ハジメ「うす、ハジメだ。俺から始まるのは初めてか?まあいいや。前回はシュウジがアクノロギアと戦ったんだったな。最強の竜の割に案外あっさり倒されてた気がするが」
シュウジ「いやほら、それは俺の華麗な手腕がモノを言ったのさ」ドヤッ
エボルト「そのドヤ顔は心底ムカつくが、お前戦闘能力だけは誰もが認めるものだもんな……」
シュウジ「オウコラこのスライムエイリアン、〝は〟ってなんだ〝は〟って」
ウサギ「ん。それに作者の頭の中では、アクノロギアとフィーラーの強さは互角らしいよ。だからシュウジが強すぎただけっていうのはほんと」
ハジメ「解説ありがとなーウサギ」
ウサギ「えへへ」
シア「むぅ〜羨ましいですぅ。今回は私たちの戦いですぅ。それじゃあせーの……」
五人「「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」」
時間はシュウジがアクノロギアを倒しに行った時まで戻る。
「さて、こっちも気合い入れるか」
背後にいたシュウジが瞬間移動を使い、気配が遠ざかっていくのを感じた俺は、こちらを睥睨する黒竜を真っ直ぐ睨み返す。
アクノロギアとやらに若干萎縮していた黒竜は、最大の脅威がいなくなったことで元の風格を纏い、俺……というより後ろの茂みにいるウィルを睨んだ。
どうやら、洗脳されているというのは本当らしい。これほどの殺気を向けているというのに全くの無反応なのは、生物として不自然すぎる。
この様子だと、こいつはウィルだけを狙うだろう。ルイネと先生が守ってるからそっちの心配はないが、他の心配はある。
「殺さず洗脳を解く、か……ったく、シュウジの野郎。難しいことを注文しやがって」
盲目的にウィルに濃密な殺意を向ける黒竜に、思わず愚痴をこぼす。このレベルの相手に殺さないように戦うってのは相当面倒くさい。
ただ殺すだけならいい。全力を以って殲滅すればいいのだから。だが命を奪うことなく正気に戻すというのは、絶妙な力加減が必要になる。
だが、ルイネの話じゃこの黒竜はこの種の王族らしいし、殺して一族全てにでも襲いかかられた日にゃ、面倒なことこの上ない。それよりかはマシだろう。
それに……あいつに何かを任せられるっていうのは、悪い気はしない。
「ユエたちは……所定の位置についたな」
〝気配感知〟で三人がそれぞれ配置についたことを確認すると、ドンナーをホルスターから抜いて黒竜に全力の〝威圧〟をかける。
これだけすれば流石に無視できなかったのだろう、黒竜の目線が後ろの茂みから俺に移った。これ幸いと、俺は不敵な笑みを黒竜に向ける。
それを見て敵と認識したか、黒竜はおもむろに口を開けるとあの黒いブレスを吐いてきた。しかしそれは、すでに一度見た攻撃だ。
左腕を突き出し、義手に魔力を送る。すると内蔵されたギミックが発動し、手首のパーツが展開すると手のひらから光の障壁が出現した。
ガァンッ!
光の盾……ユエの協力を得て〝聖絶〟を10枚分凝縮・固定したアーティファクト〝リヒト〟は、黒竜のブレスを悠々と受け止める。
「どうした、そんなものか?」
挑発するようにいえば、黒竜はブレスの威力を一段階上げた。それすらもリヒトは防ぐ。さすがは自慢の一品だ。
ちなみに俺とシュウジのアーティファクトだが、俺たちは本当に必要なもの以外……例えば回復系など以外は、互いのアーティファクトを共有しないことにしている。
それは俺たちのいつもの競争であり、俺としてはある種の自立でもあった。いつもシュウジに助けられてばかりだった、俺からの自立だ。
おそらくシュウジは、頼めばいくらでもアーティファクトを作ってくれるだろう。あいつは身内には、訓練以外では甘い。だが、それではダメなのだ。
いつまでももらってばかりではいられない。シュウジに〝助けられる〟のではなく、シュウジと〝助け合う〟存在に、俺はなりたい。
そんなことを考えているうちに、ブレスがだんだん弱まってきた。俺はブレスが消滅するタイミングを計算し、その瞬間を待つ。
「3、2、1……今だ、ユエ!」
「ん」
十秒ほど続いたブレスが消えた瞬間、リヒトを消して指示を出す。それにカマキリの力で透明化していたユエが姿を現し、攻撃を開始した。
「〝禍天〟」
ユエが魔法の名を呟いた瞬間、黒竜の上に四メートルほどの黒い球体が出現する。それは黒竜の背中に落下し、押しつぶすように地面に縛り付けた。
グルアァアアアアァア!?
