星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、最近FGOのガチャの引き運が良い作者です。式部さん可愛い()
前回、なんか中途半端だったので戦いの終わりまで加筆しました。読んでいただけると嬉しいです。

シュウジ「やっはろー、シュウジだ。前回は大規模戦闘だったぜ。いやー暴れた暴れた」

エボルト「すげえ暴れっぷりだったな。ほんとに制御できてんのかあれ?」

シュウジ「まあ、意思はないからな。いうなれば破壊衝動の塊?ほらお前の兄貴的な」

エボルト「最悪にタチ悪ぃな……」

ユエ「ん。私も最後の魔法は疲れた。アクセサリーの中にあった魔力すっからかん」

ハジメ「お前ら全員すごかったよ。さて、今回は先生が清水のやつを説得するらしいぞ。作者的にはかけらもできに自信がないそうだが、まあ優しく読んでやってくれ。それじゃあせーの……」


四人「「「「さてさてどうなる襲撃と再会編ラスト!」」」」


私はあなたの先生ですから

 ハジメ SIDE

 

 

 戦闘終了から数分後。

 

  ほんの少し前まで蹂躙劇が繰り広げられていた平原は、元の静けさを取り戻していた。ただし夥しい数の死骸と鉄クズに塗れているが。

 

  そんな中、俺とシュウジはバイクでシアたちの元に向かっている。ウサギがかなり奥まで投げ飛ばしたから、徒歩だと移動が面倒だったのだ。

 

  サイドカーの中では、ユエとウサギがうつらうつらとしている。さしものこいつらといえど、あれだけの戦闘をすると疲労が溜まっているようだ。

 

  え?サイドカーの車輪にくくりつけられてるボロボロで息を荒くして恍惚の表情を浮かべているティオ?知らない知らない見えない見えない。

 

「何もかも最上 好きすぎるI know♪」

 

  シュウジはといえば、なぜか安◯奈美◯のやつ歌ってた。男のはずなのに無駄に上手いのがなんかイラっとする。ていうかそれ母さんたちが見てたやつじゃん。

 

  そんなシュウジのサイドカーに乗る先生は、進行方向をまっすぐ見ながら、なにやら決意を固めるような顔をしている。

 

「……清水くん」

 

  まるで何かに思いをはせるようなその表情が少し気になっていると、ポツリと先生の口から言葉がこぼれた。なるほど、清水か。

 

  俺は、これから向かう先で清水をすぐに殺すつもりはない。もちろん後で変に出てこられても面倒なので殺したいのは山々だが、シュウジたちの会話を聞いて気が変わった。

 

  もし、先生が清水を説得できるのなら、奴を殺すのは見送ろう。ただしできなかったら即座に射殺する。後顧の憂いは早めに断つべきだ。

 

「けどまあ……先生の中の〝先生〟を信じてみたい気もするけどな」

 

  そんなことを呟いているうちに、シアたちが見えてくる。シアは変身を解除したエンジンブロス……たしかソウだっけか?に背中を揉まれていた。

 

「ほれほれ、ここがええんやろ?ええんやろ?」

「あ〜、そこツボですぅ……」

「……何やってんだ」

「あ、ハジメさ〜ん」

 

  すぐ目の前でバイクを静止させて話しかければ、シアはフニャっとした顔で俺を見上げる。戦場のど真ん中でこの顔、図太くなったもんだ。いや元からだけど。

 

「すごいんですよー、ソウさんマッサージ上手いんですぅ」

「だろうな。そのスライムみたいな顔見たらわかるわ」

 

  そのあと待つこと数秒、マッサージを終えたシアは立ち上がり、ブンブンと両肩を回す。どうやらかなりの乱戦だったらしい。

 

「いやぁ、ハンマー二つも振り回すのは流石にきつかったですぅ」

「それでも全部倒したんだ。まあ、頑張ったんじゃねえのか?」

 

  ぶっきらぼうにそう言えば、ピシッと俺以外の全員が固まった。そして俺を驚いたような目で見る。シュウジに至ってはこの世の終わり的な顔してた。

 

「あ、あのハジメさんが、褒めてくれた……?あのクリーチャーレベルに鬼畜なハジメさんが?」

「ああ、今あの鬼畜残虐無慈悲冷酷なハジメがシアさんを褒めたぞ。こいつはもう一回魔物の大群が来るか?」

「おい」

 

