星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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今回はかなり短いです。いつもの半分かそれ以下くらい?
UA一万超えました、ありがとうございます!
あとシリアスです。
楽しんでいただけると嬉しいです。


月光の下で

  部屋から出た俺は、ささっと瞬間移動で宿屋のキッチンから酒とツマミをちょろまかし、煉瓦造の宿の屋根の上に座っていた。

 

  そこで、月をぼーっと眺めながら、グラスの中でワインを揺らして、先程自分がハジメに言ったことを思い返している。

 

  ちなみにエボルトはいない。メルさんと肩組んで、【ホルアド】の常連の店に行きやがった。きっと明日の朝にはメルさんを背負って帰ってくるだろう。

 

  というわけで、誰もふざける相手がいないので普通にしてる。あれは、あくまで〝北野シュウジ〟という人間を楽しんでいるに過ぎない。

 

「……明日、何も起きなきゃいいけどなぁ」

 

  誰に聞かせるでもなく、そうひとりごちる。胸の内に湧き上がった不安を押し流すように、ワインを口に流し込んだ。

 

「それにしても……迷宮、か。あいつらにも行かせたっけな」

 

  前世、俺が〝世界の殺意〟であった頃の、三人の愛弟子たち。鍛錬の一環として、神喰いの奇獣(ダチ)の迷宮に行かせてた。

 

  一ヶ月くらいこもらせて、傷だらけで互いの肩を貸しながら帰ってきた彼女たちを、笑顔で迎えるのが数少ない楽しみだった。

 

  まあ、そのあとそのうちの一人に必ず殴られたけど。けれどそれすらも、ほとんど壊れかけてる〝私〟には楽しみの一つだったのだ。

 

  今の〝俺〟にとってハジメや雫、両親や妹がそうであるように、前世の〝私〟にとって彼女たちは家族。その成長を見るのは唯一大切なものだった。

 

『先生!』

 

  一人は、路地裏にいたみすぼらしい子供だった。優しさをほとんど知らないのに、生来から誰よりも優しい心を持つ子だった。

 

『お師匠様♪』

 

  一人は、生まれ持った異常性で排斥された貴族の娘だった。ツンデレで、ちょい反抗期の娘みたいな子だった。

 

『マスター』

 

  そして最後の一人は、家族のため、家を救うために〝私〟を見つけ出した子だった。まるで姉のように、他の二人をまとめてた。

 

  ……この子は少し特別で、ちょっとした思い出があったりする。できれば他人には話したくない感じの。

 

「……あいつら、元気にしてるかねぇ」

 

  三人とも、娘のようなものだった。結局俺がしてやれたのは、力と知識を与えることだけ。家族らしいことはあまりできなかった。

 

  それどころか、その行く末すら見届けることもできないまま終わった。それでも彼女達のために死ねたのだから、本望といえば本望だ。

 

  なんとなしに、ステータスプレートを見る。そして技能欄に書いてある、〝世界の殺意〟という技能を見た。

 

「…この名にかけて、もう同じことは繰り返すわけにはいかねえな」

 

  明日、絶対にハジメ達を守る。もう二度と、大切な誰かをこの手から手放すことはしたくない。

 

「ちょっと、そこの人?こんな深夜に何してるのかしら」

 

  そう決意を固めていると、不意に聞き覚えのある声がした。それに俺は感傷に浸るのをやめて、〝北野シュウジ〟に戻る。

 

「おやおやお嬢さん、そちらこそこんな時間にどこへお出かけですかい?」

「そうね……ギャグピエロのところかしら?」

「それどこのド◯ルド?」

 

  突っ込みながら後ろを向くと、そこには淡い微笑を浮かべた、ネグリジェ姿の雫が立っていた。髪を下ろしており、いつもよりさらに美しさが増している気がする。

 

「残念、正解はあなたよ。隣、座ってもいい?」

「そう言いながら膝の上に座るのはどうなんだい?」

「あら間違えた」

 

  悪びれるでもなく、肩をすくめて雫はすとんと隣に腰を下ろした。ぴったりと体がくっつくくらいの距離で。

 

「………近くね?」

「何よ、嫌なの?」

「滅相もございません」

 

  右肩に寄りかかり、上目遣いをする雫に、俺はテクニックだとわかっていながらもあえて負けたように手を上げた。ちなみにこんなテクを教えたのはエボルトである。

 

 エボルトォオオオ!(四十七話風)

 

「………」

「………」

 

  その姿勢のまま、しばしの間無言の時間が続く。いや、正確には誰もいないのをいいことに雫が俺の体を弄っていた。キャー痴漢よー!(裏声)

 

「っておい、どこ触ってんですか」

「あれ、興奮してない。せっかくこんな格好してきたのに」

「なん……だと……!最初から計算していたというのか……!」

「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの?」

 

 ごくり。

 

「私様よ」(ドヤ顔)

「天を指で指し示すポーズもあれば完璧だな」

 

  クスクスと笑う雫。俺もケラケラと笑い、彼女を引き寄せる。ちなみにネグリジェなので肌の感覚がもろに来て理性がががが。

 

  なーんてことはなく、ただ甘やかな雰囲気が流れただけだった。今度はちょっかいを出されることもなく、穏やかな時間が過ぎる。

 

  何か喋るわけでもなく、無言で肩を寄せ合ってるだけだけど、別に気まずくなんてない。よく俺ん家の縁側で二人で空を見上げてるから。

 

  ちなみに誘うのは雫だ。最恐の暗殺者が聞いて呆れるが、俺は身内限定でそういうのにすごく弱い。その原因はあるやつにある。

 

「……ねえ、シュー」

「んー?」

 

