エボルト「よお、エボルトだ。前回はついに防衛線が始まったぜ」
ハジメ「防衛戦っていうより殲滅戦だけどな……面倒だが、やるしかねえか」
マリス「うんうん、その面倒臭くてもやる、という気持ちが大事なんですよ、南雲君」
ハジメ「……そうかい先生」
シュウジ「おー、あのハジメがちゃんと言うこと聞いてる。明日は人理焼却だな」
エボルト「おい作者、FGOやりすぎてこっちのネタまで侵食してんぞ」
作者:すんません(プラカード
エボルト「まあいいか……どうせ後でその要素入るし。さて、今回は殲滅戦の様子を描いてるぜ。それじゃあせーの…」
四人「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編!」」」」
ふた振り目で、さらに一千以上の魔物が絶命した。十メートルにもなる大鎌からは、ポタポタと鮮血が滴り落ちている。
それを後ろから見ていたハジメたちは、シュウジの規格外さを常日頃から知っているとはいえ、初めて見た新たな力の強力さに少し瞠目した。
ティオやハクとソウの兄妹も、流石にこれは予想外だったのか唖然としている。だが、一番驚いているのは魔物たちと……それを操る男だろう。
「さア──ー食事を始メよウカ」
静かに、されど戦場全体に響き渡るような声で呟いたシュウジの背中が、完全に赤黒い物体に覆い尽くされる。
全身を覆う不定形な物体は少しずつ形を成していき、やがて彫像のように美しい、血の如く真紅の肌に黒い血管が浮き出た肉体を作り上げる。
ボコッ!!!
シュウジの変化に全員がたじろぐ中、言いようのない不気味さを醸し出すその背中が突如変形して無数の刃と化し、射出されると手当たり次第に魔物の頭を貫いた。
知覚する暇すらなかった魔物は、体から無数の赤い針が鮮血とともに飛び出てようやく、自分が絶命したことを悟る。
「「──ーオれハ、カーネイジ。鮮血啜り、命奪イし大虐殺の徒」」
シュウジ──否、魂に住み着く殺意の化け物を纏った
ここで中二病全開の言い回しに普段のハジメなら吹き出すのだが、あまりにもその雰囲気が異様すぎて、いつもの余裕がいくらか失われていた。
「「サあお前ラ──オれにもット血を見せロ」」
ハジメたちからは見えないが、つり上がった白い目と黒い牙の並ぶ口をさらにつり上げ、カーネイジは雄叫びをあげて魔物の群れに飛びかかる。
絶大な殺意を向けられ、ようやく魔物たちの防衛本能が働くが……その時にはすでに遅い。カーネイジの全身から飛び出たナイフによって、微塵切りにされているのだから。
バラバラになった仲間を振り返り、怯えた目を向ける魔物たち。そして恐怖を感じた魔物を優先して、カーネイジは一瞬でその命を刈り取っていった。
全身から伸ばすナイフを鞭のごとく使い、ほんの数秒で200体以上の魔物を惨殺する。毎秒ごとに、血の海が領域を広げていった。
それはまるで、侵攻するように。否、これはまさに侵攻、そして侵食である。純粋なる殺意という一つの暴力による、理不尽なまでの蹂躙。
「「モっトだ!モッとオレに血を見セろッ!傷口かラ噴き出ル鮮血ヲ!!恐怖が作リ出ス冷血を!屍かラ溢れル腐血を!!!おレの全身を、その血デ染メ上げロッッッ!!!!!!!」」
興奮、歓喜、狂気、そして殺意。その全てが混じり合った不可解な咆哮をあげながら、カーネイジが命を食い散らかす。
