シュウジ「オーララ、シュウジだ。前回はホルアドに戻ってきたぜ。いやー懐かしいな」
エボルト「あ、あん時飲み比べした居酒屋なくなってやがる…チッ、あの頂点に立つ男め」
ハジメ「たいしていい思い出はない街だが、まあ懐かしいのは確かだな。で、なんでお前そんなにナイフ研いでんの?」
シュウジ「なぁに、今回を見ればわかるさ。今回はルイネ視点での話だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる再会編!」」」
「……遠藤?」
思わず、といった様子でつぶやいたハジメ殿。
その視線の先にいる黒装束の少年は、この世界ではなくマスターたち寄り……つまり、日本人の顔立ちだ。
名前からしても、おそらくマスターたちの同郷であろうと推測していると、ハジメ殿の声に反応した少年はこちらを振り向く。
「南雲、もしかしてお前か! ここにいるのか南雲! いるんなら返事してくれ! 南雲ぉ――ー!」
必死、といった様子で遠藤という少年は叫ぶ。ギルド全体に響くほどの絶叫に、私とハジメ殿はとっさに音に敏感な子供達の耳を塞いだ。
「にゅ? どうしたのママ?」
「何でもないよ。ちょっとしたお遊びだ」
「あ、わかった! 我慢するゲームだ! それじゃあさんじゅうびょー数えるね!」
キャッキャとはしゃぐ愛しい我が娘に微笑みかけながら、今一度少年を見やる。
「くそっ、声は確かにしたのに! もしかして幽霊か!? 俺には見えないってのか!」
遠藤少年は今もなお絶叫しており、マスターたちに気づいていなかった。特に以前とは姿が全く異なるというハジメ殿は複雑そうた。
そんなハジメ殿の顔はいざ知らず、遠藤少年は何かを焦るような顔で声を張り上げていた。しかしなぜか、その叫びは空虚に聞こえる。
そう……まるで私たちが
「おーおー遠藤、存在感とは正反対に声はでかいねえ」
「だな。というか遠藤、ここにいるからそんなに叫ばなくてもいいぞ」
「その声は南雲と北野か!?」
再び振り返る遠藤少年。だがなおも気づかないのか……あるいはそういうふりをしているか、首をかしげる。
「やっぱりいねえ……くそ、どうなってんだ!」
「いや、目の前にいんだろド阿呆。ていうか落ち着け影の薄さワールドランキングNo. 1」
「だれがこの世全ての影の薄さを極めし男だ! コンビニのドアだって五回に二回は反応するわ!」
「それでも三回は反応なしかよ……」
「いやー、俺が前にやったストラップの力で存在感ちょっと上がってるんだけどにゃー」
そこまで会話して、ようやく分かったのだろう。三度遠藤少年はハジメ殿たちを見て、唖然とした表情を浮かべた。
よっ、とジェスチャーするマスターを見て驚き、次にハジメ殿を上から下まで見回す。ハジメ殿は嫌そうな顔で身じろぎした。
「お、おま……もしかして、南雲……なのか?」
「正解! この鷹のような鋭い目の子が南雲ハジメです! すごいイメチェンしたっしょ?」
「なんでお前が答えてんだ」
ハジメ殿がマスターの頭を叩く。それで確信したのか、遠藤少年はあんぐりと口を開けた。
「お前ら、生きてたのか……」
「ま、なんとかな」
「いやー聞いてくれよ、聞くも涙、語るも涙の旅路でさー」
「お前七割がたふざけてたろ。最後にシリアスだったのいつだよ」
「んー、おかずをダークマターにするかキュケオーンにするか悩んだ時?」
「昨日の晩飯じゃん。あと言っとくが、それは絶対に食いもんじゃねえ」
「はは……久しぶりなのに変わってねえのな、そのやり取り」
どこか懐かしいような、しかし複雑そうな顔で言う遠藤少年。
聞けば彼は、マスターの立ち回りによってクラスメイトたちの中ではそれなりに友好的だった人物の一人であるようだ。
顔見知りが生きていたことへの安堵、そして変化していることへの戸惑い……といったところか。
少し怪しいが、今の所はそこまできにする必要はないだろう。ただ、念のため魔力の糸をつけておくか……
「……っ?」
……今、反応した? いくらなんでも、元一般市民に気づかれる腕ではないのだが。
いや、そういう天職を持っているのか。装いや持っている武器からして、暗殺者なのだろう。ならば少しでも気づく可能性が……
「というか、お前らが〝金〟ランクって聞いたんだけど……」
「はっはっはっ、音にも聞け、刮目せよ。俺たちが、金ランクだっ!」