  ふざけたことをのたまうアホどもにゴム弾を撃つ。相棒(バカ)にはかわされたが、残念ウサギにはスコーンといい音を立てて額に当たった。

 

  「はきゅ!?」と残念ウサギが声を上げて沈み、ケタケタと笑う相棒(バカ)にはもう何発か撃つ。全部華麗にかわされた。ムカつく。

 

「うぅ、痛いですぅ……」

「おーよしよし、災難やったなあ」

「お前どんだけ甘やかすねん……」

 

  なにやら残念ウサギを気に入ったのか頭を撫でるソウに兄貴同様呆れながら、周囲を〝気配感知〟で探る。

 

  特に魔物の気配は引っかからなかった。が、俺が探しているのはそれじゃない。この騒動の元凶……つまり清水の気配を探しているのだ。

 

  が、いくら探せども清水の気配はなかった。シアの攻撃で生まれたクレーターや近くの茂みを念入りにチェックするが、全く見当たらない。

 

「おやおやハジメ君、何かお探しかい?」

 

  もしや〝気配感知〟の範囲外まで逃げられたかと思っていると、唐突にシュウジがそう聞いてきた。振り返ると、陽気な笑顔を浮かべている。

 

「ああ、清水をな」

「なるほどね。それなら……あっちだ」

 

  シュウジが上を指差す。釣られて上を向けば……なにやら赤い物体が空にあるのが見えた。〝遠望〟の技能を発動して物体を注視する。

 

  するとそれが、さっきまでシュウジが使っていたカーネイジの一部だとわかった。巨大な卵型に蝙蝠のような翼が生えていて、それで滞空しているのだ。

 

  そしてその卵の一部からは……清水の顔が覗いていた。なにやらぐったりとした様子で、こちらを恐怖の入り混じった目で見下ろしている。

 

「最初の攻撃の時、避難させといてね。ついでに俺たちの戦いを見てもらおうと特等席に招待したのさ」

「……あの高さ、普通のやつなら発狂するぞ」

「それは今からだな」

 

  くいっとシュウジが指を下に向ける。すると、物体が翼を止めて落ちてくる。その落下する地点は……起きたウサギとソウが交互に愛でてるシアの上。

 

「おいシア、避けろ」

「ふぇ?」

 

  またスライム顔になっていた残念ウサギは上を見上げ、赤い巨大卵が落ちてくるのを見て目を剥くと慌てて飛び退いた。

 

「うわぁあああああああああっ!?!!?」

 

  シアが回避した数秒後、悲鳴とともに卵が地面に落ちてくる。着地の瞬間卵から4本足が出てきて、ほとんど音はしなかった。

 

  全員が見つめる中、卵はシュルシュルと形を崩していき、先ほど以上にぐったりとした顔の清水が手足を縛られた状態で転がり出てくる。

 

  そのままドロドロの塊になった物体は、かざしたシュウジの手に飛んでいき、体内に入っていった。

 

「とうちゃーく。ご利用ありがとうございました。またのお楽しみを、なんつってな」

「お、おおおおおま、ここここ殺す気か!」

「どう?某ネズミ王国のタ◯ー◯ブテ◯ーをアレンジしてみたけど」

「どこがアレンジだ!魔改造の間違いだろうが!」

 

  笑うシュウジに数秒前の様子は何処へやら、ツッコミを入れる清水。この時ばかりは清水に同意した。タ◯テラはアンリミテッドでもあそこまでじゃねえ。

 

「まあ、そりゃともかく……出番だぜ」

「……はい」

 

  それまで静観していた先生が、シュウジのバイクから降りる。そしてゆっくりとした歩調で、清水の前まで歩いていった。

 

  清水は先生に気がつくと、悔しそうな顔をする。そんな清水をじっと見つめながら、先生は話し始めた。

 

 

 さて、先生……お手並み拝見といこうか。

 

 

 ●◯●

 

 

 マリス SIDE

 

 

「……久しぶり、といっていいのでしょうか。清水くん」

 

  私は目の前にいる清水幸利に向けて、静かな声で語りかけた。それに清水幸利は言葉を返してくれることはなく、ただ舌打ちする。

 

  その濁った目からは好意的な感情は感じられず、ドロドロとした欲望に沈んでいるように見える。いや、ようにではなく、事実そうなのだろう。

 

