どうも、ビルドライダーを表すとするなら戦兎は「戦う学者」、万丈は「猪突猛進な戦士」、カズミンは「カシラな傭兵」、幻徳は「誇り高い騎士」と考えている作者です。
今回の番外編第一弾は、メルドさんとセントレアの話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
騎士の休日 前編
「……むう」
王宮に隣接した騎士団本部。その執務室で、メルドは難しい顔で唸り声を漏らしていた。
彼の前にあるのは、机を埋め尽くすほどの便箋の山。その全てがこの世界では高価な上質な紙に、美しい模様が描かれたものだ。
メルドはその一つ一つを手に取り、中身を読むたびに眉をひそめる。そして最後まで読み終えると、返答の手紙を書き、次のものに移った。
これらは全て、メルドへの求婚の書状である。便箋の豪華さから分かるように、主に下流〜中流の貴族の令嬢からであり、数は百を超える。
言うまでもないことだが、メルドはこのトータスにおいては最強クラスの戦士だ。その武勇は国中に轟いており、一部の人間は崇拝すらしている。
平民でありながら叩き上げで騎士団長まで上り詰め、加えてこのカリスマ性と人好きのする性格。そんなメルドには常に求婚の書状が来ていた。
しかし以前は4〜5通、多くて10といったものだった。ではなぜ今、それのおおよそ十倍以上の数の求婚の書状が来ているのか。
「まさか光輝たちがいることで、こんなことになるとはな……」
そう、それは紛れもなく、異世界からの勇者たちの存在が原因である。
知っての通り、メルドは光輝……つまり勇者()の師匠のようなものである。剣技を教え、時にメルド自身が光輝と戦うことによって鍛えてきた。
〝勇者の師匠〟。この光輝たち異世界人と同等のブランドは、競争の激しい二流、三流の貴族たちにはまさに最高級の装飾品のようなもの。
さらに騎士団長という立場以外権力のない平民かつ、三十を超えて未だ独身。これを狙わない手はなく、多くの令嬢が言いよっていた。
しかも光輝にステータスで大きく負けているが、未だ一度も敗北はしていない。その強さがより拍車をかけ、現状に至っている。
「俺自身に来ている以上、副団長のやつにも押し付けられんしな……」
いつも大抵の書類仕事を副団長の男に押し付けているメルドだが、こればかりはどうあろうと避けられない。
いくら騎士団長とはいえ、メルドの身分は平民。下手に無視などして、同じ平民の多い部下たちにちょっかいでもかけられては面倒だ。
だから苦手な敬語文を使い、せかせかと手紙を書いていた。朝から始めて、かれこれ三時間が経過しようとしている。
「まったく、貴族の方々は。このような時世に権力争いなんざやってる場合か……」
この求婚には、今ある地位の他にももう一つ目的がある。それは魔人族との戦いが終わった後の、令嬢たちのパワーバランスだ。
メルドはトータスの人間の中で最強の戦士の一人、そのためいずれ来たる魔人族との戦争においても大きな武勲を立てるだろう。
その時、メルドの妻となっている令嬢は大いに権力を持つ。つまりこれは、令嬢間のカースト争いでもあるのだ。メルドとしては大迷惑である。
ブツブツと愚痴を言いながらも、メルドの手は止まらない。なんとしてもあと二時間……正午までには終わらせなくてはいけないのだ。
手紙を読んで大体の概要をつかみ、家名を見て言葉を少しずつ変えて返事を書き、を繰り返すこと二時間。
「お、終わった……」
そう言いながら、メルドはリクライニングチェア(シュウジ作)に背中を預けた。机の上には、手紙と同じ数の返事の便箋が並んでいる。
