エボルト「グーテンモルゲン、エボルトだ。前回はミュウを救い出して………げっ!?」
シュウジ「ん?どうしたエボルト。そんな予想外の最悪なものを見た的なリアクションは」
エボルト「いや、なんでもねえ……嘘だろオイ、次回あいつ出んのかよ。作者ふざけんな」
雫「? まあエボルトは放っておいて、いよいよ再会も秒読みになってきたわね……シュー」
シュウジ「なんじゃらほい?」
雫「私、あなたと会ったら……まず、キスするわ。これまでずっとできなかった分、沢山」
シュウジ「……そりゃあ、すげえ楽しみだな。さっ、そんな未来を楽しみにしつつ、今回は雫たちの話だ。それじゃあせーの……」
三人「「「さてさてどうなる再会編!」」」
緑光石で僅かに照らされた洞窟の中に、激しい戦闘の音が反響する。
もとよりあった静寂はもはやなく、あるのは魔法が飛び交う音、あるいは剣戟。はたまた、仲間同士の怒号と合図か。
「シッ!」
抜刀からの一閃で、無数に群がってくる蟻型の魔物をまとめて切り裂く。加えて刀身から斬撃波が飛び、第二陣にもダメージを与えた。
動きの止まった魔物の懐に飛び込んで、下からの斬り上げで三匹を斬殺。そこで後ろから来た噛み付きを跳躍して躱し、攻撃してきた蟻の頭を踏み潰す。
そうすると、部屋の中を見渡して戦況を確認した。残りは蝙蝠型が五十、イソギンチャクもどきが三十、蟻は百と言ったところか。
ここは【オルクス大迷宮】八十九層。この世界の人間においては前人未到の深層にて、私たちは魔物と戦っていた。
「やぁっ!」
「ギッ………」
「キキキキキ!」
「香織、頭を下げて!」
光の刃を持つ錫杖を手に、一番近くで戦っていた香織に走り寄り横から飛びかかっていたイソギンチャクもどきを斬り殺す。
「ありがとう雫ちゃん!」
「ええ、それより前衛組の回復を!」
「うん!」
香織が槍を振りながら詠唱を始めたのを見届け、次に光輝を見た。ちょうど魔法と聖剣を併用して蝙蝠型を殲滅しているところだった。
あちらは問題なさそうなので、自分の持ち場に戻る。少し目を離した隙に、部屋に空いた穴から新たな蟻が出てきていた。
「前衛、カウント十!」
斬れども斬れども減らない蟻に辟易しながら戦っていると、後衛組から魔法の一斉掃射の合図が来た。
私を含め光輝、香織、永山君、檜山君、近藤くんの前衛組全員が「了解!」と答える。後衛に近づけさせまいと、再度刀を強く握った。
これまでより一層ギアを上げて、鍛えあげた技をもってどんどん魔物を減らしていく。全力の攻撃に、魔物の勢いも弱まっていった。
「このまま押し切って……」
「■■■■■■■■ーーーーーッ!!!!!」
と、そこで穴から特大の蝙蝠型の魔物が出てきた。そいつは他の蝙蝠型を率いて、後衛組を殲滅しようと襲いかかる。
だが、それが成功することはなかった。魔物の群れの中心から黄金の鎖が飛翔し、巨大蝙蝠の首に巻きついたからだ。
《スクラップフィニッシュ!》
『オルァアアアッ!!!』
まるで爆発したかのように魔物を吹き飛ばして、黄金の閃光ーーグリスに変身した龍太郎の蹴りが巨大蝙蝠の胸に風穴を開けた。
それだけにとどまらず、前衛組の頭上に落ちる巨大蝙蝠を蹴り飛ばすグリス。一瞬で屠られた巨大蝙蝠は壁のシミに変わった。
グリスは着地するのと同時にツインブレイカーから伸びた鎖を振り回し、私に群がっていた蟻をまとめて絡め取る。
それを雄叫びとともに、後衛組に向かっていた蝙蝠に叩きつけた。約半数の蝙蝠が蟻の塊と衝突し、体液を迸らせて絶命する。
それを見て残りの蝙蝠たちは一瞬躊躇するものの、後衛の魔法がまずいとわかっているのか奇声をあげて再度突撃していった。
『谷口!』
「了解!〝刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め〟。 〝爆嵐壁〟!」
龍太郎が名前を呼ぶと、鈴が前に歩み出て魔法を発動した。これで心配ないと、残った蟻たちの数減らしに意識を戻す。
蟻の動きを観察し、行動を予測して、必要なだけの軌跡を導き出して斬る。一刀振るうごとにさらにそれを少なくし、効率を高めていく。
戦いの中で己の技を練磨する。シューに教わったこの極意は、この世界に来た頃よりずっと私の戦闘能力を引き上げていた。
