かぐや様は告らせたい、めっちゃ面白いです。特に今回の9話はサービス?回もあってか、いつも高い作画レベルが特に高かった気がします。
それはさておき、今回は前回の後半です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「いやぁ、面白かったな!」
「うむ、そうだな」
三時間に渡る劇を見終え、会場から出てきたメルドの第一声はそれだった。
メルドの顔には普段の活発さとは違った、ワクワクとした笑顔が浮かんでいる。目はまるで年頃の少年のようにキラキラとしていた。
それはメルドたち同様、公演を見た他の男性客も同じである。中には涙ぐんでいるものもおり、さすがは公開から二週間足らずで満席となるほどというところか。
「1,500年に渡る旅の末、主君に聖剣を還した騎士。これほまさに忠義!やはり俺の目に狂いはなかった」
「友だった弓使いの騎士との戦いは、辛いものがあったな」
良い酒を飲んでいる時か、強い相手と模擬戦をしている時以上に楽しそうに話すメルドに、セントレアは相槌を打ちながら微笑んだ。
ちなみにこの劇は続きものであり、これまで五つの物語があって、メルドは公開されるたびに見ていたりする。その中でも今回は屈指のものであった。
また、この劇は、セントレアも楽しめた。特にセントレアが見入ったのは、誰にも触れられない毒の体を持つ少女が世界を救う旅をする少年を密かに慕うところだ。
「む、いかん」
「?どうした?」
劇の感想を交わしていると、不意にメルドが険しい顔をした。首をかしげるセントレア。
「どうやら、財布を落としたらしい」
「そ、それは大変だ!私も探そう!」
「いや、お前は入り口で待っててくれ。すぐに見つけてくる」
一言断ったメルドは、踵を返すと会場の中に戻る。そして自分の座っていた場所にいき、財布を探し始めた。
「お、あったあった」
幸い、すぐに財布は見つかる。財布を拾い上げ、表面をパンパンと叩くとポケットに入れた。そうすると会場を後にする。
そのまま外まで出て、セントレアを探す。するとすぐに見つかった。すぐにメルドは近づこうとして……あることに気づいてピタリと立ち止まった。
「なあお姉さん、いいだろ?」
「いや、結構だ」
セントレアは、一人の青年に声をかけられていたのだ。
明らかに軽薄そうな青年は、視線を8割がたセントレアの胸に向けながら話しかけている。対する彼女は迷惑そうな顔であしらっていた。
要するに、ナンパである。格好からして新米の冒険者であり、おそらく最近どこかの村から出てきたのだろう。普通なら〝天閃の白騎士〟をナンパなどしない。
「そう言わずにさ、俺これでも紫ランクなんだぜ?結構高いだろ?」
「興味ないな」
「つれないなぁ。別にちょーっと付き合ってくれるだけでいいんだぜ?そう、ほんの一日だけ……」
「あいにくと、先約があってな。さっさと何処かへ行ってくれ」
その光景を見て、メルドの胸に、 ムカムカとした感情が湧いてきた。あのような男が彼女の前に立っていると思うと、非常に腹立たしくなる。
要するに、独占欲である。
「俺のツレに何か用か?」
それに従い、メルドはズンズンと荒い足取りで近づいていくと、後ろからセントレアの腰に手を回して引き寄せた。驚いて顔を上げるセントレア。
「あん?なんだよおっさん、俺は今……ってメルド・ロギンス王国騎士団長!?」
悪態を築こうとした青年は、自分の目の前に立っているのが〝あの〟メルドだと気づくと途端に狼狽えはじめた。
冷や汗をかいて動揺する青年を、メルドはやや鋭い瞳で見下ろす。民を守る騎士としては間違っているのだろうが、男として譲れないものがあった。
青年はすぐにその視線に負け、へらへらとした笑みを浮かべると、「いや、別になんでも」と言って去っていった。フンと鼻を鳴らすメルド。
「セントレア、平気だったか?」
「…………」
「セントレア?」
メルドが二度名前を呼ぶが、俯くセントレアからの返答は返ってこない。首をかしげるメルド。
(やばいやばいメルドに触られてる顔が熱い恥ずかしいでも守ってくれて嬉しいいや待て腹に触れてるということは私の腹筋がいやその前にこの前他の女騎士たちと結構ケーキ食べてもし脂肪がついてたらうわああああああああああああああああ!!!)