悲鳴をあげる黒竜。なんとか球体の下から脱出しようともがいているが、球体はまるで杭のように黒竜を捉えて離さない。
〝禍天〟。ユエの使う重力魔法であり、魔力消費に比例した超重力で対象を潰す強力無比なものだ。重力方向の変化にも使える。
とはいえまだユエも万全に重力魔法を使いこなしているわけではなく、発動するのに十秒の時間を必要とする。さっきのはそれの時間稼ぎだ。
ついでに言うと、重力魔法の教師は案の定安定のシュウジと、なんと驚くべきことにリベルである。
ミレディに作られたホムンクルスであるリベルは本能的に重力魔法の扱いに長けており、シュウジでさえ驚くほど扱いが上手い。
「と、そんなこと考えてる場合じゃねえな……シア!」
ユエに続けて名前を呼べば、同様にカマキリの透明化で隠れていたシアが技能を解除。黒竜に向けて戦鎚を構え跳躍する。
「トドメですぅ!」
ドォガァアアッ!!!
大上段から振り下ろされたドリュッケンは凄まじい轟音ととともに放射状に地面を砕き、まるで隕石が落下したようにクレーターを作った。
今のドリュッケンのアザンチウムには重力魔法が付与されており、魔力を注ぎ込むとその量に応じて重量を増していく。つまりメ◯トンハンマーだ。
これほどの衝撃を受ければ、どんな相手でも大ダメージは免れない。俺でも昏倒は必須だが……
グルアァア!
黒竜は、シアの一撃をギリギリのところで躱していた。インパクトの直前、あの巨体を支える膂力で首をひねったらしい。
そのまま黒竜は上を向き、〝禍天〟を維持しているユエに口を開ける。そして何かしらの攻撃を加えようとする。
「……よけるな」
しかし、その前に懐に現れたウサギの拳によって下顎をかち上げられた。強制的に閉口させられ、血を吐く黒竜。
黒竜の動きが止まった隙にシアとウサギが後退し、ユエも魔法を中断して俺のそばに戻ってきた。シアは悔しそうな顔であり、ドリュッケンを強く握り占めている。
「うう、外しちゃいました……」
「気にすんな、あいつのパワーが予想より上だっただけだ」
「……それに、けっこーかたいよ」
ウサギの言葉にその手を見れば、殴った拳の皮がめくれ、僅かに出血していた。ウサギが怪我をするのを見たのは初めてだ。
ウサギが小さく声を上げて力むと、パーカーの随所に走ったラインが淡く緑色に光る。するとほんの一瞬で傷が治癒された。
「うん、これで平気」
「そうか……で、ユエ。残りの魔力は?」
「ん、あと6割。まだコントロールが完璧じゃないのもあるけど、思ったより抵抗が強かった」
「ふむ……」
三人の報告を聞いて、頭の中で手早く作戦をまとめていく。ウサギが怪我をするほどの堅牢さなら、生半可な攻撃では通用しないな。
シアの攻撃も一度躱された以上、真正面からはもう当たらないだろう。ユエの重力魔法は動きを止める程度にしかならないし、いや待て、確か竜の弱点は……
ガァァアアアア!
ちょうど打開策を思いついた瞬間、軽く昏倒していた黒竜が起き上がって咆哮した。どうやらここまでらしい。
三人に〝念話〟で作戦を伝えると、散開して黒竜と再び戦い始める。黒竜は俺……ではなく、また茂みのウィルめがけて火球を吐き出した。
火球をドンナーで相殺すると、シュラークを三度発砲する。赤い雷とともに飛翔した弾丸は黒竜のみぞおちと翼の付け根を捉えた。
怯みと怒りの入り混じった唸り声を上げる黒竜は俺の銃撃を無視し、立て続けに火球を茂みに吐く。徹底的にウィルの抹殺が目的らしい。
「それなら、こいつはどうだ?」
《ゴリラ!ハリネズミ!》
スピンして空中リロードしたドンナー&シュラークゴリラフルボトルとハリネズミフルボトルを装填し、黒竜に向けて全弾撃つ。
まずシュラークの棘型のエネルギーを纏った弾丸が黒竜の腹に突き刺さり、同じ軌道で飛んでいったドンナーの茶色の拳型のエネルギーで覆われた弾丸がぶつかった。
それによって鱗を大きくひび割れさせたエネルギーに動きを止め、苦悶の声を上げる黒竜の尻尾を、背後に回り込んだウサギがむんずと掴む。
「……えい」
グオォオッ!?