「そんな俺たちが、ガン◯だっ! みたいに……そうだな、一応〝金〟だ」
「つまりめちゃくちゃ強くて、迷宮に潜っても生還できるくらいってことだよな?」
「そりゃ余裕のよっちゃんだが……どしたん?」
マスターが答えた瞬間、遠藤少年の目の色が変わった。そして二人の手をにすがりつくように掴む。
「なら頼む、一緒に迷宮に来てくれ! 今は一人でも多く人手がいるんだ! 早くしないとみんなが……死んじまう!」
「……なに?」
「……………………………………は?」
マスターとハジメ殿の空気が、変わった。
それまでの緩い空気が消え去り、戦っている時のような……いや、それ以上に鋭く冷たい雰囲気を纏う。
マスターがカツカツと足早に遠藤少年に歩み寄る。するとなんと、襟首をつかんで持ち上げてしまった。
「ぐっ……!?」
「なっ、マスター?」
「おい、遠藤」
害をなす相手ならいざ知らず、初めて見る一般人への乱暴な行動に驚いてしまう。
しかしそんな私の声は聞こえていないのか、マスターはぐっと遠藤少年に顔を近づける。見れば、そこには焦燥が浮かんでいた。
「今のは、どういうことだ。説明してみろ、あいつらが……雫がどうしたって!?」
「く、苦し……」
「なんとか言えよ! 雫がなんだってんだ!」
苦しむ遠藤少年に構わず、声を荒げるマスター。その声は、この世界に来てから初めて聞くほどにあまりにも怒りに満ちていた。
「……おい、シュウジ」
もはや首を持っているのと変わらないまでに遠藤少年を絞め上げるマスターの肩に、ハジメ殿が手を置いた。
ぐるりと犬歯を剥き出しに振り返ったマスターを、ハジメ殿が首を横に振って諌める。そこでようやくマスターはハッとした。
恐る恐るといった様子で、遠藤少年から手を離す。尻餅をついた遠藤少年は涙目で激しく咳き込んだ。
「……遠藤、すまん。取り乱した」
「げほっ、げほっ……い、いや、別にいいけどよ……お前がそんなに怒るの、初めて見たわ」
「まったくだ。いやぁ、俺らしくねえなぁ」
「……マスター」
へら、といつも通りに笑うマスター。ああ…………その顔は、必死に激情を隠しているようにしか見えないよ。
それだけじゃない、不安、悲しみ、恐怖……数えきれないほどの負の感情が、次々と浮かんでは消えていく。
そう思ったのは、皆の顔を見る限り私だけではないのだろう。けれど、どう話しかけていいか分からずに動かないでいる。
「ウサギ」
「……ん」
「どうしたの、ママ?」
「少し待っていてくれ」
「? うん、いいよ」
「いい子だ」
ウサギにリベルを預けて、マスターに歩み寄る。
手を伸ばして、マスターの小刻みに震える握り拳をそっと包み込んだ。ピクリと肩が震え、ゆっくりとこちらを振り返った。
「ルイネ……」
「マスター」
所在なさげに揺れる目をじっと見つめる。すると、マスターは見られるのを恥じるように俯いた。
「…………すまん」
「ん、気にするな」
微笑みかけると拳から力が抜けて、それに乗じて手を繋ぐ。すぐにマスターは強く握ってきた。
なお震える手に、女として複雑な思いがないわけではない。胸の中にチクリとわずかな痛みが走った。
いや、そんなことはどうでもいい。今は少しでも、その不安を取り除けるように。
「えっと……これ、どうなってるんだ? 北野がすっげぇ美人と手を繋いで……」
「遠藤」
正妻殿との関係を知っているのか、困惑している遠藤少年にハジメ殿が話しかける。
「な、なんだ南雲?」
「すまないが、知ってることを全部話してくれるか?」
「ああ。実は……」
「おっと、話をするならここでは控えてもらおうか」
新しい声が二人の会話を遮った。
振り返れば、そこには老齢の偉丈夫が立っている。深みを感じる隻眼は、それだけで彼の歩んできた人生を想起させた。
背後に先ほどの受付嬢が控えていることから察するに、ここのギルドマスターか。
「あんたは……」
「おそらく貴様の考えている通りの人物じゃ。それよりほれ、こっちに来い。もとよりお前らはワシの客だろう?」
ギルドマスターの言葉にちらり、とこちらを見やるハジメ殿。マスターが答えられないので、私が頷いた。
ハジメ殿はわずかに首肯して、続けてユエらにいいか? とアイコンタクトをする。彼女らも肯定を返し、不穏な空気の流れるそこから移動した。
通されたのは、ギルドマスターの執務室。ソファーにギルドマスターと遠藤少年が座り、こちらに手招きした。