ちなみに、セントレアの心境はこんな感じであった。激しく心臓を高鳴らせ、今にも湯気が出そうな赤い顔を見せまいとする。
無論、戦闘中にピンチになって引き寄せられたことは何度かある。しかし、これはそれとは別だ。今にも心臓が破裂しそうであった。
結局、セントレアがなんとか普通の状態に戻ったのは10分後だった。またナンパでもされては面倒なので、劇場の側から離れる二人。
「本当に平気か?」
「あ、ああ」
(大丈夫だから、あまり顔を近づけないでくれ。恥ずかしいからぁ……)
心配そうに覗き込んでくるメルドに、ギリギリポーカーフェイスを維持するセントレア。そろそろキャパオーバーしそうである。(※まだ付き合ってません)
歓楽街を抜けた二人は、中央広場に行くとそこで休憩することにした。劇は完成度が高く、その分頭を働かせたので少々疲れたのだ。
「ふぅ、ここは涼しいな」
「うむ」
噴水のへりに腰かけた二人は、のんびりとした口調でそう言い合う。そのまま会話をせず、ほわほわとした雰囲気で心身を休ませた。
「あっ!メルドさんとセントレア姉ちゃんだ!」
しかし、早々に休憩は終わりを告げた。
セントレアを指差している少年を筆頭に、数人の少年少女が広場の入り口から駆け寄ってくる。そして二人の前にわらわらと集まった。
「おお、お前ら。今は散歩の時間か?」
「うん!二人は何してんだ?」
「まあ、俺たちもお出かけだ」
「へー!」
活発そうな少年の頭を、メルドは優しく微笑みながら撫でる。慈しみ溢れるその表情に、デートだと少女達に絡まれているセントレアは横目に見てふっと笑った。
この子供達は、王都にある教会で保護されている孤児である。止むを得ず教会の前に捨てられていたものや、あるいは親を亡くしたものだ。
ちなみに、セントレアもそのうちの一人である。親を失い、塞ぎ込みがちだったセントレアを、メルドはよく連れ出していた。
その後、遊びたがる子供達にセントレアは連れていかれてしまった。慌てながらも相手するセントレアを、メルドはぼうっと眺める。
「失礼」
「うん?」
すると、不意にすぐ近くから声がした。
●◯●
そちらを見ると、人一人分空いた場所に帽子を被った中年の男が座っている。鋭い眼光にアロハシャツ、ハーフパンツと、独特な風体の男だ。
「俺に何か用か?」
「騎士団長様がいたから、つい声をかけたくなってね。今は白騎士様とのデートかな?」
陽気な口調で話す男。また先ほどの男と同じタイプかと一瞬思ったメルドだが、男の纏う雰囲気はあれとは全くの別物に感じた。
ちらりとセントレアを見た男が、面白そうな声音で尋ねたことにメルドは答えようとするが、セントレアに聞かれていないので答えなかった。
「いいねぇ、その表情。良いものを見せてくれた例に、ちょっとした占いをしよう」
「占いだと?」
不思議に思うメルドに、男はぴっとどこからともなく長細いカードを取り出す。そこに描かれているものを見て、男は頷く。
「ふむ、運命の正位置か……騎士団長さん。これから先、あんたには大きな変化が訪れるだろう」
「変化?」
「ああ。そしてそれは、人生を変える変革だ。ゆめゆめ、流されないよう気をつけることだな」
「人生を、変える……」
「ま、しがない占い師の戯言だ。心持ち程度に覚えといてくれ」
「それじゃあ、チャオ」と言い残し、男は立ち上がると広場を去っていった。最後まで不可思議だった男の背を、メルドは見送る。
「セントレア姉ちゃん、また遊ぼーな!」
「ああ。帰り道には気をつけるのだぞ」
「「「はーい」」」
男の言葉の意味を考えているうちに、セントレアが子供達と別れて戻ってきた。
「すまない、せっかくの日なのに」
「………」
「……? メルド?」
何やら考え込んでいるメルドに、セントレアは首をかしげる。試しに手を振ってみるが、反応はない。ますます変に思うセントレア。
「おい、メルド。聞いているのか?」
「ん? うおっ!?」
肩を揺すられて我に返ったメルドは、超至近距離にある少し不満そうなセントレアの顔に驚き、バランスを崩して後ろに倒れた。
慌ててセントレアが手を掴み、なんとか噴水に落ちることは回避する。両者ともに、ほっと安堵の息を吐いた。
「すまん、助かった」
「いや……それより、どうかしたのか?あんなに呆けているのは珍しいではないか」
「少し、な」
曖昧な言葉にセントレアは不思議に思いながらも、隣に座りなおす。メルドも一旦、占いのことについて考えるのをやめた。
「しかし、子供というのは元気なものだな。こと体力なら、私たち騎士と変わりないような気さえする」
「ああ。まったく羨ましいことだ、こちとらおっさんで大変だというのにな」
「そんなことはないぞ。メルドは渋くてカッコい……」
そこでハッと我に返って、慌てて言葉を止めるセントレア。が、既に9割五分言ってしまったので意味もなく、メルドは照れ臭そうに頬をかいた。
(あああああ私としたことがやってしまったぁ!今日は失言が多すぎる!いくらだ……大好きなメルドとので、ででででデートとはいえ、浮かれすぎてはいかん!)