そして、そのまま
10回転くらいしたところで、ウサギは滝に黒竜を叩きつける。黒竜は周囲の岩壁ごと粉砕しながら、水のカーテンの中に沈んだ。
「〝水獄〟」
そこに、さらにユエが追い打ちをかける。滝の水がまるで大蛇のようにうねりだし、黒竜の全身に絡みつくと動きを封じたのだ。
抜け出そうともがく黒竜だが、さっきのウサギのジャイアントスイングで脳か、あるいは三半規管が揺れたのか、動きが非常に緩慢だ。
その姿は無防備に等しい。大きな一撃を入れるなら、今だろう。だから俺はそいつに声を張り上げる。
「シア、もう一発かませ!」
「リベンジですぅ!」
黒竜の意識が乱れるのを待っていたシアが、隠れていた岩陰から跳躍。俺はドンナーからゴリラフルボトルを抜き、シアに向けて投げる。
シアはしっかりとそれをキャッチし、ドリュッケンに増設されたスロットに入れた。すると、ドリュッケンのパーツの隙間から光が漏れ出る。
《ボトルセット!オォバアチャアージッ!》
「ぶちこむですぅ!」
ドガンッ!!!
甲高い音を立ててパーツが回転するドリュッケンが、鈍い音を立てて黒竜の脳天に叩き込まれた。その衝撃は地面まで突き抜け、滝壺の水が全て空中に舞い上がる。
これはさしもの黒竜も効いたのか、朦朧とした様子でよろけた。それでも両足を踏ん張って立っているあたり、さすがはファンタジーの代名詞と言うべきか。
「……ダメ押し、いく」
打撃系の技が出るフルボトルを出そうとしていると、ウサギがゆらゆらと揺れる黒竜に飛び上がった。
大きく後ろに引いた右腕が、ザワザワと音を立てて変化していく。まるでウサギの心のように純白な毛に包まれ、指の先端に爪が生えた。
「……25%、ラビットスマッシュ」
ーードッゴオォオオオッ!!!!!
これまで外界の敵に対しては最大の力で、ウサギが黒竜の鳩尾に拳を叩き込む。その余波だけで後ろの滝が根こそぎ吹き飛んだ。
その打撃はシアの一撃以上の威力であり、黒竜の背中まで突き抜けて翼の皮膜を破裂させる。血を吐いて、体をくの字に折る黒竜。
ガ、ァ………
小さく声を漏らした黒竜が、ゆっくりと地面に倒れた。またしても水しぶきが上がり、着地したウサギがそれを背に立ち上がる。それはさながら一枚の絵画のようだった。
「ん、クリーンヒット」
「ウサギ、いい一撃だった」
「うん、ありがとうハジメ」
近寄ってきてふにゃりと笑うウサギの頭を撫でる。するとさらに柔らかい笑顔になるウサギ。義眼に小型カメラ仕込んどいてよかった。
ひとしきり撫でると、ウサギの頭から手をどかして黒竜の方を見る。完全に伸びており、今なら何をしても反撃はないだろう。
「さて、それじゃあそろそろ目を覚ましてーー」
ーーゾッ
黒竜に向けて一歩前に出た瞬間、これまでにないほどの悪寒を感じた。即座に緩んだ意識を引き締め、ドンナーの銃口を黒竜に向ける。
ユエたちも警戒する中、ズ……と黒竜の体から黒い何かが浮き出てきた。悪寒の発生源であるそれに目を鋭くし、何なのか確かめる。
そして、それが何なのかわかった時思わずぽかんと口を開けた。なぜならそれは、黒竜の体から出てくるはずのないものだったからだ。
「フルボトル……!?」
そう、黒竜から出てきた黒い塊の中に浮かんでいたのは、禍々しい紫色のフルボトルだった。銀色のコウモリのレリーフが浮き彫りになっている。
あまりに予想外のものに動きを止めているうちに、ボトルはひとりでにキャップが開き、再び黒竜の体に入ってしまった。
そして次の瞬間、閉じられていた黒竜の目が開かれる。そこには先ほどまでの美しい黄金の瞳はなく、不気味な紫色に染まっていた。
ふわり、と黒竜の体が浮き上がり、ボトルの入った箇所から紫色の煙に包まれていく。それは俺の体にも入っているネビュラガスによく似ていた。
程なくして、煙が消える。その時そこにいたのは……黒竜の面影を残した、全く別の魔物。蝙蝠のような尖った耳と翼を持つ竜だった。
グギェアァアァアアアァァアアッ!!!!!