とりあえずハジメ殿とマスター、その隣に私が座る。他は壁に寄りかかったり、ソファーの背もたれに腰かけたりと好きなようにした。
「さて。改めてこのホルアド冒険者ギルド支部長、ロア・バワビスだ」
「俺は南雲ハジメ、こっちはシュウジ。で、こいつら俺たちの連れだ」
各々挨拶もそこそこに、ぐったりとしているように見える遠藤少年に目を向ける。
「で、遠藤。何がどうしたって? なるべく簡潔に、わかりやすく教えてくれ。 俺も……あんまり穏やかじゃない」
腕を組み、険しい顔のハジメ殿。マスターほど深刻ではないが、彼もまた石動美空という少女の身を案じているのだ。
それを察したのだろう、遠藤少年は慌てながらも努力して無駄な部分を省き、要点をまとめて事の次第を話していった。
「……っていうことなんだ」
それから、十分ほどか。話し終えた遠藤少年は気が抜けたように背もたれに身を預けて、深い息を吐く。
「……なるほど。魔人族、ね」
聴き終えたハジメ殿の第一声は、それであった。先までの2倍増しの難しい顔で、顎に指を添える。
かくいう私もそうだ。魔人族の襲撃、マスターたちのクラスメイト……何より正妻殿の窮地と……ドライバーを使う謎の赤い男。随分と複雑な状況だな。
ちらりとマスターを見てみれば、今にも部屋を飛び出して迷宮に行きそうな表情をしている。手を握る力を少し強めた。
『キルバスが復活しているだと? なんであいつがこの世界に……』
ん、今のテレパシーはエボルトか? 普段はマスターにしか聞こえていないはずだが……無意識に出たのだろうか?
まあ、今はいい。それよりも私にも一つ、気にかかることがある。
「遠藤少年。謎の男と戦っていたのは、金髪で独特の口調な女でいいのだな?」
「あ、えっと、はい」
しどろもどろになりながらも答える遠藤少年。ふむ、と私は考え込む。
確か御堂、といったか。おそらく正体はマスターの弟子の最後の一人にして、もっとも異形なるモノ……ネルファだろう。
この世界のどこかにいるのはわかっていたが、まさかマスターのクラスメイトの一人に転生していたとはな。
「好都合、といったところか。あいつがいなければ、その男の手によって全滅もありえたな」
「……だな。ネルファに感謝だ」
マスターがやや自嘲気味に呟く。おそらく自分がそこにいて守れたら、とでも思っているのだろう。まったく身内には甘い人だ。
聞けばネルファと思しき女は、謎の男と凄まじい戦闘を繰り広げ、その上魔法で巨人を喚び出して彼らの逃げる時間を稼ぐために一人で残ったらしい。
「あいつがそんな真似をするようには思えないが……むしろ淡々と眺めていそうなものを」
「多分、雫のことを気に入ったんじゃねえか? いかにもあいつが好みそうな性格してるしな」
「それが一番有力か」
我々全員に共通することだが、一度気にかけた人間にはそれなりの敬意と、そして庇護意識を持ってしまう。
ネルファは芯のある人間が好きだ。いや、捕食対象から外れるというべきか。本人曰く、「いい意味で食欲がわかない相手」。
だから、きっと正妻殿を気に入ったから囮役をしたのだろう。そうでなければわざわざそのような自己犠牲をする女ではない。
むしろ催眠をかけて人間同士で殺し合わせ、それを肴に楽しみながらワインを楽しむような素敵な性格をしている。
それでマスターの後継者候補なのかと言われると、なんとも言えない。あいつも善人ならば守る気はあるのだが……
「しかし、その謎の男とやらは〝無顔の愚王〟を出すほどに強い相手だったというわけか……」
ネルファが自分の〝闇〟の中に飼う、十三の使い魔。その中で三番目に力を持つのが〝無顔の愚王レシュト〟である。
あいつの性格上よほど享楽に浸りたい時か、あるいは自分一人では不安のある相手にしかレシュトは出さない。
『当然だな。なんせそいつは、俺が知る中でシュウジの次に最も外道かつ残忍、そして強いやつだ』
今度は直接エボルトからテレパシーが伝わってきた。どうやらその謎の男の正体を知っているらしい。
『ま、そのうち全員に教えるよ。今はちょっと、俺もそいつへの憎しみであんまり話したくないんでね』
なるほど、よほど因縁深い相手なのか……ならば、落ち着いたら話してくれ。
『了解。それよか、シュウジを何とかしてやってくれ。こいつ、今にも爆発しそうでろくに俺の声も聞き入れねえ』