「後退!」
刹那の思考・調整を繰り返すこと、十秒。後衛から告げられたタイムリミットとともに、光輝が前衛全員に指示を叫んだ。
最後に噛み付いてきた蟻を殺して、〝無拍子〟の応用で後ろに下がる。次の瞬間、魔法の雨が魔物に降り注いだ。
巨大な火球が、風の刃の嵐が、石の棘が、水柱が魔物の命を奪っていく。その様を、私はある種呆然とした思いで眺めた。
時間にして一分ほどの総攻撃が終わる頃には、もうほとんどの魔物が息絶えていた。残っているのは数えられるほどの数だ。
速やかに前衛組が前に出て、魔物を掃討。約二時間にもわたる戦闘は終わったのだった。
「みんな、お疲れ様!一度休憩するぞ!」
周囲の警戒をすると、光輝が振り返って皆に言う。それに空気が弛緩し、前衛組は声をあげて地面に座り込んだ。
後衛組は魔力回復を始め、〝治癒師〟の香織と石動さんが怪我人の治療をする。もう何十度目なので、皆手慣れた様子だ。
「……とりあえず平気かしら」
入念に周囲に新たな敵影がないのを確認して、私も息を吐きながら納刀する。ああ、肩が凝った。
両腕を挙げ、んーっと伸びをする。肩から手首にかけて乳酸が溜まっており、気を抜けば刀を手放してしまいそうだ。
この胸がなかったら、もう少し楽だったんだろうか。一応さらしを巻いてるけど、抑えて効果があるのはDまでって聞いたし。
「これはスる時散々人の胸を揉みしだくどっかのおバカさんを恨まなきゃね……」
愛しい恋人を思いながら、私もかすり傷を治療してもらうべく香織のところへ行く。
すると、所々に傷を負っている香織を石動さんが治療しているところだった。というか、なんかすごく密着してた。
「もう、こんなに怪我して……香織は治癒師なんだから、別に前に出なくてもいいと思うんだけど」
「あはは、ごめんね心配かけて……」
「まったく香織は、しょうがないんだから……」
石動さんに寄りかかって……っていうか膝枕されてる香織が気まずそうに謝る。そんな香織の頬を呆れた顔でそっと撫でる石動さん。
まるで恋人のようなその光景に、誰も突っ込まない。いえ、どっちかっていうと突っ込めないって言った方がいいかしら。
光輝を筆頭に男どもは立てなくなってるし、女子は……なんか「はわわ……」とか言って美しいものでも見るように二人を見てた。まあ可愛いのはそうだけど。
「でもさ、ただ後ろにいるのはなんかモヤモヤするし……それに………」
「? それに?」
「み、美空を、守れる、し……?」
「〜〜っ!も、もうっ、香織のバカ!」
「えへへ………」
照れる石動さんと香織。ブフッと男子どもが鼻血を吹き出す音がした。女子はキャーキャー言ってる。
ああ……どうして私の幼馴染は、あんなになってしまったのかしら。いや、前にそういう風になっても変わらず親友とは言ったけど。
前に私に見られて以降、まるで吹っ切れたように香織と石動さんの距離はすごーく近いのよね。
夜トイレに行こうとして石動さんの部屋の前を通りがかった時に変な声がしたり、食事中机の下で手を握りあってたりとか。
「これ、南雲くんが見たらなんて思うのかしら……」
彼、わりとシューに毒されてるから鼻血出しながら親指とか立てそうね。
とはいえ、これは当人たちの問題なので私は口出しできない。というか心労が増えるのでそこらへんは任せる。
「お疲れ谷口。よく俺の考えてることわかったな?」
「へっへーん、すごいでしょ」
「おう、すごいすごい」
「あ………えへへ」
皺とかないわよね?と手鏡を取り出して眉間を見ていると、そんな声が聞こえてきた。
そちらを見れば、変身を解除した龍太郎が鈴の頭を撫でている。鈴の顔はほんのりと赤くなっており、恋する乙女そのものだ。
この二人の最近の連携っぷりは眼を見張るものがある。龍太郎が最前線で暴れまわり、鈴がどんな相手でも確実に背後を守っているのだ。
……なんていうか、なんでこれで付き合ってないの?って見るたび思う。鈴の方は好感度マックス寸前だけど、龍太郎が鈍感すぎて…
「これはもう少し仕込む必要がありそうね……」
そんなことをぼやいているうちに、イチャつき?終わった龍太郎がこちらを振り向き、歩み寄ってくる。