それに追随するように、ずっと待っていたフィーラーがずるいと言わんばかりに地中から現れ、一度に魔物を数百以上も飲み込んだ。
「……こりゃまた、とんでもないもん隠してやがったな」
「……ん。ほんと、いつでも規格外」
「なんですかあの凶悪フェイス、悪魔か何かですか!?」
「……かっこいい」
「ゲコッ」
目に移った側から、変形させたナイフで貫いて殺す、肥大化した手で三枚におろして殺す、両手で持って真っ二つに引きちぎって殺す、酷い時は頭を食い千切って殺す。
そんなカーネイジを、ドン引き半分呆れ半分で見るハジメら。若干一名、いつもは無表情な顔をキラキラと輝かせている兎がいたが。
対して、最初の一撃ですら度肝を抜かれたティオは、もう開いた口が塞がらないといった様子だった。
「……相変わらず強力だな、マスターのは」
「前世では一度も勝てませんでした。いえ、そもそもスペックが違いすぎるのですけど」
「グルオォオオオッ!!!」
ルイネとマリスが会話を交わしていると、カーネイジから逃げてきた魔物が何を勘違いしたのか、雄叫びをあげて飛びかかってくる。
女なら殺せると思っているのだろう魔物に、マリスが深い溜息を吐きながら一歩前に出た。そしてヴェノムを腕にまとい、一撃で魔物を粉砕する。
「まったく……これだから低俗な獣は」
『私タチモ行クゾ。食イ扶持ヲ全部掻ッ攫ワレル』
「ええ、わかってますよ」
マリスが答えるのとともに、まるでカーネイジと同じようにその体を〝黒〟が覆い隠していく。
マリスを取り込んだ〝黒〟はみるみるうちに巨大化し、瞬く間に二メートルを超えた。そして筋肉質な体を形成し、最後にいつもと同じ顔を作り上げる。
『「……俺たちは、ヴェノム。さあ、暴れようか」』
名乗りを上げたヴェノムは、その巨体に似合わないスピードで魔物の群れに突っ込んでいき、凄まじい破壊力で暴れ始めた。
牙を剥いて襲いかかってきた魔物の頭を握りつぶし、その死骸を棍棒のように振り回して他の魔物を吹き飛ばす。宙に浮いた魔物を、肩から飛び出た口が丸呑みにした。
死骸がボロボロになって使えなくなれば投げ捨て、群がってくる魔物を千切っては投げ、千切っては投げ。恐怖に這いつくばった魔物を踏み潰して前進する。
腕を伸縮させて一度に十数匹の魔物を打ち殺し、立ち止まる魔物を中のマリスが魔法を行使して地面ごとひっくり返した。見事なコンビネーションである。
それでもなお左右から飛びかかってきた魔物の頭を鷲掴みにし、ぶつけ合って卵のように割る。そして顔に付着した脳漿を舐め、高笑いを上げた。
「ははっ、こりゃ聞いてた以上の凄さやなぁ」
「早よせんと、データを集める機会がなくなってしまうで。兄様、いこうや」
「おう、そうしよか」
次に前に進み出たのは、軍服兄妹だった。
二人はそれぞれ片腕のホルダーに手を伸ばし、ハクは白の歯車のついたボトルを、ソウは青の歯車のついたボトルを取り外す。
黄金に輝くそれを手に取ったハクは、どこからともなく
《ギアエンジン!》
ネビュラスチームガンから音が発せられ、まるでエンジンを蒸すような音が鳴り響く。ハクは銃口を上に向け、引き金を引いた。
《ファンキー!》
「ほい、ソウ」
「ほいきた、兄様」
ギアエンジンを抜いたハクがソウにネビュラスチームガンを渡し、今度はソウが〝ギアリモコン〟をスロットに入れる。
《ギアリモコン!》