大口を開けた黒竜だったものは、可視化するほどすさまじい甲高い声で咆哮した。鼓膜が破れかねない音に、思わず両耳を塞ぐ。
十秒にも渡る咆哮が終わった時、俺の後ろにいたウサギと、ユエの横にいたシアがどちらとも倒れた。即座にしゃがみこみ、ウサギを揺する。
「おい、ウサギ!しっかりしろ!」
「い、たい……みみ、が……」
苦痛に顔を歪めたウサギの耳は、まるで恐怖に震えるように激しく震えていた。蹴りウサギをベースにしたウサギには、あの音の効果は絶大だったようだ。
次いでシアを見れば、本物の兎人族でより効果が大きかったのか、ユエが揺すっても全く目を覚ます気配がない。気絶したのか?
「チッ、なんだってこんなとこにボトルが……」
そもそも、フルボトルって魔物にも使えたのかよと思いつつ黒竜を見ると、どうやら意識がはっきりしていないのか、全く動く気配がない。
これ幸いと、早急にウサギを抱き上げると茂みの中に運んだ。すると、隠れていたウィルたちが驚いたような顔をして出迎える。
「い、一体どうなさったのですか!?」
「さっきのでウサギとシアがやられた。まさかあんなのになるとは……」
「んん〜っ」
〝宝物庫〟から毛布を出して上にウサギを寝かせていると、ユエもシアとドリュッケンを引きずって茂みに入ってきた。
ユエは青白い顔をしたシアをウサギの横に転がすと、重たげにドリュッケンを手放す。そしてゼェゼェと荒い息を吐いた。
「なに、あれ……」
「俺にもわからん。シュウジたちの仕業なわけはねえし……」
「……これは、酷いな」
変化した黒竜について話し合っていると、ルイネがポツリと何事か呟いた。
そちらを見ると、耳を変形させたルイネが険しい顔をしている。不思議に思っていると、代表して先生がルイネに尋ねた。
「ルイネ、何かわかったのですか?」
「……今の彼女は、あのボトルの力に意識を支配されかけている。だが、飲み込まれる瀬戸際のところで踏ん張っているようだ。こんな悲痛な声は聞いたことがない」
同じ竜として何か感じるものがあるのか、怒りに眉をひそめるルイネ。ていうか〝彼女〟って、あのドラゴンメスだったのかよ。
「だが、朗報だ。アレのおかげと言っていいかはわからないが、あの力に飲まれて洗脳はほとんど解けた。おそらく、負けた時に最後に暴れまわるための保険として、体内に埋め込まれていたのだろう」
「なるほど……つまり単純に倒しちまえば解決ってわけだな?」
「ああ、そういうことになる」
「でも、どうするの?多分、もう普通の攻撃じゃ効かない」
ユエの言葉はもっともだった。ボトル二本を使った攻撃でも鱗を砕くだけで、内側の肉には届かなかったほどの堅牢さは厄介極まりない。
シアやユエが動きを封じて無防備な状態になって、ウサギの一撃でようやくダメージを与えられたのだ。今はもっと硬くなっていると見ていいだろう。
ボトルの力を使っている相手にはボトルでの攻撃が効果抜群だが、それにしたってもう並みのボトルじゃあ受け付けそうにない。
「……ん?並みのボトル?」
打開策を考えていると、ふとあるものが頭に浮かんできた。
〝宝物庫〟を開いて、アザンチウム製の小さな箱を取り出す。やや慎重な手つきで蓋を開けると、中には一本のフルボトル……ムーンハーゼボトルが収まっていた。
このボトルは、ウサギの力が込められた特別なボトルだ。一時的とはいえ、たった一本で変身を可能とするほどのエネルギーを秘めている。
「これなら、いけるか……?」
ギァアアアァァァアアッ!!