  後ろから、先生たちの視線を感じる。ここで清水幸利をなんとか説得できなければ、おそらく南雲くんが射殺するだろう。教師としての私の腕の見せ所だ。

 

「ありきたりな質問ですが……なぜこのようなことを?」

「はっ、そんなこともわかんないのかよ……どいつもこいつも無能だ。それなのに俺のことバカにしやがって……勇者勇者うるさいんだよ……俺の方がうまく出来るのに……だから、価値を示して、見返してやるんだよ……」

 

  私の質問に対してでの答えではなく、まるで独り言のようにブツブツと言う清水幸利。なるほど、彼の中にあるのは劣等感から生じる苛立ちか。

 

  その後の言葉から推測される今回の騒動の要因は……何者かへの力の顕示?しかし街を滅ぼそうとした以上、それは私たち地球から来たものや、王国の者たちへではない。

 

  ならば、彼が自分の力を見せようとしていたのは……

 

「……なるほど、魔人族ですか」

「っ!?」

 

  バッとうつむかせていた顔を上げ、なぜそれをという表情をする清水幸利。そんな彼に私は自分の推測を話す。

 

「あなたが価値を示したい相手がいるのはわかりました。その上で今回の街への襲撃。これでは人間に対しては自分の〝価値〟は示せず、ただの虐殺者、罪人としか捉えられない。なら残るのは……人と敵対し、人を多く殺すことで利益のある存在。すなわち、魔人族」

「……ケッ。ああ、その通りだよ。俺は魔人族と契約したんだ」

 

  自分でそれを明かしたかったのか、不貞腐れたような口調で吐き捨てる清水幸利。しかしすぐに自分が魔人族に組した経緯を話し出す。

 

  曰く、魔物を捕まえに山に行った際、一人の魔人族に出会った。当初は警戒したものの、その魔人族は戦いではなく対話を望んだらしい。

 

  その結果、自分の〝価値〟をわかってくれると思った彼は魔人族と取引をした。そして今回の襲撃に及んだらしい。それを話す清水幸利の表情は得意げだ。

 

「俺は契約したんだ……あんたを殺すってな、畑山先生」

「……なるほど」

 

  それを聞いて、さほど私は驚かなかった。〝畑山愛子〟としての私の希少価値を考えれば、むしろそれは真っ先に思い浮かぶことだからだ。

 

  戦争において最も重要なのは、優れた指揮官でも、強い力を持つ個人でもない。食糧だ。食糧がなくては両者とも飢え死ぬし、士気は下がる。

 

  そして〝畑山愛子〟は〝豊穣の女神〟と謳われるまでに、この世界の食糧事情を一変させた存在。魔人族たちからすれば真っ先に殺したい相手のはずだ。

 

「あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! 何で異世界にあんな兵器があるんだよっ! なんでお前が生きてんだよっ!」

「そりゃあ、あの程度の窮地で死んでたらいくら残機があっても足りんしなぁ」

 

  憎しみのこもった目で自分を睨め上げる清水幸利に、先生は肩をすくめて答える。ふざけたその態度に、清水幸利はギリギリと歯を鳴らした。

 

  妬みや苛立ち、憎悪……様々な負の感情がないまぜになって狂気を宿すその目に、私はかつての自分を見ている気がした。まだ幼く、先生に拾われたばかりの私を。

 

 だから……

 

「ーーえ?」

「……辛かったですね、清水くん」

 

  私は、清水幸利をそっと抱きしめた。背後で南雲くんたちが驚き、そして私のやり方を知っている先生たちが面白そうに笑うのがわかる。

 

「お、おいっ、何やってんだよ!?離せよ!?」

「いいえ、離しません。傷ついた生徒を離せるものですか」

 

  さらに強く抱きしめれば、ビクッと清水幸利は震え、その後徐々に落ち着きを取り戻して大人しくなっていく。私はそのまま話し始めた。

 

「あなたには多くの不満があったのでしょう。誰にも認められない苛立ち、皆に賛美される勇者への妬み、思う通りにいかない怒り……私はその全てを肯定します。それは人として当たり前の感情だ。あなたは間違っていない」

 

  自分の行動を肯定されたことに、清水幸利が息を飲むのが聞こえた。続けて耳元で囁く。

 