再び音がなり、無機質な電子音がエンジン音に重なる。ソウはニヤリと笑い、銃口を前に向けると引き金を引いた。
《ファンキー!》
先ほどと同じ音声とともに、ハクが引き金を引いて上空に出現させた靄と同じように前面に靄が発生する。その中で二人は、同時にある言葉を呟いた。
「「〝潤動〟」」
その言葉を認識したネビュラスチームガンが、靄に命令を送り鎧を形成する。靄が二人の体に凝縮していき、火花とともに弾けた。
《Remote Control Gear》
《Engine Running Gear》
靄が弾けた時、そこにいたのは二つの兵器。それぞれ右半身に白の、左半身に水色の歯車のような装甲を纏った、かつて星狩りに滅ぼされしもの。
『っしゃあ〜、いくでソウ』
『任しとき、兄様』
それぞれネビュラスチームガンとスチームブレードを構えた二人……エンジンブロス・リモコンブロスは、カーネイジたちを追いかけて魔物の群れに突撃した。
「……はっ!?い、色々見すぎて意識が飛んでたのじゃ!?」
的確な銃撃と最低限の斬撃で魔物を処理していく
それはハジメたちも同じ気持ちであった。特に〝ギアエンジン〟という単語に聞き覚えのあるハジメは、ジトッとした目で暴れ回るカーネイジを見る。
「……あいつ、裏でどんだけの数のことやってんだ?」
「ま、今気にしても仕方ねえだろ?」
「エボルト!?」
いつの間にやら隣にいて肩を叩くエボルトに、ハジメが驚いて振り返る。それにすでにエボルドライバーを巻いたエボルトは怪しげに笑った。
「お前、どうしてここに?」
「カーネイジになった時に弾き出されてな……さ、早くしないと出遅れるぜ。こんだけの〝敵〟を前に、お前は見てるだけか?」
エボルトの安い挑発に、ハジメは少し苦笑した後、魔物たちに向き直って獰猛に笑んだ。
「まさか。ユエ、シア、ウサギ。いくぞ」
「んっ!」
「れっつごー」
「シュウジさんたちだけにいいかっこさせないですぅ!」
「ハッ、それでこそだ。さあ……それじゃあ俺もいくかね」
《ARE YOU READY ?》
銃器を構えるハジメたちとは対照的に、エボルトがシュウジのものを色を反転させたコートの裾を翻して歩いていく。
「変身」
《ブラックホール! ブラックホール!! ブラックホール!!! RE VO LU TI ON!》
《フッハハハハハハハ……》
黒いキューブが凝縮・四散し、エボルトはブラックホールフォームへと変身を果たした。交差していた手を下ろすと、おもむろに手をかざす。
ドッガァァアアアアアン!!!!!
その瞬間、魔物の一部が地面ごと盛大に爆発した。魔物たちは断末魔の叫び声すらあげることもできず、消し炭となって土に還る。
その後に続いていた魔物たちは立ち往生し、そこにシアが担ぐ〝オルカン〟から発射された小型ミサイルが降り注いで一切合切灰燼に帰した。
全身が吹き飛ぶか、あるいは内臓を著しく損傷して地面の上でのたうちまわる魔物に、ハジメの〝メツェライ〟から毎分一万二千発の弾丸の雨が降り注ぐ。
ギ、ギャァォオォオォオオオオ!?
たった数分で一千以上の仲間が死んだことに、リーダー各と違って洗脳されていない魔物たちは踵を返し、慌てて逃げようとした。
「〝
だが、そうは問屋が卸さない。ルイネがその言葉とともに、全ての糸を強く引いた。次の瞬間、糸の先につながった罠が、逃げる臆病者たちに牙を剥く。
スパパパパパパパッ!!!!!!!