既に十分浮かれていることを、彼女は自覚していない。
あぅあぅと顔を赤くするセントレアと、むず痒い気持ちで体を揺らすメルド。二人を中心に、広場の中へ桃色の空気が広がっていく。
「なあそこの兄ちゃん。俺に壁を売ってくれよ………」
「ほう。この僕を殴り用壁専門の売人と見破るとは。貴方……
「ふっ、よくわかってるじゃねえか。で、10枚でいくらだ?」
「いえ、新たな同士に会えた感謝の印に、今回はタダでいいです」
「おお、ありがとよ兄ちゃん」
ちなみにそんなやりとりをする二人組がいたとかいないとか。
二人は30分ほど休憩(互いに照れまくっていてできたかは甚だ疑問だが)すると、広場から出て今度はセントレアの望む場所へと向かう。
「どこに行くんだ?」
「実は、これから向かうところは、本当は一人で行こうと思ってたんだ。でも……」
そこで言葉を止めるセントレア。そして、ちらりと帽子の陰からメルドの顔を伺った。
「なあ、メルド。この帽子、似合っているか?」
「ん?なんだ急に。買った時も言ったが似合ってるぞ」
「じゃ、じゃあ……可愛いか?」
んぐっと喉を詰まらせるメルド。似合っているという言葉ならさほどそれっぽくもないので平気だが、いざそういう単語になると別だ。
無論、可愛くないと思っているわけではない。むしろ心の片隅では可愛いと常に叫ぶメルド(小)がいる。しかし羞恥心がそれ邪魔していた。
「ま、まあ……そうなんじゃないか?」
「そうか……なら、よしっ」
メルドの返答に、あることを覚悟するセントレア。そんな内心を知るよしもないメルドは、なにやら気合を入れている彼女に首をかしげる。
それから歩くこと数分、セントレアはとある場所の前で立ち止まった。つられて足を止めたメルドは、その場所を見て目を見開く。
「ここは……」
「ほらメルド、入るぞ」
メルドの手を引き、セントレアはその店……〝ドレス専門洋服店〟に足を踏み入れた。
店の中には、様々なドレスが所狭しと並べられていた。シンプルなデザインのものもあれば、一流貴族の令嬢が着るような煌びやかなものもある。
王宮でのパーティー以外では見慣れないそれらにメルドが圧倒されているうちに、セントレアは店員の一人に話しかけ、あることを頼んだ。
「メルド、こっちに来い」
「あ、ああ」
「ここで待っていろ、いいな?」
セントレアはメルドの背を押して、椅子に座らせる。そうすると店員とともに、目の前にある試着室へと入っていった。
ぽつん、と残されたメルドは、閉められたカーテンを見つめる。頭の中にははてなマークが乱立しており、居心地の悪さにもぞもぞとした。
当たり前だが、メルドは普段女性物の服が売っている店になど行かない。ましてやドレスなど、戦場と訓練場がホームのメルドには無縁もいいところ。
(お、俺は本当にここにいていいのか!?そもそも、なんでセントレアはこんなところに……)
無論、ドレスを売っている店に来て女性がすることなど一つなのだが、動揺しまくっているメルドにはわからない。
キョロキョロと周囲を見回し、他の女性客の目線を気にする。頭の中ではいるだけで殺されるのではないか、などと見当外れなことを考えていた。
「ねえ、あれってメルド様だよね?」
「はい、そうですお嬢様」
「わぁ、かっこいい……!」
「あら、かっこいいおじさまだわ」
なお、現実は件の〝勇者の師匠にして騎士団長〟のメルドがいることに、客の令嬢や少し裕福な若奥様などがひそひそと囁き合っていた。
それを奇異の目と勘違いするメルドが地獄の思いでいると、シャー……と音を立ててカーテンが開く。瞬時にそれを聞き、メルドは顔を上げた。
そして、メルドの目に映ったものはーー
「ど、どうだ?」
ーー純白のドレスに身を包んだ、セントレアだった。
●◯●