「憧れ、妬み、恐れ、憎んで、そして超えようとした。その欲望はあって当たり前のこと。だってそれが、心のある人間の(さが) なのですから」

「な、なんだよ……わかったようなこと言うんじゃねえよ……どうせ、俺の気持ちなんかわからねえくせに……」

「いいえ、わかります。私にはその気持ちがよくわかる」

 

  はっきりとした声で告げる。その意思の強さが伝わったのか、清水幸利は押し黙った。

 

「………清水くん。今の先生には、前世の記憶があります」

「……は?」

 

  今度は、呆然とした声を上げる清水幸利。それは背後にいる先生たちも同じであり、先生は「ヒュゥ、そこまで言っちゃうか」と楽しげに言った。

 

「そして私の振るう力は、前世において生まれたもの。私の嫉妬や怒り、憎悪が生み出したものなのです」

 

  そう。もとよりこれは負の感情を具現化する闇の呪法であり、それが意思を持ち、一個の存在として形を成したのがヴェノムの正体だ。

 

  まだ、先生に拾われて間もない頃。理性など曖昧で、感情で物事を考えてしまう幼子だった時、これは私の中から生まれ落ちた。

 

  その頃の私の中には、強い負の感情が渦巻いていたのだ。もし先生に拾われていなかったら、狂人になっていたと確信できるほどに。

 

「私を捨てた両親、みすぼらしい私を見て嗤い、時に痛めつける者たち、そんなことなど何一つ知らずに、陽の下で幸せそうに暮らす人々。私はその全てに暗い感情を抱いていた」

 

  羨望は悲観になり、悲観は憤怒へと塗り変わって、いつしか憎悪となった。そして闇の呪法は、そんな私の黒い心から悪意の化身(ヴェノム) を作った。

 

「他の誰もが幸せそうに暮らしているというのに、なぜ私ばかりが苦しまなくてはいけないのか。なぜ私ばかりが孤独でなくてはいけないのか。私はいつもそう考えていました」

「……………そう、なのか?」

「ええ……ですから私にはわかります。あなたの中にある全ての負の感情が、誰よりも理解できる。故に言いましょう。やり方は間違えど、その心は理不尽に否定される理由はないと」

 

  ゆっくりとした口調で、優し手つきで、甘い声音で、清水幸利の心に入り込んでいく。それはまるで、気がついたら命を貪っている毒のように。

 

「だからこそ、私には今のあなたに必要なものもわかる」

「……え?」

 

  一旦言葉を止め、一拍置いてから、私はそれを告げた。

 

「それは、あなたを理解してくれる人です」

 

 

 ●◯●

 

 

「…………………俺を理解してくれるやつ?はっ、そんなのいらねえ「では、何故〝見返してやる〟などと言ったのですか?」……え?」

「あなたは自分で言っていましたよ、〝見返してやる〟と。それは〝誰かに自分の存在を見せつけたい〟という欲求に他ならない」

「っ!?」

 

  清水幸利が瞠目した。しかしすぐにまくしたてる。

 

「だ、だから魔物の大群を作って、あんたを殺して魔人族に俺の力を見せようと……」

「ええ、そうでしょうね。でも、彼らは本当に〝あなた〟を見てくれるのでしょうか?」

「……どういうことだよ?」

 

  まるで何かを焦るような声音の清水幸利に、私は言う。

 

「彼らが目当てにしてるのはあなたの〝力〟であって、〝清水幸利〟ではない、ということですよ。つまり彼らにとって、あなたはただの強い()()でしかない」

「そ、そんなはずない!だってあいつは、俺を魔人族側の〝勇者〟として讃えるって……」

「それはあなたの気をよくするために言った方便に過ぎない。〝勇者〟として祭り上げても所詮、 彼らの都合のいい操り人形……つまり、使えなくなればそのうち捨てられる〝奴隷〟になるだけです。あなたはそれでいいんですか?」

 

 そこに、あなたの求めた栄光はない。

 

  そう事実を突きつければ、ふっと清水幸利の体から力が抜けた。そうするとブツブツと何事か呟く。

 

  それを聞こうとして……不意に殺気を感じて、清水幸利を守るようにヴェノムを展開した。次の瞬間、青い水のレーザーがヴェノムにぶつかる。

 

  数秒間それを防ぎきり、ヴェノムを解除すると攻撃をしてきた相手を見る。すると、遠い場所で耳の尖った男が魔物に乗り込み、飛び立とうとするところだった。

 

「任せておけ」

 