周囲の木や地面……果ては空中に魔力で固定された糸が一気に締まり、魔物たちの頭が一斉に落ちた。その数、凡そ三千以上。
〝死糸粉陣〟。
ルイネの操糸術の奥義の一つであり、かつて己の家族と国を脅かそうとした大国を七日七晩の準備の末、大地ごと細切れにした死の結界である。
しかし、魔物たちもやられっぱなしではない。首のなくなった無数の亡骸を踏み潰し、二千以上のトリケラトプスのような魔物がウルの街に向けて突進する。
「ハッ!」
「……えいやっ」
しかし、それをティオがかざした手から照射された黒い極光と、両腕に純白の〝エニグマ〟を装備したウサギのスマッシュが粉砕した。
ウサギは50%まで力を解放しており、さらにそのパワーをシュウジが特殊な加工を施し、100回分までの魔力を充填したエニグマで増幅されている。
それはまさしく、圧倒的な破壊。その上毎秒ごとに治癒魔法が発動しているので、ウサギの被害はほとんどゼロだ。破壊の権化としか言えまい。
そのため、クラルス族一の強者とは言え、あくまでこの世界の常識に収まる強さであるティオはとにかくエニグマを振り回すウサギのサポートに徹していた。
魔力がなくなれば指輪にキスして回復し、絶えず魔法を打ち続ける。なお、内心ではあのエニグマで殴られたらどうなるだろうと興奮してたりする()
「〝我が手に紅蓮を、我が前に煉獄を。この炎遍く焼き尽くす理なれば、意に従えし我こそはその化身なりて。さあ、さあ、踊れ、狂え、そして絶えよ。それこそが汝の定めである〟──〝
その二人を蹂躙しようとする二人を守るのは、ユエの魔法。シュウジから教わった別世界の最上級魔法を行使し、炎の柱で魔物を消し炭にする。
さらに立て続けに、炎系魔法と風系魔法の複合魔法〝嵐焔風塵〟を発動し、炎柱に及び腰になっている魔物を炎の竜巻で強制的に獄炎の中へと招待した。
「「グルァアアァアアアアアァア!!!」」
一方、あいも変わらず大群の中心で暴れているカーネイジは、ゴリラ型の魔物を左右に引き裂いてその血を浴び、狂おしいほどの喜びに満ちた咆哮をあげていた。
それに一歩下がった同型の魔物にぐるりと振り返り、片腕を禍々しい槍の形にすると、そこに呪いをかけて撃ち出す。
擬似的な呪槍は一匹にとどまらず、その後ろにいた魔物を百メートル先まで貫いた。さらに槍を左右に開き、途中で刃に変形させて魔物を切り裂く。
「「モッとだ!もッとモッとモット、俺ニ血ヲ寄越セ!」」
縮小して戻した腕を長い舌で舐めたカーネイジは、両手を地面に叩きつけると高速で自分を侵食させていき、下から魔物を貫いた。
あのシュウジが五つの並列思考のうち、三つを使って制御してなお手綱を握るのが精一杯な怪物は、次から次へと悍ましいオブジェを作り上げていく。
『「ガァアアアァア!!!」』
カーネイジが真紅の剣山を築き上げているすぐそばで、ヴェノムたちもまた暴れていた。
眼に映るものすべてをひっ掴み、頭を食いちぎっていく。逆らう者は先に四肢を潰し、首を締めながらゆっくりと鼻先から食っていた。
今も蛇型の魔物を引き裂くヴェノムの背後から、キツツキを禍々しくしたような魔物が高速で接近し、その鋭い嘴で貫かんとする。
『フンッ!』
しかし、魔物がヴェノムに到達する前に瞬間移動で現れたエボルが尻尾を鷲掴みにし、地面に叩きつけて破裂させた。絶命する魔物。
『「……余計なことをするな。食い物が減る」』
『こんな極悪フェイスの魔物まで食おうとするとは、悪食だねぇ』
三日月のような目を細めるヴェノムに、エボルトはおどけた仕草をした。ヴェノムはフン、と鼻を鳴らすと、エボルトの背後から来ていた猿型の魔物を叩き落とす。
『おっと、こいつはどう……も!』
エボルトが手をかざすと、ヴェノムの背後で破裂音が響く。
振り返ってみると、腕を振り上げていたブルタールが倒れるところだった。その体からは肉が全て無くなっており、内臓と骨が丸見えだ。
『「……礼は言わんぞ」』
『まーまー、同じ寄生してるもの同士、仲良くしようぜ?』
軽口を叩きながら、エボルトはヴェノムに背を向けた。そして両手をかざすと、衝撃波で新たな魔物の群れをまとめて吹き飛ばす。
意図を悟ったヴェノムはまた不機嫌そうに鼻を鳴らし、同じように背を翻して背中合わせになると、腕を肥大化させて狼型の魔物を破壊した。