質素ながらもところどころに見事な刺繍のされたそのドレスは、上等な職人が作ったと感じさせる。ただそれだけでため息が漏れるような出来だ。
だが、真に注目すべきはそれを着るセントレア。美しい真っ白なそれは、セントレアをいつもとは一味違う別の存在へと変わらせている。
髪をセットし、少し恥ずかしそうに微笑むセントレアは、まさしく天使のごとき可憐さであった。
「ーーー。」
絶句するメルドの内心を表すとするならば、圧巻。この世で最も美しく、尊いものを見たかのような圧倒と、思わず気絶さえしてしまいそうな感動。
脳裏に鐘の音と聖堂が浮かび、花束を持って微笑むセントレアがいる。そんな妄想をしてしまうほど、セントレアはとても美しかった。
「メルド? その、あまり見つめられると恥ずかしいのだが……」
「っ!?」
頬を赤くするセントレアに、メルドは我を取り戻す。バッと横を向くと、ニヤニヤとしそうになる口元を手で隠した。
(なんだ!?なんだこの胸の高鳴りは!今までこんなもの、一度も感じたことがなかった!確かにセントレアは俺個人の意見としては世界一美しいが、これはあまりにもーー)
「メルド?どうした?」
高鳴る心臓と熱い顔をどうにかしようとしていると、セントレアが下から覗き込んできた。不意な上目遣いにズッキューンとくるメルド。
「な、なななんでもない。そそそれより、その姿勢でいると髪が崩れるのではないか?」
嘘である。この男、セントレアの上目遣いをこのまま10分ほど堪能したいと思っている。
「む、それもそうだな。それで、どうだこれは。どう思うのか感想を聞きたいのだが」
嘘である。この女、メルドの真っ赤な顔からどう思っているかは分かっているが、本人の口から聞きたいだけだ。
「ま、まあそうだな、よく似合ってるんじゃないか?はは、俺なんかが触れてしまえば壊してしまいそうだ」
嘘である。この男、もし付き合っていればこの場で抱きしめたいほどセントレアのドレス姿にキュンキュンしていた。
「ふふ、そんなことないさ。ただ触られただけでどうにかなる私ではないぞ?」
嘘である。この女、実は嬉しさと恥ずかしさで割といっぱいいっぱいであり、手の一つでも握られようものなら即座に死ぬ(比喩)。
「しかし……どうして急にドレスを?」
「……私だって、可愛いものに興味はある。だが帽子の時も言った通り、私は女らしくないところが多々あるのでな。普段は遠慮している」
「そういえばお前、ガキのころはお嫁さんになるのが夢、なんて言ってたしな」
「な、なぜそんなことを覚えているのだ」
(それに、私がなりたいのはお嫁さんじゃなくて、メルドの……っと、今はそうではない)
「だからたまたまこのドレスを見かけた時、着てみたいとは思いつつ、諦めていた。だが……」
「だが……?」
オウム返しに聞き返すメルドに、セントレアはふっと笑う。それだけでメルドのハートに1000ほどダメージが入った。
「メルドが、女らしいものを似合っていると言ってくれた」
「!」
「だから、勇気を出して着てみようと、そう思ったんだ」
「…………………………そうか」
(うっそぉぉぉぉぉ!?)
叫ぶメルド(心)。表面上は真面目な顔をしつつ、心臓の鼓動のスピードがマッハの域に達しようとしていた。
(俺が帽子を似合っていると言ったから、このドレスを着ただと!?そ、それはつまり、俺のために着てくれたと言っても過言ではないのではないか!?)
普通ならまごうこと無き過言だが、実際セントレアはメルドに見せたいがために勇気を出したので過言ではない。
(くっ、自意識過剰だとはわかっているが、年甲斐もなくもしやと思ってしまう!いや待て、勘違いするなメルド・ロギンス!セントレアとは七つも離れているんだぞ!こんなおっさんのためにそんなことするはずがない!)
