どうも、今週のかぐや様見てさっさとくっつけよコラァ!と叫んだ作者です。
キャプテン・マーベル観に行ったんですけど、あれ超面白いですね。記憶を辿るうちに明らかになる真実、圧倒的な戦闘シーン。個人的にはかなり見応えがありました。
今回と次回は雫の話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「ふんふふーん♪」
その日雫は、城下町で一人で過ごしていた。
周りには勇者(笑)や、元脳筋(ドルオタ)や、天然幼馴染(最近ちょっと危険。花的な意味で)もいない。正真正銘、一人だ。
そのため足取りは軽く、鼻歌を歌うほどに上機嫌。それは、少なくとも今日は余計な心配ごとをしなくて良いために他ならない。
光輝は騎士団に預けてきたし、龍太郎は鈴と最近恒例の漫才(?)。香織は美空とセントレアと三人で、一日茶会だ。
「ああ、ビバ自由……!」
そのため、両手を小さく広げてそんなことを言っちゃうくらい雫は気分が良かった。素晴らしきかな無責任、麗しき一人の時間。
普段の彼女は非常に多忙である。鍛錬に
雫とて、いつもオカンなわけではないのだ。たまには一人になって羽を伸ばすこともある。いや、そもそもオカンではないのだが。
「しかしまあ、最近は楽よね。おバカの一人がもうおバカじゃないから」
拳と脳が直結しているような
代わりに最近鈴と何やら騒がしくやっているが、そこは本人に何とかしてもらう他ない。というかオカン的にはさっさとくっついてほしい。
「ま、本人たち次第よね」
雫にできるのはせいぜい、自分がシュウジを落とすのに使った方法のうち、できそうなやつを鈴にそれとなく教えるだけである。
ちなみに、
言動がやや奇怪ではあるものの、あのルックスに加え超万能。ふざけてなければ、本当にふざけてなければあれほど頼りになる男もいない。
そんなシュウジとイチャイチャしまくってた雫には、クラスメイトのみならず、誰かに想いを馳せるメイドや女騎士も相談しに来ていた。
「さて、どこに行きましょうか」
そんな日々の重圧(まだ17歳です)から解放された雫は、冷静沈着な彼女らしからぬワクワクとした声音で周囲を見渡す。
最初に目をつけたのは、ガラス細工の店。まるで地球の店のように外にアクセサリーを飾っている(ただし見張りつき)ので気がついた。
「ねえシュー、あそこに行ってみた……」
言いながら隣を振り返って、そこに誰もいないことに気づいてハッとする。今、いつも自分の隣にいたあの騒がしい恋人はいないのだ。
若干苦々しげな顔をした後、雫は店に近づいていく。そして店頭に飾られている商品を手にとって眺めた。
美しい猫の彫刻だ。地球のものほどではないが、かなり透き通っている。魔法を使って加工しているのだろうか。
「へえ……」
「………」
熱心に見つめる雫に見張りが一瞬ちらりと見やるものの、すぐに興味なさそうに前を向いた。
これは雫が来ているパーカーの効果である。これを着ている間、雫は雫と認識されない。幻覚魔法を使ったマジックアイテム。
時折新聞にも載るほどの有名人である雫は、地球にいた頃から何かと話しかけられた。シュウジとのデート中であっても、だ。
愛する少女が尊敬されるのは良いとしても、デートの邪魔をされるのは……と、シュウジが作った。さらっと地球にファンタジー要素を持ち込む男である。
そしていまや、雫は勇者パーティの一人。外に出るときは非常に重宝していた。
「シュー様様ね……っと。他には何があるのかしら」
持っていたものを戻して、その隣にあった……色違いの猫の像を取る雫。また丹念に見つめて、戻してさらに隣の赤い猫の像を取る。
他にも猫型のネックレスや猫の模様が入ったブレスレット、猫の頭の形をした手鏡などなど、様々なものを見る雫。目は猫のように爛々としていた。
一通り見終えて満足すると、一番気に入った手鏡を購入。店を後にする。
「えへへ、いいもの買っちゃった」
歩きながら、普段の凛とした微笑みとは違う、少女らしい笑顔で手鏡を見る雫。彼女は無類の猫好きである。
ついでに言うとシュウジの家には飼い猫がおり、彼女が彼の家に通っていた理由の三割だったりする。残りの七割は無論シュウジだ。
「ムタ、元気かなぁ。またお魚食べ過ぎてないといいけど」
むすっとした北野家のまんまる猫を思い出し、頬を緩める雫。格好いい彼女しか知らないものから見れば、かなり驚くだろう。
「まあ、度を超えてたらバロンが諌めてるか。早く帰らなくちゃ。シュウジとの結婚的な意味でも」
式場の予約っていつまで有効だっけ、などと呟きながら歩く雫。