『さあ、ド畜生ども。終末のカウントダウンを始めようか?』
『「喰われたいやつから前に出ろ!内臓を引きずり出して、首を並べてやる!」』
その言葉とともに振るわれた二人の腕は、魔物たちを木っ端微塵に粉砕した。
「も、もう無理じゃ……魔力がすっからかんになってしもうた」
場所は戻り、ウルの街の城壁前。
ユエが重力魔法の〝
それを察知したウサギは飛びかかってきた虎のような魔物を殴り殺し、脇に抱えると飛び退いてハジメの背後へと着地する。そしてティオを地面に寝かせた。
「……ハジメ、ティオがダウン」
「ん、そうか」
ウサギから報告を受けた(ウサギはその変態性はともかく、実力は確かなのでティオを名前呼びしている)ハジメが、〝遠望〟で戦況を見る。
戦闘開始からおおよそ二十分。たったそれだけの時間で、すでに五万以上の魔物を殺している。これならティオが抜けたところで、さして問題はない。
「わかった、もう十分だから休んでろ。つーかそのままずっと寝てろ」
「あ、飴と鞭を同時に……なんという快感。じゃが、寝るのは勘弁じゃ。爆睡して操られたトラウマが……」
「……冒険者を三人惨殺、俺たちに高熱ブレス」
「ご主人様それ言わんといて!」
「すまない、仕掛けていた罠が切れた」
ティオとハジメがギャグをやっているうちに、全ての罠を発動して手の空いたルイネが、積み上げていた弾倉がなくなったシアに声をかける。
「シア、この数ならば前に出てもいいだろう。奥にいる群れのリーダーたちを叩いてくれ」
「すでに逃げ腰の魔物たちをさらに混乱させるんですね、わかったですう!」
「その通りだ」
元気よく答えたシアはハジメにオルカンを返却すると、背中からドリュッケンを引き抜いた。
「私が魔法で動きを止めるから、上から奇襲しろ。ウサギがシアを運んでくれ」
「わかった」
「あ、あの、ウサギさん、お手柔らかにお願いしますね?」
やや不安げにいうシアに、ウサギは無言で親指を立てた。なんだか嫌な予感がしつつ、シアは魔力を全身に流して身体能力を限界まで強化する。
それを確認したウサギは、おもむろにシアの胴体をむんずと掴むと、その手を後ろに引いて引きしぼった。それにあることを察知するシア。
「やっぱり
「……出力30%、ラビットミサイル」
「ああもう、いっくですぅ!!!」
高速で飛んでいくシア。それに合わせてルイネが翼を使って空高く飛び上がると、大群の後方に控えている、魔物のリーダー格たちを見据える。
まるで操られていたティオの時のように虚ろな雰囲気で佇む魔物たちに、ルイネはほっそりと人差し指を向けた。そして、詠唱を始める。
「〝この手に凍土を、我が前に氷海を。この嵐遍く命を奪う理なれば、意に従えし我こそ選定者なり。氷よ、白よ、染め上げよ、染め上げよ、染め上げよ〟」
戦場に響き渡る、凛とした美しい声。その詠唱の長さと尋常でない魔力に、魔法のエキスパートたるユエは驚愕の表情でルイネを見上げた。
「あれは…………もしかして禁呪クラス!?」
最上級魔法すら超える、この世界のものではないその魔法にユエは思わず叫んだ。これほどユエが驚いたのは珍しく、ハジメは振り返って目を見張る。
「生命はいらぬ。熱は要らぬ。我求むはただ全ての死、従わぬは不敬なり。
頭を垂れよ、地にひれ伏せ、歓喜に咽び泣け。
これなるは寵愛なり。
これなるは裁きなり。
これなるは救いなり。
遍く命よ、我が手で原初へ帰還せよ〟」
詠唱が、終わった。
その瞬間、それまでとは比較にならないほどに魔力が膨れ上がる。戦場一帯を飲み込むほどの魔力に、全員が空を見上げた。
「〝
ルイネは冷たい眼差しで、最後のトリガーを引く。決壊した力は魔力を氷の巨龍と成して、呆然とするリーダー各の魔物たちに降り注いだ。
それはまるで、かつてノアの箱舟に乗り込んだ生物以外の全てを飲み込み、世界を洗い流した津波のように全てを、全ての命を凍らせていく。
ものの十秒で、リーダー格の魔物たちは周囲の自然ごと、氷像となって動きを止めた。そこに、シアがドリュッケンを構えて落下する。
「どぉりゃぁああぁぁあああっ!!!!!」
雄叫びをあげたシアが振り下ろしたドリュッケンが、氷の花園となった世界に叩きつけられた瞬間。
ドッパァアァァアアアアンッ!!!!!!!