メルドは机に羽根ペンを置き、脱力した姿勢になると普段は戦闘以外に使わない頭のジンジンとした痛みとともに深く息を吐き出した。
「時間は……なんとか間に合ったか」
机の端に置いてある時計(シュウジ作)を見て、メルドは呟く。その時計の隣には、今日の日付に大きく丸がされた暦が鎮座していた。
10分ほどして、頭痛が治るとメルドは立ち上がり、ラフな部屋着から予め用意してあった服に着替える。普段のメルドなら着ないようなものだ。
着慣れない上質なジャケットにメルドは「むぅ…」と唸りながらも、護身用の短剣を持つと部屋を出る。そのまま外へと向かった。
建物の外に出れば、青く澄んだ空が広がっている。メルドは戦闘中でもなければさして天気を気にするわけではないが、今日ばかりは良かったと思った。
「さて……」
メルドは視線を、空から門へと移す。王宮に隣接しているだけあって、それなりに立派な造形の大きな門だ。
その門のところに、門番以外に一人の人物が立っていた。メルドはその人物に近づいていき、カチコチに固まっている背中に声をかける。
「すまん、待たせた」
「ひゃうっ!?」
メルドの声に飛び上がったその人物は、奇妙な声を発した。恐る恐ると言った様子でメルドの方を振り返り、元から赤かった顔をさらに赤くさせる。
「め、メルド!いや、待ってなんかないぞ!」
「そうか……」
あわあわと慌てるその人物……セントレアに、メルドは答えながら門番に目配せする。すると門番は一時間前からいましたよ、とアイコンタクトした。
やっぱりか、と思いつつ、待たせてしまったことに少し罪悪感を覚えながらも、メルドはどことなく嬉しそうな微笑みを微かに浮かべる。
今日は、メルドの休日である。いかな魔人族との戦いの最中、最強の騎士団長といえど、人間である以上休みは必要だ。
そして休日は、月に二度ほど恒例のセントレアとのデー………ではなく、お出かけの日であった。急いで手紙を片付けたのはそのためだ。
今一度、セントレアの格好を見るメルド。セントレアはいつもの鎧姿とは打って変わって、年頃の女性らしい服に身を包んでいた。
淡い桃色のキャミワンピースに白いカーディガン、しなやかな足を包むのはベージュ色のロングブーツ。右肩には白いポーチをかけている。
ストレートに降ろした髪に、花をあしらった髪飾り。首には小さなペンダントが光っていて、大きなおっ…胸に隠れかけている。うわっやめろなにをす(ry
知らないものか見れば、どこぞの令嬢かと見紛うほどの可憐さ。そのコーディネートは、セントレアの美しさを一段階引き上げていた。
そんなセントレアを見た、メルドの感想は……
(ふむ……有り体に言って、最高だな。昔から可愛いとは思っていたが……)
(ど、どうだろう?雫や女性団員たちに手伝ってもらい、精一杯着飾ったが……可愛いとか思ってもらえてるだろうか?)
至極真面目な顔で、そう考えるメルド(※付き合ってません)。対するセントレアは、ソワソワとしながらメルドの反応を待っていた。
(可愛いぞ、くらい言ってやりたいが……まあいくら幼馴染とはいえ、7つも年上の男に言われても嬉しくないだろう)
「セントレア、似合ってるぞ」
だが、そこは変な遠慮をするメルド。普段の豪放磊落な性分はどこへ行ったか、〝可愛い〟ではなく〝似合っている〟という言葉で誤魔化した。
だがしかし、たとえ〝可愛い〟でなくとも十分セントレアには有効であったようで、さっと顔を逸らすとニヤニヤする口元を隠す。
(似合ってるって!似合ってるって!それはつまり、可愛いと言っているのと同じだよな!ありがとうみんな!)