一筋の光明を見出していると、黒竜の狂った叫び声が聞こえた。どうやら黒竜の意識はボトルの力に負けたらしい。
舌打ちしながら立ち上がり、ユエを見る。するとユエもこちらを見ており、これから俺が言うことをすでに理解しているようだ。
「ユエ、囮を頼めるか?」
「ん、任せて」
ユエは即答した。自分の力と、そして俺への信頼のこもった赤い瞳に俺も頷き、ルイネたちにウサギらを任せると茂みから出ようとする。
「南雲くん、待ってください」
そこで先生から待ったがかかった。一体なんだと振り返ると、先生は俺の義手に手を触れさせる。そして何か黒い物体を入れた。
「おい、何して……」
「無機物に寄生する以上、数分しか生きていないでしょうが……先生からの助力です。短時間ですがパワーが上がるでしょう」
その言葉に義手に意識を向けていれば、確かにいつもより魔力の通りが良い。と言うよりも、義手自体が生きているように力に満ちている。
「畑山愛子としては、大切な生徒にあのような魔物の相手をさせるのは心苦しいですが……代わりにウィル・クデタくんのことは心配しないでください。ここで必ず守っておきます」
先生の目をじっと見る。そこには言葉通り、確かに畑山愛子としての心配の色と、シュウジの弟子のマリスとしての力強い色があった。
「……まあ、そういうことならありがたくもらっておくわ」
「はい。怪我をしないようにしてくださいね」
本当に以前の先生みたいなその言葉に、思わず苦笑してしまう。本人の言う通り、この人の中から畑山愛子が消えたわけじゃないらしい。
先生に背を向けるとユエの肩を叩き、今度こそ茂みから出る。すぐに黒竜は俺たちの存在に気がつき、底冷えするような殺意を向けてきた。
「いいかユエ、なるべく短期決戦で終わらせる。残りの魔力をギリギリまで使って気を引いてくれ」
「ん、任せて」
自信のある声音で答えたユエは、重力魔法を使って中に浮かび、黒竜に向かって魔法を打ち出し始めた。黒竜もすぐに応戦する。
ユエが魔法で気を引いているうちに、こちらも急いで用意を始めた。ボトルの使用は負担が大きい上にアレだけフルボッコにしたから、黒竜のためにも早めにケリをつけた方がいいだろう。
〝宝物庫〟を開いて取り出したのは、義手と同じ黒色のアーティファクト。それを義手の一部分に取り付けて魔力を流し込む。
すると低い駆動音を立てて、アーティファクトがガシュガシュと音を立てて展開・義手を覆っていった。それはまさしくロボットアニメのような光景。
程なくして、元の義手の三回りは大きな
問題なく魔力が通っているのを確認すると、〝豪腕〟の技能と義手の機能を起動し、ライセン大迷宮でも使った〝振動粉砕〟の準備を整える。
さらに、甲高い音を立て始めた
「くっ、〝砲皇〟!」
ギガァアァアアアァァァアアッ!
黒竜の方に視線を戻すと、ユエはなんとか魔法で黒竜を引きつけているものの、あの超音波のような咆哮で全てをかき消されている様子だった。
あれでは、飛び込んだとしてもすぐに気づかれてしまうだろう。なにか、決定的に黒竜の隙ができるような攻撃があれば……
「こ・な・く・そぉ〜!」
そう思った瞬間、茂みから何かが飛び出した。驚いて上を見上げれば、頭上を黒い影が黒竜めがけて高速で飛び出していく。
飛び出した影の正体は……なんとシアだった。黒竜の咆哮で気絶したはずの残念ウサギは、ドリュッケンを片手に黒竜に跳んでいく。
「シア!?」
「っ、シア!?」
「ハジメさん家のウサギのド根性ぉ〜〜〜っ!!」
ゴッガァアアン!!
裂帛の叫び声をあげながら、シアは呆気にとられている黒竜の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。真横にかっ飛ぶ黒竜の頭。
しかしそれが最後の力だったのか、シアは空中で気を失って地面に落ちていく。俺より先にユエがハッと我に返り、慌ててシアを受け止めた。
「ハジメ、今っ!」
「っ!」
ユエの声に我に返った俺は、魔力の半分を注ぎ込んでエニグマの第二の機能を起動させる。すると、尻の部分のブースターから赤い魔力が炎のように吹き出した。
ロケットのごとく前へと爆進するエニグマに体を任せ、さらに〝瞬光〟と〝迅撃〟を発動してスピードアップ。音速を超えたスピードで、黒竜の懐に飛び込む。
ッ!?
直前で黒竜が俺の存在に気がついたが、もう後の祭りだ。魔力推進にムーンハーゼボトル、そしていくつもの技能を重ねがけした一撃を、黒竜の腹に叩き込む!
「セアァァァアァアッ!!!」
ガアァアアアァアアアァァァアアァァアアアアッッッ!?!!?