全てが、砕け散った。
魔物も、大地も、草木も、その全てが粉々になる。まるでそれが当然だと言わんばかりに、それまで命だったものはあっけなく無に帰した。
空中に大量の氷の結晶が舞い散り、その中心で立ち上がるシアは──奇しくも、ティオを倒した時のウサギと同じように美しかった。
「「ガルァァアアアア!!!」」
リーダー格の魔物たちが消えたことを感じとったカーネイジが、大口を開けて咆哮する。
すると、もともとほとんど逃げの姿勢だった魔物たちの統率は決壊し、大半の魔物は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げていったのだった。
「ふぅ、やってやったですぅ」
『兎さん、背中に注意やで』
ドリュッケンを肩に担いでふんす!と胸を張っていたシアの耳に、つかみどころのなさそうな飄々とした男の声と銃声が響く。
パッと振り返れば、今にもシアに飛びかからんとしていた赤い四つ目の狼型の魔物が、頭から血を吹き出しているところだった。
唖然と見上げるシアの前で、さらに視界の端から曲芸師のように回転する青い影が四つ目狼に踊りかかり、四つ目狼の首を切り落とす。
『いっちょあがりや♪』
着地した青い影……リモコンブロスは血の滴るスチームブレードを血振りして、地面に転がった四つ目狼の頭を蹴り飛ばした。
転がっていく四つ目狼の頭をシアが目で追っていくと、黒いブーツが踏んで止める。驚いてブーツの主を見れば、頭を踏みつけているのはエンジンブロスだった。
『兎さん、気ぃつけや。完全に全ての敵を倒すまでは気い抜いたらあかんで』
「あ、はい、ありがとうございます」
『ええてええて、この厄介な犬っころはこれが最後の一匹やったしな……それより構えや。厄介なのがくるで』
エンジンブロスはそういうと、ネビュラスチームガンでシアの背後……山脈の方を指し示す。リモコンブロスも警戒するようにブレードを構えていた。
魔物は全て逃げたはずなのに臨戦態勢の兄妹を見て、シアは不思議に思って振り返る。そして自分の視界に映ったものに瞠目した。
オオオォォォ………………
なぜならそこにいたのは……大量の人型の怪物の軍勢だったのだから。
シアたちの前に現れた謎の軍勢は、今まで見たことない魔物だった。いや、魔物と呼称していいのかすら不明だ。
色は濃い緑と銀色で、非常に重厚な装甲をしている。右腕はメツェライのような機関銃、左腕はロボットアームになっており、足音は重い。
一糸乱れぬその動きはまさしくマシーンであり、一切の意思が感じられない。しかしそれが重圧となっていた。総数は五百を超えるだろう。
「あれは、一体……?」
『ハードガーディアン。敵の殲滅のみを目的とした人形や』
『試作は終わったって聞いとったけど、もう実戦投入されとるんか。早いなぁ』
警戒する姿勢とは裏腹に、のんびりとした口調で話す兄妹にシアは内心首をかしげる。どうやら彼らは、あれについて何か知っているらしい。
何にせよ、ハードガーディアンの纏う異様な雰囲気に油断はできないと、シアはドリュッケンに加えて異空間からディオステイルを取り出す。
道の敵に臆することなく戦おうとするシアに、
〝おいシア、聞こえるか?〟
「あ、ハジメさん?」
まだ攻撃の意思を見せていないハードガーディアンに突撃しようとすると、ハジメから〝念話〟が入った。慌てて足を止めるシア。
〝今お前の前にいるやつが、こっちにも出てきた。どうやら透明か何かになって隠れてたらしい。左右と正面合わせて千五百くらいだ〟
〝こっちも同じ感じですぅ〟
〝そうか……シア。お前がそいつらを全部倒せ〟
〝ええっ!?〟
驚くシア。無理もない、ハジメは目の前のハードガーディアンを一体残らず倒せと言った。それはハードガーディアンの装備から見るに相当困難だ。