内心で雫や女騎士(彼氏いる勢)に感謝するセントレア。この日のために3日前から準備を重ねていただけあって、嬉しさも大きかった。ちなみにいつもは一週間かかっている。
「そ、その、なんだ……お前も似合ってるぞ、メルド」
「む、そ、そうか」
なんとか顔を元に戻したセントレアも、メルドを褒める。メルドが着ているのはカッターシャツに上品な藍色のジャケットとズボンである。
シンプルな組み合わせだが、セントレアの目にはこの世で最も男らしいオーラを纏っているように見えていた(フィルターがかかっております)。
「それじゃあ、行くか」
「あ……う、うむ!」
メルドが腕を差し出し、セントレアがそれにポーチを持っていない方の腕を絡める。そうすると二人は、城下町の方に向けて歩き出した。
「今日はいつもより遅くてすまんな」
「いや、別にどうということもない。先ほども言った通り、そう長く待ってないからな」
セントレアに歩幅を合わせながら、メルドは謝る。メルドのたくましい腕の感触にドキドキしながらも、セントレアは表面上は平静を装って返答した。
「いつもより、貴族の方々からの手紙が多くてなぁ」
「……む、そうか」
一瞬前の表情は何処へやら、少し不満げに小さく頬を膨らませるセントレア。
幼い頃から想いを寄せている彼女としては、その話はあまり面白くない。仕方のないことだとわかっていても、嫌な気持ちは誤魔化せないのである。
そんなことに全く気がつかないメルドは、セントレアの顔を見て、長く待たせたせいで疲れさせてしまったか、などと見当違いなことを考える。
(ふむ……ちょうど俺も腹が減っているし……そうだ)
「なあセントレア、まずはどこかで昼飯を食わないか?ほら、最近良さそうな店を見つけたとか言ってただろう?」
二人の休日の過ごし方は、だいたいどちらかの話の中で気になった所か、巡回中に見かけて良さげだと思った場所へ行くというものだ。
そしてメルドは、数日前セントレアが訓練の休憩の際話していた、最近王都にできたという店のことを思い返していた。
「へ……あっ、そうだな!昼時だものな!」
「よし、それじゃあ行くか」
同様にその時のことを思い出したセントレアは、ふくれっ面から一転、顔を輝かせると元気良い声で答える。
「わ、私との話を覚えててくれた……ふふっ♪」
(この表情、やはり疲れていたのか。いくら騎士とはいえ、こいつも女だものな)
上機嫌につぶやくセントレア。また頓珍漢な考えを巡らすメルドは、思わぬところでセントレアの機嫌を直すことに成功していた。
セントレアの案内のもと、二人はその店へと向かう。店は大通りから少し外れたレストラン街にあり、物静かな雰囲気が漂っている。
「ここか?」
「ああ。なんだかふと気になってな」
ワクワクしているセントレアに、メルドはその店を見る。赤い壁にカラフルな看板、そこに書かれている店の名前は……〝
セントレアに促され、メルドは扉を開ける。すると、魔法か何かでゆったりとした音楽が流れる、シックな装いの店内があらわになった。
「いらっしゃい。席ならカウンターが空いてるよ」
ちらほらと客が見える中、店主と思しき男がメルドたちを見てそう言った。言われるがまま、二人はカウンターの席に腰を下ろす。
見慣れない内装に二人が店内を見渡していると、パタパタと音を立てて店員が注文を取りに来た。二人はそちらを振り返り……瞠目する。
「ご注文はお決まりですか〜?」
「み、美空!?」
「なぜここに……」
給仕服の少女……美空に、二人は驚きをあらわにする。それに美空は「バイト♪」と悪戯っぽく笑った。
「ベルナージュ様の口利きでね、王都にいる間だけやらせてもらってるの」
現在メルドら引率の報告書を含め、美空たちは一度王都に戻っていた。理由はある一定の階層以下の魔物が急激に強くなり、休養をとるため。
そしてもう一つは……以前ホルアドでのブラッドスターク、そしてスタークが連れる謎の怪物、〝スマッシュ〟の襲撃に対する警戒だった。
「な、なるほど……だが、平気なのか?美空は美しいし、勇者一行の仲間だ。変な事件に巻き込まれたりしたら……」
「そうだ。なんなら護衛でも……」
「心配してくれてありがと。でも訓練以外の時間、何もしないのも落ち着かないし……それに」
美空はテーブルに指を添えて、ふっと懐かしむような微笑みを浮かべる。
「ここにいると、お父さんのお店をお手伝いをしてるの、思い出せるから」
「……そうか」
「なら、文句は言えんな……」