「よう雫、平気か?」
「見ての通り、ピンピンしてるわ。ほんのかすり傷程度よ」
「つってもチリも積もればなんとやらだからな。一応治してもらったほうがいいんじゃねえか?」
「そうは言っても……ねえ?」
うふふふと笑い合ってる香織たちを見て言えば、龍太郎もあーという顔をした。やはり元脳筋の龍太郎から見てもあからさまらしい。
しかし、なぜあれは察するのに、同レベルに露骨な鈴の気持ちには気づかないのか。そこのところ不思議でならない。
「しかし、南雲が帰ってきた時どうなるんだあれ?」
「さてね」
実際、前にそれとなく南雲くんが好きなのか?と聞いてみたところ……赤い顔で横に座る石動さんをチラ見したのでよくわからない。
南雲くんが好きだけど石動さんを気にかけてるのか、あるいは今は石動さんが好きなのか……はたまたその両方か。
まあなんにせよ、シューたちと再会した時には色々とややこしいことになるのは間違いない。覚悟しなくては。
「それはそれとして……いよいよ次は九十層、最後の十層に入る。用心しなきゃならねえ」
「光輝があれだものね」
光輝は順調に攻略できていることが嬉しいのか、自信満々の顔でいる。まだ完全踏破したわけでもないのに気が緩んでいるわね、アレ。
そういう慢心が、突如として起こる事態に最悪の結果を引き寄せる。龍太郎と私たちがフォローしなくては、と頷きあった。
「少し前なら、メルドさんがいたから多少はマシだったんだけどね……」
「ついてこれねえ以上、仕方がねえさ」
メルド騎士団長を筆頭とする王国の騎士たちは、七十層を超えた時点で能力的に私たちに追随することができなくなってしまった。
たった四ヶ月でよくここまで強くなったな、と苦笑いする騎士団長とセントレアさんは記憶に新しい。今は七十層で待機中だ。
ふとステータスプレートを取り出して、今の自分の力を見る。私に倣って龍太郎も自分の能力を確認していた。
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坂上龍太郎 17歳 男 レベル:50 ハザードレベル:4.6
天職:拳士・仮面ライダー
筋力:6000
体力:6500
耐性:5500
敏捷:6500
魔力:1000
魔耐:3500
技能:格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊]・縮地・毒物耐性・物理耐性[+金剛]・全属性耐性・言語理解・変身
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八重樫雫 17歳 女 レベル:56 ハザードレベル:3.9
天職:剣士・抑止力の寵愛を受けし者
筋力:3600
体力:4580
耐性:3700
敏捷:5000
魔力:1200
魔耐:2500
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解・■■
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龍太郎と能力を確認しておく。今この場においての最大戦力は龍太郎、そして元からの武術者である私だ。互いの力は把握しておかなければ。
そんなこんなで話し込んでいるうちに休憩時間は終わり、やっと百合世界から戻ってきた香織に一応治してもらって準備を整える。
それから出発して、八十九階層の中を探索……といっても九割がた終わってるから、十分ほどで下層への階段を発見した。
「ここから先が、九十層……」
「いよいよ終盤、だよね……」
階段の前で、香織と石動さんがそう呟く。二人の表情にはどこか憂いがあり、不安そうに互いの手を握っていた。
仕方がないだろう。もう最後の方まで来ているというのに、一向に南雲くんの痕跡は一向に見つからない。
信じる心は、支えと同時に重りなのだろう。私だって、エボルトから確信的な言葉を聞くまでそうだった。
ちなみにあの日のことは、御堂さんを除いて誰にも話していない。御堂さんは何かあった時確実に戦力になるから、保険としてだ。
『せいぜい、迷宮で背中を気にしとくんだな……』