これまでハジメたちと旅をして、かなり肝が座っているシアだが、流石にあのメツェライのような武器が無数に自分に向けられると思うと逡巡する。
〝大丈夫だ、お前ならできる。任せたぞ〟
だが、その躊躇はハジメの言葉で一気に吹っ飛んだ。シアは目を見開き、しかしすぐに口元を緩ませるといつも絡んでいる時のような顔になる。
〝えへへぇ〜、了解ですぅ〜〟
〝おう。俺たちもさっさと片付けてすぐに向かう。頼んだぞ〟
〝はいっ!〟
シアの返事を聞いたハジメは、〝念話〟を切った。ハジメに頼られたことにデレデレになっているシアは、やる気満々に戦鎚をハードガーディアンに向けた。
「さあ、一体も残さずぶっ飛ばしてやるですぅ!」
『おおっ、急にやる気になりよった。なんかあったんかいな』
『ええでええで、これぞ恋する乙女のパワーや。助太刀するで兎さん』
「はいですぅ!」
なぜか上機嫌な様子のエンジンブロスがシアの隣に並び、リモコンブロスもやれやれと言った様子でネビュラスチームガンの銃口を向けた。
そこでタイミングを見計らったかのように、ハードガーディアンが一斉に立ち止まる。そして電子音を響かせながらシアたちを捕捉し、機関銃を構えた。
ドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!
次の瞬間、死の弾幕がシアたちに襲いかかる。同時にシアとエンジンブロスは駆け出し、無数の弾丸をはじき返しながら接近する。
『ふっ、はっ、セイヤッ!』
エンジンブロスは神速の斬撃で最低限の弾丸だけを切り裂いて、あとは一定以下の攻撃には無敵の防御力をもってして一直線に突き進んでいく。
「せあぁぁあっ!」
一方シアは、急所に身体能力強化の魔力を集中させて防御力を上げ、残りは重力魔法で十分の一以下の重量になった戦鎚を振り回してはたき落とす。
ちなみにこの魔力の集中とふた振りの戦鎚を巧みに扱う技術は、シュウジから習ったものである。
プレデターハウリアたちのことはともかく、シアは戦士としてシュウジのことは尊敬していた。なので積極的に師事し、いくつかのスキルを身につけている。
〈敵性個体の反撃を確認。現在使用している武装での撃破は困難と判断。よって進軍を開始〉
マシンガンの乱射だけではシアたちを倒すのは不可能と判断したハードガーディアンは、先頭を左右に割って後方の舞台が侵攻を開始した。
左腕をロボットアームから巨大なナックルに変更したハードガーディアンたちは、腕を構えるとそのままナックルを
「しゃらくせえですぅ!」
爆風を伴いながら飛ぶナックルを、シアはやすやすと回避する。ナックルを斬っていたエンジンブロスはそれを見てとっさに叫んだ。
『あかん、兎さんそれ追尾式や!』
「えっ!?」
慌てて後ろを振り返るシア。するとエンジンブロスの言う通り、ナックルは軌道を百八十度変更してシアの背中を狙っていた。
慌てて足を止め、振り向きざまにディオステイルを振るってナックルを破壊する。しかしすぐに第二陣が正面から迫り来る。
ドドドドドッ!
シアが振り返った瞬間、ナックルが全て爆散した。リモコンブロスが正確無比な銃撃で全て撃ち抜いたのだ。だが喜ぶ暇も無く第三陣が飛んできた。
今度はドリュッケンを使ってナックルを叩き落とし、その際の遠心力を利用してディオステイルをハードガーディアンめがけて投げる。
従来の十倍の重量にしたディオステイルは轟音を立てて飛んでいき、ハードガーディアンの一体の頭に激突した。そのまま数体巻き込みながら地面に落ちる。
「さらに!」
ドリュッケンを砲撃モードに変更したシアは、ディオステイルめがけてミサイルをぶっ放した。
ドッゴォォオン!!!