しばらく歩いていると、また気にかかるものを見つけた。まるで吸い寄せられるように、その場所に近づく雫。
猫の形に掘り抜かれた看板に、トータス語で〝かわいい子いっぱい!〟という触れ込み。そして極め付けに〝猫の喫茶店〟の表札のついたその建物。
「これは……行くしかない!」
瞳をハート型にした雫は、店の扉を開ける。するとカラカラと扉につけられていた鈴が鳴り、来店を知らせた。
そして扉の向こうにあったのはーー猫の楽園。いたるところに猫が闊歩し、音に反応して雫をクリクリっとした目で見てきた。
「ふわぁ…!」
いつもの彼女からは考えられないような感嘆のため息を漏らし、キラキラと目を輝かせる。見れば、とろけた顔の同年代か妙齢の女性が店内にいる。
鈴の音によって近づいてきた店員に案内され、雫は入り口に近い席に座った。適当に飲み物と軽食を頼むと、早速
「ふふ、誰から可愛がりましょうか……」
「ニャー(おうアンタ、見ねえ顔だな。新参者か?)」
「あら、最初はあなたね」
近づいてきた黒猫を抱き上げ、スリスリと顔を擦り付ける。柔らかな毛並みが頬を撫で、雫は「ふヘヘへ」と、ちょっと人にお見せできない顔をした。
ひとしきり顔で猫を堪能すると、今度は膝に乗せて背中を撫でる。爪を立てないよう、ゆっくりと、かつ繊細にツボを押した。
熟練と言って差し支えない雫の絶技に、黒猫は「ニャーン」と甘えた声を出して、足に顎をこすりつけた。思わず微笑む雫。
「ふふ、可愛いわね。そういえば、最近バロンと仲よかった猫ちゃんは……」
またハッとする雫。正面の椅子を見るが、そこに優しい顔で雫の話に相槌を打つシュウジはいない。
どうやら先ほどの店でのことしかり、あまりにもシュウジがいることが日常化していたせいで、無意識に話しかけてしまうようだ。
そう認識した瞬間、急に心寂しくなってくる。猫を撫でていた手も止まり、まどろんでいた猫は目を開けて雫を見た。
「前は、こんなことはなかったんだけどなぁ……」
一緒にいなくても、世界の何処かに必ずいるとわかっていた。しかし今は、絶対にシュウジがいるという証明はどこにもない。
生存を信じている。むしろ死ぬなどあり得ない。そう絶対的に思っていても、やはり心の隅には寂寥感が募っていたのだろう。
「ニャ〜(元気だしニャ、嬢ちゃん)」
「あら、慰めてくれるの?」
「ニャッ(おうよ。ハードボイルドな男は寂しがってる女の子を放っては置かニャいぜ)」
「ふふ、ありがと」
テシテシと肉球で頬を叩いてくる黒猫に、雫は少し可笑しそうに笑った。頭を撫でながら、動物は感情の機微に敏感だなぁと思う。
「うん、いま考えてもどうにもならないことで悩んでもしょうがないものね。全く、我ながら女々しいわ」
「ニャンッ!(お、いい面になったじゃニャいか。それでこそだぜ)」
「だから今は……めいいっぱいあなたを可愛がるわ〜!」
「ニャニャン!?(あっちょ、耳はらめぇ!)」
ウリウリ〜と猫の頭を撫でる。肉球をプニプニしたり、尻尾をいじっているうちに、少しずつ寂しさは癒えていった。
10分ほどして、注文したサンドイッチとコーヒーもどきがくる。ふにゃーんとなった黒猫を膝位におろし、雫は食事を始めた。
「ニャ、ニャァ……(気をつけろ、ニャろうども……この嬢ちゃん、強い、ニャ……ガクッ)」
「「「ニャ、ニャアーーーー!(か、カシラーーーーーッ!!?)」」」
「あら、これおいしい」
案外美味しいコーヒーもどきとサンドイッチを堪能する雫。てっきりそれほどでもないと思っていたが、割とプロ意識が高いようだ。
食べ終えると、そのまま眠ってしまった黒猫を下ろし、なぜか震えている他の猫たちを見る雫。その目は狩人のごとく。
「ふっふっふっ、さあ、次はどの子かしら」
「「「ニャ、ニャニャ………」」」
「みんな可愛がってあげるわ……うふ、うふふふふ」
「「「(こっわ!?このネーチャンこっわ!?)」」」
一匹一匹捕まえていき、どんどん骨抜きにする雫。それはさながら、一人一人確実にヘッドショットしていく殺し屋のようだった。
30分もする頃には、雫の周りにいた三匹の赤いツンツンヘアーの猫、黄色い可愛らしい猫、小柄な青い猫も黒猫と同じようになっていた。
「ふっ……良いモフモフだった」
「何やってるんですの」
「ひゃっ!?」
突然後ろから声をかけられ、ぴょんと飛び上がる雫。いつもなら絶対にあげない可愛らしい悲鳴が漏れた。
恐る恐る後ろを振り向けば、呆れた顔のネルファが立っている。変な声を聞かれたことに、さっと雫の頬が赤くなった。