  私が何かをする前に、ルイネが龍の翼を広げると飛んで逃げようとする魔人族と思しき男を追いかけていった。

 

  ルイネに任せておけば問題ないだろうと、私は清水幸利に向き直る。すると案の定、清水幸利は信じられないものでも見るような顔をしていた。

 

「ほら、これでわかったでしょう?あなたは彼らにとっては使い捨ての駒でしかない」

「くそ、あいつら舐めやがって……俺を殺そうとしやがった……俺は、俺は特別なんだ、それなのに……」

「いいえ、清水くん。この世界の誰も特別などではない。あなたも私も、ただの人間の一人です」

 

 そう言うと、清水幸利は鼻で笑う。

 

「……ふざけたこと言ってんじゃねえぞ。あんな強い力持ってて、なに言ってんだよ」

「ですが、それは負の感情から生まれたもの。あなたが私を殺すため、魔物の群勢を作ったように。ほら、唯一の特別なものではないでしょう?」

「………それは」

「つまり、私もあなたも同じなのです。同じように弱い、ただの人。それは天之河くんや彼らだって同じこと」

 

  少し体を離し、振り返って先生たちを見る。先生たちは私の言葉を肯定するように、笑いながら、あるいはやれやれと肩をすくめた。

 

「〝特別〟とは、力の優劣で決められるのではない。その力を振るう〝心〟が、人を特別にするんです」

「……心だぁ?そんなんが、何になるってんだよ」

 

 疑うような口調で言う清水幸利。それに私は昔を思い返しながら話す。

 

「……私がこの力を破壊のためだけに使わない心を持てたのは、そばにいてくれる人がいたからです。その人がいたから、私は間違えても進んでいけた」

 

  かつて(ヴェノム) を手に入れた私は、私を傷つけた人間たちを心の赴くままに傷つけた。そして彼らを殺す寸前になってようやく、自分が何をしたのか自覚した。

 

  人を殺そうとした自分があまりに恐ろしくて、壊れかけた時……先生が抱きしめてくれた。その温もりがあったから、私は壊れなかった。

 

「誰かに理解してもらい、支えてもらう。それはとても大切なことです。その誰かがいれば、たとえやり方を間違えてもやり直せる。そうしてやり直し続けて、初めて人は〝特別〟になれる」

「……でも、どうしろってんだよ。俺にはもう、魔人族しか………」

「私がいます」

 

  断言する。清水幸利の顔が、今日何度目かになる驚きに満ちたのがわかった。

 

「本当の意味であなたを誰も見ないというのなら、私が見ましょう。私が支えましょう。私があなたを、〝特別〟にする」

「そ、そんな口からでまかせ言ったって信じねえぞ!」

「いいえ、でまかせではない。望むなら、あなたを天之河くんより活躍させるようにしてもいいです」

 

  強く、有無を言わせぬ口調で断言する。口をつぐむ清水幸利。

 

  私には、正しさを説く資格はない。いかな悪人とはいえ、多くを守るために人を殺し続けた私に、はっきりとこれが正しいなどというものはわからない。

 

  それならせめて、寄り添いたい。たとえ導くことはできなくとも、寄り添い、共に歩んでいくこと。それなら、私にだってできる。

 

「……俺を、あいつより?」

「ええ、あなたが心からしたいことなら。そのためなら私は……〝先生〟は、力の限りあなたをサポートします。あなたを誰より認めますし、信じます。だから……私を信じてくれませんか?」

 

  もう一度抱きしめて、細かく声音を調整しながらそう訴える。それはまるで、前世で籠絡してきた数多の暗殺対象のように心に響くような声で。

 

  そうすることしばらく。小刻みに清水幸利の体が震え始めた。変わらず抱きしめ続けると、清水幸利が声を漏らす。

 

「……あんた、あんたバカだろ……俺は、あんたを殺そうとしたんだぞ……? 俺が勇者になるために……それなのに、なんでそんなこと言えんだよ……」

「決まっています」

 

  私が前世の話をしてまで、そしてそこで培った技術まで使って、あなたに訴えかけるのは……

 

「私は、あなたの先生ですから」

「……!」

「教師というのは、力の限り生徒に寄り添う存在です。間違えた時は慰め、ともに進む存在です。少なくとも、私はそう思っています」

 