苦い顔をする二人。二人は国に仕えるものとして一応エヒト神の信仰をしてはいるが、妄信的な教会の人間と違い特に深く思い入れがあるわけではない。
故に、元の生活を奪って戦いの道具にしていることに、心苦しさを感じている。だからその発言を聞いて、まっとうな人として駄目とは言えなかった。
「そ、ん、な、こ、と、よ、り。二人はそーんなおしゃれな格好してどうしたの?デート?デートだよね?」
「む」
「んなっ!」
物憂げな表情から一転、ニヤニヤとした笑みを浮かべ、美空はメルドとセントレアの顔を交互に見やる。恋バナ好きなJKとしては見過ごせなかった。
デートと言われた二人は、メルドは少し恥ずかしそうに後頭部をぽりぽりとかき、セントレアはあからさまに赤い顔であたふたとする。
「なるほど、セントレアさんの方がデートって意識が強いわけね。んふふ、乙女だし」
「ち、ちちち違うぞ!だ、断じて私はで、デートにゃどとっ!」
「はいはいごちそうさま。それで、何にする?」
ニマニマと笑いながら、本来の目的を果たす美空。変わり身の早さは、普段の彼女とネットアイドルの時のテンションの違いレベルに早かった。
石動美空17歳、他人の恋路が気になるお年頃である。
「私のオススメはパスタだけど」
「じゃあ、それをもらおうか」
「ああ、私もそれでいい」
「おっけー。パスタ二つ入りまーす」
楽しそうに軽い足取りで厨房に向かう美空に、二人は互いの顔を見合わせクスリと笑った。
それから程なくして運ばれてきたパスタは、美空がお勧めというだけあってとても美味だった。あっさりした味付けで重くなく、昼食としてはぴったりだ。
「上手いな、これ」
「ああ。やはり私の目に狂いはなかった」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな」
カウンターに肘をついて笑う美空。その発言から、このパスタは彼女が作ったことを二人は悟る。
「二人は幼馴染なんだっけ?」
「ああ。といっても、7つも離れてるから兄妹みたいなものだ」
「ムグムグ、まあ、そんなところだ」
「そっか。いいよね幼馴染って。互いのことをよく知っててさ」
二人の顔を交互に見ながら美空は言う。彼女の脳裏には、いつもふざけてばかりの男と、普段は気弱だか自分のことを第一に考えてくれる愛しい少年の顔が浮かんでいた。
「……そういえば、シュウジ殿とハジメ殿は、美空殿の」
「あー、そう言う暗い雰囲気にならなくていいよ。あの二人が死ぬわけないし。っていうかシュウジがあれば大体なんとかなるし」
「そこはあるではなくいるではないのか?」
今もハジメに突っ込まれながら適当に楽しくやってるんだろうなー、と言う美空。そこに全く悲壮感はなく、言葉通り生存を信じきっている。
そしてそれは、二人も同じことであった。この世界に来て初日のエボルトとのパフォーマンスや戦闘技術。たとえ明日魔族が攻めてきても余裕で倒しそうだ。
それから二人が食べ終わるまで三人は幼馴染談義をし、店に来てから30分ほど経過したところで会計するのに席を立った。
「お会計は二千ルタです」
「うむ」
「ああ」
二人はポケットとポーチから財布を取り出す。そしてふと互いの財布を見て、全く同じ形、同じデザインのものであることに気がついた。
「メルド、お前もそれを使っているのか」
「ああ。流石にボロくなってきて、買い換えた」
「そうか、私もだ………ふふ」
急に笑ったセントレアに、メルドと美空は首をかしげる。
「どうした?」
「いや……お揃いだと思ってな」
見るものが見ればお金さえ取れそうな笑顔で、メルドを見上げるセントレア。あまりに綺麗なその顔に、メルドは今日三度目になる照れ隠しをした。
(ふーん、こっちも意識はしてると。これはニヤニヤ案件〜)
キュピーンと目を光らせる美空。石動美空17歳、他人の恋路がとても気になるお年頃である。
そんな美空の視線はつゆ知らず、二人は会計をすませると店を後にした。側から見るとカップルにしか見えない二人の背中を見送り、美空は仕事に戻る。
「それで、次はどこへ行く?」
「実は俺も、少し気になるところがあってな」
今度はメルドがセントレアの手を引いて、ある場所に向かっていく。
向かう先はレストラン街の反対に位置する、大通りよりさらに喧騒の大きい歓楽街。その道の一番奥に建造された、ひときわ大きい建物。
その建物の周りでは無数の屋台が立ち並び、建物……舞台劇場に入っていく人々に呼びかけて、酒や間食などを売っている。