「み、御堂さん……」
「ごきげんよう、雫さん。それで……」
カーテシーに似た挨拶をしたネルファは、床に腹を見せて転がっている猫たちを見やる。完全にフニャっていた。
「これは?」
「あ、あはは……」
「まったく……猫好きとは聞いてましたが、ちょっとやりすぎてしてよ」
店員にカードらしきものを見せて、寝転がっている猫を回収し雫の座っていた席に座るネルファ。雫も座り直した。
「御堂さんもここへ?」
「ええ。私も猫、好きなんですの」
「へえ、それは聞いてなかったわ」
主にシュウジのことでよく話すようになった二人ではあるが、それなりに自分のことも話している。といっても八割シュウジのことだが。
その中にはまだ、猫好きの話はなかった。
「ああ、そういえばまだ言ってませんでしたわね……猫は好きですわ。まだ彼の方に出会う前、荒んでいた私の心の癒しでしたの」
「ああ、そういう……けど、よく食べなかったわね?」
「前に言いましたけど、食べるものと食べないものの区別はつけてましたわ。こんな可愛らしいものを食べるなんて、とんでもない」
「にゃー」と持ち上げた猫を見ながら言うネルファ。普通に女の子らしい仕草に、雫は若干ほっこりする。
「ふぅん……それじゃあ犬は?」
「犬は嫌いですわ。食い殺そうと襲ってきたので。逆に喰ってやりましたわ」
「あ、そう」
「私たちの世界の犬といえば、人でも同族でも食べる害獣でしたわ。駆除されなかったのは愛玩用に開発された種か、番犬程度でしょう」
「割とシビアだったのね……」
「時々、凶暴化した犬の群れの駆除とかやってましたわ」と嬉々とした顔で言うネルファ。よっぽど犬が嫌いらしい。
それを聞いて、そういえば昔ハジメと美空と遊んでいた時、野良のドーベルマンに襲われてシュウジに助けられたことがあったなと思い返す雫。
二人を守ろうとドーベルマンの前に立ったものの、流石に若干怯える雫の前に颯爽と現れ、霧子キックで華麗に撃退して助けられた。
(あの時のシュウジも格好良かったな。あの後、崩れ落ちた私を家までおぶってくれたっけ)
「雫さん?雫さん、聞いてますか?」
「ん?ええ、聞いてるわよ。チワワに触れようとチャレンジしたんでしょ?」
「ならいいですわ……………そういえば、あの男。ブラッドスタークが王都の近くに出たらしいですわ」
「……詳しく聞かせて」
真剣な表情になり、顔を寄せる雫。ネルファも一旦猫を下ろし、自分たちの周りに音を遮断する魔法をかけると話し出した。
「ブラッドスタークはいつも通りスマッシュを引き連れて街を襲撃。ある程度の破壊行為を行うと消えたそうです」
「そう……これで二十件目だっけ」
「ええ、あるいは確認できてないだけで、小さな村も襲われてるかもしれませんね……そして、ここからが本題。あらすじからの情報によれば、ブラッドスタークは謎の人型兵器も連れていたとか」
「それって、あのウルの街にも出た?」
数日前王城に送られてきた情報を思い返す雫。確か報告には、〝謎の鉄の筒と鋼鉄の体を持つアーティファクト〟と書かれていた。
「おそらくそれと同一のものかと。それと、スマッシュがいつものものと桁違いに強く、漆黒になっていたとも」
「何それ、改良されたってこと?」
「元とはいえ、曲がりなりにも彼の方の半身だった存在。いつどこで遭遇するかわかりませんわ。雫さんもお気をつけて」
「ご忠告ありがとう。貴方もね」
「ご心配には及びませんわ。来たら潰すので」
そこで真剣な話は終わり、ネルファは魔法を解除する。雫は背もたれに背中を預け、息を吐きながらぼーっと天井を見上げた。
あの最初の遭遇から、もうしばらく経つ。雫には相変わらずブラッドスターク……エボルトの目的がわからないでいた。
確かに今のエボルトは以前とは違うのだろう。実際にこうしてテロ行為のようなこともしているし、あの時スマッシュで自分たちを襲った。
だが、雫にはどうしてもエボルトが見たままの悪人に戻ったとは思えなかった。何も確証はなく、ただの勘であるが。
「……ま、それも今考えてもしょうがないか」
「でしょうね。それより猫といえば、彼の方は猫を飼っていると言っていましたわね」
「あ、そうなのよ。ムタとバロンって言うんだけどね?片方はまんまるであったかくて、もう片方はシュッとしててカッコ可愛くて……」
それからしばらく雑談を交わし、雫は会計すると店を出た。
シュウジ特性スマホを見れば、どうやら二時間ほど店にいたらしい。雫はポケットに携帯を戻し、よしと言って前を向く。
「さて、次はどこに行きましょうか」
まだまだ、雫の一日は終わらない。