「見てないから知らないが、おそらくあんたは役立たずだったんだろう。あんたを守ることにも思考を割いて、冒険者たちはブルタールに全力を注げなかったんだろう」

「ちょっとシュウジさん、そんな言い方……」

「でもな、それで自分の生を否定するのは違う」

 

  はっきりと、そして大きな声でそれを告げる。口を出しかけていたシアさんは言葉を止め、隣にいるハジメがスッと目を細めた。

 

  俺は一度咳払いをすると、〝回帰〟を使って〝私〟になる。そしてウィル・クデタの目をまっすぐ見つめた。

 

「確かに君は弱い。それでいて惨めです。自分の命すら守れない、ただの弱者だ。しかし、だからと言って死んでいい理由にはならない」

「で、でもっ!あんな親切にしてくれたみんなが死んで、それなのに私は!」

「自分の生を喜んで何が悪いのです?それは人として当たり前の感情。それを否定することは、あなたを守ろうとした人間たちへの冒涜に他ならない」

 

  ヒュッ、と口をつぐむ少年。私は淡々と言葉を続ける。

 

「今あなたがすべきことは、過去を後悔することではありません。過去はすでに過ぎた時間、消えもしなければやり直しもできない。それはもう確定した事実でしかないのですから」

「でも、だったら僕は、どうすれば……」

 

  迷う少年。仕方のないことだ、人は過去を振り返る生き物なのだから。現在、そして未来を守るため悪を殺し続けた私ですら、過去に囚われている。

 

  いや、違う。この私こそが過去そのものなのだ。すでにいるはずのない、仮初めの力で蘇った過去の存在。それが私という存在。

 

  過去は戻らない。いくら見つめても変わることはない。けれど、過去を見たその先に、未来を見ることはできる。

 

「明日を見なさい。力を持たぬ、命を失う重さを知った少年よ。今日この日、あなたが生きている意味を考え、次に進むのです。たった一人生き残ったあなたができることは何ですか?」

「生きている、意味。私が、できること……」

「それは、生き続けることです。過去から後悔を知り、その後悔を背負って歩きなさい。それがどれだけ辛くても、あなたには彼らの分まで生きる、義務があるのですから」

「生き続ける、義務……」

「そうです。必死に歩き続けて、いつか強くなって、そして死した時。彼らに言うのです。自分は、精一杯生きたと」

 

  私の言葉をかみ締めるような表情で、自分の胸に手を置き考える少年。やがて、強い意志を宿した目で私を見る。

 

「……わかりました。私は、生きます。生きて、絶対に強くなって、いつか彼らと向き合えるような男になってみせます!」

「そう、それでいい。頑張りなさい、未来ある命よ」

 

  そこで、〝回帰〟の効果が切れた。〝私〟は消えて、〝俺〟が戻ってくる。そうすると顔を上げ、ニッと微笑んだ。

 

「ま、そういうわけだ。お前が進む明日のためにも、こっから帰ろうぜ?」

「はい!」

 

  手を差し出し、ウィル君を立たせる。そして振り返れば、ハジメたちがなんともいえない、微笑ましいような目で俺を見ていた。

 

「ちょ、なんだいその目は。俺、結構いいこと言ったはずだけど?」

「いや、別になんでもねえさ。ただ……」

「ん。シュウジの明日には、私たちがいる。ずっと一緒に、どこまでも」

 

  その言葉に、俺は瞠目した。いつしか最愛の少女に言われた言葉と酷似したその言葉は、俺の胸に大きな杭のように突き刺さる。

 

「あなたは、私たちの大切な家族。家族は、一緒に歩くものだから」

「ウサギ……」

「まあ色々ありましたし、言いたいこともあるけど……シュウジさんは大切な人です。絶対一人にしないです!」

「シアさん……」

「ああ、そうだ。あなたの行く末にどこまでも寄り添おう。それが一度はあなたに置いていかれた私にできることだ」

「ずっといっしょー!」

「ルイネ、リベル……」

 

  皆、温かい言葉を向けてくれる。それがなんだかこそばゆくて、頬をかきながら視線を外すと、ちょうど微笑むマリスが映った。

 

「皆、あなたが前を見る時必ずそこで待っています。過去も今も共に背負って、支えます。それが家族ですから」

「マリス……」

「だから………もう一人にならないでね、お父さん」

 

  そのマリスの言葉に、俺の中のどこかが壊れた音がした。皆を家族だと思い始めた後もずっと心のどこかにあった、一人強くあらねばという、何かが。

 

『こいつらの言う通りさ。お前が嫌っていうその日まで、一緒にいてやるさ』

 

 ……そりゃ、ずっと来なさそうだな。

 

『だったら永遠に一緒だな』

 

 そう、だな。

 

「……まあなんつーか、サンキューみんな。俺なんかにそんなこと言ってくれて」

「当たり前だな」

「んっ!」

「うんうん」

「ですぅ!」

「ああ」

「ええ」

「うん!」

 

  笑顔で頷くハジメたちになんだか無性に恥ずかしくなり、俺は生暖かい目をしているウィル君を急かして外に向かった。

 

  そしてユエの魔法で再度滝をモーセして(動詞)外に出ると……そこで、それまであった温かい雰囲気が一気に冷めた。

 

 なぜなら……

 

 

 

「グルルルル……」

 

 

 

  そこには黄金の目で俺たちを睥睨する……漆黒の竜がいたのだから。




次回、ついにあいつが登場!そしてもう一匹のドラゴンとは……(新タグ見ながら)
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