(メルドが急に押し黙ってしまった。もしかして、やっぱり似合ってないのではないか……?いやでも、それならあんな顔はしないし……うぅ、心配だ。すごく心配だ)
(うわー、この二人身振り手振りで考えてること丸わかりだよ。可愛いなー)
かたや勘違いするなと自分に言い聞かせ、かたや自分の魅力に不安を感じる。ピュアな二人に、セントレアを着付けた店員は生暖かい目をした。
それからセントレアはいくつかポーズなどをとって楽しみ(その度に内心メルドが悶絶していた)、満足するとドレスを返して店から出る。
「ふぅ、楽しかった」
「それは良かったな。もう少しいても良かったんじゃないか?」
(と、口では言うものの……あと五分あの場所にいたら耐えきれず死ぬ(比喩)ところだったな)
「いや、いいんだ。もう当分着ないだろう」
「……そうか」
ちょっとメルドが残念に思っていると、「そうだな……」とセントレアがおもむろに言葉を続ける。
「次に着るのは……多分、〝結婚〟する時だろうな。誰ととは言わないが」
「ブフッ」
結婚というキーワードに、メルドが小さく吹き出す。そんなメルドを、セントレアは熱のこもった目で見た(※まだ付き合ってません)。
「まあ、それはさておき。さあ、次の場所へ行こう」
ふっと微笑んだセントレアは、固まるメルドの手を引いて歩くのだった。
その後いくつかの場所を回ったが、メルドの頭にはセントレアのドレス姿と結婚という単語が焼き付いており、記憶が曖昧だった。
カップル限定スイーツを食べている時も(※付き合ってません)、再び子供と遭遇し、両親役でおままごとに付き合ってる時も(※付き合ってません)、常にドレス姿が脳裏にあった。
数時間も経つと日が暮れ始め、店主は露店をたたみ、町民たちは各々の家へと帰っていく。二人もお出かけを切り上げ、騎士団本部に戻ることにした。
「今日は楽しかったな」
「そうだな、いつも通り楽しかった」
(途中、ドレス姿を見たときはどうなることかと思ったが……まあ、なんとか最後まで耐えきれた)
内心安堵しつつ、それとは別に今回のお出かけも楽しかった、とメルドは思う。気心の知れた相手と過ごす休日は、とても充実していた。
「……でも、もうすぐこんなこともできなくなってしまう」
「……うむ」
いずれ、この平穏には終わりが来る。魔人族との本格的な戦いが始まれば、このような時間は過ごせなくなってしまうのは確実だ。
「そのためにも、必ず戦争には勝たなくてはな」
「当然だ。民を守るためにも、絶対に勝つ」
ぐっと拳を握るメルドに、セントレアも頷きながら右の拳を重ねた。
雑談しながら歩いているうちに、門の前にたどり着く。夕暮れの日に照らされた門はオレンジ色の光を反射し、また違った趣を見せている。
二人の帰還に気づいた門番が声を上げ、あちら側にいるものが門を開けた。メルドは門番にありがとうと頷きながら、門をくぐる。
「明日の訓練は早い、すぐに寝るか」
「……………」
「……? セントレア?」
メルドが立ち止まって振り返ると、セントレアは門の前から動いていなかった。一体どうしたのかと思い、歩み寄るメルド。
近くで見ると、セントレアは何かを思い詰めるような表情をしていた。キュッと胸のところで手を握り、青い瞳で地面を見つめる。
「いったいどうしたんだ?」
「………メルド。さっき言ったよな、もうすぐこんなこともできなくなるかもしれないと」
「あ、ああ」
「…もし、魔人族との戦争で、私かお前に何かあれば。二度とこのような機会はないかもしれない」
「……それは」
確かにそうだった。いくらトータス内では最強クラスの二人といえど、この戦いはいつもと違う。何千、何万という魔物が魔人族とともに襲い来るのだ。
もし、命を落としたら。その心配は戦場においては常にあるが、今回に至っては何もかもが未知数。光輝たちがいるとはいえ、死ぬ確率は非常に高い。
「もし、これが最後になったら。そう思うと私は、とても怖い」
「……………」
「だから、私は………」
「セントーー」
メルドが、最後までセントレアの名前を呼ぶことはなかった。なぜなら……
「ん……」
「ーーっ!?」
「忘れないでくれ。私はいつも、お前の身を思っていると」
それだけ言って、セントレアはそそくさと建物へと走っていった。後に残ったのは、石像のごとく硬直しているメルド。
そのまま五分ほど固まっていたメルドは、緩慢な動きで自分の頬を触った。そこに僅かに残る柔らかい唇の感触が、心に強く染み込んでいく。
「…………………寝よう」
さっと踵を返したメルドは、もはや四倍速くらいになってる鼓動を誤魔化すように、足早に……ほとんど走っているが……建物の中へ入っていくのだった。
ーーそして、この日から一週間。メルドは忽然と姿を消した。
次回は…うーん、女子会にでもしようか。
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