弧を描いて飛んでいったミサイルは、壊れたガーディアンに付着したディオステイルの粘菌に着弾し、大爆発を引き起こす。
飛び散った爆炎がほかのガーディアンの駆動系に入り、そこからさらに爆発が連鎖的に広がっていった。最終的には、50体以上のガーディアンが木っ端微塵になる。
それによってできた〝穴〟に、すかさずエンジンブロスが飛び込む。そしてガーディアンがまだ認識できていないうちに手あたり次第になます切りにした。
『ほらほら、さっさとかかってこんかい!』
「私も!」
遅れてガーディアンたちの中に入ったシアはディオステイルを地面から引き抜き、どんどんガーディアンたちを撃破していった。その様はまるで豪風のようだ。
ゴゴゴゴゴゴ……
リモコンブロスが動きを止め、エンジンブロスが関節を破壊し、シアがガーディアンの上半身を三体まとめて吹っ飛ばしていると、地鳴りのような音が聞こえる。
振り返ると、三人の目に驚愕の光景が写り込んだ。平原の上空に巨大なブラックホールと赤い雲のようなもの……そして五色の龍が出現しているのだ。
ブラックホールはガーディアンたちを大地ごと根こそぎ吸い込み、赤い雲から落ちる赤い死の雨は瞬く間にガーディアンを鉄くずに変え、龍は炎や雷、水のレーザーなどを吐いている。
『フッハッハッハッハッハッハ!』
「「壊れヨ!消エよ!血通わヌ心無Ki人形ドも!恐怖なkIもノ、我gA前ニ立Tuニ能WAズ!」」
「〝唸れ、猛れ、破壊の王よ。 怒れ、憎め、死をもたらす災厄よ。 汝は万物を呪うもの。 汝は死を司るもの。 我が名はユエ、吸血姫にして魔の神の寵愛を受けし神子なりて。 故に望まん、わが親愛なる破滅の主よ。 一切合切破壊せよ、我が目に映る全ての不敬なものどもを〟」
それぞれの破壊を引き起こしているであろうものたちの声が、戦場に響き渡る。それは瞬く間にガーディアンたちを蹂躙していった。
「私も負けてられないですぅ!」
『その意気やで、兎さん!』
俄然やる気を出したシアは、
エンジンブロスはその背中を守るようにガーディアンの腕を切り飛ばし、武器を失ったガーディアンをすぐさまリモコンブロスが撃ち壊す。
「こいつで、ラストぉ!」
そうしてがむしゃらに戦うこと、おおよそ15分。ついにシアは、最後の一体のガーディアンめがけて、ディオステイルを振り下ろした。
最後までマシンガンを打ち続けていたガーディアンは地面と戦鎚の板挟みになり、あっさりと潰れる。数秒電子音を発した後、完全に動きを止めた。
沈黙したことを確認したシアは、ディオステイルを手放す。そうすると荒い息を吐き、ドリュッケンで倒れそうになる体を支えた。
「はぁっ、はぁっ……」
『お疲れさん。兎さん、よう頑張ったやん』
息も絶え絶えなシアに、未だ余裕そうなエンジンブロスが近づいてポンと肩に手を置いた。なんとか顔を上げて笑うシア。
「あ、あはは、そうですかね……」
『そやそや。あのこわーい兄ちゃんも喜ぶで?』
エンジンブロスに続いて近寄ってきたリモコンブロスがそう言えば、シアの顔はにへらと緩んだ。そしてドサッと大の字に倒れる。
その姿勢のまま後ろを見てみれば、いつの間にやらブラックホールや血の雨は消えており、残っているのは見るも無残な状態の平原だけである。
「終わった……んですよね」
『そーやなぁ。もう近くに反応ないし、終わりでええやろ』
『せやな』
「ハジメさん……私、頑張りましたよぉ」
嬉しそうにつぶやくシアに、エンジンブロスが何かをわかっているかのようにうんうんと頷く。対するリモコンブロスは首を傾げた。
こうして、シュウジたちの奮闘……否、一方的な蹂躙により、ウルの街は守られたのだった。
魔法は聖剣使いの禁呪詠唱から借りました。フールーで見返したら面白かったので。
怖いなぁ……この次の話、人によっては賛否両論分かれるしなぁ。
とはいえ、やると決めたらやらなくては。
お気に入りと感想をお願いします。