ズンッ!と重い音を立てて、握ったエニグマの拳が黒竜の腹にめり込む。鱗をことごとく粉砕し、筋肉を貫いて黒竜の内臓にまでダメージを与える感触が腕に伝わる。
エニグマの勢いはそこで止まることなく、込めた魔力を全て全開にしてさらに前へと進んだ。俺は大きく足を前に出してエニグマについていく。
結局、エニグマは黒竜を滝ごと岩壁に叩きつけるまで止まることはなかった。美しかった滝はものの見事に完全に粉砕され、岩や木が周囲に降り注ぐ。
「ハァ、ハァ、どうだ……!」
グ、ゴガァ………
大幅に魔力を削り、荒い息を吐きながら黒竜を見上げると、ちょうど赤黒い血とともに黒い塊……謎のフルボトルを吐き出すところだった。
そのまま池に落ちるかと思われたフルボトルだったが、虚空で静止するとしばらくその場にとどまり、やがて黒いオーラごとどこかへと飛んでいった。
「一体なんだったんだ……」
……グラリ
わけのわからないボトルに悪態をついていると、黒竜の体がこちらに倒れこんできた。思わず「うおっ!?」と声を上げて退避する。
ズシン、と重々しい音を立てて、黒竜が再び地に伏した。まだ構えは解かずに警戒して睨みつけるが、数秒経っても起き上がる様子はない。
「……今度こそ倒した、か」
「ハジメ」
安堵のため息を吐きながらエニグマを地面に下ろしていると、シアを抱えたユエが降りてくる。
辛くも勝利したことにユエとハイタッチしながら、今回のMVPとも言えるシアを見る。シアは精根尽き果てた様子で、スヤスヤと眠っていた。
「……起きたら褒めてやるか」
「……ハジメ、最近ちょっとシアにデレてきた」
「ばっか、別にそんなんじゃねえって」
「わかってる、ハジメはツンデレだから、ね?」
大丈夫、私はわかってるからというまるで母親のような顔で微笑むユエにそっぽを向きながら、俺はぽりぽりと頬をかく。
そんな空気もそこそこに、とんでもない熱を放出するエニグマを〝宝物庫〟に戻すと、沈黙している黒竜へと歩み寄っていった。
黒竜は、今度こそ完全にノックダウンされたようで一向に眼を覚ます気配がない。いつのまにか姿形も元に戻っており、さっきまでのが幻のようだ。
その全身は俺たちがつけた傷だらけであり、傷に関してはさっきまでの状態も引き継いでいるようで、鱗はボロボロ。それでも完全に砕けてないあたり、本当に驚きだ。
「さて、それじゃあ起こすか」
そんな黒竜を前に、俺はサラッとそう言った。この場にシュウジがいたら「さすが鬼畜主人公、どんな時でもブレないっ!」とか言われそうだ。
黒竜の背後に回ると、〝宝物庫〟からパイルバンカー用の大杭を取り出す。ミレディゴーレムを倒すときにも使った、重さ4トンのタウル鉱石の塊だ。
その矛先を、黒竜の尻の穴に向けた。それで俺がやろうとしていることを察したのだろう、後ろにいるユエが若干引いた気がした。
この世界の商人の間では、〝竜の尻を蹴る〟ということわざがある。これは地球で言うところの〝虎の尻尾を踏む〟の意だ。
これまでの戦闘で見ての通り、この世界の竜というのは非常に硬い。そのため一度眠ると、どんな攻撃を受けても起きないと言われている。
だが、そんな竜にも一つ、弱点があった。それは鱗の生えていない、尻の部分だ。そこを蹴られると竜は怒り狂って飛び起きるという。
さて。ここまで言えば、誰が聞いてもわかるだろう。俺がこれから、何をしようとしているのか。
「さっさと目ぇ覚ましやがれ……この駄竜!」
そして、俺の大杭が竜の〝ピッーー〟に突き刺さったその瞬間。
〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟
頭の中に、女の悲鳴が木霊した。
さてさて、この章もいよいよ終盤に差し掛かってきました。
ところで皆さんに折り入ってお願いがあるのですが、これまでの話の中でイラストを見たいな、という話はありましたでしょうか。デジタル絵の技術向上のため、もし印象に残った話があったら描きたいと思っています。
そんなん知るかボケ、テメエの作品なんざどうでもいいわと思っているかもしれませんが、どうかご意見よろしくお願いします。
お気に入りと感想をお願いします。