……エボルトが一体何を企んでるのか知らないけど、いざという時は私が身を呈してでも皆を守らなくては。
とはいえ、そんな気持ちは今は関係ない。二人に背後から近づいて、励ましの言葉を投げかける。
「二人とも、そんな顔しなくても平気よ。きっと今頃、南雲くんはシューにツッコミ入れてるわ」
「雫ちゃん……」
「……うん、そうだよね」
激励の意味を込めて背中を叩けば、二人は不安を瞳から消して迷いのない表情になった。よし、と頷く。
二人の覚悟も決まったところで、九十層に降りる。階段は螺旋状になっており、私と龍太郎をしんがりにトラップを警戒しつつ降りていった。
螺旋階段の長さは、体感からして10メートルほどか。仄かな光とともに現れた九十層は、特に八十九層と変わりなかった。
何かあるのでは、と思っていたのに拍子抜けしつつ、マッピングを開始する。南雲くんが仕込んだのか、描くのは石動さんだ。
そうして九十層に入って、三時間も経った頃だろうか。
「……なあ、雫」
「……ええ」
答えながら、龍太郎の顔を見る。その顔には懐疑的な色が浮かんでおり、どうやら考えていることは同じようだ。
同時に、前にいる光輝から「なんで一匹もいないんだ……?」という声が聞こえてきた。それは私たち三人だけでなく、この場にいる全員が感じている違和感。
かなり奥まで来たが、これまでの道中魔物に遭遇してないのだ。これまでなら入って早々襲いかかってきたのに、全然気配も感じない。
「そういう階層……ってのはなさそうだな」
「それにしては、あまりにもこの雰囲気は異質すぎますわね」
「「っ!?」」
私がいう前に、隣から龍太郎に返答が返される。揃ってそちらを見れば、そこにはいつも通り澄ました顔の御堂さんがいた。
全く気配を感じなかった。以前修練場での件から、自分なりにさらに感覚を研ぎ澄ませていたと思ってたのに……!
「あなた、いつの間に……!?」
「あら、あなた方の中に気づかれぬよう紛れ込むなど容易いものでしてよ」
案に絶対に気づかれないほどの実力差があると言われ、苦笑がこぼれる。いったい前世のシューはどんな育て方したのよ。
「それより、警戒なさい。近くに何かがいますわ」
「わかってるわ。何か、嫌な予感がするもの」
「俺の第六感もヤバイって言ってるぜ」
万が一何かあった時にすぐに動けるよう、私は柄に手を添え、龍太郎はゼリーをポケットから取り出す。
そんな私達を見ていた御堂さんが、不意に眉間にしわを寄せどこかを見た。それと同時に、クラスメイトの一人が声を上げる。
全員でそちらに行けば、うっすらと光る壁にシミのようなものが付いていた。ツンとした鉄臭い匂いがする。
「もしかして、血……?」
「これ、結構な量じゃないか……!?」
顔を青ざめさせるクラスメイトたちの中、御堂さんが音もなく壁の前に移動し、壁についた血に触れた。
先ほどの私たちのように皆驚くが、彼女はいつもどこかに姿をくらまし、かと思えばいつの間にかいるのでさほどでもない。
「……まだ新鮮ですわね。固形化具合からして、十数分の間でしょう」
「ってことは、すぐ最近のものってこと?」
「ええ、そしてこれまでの部屋の中で、唯一の痕跡ですわ」
それを聞いて私を含め、皆ハッとする。最大限まで心の中の警鐘がけたたましく危険を訴え始めた。
魔物が一匹もいない階層、これ見よがしに残された痕跡、そこから導き出される展開は…………
「そこのあなた。そろそろ姿を現したらどうかしら?」
「……くく、気づかれたか」
私たちのものでない、ハスキーな声が部屋の中にこだまする。全員が各々の武器に手をかけて、部屋の奥の暗がりに鋭い視線を飛ばした。
私たちの視線に答えるように、コツコツと靴を鳴らし、燃えるような赤い髪を揺らして〝そいつ〟は現れた。
〝そいつ〟は、一見して人間の女のようであった。だが浅黒い肌はまだしも、通常の人間ならばありえない尖った耳をしている。
そして、その身体的特徴を持つ種族を私たちは一つしか知らない。
それは………
「いつかは現れるとは思っていましたが……ここに来て動き始めましたか」
「………魔人族」
私たちの呟きに、魔人族の女は怪しげに笑うのだった。
さて、次回は……まあお楽しみに。
感想をお願いします。