そして、劇場の外壁には大きな垂れ幕が下がっており、新しい劇を公演していることが大きく描かれていた。下には公演の時間も書いてある。
「次の時間は……あと10分後だな。席は取ってあるし、先にあっちにいくか」
メルドは引き続きセントレアの手を引いて、とある場所へ向かう。ちなみに人混みの間を通り抜ける間、周囲から微笑ましい視線が向けられていた。
食べ物を扱う露店から外れ、自作の服やアクセサリーなどを売っている区画に入る。その中でメルドが目指すのは、それなりに大きな露店。
その露店では、帽子を売っていた。様々な種類の帽子が積み重ねられ、その中心で艶のある濃紺の長髪の女が帽子を縫っている。
「おう」
「あら、騎士団長様、じゃない」
メルドが声をかけると、帽子を縫っていた店主の女はゆったりとした動きで顔を上げた。その拍子に見えた美貌にセントレアは息を飲む。
「今日は、可愛い彼女さんを連れて、どんなご用かしら」
「彼女じゃない、幼馴染で同僚なだけだ」
「あら、そうなの。ねえ、そうなの女騎士さん?」
退廃的な雰囲気を持つ女性は、のんびりとした口調でセントレアに問いかける。セントレアは真っ赤な顔でブンブンと頭を横に振った。
「あら、残念。お似合いなのに」
「にゃ、にゃにをっ!」
「からかうなよ。それより、アレまだあるか?」
「ええ、あるわよ。騎士団長様が、熱心に眺めてたから、残しておいたわ」
マイペースな動きで縫いかけの帽子を置くと、女は一つの帽子を取り出して差し出す。ピンク色のリボンがついている、幅広の白い帽子だ。
「四千ルタ、ね」
「わかった」
メルドは帽子を受け取ると女に金を払い、おもむろにセントレアに差し出す。いきなり帽子を差し出されたセントレアは目を瞬かせた。
「これ、被ってみろ」
「い、いや、だが私は……」
「いいから、ほら」
遠慮するセントレアに、メルドは無理やり帽子をかぶせた。「わっ!?」と声を上げるセントレア。
しばらくあたふたとして、少し落ち着くとセントレアは恐る恐る帽子に触れた。そして微妙に調整し、違和感のない位置に被り直す。
「……ど、どうだ?」
「わ。とっても、良い」
「やっぱりな。一目見た時からお前に似合うと思ってたんだ」
「……そうか」
褒められた恥ずかしさから、セントレアは帽子のつばで顔を隠す。年頃の少女のようなその仕草に、メルドは思わずキュンとし女は笑った。
「さて、そろそろ公演の時間だ。劇場にいくか」
「ああ」
「また、ね。騎士団長様と、可愛らしい女騎士さん。帽子を買うときは、ご贔屓に」
手を振る女に挨拶し、二人は劇場の前まで戻る。心なしか、セントレアがメルドに近づいていた。
「その、メルド」
しばらく歩いていると、ふとセントレアが声を出す。目線をそちらにむけるメルド。
「ん? なんだ」
「……ありがとう」
「帽子のことか?」
「ああ。私にはこういうもの、あまり似合わないからな」
少し残念そうに言うセントレア。騎士として忠誠を国に捧げた彼女ではあるが、当然普通の女性らしい心もある。
だが正義感と責任感の強さからどうしても騎士としての職務や鍛錬を優先してしまい、いつしか私に女の子らしいものは似合わない、と思うようになった。
そのため他の女騎士と違って普段はこのように着飾ることもない。だからメルドにこの帽子が似合っていると言われたのは嬉しかった。
ちなみに、彼女が女の子らしい服を着ない理由の半分以上は腹筋が割れてるかr(ピチュン
「何を言ってる。お前は立派な女だろう」
それに対して、メルドは少し呆れ気味にそう即答した。内心ではむしろこいつが女でなかったら他の奴らなど女ではない、などと考える。
メルドの言葉に、セントレアの方がぴくりと震えた。そうすると帽子の陰から、メルドの横顔を見上げる。
「……本当にそう思うか?」
「ああ。幼馴染の俺が断言する」
(本当は一人の男として、と言いたいところだが……まあ、これくらいがちょうど良いだろう。こいつも若いし、幼馴染とはいえ俺みたいなおっさんにあんま褒められるのもあれだろうし)
またも内心遠慮して答えるメルド。セントレアは数秒ジッとメルドの顔を見ると、目線を落として呟いた。
「……幼馴染、か。今は、それで良いか」
「?なんだって?よく聞こえんかったぞ?」
「なんでもない。早く行こう、始まってしまうのだろう?」
セントレアが少し早足になる。メルドは一体なんだ?と首を傾げながら、彼女の隣に追いついて歩くのだった。
後編に続きます。
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