わかっている。ずっと手を握ったり背中をさすったりしているのだが……
「…………………」
マスターは、時間が経つごとに酷くなっていた。今も尋常でない殺気を放ち、ステッキを握りつぶすほどに力をこめて必死に自分を抑えようとしている。
それはあまりにも痛々しく……同時に、年相応の姿だった。目の前のことにどうすることもできない気持ちを抱え、悩む少年を彷彿とさせる。
おそらく私では引き出せないだろう……マスターではなくて、〝北野シュウジ〟としての、この人の姿。
「なあ、頼むよ南雲! 皆を助けてくれ! それにほら、石動さんたちのこともあるしさ!」
色々と考え込んでいるうちに話が進んだのか、遠藤少年が再びハジメ殿に懇願している。
「ユエ、どういった状況だ?」
「ん、ウルの街とかフューレンのことをギルドマスターが言って、クラスメイト? がハジメたちのことを迷宮に行かせようとしている」
後ろにいるユエに聞いたところ、やはりそういうことになっていたようだ。詳しく聞けば、ギルドマスターからも救出依頼が出たらしい。
ハジメ殿はそれまで黙って話を聞いていたものの、石動美空の名を聞くと少し肩を揺らす。
「……美空は、元気にやってるか?」
「へ? あ、ああ」
やがて、おもむろに投げかけられた問いに遠藤少年は答える。すぐにハッとしてまくしたて始めた。
「そうだ、石動さんは元気にやってたよ! 白崎さんと一緒にお前らが生きてるって信じて、ずっと頑張ってたんだ! もうこっちが心配になるくらいでさ。あ、最近は二人でベタベタイチャイチャしてて……」
「おい待て、最後になんか聞き捨てならないことを聞いたぞ」
ため息を吐きながら、ハジメ殿は瞑目して考え込む。助けに行くメリットとデメリットを考えているのだろう。
私も考える。無論、最初から答えはイエスだ。マスターの後継者候補を名乗る以上、見捨てるなどという選択肢はない。
では何を考えるのか……それは、私が行くべきか否か。
「…………」
今のマスターを見ると、とても冷静ではないのは一目瞭然だ。そばにいて精神的に支える必要があるのは明白。
だが……正妻殿を助けにいくのに、私が一緒に行ってもいいのだろうか?
マスターはどちらも同等に愛していると言ってくれているが……常識的に考えて、私は知らぬ間にすり寄った泥棒猫だ。
なのに、どのような権利で助けに行こうなどと…………いや、違うな。これはただの言い訳だ。
私はただ……今マスターの心の中に、私がいないことが寂しいだけだ。
そんな子供じみた醜い感情で、悩む必要もないことで悩んでいるだけ。我ながらなんと女々しいことか。
「ゲコッ」
しかめっ面をしていると、カエルに頬を舐められた。
「なんだ、励ましてくれるのか。ありがとう」
「ゲコッ」
「……まあ、色々気になる点はあるが。美空がいるなら助けに行かないわけにもかないしな」
私がうじうじと悩んでいるうちに、ハジメ殿は結論を出した。
「で、お前は……聞くまでもないか」
「当たり前だ。さっさと行って雫を助けるぞ。今すぐにだ」
それまでの様子が嘘のように機敏な動きで立ち上がったマスターを、一旦全員でなだめる。
「待て待て、まだろくに話してないだろうが……それで、お前らはいいか?」
「ん。私はただ、ハジメの行くところについていく。それだけ」
「右に同じ、だよ」
「わ、私もですぅ!」
「当然妾もじゃ、ご主人様」
「なになに、何処かに行くの? ならわたしも!」
「ふぇ? え、えっと、ミュウも!」
次々と答えていく仲間たち。そして最後に、私に視線が向けられる。
「ルイネは?」
「私は……」
一瞬、言葉が止まる。頭の中で迷いが生まれる。ここで待っていればいいと、誰かが囁く。
「……私も、行こう。会いたい者もいるしな」
その言葉を振り切って、私は答えた。よし、とハジメ殿が頷いて子供達と残るものを決めていく。
その傍らで、マスターの顔を見た。そこには……正妻殿を案ずる気持ちと、魔人族への怒りが浮かんでいる。
盲目的なその瞳に、胸にまた一瞬さみしさが通り抜けて。
「……私は、とんだ臆病者だな」
そう呟きながら、私は出発するマスターたちの後をついていくのであった。
さて、次回は勇者を絶版だ()
感想おなしゃす!
あ、オリジナル設定ありのダクソ3×FGOとか考えてるんですけどどう思います?