  だからあなたが、私の生徒である限り。私はあなたを助けよう。かつて間違いを犯した私が、先生に許されたように。同じ間違いを犯したあなたを、私が許そう。

 

  その想いとともに、彼の返答を待つ。たとえ日が暮れても待ち続けよう。彼が答えを出せるまで、いくらでも寄り添ってやる。

 

「……ちくしょう………んだよ、これ……こんな話、どうでもいいはずなのに……」

「……………」

「んな、信じるなんて言われたら……こんな抱きしめられたら……信じてみたくなるじゃねえかよ……」

 

  その言葉に、思わず私はホッとした。そして手の中でそっと、服の中から抜き取っていた、彼が隠し持っていた毒針を握りつぶす。

 

  肌を介して清水幸利の感情を読み取るが、もう攻撃の意思はない。これならもう心配はいらないだろうと、私は清水幸利の頭を撫でながら後ろを見た。

 

〝どうですか、南雲くん。これが私の〝先生〟です〟

〝……負けたよ。あんたは本物の先生だ。絶対改心なんかしないと思ってたんだけどな〟

 

  やれやれ、と肩をすくめる南雲くん。

 

  確かに彼のいう通り、改心させたわけではないだろう。どちらかというとこれは、前世のスキルで陥落させたと言った方が正しい。

 

  今はそれでもいい。これから私は〝畑山愛子〟として……そして〝マリス〟として、彼と向き合っていく。いつか夢に見た、〝先生〟になるために。

 

  その意思が伝わったのか、少し以前の彼のように微笑んだ南雲くんは〝宝物庫〟から魔力駆動四輪を取り出した。

 

  そこで、タイミングよくルイネが戻ってきた。その表情は申し訳なさそうだ。

 

「すまない、逃げられた」

「まっ、逃しちゃったもんはしょうがないっしょ。ほら、乗った乗った」

 

  先生に促されたルイネは、少し悔しそうな目をしながらも翼をしまい、車に乗る。続いて他の者たちも乗り込み始めた。

 

  全員が乗り込み、瞬間移動してきた小娘を抱え、ウィル・クデタを肩に担いだエボルトが乗ると、最後に先生がステップに足をかける。

 

 私はすかさず〝念話〟をした。

 

〝行ってしまうのですか?〟

 〝おう、俺たちは面倒なことになる前にトンズラするぜ。もう心配はいらねーみたいだし〟

 

  顔だけ振り返った先生は、ちらりと私の腕の中でおとなしくしている清水幸利を見る。私はふっと微笑んで頷いた。

 

〝ええ、後のことは任せてください。きっと彼を良い人間にします〟

〝そうかそうか。いやー、俺は娘が立派な教師になって嬉しいぜ………それじゃあ、またいつか会おうぜ〟

 

  ピッとジェスチャーをした先生は運転席に乗り込み、ドアを閉めると発進させる。そしてまっすぐフューレンの方に走っていった。

 

  私はそれを、見えなくなるまで見続けた。やがて音すら聞こえなくなると、清水幸利を促しながら立ち上がる。

 

「さあ、帰りましょう清水くん。皆が待ってますよ」

「お、おう」

「いやー、いいもの見せてもらいましたわ」

「すごかったなー」

 

  清水幸利ににこりと笑いかけ、その手を引いて街の方に歩き出す。 後ろから静かに静観していた兄妹が付いてきた。

 

  さて、これから色々と大変だ。清水幸利がここにいる言い訳や、先生たちのこと……はおそらく、あのエボルトが何かしているだろう。

 

  まあ、なんにせよ……今は一人生徒を殺さないで済んだことの満足感に、少し浸りながら歩こうか。私が初めて子供に〝教えた〟日だ。

 

「……待っててください、お父さん。また次に会うときには、もっとすごい〝先生〟になってみせますから」

 

  そう呟きながら、私は街に向かうのだったーー。

 

 

 

 

 




はい、清水は生存させました。とりあえず終盤までは生き残らせます。
なぜ彼を生存させたかといえば……まあ自分と重なる点がいくつかあったからですね。小、中、高と明確ないじめとまではいかずも、色々とあって、彼と同じ状況に置かれたら多分同じようなことを思うかもしれないな、と思うとなんだかそのまま殺すのはなんだかなと思ったので。
それはともかく、これで第3章は終わりです。さてさて、次の番外編は……どうしよう、美空と香織の百合でも描くか?()
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