  そろそろどうにかしたほうがいいかなー、でもどうやってやるんだよバルスとか考えてると、雫が話しかけてきたので答える。

 

「手、震えてるわよ?」

「……!」

 

  言われて初めて、自分の手がわずかに震えているのに気づいた。そして、こんな微細なものに気づいた彼女に驚く。

 

「そんなに、私たちが傷つくのが怖いの?」

「……ありゃ、もしかしてハジメとの会話、聞かれてた?」

「ううん、違う。でもあなたは自分のことなんか心配しないから、そう思っただけ。私、いつもあなたを見てるから」

「…そりゃあ、彼氏冥利に尽きるねぇ」

 

  全部お見通し、か。まったく、我ながら愛されてるよ。それこそ、この汚れた魂に分不相応なほどに。

 

  いや、こうして寄り添ってくれるからこそ、俺は彼女に惚れたんだ。女神様を除けば、俺が前世を含めて、初めて恋した女の子。

 

  そんな彼女になら、俺は甘えたいと思ってしまう。弱音を吐き出したいと願ってしまう。でも、それは許されない。

 

  なぜなら俺は、〝北野シュウジ〟は強くあらねばならない。おちゃらけてて接しやすく、いざという時には頼りになる、そういう人間でなければいけないから。

 

「……抱え込まないで」

「っ!」

 

 でも、それすらも彼女にはお見通しだった。

 

  そっと体に手を添えられて、膝の中へと誘われる。簡単に抜け出せるはずなのに、俺はそれに抗うことができなかった。

 

「別に、あなたが全部を守る必要はないの。私たちを心配してくれるのは嬉しい。でも、それであなたが無理をしたら、私はとても悲しい」

「でも、俺は……」

「大丈夫、大丈夫。私も、南雲くんや美空も、皆、あなたの前からいなくなったりしない。だから、大丈夫」

 

  そう言って俺の頭を撫でる彼女は、まるで優しく子供をあやす母親のようで。だから俺は、つい甘えてしまう。

 

「……怖えんだ。一人になるのが。孤独になるのが」

 

  前世で俺は、弟子たちの夢を叶えるために、俺が本来受け取るはずだった〝報酬〟を彼女たちに与え、その記憶を消して誰に看取られることもなく生涯を終えた。

 

  だからだろうか、一人ということがとても辛く、そして怖くなってしまった。彼女たちと出会う前は、そんなもの、なんでもなかったのに。

 

  もう、あんな思いはしたくない。大切な誰かが自分を置いていってしまうのが、失ってしまうのが、たまらなく恐ろしい。

 

  だから俺は、どんなことをしてでも……たとえ俺の命を代償にしても、皆を守るのだと。

 

 

 

  それが、前世と同じ道であるとわかっていても。

 

 

 

「それなら、ずっとそばにいてあげる。一緒に生きて、一緒に死んで。その次の人生も、その次も、どこまでだってあなたを追いかける。ずっと、ずっと」

 

  それなのに。どうして君は、()を溶かすんだ?

 

「……本当に?」

「ええ、本当よ。だから信じて、私たちのことを」

 

  そう言って微笑む雫は、どんなものより美しくて、愛おしくて。

 

「……ははっ、そう言われちゃあ、信じるしかねえなぁ」

「ふふっ、よかった」

 

  いつしか、自分の中に固く閉ざして溜め込んでいたものは、知らないうちに出ていってしまった。

 

「まったく、お前にゃ敵わないよ」

「当たり前よ、彼女ですもの。あなたが苦しむのなら、私はいつだって寄り添うわ」

 

 ……ほんと、いい女だよ。

 

  その後、しばらく膝枕を堪能した後、完全に思いつめていたものを心から無くした俺はいつもの調子に戻って立ち上がった。

 

「俺ちゃん復活!なんつってね。サンキュー雫、お陰で元気度レベルマァーックス!だぜ」

「それなら私も、励ました甲斐があったわね。それじゃあ、そろそろ……」

「おっと、その前にこれを」

 

  異空間から一つの小箱を取り出して、恭しく跪いて差し出す。それに苦笑しながら、雫は小箱を俺の手から取った。

 

  そして開けてみて、驚いたように目を見開く。してやったりと、俺は口元を笑みに歪めた。

 

「お気に召しましたか、お姫様?」

「……もう、本当にずるいんだから」

 

  頬を赤くしながら言う雫に、俺は笑った。そして彼女の隣に座りなおして、自分があげたものを見る。

 

  それは、真ん中で半分に割れた赤と青の、ペアルックのネックレス。ハート形の宝石の中には、ゴデチアの模様が浮き出ている。

 

  そしてゴデチアの花言葉は、「変わらぬ愛」。彼女が俺のそばにい続けてくれると言うのなら、俺もまた、永劫の愛を捧げよう。

 

  雫が赤い顔をして俯いている隙に、さっとネックレスの片方を取り出して彼女の首にかけ、もう一方を自分の首にかけた。

 

  驚いて顔を上げ、俺を見る雫。自然と、互いの顔が超至近距離に迫る。もう、鼻先がくっつくくらいだ。

 

  そのまま、俺たちはしばらく見つめあって。どちらからともなく、口を開いて言葉を紡ぐ。

 

「……ずっと一緒にいてくれよ、雫」

「……ずっと私のそばにいてね、シュー」

 

  そして、まったく同じことを言ったことにまた驚いて、笑って。そっと、口付けを交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわわ…!部屋に戻ろうとしたら、すごいもの見ちゃったよぉ…」

 

  ちなみに白っちゃんに一部始終みられてたってのは、ご愛嬌ってことで。

 




はい、イチャラブでした。
もげ(ry
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